転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
周囲の安全が確保されると、パエトーンは3地点から得られた返信信号の解析を進めた。
現地ではグレースとあかりが受信データを整理し、Random Playへ送っている。あかりが保存していたぴょことのそのその観測記録も照合に使い、Fairyが発信源の計算を進めていた。
『プロトタイプの位置を取得。現場の見取図を生成しました』
ただし、周辺に作動中のカメラはない。過去の街道カメラの画像を基にした図は粗く、建物の細部までは判別できなかった。
『グレースさん、見取図も送るね』
「受け取ったよ。どれどれ……この変な形のタワーみたいなものは何だろうね」
「俺にも見せてくれないか?」
ベンが端末を覗き込み、目を見開いた。
「……これはタワーじゃない。パイオニア記念広場に建設されていたモニュメントだ」
「パイオニア記念広場?」
クレタの声が僅かに強張る。
かつてホルスが社長だった頃、白祇重工が工事を請け負っていた場所だった。
「プロトタイプが、親父の現場にいるってのか……?」
「フライデーがホルスさんの名前を出したことも考えると、無関係とは思えないね」
「まだ決めつけんなって。あいつ、『封印』とか意味分かんねえことまで言ってただろ」
そう返しながらも、クレタは見取図から目を離さなかった。
「……ここまで来たんだ。行って確かめるぞ」
『分かった。経路はこっちで探すよ』
イアスを通してアキラが答え、一行は移動の準備を始めた。その間に、ユウトも脳内の掲示板へ意識を向ける。
【転生者掲示板】
「ビデオ屋副店長(仮)」
場所割れた
パイオニア記念広場
ーーーーーーーーーー
「シーホースCEO」
やっぱりそこか
ーーーーーーーーーー
「ちびリス博士」
ボクたちもこのまま行くよー
ーーーーーーーーーー
「ビデオ屋副店長(仮)」
今度こそ先回りできりゃいいんだが
そこで書き込みを切り上げ、ユウトはイアスの隣へ戻った。
◇
記念広場への道は、崩れた建物や高架に塞がれていた。それでもパエトーンの案内があれば、通れる経路を探すことは難しくない。途中で遭遇したエーテリアスも白祇重工の面々とユウトが手早く排除し、一行は奥へ進んでいった。
あかりはツイッギーと2体のボンプに守られながら、その後を歩いている。
そんな道中、クレタがグレースを振り返った。
「……今度は勝手に通信切ったりすんなよ」
「まだ気にしてたのかい、おチビちゃん? ちゃんと反省してるよ」
「だったらいいけどよ。次も全員無事で済むとは限らねえんだからな」
「ずいぶん心配してくれるじゃないか。あの時は『姉貴』とまで呼んでくれたしね」
「なっ……あれは咄嗟に出ただけだ!」
「私はてっきり、ようやく素直になってくれたのかと思ったんだけど」
「調子に乗んな!」
怒鳴り返して前を向いたクレタは、しばらく黙って歩いていた。やがて、少し声を落として口を開く。
「……あん時は、本当に頭が真っ白になったんだよ。通信は切れるし、エーテリアスは集まってくるし。また家族がいなくなるんじゃねえかって思った」
グレースの顔から笑みが消えた。
「だから、もう勝手に危ねえことすんな。何かあるなら、先にあたしに言え」
「……分かったよ」
今度はからかわずに答え、グレースも少し間を置いて続けた。
「私も、会社のためだけにプロトタイプを探していたわけじゃないんだ。ホルスさんが残したものを見つければ、君もあの人をもう一度認めてくれるんじゃないかって……そんなことを考えてた」
クレタの歩調が僅かに鈍る。
「親父がいなくなった夜……あたしは見てたんだ」
声が低くなった。
「夜中に電話する声がして、部屋から出たら、アイツが大きな鞄を持って家を出ようとしてた。こんな時間にどこへ行くんだってしがみついた時、中身が見えたんだよ。大量の札束だった」
グレースは黙って聞いていた。
「その後で会社の金がなくなってるって分かって、治安局からも話を聞いて……だから、金を持って逃げたんだと思った」
「……そうだったのか。ずっと一人で抱えていたんだね」
「誰かに話したら、本当にそうなっちまう気がしたんだよ。親父はただの悪党だったって、自分で認めることになる気がしてさ」
