転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第32話 封印の下で

 

 周囲の安全が確保されると、パエトーンは3地点から得られた返信信号の解析を進めた。

 

 現地ではグレースとあかりが受信データを整理し、Random Playへ送っている。あかりが保存していたぴょことのそのその観測記録も照合に使い、Fairyが発信源の計算を進めていた。

 

『プロトタイプの位置を取得。現場の見取図を生成しました』

 

 ただし、周辺に作動中のカメラはない。過去の街道カメラの画像を基にした図は粗く、建物の細部までは判別できなかった。

 

『グレースさん、見取図も送るね』

 

「受け取ったよ。どれどれ……この変な形のタワーみたいなものは何だろうね」

 

「俺にも見せてくれないか?」

 

 ベンが端末を覗き込み、目を見開いた。

 

「……これはタワーじゃない。パイオニア記念広場に建設されていたモニュメントだ」

 

「パイオニア記念広場?」

 

 クレタの声が僅かに強張る。

 

 かつてホルスが社長だった頃、白祇重工が工事を請け負っていた場所だった。

 

「プロトタイプが、親父の現場にいるってのか……?」

 

「フライデーがホルスさんの名前を出したことも考えると、無関係とは思えないね」

 

「まだ決めつけんなって。あいつ、『封印』とか意味分かんねえことまで言ってただろ」

 

 そう返しながらも、クレタは見取図から目を離さなかった。

 

「……ここまで来たんだ。行って確かめるぞ」

 

『分かった。経路はこっちで探すよ』

 

 イアスを通してアキラが答え、一行は移動の準備を始めた。その間に、ユウトも脳内の掲示板へ意識を向ける。

 

【転生者掲示板】

「ビデオ屋副店長(仮)」

場所割れた

パイオニア記念広場

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

やっぱりそこか

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

ボクたちもこのまま行くよー

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

今度こそ先回りできりゃいいんだが

 

 そこで書き込みを切り上げ、ユウトはイアスの隣へ戻った。

 

     ◇

 

 記念広場への道は、崩れた建物や高架に塞がれていた。それでもパエトーンの案内があれば、通れる経路を探すことは難しくない。途中で遭遇したエーテリアスも白祇重工の面々とユウトが手早く排除し、一行は奥へ進んでいった。

 

 あかりはツイッギーと2体のボンプに守られながら、その後を歩いている。

 

 そんな道中、クレタがグレースを振り返った。

 

「……今度は勝手に通信切ったりすんなよ」

 

「まだ気にしてたのかい、おチビちゃん? ちゃんと反省してるよ」

 

「だったらいいけどよ。次も全員無事で済むとは限らねえんだからな」

 

「ずいぶん心配してくれるじゃないか。あの時は『姉貴』とまで呼んでくれたしね」

 

「なっ……あれは咄嗟に出ただけだ!」

 

「私はてっきり、ようやく素直になってくれたのかと思ったんだけど」

 

「調子に乗んな!」

 

 怒鳴り返して前を向いたクレタは、しばらく黙って歩いていた。やがて、少し声を落として口を開く。

 

「……あん時は、本当に頭が真っ白になったんだよ。通信は切れるし、エーテリアスは集まってくるし。また家族がいなくなるんじゃねえかって思った」

 

 グレースの顔から笑みが消えた。

 

「だから、もう勝手に危ねえことすんな。何かあるなら、先にあたしに言え」

 

「……分かったよ」

 

 今度はからかわずに答え、グレースも少し間を置いて続けた。

 

「私も、会社のためだけにプロトタイプを探していたわけじゃないんだ。ホルスさんが残したものを見つければ、君もあの人をもう一度認めてくれるんじゃないかって……そんなことを考えてた」

 

 クレタの歩調が僅かに鈍る。

 

「親父がいなくなった夜……あたしは見てたんだ」

 

 声が低くなった。

 

「夜中に電話する声がして、部屋から出たら、アイツが大きな鞄を持って家を出ようとしてた。こんな時間にどこへ行くんだってしがみついた時、中身が見えたんだよ。大量の札束だった」

 

 グレースは黙って聞いていた。

 

「その後で会社の金がなくなってるって分かって、治安局からも話を聞いて……だから、金を持って逃げたんだと思った」

 

「……そうだったのか。ずっと一人で抱えていたんだね」

 

「誰かに話したら、本当にそうなっちまう気がしたんだよ。親父はただの悪党だったって、自分で認めることになる気がしてさ」

 

 クレタは自嘲するように鼻を鳴らした。

 

「ずっとアイツを悪く言ってたあたしが、何言ってんだって話だけどな」

 

「そんなことはないさ」

 

 グレースは静かに否定する。

 

「白祇重工は君の家だよ。ホルスさんがいなくなっても、私もアンドーもベンもいる。だから、これからは一人で抱え込まないでくれ」

 

「……お前もな、姉貴」

 

 一度目を瞬かせたグレースが、柔らかく笑った。

 

