美兎ちゃんの手によって全開になった体で向かうは……
気持ち的には武器を買いたいところだが、初心者に買わせてくれるほど優しくはない。最低でも100万ぐらいするんだ。買えるわけがない。
それじゃあ何を買いにきたかって言えば、配信器具だ。どんな時でもファン1号に面白い映像を届ける為に必要だ。
……断じて、竜性種になったからには圧倒的な力を周りに見せて回りたいとかそんなんじゃない。確かに承認欲求は高まったが、断じてそんな理由なんかじゃない。
…と思いたい。
「むむむ。どれが良いんだろ」
俺の所持金は30万。オークが本当にいるかどうか確かめるための依頼金がほとんど全部だ。ゴブリンたちは1万ぐらいしかならなかった。クソが。
ただのドローンなら5万だけど、目指すなら高性能が良いよな。ぶっちゃけ飯とかは親がいるし……ここは奮発して、20万の初心者探索者用配信セットを買っちゃえ!
「買ったは良いが……どうやって使うんだ?ここにボタンあるけど、押したら起動すんのかな……えいっ」
『……デフトリクス・コーポレーション商品、【アルカナ】、起動完了しました。指示を』
「うわっ!…知ってはいたが、実際に高性能AIを目にすると驚くな。アルカナ、探索者配信したいんだけど、アカウントを作ってくれない?」
『諸々な作業を込みすると約10分ほどいただきます』
おぉ、早いな。探索者専用の配信サイトは色々面倒だと聞いていたが、まさかAIが代替してくれるとは。
これだったらAIが準備している間ダンジョンに潜れるじゃないか。
『解明の摂理』は危険すぎて封鎖されているからな。行くとしたら他のダンジョンだな。うん、とりあえずEランクダンジョンにでも行こうか。
あって良かった、自分よりも一つ上のランクなら挑んでも良いっていう制度。
いくら俺が直属探索者とは言えども、そこら辺……ランク云々に関しては融通が効かない。あくまでも同じ制度の中では優遇されてるって感じだからな。
だから元々の制度でソレがあることがどんなに有難いが。サンキュー探索者組合。
えーっと、ここから一番近いEランクダンジョンは……おぉ、ここか。『醜悪の理想論』か。
同じランク帯のダンジョンの中では一番敵が弱く、一番罠が凶悪だ。他のEランクダンジョンは罠をまともに受けても死ぬことはないが、ココは最悪の場合、死に至る。
つっても、初心者だけらしいけど。
大勢の敵がいるところに転移する
慣れた探索者ならそんな罠は余裕で踏破するらしい。かー!俺もそんな探索者になりてぇなぁ!
今の俺はただ戦い方を知っているだけ。戦う為に必要なエネルギーの引き出し方、使い方が分かるだけ。
慣れた探索者とは程遠い。そうなるには色々と長い目で見なきゃなんだろうなぁ。
俺の場合はドラゴンパワーで殴り倒してるだけだからなぁ……。そうした経験で踏破するのは憧れますわ。
「んし、ついたな。『醜悪の理想論』……ランクがワンランク高いだけあって、大気中の魔力はこっちのが多いな。んで、こっちも魔物よりも罠の数の方が多いな」
瞳に魔力を宿らせることによって得た擬似魔法【
まあ、看破は楽勝でも罠を踏まずに乗り越えるのは難しいんですけど。
確かに一体一体の実力は大したことないし、踏んだとしても全員倒せるだろう。
だけど、今の俺には無理だ。そんな器用な真似、俺にはできない。
だから来たんですけどね。
オーク戦で傷ついた体のリハビリ兼………レベルアップしたことで変化した肉体の試しをするために。
「クカッ!クカカッ!」
「……っ!『醜悪の理想論』の中で最も数が多いコボルトが初戦か。はははっ、リハビリには丁度いい」
取り出すのは治ったばかりの「竜翼」。『解明の摂理』に挑んだ時と比べると幾分か動かしにくく、「竜性式操作術」を用いても自由には動かせていない。
回復スキルは治癒する過程を早めているだけとも聞くし、自然治癒で治しているのと同じくらい動かしにくくなったりするのかね。
「
擬似魔法の一つ、【
あのオークと戦う前に使用していれば、目の前のコボルトを簡単に屠れるであろうものだ。
だが、今の「竜翼」は動かせないし、魔力伝導率も良いとは言えない。お世辞でも強いとは言えない空気弾は、コボルトの闘争心を掻き立てるだけだ。
……やっぱり、魔力効率が落ちてる。魔力量自体は増えてるが、翼を上手く使えないことによる魔力ロスが大きすぎて威力が出てない。
頭は「前ならこのぐらいの威力が出た」という過去ベースで組み立てているから、魔力の出力低下にあまり慣れていない。
常時魔力循環している竜性種の体がここまで影響が出るとは思わなかった。やっぱり、リハビリには丁度いい。
「
基本的に魔物のランクというものは隔絶した性能差がある。ゴブリンは強化種や変異種じゃないと魔法は扱えないが、コボルトはノーマル種でも魔法を扱える。
そこまで威力は強くないが、日常的に魔法を使うから魔力量も魔力効率も(初心者帯で話をするのなら)高い。
「
「竜翼」を前方に固め、魔力を大量に注ぐことである程度の攻撃は防ぐ防御擬似魔法だ。
現在の状況も相まって、クソ効率が悪い。
「クガッ!」
【
そして、それはコボルトに対して致命的で。【クロスフレイム】を受け止めた直後、打撃が翼に走る。
一発限りの防御が【
あぁ、クソっ…!例え翼に竜鱗があって、ダメージを軽減できるとしても、結構効くな!
