転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
同期による疲れも多少は抜け、アキラは再びスタッフルームへ戻っていた。
リンと共に猫又の帰りを待っていた、そのときだった。
1階から物音が聞こえ、続いて階段を上がってくる足音がする。
「たっだいまー……」
「猫又!」
聞き慣れた声に、リンが真っ先に立ち上がった。
階段から姿を見せた猫又は無事だった。ただ、さすがに疲れているらしく、普段ほど声に勢いがない。
「いや~、参った参った。あたしのキャロットに出てきた出口、すっごく遠かったんだよ。戻るのにこんな時間かかっちゃった」
「怪我は?」
「へーきへーき。あたしを誰だと思ってるの?」
そう言って笑ってみせる猫又を見て、アキラもひとまず安堵する。走行中の列車に残してきた以上、キャロットがあるとは分かっていても心配がなかったわけではない。
だが、猫又はすぐに表情を曇らせた。
「それより……ニュース見たよ。爆破解体、延期になったんだってね」
「ああ」
「でも、中止じゃない」
猫又の耳が伏せられる。
「ニコたちは、まだあそこにいる」
アキラはしばらく猫又を見つめた。
自分を助けてくれたことには感謝している。それでも、彼女が何かを隠しているという疑念まで消えたわけではない。
「猫又」
「ん?」
「僕たちに、まだ話してないことがあるよね」
猫又の表情が止まった。
リンも兄の隣から彼女を見る。
「私もそう思う。今回のこと、変なところが多すぎるよ」
「…………」
しばらく黙っていた猫又は、やがて小さく息を吐いた。
「……うん。隠してることはある」
だが、そこで全てを話そうとはしなかった。
「その前に、見てほしいものがあるんだ」
猫又が示したのは、ニコのボンプに残されていた映像記録だった。
「これを最後まで見て。それから……あたしのことを信用できるか決めてほしい」
アキラとリンは顔を見合わせ、やがてアキラが頷いた。
「分かった」
◇
映像に記録されていたのは、邪兎屋と猫又がデッドエンドホロウへ入ってから、カンバス通りへ辿り着くまでの出来事だった。
少女を追ううちにデッドエンドブッチャーと遭遇し、混乱の中で空間の裂け目へ飛び込んだこと。その先で、すでに避難を終えているはずのカンバス通りに100人を超える住民が取り残されているのを発見したこと。
そして、アキラたちにとって何より重要だったのは、その後の記録だった。
カンバス通りでは長い間、外部との通信が途絶えていた。
住民たちは治安官を名乗る者から、避難に使うはずだった経路が使えなくなったと説明され、準備が整えば列車で迎えに来ると告げられていたという。
しかし、その話はどうにも不自然だった。
住民たちの避難が完了したことになっている一方で、実際には100人を超える人々が取り残されている。外部との通信は遮断され、助けを求めることもできない。そのうえ、彼らの前に現れた治安官を名乗る者たちは、列車での迎えを約束していた。
映像の最後では、ニコたちも状況への疑念を深めていた。それでも目の前の住民を放置することはできず、邪兎屋はカンバス通りに残ることを決め、猫又をパエトーンのもとへ向かわせている。
そこで映像は終わった。
「……だから、猫又が戻ってきたんだ」
リンが小さく呟く。
アキラの頭の中では、列車で見聞きしたことと、今の映像が繋がり始めていた。
無人のはずの列車にいた、治安官を装っているらしい武装した人間たち。彼らが口にしたパールマン。そして、カンバス通りの住民に「列車で迎えに来る」と告げた治安官を名乗る者たち。
「……同じ連中なのかな」
「少なくとも、無関係とは思えないよ」
リンの声も硬い。
さらに、あの列車が予定された経路から外れた直後、ヴィジョンの爆破解体は延期された。だが、それでカンバス通りの住民が助かったわけではない。
「もし全部ヴィジョン側の指示なら……最初から、住民をまともに避難させるつもりがなかった?」
