転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第9話 医者の日常

 

新エリー都と郊外の境目。

 

街の喧騒が遠のき、代わりに大型車両やバイクのエンジン音が珍しくなくなってくる辺りに、エドワード・ストレンジの自宅兼診療所は建っていた。

 

朝。

 

診療を始める前から、エドワードの意識には転生者掲示板からの書き込みが流れていた。

 

【転生者掲示板】

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

先生、最近また研究室に籠り気味じゃない?

 

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「半々医者」

籠っていない。

診療も往診もしている。

 

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「シーホースCEO」

それ以外の時間は?

 

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「半々医者」

研究。

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

やっぱ籠ってんじゃん

 

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「半々医者」

必要な研究だ。

 

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「機械執事」

研究そのものに異論はない。

問題は、先生の場合は集中すると生活時間まで削ることだな。

 

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「半々医者」

大袈裟だ。

 

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「ちびリス博士」

大袈裟じゃないよ!

この前行った時も、お昼ご飯そのままだったもん!

 

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「半々医者」

一食遅れただけだ。

 

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「シーホースCEO」

現場から証言が出ました

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

ところでちびっ子

 

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「ちびリス博士」

なに?

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

お前が先生を注意できる立場か?

 

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「ちびリス博士」

なんで!?

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

前に素材届けた時

飯もまともに食わずにそのまま作業始めようとしてたの誰だっけ

 

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「ちびリス博士」

……。

 

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「機械執事」

前科があったな。

 

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「おっとり師範」

確か副店長さん達に止められてましたよね~。

 

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「ちびリス博士」

あの時は納期があったの!

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

寝た時間聞いたら黙ってたよな?

 

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「ちびリス博士」

むー!!

 

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「半々医者」

人のことは言えんな、ちびっ子。

 

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「ちびリス博士」

先生おにいも同類でしょ!

 

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「シーホースCEO」

先生もちびっ子ちゃんも似たようなものよ

 

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「機械執事」

研究者という人種の悪癖なのかもしれんな。

 

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「おっとり師範」

でも今はツイッギーさんが一緒ですから、ちびっ子の方は前より安心ですね~。

 

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「ちびリス博士」

ツイッギーおねい、すぐ「ご飯にするわよ」って呼びに来るんだよ!

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

それ大丈夫になったんじゃなくて

世話してくれる人が増えただけでは?

 

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「ちびリス博士」

ちゃんと自分でもできるもん!

 

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「半々医者」

昨日は何時に寝た。

 

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「ちびリス博士」

……。

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

先生ナイス

 

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「シーホースCEO」

沈黙が答えね

 

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「ちびリス博士」

みんなしてひどい!

 

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「おっとり師範」

先生も人のことは言えませんけどね~。

 

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「半々医者」

……患者が来た。

切るぞ。

 

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「ビデオ屋副店長(仮)」

掲示板をな

 

エドワードはそこで掲示板から意識を外した。

 

ちょうど診察室の扉が開く。

 

「次」

 

入ってきた老人が、椅子へ座るなり顔をしかめた。

 

「先生よぉ。もうちっと愛想よくできねぇのか?」

 

「腰が痛いんだろう」

 

「話聞いてたか?」

 

「聞いている。腰はいつからだ」

 

「3日くらい前からだな」

 

「嘘をつくな」

 

「何で分かるんだよ」

 

「動き方を見れば分かる。1週間は経っている」

 

老人が気まずそうに目を逸らした。

 

「……まあ、そのくらいかもしれねぇ」

 

「最初からそう言え」

 

診察を進めながら状態を確認する。無理を重ねた結果の炎症で、幸い大事には至っていない。

 

「薬を出す。しばらく重い物は持つな」

 

「仕事があるんだよ」

 

「なら悪化させて、もっと長く休め」

 

「先生って本当に言い方が――」

 

「次の患者が待っている」

 

「へいへい。ありがとよ、先生」

 

文句を言いながらも、老人は処方を受け取って帰っていった。

 

診療所の表側だけを見れば、少し設備の整った個人医院にしか見えない。

 

待合室、診察室、処置室。

 

しかし奥へ入れば印象は変わる。

 

