転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第15話 妖精来たりて…

 

H.D.D.に突如として現れた謎の人工知能――Fairyとの会話は、まだ続いていた。

 

自らを人工知能Fairyと名乗り、アキラを『マスター』と呼ぶその存在は、つい先ほど起きたばかりの異常事態など意に介していないかのような淡々とした声で話を続ける。

 

『また、直近のデータ削除および転送によって、貴方様のプロキシとしての活動が損害を受けていることを確認しました』

 

その言葉に、アキラとリンは改めてH.D.D.の画面へ目を向けた。

 

『私は契約に基づき、貴方様のプロキシ事業の再建を支援することが可能です』

 

「……再建?」

 

アキラが聞き返した。

 

先ほどのハッキングによって、パエトーンとして長年積み重ねてきたデータの大半は失われている。

 

それを取り戻せるというのなら、話は大きく変わってくる。

 

リンも身を乗り出した。

 

「待って。それって、消されたデータを元に戻せるってこと?」

 

『否定。既に削除されたデータそのものを完全に復元することはできません』

 

期待させるような言い方をしておいて即座に否定され、リンの眉がぴくりと動いた。

 

「じゃあ、どうやって?」

 

『既存のデータを復元するのではなく、必要な情報を新たに収集し、再構築します』

 

「新しく?」

 

『肯定』

 

Fairyは淡々と説明を続ける。

 

新エリー都に存在する知能設備の大半へアクセスし、そこから膨大な情報を収集することが可能。

 

さらに、収集した情報を利用してホロウ内部の状況をリアルタイムで解析し、従来のキャロットに頼らずとも適切な経路を導き出せるという。

 

つまり――これまでパエトーンが長い時間をかけて蓄積してきた情報を、まったく別の方法で補えるということだった。

 

「いやいや、ちょっと待って!」

 

さすがにリンが声を上げた。

 

「それ、本当ならとんでもないこと言ってるんだけど!?」

 

『これは私の基本機能に含まれます』

 

「基本機能!?」

 

少し離れた場所で聞いていたユウトも、思わず眉を上げた。

 

知識としてFairyが規格外の人工知能であることは知っている。それでも、実際に本人から平然と聞かされると印象が違う。

 

「随分とすごいのが居着いたな」

 

『肯定的評価として受領します。ありがとうございます』

 

「褒めたことになるのか、今の」

 

「Fairy的にはなったみたいだね」

 

アキラが苦笑する。

 

さらにFairyは能力の実証とでもいうようにインターノットへアクセスすると、現在のパエトーンに適した依頼を複数選び出した。

 

サブアカウントの状況、依頼の難度、報酬。

 

現在の2人でも受けられそうな仕事が、既にいくつか並んでいる。

 

「……本当に見つけてる」

 

リンは表示された内容を一つずつ確認した。

 

「適当に拾ってきたわけじゃないね。今の私たちの状況まで考えて選んでる」

 

「少なくとも、言っている能力が全部ハッタリってわけじゃなさそうだね」

 

アキラも画面を確認する。

 

ユウトは2人の少し後ろから、その様子を眺めていた。

 

表情も態度も普段と変わらない。

 

Fairyが何を見ているのか。どこまでH.D.D.へ干渉できるのか。分からないことは多い。

 

だが、それをわざわざ本人の前で並べ立てる必要もない。

 

助けられたのは事実。

 

規格外の能力を持っているのも、おそらく事実。

 

なら今は、それを覚えておけば十分だった。

 

「でも、お兄ちゃん」

 

リンが依頼一覧から目を離した。

 

「今すぐ全部Fairyに任せるのは、まだ早いと思う」

 

「僕もそう思う」

 

アキラは素直に頷く。

 

「できることが多いのは分かったけど、まだ会ったばかりだからね。まずは実際に何ができるのか見ながら考えよう」

 

『合理的な判断です。今後の活動を通じ、私の有用性を証明します』

 

「自信満々だなぁ」

 

ユウトが小さく笑う。

 

リンも少しだけ表情を緩めたが、すぐにアキラへ向き直った。

 

