異世界帰りのTS美少女勇者、人気ダンジョン配信者に成り上がりながら、「性転換の薬」を追い求める 作:冰藍雷夏
「必殺……お兄への純愛スマッシュッ!」
急激なスピンをかけたテニスボールの弾道が俺の足元狙いで飛んでくる。
そう、丁度こちら側のコートで1度地面にバウンドすると俺のスカートに着弾するように打っているんだ。
迷いなんて一切ない。あいつはこの試合で俺にパンチラさせることに全力プレイしてやがる。
「この……また、いやらしいコースで……このっ!」
エグい角度からのスカート捲り攻撃を回避すべく甘い球を舞香のコートへと打ち返す。
単純な軌道で高く打ち上げてしまった。
くそ~! そんな甘い球を返したら、あの娘の強烈スマッシュが来るっていうのによう。
「フフフ、返しが甘いですね。私のメイドさんは。静さん! 出番です!」
「はいはい~! この試合に勝ったら、放課後は餡蜜屋さんでウチとデートだからね。舞香、アタックッ!!」
バコンッ!
俺たち側のコート内にとんでもない音を響かせて、ワンバウンドしたボールが場外の遥か彼方へと飛んでいく。
『ゲーム 氷室舞香・静ペア。2対3』
「やりましたね、静さん! このまま私に反旗を翻した専属メイドにお仕置きしましょう」
「うんうん。ちょっと何言ってるか分からないよ、舞香~! やったね~!」
舞香とそのペア、
有栖川いわく、静は舞香の親友兼側近の1人らしく、いくつもの運動部をかけ持ちしてるんだとか。スポーツビューティーとかいうやつか?
「……フフンッ!」
「あっ! あいつ、一瞬こっち向いて勝ち誇った顔しやがったな。たくっ!」
あの義妹。ハイスペックな脳みその思考回路全てを俺へのお仕置きのために使ってやがるな。
いや、全力でこの状況を楽しんでやがる。
「くそ~! 最初の2セットは、俺たちペアの実力の様子見と、自分たちの試合環境作りに費やしてたのか。3セット目から容赦なく攻め込んできやがって、舞香ちゃんめ」
現在5ゲーム目が終わり。こちら側が最初に2セット先取りし、勢いのまま勝てると思ったら、連続3セット取られて簡単にひっくり返された。
「ご、ごめんなさいですわ。わたくしが、氷室優羽さんのフォローに回れないばかりに」
「いや、有栖川のせいでは全然ないと思うぞ。あいつらの作戦が上手くいっているだけだ」
「へぅ? そうなんですの?」
ええ、そうなんですの。
それにしても流石は日本屈指のお嬢様学校。
なんと体育で着る体操服も、受ける授業の種目に合った競技服を学校側が用意して着ることになっている。
つまり俺と有栖川だけ超ミニスカートを着用しているということ。どうしてこうなった?
「……いや、十中八九愚義妹の策略なんだよな。まったく」
「お尻がスースーしますの。なんだか新鮮ですの」
「まぁ、パンツまで競技用を着るようにとか、試合始まる前に審判に言われたからな。怪しいと思ってスパッツの上から履いたんだけど……な?」
ここで審判をしている生徒を見る。舞香と同じようにほくそ笑んだ笑みを浮かべてこちらを観察いるようにしか見えないんだが!
