・白いオーラと赤いオーラ……えぐ
・正確に言えば赤黒な?
・んなのどうでもいいだろ!さっさと逃げろよ!なんで逃げないんだよ!
・こいつの飛んでくる速さが異常だからだろ。そんなに奥に進んでないから出口が近いとは言え、背を向けたら背中を襲われるだろうよ
・そんな……ワイヴァーンって、やばいんだろ!?死ぬんじゃねえの!?俺グロ映像見たくないぞ!
・ワイヴァーンの幼体だから成体に比べると脅威は控えめだがなぁ…初心者にはキツイのは変わりないぞ
リスナーたちが打つのは適切なコメント。全員の総意は、「勝てるわけがない」という結論。
腹立たしいが、実際大きな差があるのは間違いない。「竜性傑体」、「ブーストアップ」、《トライブースト》で強化したとしても同格には至れない。
けど、俺は一人じゃないからさ。
「俺は勝つぜ、ワイヴァーン。……吹き荒れろ!我が暴風!!」
竜翼に魔力を纏わせ、思いっきり振る。
強化された肉体に魔力による更なる強化。それは大型の擬似魔法と変わらない出力であり、まさに暴風だった。
あまりの勢いにワイヴァーンの飛行態勢は崩れ、姿勢が不安定になる。それは攻撃をすることも避けることも容易ではなく、一瞬の間……視線が外れる。
その一瞬のうちに彼女は近づき、切り裂く。
「煌剣二式・鉄骸」
魔力を剣に注ぎ込み、振るう。剣を扱う探索者において、基本のキであるその戦法。
しかし、相沢の扱うそれは違う。
弱冠13歳でありながらスキルに向き合い続け、発展スキルを編み出した魔力練度。そして、〈
それらの条件により、ワイヴァーンの鱗の上からもダメージを与える超級攻撃へと為った。
「グルァァ!!」
傷を負い、怒りを負ったワイヴァーンが描いた魔法陣の数5つ。
そのどれもが途轍もない魔力質と出力を宿している。直撃を受ければ致命傷は避けられない。
さっすが竜種だな!!確かにお前の魔法はすごいが、俺の飛行技術はもっとすごいぞ!
統合進化し、強化された「竜性飛行」……いや、「竜性傑体」!
進化で強化された翼はコントロールも速度も跳ね上がっている。こんぐらい避けまくってやるよ!
「相沢!つかまれ!!」
「……!ありがと!」
手を掴み、抱き抱えながら逃げる。《ドライグ・パンサー》で迫り来る攻撃たちを把握しつつ、ちょびちょび擬似魔法を放つ。
だが、煌剣のような圧倒的な威力がなきゃダメージを与えられない。
っち、硬えなクソが!
「……朝倉くん、ちょっと私をワイヴァーンに向かって吹き飛ばしてくれない?」
「何か策があるんだな?無理そうだったら速攻助けるぞ」
「ありがと。そういうとこ、結構好きだよ」
「あっ……そ!!」
・ちょっ!
・何してんだよ朝倉!春香ちゃん死ぬぞ!?
・状況を見れてなさすぎだろ!!
「無駄な心配だよ、それ」
・は?
・どういうことだってばよ
「あいつは強い。そして、俺はあいつの手札を全て知らないってことだ」
なんかあんだろ。俺の知っている範囲じゃワイヴァーンに打撃を与えられねえし、空も自由自在に動けない。
けど、目がマジだった。自分ならワイヴァーンにダメージを与えられると……そして、「あんまり舐めないでくれる?」と言いたげな視線だった。
舐めてるつもり、なかったんだがなぁ。これが竜性種の本能ってやつか。
「
それは、魔法ではない。それは、スキルではない。
それは、それは……ただの技巧だった。剣を出現させ、剣を踏み、加速する。その延々の繰り返しで、彼女は空を跳んでいた。
攻撃を避けるのはあまりにもスレスレ。
受けたら致命傷は間違いないのに。どうしてあんなにも……クソ、カッケェなぁ…!