「それより、お兄ちゃんは今日はもう休んで」

 

「もう大丈夫だよ」

 

「さっき気を失ってた人の『大丈夫』は信用しません」

 

「厳しいなあ」

 

「当然です」

 

リンは立ち上がると、兄にも立つよう促した。

 

「Fairyのことを調べるのも明日から。今日はちゃんと休むこと」

 

「はいはい」

 

「返事が軽い」

 

「分かったよ」

 

アキラも諦めたように立ち上がる。

 

部屋へ向かおうとして、リンが一度だけユウトを振り返った。

 

「ユウト兄も今日は無理しないでね」

 

「あいよ。お前はアキラ見ててやれ」

 

「うん」

 

「僕、そこまで監視される必要ある?」

 

「ある」

 

即答され、アキラが苦笑する。

 

そのまま2人が奥へ消えていく。

 

スタッフルームに残ったユウトも、すぐに休むことにした。

 

ただ、その前に1つだけ確認しておく。

 

ユウトは転生者掲示板へ意識を向けた。

 

【転生者掲示板】

 

「半々医者」

戻った

 

急患の処置は終わった

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

先生おかえりー!

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

お疲れー

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

お疲れ様です~。

 

患者さんは大丈夫でした?

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

ああ

 

しばらく安静は必要だが

ひとまず問題ない

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

お疲れ先生

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

それで

 

そっちはどうなった

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

予定通りFairyきた!

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

そこまでは聞いてる

 

実際どうなんだ

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

いやー……

 

知ってたけど

実物が来るとやっぱヤバいわ

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

具体的に言え

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

新エリー都にある知能設備の

8割以上にアクセスできる

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

は?

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

それだけじゃないよ!

 

情報処理もすっごいの!

 

ホロウの情報をその場で解析して

ルートまで出せる!

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

待て

 

8割以上?

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

そこ俺も二度見した

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

情報収集と処理能力なら

俺より上だと思う

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

お前よりか

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

ああ

 

流石にあれは規格外だ

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

……ようやく

前から気にしてた理由が分かった

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

でしょ?

 

知識で知ってるのと

実際に聞くのじゃ全然違うのよ

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

まあ便利なのは間違いなさそう

 

しばらく様子見でいいだろ

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

そうですねぇ。

 

急いで結論を出す必要も

ないでしょうし~。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

本人の体調は?

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

普通に会話できてる

 

今日はもう休ませた

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

それでいい

 

また頭痛や痙攣が出たら

すぐ連絡しろ

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

了解

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

それと例の件

 

場所はかなり絞れた

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

待機してる方には?

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

もう送った

 

何重にも経路を挟んでたが

最後は閉鎖回線に入ってる

 

外から追えるのはここまでだ

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

了解

 

後は予定通り

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

今度こそ逃がさないでよー

 

原作じゃ綺麗に逃げられたんだから

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

今度は治安局へ

きちんと引き渡しましょう~。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

……何か仕込んでたな?

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

まあまあ先生

 

そのうち分かる

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

またそれか

ーーーーーーーーーー

 

必要な確認は終わった。

 

ユウトは掲示板から意識を戻すと、何事もなかったように立ち上がった。

 

「俺も休むか」

 

口にしたのは、それだけだった。

 

それなら単に疲れた副店長が自室へ戻るだけの話でしかない。

 

スタッフルームを出て、そのまま地下にある自室へ向かう。

 

H.D.D.には既にFairyがいる。

 

先ほど聞いた能力が事実なら、これからRandom Playの中で口にする言葉についても、以前とは少し考え方を変えた方がいいだろう。

 

もっとも、それを必要以上に意識するつもりもなかった。

 

何も知られたくないのなら、最初から口にしなければいい。

 

ユウトにとっては、それだけのことだった。

 

自室へ入ると扉を閉め、装備を外してベッドへ横になる。

 

今日だけでも随分と動いた。

 

後は、待っている方が上手くやることを願うしかない。

 

     ◇

 

六分街から離れた、新エリー都の一角。

 

