異世界にやってきたレーニン(亡霊)がソヴィエト政権を建てたら?   作:匿名の筆者

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ケーキとスポンジ

 

「ケーキへようこそ。何、疑問に思うことはない。私は栄えあるソヴィエトの同志さ」

「改めましてレヴィン君。私はジェスターとでも呼んでくれ。ただ、言いたいことがあるのは分かる。確かに、私はもう死んでるし、幽霊さ。」

 

目の前に浮遊するのは、幽霊。

首都中枢になぜこんな幽霊が居るのだろう。もしや、死んだ後も働くのか?

 

 

「ああ、幽霊だから信用に欠けると思うかな?」

「でも落ち着いて聞いて欲しい。私は『クリーム』に所属した、いわゆる先輩さ。君の所属する『ケーキ』にはいろんな部門があるのだけど、まあほとんど繋がりが無い。」

 

「で、今から話すのは……『クリーム』ではなく『スポンジ』について──それは、生まれたばかりの若いソヴィエト共和国において、最も恐れられ、しかし最もなんだかんだ頼りにされた政治委員たちのちょっと妙な隠語さ!」

「私がクリームとして死後も行った仕事は、死亡したスポンジの職員の情報を統合し、霊媒体質者に伝えることだった。君も死んだら似たような仕事になると思う。新人教育とかね」

 

 

幽霊、いやジェスターはそう言うと、勝手に語り始めた。

 

「なぜスポンジなのか? 『兵士たちのドロドロした不満や思想的汚れを吸い取るから?』そんなふうに揶揄する者もいれば、『ぎゅっと絞ると、裏切り者の汚水が出てくるからだ』と噂する者もいるんだよね」

 

「お菓子の名前なのにね!」

 

笑いどころだぞ、と本能が告げてくる。

愛想笑いで済ませておくと、ジェスターは咳払いし、続きを喋る。

 

「いずれにせよ、レヴィン君、そんな彼らが現場に一歩足を踏み入れれば、裏切り者からすれば場の空気が凍りつくし、排除したいほど忠実な存在なんだよ」

「あ、君の部門も、基本的にもちろん『スポンジ』と同じほどの忠誠が必要さ。聞いてるうちに、ホントに同じくらいの忠誠が必要なのか疑問に思うだろうけど……」

 

「スポンジの仕事を知れば、どれだけ君にも重い忠誠が求められているのか、どうして必要なのかはすぐに分かるはずさ。解説してあげよう!」

 

「この国において、軍隊は実に頭の痛い火薬庫。なにしろ、まともに部隊を動かせる軍事のプロといえば、帝政時代から生き残った旧体制の貴族将校たちばかり!」

 

「帝政時代の将校を除けば……熱意はあるが地図の読み方すら……という状態。新しい時代の革命兵士たちはそんな酷い有様で、指揮官として活動するのは困難。」

 

「要素だけみれば将校どこからどう見ても信用ゼロの怪しい連中。だけど、同志を追い出すわけにもいかないけど、全権を与えた指揮官にするわけにもいかない。ジレンマというべきか、そんな状態だった。」

 

「しかし、イデオロギーだけの軍事の素人だけで指揮を執ろうものなら、コテンパンに叩きのめされ、我々は結成から一日二日で歴史の露と消えていただろう」

「そこで登場したのが、この『スポンジ』こと政治委員たち!」

 

「彼らの存在は、実に歪で、かつ妙に噛み合った歯車の上に成り立っているのさ? ああ、まあ歪と言っても正確だけどね」

 

「政治委員には、なんと軍事的な作戦命令を出す権限が一切ない! 『右へ習え』とも『突撃せよ』とも言えない権限。もう一回言うけど、なぜなら、軍事に疎い彼らが口を出せば現場が大混乱に陥るからさ」

 

「そんな権限の彼らの仕事はただ一つ、将校の隣で常に、冷ややかな視線で『その作戦、党の指針に違反してないよね?』と監視し続けること!」

「もし旧貴族の将校が『そろそろ王党派に寝返ろうかな』なんて邪心を起こそうものなら……まあ、その末路は明らかだね」

 

「スポンジは即座にピストルを突きつけ引導を渡し、その場で責任を追及する」

「これが実に素晴らしい歯車として機能した。将校たちからすれば、『下手に裏切ろうとすると即座に死ぬけど、真面目に指揮を執っている限りは命が保たれ、政治的な責任も余程のことをやらかさない限り、だいたい政治委員が引き受けてくれる』……こんな安心感が生まれたのさ!」

「こうして、絶対にお互いを信用していない二人三脚という、滑稽だが恐ろしいほど強固な指揮系統が完成して、歯車はひとつの機械として動き出した。いや、動き出してしまったと言った方が正しいかな?」

 

長ったらしい問いかけ。

これにどう答えるべきか、レヴィンは言葉を持ちえなかった。

その様子を見て、ジェスターは続きを喋る。

 

「ソヴィエトにおいて、軍事は国家の生存を支える絶対の土台である。どれほど素晴らしい理想を掲げようと、目の前の王党派を追い払うキック、ぶちのめすパンチがなければ話にならない」

