転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
白祇重工から正式に依頼を引き受けたパエトーンは、行方不明になった3台の知能重機を探すため、彼らと協力してホロウの調査を始めた。
最初に手掛かりが掴めていたのは、ホロウ用の大型デュアルショベルだった。
同行するのはアンドー。アキラがイアスを介してルートを示し、その後ろをアンドーとユウトが進んでいく。途中でエーテリアスに行く手を阻まれることもあったが、日頃から白祇重工の現場でホロウへ入っているアンドーにとって、その程度は大きな障害にはならない。
「行くぞ、兄弟!」
アンドーが踏み込み、唸りを上げるドリルが正面のエーテリアスを打ち据える。そこへ横から迫った別の個体を、ユウトが抜いた忍者刀で受け流した。
大きく体勢を崩したところへアンドーが追撃を叩き込み、敵はそのまま地面へ沈む。
「ナイスだぜ、兄弟!」
「そっちもな。……ところで、その兄弟って俺も入ってんの?」
「もちろんだ!」
「いつの間に」
『諦めた方がいいと思うよ、ユウト』
通信越しのアキラにまで言われ、ユウトは肩を竦めた。
そうして奥へ進んだ先で、一行は探していた大型デュアルショベルを発見した。
もっとも、見つければそれで終わりというわけではなかった。
長くホロウ内にいた影響なのか、論理コアに異常が起きているらしく、こちらの呼び掛けにもまともに応じない。
そこで前へ出たのがアンドーだった。
「よぉ、兄弟! こんなところで何してんだ!」
「……お前、重機にも兄弟って言うのか」
「当たり前だろ!」
何が当たり前なのかは分からない。
だが、アンドーは本気だった。
機械相手だからと態度を変えることもなく、正面から話しかけ、時には張り合い、いつの間にか勝負のような流れにまで持ち込んでいる。
ユウトは少し離れた場所から、その光景を眺めていた。
『……あれでいいのかな』
「俺に聞くなよ」
アキラの疑問に返している間にも、アンドーとデュアルショベルの間では何かが通じたらしい。
最終的に機体は抵抗をやめた。
後にハンスと呼ばれるその知能重機は、アンドーと妙な友情を築いたまま、白祇重工へ回収されることになった。
◇
続いて捜索することになったのは、III型ホロウ用工業デモリッシャー。
今度はグレースが同行した。
「この子の信号は、最後にこの辺りで途切れてる。もう少し奥まで行けば、何か残ってるかもしれないね」
『分かった。周辺の安全なルートを探してみるよ』
イアスを介してアキラが答える。
グレースは端末を操作しながら歩き、周囲に残された僅かな痕跡を拾っていく。
その途中で、ふと視線がイアスへ向いた。
「ところでさ」
『うん?』
「その子、ちょっと中を見せてもらえない?」
『え?』
イアスがぴたりと止まった。
「いやあ、前から気になってたんだよね。そのサイズでこれだけ複雑な操作ができるなら、内部構造がどうなってるのか――」
グレースが一歩近づく。
イアスが一歩下がる。
「少し開けて見るだけだから」
『ユウト』
「俺を盾にすんな」
そう言いながらも、ユウトはイアスとグレースの間へ入った。
「駄目」
「まだ何もしてないよ?」
「これからする気満々だったろ」
「残念だなぁ」
本気で残念そうに言うグレースからイアスを離し、捜索を再開する。
ほどなくして見つかったデモリッシャーも、やはり様子がおかしかった。
ただし、ハンスとは方向性が違う。
何やら妙に感情豊かで、まるで恋する乙女のような反応を見せている。
「……知能重機って、こうなるものなのか?」
『僕に聞かれても困るよ』
ユウトとアキラが揃って困惑する横で、グレースだけは目を輝かせていた。
「面白いねぇ。論理コアの変化で、ここまで個性が出るなんて」
「研究対象を見る目になってない?」
「もちろん大事な子だよ?」
「否定しないんだな」
その後、グレースが機体の状態を確認しながら慎重に接触したことで、デモリッシャーも無事に回収された。
グレーテル。
これで、行方不明になっていた3台のうち2台が見つかったことになる。
◇
その後、少し時間が経った。
最後の1台については、まだ決定的な手掛かりがない。
白祇重工が情報を集めている間、ユウトは一度意識を脳内の掲示板へ向けた。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
とりあえず2台回収
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
どうだったー!?