夜の街を見下ろす建物の屋上に、1人の人影が立っていた。

 

光をほとんど反射しない黒の隠密装束。その上から急所だけを覆う軽量の防具を重ね、両腕には黒い籠手。背には鞘へ収められた短めの忍者刀。

 

そして何より目を引くのが、顔を完全に覆う白い獣面だった。

 

髪は頭巾の内側へ収められ、肌もほとんど露出していない。装束は身体の輪郭まで曖昧にしており、表情はもちろん、素性すら外から読み取ることは難しい。

 

仮に六分街で気の抜けた笑みを浮かべているビデオ屋の副店長を知る者が目の前にいたとしても、この姿から同一人物を連想することはまずないだろう。

 

手元の小型端末が短く震えた。

 

仮面の人物は無言で画面を確認する。

 

送られてきたのは、ある区域を示す位置情報。

 

続いて短い通信が入った。

 

『ここまで絞った。最後は閉鎖回線だ』

 

「了解」

 

返された声は低く、平坦だった。

 

普段のユウトの声色とは明らかに異なる。

 

『見つけたら繋いでくれ』

 

「了解」

 

それだけ。

 

通信を終える。

 

仮面の人物は屋上から眼下を見渡すと、音もなくその場から姿を消した。

 

     ◇

 

送られてきた情報だけでは、対象の建物まで特定できていない。

 

だから現場から探す。

 

人の出入り、電力設備、監視装置、新しい足跡、車両の痕跡。

 

使われていないはずの建物に残る、不自然な生活の気配。

 

仮面の人物はそれらを1つずつ拾っていった。

 

やがて辿り着いたのは、かなり前に営業を終えた通信関連企業の施設。

 

外から見れば無人。

 

しかし、監視設備の一部だけが新しい。外壁沿いには最近交換された配線も確認できる。

 

正面入口は使わない。

 

裏口も避ける。

 

監視の死角から外壁を登り、屋上へ。施錠された扉にも触れず、別の侵入口を探す。

 

ほどなくして建物内部へ滑り込んだ。

 

着地音はない。

 

薄暗い廊下。

 

床には複数人が最近出入りした痕跡が残っている。

 

奥からは機械の駆動音。

 

さらに進み、曲がり角の手前で足を止める。

 

声が聞こえた。

 

「上への報告は?」

 

「今まとめてる。対象が想定外の第三者へ渡った件も入れる」

 

「接続先は?」

 

「まだ洗ってる。H.D.D.とかいうシステムを使ってた。普通のプロキシじゃない」

 

別の声が続いた。

 

「先に送れ。赤牙組が失敗した以上、次をどうするかは上が決める」

 

仮面の人物は物陰から室内を確認する。

 

複数の人間。

 

大量の端末。

 

通信設備。

 

そして、その会話。

 

間違いない。

 

ホワイトノイズ。

 

原作では、この連中には逃げられた。

 

だから今回は、その前に捕まえる。

 

そのためにユウトは、今日ホロウへ入るより前から1体だけ影分身を残していた。

 

本体がニコたちと十四分街へ向かっている間、この分身は別行動を取り、アルバートからの連絡を待っていたのである。

 

そしてH.D.D.への侵入が始まった時、本体が掲示板へ送った、

 

――アルバート。

――例のあれ、頼む。

 

その一言が、事前に決めていた追跡開始の合図だった。

 

もっとも、ここにいる影分身がその書き込みを知っているわけではない。

 

影分身と本体の間で、記憶が常時共有されることはない。分身が得た記憶と経験が本体へ渡るのは、術が解除された時だけ。

 

だから、この分身にはアルバートから直接端末へ情報を送ってもらっていた。

 

そして今、待っていた相手を見つけた。

 

影分身は端末へ短く入力する。

 

『発見』

 

返事はすぐに届いた。

 

『中か?』

 

『内部』

 

『端末へ接続できるか?』

 

周囲を確認する。

 

『可能』

 

『頼む』

 

『了解』

 

会話はそれだけだった。

 

     ◇

 

警戒の薄い場所へ回り込み、誰もいないことを確認する。

 