『その可能性は否定できません』
Fairyが答える。
『現時点で断定はできませんが、これまでに得られた情報との間には複数の整合点があります』
猫又がまだ何かを隠していること自体は変わらない。それでも、今優先すべきことははっきりしていた。
「助けよう」
アキラが言った。
「ニコたちも、カンバス通りのみんなも」
「うん」
リンも迷わず頷いた。
◇
一方、カンバス通りでは、ユウトたちが進めていた住民の状態確認もようやく一段落していた。
「確認できた」
戻ってきたアンビーが、ニコとユウトへ報告する。
「病人がいる。それと、自力で長距離を移動するのが難しい人も複数。避難する場合は補助が必要」
「了解。助かった」
ユウトは頷いた。
「……病人の方はどうする?」
ニコが尋ねる。
「ここ、外と連絡がつかないのよ。無事に出られても、それから病院を探してたんじゃ時間がかかるわ」
「そこは心当たりがある」
「心当たり?」
「知り合いに医者がいるんだ。腕もいいし、医療関係の伝手もある。事情が伝われば、近くの病院に掛け合ってすぐ動いてくれるかもしれない」
ユウトは住民たちへ視線を向ける。
「だから今のうちに、病人と自力で動くのが難しい人の人数と状態をまとめとこう。外へ出た後の話が早くなる」
「それなら助かるわね。アンビー、お願いできる?」
「了解」
「俺様も手伝うぜ!」
「じゃあビリーは向こうをお願い」
「任せとけ!」
2人が動き出したところで、ユウトも住民たちの方へ歩きながら、意識を脳内の掲示板へ向けた。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
エドワード
確認取れた
病人と自力で長距離移動が難しい人が複数いる
詳しい人数と状態は今まとめてもらってる
ーーーーーーーーーー
「半々医者」
了解した
それならこっちで先に動いておく
近隣の病院に事情を説明して
受け入れ可能か確認してみる
人数と状態が分かったら送ってくれ
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
助かる
頼んだ
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
必要なら俺も手を回す
こっちはまだ仕事中だが
確認程度ならできる
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
今はエドワードに任せる
必要になったら頼むわ
そこでユウトは掲示板から意識を戻した。
エドワードが外側から受け入れ先を探してくれるなら、脱出した後の負担はかなり減らせる。
後は、肝心の脱出手段だった。
◇
Random Playでは、アキラとリンが100人を超える住民をどうやって救出するか考えていた。
映像を見る限り、カンバス通りには老人や病人もいる。全員をホロウの中へ歩かせて脱出させるのは、あまりにも危険だった。
そこでアキラの頭に浮かんだのは、この前自分が乗り込んだものだった。
「……列車」
「え?」
「ヴィジョンの列車を使えないかな」
リンが目を瞬く。
「あれを?」
「うん。こっちで確保できれば、100人以上でもまとめて運べる」
『合理的な案です』
Fairyがすぐに応じた。
『実現可能であれば、徒歩による集団移動より輸送効率は大幅に向上します』
「つまり……ヴィジョンの列車を奪う?」
「そうなるね」
「お兄ちゃん、さらっとすごいこと言ってるよ?」
「僕もそう思う」
だが、他にこの人数を一度に運べる手段は思いつかない。
方針が決まると、リンはノックノックを開いてレイへ連絡した。
猫又が持ち帰った映像から、カンバス通りに100人を超える住民が取り残されていることが分かったこと。そして、自分たちはヴィジョンの列車を利用して彼らを救出するつもりであること。
事情を伝えると、ほどなくして返事が届いた。
『分かった。私も行くわ。合流場所を教えて』