魔法を囮として、本命は思いっきり強化をかけた打撃……!オークみたいな痛みじゃねえが、それでも痛いもんは痛い…!
「…人間と魔物の魔力回路は基本的に同じ……だったか?」
美兎ちゃんたちの魔力回路は俺とは違い、「根源的なものを一部に移し、強化を実行する。または現象を引き起こす」アクティブタイプ。
対して、俺の魔力回路は常に体を巡る血液のようなパッシブタイプ。常に一定の強さは保つが、強者をも圧倒するような爆発力は俺にはない。
アクティブタイプが常に魔力を循環させるパッシブタイプが出来ないように、俺もアクティブタイプは出来ない。
そうやって……直属探索者の先輩には言われてきた。だけど、本当にそうなのか。試してもいないのに何が分かる?
やっぱさ、チャレンジしないと。せっかくの"探索"者なんだ。好奇心のまま探究をしないと損じゃないか。
「さぁ!「天理」に至ろうか!!」
戦闘訓練、ダンジョン戦。その中で利用していないスキルが一つある。あまりに使い道が分からず、放置していた〈
いや……一応あるにはあるんだが、処理が重すぎて一瞬でやめたんだ。しかも発動までのインターバルが72時間あるし、使った直後は頭がクソ痛くなる。
絶対にもう一度使ってたまるかって思ったスキルだ。でも、強くなるにはこれを使うしかない。弱いことも、嫌なことも、その全てを受け入れないと強くはなれない。
「〈
自分の見ている景色とは違う光景が頭に入ってくる。俺の悪癖、俺の魔力をパッシブタイプで操る時の癖。
そして、地面に生い茂る草の色、ダンジョンの大気にどれほどの魔力が含まれているのかまで分かる。
自分だけじゃないんだ。自分周囲の環境まで俯瞰的に見れる。前はあまりの処理に耐えきれなくてやめてしまったけど、今ならこの景色の素晴らしさが分かる。
この光景は、俺を竜として新たな次元に立たせてくれるのではないかと思い上がってしまう。
きっと「天理化」が終わってしまうと同時に塵と化してしまうちっぽけで儚い思い上がりではあるけれど。
今は、この思いに熱中していたい。
「
「
魔力による影響で急成長した爪が頬をかすり、血がタラリと垂れる。
ようやく傷がつき、嬉しげに気持ち悪く笑っている。そんなコボルトくんにはとびっきりの風の爆弾をあげようと思う。
「グガガ……ッ!?」
わざわざアクティブを使用して身体強度を下げた甲斐があった。おかげで痛みによって歪む顔が見れた。
「クガッ!」
……っ、爆煙を利用して近づかれ、殴られた。アレで倒せるとは思ってもいなかったが、まさか利用されるとは。
「まあ、でも?ただ殴られるだけじゃないですけど」
「
さっきの【
魔力を動かす際にロスした魔力は専用器官に入り、いつでも取り出せる。だからアクティブに比べて発動するまでのタイムが少ない。
【
「クガッ!」
咄嗟の光撃を受けながら、闘志は捨てていない。傷を負いつつも、背後から回り、攻撃を繰り出そうとしている。
「悪いな。そっちは予想済みだ」
……俺はまだ魔力感知を上手く使えない。それを読み取り、このコボルトは奇襲を仕掛けてきた。これで、三度目だ。
なら、どう来るかなんて予想がつくもんさ。
「俺、実は尻尾もあんだよ」
「ク、ガッ……!?」
「あばよ、コボルト」
こんな苦戦しているけど「竜性魔法」ぶっぱしたら余裕で勝てるという()
ステータス
名称:朝倉奏多
レベル:12
種族:竜人
スキル:
〈
〈
《ドライグ・パンサー》
〈
※《》は〈〉からの発展スキル