「? どうされましたの、優羽さん? 顔が青ざめておりますわ」
心配そうに俺を見つめる有栖川。
俺たちは試合が始まる前に審判からフリルパンツを手渡された。
これが、この学校のテニス競技用で下に履くやつだと。普通はテニス用の下着は、アンダースコートフリルのような布生地面積が広いものを着用するもんだ。
「あのアホ義妹、自分が楽しみたいからって、短いスポーツスカートに、布生地面積が少ないフリルパンツを俺たちに履かせたな。俺たちが恥ずかしさで、試合に集中できなくなるように」
この試合、始まる前から負けるように仕組まれまくってるじゃねえか。
いや、たしかに試合前に仕込む時間なんていくらでもあったか。舞香はクラスの委員長で、クラスメイトは性格が良すぎる娘たちばかり。
舞香のお馬鹿な遊びに利用されないわけがない。
「……そっちがその気なら、倍返しにしてやるからな。アホ舞香ちゃん」
「倍返し……ですの?」
「あぁ、ズルにはズルで立ち向かうぞ……風よ来たれ、その暴風を用いて我の風雅の礎に、
「ふわぁ!? エッチな風が吹きますわ」
有栖川のスカートがたなびく。
「詠唱は魔法の強度を高めるんだ。そして氷室舞香にお仕置きしてやるんだ、この風で」
俺の頬に小さなそよ風が舞った。
◇
お互いなぜかコートチェンジ。
このコートチェンジ、怪しさ満載だがもうそんなの関係ねぇ。そしてサーブ権はこちらから。
始める前に舞香に伝えないといけないことがある。コートをすれ違う際に舞香に話しかけた。
「舞香お嬢様。賭けをしませんか」
「賭け…ですか? 珍しいですね。絶対私に勝てないはずの優羽さんが自信満々に私に賭け事を仕掛けるなんて」
「うっ!」
なんという圧、だが負けねえ。負けたら何されるか分からないんだ。負けられねえ。
「この試合に勝った方は、負けた方に好きなお願いをできるというのはどうですか? 勿論、その人ができる範囲でのお願いですがね」
「乗ります、是非やりましょう。確約です」
……こいつ。言ったコンマ数秒で即答しやがったよ。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「まぁ、勝つのは私と静さんのペアと決まっていますからね。ねぇ? 審判の沙希さん」
審判台に座る審判生徒ににこやかな笑みを浮かべる舞香。こいつ、もはや審判とグルなの隠す気もないじゃねえか。
『はぃ……第6ゲームスタートしてください』
「はい! ふひひ、お兄と結婚確約……ふひぃ」
気持ち悪い笑みを俺へと向ける舞香。
何だ? このゲームでも何か企んでいるのか?
「いや、まぁ、もうそんなことにはならないだろうけどなっ!」
サーブを打ったのは俺。自分では力強く打ったつもりだったが、なぜか打ったボールの球速は遅い……いや、弱すぎないか?
ヒョロヒョロヒョロと非力なテニスボールは舞香&静ペアのコート内へと入った。
「ふひひぃ、お兄と結婚確約……今夜が初夜だよ! お兄!」
そんな弱々ボールに群がるように突っ込んで行くのは、だらしない顔の俺の義妹。美少女がしちゃいけない顔になってるぞ、あいつ。
おい、やめろ。そのニヤついた顔を俺に向けるな。悪寒が走るわ。つうかなんだ? 俺との結婚確約って?
なんか勢いは自分にあるとか思ってそうだし、そろそろ分からせるか。
俺は短くこう告げる。
「風よ、止まれ」
すると宙に浮いていたテニスボールが、いきなりピタッと止まり地面へと不自然に落ちた。
「結婚スマッシュッ!……え?」
そして、大きく空振りする舞香。
『ラ、ラブ:フィフティー……ン?』
舞香に買収されているであろう審判も、この不可思議な現象に驚いている。
そして、俺へと急いで近づいてくる舞香様。
何か怒っているような顔してるな。気がつかれたか?
