生まれてから13年。挫折らしい挫折がなかったんじゃないかと思う。
運動神経いいくせに変なところで不器用だったり、テストで記号問題をわざわざ文字で書いたりしてしまう普遍的な失敗はあった。
けど、違う。「失敗したこと」事態を「挫折」と定義するのならそうかもしれないが、俺はそうとは思わない。
俺が思う「挫折」とは「絶望」だ。本気で心の底から悔しがったりすることも人によっては「挫折」なのかなって思うけど。
……俺にとっては、それは「挫折」じゃない。本気で悔しがることは今まであったけど、つい下や後ろを見たくなるほどのものではなかったからだ。
この前のオーク戦だってそうだ。負けて、惨敗して、逃走して。確かにアレはショッキングだったけど、どちらかと言うと負けん気の方が強かった。
だから、俺はこれまでの人生に「絶望」を経験していないし、「挫折」っぽい「挫折」も経験していない。
だからこそ、俺は
「……っ!」
・マジかよ……
・新スキルが…
・ありゃ結構魔力こもってたのにな
・やべえな、今のでダメか
……分かる。
今、メンタルがマイナスに偏っていることが伝わってくる。
俺の頭じゃこんな状況を覆す作戦なんて思いつけるわけない。そして、今あるスキルで変わり種を出せるわけでもない。
どうしようもない現実と、相沢を巻き込んでしまったことへの後悔が募るばかり。
そんなものを積み重ねたとして、相手は決して待ってはくれない。だから「余計な思考は捨てるべき」なんてことは分かってる。
けど、そう簡単に捨てられるほど人生初めての「挫折」は甘くはない。苦しく、辛く、膝が折れそうになる。
そろそろこの形態キープすんのも辛なってきたし、敗北を認めたいなんて気持ちも出てきた。
実際、俺一人だけならとっくに折れてる。そもそも俺はメンタル的に強い人間じゃないし、周りに誰もいないってなったらボッコボコやでな。
でもさあ、俺一人じゃないからさ。勝利を届けるって誓った美兎ちゃんもいるし、こんな俺の戦いに付き合ってくれる相棒もいるしさ。
それに、あンのクソ竜王をぶち飛ばすとも決めちゃったからな。
ならこんなとこで折れて、挫けて、負ける方が恥ずかしい。
俺の竜性よ、そろそろ覚醒しろ。いつまで人間としての
俺という存在が俺である限り、俺は間違いなく人間。この世界で朝倉奏多の存在証明こそが朝倉奏多の人間としての証明。
絶望は先で食い飽きた。食うならクソ美味い希望と勝利が欲しい。
覚悟はできてる。
「もう一度だ!《
再度、槍が射出され、ドラゴンブレスによってかき消される。先刻の再放送に過ぎないイマに、リスナーは飽き果てる。
・だからそれじゃ無理だって!
・おい現実見ろよ!
・もっと考えろって、別の!
・別のって何があんだよ!
・いやそりゃ分かんねえけど!
「……」
「まあ、知ってますとも。お前にはそれが通じない。だから、視野が縮まると思った」
聖槍とブレスが相殺される中、超至近距離……懐に潜り込み、拳を構える。
拳には……いや、体全体に。聖槍と同系統のエネルギーがまとわれていることにゾンビワイヴァーンは気付く。
けど、もう遅い。
「肉弾一閃“神嵐”」
竜種と比べたら矮小な、人としても竜としても半端者な腕が巨体を吹き飛ばす。
「ごめんなすって。俺ァ初心者だからよ、
「やると思ったけど、まさかここまでなんて……。てか、朝倉くん挫折ターン短過ぎでしょ!1分もってなくない!?」
「んー?そりゃ俺一人なら挫折してるけど、俺にはみんながいるからな。視野にうつるのは未来しかないわけですよぉ」
「……こわぁ。どんなメンタルしてたらそんなことは思えるわけ?意味わかんないんだけど」
「そりゃ、ドラゴンですので」
「……そうだったね。それじゃ、行こうか」
「応!」
《
さっきみたいな聖槍とか、身体強化はあくまでも副産物。だから魔力消費量も高い。
でも、その異常な勘の鋭さがあるだけで大分変わるけどね。
そして、相沢の《
格下相手には必殺だし、格上にも案外効く。そして、フィジカルに対して頭脳が伴っていないゾンビワイヴァーンなんかにも効く。
でも、慣れてないからこそ三発が限度ってところ。だったらこの作戦の主柱とするべきは《
そのためには無駄遣いはできない。最悪を超えた最悪に備え、一発で終わらせる。
けど、それには一発で倒せる
ふふっ……《ドライグ・パンサー》と《
「
地面に咲き誇る黒い花はゾンビワイヴァーンの足を貫通することはもちろんとして、貫通した近辺の探知をも行う。
少なくとも四肢あたりには反応が感じれない。ということは、胴体部分に急所があることはほぼほぼ確定だろう。
喉あたりにあってはブレスをする際に邪魔になるだろうし……。
じゃあ、胴体をまさぐりますかね。
「
猫騙しをするようなカタチで手のひら同士を強く当てる。轟音とともに探知は開始し、どこに弱点部位があるのか把握できる。
そんじゃ分かったことですし、仕上げといきますか!!
俺が目覚めた《
エネルギーを物体として構築することも可能なんだぜ?それも、アンデット系が弱点とする聖遺物をな!
「
胸部にある弱点コアを縛る鎖が地に刺さる。動作の停止と相棒に対して弱点部位を主張する、両方の役割を担う鎖。
練度的に長くは持たないが、今の相沢に長くはいらない。頼むぜ、一発で片付けてくれよ?
「《
聖も、魔も、関係ない。ただ目の前にある物体を貫き、滅するスキルは強敵の肉を啄み、食い破る。
貫かれた瞬間、ゾンビワイヴァーンの肉体が光の塵となりはじめる。温暖器具よりは冷たく、しかし雪や雨などよりは暖かい。
言うなれば、祝福。竜王の血族など関係なく、ただひたすらに自身を打ち倒した強者へと祝う。
竜王の思考など入る余地はなく、すべてゾンビワイヴァーンの意思と断ずるしかない。
・まじか
・勝ったぞ!勝ったぞ!?
・やっぱ普通じゃねえよコイツら……
・うおー!強すぎるぞ!!
……つい、瞬きしてしまった。
ゾンビワイヴァーンを倒したことによって、降り落ちた祝福ではない。
リスナーたちの反応でもない。
ステータスと念じてもいないのに、浮かび上がってきたステータス。そして、「種としての進化」……その見慣れない言葉に驚いた。
「……なるほど、ドラゴンらしい」
《
このスキル名でルビなしに普通で読むと、「われらがきょうえんはいま、まくをひらく」です。
現は「いま」です。