クレタは自嘲するように鼻を鳴らした。
「ずっとアイツを悪く言ってたあたしが、何言ってんだって話だけどな」
「そんなことはないさ」
グレースは静かに否定する。
「白祇重工は君の家だよ。ホルスさんがいなくなっても、私もアンドーもベンもいる。だから、これからは一人で抱え込まないでくれ」
「……お前もな、姉貴」
一度目を瞬かせたグレースが、柔らかく笑った。
「ああ。そうだね」
少し先を歩くユウトは口を挟まず、イアスとともに足元の道を確かめていた。
◇
パイオニア記念広場は、瓦礫とホロウの結晶に覆われていた。
建設途中のモニュメント。その下に、巨大な白い重機が残されている。
「……プロトタイプ」
グレースが足を止めた。
長らく探していた機体は、モニュメントを支えるような姿勢のまま動かなくなっていた。ベンもその不自然な状態を見上げ、眉を寄せる。
「どうして、こんな格好で……」
「調べるぞ。ベンとアンドーは周りを見てくれ。あたしたちは操縦席だ」
クレタの指示で、一行は調査へ移った。
操縦席には複数の弾痕があり、床には薬莢も残っていた。イアス越しに内部を見たアキラも、至近距離で銃が使われた可能性を指摘する。
だが、長い年月が経っている。ここで誰が争い、何が起きたのかまでは分からなかった。
『待って。コンソールの上に書類がある』
アキラの声に、クレタが手を伸ばす。
取り上げたのは、プロトタイプの引渡指示書だった。呼ばれて戻ってきたベンが内容を確認し、その一箇所を指で示した。
「ホルス社長のサインだ。金額と日付もある」
「この金額……会社の帳簿から消えた額と同じだよ。日付も、ホルスさんがいなくなった日だ」
グレースの言葉に、クレタが書類を見つめ直す。
「じゃあ、あの金は……」
「プロトタイプの費用を支払うためだったんだ」
父が鞄に詰めていた現金は、逃げるための金ではなかった。
それなら、なぜここへ来たのか。
操縦席に残された弾痕は何を意味するのか。
クレタの視線が、傷ついた壁面へ移った。
「親父が逃げたんじゃねえなら……ここで何かあったってことかよ」
声が僅かに揺れる。
「家を出る前の電話でも、変なこと言ってたんだ。見て見ぬふりをしろとでも、とか……あの中には何があるんだ、とか」
グレースがそっとクレタへ向き直った。
「答えは、まだこの子の中に残っているかもしれない」
外部端末を操作していたあかりも顔を上げる。
「外部記憶素子は無事だよ! 当時の記録が残ってるかも!」
「持ち帰って調べよう。必ず、ホルスさんに何があったのか突き止めるよ」
『僕たちも手伝う。クレタ、一緒に確かめよう』
クレタは書類を握ったまま、しばらく黙っていた。やがて顔を上げ、深く息を吐く。
「……ああ。まずはプロトタイプを運び出すぞ」
ベンとアンドーが搬出の準備を進め、3台の知能重機もモニュメントの周囲へ集まった。
長い年月、その場に留まり続けていた巨体が軋みを上げる。プロトタイプがゆっくりと引き出され、モニュメントとの間に隙間が生まれた。
その時、フライデーが機体を震わせた。
「待たれよ……我は重大なことを忘れてはおらぬか……?」
「フライデー?」
「そう、『封印』! 我が師ホルスは、我に封印を固めよと――」
モニュメントの内部から、紫色の光が漏れた。
ユウトの目が開く。
「全員、離れろ!」
積み重なった石材が内側から押し上げられ、白い腕が伸びてきた。続いて、灰白色の細身の身体が瓦礫の間から這い出す。頭部には金色の機械部品を思わせる構造が食い込み、全身に走る線の間で紫紅色の光が脈打っていた。
「何だ、こいつ――」
アンドーが武器を構えるより早く、ユウトは動いていた。
「悪いが、様子見はなしだ」
抜き放った忍者刀が、立ち上がりかけた怪物の胴を深く斬り裂く。黒紫色のエーテルが飛び散り、怪物が仰け反った。
その足が地面を踏みしめる前に、ユウトは膝裏へ刃を走らせた。片脚が折れ、傾いた身体を支えようと伸びた腕も、続く斬撃で跳ね上げる。
ユウトの片手が印を結んだ。
路面が割れ、土と石材が怪物の両脚を挟み込む。腰を捩って逃れようとした胴へ、倒れた建材が押し寄せた。
拘束が完成するのを待たず、ユウトは刀を突き入れていた。
脇腹から引き抜き、肩口へ斬り下ろす。振り向こうとする身体を刃で押し戻し、反撃に使おうとした腕の付け根へ、さらに一撃を叩き込んだ。
