どこか不思議な、目覚めだった。
練習終わりに皆んなでファミレスに寄った。
「そういえばいっちゃん、昨日大丈夫だった?」
「ん、あぁ……」
どうやら私は、昨日トラックに”轢かれかけた”みたいで、
咲希が心配しているのはそのことだろうな。
「大丈夫だよ。
怪我もしてないし」
「なら良かったぁ……」
咲希は安心したのか、ぐでーっと穂波に寄りかかった。
「わっ、もう咲希ちゃんったら……」
「一歌、ほんとに大丈夫なんだよね?」
「うん、大丈夫だよ」
「それならいい」
志歩は相変わらずの心配性だった。
あ、そういえば。
「ちょっと昨日の夜、
インスピレーションが湧いたから歌詞を書いてみたんだけど……」
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家に戻って布団に寝転がる。
スマホを開いてみる。
「……気のせい…じゃないみたい」
私のスマホには作った記憶のない無名のプレイリストがあった。
そしてその中には無名の楽曲が1曲入っており、
再生不可になっていた。
布団から起き上がり、パソコンを開く。
私は曲を作り始めた。
あの場所の雰囲気を、景色を、感じた事を、……ミクを。
全てを一つ一つ丁寧に記憶の底から呼び覚ましながら、音を打ち込んでいく。
停電を繰り返す黄色の浴槽、
純白の美しいプール、
電気の消えた夜の学校、
赤に包まれた長い病院の廊下、
パソコンの並ぶオフィス、
懐かしさ漂うホームセンター、
全ての裏側、
そして……現実。
あらゆる全てを、適切に、適度に、1つの曲の中に入れていく。
そして、それを混ぜ切らないように纏める。
長い長い、旅をしているかのような。
……今思えば、私はどれぐらいの間あそこにいたんだろう。
たった半日だったような気もするし、
1週間以上あそこにいた気もする。
曲にはそんな時間を忘れてしまいそうな要素も入れることにした。
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盲目的想像からすべてがすべてと乖離して
至らない壁裏掻き消す
鳴りやまないビージーエム
壊れ揺らぐ夢模様の次元
無彩色鋼鉄のベールに包まれ
期待感乗せ
眠るレールはプールサイドへ
9番線
無機質に閉ざされた部屋の中
僕らだけの秘密に連れ出して
騒々しく鳴りやまぬボーカルチェイン
創世駆り立てる本格ゲーム
衝撃掻き鳴らす洋上トレイン
仮置き懐疑的駆け上がるゲイン
肯定感頂へ放課後チェイス
存外非科学で狡猾セール
害なら尚更に分割シェイク
脈絡も無くなく考察レース
覆してしまえよ 喜劇ならば
振り返れば空虚に染まってゆく
次第に見えなくなってゆく
もう可能性だけを切り分けて
明日が当たることを願っている
ワンツーステップで踏み出す前夜
デジタルサイネージの光
抱いては腐敗するドグマ
あどけない不誠実に
対話を教えて
繰り返す▬
ただ見過ごしてしまった
柵の取り巻く生活の連続
ただ美化してしまった
言葉に惑ってわからないよ結局
待ち構えていた日々は
宙に舞って戻しようもなかった
でもまだ愛おしかったんだ
有耶無耶にしないで穢れを残していて
あなたの居た部屋の明かりが
照らし出すだけなのに
取り返しがつかないと知っても猶
触れてみたくて
[音声言語解析結果]
盲目的想像からすべてがすべてと乖離して
至らない壁裏掻き消す
鳴りやまないビージーエム
壊れ揺らぐ夢模様の次元
私の時間は、一瞬で過ぎていった。
——————————
私が奥のセカイに行ってから、4年と少しが経った。
Leo/needはプロとして順調に売れていた。
3年前には、みのりと一緒にケーキを食べながら自分たちの活動を話し合った。
2週間前には、こはねの歌に合わせて私がギターを弾く路上ライブをした。
2年前には、司さんに誘われて大きな劇を見た。
1週間前には、音楽番組で奏さんと対談した。
そして今。
私はなんの変哲もない、田舎の廃業した温泉に来ていた。
他には誰もいない、自分1人で。
昔、人々で賑わっていたであろう温泉は、
今は寂しいほどに静かだった。
すると、誰かの足音が近くなってきた。
私は持ってきた炭酸飲料を出すと、やってきた人物に視線を向けた。
「一歌、久しぶり!」
「ふふ、久しぶり。」
奥のセカイ、これにて完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
最後は少し駆け足になってしまいましたが、個人的にはそこそこ納得がいっております。
裏話をしますと、元々この物語はバッドエンドで終わる予定でした。
一歌は最終的にこのセカイの初音ミクになって誰も覚えていない存在になり、
ただ一人、永遠にここに人が来ないようにする……
そんな終わりを最初は考えていたんです。
ただ、書いてるうちにこれをバッドエンドで終わらせたくない、
ハッピーエンドで終わらせたいという気持ちが出てきまして、この終わりになったわけです。
これ以上は何も思いつかないのでそろそろ終わりとさせていただきます。
これからはこの小説枠が“白い青春”になり、逆に白い青春枠が“プロセカ×異能”になります。
それでは、また別の裏世界で。