異世界帰りのTS美少女勇者、人気ダンジョン配信者に成り上がりながら、「性転換の薬」を追い求める 作:冰藍雷夏
「もう少し媚びて書いた方がいいか? いや、それもあれだしな~、報酬で釣るのもありだったか?」
自室。
ああでもない、こうでもないとパソコンの前で項垂れる俺。
何故かって?
それは勿論、俺が雄に戻るために必須の「性転換の薬」を手に入れるためさ。
「配信者として、素顔で活動するか? いや、こんな可愛い顔を世間に晒したら、いつ襲われるかもわかんないんだ。却下だ、却下」
部屋にある鏡台を見つめる。
鏡に映っているのは、100人中100人の若い男が、「あぁ、こんな超絶美少女と付き合えたら幸せな人生を歩めるだろうな」などと考えるほどの女の子……つまり今の俺。
「くそ~、舞香ちゃんの奴。テニスに負けた腹いせに、俺の顔を皆に晒しやがって、覚えてろよ」
あのテニスの授業以来、俺は全校生徒に注目されるようになった。
体育の授業が終わった後、質問攻めで参ったもんだったな――――
▽
▽
▽
「「「キャア~! 氷室優羽様~!」」」
体育が終わり、体操服からメイド服へと電光石火で着替えると、クラスメイトたちに一斉に囲まれた。
「あ、あの、皆さん。少し落ち着いて下さい」
群がる美少女たち。これ、他のクラスからの子達もどさくさ紛れてきてないか?
「素晴らしい試合でした、氷室優羽様。舞香様と一進一退の攻防、素晴らしかったです!」
「ど、どうか連絡先を交換して下さいまし!」
「お、お友達になりましょう、優羽様~!」
「お、お待ち下さい! み、皆さん落ち着いて! 落ち着け~!」
揉みくちゃにされている。
皆美少女だから悪くない……いや、このままの状態が続いたら窒息するわ!
ついつい、メイドモードの丁寧口調は解除。いつも通りの俺言葉を放っちまった。
「「「………………」」」
教室内はシーンと静まり返り。
「あ、いや、すまん。怒鳴るつもりはなかったんだ。ごめん」
「きゃ~! 可愛らしいお顔なのに、ボーイッシュな方ですわ!」
「素敵ですぅ~!」
「ど、どうか、家のメイドになって下さい!」
「や、止めろ! マジで離しやがれ~!」
こ、このお嬢様方、お優雅過ぎないか? 俺が本性をさらけ出してるのに、微動だにしてないぞ。
「アハハ、舞香のメイドさん、大人気になっちゃったね。凄」
「え、ええ、当然ですよ。フ、フフフ……(う、嘘? 計算外。本当なら、このタイミングでお兄の男の子らしい本性が爆発して、クラスメイトにドン引きされて、お兄と皆が仲良くなるのに時間を稼げたはずなのに。まさかのお兄大人気?)」
策士策に溺れる。
舞香の奴、俺に悪戯して何か企んでいたみたいだが失敗したみたいだな。
唖然とした顔で俺を見てフリーズしてるんだが。
なんだあれ? 面白い光景だぞ、舞香。
「と、通して下さいまし~! 最初に氷室優羽とお友達になったのはわたくしですの~!」
俺から少し離れたところで、有栖川がピョンピョン跳ねている。
今日1日で舞香に2度も勝てたのも、有栖川のおかげだ。今後も仲良くしていかなくちゃな。
そんな大騒ぎな編入初日を終えた放課後。
俺は舞香に空き教室で土下座していた。
「あ、あのね。お兄、今日はやり過ぎてごめんな……」
「お願いします。放課後は自由に行動させて下さい、舞香お嬢様」
「ちょ、お、お兄。いきなり何? 私が先に謝ろうとしてるんだけど」
「だから、賭けに勝ったお願いだよ。これからの学校生活、放課後だけは俺に自由を約束してくれ。俺に自分の時間を下さい!」
俺の所作は完璧だった。
普段から舞香に行っている洗練された土下座を行う。
「そ、それは!……く、お、お兄。こうなることが分かっていて、私と賭け事なんてしたんだね。ゆ、許せない、お兄のアホ策士」
なんとでも言え、愚義妹よ。
それで今後の放課後は俺のゴールデンタイムと化すなら、なんでもやるわ。
放課後は舞香の魔の手から逃れて、「性転換の薬」を追い求めたいんだ。
「お願いだ、舞香ちゃん。勝者の言うことは絶対なんだろう? 許可してくれ」
「く、くうぅ~、お、お兄め。この策士、超絶美少女、心イケメン野郎~!」
なんとでも言え、テニスに勝ったのは俺だ。
舞香はいつも言っている、勝者は偉いと。
「……それで結果は? 舞香ちゃんよ」
「うっ!……良いよ、許可してあげる。お兄はこれからの放課後は自由に過ごしてよし」
「よっしゃあああ!!」
「く、屈辱。お兄に言い負けるなんて、絶対にいつかやり返すからね、お兄」
▽
▽
▽
そして今に至り、現在俺だけ家に帰ってきて「性転換の薬」の情報集め中。
舞香は放課後、友達たちと餡蜜屋デートでかなり遅くなると言っていた。学校ではお嬢様キャラのため、そこら辺のお付き合いも大事なのだろう。
ガチャッ!