小規模ながら手術にも対応できる設備。各種薬剤の保管庫。そしてさらに奥には、通常の診療所にはまず存在しない研究室がある。

 

特に充実しているのは、エーテル浸蝕と薬剤反応を調べるための機材だった。その大部分は、ヴァレリアの支援によって揃えられたものだ。

 

午前の診療が半ばを過ぎた頃。

 

外から激しいエンジン音が近づいてきた。

 

それだけなら、この辺りでは珍しくない。

 

だが音が診療所の前で止まり、直後に勢いよく扉が開いたところで、エドワードはカルテから顔を上げた。

 

「先生!」

 

聞き慣れた声だった。

 

「うるさい。ここは病院だ」

 

「悪い! でも急患だ!」

 

シーザーが仲間の男を抱えるようにして入ってくる。

 

作業中に機材が倒れ、腕と脇腹を強く打ったらしい。

 

「そこへ寝かせろ」

 

エドワードの声が変わる。

 

シーザーもそれ以上騒がない。

 

仲間を処置台へ運び、言われるまま場所を空けた。

 

「先生、こいつ――」

 

「外で待て」

 

「でもよ」

 

「邪魔だ」

 

「……分かった。頼む、先生」

 

「頼まれなくても治す」

 

扉が閉まる。

 

シーザーがこうして怪我人を連れてくるのは、これが初めてではなかった。

 

むしろエドワードと彼女たちとの付き合いは、シーザーが大将になるよりもずっと前から続いている。

 

そして、その始まりは医者らしいものですらなかった。

 

     ◇

 

今の診療所が、まだ骨組みに壁が付き始めた程度だった頃。

 

エドワードは建築途中の建物の前で資材を整理していた。

 

新エリー都から少し離れているとはいえ、患者が来られないほど辺鄙でもない。往診へ向かうにも都合がいい。

 

何より、人付き合いを必要以上に増やさずに済む。

 

彼にとっては十分な立地だった。

 

その日、遠くから聞こえてきたバイクのエンジン音が、途中で妙に弱くなった。

 

やがて音そのものが止まり、しばらくすると道路の向こうから、大柄なイノシシのシリオンがバイクを押して歩いてきた。

 

「……おい、あんた」

 

エドワードは手を止める。

 

男は建築途中の建物とエドワードを交互に見た。

 

「悪いが、燃料を少し分けてもらえねぇか? 読みを外しちまった」

 

「ガス欠か」

 

「そういうこった」

 

「計器は何のために付いている」

 

「ははは! 初対面で随分言うじゃねぇか!」

 

豪快に笑ったその男こそ、ビッグダディだった。

 

かつて郊外には《カリュドーン》と呼ばれる一団が存在していた。

 

しかし、その組織はすでに解散している。

 

その名を受け継ぐように新たに結成された《カリュドーンの子》を率いていたのが、当時のビッグダディだった。

 

もっとも、この時のエドワードはそんな事情を知らない。

 

目の前にいるのは、郊外のど真ん中で燃料を切らし、バイクを押してきた大男。

 

それだけだった。

 

エドワードは小さくため息をつくと、往診や非常時の移動用として確保していた燃料を少し分けた。

 

「助かった。金は払う」

 

「いらん」

 

「そういうわけにもいかねぇだろ」

 

「少量だ。それより次から余裕を持って入れておけ」

 

「医者みてぇな説教するなぁ、あんた」

 

「医者だ」

 

ビッグダディの動きが止まった。

 

それから、まだ建築途中の建物を見る。

 

「ここ、診療所になるのか?」

 

「家兼診療所だ」

 

「へぇ……こんなところで?」

 

「何か問題があるか」

 

「いや、逆だ。ここらじゃまともな治療を受けようと思ったら、結構走らなきゃならねぇからな。助かる奴は多そうだ」

 

「私は患者が来たら診る。それだけだ」

 

「十分じゃねぇか」

 

燃料を受け取り、バイクを再び動かせるようになったビッグダディは、跨がる前に振り返った。

 

「名前、聞いていいか?」

 

「エドワード・ストレンジ」

 

「エドワードか。俺はビッグダディだ」

 

一拍置いて、ビッグダディは自分を親指で示した。

 