「お兄……まさか
「最初から
「っ! ま、負けないもん!」
「そうでございますか。それは楽しみですね」
これでも舞香は超が付く負けず嫌い。
なので俺に勝つためならなんでもやってくる……が。
異世界の風の魔法なんて知らないだろう? 舞香さんや。
『ゲーム獲得……氷室優羽&有栖川ペア……3対3』
まずは五分五分にした。
「風よ、下へと落ちよ」
ポトッ!と有栖川が力強く放った打球が、舞香側のコートネットに当たってコロッと落ちる。
「……嘘? ボールにすら触れない?」
「ま、舞香、どうしよう。逆転されて追い抜かれちゃったよ」
『ゲーム獲得5対3……今日は風が結構吹いているはずなのに……なんでボールがいきなり止まるの?』
「やりましたわ! 氷室優羽さん。運動音痴のわたくしが決めましたわ!」
「おう! おめでとう」
ハイタッチする俺たち。つうか有栖川は運動音痴なのかよ。それにしては、俺よりよっぽど力強く打てるじゃないの。
「………お兄~!……私以外の女の子と、私の前でイチャイチャして。私刑確定だからね」
そして、殺意を増し増しに向けてくる義妹。
怖いわ。早く偽造お嬢様モードに戻れよ。
「次のゲームを取れば俺たちの勝ち。舞香の奴、変な悪戯を仕掛けてこないといいんだけどな」
そんな予想をしていたが、案の定。あのアホ義妹はやらかした。
「こうなったら、お兄を集中的に狙ってスカートの中身と本性をさらしてあげる。義妹よりも優秀なお兄はいらない!」
「どんな理屈だ? つうか、マジで俺ばかり狙ってくんじゃねえ、アホ舞香お嬢様」
舞香は若干暴走モードに入った。コートネットギリギリまで詰め寄り、ボールが舞香側のコートに落ちてきた瞬間に、超反応で俺を目掛けてボールを返してくるようになってきた。
俺に負けるという危機感で覚醒でもしたか? はたまた俺が、この試合で弱い球しか返してないので、弱点である俺に狙いを定めたかだな。
「この野郎。追い詰められたら、いつもいつも暴走しやがって、今日は負けられねえ」
負けたら俺の全てを失う気がするから。
「私が勝つの! 勝ってお兄と繋がるんだからね。結婚スマッシュッ!」
どんな繋がりだ? そんなことさせねえ。
「ふっ! そんな浮かび上がった球返せ……なっ? 球が不自然にカーブした? うわぁ!? 危なっ!」
おかしな弾道だった。まるで誰かに操られているかのように、俺がかけていた認識阻害の眼鏡と、まとめている髪型の髪留めにぶつかり、俺の横を掠めていった。
「……は? おいおい、これってまさか!?」
一瞬、テニスボールへの違和感を感じた。
「負けませんわ! これを返せば、わたくしたちの勝ちですわあぁぁ!!」
有栖川の雄叫びとともに、俺が返せなかったテニスボールは舞香&静ペア側のコートの地面に着弾、そのまま数バウンドしてボールは動きを止めた。
『ゲーム獲得6対3……しょ、勝者、氷室優羽&有栖川ペア』
「や、やりましたわ! 氷室優羽さん」
大喜びしながら俺に抱きつく有栖川。
「…………素敵です」
「あれが氷室優羽さんの本当の姿? お美しい方ですわ」
「……欲しいです、あの娘」
舞香はこの学校のスターの1人なんだろう。この試合でも、周辺には数十人の生徒が見学していた。それすなわち、俺の素顔を見る人数ということだ。
勝者は目立つ。そして、俺の素顔を隠していた認識阻害の眼鏡と髪留めがテニスボールによって吹き飛ばされ、素顔が露になった瞬間だった。
「……あ、あぁ、やったな。そして、まずったわ」
「……へ? 何がまずかったのですわ?」
「今後の……色々な学校生活だな」
ざわめきと盛り上がり始める周囲。そして、俺は舞香の方を見る。
「「「素敵ですわあぁ!! 氷室優羽様~!」」」
この日、舞香の策略により、新たな学校のスターが誕生した。
「ようこそ、お兄。大勢の人から見られる世界へ」
「お前~! これを最初から狙ってたのかよ! アホなの~! アホだったな、アホ義妹~!」
「それと最後に皆の前でパンチラしなよお兄……あら? わ、私ったらいきなり貧血が!? 助けて下さい! 優羽さん」
「お前!? なんでいきなり俺のスカートに手をかけてんだ! や、止めろ!」
舞香の最後のやり返しだったんだろう。俺に寄りかかるふりをして、俺が履いているスカートを脱がせようと、スカートを掴んで下ろしてきた。
「……あぁ、おに…優羽さん。スカートがずれ落ちてます…よ?……お兄? なんで、黒いスパッツなんて履いてんの? 誰の? え? え?…え? ぬ、脱ぎなよ! お兄! 私の許可なく、なに履いてんの?」
「や、止めろ! 皆、大騒ぎしてて見てないからって、本性さらけ出すな。脱がせるな、舞香ちゃん! 両手を離せ!」
不思議そうな顔で俺のスパッツを脱がせようと必死になっていた。最後までなにしてんだ! このアホ義妹はぁー!
こうして俺のお嬢様学校での平凡な日々は、編入初日とともに終了した。
◇
そして、その日の放課後。
『
俺は、国内最大規模を誇る匿名掲示板サイトに書き込みをし、本格的に「性転換の薬」を探し始めたんだ。