「……来るって」
「だと思った」
「お兄ちゃんも?」
「なんとなくね」
◇
出発の準備が整うと、猫又がイアスを抱え上げた。
「それじゃ、イアスはあたしが連れてくね!」
「お願い」
「任せて!」
アキラはまだイアスへ同期していない。リンとともにRandom Playに残り、H.D.D.へ入る準備を進める間に、猫又がイアスを連れて先に出発する。
指定した場所には、すでにレイが待っていた。
「お待たせー!」
「大丈夫。それほど待ってないわ」
レイの視線が、猫又の腕の中にいるイアスへ向く。
「このままホロウへ?」
「うん。入口の近くまでね」
「分かったわ」
猫又とレイは、そのままデッドエンドホロウの侵入地点へ向かった。
◇
その頃、Random PlayのH.D.D.。
アキラは装置へ身体を預け、イアスとの同期を開始した。
視界が切り替わる。
次にアキラが目にしたのは、デッドエンドホロウの入口と、その傍らに立つ猫又とレイだった。
「――聞こえる?」
イアスを通してアキラが声をかける。
「ええ。聞こえてるわ」
『こっちも問題なし。同期は安定してるよ、お兄ちゃん』
リンの声も続く。
「了解」
これで準備は整った。
「レイさん。ここから先は、この前より危険になる。それでもいい?」
「ええ。ここまで見ておいて、何もしないで帰るのは違うでしょう」
『分かった。でも、列車を奪うなら、あの治安官の格好をした人たちとまたぶつかるかもしれないよ。無茶だけはしないでね』
「それはあなたたちもでしょう?」
『それを言われると弱いなぁ……』
リンの声に、レイが小さく笑った。
「話はまとまった?」
横で待っていた猫又が尻尾を揺らす。
「だったら行こ! ニコたちが待ってるよ!」
「ああ。行こう」
◇
イアスを先頭に、猫又とレイがデッドエンドホロウへ足を踏み入れた。
目的地は最初からカンバス通りだ。ただし、ホロウの内部構造は刻一刻と変化している。前に通った道をそのまま辿れるわけではない。
『前方の経路に変動を確認。右側の通路を推奨します』
「右へ行こう」
「りょーかい!」
猫又がすぐに続き、レイも遅れずその後を追った。
途中で経路が変われば、その都度Fairyが新しい道を割り出す。アキラは送られてきた情報をもとにイアスを動かし、2人へ進路を伝えた。
進路を塞ぐエーテリアスだけを手早く排除し、不要な戦闘は避ける。
そうして一行は空間の裂け目を抜け、カンバス通りへ戻ってきた。
「お、来たか」
「ユウト!」
アキラの声に、待っていたユウトが片手を上げる。
「無事に戻ってきたみたいだな」
「そっちもね」
「まあ、こっちは見ての通りだ」
その声を聞きつけ、ニコたちもこちらへやって来た。
「プロキシ!」
「待ってたぜ!」
「ビリー。声が大きい」
「再会なんだからこれくらい普通だろ、アンビー!」
アキラはまずユウトへ声をかけた。
「ユウト、住民の方は?」
「確認した。病人がいるのと、自力で長距離を移動するのが難しい人が何人かいる。避難させるなら補助が必要だ」
「やっぱりそうか……」
「外へ出した後については、知り合いの医者が近くの病院に受け入れを掛け合ってくれてる。まだ確定じゃないけど、そっちは任せていい」
「分かった。ありがとう」
その後、住民たちから改めて事情を聞く中で、カンバス通りと赤牙組の関係についても少しずつ分かってきた。
かつて赤牙組がこの辺りで勢力を広げていたこと。そして、猫又が慕っていたシルバーヘッドの死についても、彼女がこれまで信じていたものとは違う事実があったこと。
話を聞いた猫又は、しばらく何も言わなかった。
アキラも無理に声をかけない。
彼女が何を隠しているのかは、まだ全て分かったわけではない。だが今は、それよりも先に助けなければならない人たちがいる。
アキラはニコたちへ向き直った。
「みんなをここから出す方法を考えてきた」
「本当に?」
「ヴィジョンの列車を使う」
一瞬、ニコが目を丸くした。
「……列車?」