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
だいぶ原作通り
片方はアンドーと意気投合して
もう片方は恋する乙女になってた
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
順調におかしくなってるわね
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
知能重機に対する感想として
それでいいのか?
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
実物見たら同じこと言うと思うぞ
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
いいなー!
ボクも見たい!
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
仕事でホロウ入ってんの
見学ツアーじゃないの
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
ぶー
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
ちびリス博士
あなた明日も白祇重工で
設備確認あるでしょう
そっちの仕事をちゃんとしなさい
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
はーい!
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
で
残り1台
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
フライデーか
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
まだ手掛かり待ち
ただまあ
ここまで来たら
次もほぼ予定通りだろうな
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
問題はその先ね
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
ああ
プロトタイプまでは
こっちも想定して動く
サクリファイスまで考えるのは
まだ早い
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
同意する
原作通りに進む保証もない
現場で確認できた情報を優先しよう
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
了解
そこで書き込みを終え、ユウトは現実へ意識を戻した。
最後に残ったのは、工業用パイルドライバー――フライデー。
そして翌日。
ようやくベンから、フライデーの手掛かりを掴んだという連絡が入った。
◇
再びホロウへ入った一行は、ベンが見つけた情報を頼りに奥へ進んでいた。
イアスを通してアキラがルートを確認し、クレタたちがフライデーの残した痕跡を探していく。
そんな中、ユウトは足を止めた。
「……ん?」
『どうした、ユウト?』
「これ」
足元を指す。
埃の積もった地面に、細かな跡が残っている。
大型重機が通った痕跡とは明らかに違う。
「誰か歩いてるな」
「作業員か?」
ベンが近づいてくる。
「いや、それにしちゃ小さい」
しかも1人ではない。
もう1人分の足跡も、その近くに残っている。
「こんな奥まで?」
クレタが眉を寄せた。
ユウトも嫌な予感を覚えながら、痕跡の先へ視線を向ける。
「一応、確認した方がいいな」
『僕もそう思う。フライデーの痕跡から大きく外れるわけじゃない。少し追ってみよう』
一行は進路を僅かに変えた。
そして、しばらく進んだところで――。
「だから、こっちに続いてるって!」
「ちょっと、あかり。待って。これ以上先まで行くのは――」
聞き覚えのある声がした。
ユウトの足が止まる。
「……は?」
曲がり角の向こうから、小さな人影が姿を現した。
大きな尻尾。
見慣れた工具類。
その後ろにはツイッギー。
「あっ!」
こちらに気づいたあかりの耳がぴんと立った。
「ユウトおにい!」
「…………」
あかりが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「聞いて聞いて! ボク、知能重機が通った跡見つけたんだよ! たぶんまだこの先に――」
「あかり」
「なに?」
ユウトは笑った。
「なんでお前がここにいるのかな?」
あかりの耳が、ゆっくり下がった。
「……えっと」
後ろから来たツイッギーも、気まずそうに視線を逸らす。
「今回は私に助けを求めても無駄。途中から私も止めるのを忘れてたんだから、一緒に怒られるしかないわ」
「ツイッギー!?」
「だって事実でしょう?」
ユウトは2人を順番に見る。
「説明」
「えっとね……」
あかりが指を合わせた。
「今日は白祇重工で設備確認のお仕事があったでしょ?」
「ああ」
「それで、せっかくだから実際に重機が動いてるところも見たいなーって……」
「元はと言えば、あかりがどうしても白祇重工の重機が実際に動いてるところを見たいって言ったからでしょう?」
ツイッギーが横から補足する。
「だって見たかったんだもん……」
「気持ちは分かるけどね。私も途中から痕跡の方が気になっちゃったし」
「それで?」
ユウトが促す。
ツイッギーは少し申し訳なさそうに続けた。
「白祇重工の作業員が、知能重機が1台まだ見つかってないって話してるのが聞こえたの。それで、あかりが近くに残ってた痕跡を見つけて……」
「追いかけた?」
「……うん」
あかりが小さく頷く。
「最初はちょっと見るだけのつもりだったんだよ?」
「それでここまで来たと」
「……はい」
普段のあかりなら、必要もないのに自分からホロウの奥へ入ろうとはしない。
だからこそ、今回は余程実物を見たかったのだろう。
