356:名無しの探索者
なぁ、『解明の摂理』にオークの変異者が出たって知ってるか?
357:名無しの探索者
あぁ、見た見た。魔法を扱う完全新種のオークで、ランクはBだろ?まだ倒されてないって話だ。余計にF級は『解明の摂理』に行けなくなったな
358:名無しの探索者
でも高ランク探索者には嬉しいんじゃないか?そんな奥深くまで潜らなくても儲かるんだし
359:名無しの探索者
んなわけ。確かに変異者の素材は通常よりは高く売れるが、それでも元よりかは、だ。普通に高ランクダンジョンの魔物たちを売り捌いていた方が余程金になる。
それにだぞ?変異種はイコールで希少種だ。確かに他よりかは頻度が高いかもしれないが、それでも数が少ないことに変わりはない。
360:名無しの探索者
じゃあ本当に意味ねえじゃん
361:名無しの探索者
そうだよ、意味ねえよ。ただ敵が強いだけの意味わからんダンジョンだ。
362:名無しの探索者
まあ、そんな意味わからないダンジョンに挑んで、変異種を見つけた探索者がいるんですけど。
363:名無しの探索者
なにそいつ、変態なん?
364:名無しの探索者
噂では犬らしいり
365:名無しの探索者
犬……あぁ、直属探索者か。じゃあ今回の発見は何かの命令で見つけたのか。よくもまあ人の命令で自分の命を賭けられるものだな。
366:名無しの探索者
お前らさ、勘違いしてね?
367:名無しの探索者
勘違い?
368:名無しの探索者
なんだよそれ。
369:名無しの探索者
上からのものは命令ではなく、依頼だ。別に断っても構わないんだよ。
370:名無しの探索者
信じられないな。依頼だったらどうして死ぬと分かっているものに自ら挑んでいくんだ?ほら、この理論は破綻しているだろ。
371:名無しの探索者
守りたいものを守るため。俺たち犬が命をかける理由なんて大体そんなもんだ。分かってくれたか?人間くん。
372:名無しの探索者
きっも。やっぱりお前らきもいわ。他者のために命を投げ出せるなんて気色悪すぎだろ。
「大体、か。じゃあ俺は例外なのかね」
あのオークと出会ったとき、俺には危機感はなかった。……いや、あったにはあったな。大衆ではなく、自分のだったが。
そして、次あったら絶対倒すという決意もだ。アレが人を襲うことを考慮せず、ボッコボコに倒されたことに対して重点を置いていた。
「なーに悩んだ顔しているんですか。朝倉さんらしくない」
「俺らしくないってなによ……。ゆうて2週間ぐらいでしょう、俺と美兎ちゃんが会ってから」
「全部は分かりませんが、少しは分かりますよ。貴方は自分が満足しながら生きていたい。そんな自己中心的な人です」
「そんなバカな……」
「私の言葉は的を得ていると思うのですけど?朝倉さんは私のことをよく『美兎ちゃん』と呼びますよね?歳上なのに」
「はは……怒ってます?」
「いえ。もう慣れてしまいましたから。指摘はしますけどもね。……話を戻しますね?そんな人だから、あのオークと出会い、敗走した際に思ったはずです。次は絶対に負けないと」
「ッ!それは……」
「確かに貴方は他の直属探索者とは違います。決して誰かの為に犠牲になるなんて出来ない人です。ですけど、それは強みで、個性なんですよ。周りに、誰かに合わせなくても評価してくれます。してくれない人もいるかもしれないですけど……」
まずい、それはまずい。美兎ちゃんが言おうとしていることを予見できてしまう。この人は優しいから、きっと言ってくれる。
それは、ダメなんだ。きっと俺はその言葉に甘え、このまま自分を押し通してしまう。悩みなんて無くなって、自分自身しか写らない道を歩んでいくんだ。
だから、ダメだ。もし間違ったとき、俺は気づかないまま走り続けてしまうから。