 

「だからこそ、イデオロギーに燃える党指導部と、プライドだけは高い旧軍人たちを強力な接着剤で無理やり貼り付ける諮問機関の設立は、必然だったと言えるよね!」

「さて、そんなハラハラドキドキの体制の中で、ソヴィエト政府軍は突貫工事の軍制改革に乗り出した! いやあ、本当に軍制改革をやり遂げる難易度がものすごいのさ!」

 

「最前線で指揮を執る軍事専門家たちは、相変わらず『スポンジの同志!』と元気よく挨拶しつつも、帝政時代にソヴィエトへ寝返った、いわゆる現実的な貴族たちである」

「彼らの存在そのものが党にとっては常に胃の痛い種であり、信用などカケラもなかったのだが、背に腹は代えられない。だって代替できる指揮官なんていないし、王党派に敗北すれば共和国は王政になっちゃう」

 

「彼らが裏切れば、それはもう大変だ。だけど将校たちも粛清された場合のリスクも完璧に計算しているし、裏切るかといえばかなり稀!」

 

「仮にバカな将校が反乱を企てて消されたとしても、指揮官を失った部隊は一瞬で迷子になるよね? 長期的な戦闘なんて夢のまた夢だし、反乱は未遂のまま立ち消える」

 

「つまり、政治委員が横に立っているだけで裏切りの予防策が成立してしまう! うーん、なんてお手軽! すごいよね? この圧倒的かつ実用的なシステムのおかげで、政治委員たちは党の命綱として確固たる立場を築いていった」

 

「でもまだまだ軍制改革の嵐は吹いてる。しかも、今度は旧体制の将校だけに吹き荒れたわけじゃない」

 

「おっと、ソヴィエトに失望しないでくれよ。かつて共に戦った革命の味方にまで暴風が吹き荒れることになったのさ。ああでも、これは革命直後の混乱期、各地で勝手に立ち上がった熱血パルチザン部隊や義勇軍たちだけさ」

 

「彼らは、戦意だけは一丁前だったが、やり方があまりにもド素人。要するに、軍制改革で潰した理由として……武力はあるけど身勝手だったから。

『中央の命令なんて知らない! 俺たちは俺たちのやり方で戦う!』なんてことされたら……まあ、正規軍を目指す新政府にとっては頭の痛い種でしかなかったのは想像に難しくないよね?」

 

 

「『革命精神はもうお腹いっぱい! ちゃんと整列して命令を聞く軍隊になりなさい!』と厳命しても、ダメだったところはダメだった。管理に従わない部隊は、どれほど過去に華々しい功績があろうと容赦なく解散するし、武装を解除する」

 

「で、これもやっぱりスポンジたちの仕事だった。彼らの熱い革命ごっこは終わりを告げ、整然とした機械の一部になることを拒んだ者は、あっけなく舞台から退場させられていったのである」

「まあ、従順だった部隊は解散してないけど……この容赦なさすぎる軍制改革は、当然ながら山のような敵と愚痴と怨念を生み出した」

「しかし、驚くべきことに、この恐怖と合理主義のミックススパイスによって、昨日までバラバラだった寄せ集め集団は、見違えるようなスーパーエリート軍隊へと大成長! いやあ、実にとんでもない躍進を達成!」

 

教師気取りの口調で、だんだんとジェスターは声を大きくする。

 

「 王党派の軍と正面からぶつかっても、圧倒的なチームワークと統制された火力で相手を完膚なきまでに叩きのめし、脱兎のごとく逃げ出させるほど強大な軍隊へと変貌を遂げたのだ」

「追撃して、捕らえて、裁判にかける。うーん、連戦連敗しちゃった最初と比べたら、まあ見違えるような強さだよね!」

 

「 もちろん、その勝利の道程は、各地の占拠された軍需工場を王党派から奪い返し、工場の中にたくさんの労働者を連れてくることから始まった」

「『さあ、朝から晩まで弾薬を作る時間だよ!』とフル回転させ、工場の設備が破壊されてたら、まあ荒れ果てた拠点を駐屯地に変えちゃう。でも……設備を後方に送って、生産拠点としての価値が何一つ無くなった廃工場で駐屯した兵士たちは、内部のとても広い空間を見て何を思ったんだろうね?」

 

「屋根があって、柱がいくつもあって、コンクリートの壁がある。仕切りさえあればもうそこは宿舎になるって理論で、残酷な焦土作戦にも立ち向かった!」

 

 

「彼ら兵士の勇猛さ。その裏には何があったか? もちろん、スポンジ!」

「君の部門は、スポンジと同程度の忠誠で持ってして職務を遂行しなければならない。だから頑張らなくちゃならないのさ!」

 

鼓舞するように、いや実際に鼓舞しているのだろう。

ジェスターはレヴィンに対し、期待しているような言葉を使う。

 

 

「私はただの説明役。ちょっぴり幽霊なだけさ。霊媒体質者しか声が聞こえないって諜報にも何でも使えるし、便利だよね!」

 

 

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