転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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連投です、転生者達の1人ちびリス博士が依頼人になります。


第1話 依頼人はいつもの常連客?

 

クルクル・アカリン工房。

 

作業台の上には、製作途中の機械と大小様々な工具が並んでいた。

 

その中心で、天宮あかりは設計図と目の前の試作品を交互に確認している。背後では、リスのシリオン特有の大きな尻尾が機嫌よく左右へ揺れていた。

 

「よーし。ここまで問題なし!」

 

ヴァレリアから依頼されていた試作品は順調に組み上がっていた。

 

細かな調整は残っているが、大きな問題は起きていない。この調子なら予定通り完成させられる。

 

あかりは作業台を離れ、部品を保管している棚へ向かった。

 

次の工程で使うのは、外部業者へ製造を依頼していた専用部品だ。

 

納品予定日は二週間前。管理端末でも納品済みになっている。

 

あとは保管場所から持ってくるだけ。

 

――のはずだった。

 

「あれ?」

 

指定された場所にない。

 

別の棚を確認する。

 

ない。

 

「あれれ?」

 

記録をもう一度確認する。

 

間違いなく納品済み。

 

念のため、近くで作業を手伝っていたボンプにも確認させる。

 

それでも見つからない。

 

最初は首を傾げていたあかりだったが、工房中を探しても出てこないとなれば話が変わってくる。

 

「……ない」

 

もう一度探す。

 

「ない!」

 

棚を開ける。

 

「なーい!」

 

ついに大きな尻尾がぶわっと膨らんだ。

 

「どこいったのー!?」

 

工房にあかりの声が響いた。

 

それからしばらく。

 

工具箱の中、保管棚、倉庫、作業台の下。

 

自分が間違えて別の場所へ置いた可能性まで考え、思いつく限りの場所を確認した。

 

だが、ない。

 

そこでようやく、あかりは「自分がなくした」という前提そのものを疑った。

 

納品記録を詳しく開く。

 

書類上では確かに届いている。

 

けれど――。

 

「……ん?」

 

工房側の搬入記録と照らし合わせる。

 

眉が寄った。

 

もう一度確認する。

 

「これ、おかしくない?」

 

あかりはすぐに脳内掲示板へ意識を向けた。

 

【転生者掲示板】

 

「ちびリス博士」

たすけて

 

部品が消えた

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

また爆発させた?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

させてない!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

じゃあ安心した

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

してる場合じゃないの!

 

CEOおねいの試作品に使うやつ!

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

は?

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

どの部品?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

例の専用部品

 

二週間前に届いてるはずの

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

は???

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

二段階認証やめろ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

書類だと納品済みなの!

 

でもどこ探してもない!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

搬入記録は確認したか?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

それ!

 

なんかおかしい!

 

執事おにい見て!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

確認する

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

私にも送って

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

送った!

 

あかりは必要な記録を掲示板経由で二人へ共有すると、落ち着かない様子で作業椅子へ座った。尻尾だけが忙しなく左右へ動いている。

 

ほどなくして、アルバートから返答が入った。

 

「機械執事」

納品されていないな

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

やっぱり!?

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

書類上は納品済み

 

だが物流記録と工房側の搬入記録が一致していない

 

少なくとも該当部品がここへ運ばれた形跡はない

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

確認してくる

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

あ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

社長モード入った

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

業者さん逃げてー!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

逃げた場合は余計に状況が悪化すると思うが

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

正論

 

それから数分。

 

今度はヴァレリアから書き込みが入った。

 

「シーホースCEO」

確認取れた

 

部品用意できてなかった

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

え

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

必要数を確保できなかったのを黙って

 

納品済みにしてた

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

ええええええ!?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

二週間?

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

二週間

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

アウト

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

はい取引終了

 

もう手配した

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

はっや

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

部品を確保できなかったから切るんじゃないわよ

 

ミスもトラブルもある

 

でも二週間前に言ってくれてれば

こっちも別の会社探せたの

 

それを納品しましたで隠す会社とは仕事できない

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

妥当だな

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

同感だ

 

失敗より隠蔽の方が厄介だからな

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

今日のCEOすごい社長っぽい

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

普段から社長よ!!

 

あかりは思わず笑いかけて――すぐに試作品を見た。

 

笑っている場合ではない。

 

問題の部品がなければ、この先の工程へ進めない。

 

そして納期は明後日だった。

 

「ちびリス博士」

どうしよう

 

納期明後日

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

終わったな

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

終わらせないで!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

あかり

 

今回そっちの責任じゃないからね

 

間に合わなくても問題なし

 

後の試験予定はこっちでずらす

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

でも間に合わせたい!

