異世界帰りのTS美少女勇者、人気ダンジョン配信者に成り上がりながら、「性転換の薬」を追い求める 作:冰藍雷夏
基本的に義兄妹のパワーバランスは、俺1%に対して舞香99%の割合で構成されている。
「何だこれ? 何なんだよ、この衣装はよう? 舞香ちゃん!?」
現在、近所の船橋ダンジョン1階。
舞香に渡されたダンジョン探索者用の装備に着替えて、初配信の準備中。
『お兄。すごく似合ってるよ。私の大好きなエロゲーの幸薄ヒロインみたい』
「うるさい! つうか、パンツ履かせろ! なんでノーパン装備なんだよ?」
『私の趣味』
「うるせぇ!」
今、日本の季節は夏。
そして、舞香から渡されたダンジョン装備は、麦わら帽子に白いワンピースだった。
上下の下着は着けずに初配信しろという。義妹特権によりスカートの中は、現在なにも穿いてない。
ブオオオオオンンンッ!!
さっき起動した撮影用ドローンが俺の足元を目掛けて低速飛行で飛び去った。
「うおっ! ドローンの風圧でスカートがめくれ上がる! ま、舞香ちゃん。俺の近くで飛ばすのは止めろ!」
『安全確認良し。お兄、私が言った通りちゃんと穿いてないね。エロイよ、エロいよ』
舞香は、俺の初配信チェックのために、家で待機。キンキンに冷えたオレンジジュースとショートケーキを美味しそうに飲み食いしてやがる。
美味しそうで羨ましい、俺も食べたいショートケーキ。
「黙れ、アホ妹!……たくっ! 1人だけクーラーの効いた部屋でドローンの遠隔操縦しやがって!」
『え? 「愛している舞香ちゃん。君が用意してくれた婚姻届に朱肉を押すよ」って言った? お兄』
「言ってねえよ! どんな聴力してんだ!?」
『…………ちぇ、あっそう。お兄の小馬鹿。アホ、超絶美少女、可愛すぎ』
そこでなんで機嫌が悪くなる? 義妹の気持ちがよう分からん。
「なんでそこで怒るんだよ。機嫌直……うわぁ!? また?」
ブオオオオオンンン!……パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!と、再び俺の股の間を超低空飛行で通り過ぎる撮影用ドローン。
「うわっ! ちょ、舞香ちゃん。お前〜!」
『お兄。ダンジョン内で油断は禁物だよ。船橋ダンジョンは初心者用ダンジョンだけど。お兄は探索配信の初心者なんだから、ボーッとしているとゴブリンの群れに出くわしたら大変なことになるよ』
「大変なこと? 何かされるのか?」
『そう。ゴブリンは相手が弱いと思ったら集団で……』
「キャアアアアア!! 誰か助けて下さましぃーー!!」
舞香が意味ありげなことを勿体ぶっている間に、遠くの方から女性が叫ぶ声が聞こえてきた。
「何だ? 女の子が助けを呼んでいる? 行かないと!」
『ま、待って、お兄。戦えるの? そんなノーパン超絶美少女なのに? 生配信中だよ? もろもろ丸見えになっちゃうよ』
「お前が仕立て上げたんじゃ! それに同接1人だけだろう。視聴者の舞香ちゃんだけな。それに助けを求めている子に手を差し伸べないなんて、勇者失格だろう?」
『お兄……フフ、うん。お兄の言う通り。マップ見ながら道案内するから、急いで行ってあげて。あ、でも変なフラグ建築したらプチ殺すから』
「おう、分かって……る?」
舞香ちゃんがちょっとなに言ってるか分からないが、今は緊急事態だ。頷いてやり過ごす。
急いで叫び声があった場所に行かないと。
―――◇―――
少し走ったら広場へと出た。
目の前には、数十体のゴブリンに囲まれた3人の女の子たち。3人ともアイドル衣装のような服装なのはどうしてなんだ?
【ギギギ!!】
「い、いや、近寄らないで下さいまし……いや」
「スマホ壊されちゃった。マネージャーとのやり取りできない……どうしよう」
「……全方位囲まれてる」
3人とも可愛らしい女の子だった。
そんな3人を舐め回すように卑しい目で見つめる小汚ないゴブリンたち。
『ゴブリンの群れがなんでこんなところに? 逃げろー! ミュウミュウー!』
『なんで、芸能人たちにダンジョン探索配信なんてやらせてんだよ! スポンサーは馬鹿なのか? 逃げて、凛様!』
『近くに探索者はいないのかよ? このままじゃ、パーティー全滅だぞ。そんなことになったら……アリシアちゃんがあああぁ!! 止めてくれ』
頭上を見ると、この場の映像が巨大スクリーンに映し出され、コメント欄が爆速で流れている。
「配信中なのか? マジかよ、襲われる最中だってのに」
『お兄。身分バレたらネットのオカズになるよ。妹としては、絶対に嫌だから。正体バレないようにしてね』
「な!? 舞香ちゃん。こんな状況でなに言って……」
『義妹のお願いは絶対遵守の女王の力。逆らっちゃダメ。変身できる仮面魔道具でも付けてね。持ってたよね?』
本当になに言ってんだ? この義妹ちゃんは?