「《カリュドーンの子》で大将やってる」

 

「そうか」

 

「……反応薄いな!」

 

「興味がない」

 

「ははは! 気に入った!」

 

「私は気に入られても困る」

 

「そう言うなって。今度は燃料切らす前に遊びに来るさ!」

 

「来なくていい」

 

ビッグダディは最後まで豪快に笑いながら走り去っていった。

 

エドワードとしては、それで終わった話のつもりだった。

 

ところが数週間後。

 

建物が診療所として最低限機能するようになった頃、再び激しいエンジン音が近づいてきた。

 

扉が勢いよく開く。

 

「エドワード! 怪我人だ!」

 

「……またお前か」

 

ビッグダディが負傷した仲間を担いで立っていた。

 

仕事中に大きく転倒したらしく、男の脚はひどく腫れている。

 

エドワードは文句を言うより先に診察台を指した。

 

「そこへ寝かせろ」

 

「頼む!」

 

「騒ぐな。診る」

 

骨折はしていたが、幸い血管や神経への重大な損傷はなかった。

 

処置を終えたエドワードから説明を受けたビッグダディは、安心したように大きく息を吐いた。

 

「いやぁ、助かった。やっぱり医者だったんだな、あんた」

 

「最初からそう言った」

 

「腕までは聞いてなかったからな!」

 

「次から別の医者へ行け」

 

「ははは! そりゃ無理だ!」

 

何が無理なのか。

 

エドワードには分からなかった。

 

だが、それを境に《カリュドーンの子》の面々が診療所へ顔を出すようになった。

 

裂傷を負った者、転倒して肩を痛めた者、仕事中に骨を折った者。ホロウでエーテル浸蝕を受け、応急処置だけでは済まなかった者まで、そのたびに怪我人が運び込まれてくる。

 

いつの間にか彼らの間では、

 

――郊外の境目に腕のいい医者がいる。

 

――愛想は悪い。

 

――口も悪い。

 

――だが腕は確かだ。

 

そんな評判が定着していた。

 

そして、《カリュドーンの子》の中には当時まだ大将ではなかったシーザーもいた。

 

「先生! こいつ診てくれ!」

 

ある日も、負傷した仲間を連れたシーザーが勢いよく診療所へ飛び込んできた。

 

「大声を出すな」

 

「悪い! でもこいつが――」

 

「見れば分かる。そこへ寝かせろ」

 

「分かった!」

 

ビッグダディに連れられて何度か診療所へ来ていたこともあり、シーザーもすでにエドワードの腕について疑ってはいなかった。

 

ただし、自分が患者になることだけは嫌がった。

 

「シーザー」

 

「ん?」

 

「お前も右脚を見せろ」

 

「は?」

 

シーザーが一歩後ずさる。

 

「オレ様は何ともねぇぞ?」

 

「歩き方がおかしい」

 

「気のせいだろ!」

 

「診察台へ座れ」

 

「いや、だから――」

 

「座れ」

 

「……はい」

 

渋々腰を下ろしたシーザーを見て、近くにいたビッグダディが豪快に笑う。

 

「ははは! シーザー、お前エドワードには弱ぇな!」

 

「うるせぇよ、ビッグダディ! 先生が怪我のことになると有無を言わせねぇだけだ!」

 

「怪我を隠す患者に選択権を与える必要はない」

 

「ほらこれだよ!」

 

それでもシーザーは逃げなかった。

 

エドワードが口うるさいのは、自分たちを心配しているから――などと本人に言えば否定されるだろうが、少なくとも怪我人を適当に扱ったことが一度もないことを、彼女はすでに知っていたからだ。

 

エドワードは一度も《カリュドーンの子》の専属医になった覚えはない。

 

彼らと契約を交わしたわけでもない。

 

ただ、患者として運び込まれれば治療した。

 

往診が必要なら出向いた。

 

それだけの関係だった。

 

それでも付き合いは続いた。

 

そして年月が流れ、ビッグダディが第一線を退き、シーザーが《カリュドーンの子》の大将を引き継いだ後も、その関係だけは変わらなかった。

 

     ◇

 

現在。

 

処置を終えたエドワードが扉を開けると、シーザーが勢いよく立ち上がった。

 