 

もうほとんどできてるもん!

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

……そう?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

それに方法あるよ!

 

部品は無理でも材料なら取れる!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

どこで?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

ホロウ!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

でしょうね

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

自分で行くと言い出したら止めるぞ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

行かないよ!

 

ボクだってそこまで無茶しないもん!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

だからパエトーンに依頼する!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

俺の出勤が決まった

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

副店長おにいよろしく!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

決めるのアキラなんだけど

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

報酬は私が出す

 

今回うちの案件だし

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

詳細を聞こう

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

チョロ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

未来の家計が俺を弱くする

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

例の貯金が消える話か

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

そうです先生

 

稼げる時に稼ぐ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

じゃあいっぱい払う!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

いい子だ

 

あかりの耳がぴんと立った。

 

これなら何とかなる。

 

材料さえ手に入れば、加工は自分でできる。必要量も採取地点も、現地で遭遇する可能性があるエーテリアスも、調べられる範囲では把握している。

 

何よりパエトーンなら、腕について心配する必要はない。

 

――あかりが本当はその正体まで知っていることを除けば。

 

「ちびリス博士」

今から依頼出すね!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

はいよ

 

こっちじゃ普通の依頼として通すぞ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

ボクも知らないふりする!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

できんの?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

できるもん!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

不安だ

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

不安ね

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

なんで!?

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

きっと大丈夫ですよ~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

師範おねいだけ優しい!!

 

◇

 

六分街、Random Play。

 

店の奥にあるスタッフルームでは、アキラとリンがインターノットへ投稿された依頼を確認していた。

 

「急ぎの素材回収か」

 

アキラが依頼文を上から読み進める。

 

指定されたホロウへ入り、特定の素材を必要量回収する。仕事の内容自体は珍しいものではないが、回収期限は本日中。緊急依頼ということもあって、提示されている報酬はかなり高い。

 

隣から画面を覗き込んでいたリンが、報酬額を見て目を丸くした。

 

「お兄ちゃん、これ結構よくない?」

 

「報酬はね。ただ、急いでいる理由は確認したいかな」

 

「依頼人は工房の経営者みたい。詳しい事情は直接会って説明するって」

 

「だったら、話を聞いてからかな」

 

アキラがそう答えたところで、スタッフルームへユウトが入ってきた。

 

「何見てんの?」

 

「新しい依頼」

 

リンが画面を示す。

 

「素材回収だって。かなり急ぎみたい」

 

「へえ」

 

もちろん、ユウトはその依頼が誰からのものなのか知っている。

 

だが、そんな様子は一切見せず、二人の後ろから画面を覗き込んだ。

 

そして。

 

「受けよう」

 

「早っ!」

 

リンが振り返った。

 

「絶対報酬しか見てないでしょ!」

 

「失礼な。依頼内容を総合的に判断した結果です」

 

「じゃあ何を採ってくるの?」

 

「…………」

 

「ユウト兄?」

 

「報酬が高い」

 

「そこしか見てないじゃん!」

 

アキラが小さく笑った。

 

「最近、本当に仕事熱心だよね」

 

「貯金は大事だからな」

 

「そんなに欲しいものでもあるの?」

 

リンに聞かれ、ユウトは真顔で答えた。

 

「安心できる未来」

 

「なんでそんなに切実なの?」

 

二人は知らない。

 

いずれ自分たちの貯金がまとめて吹き飛ぶことも、その後H.D.D.へ居座ることになるAIが洒落にならない電気代を叩き出すことも。

 

それを知っているユウトにとって、稼げる時に稼いでおくのは割と本気の問題だった。

 

「まあ、金の話は置いといて」

 

ユウトは画面へ目を戻した。

 

「アキラはどうする?」

 

「依頼人から話を聞くよ。素材そのものの危険性やホロウの状況を確認して、問題がなければ受ける」

 

「了解」

 

ユウトもそれ以上は何も言わなかった。

 

ただ、一つだけ気になることはある。

 

――あいつ、ちゃんと演技できるんだろうな。

 

先ほどの掲示板でのやり取りを思い出し、ユウトは内心で少しだけ笑った。

 

◇

 

指定された待ち合わせ場所へ到着すると、依頼人らしき少女はすぐに見つかった。

 

小柄なリスのシリオン。

 

その傍らには二体のボンプが控えている。

 

大きな尻尾を揺らして待っていた少女を見て、最初に反応したのはリンだった。

 

「あれ……?」

 

見覚えがある。

 

Random Playにも顔を出す常連客。

 

「え?」

 

