転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
回転する刃が、床を削った。
砕けた石材があかりの足元まで跳ねてくる。ぴょこに袖を引かれ、後ろへ下がると、頭上を巨大なアームが通り過ぎた。その先に残る装甲の色を見て、あかりは唇を噛んだ。
ハンスたちの姿はもうない。見覚えのある部品が、紫に脈打つ結晶とともに、あるはずのない場所で動いている。
「後ろへ! そっちは俺が受ける!」
ベンが得物を立て、降り注ぐ瓦礫を遮った。その脇をクレタが駆け抜ける。振り下ろされた脚の外へ身をかわし、床に着いた継ぎ目へハンマーを叩き込んだ。
「アンドー!」
「押忍!」
追いついたアンドーが、ひび割れた装甲へドリルを押し当てる。鋼鉄が軋み、巨体の片側がわずかに下がった。
しかし、頭上の回転刃は止まらない。2人を追うように、地面すれすれを横切った。
クレタが跳び、アンドーが後ろへ転がる。その刃が通り過ぎた直後、ユウトが敵の側面へ走り込んだ。
振り上げられた別のアームを誘い、脚の向こうへ抜ける。巨体が彼を追って向きを変えた隙に、ベンがあかりたちを下がらせた。
『あかり、正面を離れて。ベンが下がった側なら、まだ距離を取れる』
「分かった!」
あかりは端末を抱え、ぴょこに促されて後ろへ下がった。のそのそが隣につき、ツイッギーも周囲を確かめながら続く。イアスはさらに後方の遮蔽物の陰に留まり、こちらの様子を見ていた。
あのエーテルを浴びた直後、ユウトの動きは一瞬止まった。だが今は、攻撃の間を縫う足取りにも、仲間へ合図を送る声にも淀みはない。
あかりは敵へ視線を戻した。
ユウトが先に打ち込んだ一撃。その傷は、重機を取り込んだ後も残っていた。胴の一角が大きく裂け、周囲の結晶が不揃いに明滅している。
端末が短く鳴った。
警告音とは違う。あかりは走りながら画面を切り替え、重機たちの識別情報を開いた。
消えたはずの反応が、細く走っていた。
「グレースさん! こっち、見て!」
グレースは射撃を続けながら後退し、敵の脚が落ちる場所を避けて、あかりのそばへ来た。差し出された端末へ目を落とす。
「……今の、もう一度出して」
あかりは記録を遡った。グレースが自分の端末と照合し、画面を拡大する。
次の反応を捉えた時、その目が大きく開いた。
「ハンス……それに、ほかの2人も。まだ信号を出してる!」
「助けられんのか!?」
離れたところからクレタが叫んだ。
グレースはすぐには答えなかった。敵を見上げ、裂けた装甲の奥と、端末に浮かぶ反応の位置を見比べる。
「あの傷の周り、融合しきってない。機体の一部が元の形で残ってるんだ。コアの保護部も、まだ区別できるかもしれない」
あかりも顔を上げた。
割れた結晶の間に、黒い金属枠が見える。敵が身を捩るたびに隠れてしまうが、その周囲だけは、部品同士が噛み合わずに軋んでいた。
ユウトの一撃が、ここまで残っている。
「でも、あのままじゃ取り出せないね。外側を剥がして、コアの周りを確かめないと」
「回収する道具ならある!」
あかりはのそのその背負う機材ケースを開けた。
中には、3つの白い回収器が収まっている。折り畳まれた固定爪と作業アーム、コアを包むための保護殻。その後ろから伸びる回収索は、ケースの巻き取り装置に繋がっていた。
グレースが、その構造をひと目で追った。
「周りの部材ごと切り取って、収めるのかい?」
「うん。中に残ってるコアを、機体ごと運べない時でも助けられるように。……内緒で作ってたんだ」
ツイッギーが、開いたケースとあかりを交互に見た。
「……いつの間に、こんなものを作っていたの?」
「えっと、それは――」
「詳しい話は終わってから聞くわ。今は、これを運べばいいのね?」
あかりは一瞬目を逸らしかけ、すぐに頷いた。