「氷室さ~ん。紅茶を淹れましたの」
「お、ありがとう、有栖川」
エプロン姿の有栖川が、紅茶と持ってきてくれたお菓子をトレーに乗せて入って来た。
「不思議なお薬の情報は集まりましたか?」
「いや、全然。今調べてるところだよ」
なんで俺の部屋に有栖川が居るかというと、彼女が俺の家に遊びに来たいと言い出したから連れてきたのだ。
今日、お友達になってくれたお礼をしたいとのことだった。
別に住んでいる場所を隠しているわけでもないので、「いいよ」と言って
良かったな舞香。今後はお前のどす黒い悪戯好きの暗黒面を知られないようにプライベートにまで気を使っていくことになるんだからな。なので早く周囲にバレろ。
あぁ、ちなみに下心とか言うものは一切ない。だって立つものが無いんだからな。
……影も形も失くなっちまったんだよ。
そろそろ落ち着け俺、心を鎮めろ。
ゴールデンなレクイエム……何考えてんだ俺は。アホになってしまった。
……今じゃ、超絶可愛い美少女だよ。自分で自分に見惚れてるよ。こんちくしょう!
「お名前が″金色狐の仮面″。ず、随分と変わったお名前ですわね」
「ただの情報収集だからな。俺の個人情報はなるべく晒したくないんだ」
「まぁ、そうなんですのね」
俺が操作するパソコンの前に来て、ジーッと見つめている有栖川。
銀髪のポニーテールがポンポン揺れ、人形の様に目鼻立ち全てが整った顔立ちにドキッとする。
今日1日中、有栖川と居たから分かる。この娘かなりおおらかで優しい性格をしているんだ。一緒に居て落ち着くし癒される。
あれ? 俺って男の子だよな?……い、いや、身体は女の子だけどさ。
「………さっき書き込んだばかりなんだけどな。そろそろ反応があってもいいんだが」
ピロリンッ!
「あ、来ましたわ! 氷室さん。ホラホラ!」
「わ、分かったから、少し離れてくれ、胸……当たってる」
「? それがどうかされましたの?」
無自覚。有栖川って、じつは性の知識が疎いのか?
◇
〖求む。「性転換の薬」〗スレッド。
『なんか、変なスレッド立ち上がってない?』
『「性転換の薬」?……何それ?』
『
おー、だんだん書き込みが増えてきたな。
やった。
(金色狐の仮面さんって……やっぱり氷室さんでしたの? わたくしの予想当たっておりましたの?)
そして俺の横にいる有栖川が嬉しそうに笑っている。どうしたんだろうか?
『金色狐の仮面さんって、もしかして、数日前に船橋ダンジョンで新人アイドルユニットの〖アリス〗の女の子たちを助けてくれた人じゃない?』
『あー、数日前のネットデイリートレンド1位独占してた謎の娘か。切り抜き動画も1位だった娘ね……は? 本人? 本人がスレ立ててるの? うちの事務所来ない?』
『いきなり勧誘すな。本人かも分からない悪戯かもれんのに』
「ギクッ!ですの!」
「? どうした? 有栖川、なんか正体バレた時みたいな驚いた顔しちゃって」
「な、なんでもないですわ! お、おほほほのほですわ」
なにが、「おほほほのほですわ」だ。お前そんな笑い方しないだろう、有栖川。
しかし、俺が立てたスレに書き込んでるのって、明らかにダンジョン探索者や何かしらの事務所関係にしか見えないんだよな。
これはもしかしても、船橋ダンジョンの時の立ち回りのせいで、俺が悪目立ちしたせいか?