リンが足を止める。

 

向こうも三人に気づいた。

 

一瞬、あかりの動きが止まった。

 

そして――。

 

「依頼人って、あかりちゃん!?」

 

「ええっ!?」

 

あかりが目を大きく見開く。

 

「アキラおにいとリンおねい!?」

 

そこまではよかった。

 

問題は次だった。

 

「二人がプロキシだったの!?」

 

「しーっ!」

 

リンが慌てて人差し指を口元へ立てる。

 

「あかりちゃん、声大きい!」

 

「あっ!」

 

あかりは両手で口を塞いだ。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

アキラも周囲を確認してから、少し困ったように笑った。

 

「驚くのは分かるけど、このことは秘密にしておいてくれる?」

 

「もちろん!」

 

あかりが何度も頷く。

 

「絶対誰にも言わない!」

 

その直後。

 

あかりの視線がユウトへ向いた。

 

目が合う。

 

「…………」

 

「…………」

 

ユウトは何も言わなかった。

 

だが、長年の付き合いがあるあかりには、その目だけで十分だった。

 

――盛ったなぁ。

 

あかりの頬が僅かに引きつる。

 

――しょうがないでしょ!

 

口には出さず、大きな尻尾だけがぶんっと動いた。

 

「そ、それにユウトおにいまでいるんだね!」

 

「いるよー」

 

「どうして?」

 

「俺、エージェントだから」

 

「ええっ!?」

 

二度目。

 

今度こそユウトの口元が僅かに緩んだ。

 

――それもやるのか。

 

あかりが恨めしそうにこちらを見る。

 

そんな二人の事情など知らないリンは、あかりの反応がおかしかったのか笑っていた。

 

「意外でしょ? ユウト兄、普段はあんな感じだけど結構強いんだよ」

 

「普段はあんな感じって何?」

 

「だって、暇になるとすぐソファで寝てるじゃん」

 

「客がいない時だけだろ」

 

「店番中に寝てること自体は否定しないんだ」

 

「ちゃんと仕事終わらせてから寝てますー」

 

「威張らないでよ」

 

アキラが苦笑しながら二人を止める。

 

「その話は後にしよう。まずは依頼について聞かせてもらってもいい?」

 

「あ、うん!」

 

あかりの表情も仕事のものへ変わった。

 

端末を操作し、今回必要としている素材の情報を表示する。

 

「欲しいのはこれ!」

 

画面に表示されたのは、特殊な鉱物状の素材だった。

 

「今作ってる機械の部品に使うの。本当は加工済みの部品が二週間前に届いてる予定だったんだけど……」

 

そこまで言って、あかりの耳がしゅんと伏せた。

 

「届いてなかったの」

 

「配送事故?」

 

アキラが尋ねる。

 

「違うの。業者さんが部品を用意できなかったのに、納品したことにしてたみたい」

 

「えぇ……」

 

リンの顔が引きつる。

 

「それ、二週間ずっと?」

 

「うん」

 

「二週間前に言ってくれれば、別のところへ頼めたのにね」

 

「CEOおねいも同じこと言ってた」

 

「あれ?」

 

リンが首を傾げる。

 

「CEOおねい?」

 

「あっ」

 

一瞬だけ、あかりが止まる。

 

「依頼してくれた会社の社長さん! 仲良くしてもらってるの!」

 

「そうなんだ」

 

何とか通った。

 

ユウトは黙って横を向いた。

 

今笑えば確実に怒られる。

 

アキラは素材の情報へ目を戻した。

 

「それで、加工済みの部品を今から調達するのは間に合わないから、材料を直接採ってくることにしたんだね」

 

「そう!」

 

あかりの耳が元気よく立つ。

 

「材料さえあれば、後はボクが作れるよ!」

 

「採取場所は?」

 

「調べてある!」

 

「必要量は?」

 

「これくらい!」

 

「エーテリアスの情報は?」

 

「分かってる範囲は全部まとめてきたよ!」

 

次々と資料が表示されていく。

 

普段の元気いっぱいな様子はそのままだが、仕事に関する準備には抜かりがない。

 

工房を預かる技術者として、自分の仕事に責任を持っているのだろう。

 

アキラも資料を一つずつ確認していく。

 

「この情報が正しければ、僕たちでも対応できそうだね」

 

「で」

 

ユウトが横から口を挟んだ。

 

「納期は?」

 

「…………」

 

あかりが固まる。

 

「おい」

 

「……明後日」

 

「近っ」

 

「だから急いでるのー!」

 

大きな尻尾が再び膨らんだ。

 

リンが苦笑する。

 