ツイッギーはそれ以上追及せず、のそのそとケースを下ろした。倒れたコンクリート塊の陰へ据え、あかりが巻き取り装置を起動する。
3つの表示が順番に灯った。
「この外殻も、ずっと侵蝕に耐えられるわけじゃない。取り付けたらすぐに切り離して、引き戻す。コアの場所まで露出させてもらえれば、あとは私がやる」
「分かった。どこを壊せばいい?」
戻ってきたユウトが、あかりの横で足を止めた。
グレースが端末を彼へ向ける。
「まずはこの裂け目。ただし、奥まで突き通さないで。中にあの子たちがいる」
「外側だけだな」
「うん。私も前へ出る。形が見えれば、もっと正確に指示できるよ」
あかりは最初の回収器をツイッギーへ渡し、カメラを起動した。端末に映った景色が、運ばれる回収器と一緒に動く。
「索も繋がってる。無理に引かれないよう、自動で送り出すから」
「分かったわ。渡したら、引っ掛かるものがないか見る」
ユウトが傷口のある側を指した。
「こっちから来てくれ。脚が落ち着くまでは、近づくなよ」
ツイッギーが頷くと、クレタがハンマーを肩へ担ぎ直した。
「聞いたな! まず脚を崩すぞ。あんな高さじゃ手も届かねえ!」
グレースの射撃が、敵の脚へ集中した。
アンドーが先ほど傷つけた箇所へ踏み込み、回転するドリルを押し当てる。今度は無理に留まらず、金属が裂けたところで身を引いた。
その後ろから、クレタが飛び込んだ。
頭上のアームが動く。
ベンが前へ出て、落ちてくる先端を得物で受けた。衝撃に足が滑る。それでも角度を変え、押し潰される前に横へ流す。
「社長!」
クレタがベンの得物を踏んで跳び上がった。振り下ろしたハンマーが継ぎ目を打ち、割れた装甲の下で支持部が折れる。
巨体が傾いた。
胴が下がった瞬間、ユウトが裂け目へ取りついた。垂れ下がる金属板へ武器を差し入れ、外へ捻り上げる。露出した結晶の付け根をグレースの弾丸が砕き、重い破片が落ちた。
ベンがアームを押し返している間に、ツイッギーが側面から接近した。差し出された回収器をユウトが受け取り、カメラを裂け目へ向ける。
「ユウト、右手側を見て!」
グレースの声に、ユウトがカメラの向きを変える。
あかりの画面にも、角張った保護部が映った。歪んだ枠の内側で、ハンスの識別反応が重なる。
「見えた! それ、ハンス!」
ユウトが露出した保護部へ固定爪を掛けた。回収器のカメラが近づき、潰れた金具と奥へ伸びる配線を映し出す。
ツイッギーはその間に後退した。索が掛かりそうな瓦礫を避け、あかりのいる側へ通り道を確保する。
「外側の枠を残して切るんだ。コアには触れないように」
グレースの指示を受け、あかりは切断位置を合わせた。小さな刃が回り、火花が散る。
敵が身を起こそうとした。
「まだ早え!」
アンドーが、折れた支持部へドリルを打ち込んだ。反対側ではクレタが脚を叩き、立ち直ろうとする巨体をもう一度崩す。
最後の接続が切れた。
回収器の保護殻が閉じ、あかりは巻き取りを作動させる。ユウトが爪の離脱を確かめて手を離すと、白い機体は胴から滑り落ち、張った索に導かれて地上へ戻った。
ツイッギーが途中で受け止め、残りの距離を運んで戻る。その背後で、敵の脚が地面を叩いた。ぴょこはあかりの前に立ち、飛んでくる破片を警戒していた。
「ハンス、回収できた!」
「よっしゃ! あと2人だな!」
アンドーの声に頷きながら、あかりは保護殻の状態を確かめた。反応はある。閉鎖も正常。
ケースの収納部へ収めると、胸に詰めていた息がようやく抜けた。
だが、喜ぶ間はなかった。
敵の上部に光が並んだかと思うと、ミサイルが一斉に飛び出した。
「ミサイル! 離れて!」
グレースの声に、あかりは顔を上げた。
ぴょこが左へ退くよう促す。あかりは端末を掴み、のそのそとツイッギーが運ぶケースとともに、瓦礫の陰を離れた。