内部端末へ小型機器を接続。

 

『接続』

 

『待ってろ。今やってる』

 

数秒。

 

『……よし。入れた』

 

端末画面に僅かな変化が走る。

 

『中からなら全部見える』

 

『外部通信』

 

『今止める』

 

直後、奥の部屋から声が上がった。

 

「何だ!?」

 

「外部回線が落ちた!」

 

「復旧しろ!」

 

「駄目だ、繋がらない!」

 

別の人間が端末へ飛びつく。

 

「ログを消せ! 先にデータを――」

 

『それも止めた』

 

仮面の人物は接続機器から手を離し、ゆっくりと立ち上がった。

 

ここから先、隠れている必要はない。

 

廊下を進む。

 

その姿に気づいた1人が振り返った。

 

「誰だ!?」

 

返答はない。

 

「おい! 誰だって――」

 

次の瞬間、仮面の人物が視界から消えた。

 

最初の1人が床へ崩れる。

 

首筋への一撃。

 

意識だけを正確に刈り取っていた。

 

「侵入者だ!」

 

武器へ手を伸ばした者の手首が掴まれる。

 

捻られ、武器が床へ落ちる。

 

身体を崩されたところへ掌底。そのまま意識を失う。

 

横から棒状の武器が振り下ろされた。

 

半歩だけずれる。

 

腕を取る。

 

投げる。

 

床へ叩きつける。

 

一言も発しない。

 

逃走しようとした者へ小さな刃が飛ぶ。

 

服だけを貫き、壁へ縫い止めた。

 

振り返った時には、白い獣面が目前にある。

 

次の瞬間には、その意識も落ちた。

 

必要以上の攻撃はしない。

 

殺さない。

 

ただし、抵抗する余地も与えない。

 

忍術すらほとんど必要なかった。

 

静かに、確実に。

 

室内にいた人間を1人ずつ無力化していく。

 

数十秒後。

 

動ける者は誰も残っていなかった。

 

仮面の人物は無言で拘束を始める。

 

端末が震えた。

 

『そっちは?』

 

『制圧完了』

 

『こっちも大体終わった。データを見る』

 

『了解』

 

室内の端末に複数の記録が表示される。

 

赤牙組への指示。

 

研究施設から回収された物品。

 

牙を模したメモリディスク。

 

そこへ仕込まれていた侵入用のプログラム。

 

『やっぱりあのディスクが罠だった』

 

仮面の人物は画面を確認する。

 

『詳細』

 

『赤牙組に対象を回収させる。その後、ディスクがどこかのシステムへ接続されたら侵入する仕掛けだな』

 

『パエトーンは予定外か』

 

『そうなる。赤牙組から邪兎屋、そこからパエトーンへ流れたのは向こうも想定してない』

 

画面が切り替わる。

 

『Fairyについては?』

 

『回収対象としか書かれてない。この連中も詳しい正体までは知らされてないな』

 

『了解』

 

それ以上は追わない。

 

分からないものを、推測で埋める必要はない。

 

『報告は?』

 

『今作ってた分なら止めた』

 

『内容』

 

『Fairyが想定外の第三者――パエトーン側へ渡った可能性が高いって報告だ』

 

短い沈黙。

 

『完全秘匿は無理だな』

 

『だろうな。H.D.D.へあそこまで入り込んでる。今回の報告を止めたところで、遅かれ早かれ向こうは辿り着く』

 

『なら十分』

 

今回の目的は、Fairyの存在を永遠に隠すことではない。

 

そんなことができるとも、最初から考えていない。

 

ただ、相手がせっかく綺麗にまとめた報告を、そのまま上へ届けてやる理由もなかった。

 

今すぐ送られる情報を潰し、少しだけ判断を遅らせ、少しだけ余計な手間を増やす。

 

その程度。

 

嫌がらせとしては十分だ。

 

『送信先』

 

『予想通り。讃頌会側だ』

 

仮面の人物に驚きはない。

 

ホワイトノイズと讃頌会側の繋がりそのものは、既に知っている。

 