「先生!」

 

「腕は骨折。肋骨にもひびが入っている。頭も打っているから経過観察は必要だが、命に別状はない」

 

シーザーの肩から目に見えて力が抜けた。

 

「……よかった」

 

「しばらく絶対安静だ。仕事へ連れ出すな」

 

「分かった。ありがとな、先生!」

 

「治療費は貰う」

 

「分かってるって!」

 

いつもの調子に戻ったシーザーを、エドワードはじっと見る。

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「右腕を出せ」

 

シーザーの笑顔が止まった。

 

「……何の話だ?」

 

「庇っている」

 

「気のせいじゃねぇか?」

 

「座れ」

 

「いや、オレ様はこのくらい――」

 

「座れ」

 

「……はい」

 

昔とまったく同じ調子で、シーザーが椅子へ座った。

 

「先生、昔っから怪我のことになると有無を言わせねぇよな……」

 

「お前が昔から怪我を隠すからだ」

 

「いやぁ、これくらいなら平気だと思うだろ?」

 

「その台詞も昔から変わらんな」

 

「うっ……」

 

エドワードが淡々と右腕の状態を確認していく。

 

診療所を建てていた頃、ガス欠した男に燃料を少し分けただけ。

 

本来なら、その場限りで終わっていたはずの縁だった。

 

それが怪我人を1人運び込まれ、また1人運び込まれ、いつしか大将が代替わりするほどの年月を重ねている。

 

もっとも、エドワード本人に言わせれば、答えは昔から変わらない。

 

患者として来るなら診る。

 

ただ、それだけだった。

 

     ◇

 

午後。

 

診療が一段落すると、エドワードは研究室へ入った。

 

机の一角には、他の患者とは比較にならないほど分厚い記録が置かれている。

 

薬剤反応、神経反応、エーテル浸蝕、細胞再生、免疫、疼痛、感染症。そして義肢と神経接続に関する経過記録。

 

ほどなくして、研究室の扉が開いた。

 

「先生」

 

「来たか」

 

入ってきた女性は、両腕と両脚を機械義肢へ置き換えていた。

 

ツイッギー。

 

エドワードは椅子を示す。

 

「座れ」

 

「相変わらず挨拶もないのね」

 

「診察に必要ない」

 

「はいはい」

 

慣れた様子でツイッギーが座る。

 

エドワードは義肢と身体の接続部から確認を始めた。皮膚、神経、可動域、感覚。あかりが調整を重ねているだけあって、義肢そのものに大きな問題はない。

 

続いて血液を採取し、いくつかの反応を確認する。

 

「どう?」

 

「以前より安定している」

 

「普通になった?」

 

「なっていない」

 

即答だった。

 

ツイッギーは小さく息を吐く。

 

「本当に面倒な身体ね」

 

「麻酔だけじゃない。薬そのものへの反応が普通の人間とは違うと思った方がいい」

 

「今は普通に生活できているけど?」

 

「風邪も引けば怪我もする」

 

エドワードは結果を記録する。

 

「患者が風邪を引くたび、薬が効くか賭ける趣味はない」

 

「本当に諦めが悪いわね」

 

「医者だからな」

 

その返答に、ツイッギーはしばらくエドワードを見つめた。

 

昔から変わらない。

 

だからこそ、彼女もここへ来る。

 

まだ四肢があった頃。

 

姉妹たちをすべて失い、瓦礫の下に取り残されていたあの日から。

 

     ◇

 

最初に見えたのは、死体だった。

 

ホロウ内を移動していたエドワードが異変に気づいたのは、倒れている者の数に対して、エーテリアスによる捕食の痕跡が妙に少なかったからだ。

 

戦闘の跡。

 

崩れた瓦礫。

 

同じような装備を身につけた女性たち。

 

生存者がいる可能性を考え、エドワードは確認を始めた。

 

ほとんどが、すでに息絶えていた。

 

だが。

 

「……」

 

僅かな呼吸音。

 

エドワードが足を止める。

 

死体と瓦礫の下。

 

そこに1人だけ、生きている女性がいた。

 

片目が薄く開く。

 

「聞こえるか」

 

反応があった。

 

意識はある。

 