背後で爆発が重なった。
さっきまでいた場所が砕け、破片が背中を叩く。あかりは頭を下げたまま距離を取り、ぴょこの合図で身を伏せた。
顔を上げると、グレースも射撃しながら後退していた。迫るアームを横へのステップでかわし、振り抜かれた先端の後ろへ銃口を向ける。
「次、グレーテルが見えた! 右の装甲の裏!」
グレースは息を整え、すぐに新しい位置を送ってきた。
あかりはケースから2つ目の回収器を取り出し、カメラを確かめてツイッギーへ渡した。
今度は露出した傷を、敵自身のアームが塞いでいた。近づけば薙ぎ払われる。遠ざかれば装甲の陰に隠れる。
ツイッギーはユウトの合図を待って側面へ回り、回収器を渡した。ユウトがグレースへ目を向ける間に、来た道へ退いて索の通りを確かめる。
「腕を振らせる。見えたところを頼む」
「任せて」
彼は敵の正面へ出た。
アームが持ち上がるのを見届け、横へ走る。追って振るわれた先端をくぐった瞬間、傷口が開いた。
グレースの射撃がそこへ飛び込む。
あかりは画面を凝視した。狙っているのはコアではない。覆い被さった薄い装甲の縁だ。数発が同じ箇所を打ち、剥がれかけた板が外へ跳ねる。
「見えたよ!」
敵がアームを戻すより早く、ユウトが回収器を押し当てた。
爪が固定される。あかりはすぐに切断を始めた。
その頭上で、長い尾が持ち上がる。
先端に光が集まり、あかりは思わず顔を上げた。
「尾が光ってる!」
あかりが叫ぶのと同時に、床へ光線が走った。
ユウトが跳び退く。照射された場所が遅れて爆ぜ、索の近くへ瓦礫が落ちた。
ツイッギーは爆発が収まった側から回り込み、索を押さえかけていた小さな破片を取り除く。
「こっちは通せる! あかり、続けて!」
敵が向きを変えるのに合わせ、巻き取り装置から索が送り出されていく。
あかりは回収器の映像に目を戻した。グレースが通信で指定した最後の接続を切り、保護殻の閉鎖を確認する。
「引くよ!」
白い機体が装甲から離れたところへ、戻ってきたアームが迫った。
ベンが割って入った。
先端を正面から止めず、得物を沿わせて外へ押しやる。その間を回収器が抜け、ツイッギーのいる側へ戻った。
あかりが巻き取りを止めると、ツイッギーが抱えてケースへ運んでくる。
「グレーテルも取れた!」
ベンが頷き、敵へ向き直る。
あかりは3つ目の識別表示を開いた。フライデーの反応は、傷口のさらに上にある。そこだけは厚い金属塊に覆われ、外からコアの位置を確かめられなかった。
「最後のところ、まだ見えない……!」
グレースが撃ち込んでも、表面で火花が散るだけだった。
アンドーが近づこうとしたが、敵は傷ついた脚を庇うように体を捻り、回転刃を低く構える。クレタも反対側へ回る。しかし、尾の先が彼女を追って動いた。
ユウトが床へ掌をついた。
土と石がせり上がり、照射された光を一瞬遮る。その壁が砕けるまでにクレタは射線を抜け、ユウトも横へ走って次の攻撃をかわした。
あかりは端末を握り締めた。
近づくだけでは足りない。残った覆いを壊す間、あの巨体を止めなくてはならない。
クレタが白いプロトタイプへ目を向けた。
「ベン! 少し任せる!」
彼女の走る先を見て、ベンが頷いた。
「分かった。こっちは持たせる!」
あかりは最後の回収器の固定爪とカメラを確かめ、ツイッギーへ渡した。フライデーの反応は、まだ消えていない。
前方ではユウトがプロトタイプへ目を向けている。
「動いたら、俺が上がる。グレース、切り離す場所を教えてくれ」
「分かった。アンドー、私と来て!」
「押忍! 今度こそ、あいつを引っぺがしてやるぜ!」
駆動音が響いた。
白い機体が立ち上がり、巨体へ向けて踏み出す。怪物のアームとぶつかった瞬間、床を伝わって衝撃が来た。
