「私、元々は田舎に住んでたんだ」
ミクは、ゆっくりと、思い出すように話し始めた。
私は、特に意味もなく、ただそうするべきだと思って、話さずに聞いていた。
「星のよく見える場所でね、高層ビルの立つ場所とかとは無縁な場所だったんだ」
「…」
「毎日の楽しみは、学校帰りに友達と一緒に公園で遊ぶことと、
近くの一軒しかないコンビニで売ってたアーモンドウォーターだった」
まぁアーモンドウォーターは気づいたら売られなくなっちゃったけどね、
とミクは苦笑しながら言った。
「それで……確か、下校中だったかな。
その日、お母さんと喧嘩しててさ。
公園で少しぶらついてから帰ろーとか思いながらブランコに座ってたの」
その時を思い出しているのか、ミクは少し後悔しているような表情を浮かべた。
「立ち上がる時によろけちゃって、そのまま転んだの。
そしたらここにいたんだ」
それを聞いて、私は自分がここに来る直前のことを思い出していた。
確か、トラックに轢かれて、気づいたらここにいた。
そういえばまだミクには話していなかった気がする。
「私も、一歌と同じで最初は黄色い浴槽に着いてさ。
寂しくて泣きそうになってたところに、”ミクさんが来たんだ”」
え?
「待って、ミクがもう1人?」
てっきり、ミクが最初にこのセカイに来た誰かで、そこからずっとミクなんだと思い込んでいた。
それじゃあ、ミクがここに来る前にいたミクが本当のミク?
だったらそのミクはどこに?
「やっぱり困惑するよね」
ミクは苦笑しながら、話を続けた。
「そのミクから聞いたことなんだけど、このセカイには今まで何人も”初音ミク”がいたんだって」
「何人も?」
「うん。
このセカイに最初に来た人がミクさんになって、その次に来た人達が出られるように
手伝ってくれてたらしいんだけど、どこかでミクさんはこのセカイからいなくなって、
次に来た人がミクさんになって……っていうのを繰り返してきたんだって」
「えっと…つまり、最初のミクはここから出られたってこと?」
「うん、多分ね」
ということは、ミクはこのセカイに来た時にミクがいなかったからミクになって……あれ?
「でも、さっきミクは確か”ミクに会った”って……」
ミクは、ややこしいよね、と言った。
「私が会ったミクさんは、
今までのミクさんだった人達の想いの欠片がミクさんとして振るまってる、って言ってた。
だから、セカイに来た時に前のミクさんが既にこのセカイにいない時は
想いの欠片がここのことを教えてくれるんだと思う」
「……そのミクも、出る方法……この病院のことを教えてくれるの?」
ミクは頷いた。
「それじゃあ……ミクは出ないの?」
ミクは何かを思い出すように歩く速度を落としながら話を始めた。
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「あれ、このセカイに人が来たみたい」
「え?」
病院の廊下を歩く中、先に進んでいたミクさんは急にそんなことを言った。
「来たって……私みたいにこのセカイに迷い込んじゃったってこと?」
「そうだね」
ミクさんはそう言うと、私の方を振り返った。
「申し訳ないんだけど、その人をここまで誘導してくれないかな。
私は”ミク”にしか話しかけられないし、何よりこのセカイの定員は私含めて2人まで、
私以外の人が優先されるからさ」
うん、分かった。
と私は返事をして、事前に聞いていた通り、廊下の最奥まで進んで、出口の左のドアを開けた。
そこは、黄色い部屋に繋がっていた。
そして、浴槽の前で1人の女の子が寂しそうに座っていた。
ちょっとした過去編に入って、一旦の区切りを迎えます。
天国は探しても見つからない、きっと地面だけ見て歩いている。
不確かな思い出が、ローポリの街並みを暈す視界。
救われてしまうなら……そう思えてしまうなら。