今回確かめたかったのは、そこではなかった。

 

『こちらの情報は』

 

『消せる分は消す。H.D.D.、パエトーン、Random Playに直接繋がる記録はなるべく残さない』

 

『了解』

 

一方で、ホワイトノイズ側のデータは確保する。

 

赤牙組とのやり取り。

 

研究施設。

 

メモリディスク。

 

違法なハッキング。

 

その他の犯罪行為。

 

『治安局用の証拠は?』

 

『今切り分けてる。こっちに余計な火の粉が飛ばない形にする』

 

しばらくして。

 

『終わった』

 

『通報』

 

『もう入れた』

 

『了解』

 

そこで通信は途切れた。

 

仮面の人物は拘束したホワイトノイズの構成員をもう一度確認する。

 

今回の主目的は、こちらだ。

 

原作では逃走したホワイトノイズの実働メンバーを捕らえる。

 

そして、治安局へ引き渡す。

 

情報を1つ潰すことよりも、こちらの方が遥かに重要だった。

 

     ◇

 

施設から離れた建物の屋上。

 

白い獣面の人物は、物陰から先ほどの建物を監視していた。

 

やがて治安局の車両が到着し、複数の治安官が施設へ入っていった。

 

それでも動かない。

 

しばらくして、拘束されたホワイトノイズの構成員が順番に外へ連れ出され始める。

 

1人。

 

2人。

 

3人。

 

無言で数える。

 

全員が車両へ収容されるまで、その場から離れない。

 

やがて最後の1人が連行され、治安局の車両が動き出した。

 

そこで初めて、仮面の人物は監視を終える。

 

さらに何区画か離れる。

 

人目。

 

監視装置。

 

追跡。

 

そのすべてがないことを確認する。

 

そして――。

 

白い煙とともに、その姿が消えた。

 

     ◇

 

Random Playの地下。

 

自室へ戻ったユウトは、既にベッドへ身体を預けていた。

 

その意識へ、不意に数時間分の記憶が流れ込んでくる。

 

待機。

 

追跡。

 

潜入。

 

ホワイトノイズの制圧。

 

アルバートと回収した情報。

 

そして、治安局による身柄の確保。

 

影分身が経験したすべてが、術の解除と同時に本体へ戻ってきた。

 

長時間維持していた分身の疲労まで重なり、身体には先ほどまでより明確な重さが加わる。

 

それでも、ユウトはベッドへ横になった姿勢を変えなかった。

 

表情にも出さず、呼吸も乱さない。

 

(……無事終わったか)

 

確認するのは胸中だけ。

 

自室へ戻ったからといって、何でも口に出していいとは考えない。

 

FairyがどこまでRandom Play内部の機器を利用できるのかは、まだ分かっていないのだから。

 

戻ってきた記憶の内容を整理する。

 

ホワイトノイズの構成員は全員確保。

 

治安局への引き渡しも確認済み。

 

必要なデータもアルバートが確保している。

 

(予定通り。なら、後は……流石に休みたいな)

 

ユウトは目を閉じたまま、転生者掲示板へ意識を向けた。

 

【転生者掲示板】

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

終わった

 

全員治安局に持ってかれた

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

よっしゃ!

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

捕まえたー!

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

お疲れ

 

データも確保できた

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

これで今回は

逃がさずに済みましたねぇ。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

待て

 

全員って何の話だ

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

あー

 

先生そこからか

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

俺は途中で抜けてたんだ

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

じゃあ簡単に説明するわ

 

さっきH.D.D.を襲った連中

ホワイトノイズっていうハッカー集団なの

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

それを追ってたのか

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

ああ

 

原作だとここで逃げられるから

今回は先回りした

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

なるほど

 

それで捕まえて

治安局に渡したと

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

そういうこと

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

なら十分だろ

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

あと今回

上に出そうとしてた報告も一応止めた

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

Fairyの件か

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

ああ

 

ただし時間稼ぎ程度だな

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

遅かれ早かれバレるだろ

 

今回は向こうが作った報告書を

そのまま届けさせなかっただけ

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

そそ

 

わざわざ親切に

こっちの情報まとめて送らせる必要ないし

 

嫌がらせ嫌がらせ

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

お前ら楽しんでないか

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

ちょっとだけ

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

否定はしない

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

わたし何もしてないけど

ちょっと楽しい!