「医者だ。今出す」

 

「……姉妹、は……?」

 

最初に出てきたのは、自分のことではなかった。

 

エドワードは一瞬だけ周囲を見る。

 

嘘をつく理由はない。

 

「私が確認した限り、生存者はお前だけだ」

 

ツイッギーの瞳が揺れた。

 

けれど泣き叫ぶことも、取り乱すこともなかった。

 

ただ目を閉じた。

 

「……そう」

 

それだけだった。

 

瓦礫を除け、身体を確認する。

 

そしてエドワードの表情が険しくなった。

 

四肢すべてが深刻なエーテル浸蝕を受けている。

 

指先は動かない。感覚もほとんど失われていた。

 

このままでは浸蝕が広がる。

 

「名前は」

 

返事はない。

 

意識がないわけではなかった。

 

答える気がないらしい。

 

「言いたくないなら構わん」

 

ツイッギーが僅かに目を開ける。

 

「……聞かないの?」

 

「治療に必要になれば聞く」

 

「私が……何なのかも?」

 

「それは治療に必要なのか?」

 

ツイッギーは黙った。

 

自分が何者なのか。

 

何のために生まれたのか。

 

何ができるのか。

 

それを説明しなければ、自分に価値があるとは認められない。

 

そんな環境しか彼女は知らなかった。

 

だが目の前の男は、何も聞かなかった。

 

「まだ生きている。なら治療する」

 

エドワードにとっては、それで話が終わっていた。

 

     ◇

 

診療所へ運び込んだ後、さらに詳しく調べた結果は厳しかった。

 

「四肢は残せない」

 

ツイッギーは天井を見つめたまま答えた。

 

「……そう」

 

「残せば浸蝕がさらに広がる。最悪、お前自身が死ぬ」

 

「分かったわ」

 

妙に淡々としていた。

 

だが本当の問題は、その後に判明した。

 

麻酔への反応がおかしい。

 

単純に効きが弱いという程度ではない。薬そのものへの反応が、通常の人間とは明らかに違う。

 

「……やっぱり」

 

ツイッギーが呟いた。

 

「知っていたのか」

 

「私たちには……普通の麻酔が効きにくいの」

 

「私たち?」

 

「……」

 

答えはなかった。

 

エドワードも追及しなかった。

 

必要なのは素性ではない。

 

どうすれば手術を成立させられるかだ。

 

完全に痛みを消せない。

 

だからといって、何もしない理由にはならない。

 

可能な限り負担を抑える方法を探し、状態を監視し、手術計画を組み直す。

 

その様子を、ツイッギーは黙って見ていた。

 

「無駄じゃない?」

 

「何がだ」

 

「どうせ痛いんでしょう」

 

「完全には消せない」

 

「なら同じよ」

 

「違う」

 

エドワードは即答した。

 

「少しでも減らせるなら減らす」

 

「……どうして?」

 

「患者が少しでも楽になる。それで十分だ」

 

手術は長時間に及んだ。

 

痛みはあった。

 

完全には消せなかった。

 

それでもエドワードは、できる限り苦痛を抑えながら手術を進めた。

 

そして四肢を失う代わりに、ツイッギーは生き残った。

 

     ◇

 

術後も、エドワードは彼女の過去を尋ねなかった。

 

必要な質問だけをする。

 

体調、痛み、薬への反応、食事、睡眠。

 

それだけ。

 

ある日。

 

診察を終えたエドワードがカルテを閉じようとした時だった。

 

「ツイッギー」

 

手が止まる。

 

「何だ」

 

「私の名前」

 

エドワードはカルテを開き直した。

 

名前の欄へ書き込む。

 

「分かった」

 

それだけだった。

 

ツイッギーは少し呆れたように彼を見る。

 

「……それだけ?」

 

「他に何か必要か?」

 

「別に」

 

その日の夜。

 

エドワードは転生者掲示板へ書き込んだ。

 

【転生者掲示板】

 

「半々医者」

前に話した患者だが、ようやく名前を聞けた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

ちょっと信用された?

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

知らん。

ツイッギーというらしい。

 

そこで書き込みが止まった。

 

数秒。

 

「半々医者」

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

先生!!!!!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

先生!!!!!!!!!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

なんだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

……本当にツイッギーさんですか~?