あかりはケースへ手をつき、画面が揺れるのを押さえた。
プロトタイプが敵へ組みついた。
ツイッギーが側面へ走り、待っていたユウトへ回収器を渡す。彼が受け取るとすぐに、索を残して後ろへ退いた。
クレタが押し込むと、厚い金属塊の下に亀裂が開く。
「そこだ! 下から押し上げて!」
グレースの指示に、アンドーが踏み込んだ。ドリルが隙間へ食い込み、装甲の縁が持ち上がる。グレースは露出した接続部へ射撃を加えた。
覆いが剥がれた。
ユウトが傾いた脚を足場に上がり、残った細い金属片を断つ。あかりの画面に、フライデーの保護部が映った。
「確認した! そこに付けて!」
最後の回収器が固定された。
あかりは切断位置を合わせる。枠が歪んでいるため、ハンスたちと同じ角度では刃が入らない。グレースが映像を確かめ、残す部分を指示した。
プロトタイプが前へ進む。
敵は抵抗し、身を捩った。刃が噛み込み、回収器が大きく揺れる。あかりはいったん刃を引き、反対側から切り込んだ。
「おチビちゃん、そのままモニュメントの方へ!」
グレースの声が響く。
だが、白い機体の動きが鈍った。接触している腕から紫の光が這い上がり、装甲の間に結晶が浮かんでいる。
あかりは息を呑んだ。
それでも、操作する手は止めなかった。ここで迷えば、クレタが耐える時間を増やしてしまう。
残る接続は1か所。
「そこでいい。切り離して!」
グレースの声を受け、あかりは刃を送った。
金属が切れ、コアを囲む保護殻が閉じる。
「回収する!」
索を巻き取る。
ところが、離れた回収器の爪に、千切れ残った金属片が引っ掛かった。
あかりはすぐに巻き取りを止めた。
「爪が――」
「見えてる!」
ユウトが武器を差し入れ、引っ掛かった部分を外へ弾いた。自由になった回収器を抱え、敵の側面から跳び下りる。
ベンが得物を構え、その着地を狙った打撃を受け流した。
ユウトは間合いを抜けたところで、待っていたツイッギーへ回収器を託した。ベンと並んで敵へ向き直り、その退路を守る。
あかりは索を巻き収めながら、端末に届いた表示を確かめた。閉鎖は正常。フライデーの反応もある。
戻ってきたツイッギーが最後の回収器を収納部へ収め、留め具を閉じた。
「3基とも回収! みんな、離れて!」
声に出した途端、膝から力が抜けそうになった。
けれどまだ、クレタが戦っている。
『あかり、全員揃ってる?』
アキラの問いに、あかりはぴょこたちを見回した。
「うん! 今から下がる!」
ぴょことのそのそがケースを運び、ツイッギーがあかりのそばにつく。前衛が確保してくれた側から、全員で距離を取った。
◇
救出完了の声が、操縦席へ届いた。
クレタは短く息を吐き、操縦桿を握り直す。前方の表示には、まだ仲間たちが映っていた。ベンが最後尾を守り、アンドーが振り返りながら走っている。
こいつを、あっちへ行かせるわけにはいかない。
「姉貴、全員下げろ! こっちはあたしがやる!」
出力を上げる。
だが、押し込んだ操縦桿に対して、機体の反応は遅かった。
侵蝕を知らせる警告が重なる。敵のアームを押さえる腕が軋み、足が後ろへ滑り始めた。
モニュメントは、あと少しだ。
怪物の胴が持ち上がり、プロトタイプの腕へさらに重さが掛かる。クレタは歯を食いしばって踏ん張った。操縦席が激しく揺れ、肩が座席へ打ちつけられる。
「ここまで来て、止まってんじゃねえよ……!」
もう一度、操縦桿を押した。
父も、この席に座っていた。
会社の金を持って逃げたのだと、ずっと思っていた父が、この機体を買い、ここまで運んできた。何があったのか、すべて分かったわけではない。それでも今、自分が握っている操縦桿の先には、父の残したものがある。
幼い頃に見上げた、白い機体。
名前を付けたのは自分だった。呼べば応えてくれると、父は言っていた。
クレタは顔を上げた。