「うん。あれをこっちで確保して、住民を乗せる」
ニコはすぐに意図を理解したらしい。
「なるほど……あれならこの人数でもまとめて運べる」
「いいじゃねえか!」
ビリーが勢いよく拳を握った。
「悪党の列車を奪ってみんなを救出! 最高にスターライトナイトっぽい作戦だぜ!」
「列車を奪うのは一般的なヒーローの行動ではない」
「目的が正義ならセーフだろ!?」
「法的にはたぶんアウト」
「アンビーちゃん!?」
「ヴィジョンに文句を言われたら後で考えるわ」
ニコがあっさり切り捨てる。
「今はここの人たちを助ける方が先よ」
「俺も異論なし」
ユウトも頷く。
「病人や移動が難しい人がいる以上、まとめて運べるならその方がいい。俺は現場で必要な方に回る」
「ああ。頼むよ、ユウト」
「任せとけ」
方針が決まれば、後は動くだけだった。
◇
カンバス通りでは、住民たちの避難準備が始まった。
アンビーたちが集めていた委任状をニコが確認し、病人や自力での移動が難しい者には優先して付き添いをつける。
「無理に急がせんなよ。歩ける人間が歩けない人を支えてくれ。荷物は最低限でいい」
「分かったよ。あんたたちも気をつけるんだよ」
「ああ」
住民たちに見送られ、アキラたちはヴィジョンの監視拠点へ向かった。
時間をかける余裕はない。
Fairyが変化するホロウ内部を解析し、その情報を受け取ったアキラが一行を導く。進路を塞ぐエーテリアスはアンビー、ビリー、猫又が手早く排除し、数が増えればユウトとレイも加わる。
やがて前方に線路が見え、その先に目的の列車が姿を現した。
そして、その近くにはヴィジョンの人間たちがいる。
「いたわね」
ニコが足を止める。
警備の中心にいる小太りの男。
アキラには、その名前に心当たりがあった。
「……あれが、パールマン?」
「みたいね」
ヴィジョンコーポレーションの社長――パールマン。
カンバス通りの爆破解体を請け負った企業、そのトップが目の前にいた。
「だったら、列車も本人もまとめて押さえるわよ」
ニコの言葉に、アンビーが静かに武器を構える。
「了解」
「へへっ、そうこなくっちゃ!」
ビリーも銃を抜き、猫又が低く身構えた。
「正面は任せる」
ユウトが周囲へ視線を走らせる。
「回り込んでくる奴がいたら俺が止める」
「なら、私は反対側を見るわ」
レイも武器へ手を添えた。
「よし。行くわよ!」
ニコの合図と同時に、邪兎屋が正面から動いた。
◇
ヴィジョン側にとっては完全な不意打ちだった。
アンビーが正面の警備を崩し、ビリーの射撃が反撃の手を封じる。その隙間を縫って猫又が一気に奥へ駆け抜けた。
左右へ展開しようとした者たちも、今回は自由に動けない。片側にはユウトが、もう一方にはレイが回っている。
正面を邪兎屋に押し切られ、側面から立て直す余地まで奪われれば、ヴィジョン側に態勢を整える時間はなかった。
「な、何だ貴様らは!」
混乱の中でパールマンが叫ぶ。
だが、その頃には猫又がすぐ近くまで迫っていた。
「逃がさないよ!」
「ひっ!」
パールマンが慌てて後ずさる。
そのまま逃げようとした先には、いつの間にかニコが回り込んでいた。
「残念。そっちは通行止めよ」
「き、貴様ら……!」
周囲の警備が次々と無力化されていく。
アンビーとビリーはそのまま列車へ向かい、猫又はパールマンから目を離さない。
やがて運転室を確認したアンビーが顔を出した。
「ニコ。列車は動かせる」
「こっちも問題なしだぜ!」
「よし!」
ニコが笑みを浮かべる。
列車は確保した。
後はカンバス通りの住民たちを乗せ、ここから運び出せばいい。
その意図に気づいたのか、パールマンの顔色が変わった。
「ま、待て……まさか貴様ら、この列車であのスラムの連中を外へ出すつもりか!?」
ニコの笑みが消えた。
「……やっぱり知ってたのね」
「っ……!」
パールマン自身も、自分が口を滑らせたことに気づいたらしい。
「ち、違う! 今のは――」
「もう遅いわよ」
猫又の耳が伏せられる。