とはいえ、それで見逃していい話でもない。
「キャロットは?」
「……」
あかりが固まった。
ツイッギーも黙る。
「持ってないの?」
「……ないです」
「じゃあ帰りどうするつもりだったんだよ」
「来た道を戻れば……?」
「それで確実に帰れるなら、プロキシなんて仕事は必要ないの」
『ホロウの内部構造は変化するからね。同じ道を戻れば外へ出られるとは限らないよ』
アキラがイアスを通して説明する。
あかりの尻尾までしゅんと下がった。
「……ごめんなさい」
「私も悪いわ。止める立場だったのに、途中から一緒になって追ってたから」
ツイッギーも素直に認める。
ユウトは2人を見て、ため息を吐いた。
「次からは絶対、帰る方法も考えずにホロウへ入るなよ」
「はい……」
「分かったわ」
「ツイッギーも頼むぞ」
「次はちゃんと止めるわ」
「お前も途中から夢中になるなよ」
「……努力するわ」
「そこは断言してくれ」
思わずユウトが返す。
少し離れたところでは、クレタが呆れた顔でこちらを見ていた。
「お前ら、ずいぶん仲いいんだな……」
「長い付き合いだからな。だから余計に怒ってんの」
その一方で、グレースはすでに別のことへ興味を移していた。
「あかり。さっき言ってた痕跡、見せてくれる?」
「いいよ!」
先ほどまで垂れていた耳が、あっという間に持ち上がる。
「ここ! 最初は普通に走ってる感じなんだけど、この辺から接地の仕方が変わってるの。それと――」
あかりが地面を指差す。
グレースも隣へしゃがみ込んだ。
「なるほど……確かに妙だね」
「でしょ!?」
「お前、立ち直るの早いな」
「反省はしてるもん!」
振り返ったあかりが頬を膨らませる。
グレースはそんな2人のやり取りを横目に笑いながら、改めて痕跡を確認した。
あかりと白祇重工の付き合いは今日始まったものではない。工房の技術力も、あかり自身が機械を見る目も、グレースたちは以前から知っている。
「だったら、せっかくだし手伝ってもらおうか」
「いいの!?」
「ああ。フライデーを早く見つけたいのはこっちも同じだからね。ここまで痕跡を追ってきたなら、あかりの目も借りたい」
「やるー!」
即答だった。
クレタも少し考えた後、頷いた。
「まあ、ここから勝手に帰らせるわけにもいかねえしな。パエトーンの案内があるなら、別行動するより一緒にいた方が安全だ」
「ただし条件付きな」
ユウトがすぐに続ける。
「あかりは勝手に離れない。ツイッギーも一緒。移動はアキラの指示に従う。俺か白祇重工の誰かが止まれって言ったら止まる。いいな?」
「はーい!」
「分かったわ」
『それなら僕も2人が増えた前提でルートを調整するよ』
こうして、予定にはなかった2人が捜索へ加わることになった。
移動を再開して間もなく、ユウトはもう一度掲示板へ意識を向ける。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
フライデー捜索中
迷子2人拾った
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
迷子?
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
迷子じゃないもん!
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
本人が出てきたな
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
ちびリス博士?
あなた今どこにいるの?
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「ちびリス博士」
えっと
ホロウ
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
は?
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
何故そうなった
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
白祇重工のお仕事で行って
知能重機の跡見つけて
ちょっと追いかけたら
奥まで来ちゃった
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
ちょっと
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
ちょっとで済む距離じゃないでしょう!?
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
ツイッギーも一緒だよ!
ーーーーーーーーーー
「機械執事」
そういう問題ではない
だが今回は副店長に
しっかり叱られておけ
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
もう叱られたもん……
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「ビデオ屋副店長(仮)」
ツイッギーも一緒に反省済み
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
……帰ってきたら
詳しく聞かせてもらうわ
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
えっ
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
副店長おにい!
なんで掲示板に書いたのー!
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
昨日あれだけ
見たい見たい言ってた奴が
本当にホロウにいたら
そりゃ報告するだろ
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
むーっ!
