転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第33話 その手に取り戻すもの

 

 回転する刃が、床を削った。

 

 砕けた石材があかりの足元まで跳ねてくる。ぴょこに袖を引かれ、後ろへ下がると、頭上を巨大なアームが通り過ぎた。その先に残る装甲の色を見て、あかりは唇を噛んだ。

 

 ハンスたちの姿はもうない。見覚えのある部品が、紫に脈打つ結晶とともに、あるはずのない場所で動いている。

 

「後ろへ! そっちは俺が受ける!」

 

 ベンが得物を立て、降り注ぐ瓦礫を遮った。その脇をクレタが駆け抜ける。振り下ろされた脚の外へ身をかわし、床に着いた継ぎ目へハンマーを叩き込んだ。

 

「アンドー!」

 

「押忍!」

 

 追いついたアンドーが、ひび割れた装甲へドリルを押し当てる。鋼鉄が軋み、巨体の片側がわずかに下がった。

 

 しかし、頭上の回転刃は止まらない。2人を追うように、地面すれすれを横切った。

 

 クレタが跳び、アンドーが後ろへ転がる。その刃が通り過ぎた直後、ユウトが敵の側面へ走り込んだ。

 

 振り上げられた別のアームを誘い、脚の向こうへ抜ける。巨体が彼を追って向きを変えた隙に、ベンがあかりたちを下がらせた。

 

『あかり、正面を離れて。ベンが下がった側なら、まだ距離を取れる』

 

「分かった!」

 

 あかりは端末を抱え、ぴょこに促されて後ろへ下がった。のそのそが隣につき、ツイッギーも周囲を確かめながら続く。イアスはさらに後方の遮蔽物の陰に留まり、こちらの様子を見ていた。

 

 あのエーテルを浴びた直後、ユウトの動きは一瞬止まった。だが今は、攻撃の間を縫う足取りにも、仲間へ合図を送る声にも淀みはない。

 

 あかりは敵へ視線を戻した。

 

 ユウトが先に打ち込んだ一撃。その傷は、重機を取り込んだ後も残っていた。胴の一角が大きく裂け、周囲の結晶が不揃いに明滅している。

 

 端末が短く鳴った。

 

 警告音とは違う。あかりは走りながら画面を切り替え、重機たちの識別情報を開いた。

 

 消えたはずの反応が、細く走っていた。

 

「グレースさん! こっち、見て!」

 

 グレースは射撃を続けながら後退し、敵の脚が落ちる場所を避けて、あかりのそばへ来た。差し出された端末へ目を落とす。

 

「……今の、もう一度出して」

 

 あかりは記録を遡った。グレースが自分の端末と照合し、画面を拡大する。

 

 次の反応を捉えた時、その目が大きく開いた。

 

「ハンス……それに、ほかの2人も。まだ信号を出してる!」

 

「助けられんのか!?」

 

 離れたところからクレタが叫んだ。

 

 グレースはすぐには答えなかった。敵を見上げ、裂けた装甲の奥と、端末に浮かぶ反応の位置を見比べる。

 

「あの傷の周り、融合しきってない。機体の一部が元の形で残ってるんだ。コアの保護部も、まだ区別できるかもしれない」

 

 あかりも顔を上げた。

 

 割れた結晶の間に、黒い金属枠が見える。敵が身を捩るたびに隠れてしまうが、その周囲だけは、部品同士が噛み合わずに軋んでいた。

 

 ユウトの一撃が、ここまで残っている。

 

「でも、あのままじゃ取り出せないね。外側を剥がして、コアの周りを確かめないと」

 

「回収する道具ならある!」

 

 あかりはのそのその背負う機材ケースを開けた。

 

 中には、3つの白い回収器が収まっている。折り畳まれた固定爪と作業アーム、コアを包むための保護殻。その後ろから伸びる回収索は、ケースの巻き取り装置に繋がっていた。

 

 グレースが、その構造をひと目で追った。

 

「周りの部材ごと切り取って、収めるのかい?」

 

「うん。中に残ってるコアを、機体ごと運べない時でも助けられるように。……内緒で作ってたんだ」

 

 ツイッギーが、開いたケースとあかりを交互に見た。

 

「……いつの間に、こんなものを作っていたの?」

 

「えっと、それは――」

 

「詳しい話は終わってから聞くわ。今は、これを運べばいいのね?」

 

 あかりは一瞬目を逸らしかけ、すぐに頷いた。

 