怪物は身動きも取れず、傷口からエーテルを漏らしている。
周囲が次の行動へ移る間もなく、ユウトは最後の一撃へ踏み込んだ。
その瞬間、怪物が吼えた。
傷だらけの身体から、エーテルが一気に噴き出す。
◇
Random PlayでH.D.D.に接続していたアキラが、不意に目元を押さえた。
「……っ」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
リンがすぐに顔を覗き込む。
知能水晶体に、覚えのない違和感が走っていた。何が起きたのか、アキラ自身にも分からない。
だが、現地ではユウトが怪物のすぐ前にいる。
アキラは目元から手を離し、イアスを通した視界へ意識を戻した。
『ユウト!』
◇
振り下ろしかけた腕が、止まっていた。
ユウトは刀を握ったまま、目を見開く。
斬れ。
そう思っているのに、身体が動かない。
ほんの一瞬の硬直だった。だが、怪物はその間に激しく身を捩り、両脚を挟んでいた石材へ亀裂を走らせていた。
「チッ!」
感覚が戻ると同時に刀を振り抜く。
刃は肩口を深く斬り裂いたが、怪物は崩れた路面を蹴散らし、拘束から抜け出した。倒れ込むような勢いで搬出作業をしていたクレタたちの方へ走る。
ユウトが追いかけた時には、怪物はすでにハンスの目前へ出ていた。
「逃がすかい!」
ハンスが巨体を滑り込ませ、傷ついた身体を地面へ叩き伏せる。そのまま上から押さえ込み、怪物の動きを止めた。
「ふぅ……ヒヤッとしたぜ」
アンドーが息を吐いた。
だが、グレースは端末を見つめたまま顔を上げない。
「……待って。エーテル反応が下がってない」
押さえ込まれた怪物の腕に、青紫色の光が浮かんだ。細い筋となって胴へ、頭部へ広がっていく。
ユウトが声を張り上げる。
「ハンスを離せ!」
「ハンス、離れろ!」
アンドーも即座に叫んだ。
だが、その足元が大きく鳴動する。
巨大なエーテル結晶が地面を突き破り、緑色の光が広場を染めた。結晶は怪物を押さえていたハンスへ絡みつき、瞬く間に機体を覆っていく。
「ハンス!」
駆け出そうとしたアンドーの腕を、ベンが掴んだ。
「今入れば君まで巻き込まれる!」
直後、2人の目前を新たな結晶が突き抜ける。
溢れ出したエーテルは周囲へ広がり、搬出のため近くにいたグレーテルとフライデーまで呑み込んでいった。
「ハンス、フライデー! 応えろ!」
「シグナルロスト……エーテル指数増大!」
グレースの声が鋭くなる。
「全員、下がれ!」
ユウトが叫び、一行が距離を取った。
後方ではツイッギーがあかりの腕を引き、のそのそが前へ出る。展開された半透明のシールドへ結晶片がぶつかり、表面を揺らして弾かれた。
「あかり、こっち!」
「うん! ぴょこ、周りを見て!」
「ンナッ!」
あかりはツイッギーとともに後退しながら、端末へ目を走らせた。2体の状態は確認できる。だが、結晶の向こうから3台が応答することはなかった。
ユウトも刀を構えたまま、広場の中央を睨んでいた。
(……クソ、そう来るか)
何が身体を止めたのか。
考えかけたところで、凄まじい金属音が響いた。
結晶の内部で、巨大な部品が動いている。機体が引き裂かれ、装甲が歪み、異なる機構が無理やり噛み合わされていった。
やがて光が薄れ、その中に生まれたものが姿を現す。
「……嘘だろ」
アンドーが息を呑んだ。
巨大な重機の脚部と、継ぎ合わされた装甲。その中心には、先ほどの怪物を思わせる青白い異形が埋め込まれていた。
3台を身体の一部へ変えた巨体が、広場の中央で立ち上がる。
「あの野郎……重機を取り込んだ!?」
巨大な腕が動き、周囲に残った結晶を砕いた。
ユウトは空いた手を一度だけ開閉する。動く。今は、異常は残っていない。
「……そっちは後だな」
刀を構え直し、クレタたちの横へ並んだ。
後方ではツイッギーと2体のボンプがあかりを守り、ベンとアンドーも武器を構えている。
クレタは異形を睨みつけ、ハンマーを肩へ担いだ。
「うちの社員を3台も勝手に取り込みやがって……!」
巨体の中心から、さらにエーテルが溢れ出す。
それでも、クレタは退かなかった。
「こいつをぶっ壊して、全員まとめて連れて帰るぞ!」
次の瞬間、異形の咆哮がパイオニア記念広場を震わせた。