これが、探索者。これが、相沢春香……
「
「さぁ、どれが本物?」
分身した剣を背景に、空に立つ相沢ごとワイヴァーンは焼き払う。
「それ、偽物だよ。エストパズル」
大層大きな悲鳴を耳で感じていると、ワイヴァーンを一気にダメージを与えた相棒がこちらへと向く。
その視線はまるで____「私は動いた。あなたも動いてよ?」といったもの。
はいはい、分かったよ。俺も動きますよ。
これは、リソースの外。擬似魔法を全て外に出してもリソース内に収めることができない竜性魔法。
「不退、不転、不屈」
「不退、不転、不屈」
朝倉くんの詠唱が始まった。急激な魔力出力の上昇を感じ取れる……やっぱりイカれてるよ。
「グルァ!」
詠唱を妨害しようとするワイヴァーン。けど、あなたの相手は朝倉くんじゃない。今の相手は私。
今みたいな余所見してみなよ。完膚なきまでに叩き切ってあげるからさ。
「……!」
うわぁ、それ狡くない?人工急所を隠し始めた。煌剣はもう使い切っちゃったし、《エストパズル》はまだクールタイムがある。
現在の状況から見て、役割は時間稼ぎだから良いんだけどさ。あー、でも「朝倉くんの出番はないよ」って言えるぐらいまでボコボコにして倒したかったんだけどなあ。
やっぱり攻撃を与える面で言うなら朝倉くんの方が圧倒的に上かな。あの「竜性魔法」っていう独特な魔法がおかしすぎる。
今は威力を抑えながら放ってるけど、全力で撃ったらワイヴァーンに大ダメージ間違いなし。
……悔しいなぁ。私の方が先輩なのに及ばない事実も……制限を行わせているのが私という事実も。
「……はぁ、やだ」
剣を持つ手が力む。自身への「怒り」が〈
「決めた。今ここで私は私を超える」
時間を稼ぐため、なんて思ってもない言葉を綴るつもりはない。ただ、私が負けたくない。
朝倉くんは才能やばいし、色々とおかしい。きっといずれは大敗してしまうのかな、なんて思う。
けど、それを今にするつもりはない。今ここで私を超えて、しばらくはずーっと前だけ見てもらう。
それが、私のちっぽけなプライド。
余った強化オーラを剣に集中させ、投擲する。右目に向かって大きく振りかぶった剣は超速で迫る。
大ダメージを避けようとして、ワイヴァーンは無理な態勢で避ける。
どれだけドラゴン種は天を支配する種族だったとしても、そこから避けるのは限度がある。
「私の最強を受けてみてよ。スタンドアップ!
「そして!エストパズル!!」
支援魔法と〈
あまり遠隔斬撃は得意じゃないけど、見事当たったようで安心安心。鱗に思いっきり当たった斬撃は鱗を抉り、肉にまで届く。
「……あぁ、タイムオーバーか。まあ、及第点かな。二つも急所を作ったんだから、負けたら……ね?」
「虚像の牙よ、
「
詠唱を完了し、発動した竜性魔法は【
……そう見えるが、実際は違う。この竜性魔法は、自身の竜性としての可能性を具現化し、少しでも近づかせる超弩級の魔法。
変化したツノは片方がさらに黒く、禍々しく悍ましく。片は天上の光を奪い去ったかのように神々しく。
1対1だった黒の竜翼は黒と白の二対の翼へと変化した。
竜の尻尾というにはか細く、不安を感じてしまう尾は三叉となり、元より太く変わっていた。
「おっしゃ!行くぜ」
フル詠唱
「不退、不転、不屈
三条の理は竜を地に縛る鎖
空想でしか息せぬ幻想は我が許諾を受け、甦る
天空に座す王が理に突き立てる双性の象徴
呪怨の
種を逸脱し虚な
聖魔反転二対の翼よ、烏合ノ衆を吹き飛ばせ
虚こそが真、真こそが虚
我の口こそが真であり、虚である
虚像の牙よ、