『ていうか、「性転換の薬」って何? 金色狐ちゃんって、あの雰囲気と華奢な姿からして女の子だよね? 男の子になりたいの? 勿体ないね』
『こらこら、人の考え方なんて、その人の事情含めて千差万別でしょう。絶対に男の子なんかにさせないけどね、私は! だって、私は金色狐ちゃんのファンだもの』
『大草原、最初に書いてあることと矛盾しすぎな件について』
なんかスレの雲行きが怪しくなってきたぞ。俺を女にするか男にするかで、閲覧者たちがレスバトル始めたんだが。
「書き込みがどんどん加速していきますわ」
「閲覧数がどんどん増えているな。掲示板一覧のオススメにでも乗ったからな」
「……どうしましょう? このまま放置すると皆さん喧嘩になって収集がつかなくなりますわ」
「いやいや、こういう蠱毒の争いみたいなごった煮のなかで、貴重な情報をポロッと出す猛者が現れるんだぞ」
「そ、そうなんですの?」
ええ、そうなんですの。
『スケベサラは黙ってなよ!』
『無駄な贅肉リリアはうるさい』
『落ち着きなよ、リリア、サラ。もはや、このスレ君たちの喧嘩スレになってるよ』
『『黙ってて! ド貧乳アリシャ』』
『あ!? ざけんな! 誰がド貧乳だ。あ!?』
なんか新戦力が現れたぞ。
「三つ巴になりましたの……それにサラさんは相変わらず。書き込みの悪口が酷いですわ」
「ん? 知り合いか?」
「い、いえ、人違いですの」
有栖川がすごく慌ててますの。
このスレで悪口合戦してる3人の誰かと見知った顔なのか?
『『『――――――!!!』』』
俺がスレを立てて早くも4時間位経った。スレ内では3人の醜い書き込み合戦がなおも続いている。
「うわぁ、もうこんな時間かよ。出前……ピザでも頼むか、有栖川」
「ピ、ピジャですの?」
俺がピザと言う言葉を発しただけでよだれを垂らした有栖川。そんなに興味湧くのか? ピジャ。
「ん? すごい食い付き。もしかしてお嬢様暮らしだから、普段食えない感じ?」
「そ、そんな感じですわ! わたくしもお金は半分払いますので急いで頼みましょう、氷室さん」
「お、おう。了解」
いつの間にか有栖川の中で、俺に対しての「氷室さん」呼びが定着してるんだな。
『ドスケベ、ドスケベ!』
『贅肉、贅肉!』
『貧乳、ド貧乳!』
スレの悪口は時間を増すごとヒートアップしているばかり。
そして、俺のスマホから悪魔の囁きが流れて来た。
『ピロリン~! メールだよ、私のことが大大大好きなお兄。早くでてね♡』
どす黒い腹黒の義妹からだった。出たくね……出たくねえけど。出ないと何されるか分からんから出る。自分の命は大事だからな。
「氷室舞香さんからの連絡ですの?」
「ん? あぁ、放課後、遊んだ後、友達の社交界にそのまま呼ばれて泊まって来るらしいわ。舞香お嬢様は顔が広いからな」
「お友達の社交界?……お呼ばれしたことありませんわ、わたくし」
「……さいで」
悲しそうな顔で俺から目線を反らす有栖川。
そうだった。有栖川は学校ではボッチだったか。
「羨ましいですわ。わたくし……ボッチですもの。お友達と1度でもお泊まり会をしてみたかったですわ。でも無理ですの、秘密もありますし。活動もありますもの」
ブツブツと、何言ってるか分からん。呪詛の類いですの? 有栖川。
「ん~、なら、今日はもう遅いし泊まってくか? 有栖川」
「………ふぇ!?」
「泊まってけば? 寝巻きも貸すし(義妹の服)。うちからなら学校近いしな」
おいおい可愛い反応するな、おい。
その反応は可愛いな、有栖川。少し興奮したぞ。
だが、こちとらチンコはもう無いので、立たんのよ。身体も超絶美少女のハイスペック。枯れてるのよ、男の子として……どうしてこうなったのよ。
「わ、分かりましたわ! お母様に連絡してきますわ!」
「……おう」
もう無いのよ男の子のシンボル、れっきとした女の子ボディーなのよ。
なので女の子を家に泊めても大丈夫だろう。恐ろしい義妹も居ないからな。今夜は女の子らしくパジャマパーティーよね。
「そうそう女の子らしく?………あれ? 俺今、女の子みたいな感じになってなかったか? いやいや、そんなまさかね。フフフ」
今夜は、有栖川がうちに泊まることに決まった。
『――――〖性転換の薬〗の情報が欲しいのですか? それでしたら、1度うちの事務所に見学に来ませんか? 金色狐の仮面さん。アルカナ代表取締役より』
スレの最後に書かれたコメントを見つけるのは、数日過ぎた頃だった。
◇
次の日の朝。
俺は修羅場になっていた。
「………これはどういう状況ですか? お兄、説明して」
「ムニャムニャ……氷室しゃん……ですわ~!」
下着姿で寝言を言う有栖川。
「い、いや、これは……舞香ちゃん違うんだ。まずは話し合おう、俺の安全保障会議だ。舞香ちゃん、な?」
「こ、の……アホお兄!!! なんで、スパッツ履いてんの? 脱ぎなよ! お兄」
「ひぃー! スパッツ脱がせんな! 舞香ちゃん!!」
朝から義妹による尋問タイムがスタートしてしまったんだ。