 ツイッギーはそれ以上追及せず、のそのそとケースを下ろした。倒れたコンクリート塊の陰へ据え、あかりが巻き取り装置を起動する。

 

 3つの表示が順番に灯った。

 

「この外殻も、ずっと侵蝕に耐えられるわけじゃない。取り付けたらすぐに切り離して、引き戻す。コアの場所まで露出させてもらえれば、あとは私がやる」

 

「分かった。どこを壊せばいい?」

 

 戻ってきたユウトが、あかりの横で足を止めた。

 

 グレースが端末を彼へ向ける。

 

「まずはこの裂け目。ただし、奥まで突き通さないで。中にあの子たちがいる」

 

「外側だけだな」

 

「うん。私も前へ出る。形が見えれば、もっと正確に指示できるよ」

 

 あかりは最初の回収器をツイッギーへ渡し、カメラを起動した。端末に映った景色が、運ばれる回収器と一緒に動く。

 

「索も繋がってる。無理に引かれないよう、自動で送り出すから」

 

「分かったわ。渡したら、引っ掛かるものがないか見る」

 

 ユウトが傷口のある側を指した。

 

「こっちから来てくれ。脚が落ち着くまでは、近づくなよ」

 

 ツイッギーが頷くと、クレタがハンマーを肩へ担ぎ直した。

 

「聞いたな! まず脚を崩すぞ。あんな高さじゃ手も届かねえ!」

 

 グレースの射撃が、敵の脚へ集中した。

 

 アンドーが先ほど傷つけた箇所へ踏み込み、回転するドリルを押し当てる。今度は無理に留まらず、金属が裂けたところで身を引いた。

 

 その後ろから、クレタが飛び込んだ。

 

 頭上のアームが動く。

 

 ベンが前へ出て、落ちてくる先端を得物で受けた。衝撃に足が滑る。それでも角度を変え、押し潰される前に横へ流す。

 

「社長!」

 

 クレタがベンの得物を踏んで跳び上がった。振り下ろしたハンマーが継ぎ目を打ち、割れた装甲の下で支持部が折れる。

 

 巨体が傾いた。

 

 胴が下がった瞬間、ユウトが裂け目へ取りついた。垂れ下がる金属板へ武器を差し入れ、外へ捻り上げる。露出した結晶の付け根をグレースの弾丸が砕き、重い破片が落ちた。

 

 ベンがアームを押し返している間に、ツイッギーが側面から接近した。差し出された回収器をユウトが受け取り、カメラを裂け目へ向ける。

 

「ユウト、右手側を見て!」

 

 グレースの声に、ユウトがカメラの向きを変える。

 

 あかりの画面にも、角張った保護部が映った。歪んだ枠の内側で、ハンスの識別反応が重なる。

 

「見えた! それ、ハンス!」

 

 ユウトが露出した保護部へ固定爪を掛けた。回収器のカメラが近づき、潰れた金具と奥へ伸びる配線を映し出す。

 

 ツイッギーはその間に後退した。索が掛かりそうな瓦礫を避け、あかりのいる側へ通り道を確保する。

 

「外側の枠を残して切るんだ。コアには触れないように」

 

 グレースの指示を受け、あかりは切断位置を合わせた。小さな刃が回り、火花が散る。

 

 敵が身を起こそうとした。

 

「まだ早え!」

 

 アンドーが、折れた支持部へドリルを打ち込んだ。反対側ではクレタが脚を叩き、立ち直ろうとする巨体をもう一度崩す。

 

 最後の接続が切れた。

 

 回収器の保護殻が閉じ、あかりは巻き取りを作動させる。ユウトが爪の離脱を確かめて手を離すと、白い機体は胴から滑り落ち、張った索に導かれて地上へ戻った。

 

 ツイッギーが途中で受け止め、残りの距離を運んで戻る。その背後で、敵の脚が地面を叩いた。ぴょこはあかりの前に立ち、飛んでくる破片を警戒していた。

 

「ハンス、回収できた!」

 

「よっしゃ! あと2人だな!」

 

 アンドーの声に頷きながら、あかりは保護殻の状態を確かめた。反応はある。閉鎖も正常。

 

 ケースの収納部へ収めると、胸に詰めていた息がようやく抜けた。

 

 だが、喜ぶ間はなかった。

 

 敵の上部に光が並んだかと思うと、ミサイルが一斉に飛び出した。

 

「ミサイル! 離れて!」

 

 グレースの声に、あかりは顔を上げた。

 