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

ふふっ。

 

ですが

本命はきちんと捕まえられましたしねぇ。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

まあ、それなら十分か

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

Fairyを欲しがってる理由までは

今回のデータにもなかった

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

そこは仕方ないわね

 

原作でもまだ分かってないし

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

分からんもん考えてもしゃーない

 

今日は終わり

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

お前は休め

 

長時間分身を維持してたんだろ

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

はい先生

 

明日はビデオ屋の仕事だけします

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

限定してきた

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

エージェント業務お休み

 

面倒事お断り

 

雑用も受け付けません

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

最後の私に言ってない?

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

よく分かったな

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

普段の行いだろ

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

ちょっと!?

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

じゃあ工房のお手伝いもダメ?

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

ダメです

 

明日の俺は

ただのビデオ屋副店長です

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

ぶー

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

ふふっ。

 

たまには本当に

お休みした方がいいですよ~。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

たまにじゃない

 

今日はもう寝ろ

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

はーい

 

では閉店

ーーーーーーーーーー

 

そこでユウトは掲示板から意識を離した。

 

影分身から戻ってきた疲労もあり、身体は普段より重い。

 

だが、今日やるべきことは終わった。

 

ホワイトノイズの構成員は、原作とは違って逃げることなく治安局へ引き渡された。

 

こちらへ繋がる情報も、消せるものは消した。

 

Fairyがパエトーンの手に渡ったという情報についても、隠し通せるとは考えていない。それでも、向こうが用意した報告をそのまま届けさせず、少しくらい余計な手間を増やすことはできた。

 

それで十分だ。

 

Fairyが何者なのか。

 

なぜあのデータチップに入っていたのか。

 

そして、なぜ讃頌会側が回収しようとしていたのか。

 

まだ分からないことは多い。

 

原作を知っているからといって、まだ明かされていない答えまで知っているわけではない。

 

なら、今は考えても仕方がない。

 

(明日はビデオ屋だけ。絶対それ以外はやらん)

 

最後まで口には出さず、ユウトはそのまま眠るために目を閉じた。

 

少なくとも明日くらいは、ただのビデオ屋副店長でいるつもりだった。

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総合評価:274/評価:9.33/連載:5話/更新日時:2026年08月05日(水) 14:11 小説情報

終末世界のラーメン屋台の店長さん(作者:一反木綿豆腐)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼ ▼ いつ壊れ、跡形もなく崩れ去ってもおかしくない終末世界。▼ 人類最後の砦となった街、新エリー都は今日も危ういながらも何とか繁栄を謳歌する。▼ そんな街を転々とする、ラーメン屋台が一軒。▼ 何やら謎の多い店主と相棒の超々高性能ボンプは、今日も今日とて店を出す。▼  ▼ 「パエトーン」の家族として、エージェントの知人友人として生きていく。▼


総合評価:3238/評価:8.88/連載:21話/更新日時:2026年09月21日(月) 03:30 小説情報

転生したら終末世界で実験体??!!(作者:ALMS913)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

小説投稿を始めさせていただきました ▼まだ高校生なので文才が全くないのですが▼自分の理想のクロスオーバーを見たくて探したけどなくて▼自分で書くことにしました▼読みにくかったらすみません▼ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー▼転生したら研究所で実験体になっていた?!


総合評価:169/評価:6.67/連載:16話/更新日時:2026年06月13日(土) 19:01 小説情報

監察官のちょっと奇妙な冒険(作者:プロメイア推しの人)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

オリ主が転生して、赫灼熱拳するお話です。▼ストーリーは2.7から始めま~す。ん?まぁ、途中からにょきっと生えてくる感じで。(それでも過去キャラと絡みがあるのは許してちょ)


総合評価:1021/評価:8.24/連載:10話/更新日時:2026年06月23日(火) 16:25 小説情報


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