「私は、見ていますよ?貴方が現実に苦難している姿、迷っている姿、勝利を掴む姿……そして、間違う姿も。自分が行きたい道、走って行きたい道を選びなさい。正しいことも、間違っていることも、格好つけてるときも、折れかけているときも、折れているときも。遠慮なく突き進み、掴み取ってください。……だから、そんな顔をしないでくださいよ」
「そんな、顔……?」
「えぇ、そんな顔ですとも。自分を心の底から否定するような、疑念を抱くような。そんな顔です。行動方針を迷ってもいいし、変えてもいいです。けれど、自身を否定するのはやめてください。私に言わせれば、貴方は魅力的な人です。そう思われている自分を否定すれば私の否定にもつながります。だから、ね?もう少し自信を持っていきましょう!」
「そんなこと言われたら……ッ!突き進むじゃないかっ!間違っても、突き進んでしまう……。俺は、怖いんだ」
「確かに一人ならば無理かもしれません。ですが、貴方には周りがいます。今は私しかいなくとも、貴方はいずれか周りを引き寄せる。高すぎる前提の上に立っている成功は、いつか引力となるでしょう。そうした者たちは、貴方のイエスマンにはならない。暴虐の王や、カリスマ溢れる英雄にはなれないでしょうけど、失敗と成功を積み重ねながら皆を守る剣を研げる賢王にはなれることでしょう」
不安も、何もかも消え去ってしまう人。現実の見えていない愚かな者と絵空事ではなく、心の底から思っている。出来ると確信している。
その確信がどれほど心を温めているのかを知っているのだろうか。全身から安堵してしまうそれは、心地が良い。
周りに浮き出てくる不安も、何もかもを消し飛ばしてしまうほどに。一人で歩くのは不安で、落ちてしまいそうだけど。美兎ちゃんがいるのなら、俺はどこまでも歩いて行こう。
アナタが近くにいてくれるのなら。どこまでも真っ直ぐ、自分を信じて道を進み続けよう。
「はいっ!治療完成したよ。これで翼は元通りなはず」
「…ありがとう。俺は今、美兎、君に救われた。だから、俺は君に約束するよ。絶対に生きて帰る。そして、君の隣で綴るとしよう。この世で一番面白く、抱腹絶倒必至な摩訶不思議の物語を」
「っ、なんですかそれ……ふふっ。きっと、今の世界は貴方に注目していませんよね?ですので……あれ、ですね。私が朝倉さんのファン1号、になりますね」
「……なので、そんなファン1号ちゃんに面白おかしい景色を見せてくださいね?」
「……美兎ちゃん、そんぐらいの感情を抱いているんだったら下の名前で呼んでも良くない?」
「いえ。私は推しとの接触なあまり深くしないタイプなので」
「くぁー!手強い!」
明るくなった竜の卵は部屋を去る。
「本当に、どうなっているんですか……」
最初の頃と比べると逞しく変化した彼の魔力は、異常だ。見ているだけで驚愕してしまう変化点はもう一つ。
魔力に比例して……いや、それ以上に肉体スペックが急上昇している。確かに魔力が上がれば上がるほど身体強度や身体能力が上がるが、朝倉さんのは常軌を逸している。
通常なら魔力が10上がった際、身体能力は1上がる。しかし、朝倉さんの場合は魔力が10上がって身体能力が30上がっているようなもの。
それだけじゃなくて、種族もスキルも色々おかしい。もし歴史の変換点があるとするならば、今この時代なのではないか。
つい、そう思ってしまう。
「あの人はきっと、強くなる。全世界が讃える日まで。その時まで私がサポートにつけたら良いなぁ」
「……私のために物語を綴る……はぁ。もう少し、私が生まれるのが遅かったら。もう少し、朝倉さんが生まれるのが早かったらなぁ」
どうしようもないタラレバを口にして、随分と熱い思いを寄せてくれる朝倉さんにエールを送る。
待ち受けている苦難を乗り越えれるだろうと信頼を乗せながら。