 ぴょこが左へ退くよう促す。あかりは端末を掴み、のそのそとツイッギーが運ぶケースとともに、瓦礫の陰を離れた。

 

 背後で爆発が重なった。

 

 さっきまでいた場所が砕け、破片が背中を叩く。あかりは頭を下げたまま距離を取り、ぴょこの合図で身を伏せた。

 

 顔を上げると、グレースも射撃しながら後退していた。迫るアームを横へのステップでかわし、振り抜かれた先端の後ろへ銃口を向ける。

 

「次、グレーテルが見えた! 右の装甲の裏!」

 

 グレースは息を整え、すぐに新しい位置を送ってきた。

 

 あかりはケースから2つ目の回収器を取り出し、カメラを確かめてツイッギーへ渡した。

 

 今度は露出した傷を、敵自身のアームが塞いでいた。近づけば薙ぎ払われる。遠ざかれば装甲の陰に隠れる。

 

 ツイッギーはユウトの合図を待って側面へ回り、回収器を渡した。ユウトがグレースへ目を向ける間に、来た道へ退いて索の通りを確かめる。

 

「腕を振らせる。見えたところを頼む」

 

「任せて」

 

 彼は敵の正面へ出た。

 

 アームが持ち上がるのを見届け、横へ走る。追って振るわれた先端をくぐった瞬間、傷口が開いた。

 

 グレースの射撃がそこへ飛び込む。

 

 あかりは画面を凝視した。狙っているのはコアではない。覆い被さった薄い装甲の縁だ。数発が同じ箇所を打ち、剥がれかけた板が外へ跳ねる。

 

「見えたよ!」

 

 敵がアームを戻すより早く、ユウトが回収器を押し当てた。

 

 爪が固定される。あかりはすぐに切断を始めた。

 

 その頭上で、長い尾が持ち上がる。

 

 先端に光が集まり、あかりは思わず顔を上げた。

 

「尾が光ってる!」

 

 あかりが叫ぶのと同時に、床へ光線が走った。

 

 ユウトが跳び退く。照射された場所が遅れて爆ぜ、索の近くへ瓦礫が落ちた。

 

 ツイッギーは爆発が収まった側から回り込み、索を押さえかけていた小さな破片を取り除く。

 

「こっちは通せる! あかり、続けて!」

 

 敵が向きを変えるのに合わせ、巻き取り装置から索が送り出されていく。

 

 あかりは回収器の映像に目を戻した。グレースが通信で指定した最後の接続を切り、保護殻の閉鎖を確認する。

 

「引くよ!」

 

 白い機体が装甲から離れたところへ、戻ってきたアームが迫った。

 

 ベンが割って入った。

 

 先端を正面から止めず、得物を沿わせて外へ押しやる。その間を回収器が抜け、ツイッギーのいる側へ戻った。

 

 あかりが巻き取りを止めると、ツイッギーが抱えてケースへ運んでくる。

 

「グレーテルも取れた!」

 

 ベンが頷き、敵へ向き直る。

 

 あかりは3つ目の識別表示を開いた。フライデーの反応は、傷口のさらに上にある。そこだけは厚い金属塊に覆われ、外からコアの位置を確かめられなかった。

 

「最後のところ、まだ見えない……!」

 

 グレースが撃ち込んでも、表面で火花が散るだけだった。

 

 アンドーが近づこうとしたが、敵は傷ついた脚を庇うように体を捻り、回転刃を低く構える。クレタも反対側へ回る。しかし、尾の先が彼女を追って動いた。

 

 ユウトが床へ掌をついた。

 

 土と石がせり上がり、照射された光を一瞬遮る。その壁が砕けるまでにクレタは射線を抜け、ユウトも横へ走って次の攻撃をかわした。

 

 あかりは端末を握り締めた。

 

 近づくだけでは足りない。残った覆いを壊す間、あの巨体を止めなくてはならない。

 

 クレタが白いプロトタイプへ目を向けた。

 

「ベン! 少し任せる!」

 

 彼女の走る先を見て、ベンが頷いた。

 

「分かった。こっちは持たせる!」

 

 あかりは最後の回収器の固定爪とカメラを確かめ、ツイッギーへ渡した。フライデーの反応は、まだ消えていない。

 

 前方ではユウトがプロトタイプへ目を向けている。

 

「動いたら、俺が上がる。グレース、切り離す場所を教えてくれ」

 

「分かった。アンドー、私と来て!」

 

「押忍! 今度こそ、あいつを引っぺがしてやるぜ!」

 

 駆動音が響いた。

 