「ああ。そうだね」

 

 少し先を歩くユウトは口を挟まず、イアスとともに足元の道を確かめていた。

 

     ◇

 

 パイオニア記念広場は、瓦礫とホロウの結晶に覆われていた。

 

 建設途中のモニュメント。その下に、巨大な白い重機が残されている。

 

「……プロトタイプ」

 

 グレースが足を止めた。

 

 長らく探していた機体は、モニュメントを支えるような姿勢のまま動かなくなっていた。ベンもその不自然な状態を見上げ、眉を寄せる。

 

「どうして、こんな格好で……」

 

「調べるぞ。ベンとアンドーは周りを見てくれ。あたしたちは操縦席だ」

 

 クレタの指示で、一行は調査へ移った。

 

 操縦席には複数の弾痕があり、床には薬莢も残っていた。イアス越しに内部を見たアキラも、至近距離で銃が使われた可能性を指摘する。

 

 だが、長い年月が経っている。ここで誰が争い、何が起きたのかまでは分からなかった。

 

『待って。コンソールの上に書類がある』

 

 アキラの声に、クレタが手を伸ばす。

 

 取り上げたのは、プロトタイプの引渡指示書だった。呼ばれて戻ってきたベンが内容を確認し、その一箇所を指で示した。

 

「ホルス社長のサインだ。金額と日付もある」

 

「この金額……会社の帳簿から消えた額と同じだよ。日付も、ホルスさんがいなくなった日だ」

 

 グレースの言葉に、クレタが書類を見つめ直す。

 

「じゃあ、あの金は……」

 

「プロトタイプの費用を支払うためだったんだ」

 

 父が鞄に詰めていた現金は、逃げるための金ではなかった。

 

 それなら、なぜここへ来たのか。

 

 操縦席に残された弾痕は何を意味するのか。

 

 クレタの視線が、傷ついた壁面へ移った。

 

「親父が逃げたんじゃねえなら……ここで何かあったってことかよ」

 

 声が僅かに揺れる。

 

「家を出る前の電話でも、変なこと言ってたんだ。見て見ぬふりをしろとでも、とか……あの中には何があるんだ、とか」

 

 グレースがそっとクレタへ向き直った。

 

「答えは、まだこの子の中に残っているかもしれない」

 

 外部端末を操作していたあかりも顔を上げる。

 

「外部記憶素子は無事だよ! 当時の記録が残ってるかも!」

 

「持ち帰って調べよう。必ず、ホルスさんに何があったのか突き止めるよ」

 

『僕たちも手伝う。クレタ、一緒に確かめよう』

 

 クレタは書類を握ったまま、しばらく黙っていた。やがて顔を上げ、深く息を吐く。

 

「……ああ。まずはプロトタイプを運び出すぞ」

 

 ベンとアンドーが搬出の準備を進め、3台の知能重機もモニュメントの周囲へ集まった。

 

 長い年月、その場に留まり続けていた巨体が軋みを上げる。プロトタイプがゆっくりと引き出され、モニュメントとの間に隙間が生まれた。

 

 その時、フライデーが機体を震わせた。

 

「待たれよ……我は重大なことを忘れてはおらぬか……?」

 

「フライデー?」

 

「そう、『封印』! 我が師ホルスは、我に封印を固めよと――」

 

 モニュメントの内部から、紫色の光が漏れた。

 

 ユウトの目が開く。

 

「全員、離れろ!」

 

 積み重なった石材が内側から押し上げられ、白い腕が伸びてきた。続いて、灰白色の細身の身体が瓦礫の間から這い出す。頭部には金色の機械部品を思わせる構造が食い込み、全身に走る線の間で紫紅色の光が脈打っていた。

 

「何だ、こいつ――」

 

 アンドーが武器を構えるより早く、ユウトは動いていた。

 

「悪いが、様子見はなしだ」

 

 抜き放った忍者刀が、立ち上がりかけた怪物の胴を深く斬り裂く。黒紫色のエーテルが飛び散り、怪物が仰け反った。

 

 その足が地面を踏みしめる前に、ユウトは膝裏へ刃を走らせた。片脚が折れ、傾いた身体を支えようと伸びた腕も、続く斬撃で跳ね上げる。

 

 ユウトの片手が印を結んだ。

 

 路面が割れ、土と石材が怪物の両脚を挟み込む。腰を捩って逃れようとした胴へ、倒れた建材が押し寄せた。

 

 拘束が完成するのを待たず、ユウトは刀を突き入れていた。

 

 脇腹から引き抜き、肩口へ斬り下ろす。振り向こうとする身体を刃で押し戻し、反撃に使おうとした腕の付け根へ、さらに一撃を叩き込んだ。

 

 怪物は身動きも取れず、傷口からエーテルを漏らしている。

 

 周囲が次の行動へ移る間もなく、ユウトは最後の一撃へ踏み込んだ。

 

 その瞬間、怪物が吼えた。

 