「ゲローイ……!」
滑っていた脚が、床を掴んだ。
機体の奥から低い駆動音が響く。操縦桿を通して返ってきた震えに、クレタは両手で応えた。
「あいつらを連れて帰るんだ。お前も、一緒に来い!」
踏み込む。
怪物のアームを押し上げ、懐へ白い機体を滑り込ませる。逃れようとした鋼鉄の脚が床を掻いたが、クレタは止まらなかった。
敵の背がモニュメントへぶつかった。
石材が割れ、頭上から降り注ぐ。反動で離れかけた巨体を押し留め、クレタは機体の足をもう一歩進めた。
怪物の尾が動く。
仲間の方へ向けさせる前に、胴ごと押し込む。回転刃が白い装甲を削り、操縦席へ耳障りな音が響いた。
クレタは身を低くしたまま、前を見続けた。
モニュメントに亀裂が広がっている。敵の体も、ユウトが傷つけ、仲間たちが壊した箇所から歪み始めていた。
そこへ、ゲローイの力を叩き込む。
裂けた装甲が折れ曲がった。
紫の光が激しく明滅し、押し返していた力が崩れる。クレタはその一瞬に機体を前へ送り、怪物をモニュメントへ押し潰した。
巨体が沈んだ。
石と金属が弾け、操縦席を凄まじい振動が襲う。クレタは歯を食いしばり、操縦桿を握ったまま耐えた。
やがて、回転刃の音が止まった。
脚が床を掻く音も、聞こえなくなる。
目の前に残ったのは、崩れた石材の下で動かなくなった怪物と、それを押さえる白い腕だった。
クレタは荒い息を吐いた。
警告音は鳴っている。機体は傷だらけだ。それでも、最後まで動いてくれた。
操縦桿を握る指を、ゆっくりと緩める。
「……ありがとな」
誰に向けた言葉なのか、自分でもはっきりしなかった。
通信の向こうで、仲間たちが名前を呼んでいる。
クレタは顔を上げ、返事をした。
◇
クレタの声を聞いて、あかりはようやく端末を下ろした。
アンドーがプロトタイプへ駆けていく。ベンは落下物を確かめながらその後を追い、ユウトも周囲の残骸へ目を配っていた。
あかりはケースの前に膝をつき、留め具を外した。
中には3つの回収器が並んでいる。外殻は傷だらけで、最後の1つには深い焦げ跡が残っていた。だが、閉じた保護殻の内側からは、それぞれ反応が返ってくる。
「グレースさん」
差し出した端末を、彼女が受け取った。
1基ずつ状態を確かめる。その間、あかりは何も言わずに待った。戦っている時より、その沈黙の方が長く感じられた。
やがてグレースが、ゆっくりと息を吐いた。
「うん。3人とも、ちゃんと連れて帰れる」
あかりの肩から力が抜けた。
「まだ、返事はしてくれないけど……」
「無理に起こさなくていい。まずは落ち着けるところへ運ぼう。あとは私の工房で、じっくり診てあげるさ」
グレースは回収器の外殻を撫でてから、あかりへ顔を向けた。
「ありがとう。君がこれを作ってくれていて、よかった」
あかりは小さく頷いた。
作っておけば役に立つかもしれないとは、思っていた。けれど、目の前で取り込まれた時には、それさえ使えないまま終わるのかと怖くなった。
ユウトが残した傷があった。
白祇重工のみんなが、その先を開いてくれた。
あかりは端末に並ぶ名前を、もう一度確かめた。
ぴょことのそのそが運搬の準備を始める。ケースの蓋を閉じ、留め具を確かめていたツイッギーと目が合い、あかりは先ほどの約束を思い出した。
「……説明は、工房に戻ってからでいい?」
「ええ。いつ作って、どう試したのか、ちゃんと聞かせてもらうわ」
あかりが小さく頷くと、ツイッギーは傷ついた回収器へ一度視線を落とした。
「でも、今は無事に帰りましょう。あかりも、この子たちも」
「うん」
少し離れたところでは、プロトタイプから降りてきたクレタを、アンドーたちが迎えていた。
あかりも立ち上がる。
帰ったら、まずこの子たちを安全な場所へ繋いであげよう。
また声を聞くために、やることはたくさんあった。