 白い機体が立ち上がり、巨体へ向けて踏み出す。怪物のアームとぶつかった瞬間、床を伝わって衝撃が来た。

 

 あかりはケースへ手をつき、画面が揺れるのを押さえた。

 

 プロトタイプが敵へ組みついた。

 

 ツイッギーが側面へ走り、待っていたユウトへ回収器を渡す。彼が受け取るとすぐに、索を残して後ろへ退いた。

 

 クレタが押し込むと、厚い金属塊の下に亀裂が開く。

 

「そこだ! 下から押し上げて!」

 

 グレースの指示に、アンドーが踏み込んだ。ドリルが隙間へ食い込み、装甲の縁が持ち上がる。グレースは露出した接続部へ射撃を加えた。

 

 覆いが剥がれた。

 

 ユウトが傾いた脚を足場に上がり、残った細い金属片を断つ。あかりの画面に、フライデーの保護部が映った。

 

「確認した! そこに付けて!」

 

 最後の回収器が固定された。

 

 あかりは切断位置を合わせる。枠が歪んでいるため、ハンスたちと同じ角度では刃が入らない。グレースが映像を確かめ、残す部分を指示した。

 

 プロトタイプが前へ進む。

 

 敵は抵抗し、身を捩った。刃が噛み込み、回収器が大きく揺れる。あかりはいったん刃を引き、反対側から切り込んだ。

 

「おチビちゃん、そのままモニュメントの方へ!」

 

 グレースの声が響く。

 

 だが、白い機体の動きが鈍った。接触している腕から紫の光が這い上がり、装甲の間に結晶が浮かんでいる。

 

 あかりは息を呑んだ。

 

 それでも、操作する手は止めなかった。ここで迷えば、クレタが耐える時間を増やしてしまう。

 

 残る接続は1か所。

 

「そこでいい。切り離して!」

 

 グレースの声を受け、あかりは刃を送った。

 

 金属が切れ、コアを囲む保護殻が閉じる。

 

「回収する!」

 

 索を巻き取る。

 

 ところが、離れた回収器の爪に、千切れ残った金属片が引っ掛かった。

 

 あかりはすぐに巻き取りを止めた。

 

「爪が――」

 

「見えてる!」

 

 ユウトが武器を差し入れ、引っ掛かった部分を外へ弾いた。自由になった回収器を抱え、敵の側面から跳び下りる。

 

 ベンが得物を構え、その着地を狙った打撃を受け流した。

 

 ユウトは間合いを抜けたところで、待っていたツイッギーへ回収器を託した。ベンと並んで敵へ向き直り、その退路を守る。

 

 あかりは索を巻き収めながら、端末に届いた表示を確かめた。閉鎖は正常。フライデーの反応もある。

 

 戻ってきたツイッギーが最後の回収器を収納部へ収め、留め具を閉じた。

 

「3基とも回収! みんな、離れて!」

 

 声に出した途端、膝から力が抜けそうになった。

 

 けれどまだ、クレタが戦っている。

 

『あかり、全員揃ってる?』

 

 アキラの問いに、あかりはぴょこたちを見回した。

 

「うん! 今から下がる!」

 

 ぴょことのそのそがケースを運び、ツイッギーがあかりのそばにつく。前衛が確保してくれた側から、全員で距離を取った。

 

     ◇

 

 救出完了の声が、操縦席へ届いた。

 

 クレタは短く息を吐き、操縦桿を握り直す。前方の表示には、まだ仲間たちが映っていた。ベンが最後尾を守り、アンドーが振り返りながら走っている。

 

 こいつを、あっちへ行かせるわけにはいかない。

 

「姉貴、全員下げろ! こっちはあたしがやる!」

 

 出力を上げる。

 

 だが、押し込んだ操縦桿に対して、機体の反応は遅かった。

 

 侵蝕を知らせる警告が重なる。敵のアームを押さえる腕が軋み、足が後ろへ滑り始めた。

 

 モニュメントは、あと少しだ。

 

 怪物の胴が持ち上がり、プロトタイプの腕へさらに重さが掛かる。クレタは歯を食いしばって踏ん張った。操縦席が激しく揺れ、肩が座席へ打ちつけられる。

 

「ここまで来て、止まってんじゃねえよ……!」

 

 もう一度、操縦桿を押した。

 

 父も、この席に座っていた。

 

 会社の金を持って逃げたのだと、ずっと思っていた父が、この機体を買い、ここまで運んできた。何があったのか、すべて分かったわけではない。それでも今、自分が握っている操縦桿の先には、父の残したものがある。