パールマンはなおも何か言い繕おうとしたが、追い詰められた焦りがそれを上回った。
「させんぞ! あいつらが外へ出て余計なことを喋れば、私もヴィジョンコーポレーションも終わりだ!」
今度こそ、誰も聞き間違えようがなかった。
ニコは呆れたようにパールマンを見る。
「……自分で言っちゃったわね」
「なっ――」
その時だった。
『お兄ちゃん、待って』
リンの声が急に硬くなる。
『Fairyが異常を検出した』
直後、遠くから鈍い爆発音が響いた。
足元まで伝わる振動に、全員が反射的に音のした方を見る。
「何だ!?」
ビリーが列車から顔を出す。
『警告。予定していた走行経路上で線路の損壊を確認しました』
「線路が?」
『はい。爆発によるものと推定されます。この状態では、列車を新エリー都側へ走行させることはできません』
アキラは一瞬言葉を失った。
「……線路が壊された」
「何ですって!?」
ニコが振り返る。
その直後、遠くから1人のヴィジョンの構成員が慌てた様子で駆け込んできた。
「パ、パールマン長官!」
「何だ!?」
「新エリー都へ続く線路を爆破しました! これで侵入者どもが列車を奪っても、スラムの連中を外へ運ぶことは――」
「ばっ……馬鹿者ォォォッ!」
突然の怒鳴り声に、報告へ来た男が固まった。
「な、何を……?」
「線路を爆破するのは我々が撤退してからだ! 今壊してどうする!」
パールマンは拘束されていることすら忘れたように喚き散らす。
「これではあいつらだけでなく、我々までここから出られんではないか!」
「え……」
報告に来た男の顔から血の気が引いた。
「……なあ、今の聞き間違いじゃねえよな?」
ビリーが呆然とする。
「残念ながら、聞き間違いではない」
アンビーも淡々と返した。
「列車があっても、線路がなければ住民を運び出せない」
「ああもう! あとちょっとだったのに!」
ニコが額を押さえる。
さらに周囲から複数の足音が聞こえ始めた。
「増援」
アンビーが即座に反応する。
「複数方向から接近してる」
「分かってる! とりあえず列車の中! パールマンも連れてくわよ!」
「な、何をする! 私を離せ!」
「はいはい、暴れない!」
「ぐえっ!?」
猫又に引っ張られ、パールマンが列車へ連行されていく。
「ユウト!」
「あいよ。先に入ってろ」
ユウトが最後尾へ回り、迫ってくるヴィジョンの構成員を牽制する。
「レイも!」
「分かったわ!」
レイも猫又たちに続いた。
イアスを列車へ走らせながら、アキラはFairyから送られてくる情報を確認する。
線路の損壊は間違いない。
住民たちを運ぶための列車は手に入れた。だが、その列車を新エリー都へ走らせる道そのものが失われている。
しかもヴィジョン側まで、自分たちの退路を断ってしまった。
最後にユウトが飛び込み、扉が閉まる。
外の銃声が遠ざかった。
「……最悪ね」
ニコが吐き捨てる。
「せっかく列車を奪ったのに、これじゃ住民を運べないじゃない」
「線路が無けりゃ、さすがの俺様でも列車は走らせられねえぜ……」
「当然」
「アンビーちゃん、そこは慰めてくれてもよくない?」
いつものようなやり取りにも、今は誰も笑わなかった。
ユウトは窓の外を確認し、レイも黙ったまま考え込んでいる。パールマンだけが青ざめた顔で何事か呟いていた。
その中で。
「……へへっ」
小さな笑い声が聞こえた。
「……猫又?」
ビリーが振り返る。
猫又は俯いていた。
笑っているはずなのに、その顔にいつもの明るさはない。
「おいおい。こんな時によく笑ってられるな」
「……違うよ」
猫又がゆっくり顔を上げる。
「あんたのこと笑ったわけじゃない」
その声を聞いた瞬間、アキラは何かが変わったことを感じた。
猫又がずっと隠してきたもの。
映像を見る前に、彼女自身が認めた秘密。
それらを今、ようやく口にしようとしている。
列車を奪うことには成功した。
だが、新エリー都へ続く線路は失われた。
退路を断たれた列車の中で、猫又は静かに口を開いた。