「それなら確かに今日中に欲しいね。でも、あかりちゃん自身はホロウに入らないんだよね?」

 

「入らないよ!」

 

即答だった。

 

「この子たちもいるけど、ボクが行くよりプロにお願いした方がいいもん!」

 

隣の二体のボンプも胸を張るような仕草をする。

 

「正解」

 

ユウトも頷いた。

 

「素材欲しさに自分でホロウへ突っ込むとか言い出したら、全力で止めるからな」

 

「分かってるもん!」

 

「ならよし」

 

アキラは最後にもう一度、採取地点と周辺情報を確認した。

 

依頼人が知り合いだからといって、仕事の判断を甘くするつもりはない。

 

情報上の危険度、必要な移動距離、想定されるエーテリアス。

 

一つずつ確認し、問題がないと判断する。

 

「分かった」

 

アキラが端末を閉じる。

 

「この依頼、パエトーンが引き受けるよ」

 

「ほんと!?」

 

あかりの顔がぱっと明るくなった。

 

「ただし一つだけ。実際にホロウへ入って、事前情報と状況が大きく違っていた場合は安全を優先する。それでもいい?」

 

「もちろん!」

 

迷いのない返事だった。

 

「無理して誰かが怪我する方が嫌だもん!」

 

「なら決まりだね」

 

リンも笑う。

 

「任せて、あかりちゃん」

 

「ありがとう!」

 

あかりは嬉しそうに二人を見る。

 

「よろしくお願いします、パエトーン!」

 

そして最後にユウトへ顔を向けた。

 

「ユウトおにいもよろしくね!」

 

「はいよ」

 

ユウトは軽く手を上げる。

 

「報酬分はきっちり働きますよっと」

 

「またお金の話してる……」

 

「金は大事だぞ、リン」

 

「分かったから」

 

「本当に大事なんだぞ?」

 

「はいはい」

 

アキラは二人のやり取りを聞きながら小さく笑い、これから向かうホロウの情報を端末へ移した。

 

「それじゃあ、一度店に戻って準備しよう」

 

「了解」

 

三人が歩き出す。

 

「お願いねー!」

 

背後から、あかりの元気な声が飛んできた。

 

振り返ったリンが手を振り返す。

 

やがて三人の姿が見えなくなると、あかりは再び脳内掲示板へ意識を向けた。

 

【転生者掲示板】

 

「ちびリス博士」

副店長おにい

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

なに

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

さっき笑ったでしょ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

笑ってないよ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

嘘!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

「二人がプロキシだったの!?」

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

やめてえええええ!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

草

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

懸念は正しかったな

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

執事おにいまで!

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

私は可愛らしかったと思いますよ~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

師範おねいだけ優しい!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

知ってる相手に

初めて知ったふりをするんだ

 

多少不自然になるのは仕方ないだろ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

医者おにも優しい!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

甘やかすな先生

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

別に甘やかしてない

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

次までに演技指導いる?

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

いらない!!

 

ホロウへ向かう準備のためRandom Playへ戻る途中、ユウトは脳内掲示板へ流れてきたやり取りに、小さく吹き出した。

 

「ユウト?」

 

隣を歩いていたアキラが振り返る。

 

「どうしたの?」

 

「いや、ちょっと面白いことがあってさ」

 

「何それ。私にも教えてよ」

 

「身内ネタだからダメ」

 

「余計気になるんだけど」

 

リンに食い下がられながらも、ユウトはそれ以上答えなかった。

 

これ以上いじると、あかりが本気で怒りそうだ。

 

それより今は依頼である。

 

必要な素材を回収して帰る。

 

ただそれだけ。

 

――なら楽なのだが。

 

「素材を採って帰るだけ、ねぇ……」

 

何気なく漏らした声に、リンがぴたりと止まった。

 

「ユウト兄」

 

「ん?」

 

「そういう言い方やめて」

 

「なんで?」

 

「何か起こりそうだから」

 

「失礼な。俺は依頼内容を確認しただけだぞ」

 

リンはアキラを見る。

 

「お兄ちゃんも何か言って」

 

「僕もリンに同意かな」

 

「アキラまで?」

 

「ユウト、そういうこと言った時に限って何か起きるから」

 

「俺に対する信用どうなってんの?」

 

「信用してるから言ってるんだよ」

 

「それ絶対違う意味の信用だろ」

 

三人のやり取りは、六分街の雑踏へ紛れていく。

 

まだこの時点では、あかりから頼まれた素材を回収するだけの依頼。

 

だが、彼女が求めている素材を狙っているのは彼らだけではなかった。

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