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

本人がそう名乗ったのだな?

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

そう言った。

だから何なんだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

よくやった先生!!!!

マジでよく見つけた!!!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

本当にありがとう先生!!

いや本当に!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

何故CEOが礼を言う。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

こっちにも色々あるのよ!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

本当に……よかったです~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

私からも言わせてもらおう。

素晴らしい仕事だ、先生。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

患者を治療しただけだぞ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

先生おにいすごい!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

ちびっ子も知っているのか。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

知ってるよ!

だからすごいの!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

そうか。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

それより、ちびっ子に相談がある。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

なにー?

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

義肢を頼めるか。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

うん!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

四肢全部だ。

既製品では駄目だ。

本人に合わせて一から作ってほしい。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

任せて!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

助かる。

一度こちらへ来てくれ。

私だけでは専門外だ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

はーい!

 

     ◇

 

数日後。

 

「エドおにいー! 来たよー!」

 

診療所へ元気な声が響いた。

 

あかりは大きな工具鞄を抱え、何体かのボンプを引き連れている。

 

その勢いのまま病室へ入ると、ベッドのツイッギーへ笑顔を向けた。

 

「あたし、あかり! エドおにいに頼まれて、ツイッギーさんの手と足を作りに来たの!」

 

ツイッギーは目を瞬いた。

 

そしてエドワードを見る。

 

「……この子が?」

 

「ああ」

 

「本当に?」

 

「腕は確かだ」

 

あかりの頬が膨らんだ。

 

「もっと自信持って紹介してよー!」

 

「事実を言った」

 

「そういうところだよ!」

 

ツイッギーはしばらくあかりを見ていた。

 

「……帰って」

 

「やだ!」

 

即答だった。

 

「何でよ」

 

「あたし、もう作るって決めたもん!」

 

「私がいらないと言ったら?」

 

「でも手と足はいるでしょ?」

 

「……」

 

「だったら作る!」

 

「勝手にして」

 

「うん!」

 

「そこは少しくらい気にしなさいよ……」

 

最初の出会いは、そんなものだった。

 

     ◇

 

義肢は一度で完成しなかった。

 

身体の測定、神経接続、重量、関節の位置、可動域。

 

試作品を作っては調整し、また作り直す。

 

あかりは何度も診療所へ通った。

 

「ツイッギーさん、ここ動かしてみて!」

 

ツイッギーが試作義手の指を動かす。

 

ぎこちない。

 

だが動く。

 

「痛くない?」

 

「このくらいなら平気よ」

 

「平気じゃなくて、痛いかどうか!」

 

「……少し」

 

「じゃあ調整!」

 

「それくらい我慢できるわ」

 

「慣れちゃダメだよ!」

 

あかりが真剣な顔で言った。

 

「痛いなら痛いって言わなきゃ、どこ直したらいいか分かんないもん!」

 

「今回はあかりが正しい」

 

横で記録を取っていたエドワードが言う。

 

「今回はってなに、エドおにい!」

 

「痛みも治療と調整に必要な情報だ。耐えられるかどうかは聞いていない」

 

ツイッギーは2人を見る。

 

そして、小さく笑った。

 

「あ」

 

あかりが指を差した。

 

「今笑った!」

 

「笑ってないわ」

 

「笑ったよ!」

 

「気のせい」

 

「絶対笑った!」

 

騒ぐあかりを見ながら、ツイッギーはまた僅かに口元を緩めた。

 

     ◇

 

変化が起きたのは、義肢の制御機構を調整していた時だった。

 

「あれー?」

 

あかりが端末を覗き込み、首を傾げる。

 

「こっちの応答を速くすると、今度はここがちょっと重くなるなぁ……」

 

ツイッギーは横から画面を見る。

 

しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「その補正処理、後ろじゃなくて入力側へ回したら?」

 

「え?」

 

「そこ。今の組み方だと同じ情報を2回処理してるでしょう」

 

あかりが画面を見る。

 

指を動かす。

 

計算する。

 

「……あ」

 

さらに操作する。

 

目を見開いた。

 

「ほんとだ!」

 

ツイッギーが肩をすくめる。

 