 傷だらけの身体から、エーテルが一気に噴き出す。

 

     ◇

 

 Random PlayでH.D.D.に接続していたアキラが、不意に目元を押さえた。

 

「……っ」

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 リンがすぐに顔を覗き込む。

 

 知能水晶体に、覚えのない違和感が走っていた。何が起きたのか、アキラ自身にも分からない。

 

 だが、現地ではユウトが怪物のすぐ前にいる。

 

 アキラは目元から手を離し、イアスを通した視界へ意識を戻した。

 

『ユウト!』

 

     ◇

 

 振り下ろしかけた腕が、止まっていた。

 

 ユウトは刀を握ったまま、目を見開く。

 

 斬れ。

 

 そう思っているのに、身体が動かない。

 

 ほんの一瞬の硬直だった。だが、怪物はその間に激しく身を捩り、両脚を挟んでいた石材へ亀裂を走らせていた。

 

「チッ!」

 

 感覚が戻ると同時に刀を振り抜く。

 

 刃は肩口を深く斬り裂いたが、怪物は崩れた路面を蹴散らし、拘束から抜け出した。倒れ込むような勢いで搬出作業をしていたクレタたちの方へ走る。

 

 ユウトが追いかけた時には、怪物はすでにハンスの目前へ出ていた。

 

「逃がすかい!」

 

 ハンスが巨体を滑り込ませ、傷ついた身体を地面へ叩き伏せる。そのまま上から押さえ込み、怪物の動きを止めた。

 

「ふぅ……ヒヤッとしたぜ」

 

 アンドーが息を吐いた。

 

 だが、グレースは端末を見つめたまま顔を上げない。

 

「……待って。エーテル反応が下がってない」

 

 押さえ込まれた怪物の腕に、青紫色の光が浮かんだ。細い筋となって胴へ、頭部へ広がっていく。

 

 ユウトが声を張り上げる。

 

「ハンスを離せ!」

 

「ハンス、離れろ!」

 

 アンドーも即座に叫んだ。

 

 だが、その足元が大きく鳴動する。

 

 巨大なエーテル結晶が地面を突き破り、緑色の光が広場を染めた。結晶は怪物を押さえていたハンスへ絡みつき、瞬く間に機体を覆っていく。

 

「ハンス!」

 

 駆け出そうとしたアンドーの腕を、ベンが掴んだ。

 

「今入れば君まで巻き込まれる!」

 

 直後、2人の目前を新たな結晶が突き抜ける。

 

 溢れ出したエーテルは周囲へ広がり、搬出のため近くにいたグレーテルとフライデーまで呑み込んでいった。

 

「ハンス、フライデー! 応えろ!」

 

「シグナルロスト……エーテル指数増大!」

 

 グレースの声が鋭くなる。

 

「全員、下がれ!」

 

 ユウトが叫び、一行が距離を取った。

 

 後方ではツイッギーがあかりの腕を引き、のそのそが前へ出る。展開された半透明のシールドへ結晶片がぶつかり、表面を揺らして弾かれた。

 

「あかり、こっち!」

 

「うん! ぴょこ、周りを見て!」

 

「ンナッ!」

 

 あかりはツイッギーとともに後退しながら、端末へ目を走らせた。2体の状態は確認できる。だが、結晶の向こうから3台が応答することはなかった。

 

 ユウトも刀を構えたまま、広場の中央を睨んでいた。

 

(……クソ、そう来るか)

 

 何が身体を止めたのか。

 

 考えかけたところで、凄まじい金属音が響いた。

 

 結晶の内部で、巨大な部品が動いている。機体が引き裂かれ、装甲が歪み、異なる機構が無理やり噛み合わされていった。

 

 やがて光が薄れ、その中に生まれたものが姿を現す。

 

「……嘘だろ」

 

 アンドーが息を呑んだ。

 

 巨大な重機の脚部と、継ぎ合わされた装甲。その中心には、先ほどの怪物を思わせる青白い異形が埋め込まれていた。

 

 3台を身体の一部へ変えた巨体が、広場の中央で立ち上がる。

 

「あの野郎……重機を取り込んだ!?」

 

 巨大な腕が動き、周囲に残った結晶を砕いた。

 

 ユウトは空いた手を一度だけ開閉する。動く。今は、異常は残っていない。

 

「……そっちは後だな」

 

 刀を構え直し、クレタたちの横へ並んだ。

 

 後方ではツイッギーと2体のボンプがあかりを守り、ベンとアンドーも武器を構えている。

 

 クレタは異形を睨みつけ、ハンマーを肩へ担いだ。

 

「うちの社員を3台も勝手に取り込みやがって……!」

 

 巨体の中心から、さらにエーテルが溢れ出す。

 

 それでも、クレタは退かなかった。

 

「こいつをぶっ壊して、全員まとめて連れて帰るぞ!」

 

 次の瞬間、異形の咆哮がパイオニア記念広場を震わせた。

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