【ギギギギッ!!】
「いやぁですわっ!!」
そんなやり取りをしている間に1匹のゴブリンが銀髪の女の子に襲いかかろうと飛び出した。
「くそっ! 今、行く!」
認識阻害と外見変化が可能な「金色狐の仮面」を被り、襲われている女の子の元へと走り出す。
「ギイィィッ!!」
「や、止めて下さいませぇ!!」
「止めろ、この野郎!」
右拳を振り上げてゴブリンの顔面を力強く殴る。俺の拳は山をも砕く。
ペチンッ!
「ハイ?」
「ギイィィ?」
「へ?」
ペチンッ!って言った? 今、ペチンッ!って言った? 俺の拳は山をも砕く、もう一度殴る。
ペチンッ!
「……嘘だろう? 俺の握力、舞香ちゃん以下になってないか?」
「えっと……わたくしを助けに来て下さったのですか?」
「ギギ……ギィ?…………ギギギ♥️…ギンギン!!」
ほんの一瞬だけその場の時間が止まったと思えば、ゴブリンは俺を認識するなり興奮し始めた。
そして、その1匹の興奮は他のゴブリンにも伝播し、全てのゴブリンは興奮しながら俺へと一斉に向かって来る。
『なんだ? 金髪の女の子? シュトレーゼたちを助けに来てくれたのか?』
『それにしては、戦闘力皆無のような』
『なんで、ダンジョン内で麦わら帽子に白いワンピース?……それにあの狐のお面は何?』
ナイアガラの滝のように流れるコメント欄。
いや、そうだよな。こんな素肌露出度の高い格好の奴がいきなり現れたらコメント欄も荒れるって。
『……これ、全部のゴブリンがお兄に発情してる? 嘘? ダンジョンの魔獣が発情? 聞いたことがないんだけど。そんなこと初めてじゃ……』
「いやいや、なに、冷静に解説してんだ。兄ちゃんのピンチなんだぞ。なんで家族のお前も少し興奮してんだ?」
『お兄は、男の子だからゴブリンになにされても大丈夫。生きていけるよ』
「心はな! 今は女体化して美少女になってんだよ!」
そんなアホなやり取りをしている間に、俺とゴブリンたちとの距離がどんどん縮まっていく。
【【【ギヒイイイィ!!】】】
「つっ! 助けに来て下さりありがとうございます! ですが、貴女のような非力な方ではゴブリンには敵いません! お逃げ下さいましっ!」
「逃げてっ! 雰囲気美少女ちゃん!」
「……このままだと君ヤバイ」
さっき助けたお嬢様言葉の女の子を筆頭に、俺のことを心配して叫んでいる。
「逃げる?……この俺が? 勇者だった俺が……逃げる……だと?」
異世界にいた時、俺はどんな苦境でも逃げることはなかった。
そう、それは大切な家族に……たった1人の妹にまた会うために帰って来たんだ。
『?……お兄』
「聖剣―――抜刀」
こちらの世界でも、魔道具である「金色狐の仮面」は使えることを今知った。
ならば、
「この、至高の武勇は高らかに―――」
『お……に……い……?』
両手を頭上へと掲げる。
黄金の剣がその形を成していく。
「眼下の敵に殲滅を、我が守りし者には救済を……」
腕力が乏しく大剣が振るえないならば、風の魔法で大剣を支える。
そして、放つは至高の剣技。
【【【ギヒヒヒヒ!!!】】】
「お前たちに恨みはないが、やっていることを見過ごすわけにはいかない。だから散れ―――この黄金聖剣で―――〖エクスカリバー〗!!!」
【【【ギイィィ!! ギイギャアアアアア!!!】】】
頭上より放たれるは、勇者の一撃。
数十体ものゴブリンたちが塵へと変わり姿を消した。
『お兄………すごい、アソコが丸見え。黄金の光で今私にしか見えないけど。アソコが丸見え……記録しとくね』
パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!パシャッ!
服がたなびく中、俺はこの危機を乗り越えられてホッとしていた。
そして全然気がついていなかったんだ。
義妹による撮影用ドローンを使っての、とんでもない撮影会に――――