「見れば分かるでしょう」

 

「ツイッギーさん、こういうの分かるの!?」

 

「多少は」

 

「多少じゃないよ! ねえねえ、こっちは?」

 

「ちょっと待ちなさい。いきなり見せられても――」

 

「じゃあこれは!?」

 

「だから待ってって――」

 

いつの間にか、2人で設計画面を覗き込んでいた。

 

エドワードは口を挟まなかった。

 

ツイッギーの表情が、それまでとは違っていたからだ。

 

義肢を作られる患者の顔ではない。

 

問題を見つけ、考え、答えを探す者の顔だった。

 

それから、あかりは設計で迷うたびにツイッギーへ話を振るようになった。

 

ツイッギーも最初こそ面倒そうにしていたが、次第に自分から図面を覗き込むようになる。

 

兵士としてではない。

 

誰かに価値を証明するためでもない。

 

ただ、考えることが面白いから。

 

それだけの時間だった。

 

     ◇

 

一方、エドワードも研究を続けていた。

 

最初の手術。

 

麻酔を十分に効かせることができず、ツイッギーへ痛みを残した。

 

その事実が気に入らなかった。

 

麻酔だけではない。

 

鎮痛、炎症、感染症、発熱、エーテル浸蝕。日常で使う可能性のある薬剤まで、一つずつ反応を調べる。

 

次の処置でツイッギーが呟いた。

 

「……前より痛くない」

 

「当然だ」

 

「当然?」

 

「前と同じ痛みを味わわせるなら、研究した意味がない」

 

ツイッギーは何も言わなかった。

 

ただ、その言葉を覚えていた。

 

     ◇

 

義肢の調整が終わりに近づく頃には、あかりは用事がなくても診療所へ顔を出すようになっていた。

 

「ツイッギーさん、遊びに来たよー!」

 

「ここ病院なんだけど」

 

「エドおにいがいいって!」

 

「私は言っていない」

 

「追い返してないからいいってこと!」

 

「どういう理屈だ」

 

別の日。

 

あかりが昼を過ぎても作業に夢中になっていると、ツイッギーが尋ねた。

 

「あなた、ご飯は?」

 

「あ」

 

「……食べてないのね」

 

「今から食べようと思ってた!」

 

「その台詞、何時間前から言ってるの?」

 

「何で知ってるの!?」

 

「先生から聞いたわ」

 

「エドおにいー!」

 

「患者の生活管理に必要な情報だ」

 

「裏切り者ー!」

 

ツイッギーが吹き出した。

 

また別の日。

 

「ツイッギーおねい、これ見て!」

 

ツイッギーの動きが止まった。

 

「……今、何て呼んだの?」

 

「ツイッギーおねい」

 

「どうして急に?」

 

「あたしよりおねいだし、いっぱい教えてくれるし!」

 

あかりは少しだけ不安そうに首を傾げた。

 

「ダメだった?」

 

ツイッギーはしばらく答えなかった。

 

「……別に」

 

「ほんと?」

 

「好きに呼びなさい」

 

「やったー! ツイッギーおねい!」

 

「何でそんなに嬉しいのよ」

 

そう言いながら、嫌そうな顔はしていなかった。

 

     ◇

 

ある夜。

 

調整と設計の話に夢中になったあかりが、机へ突っ伏したまま眠っていた。

 

ツイッギーは完成した義手を動かす。

 

指先で毛布を掴み、あかりの肩へ掛ける。

 

かつて、自分にも姉妹がいた。

 

同じ場所で暮らし、同じ任務へ向かい、同じものを食べ、時には言い争った。

 

そして全員いなくなった。

 

自分だけが残った。

 

もう誰かと暮らすことなどないと思っていた。

 

なのに今は。

 

目の前で、食事も睡眠も忘れて機械を弄る小さなリスが眠っている。

 

「……放っておけないわね」

 

誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

     ◇

 

義肢で歩くことにも慣れ、日常生活に支障がなくなった頃。

 

エドワードはツイッギーへ尋ねた。

 

「これからどうする」

 

ツイッギーは少し考えた。

 

「……あかりのところへ行くわ」

 

「そうか」

 