少し前を歩いていたあかりが、ぷくっと頬を膨らませながら振り返った。
「ユウトおにいのばかー!」
「声に出すなって」
「だってぇ!」
「はいはい。今度こそ迷子にならないように、ちゃんと前見て歩け」
「もう迷子じゃないもん!」
そう言い返しながらも、あかりは勝手に先へ行かず、ツイッギーの隣へ戻っていく。
ツイッギーがそんな彼女を横目で見て、小さく息を吐いた。
「自業自得でしょう?」
「ツイッギーまで!」
「私は一緒に怒られたんだから、これくらい言わせて」
「むぅ……」
そのやり取りを背中で聞きながら、ユウトも捜索へ意識を戻した。
◇
あかりたちが持っていた手掛かりを共有してから、捜索は少しずつ進展した。
アキラがイアスを通して進路を選び、白祇重工の面々がフライデーについて得ている情報を提供する。グレースとあかりは実際に残された痕跡を確認し、ツイッギーは2人が拾い上げた情報を整理していく。
もっとも、あかりが分かるのは、あくまでその場に残されている物理的な痕跡だけだ。
「こっちの跡、さっきより深いよ」
地面へしゃがみ込んだあかりが、車輪の跡を指差す。
「急に重くなった……って感じじゃないね。片側だけ沈んでるから、走り方が変わったのかも」
「フライデーの機体に異常が起きてる可能性もあるね」
グレースが端末へ記録する。
「でも、それだけじゃ何があったかまでは分からない」
「うん。だから次の跡も探そ!」
あかりはすぐに立ち上がった。
その様子を見ながら、ユウトは少しだけ目を細める。
視線に気づいたのか、あかりもこちらを見た。
ほんの一瞬だけ、2人の目が合う。
それだけだった。
「ユウト。少し先に反応がある」
『大型機械のものだと思う。距離はまだあるけど、進行方向はこっちで合ってる』
アキラの声に、ユウトは意識を切り替えた。
「了解。行こう」
一行はさらに奥へ進む。
やがて、遠くから重い駆動音が聞こえてきた。
「……聞こえたか?」
クレタが足を止める。
「ああ」
ベンも前を見る。
ゴウン――ゴウン――と、規則的な振動が地面を伝ってくる。
アンドーが拳を握った。
「この音……間違いねえ!」
「フライデー!」
グレースが声を上げる。
曲がり角を抜けた先。
広く開けた場所に、巨大なパイルドライバーが立っていた。
「見つけた!」
クレタが前へ出る。
「フライデー! やっと見つけたぞ!」
その声に反応したように、機体がゆっくりとこちらを向いた。
重い駆動音。
地面を踏みしめる脚。
巨大な杭打ち機構が持ち上がる。
「……来るぞ」
ユウトが刀へ手を掛けた。
ベンがクレタの前へ出る。
アンドーもドリルを構え、グレースが距離を取る。
あかりとツイッギーは言われるまでもなく後ろへ下がった。
フライデーの駆動音が一段大きくなる。
そして――。
巨大な機体が、こちらへ向かって加速した。
「正面から来るぞ!」
ベンが身構える。
ユウトも足へ力を込めた。
だが。
「え?」
あかりが声を漏らす。
フライデーは一行へ突っ込む直前、大きく進路を変えた。
そのまま脇を抜け、別の通路へ向かって走り出す。
「……逃げた?」
ツイッギーが呟いた。
一瞬遅れて、クレタの怒声が響く。
「待てぇぇぇっ!」
逃げていくフライデーを指差した。
「やっと見つけたのに、また逃がしてたまるか! 追うぞ!」
「押忍!」
真っ先にアンドーが走り出す。
「社長、待ってくれ!」
ベンがその後を追い、グレースも端末を片手に走り始めた。
ユウトは後ろを振り返る。
「あかり!」
「ちゃんと離れないよ!」
「分かってる。あかりは私が見るから、早く行って!」
ツイッギーが答える。
『ユウト、フライデーが別のエリアへ移動してる。このままだとまた見失う!』
「ったく……今度は追いかけっこかよ!」
ユウトも地面を蹴った。
最後の知能重機を見つければ、あとは連れて帰るだけ。
そんな簡単な話には、やはりならなかった。
こうしてパエトーンと白祇重工、そして予定外に加わった2人による――フライデーとの追いかけっこが始まった。