「あの子、放っておくと本当に食事も睡眠も忘れるのよ」

 

「……否定できんな」

 

「それに」

 

一度、言葉が止まる。

 

「工房の仕事も、嫌いじゃないから」

 

エドワードはそれ以上聞かなかった。

 

     ◇

 

クルクル・アカリン工房。

 

「一緒に住む!?」

 

「嫌なら別に――」

 

「住む!!」

 

ツイッギーが言い終わる前だった。

 

あかりの尻尾が大きく膨らむ。

 

「お部屋作ろ! ベッドもいるし机もいるよね! あっ、ツイッギーおねい用の作業台も――」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「買い物も行かなきゃ!」

 

「私が住みたいって言ったのよね?」

 

「うん!」

 

「どうしてあなたの方が嬉しそうなのよ」

 

「だって嬉しいもん!」

 

ツイッギーは呆れたように息を吐いた。

 

それでも、笑っていた。

 

     ◇

 

現在。

 

検診を終えたツイッギーが立ち上がる。

 

「次は?」

 

「予定通りでいい」

 

「研究は?」

 

「続ける」

 

「まだ?」

 

「お前が病気にも怪我にもならない身体になったら考える」

 

「無理でしょう、それ」

 

「なら続ける」

 

ツイッギーは肩をすくめた。

 

「本当に諦めが悪いわね」

 

「医者だからな」

 

出口へ向かいかけたツイッギーが振り返る。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「……ありがとう」

 

「治療費は貰っている」

 

「そういう意味じゃないわ」

 

「なら分からん」

 

「本当に変わらないわね」

 

ツイッギーは小さく笑い、診療所を出ていった。

 

     ◇

 

【転生者掲示板】

 

「ちびリス博士」

ツイッギーおねい帰ってきたー!

先生おにい、今日の検診どうだった?

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

問題なし。

薬剤への反応も改善している。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

よかった……

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

順調そうで何より

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

安心しました~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

長期的にも良好な経過と言えそうだな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

ただし研究は続ける。

麻酔だけの問題ではないからな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

先生ほんと徹底的にやるな

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

患者が風邪を引くたび、薬が効くか賭ける趣味はない。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

言い方はアレだけど正論

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

ツイッギーおねいがご飯できたって!

食べてくる!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

完全に保護者

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

しかも工房の仕事まで一緒にやってるんでしょ?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

うん!

ツイッギーおねいすっごく頭いいんだよ!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

ちび博士とは技術的な話も合うようだな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

楽しいよ!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

ますますどっちが助けられたのか分からんな

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

むー!

ご飯食べてくるー!

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

いってらっしゃい~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

ちゃんと食え。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

先生もな

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

……分かっている。

 

エドワードは掲示板から意識を外し、机の上に置かれた記録へ目を落とした。

 

始まりは、たった1人の患者だった。

 

普通の薬が思うように効かない。

 

エーテル浸蝕への反応も通常とは異なる。

 

調べれば調べるほど、分からないことが増えていく。

 

なら、調べればいい。

 

治せるなら治す。

 

自分ではどうにもならない分野なら、できる者を頼る。

 

義肢をあかりへ任せたのも、その一つだった。

 

エドワードはツイッギーが本来どんな未来を迎えるはずだったのか知らない。

 

彼女が原作の登場人物であることすら、名前を聞くまで知らなかった。

 

ただ死体と瓦礫の下に、まだ生きている患者がいた。

 

だから治療した。

 

それだけのことだった。

 

今、その患者は工房で誰かの帰りを待ち、食事を作り、夜更かしを止め、自分自身も機械や研究に頭を悩ませている。

 

兵士として命令されたからでもない。

 

役に立たなければ捨てられるからでもない。

 

やりたいからやっている。

 

エドワードは時計を見る。

 

昼食には少し遅い時間だった。

 

「……飯にするか」

 

研究室の照明を落とす。

 

明日になれば、また患者が来る。

 

必要なら往診へ行く。

 

空いた時間には研究を続ける。

 

患者がいる限り、やることは変わらない。

 

明日もエドワードは患者を診察する。

 




プロローグなどの掲示板が見にくいままなのでいずれ纏めて修正する予定です、文面も変わると思います。
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