 

 幼い頃に見上げた、白い機体。

 

 名前を付けたのは自分だった。呼べば応えてくれると、父は言っていた。

 

 クレタは顔を上げた。

 

「ゲローイ……!」

 

 滑っていた脚が、床を掴んだ。

 

 機体の奥から低い駆動音が響く。操縦桿を通して返ってきた震えに、クレタは両手で応えた。

 

「あいつらを連れて帰るんだ。お前も、一緒に来い!」

 

 踏み込む。

 

 怪物のアームを押し上げ、懐へ白い機体を滑り込ませる。逃れようとした鋼鉄の脚が床を掻いたが、クレタは止まらなかった。

 

 敵の背がモニュメントへぶつかった。

 

 石材が割れ、頭上から降り注ぐ。反動で離れかけた巨体を押し留め、クレタは機体の足をもう一歩進めた。

 

 怪物の尾が動く。

 

 仲間の方へ向けさせる前に、胴ごと押し込む。回転刃が白い装甲を削り、操縦席へ耳障りな音が響いた。

 

 クレタは身を低くしたまま、前を見続けた。

 

 モニュメントに亀裂が広がっている。敵の体も、ユウトが傷つけ、仲間たちが壊した箇所から歪み始めていた。

 

 そこへ、ゲローイの力を叩き込む。

 

 裂けた装甲が折れ曲がった。

 

 紫の光が激しく明滅し、押し返していた力が崩れる。クレタはその一瞬に機体を前へ送り、怪物をモニュメントへ押し潰した。

 

 巨体が沈んだ。

 

 石と金属が弾け、操縦席を凄まじい振動が襲う。クレタは歯を食いしばり、操縦桿を握ったまま耐えた。

 

 やがて、回転刃の音が止まった。

 

 脚が床を掻く音も、聞こえなくなる。

 

 目の前に残ったのは、崩れた石材の下で動かなくなった怪物と、それを押さえる白い腕だった。

 

 クレタは荒い息を吐いた。

 

 警告音は鳴っている。機体は傷だらけだ。それでも、最後まで動いてくれた。

 

 操縦桿を握る指を、ゆっくりと緩める。

 

「……ありがとな」

 

 誰に向けた言葉なのか、自分でもはっきりしなかった。

 

 通信の向こうで、仲間たちが名前を呼んでいる。

 

 クレタは顔を上げ、返事をした。

 

     ◇

 

 クレタの声を聞いて、あかりはようやく端末を下ろした。

 

 アンドーがプロトタイプへ駆けていく。ベンは落下物を確かめながらその後を追い、ユウトも周囲の残骸へ目を配っていた。

 

 あかりはケースの前に膝をつき、留め具を外した。

 

 中には3つの回収器が並んでいる。外殻は傷だらけで、最後の1つには深い焦げ跡が残っていた。だが、閉じた保護殻の内側からは、それぞれ反応が返ってくる。

 

「グレースさん」

 

 差し出した端末を、彼女が受け取った。

 

 1基ずつ状態を確かめる。その間、あかりは何も言わずに待った。戦っている時より、その沈黙の方が長く感じられた。

 

 やがてグレースが、ゆっくりと息を吐いた。

 

「うん。3人とも、ちゃんと連れて帰れる」

 

 あかりの肩から力が抜けた。

 

「まだ、返事はしてくれないけど……」

 

「無理に起こさなくていい。まずは落ち着けるところへ運ぼう。あとは私の工房で、じっくり診てあげるさ」

 

 グレースは回収器の外殻を撫でてから、あかりへ顔を向けた。

 

「ありがとう。君がこれを作ってくれていて、よかった」

 

 あかりは小さく頷いた。

 

 作っておけば役に立つかもしれないとは、思っていた。けれど、目の前で取り込まれた時には、それさえ使えないまま終わるのかと怖くなった。

 

 ユウトが残した傷があった。

 

 白祇重工のみんなが、その先を開いてくれた。

 

 あかりは端末に並ぶ名前を、もう一度確かめた。

 

 ぴょことのそのそが運搬の準備を始める。ケースの蓋を閉じ、留め具を確かめていたツイッギーと目が合い、あかりは先ほどの約束を思い出した。

 

「……説明は、工房に戻ってからでいい?」

 

「ええ。いつ作って、どう試したのか、ちゃんと聞かせてもらうわ」

 

 あかりが小さく頷くと、ツイッギーは傷ついた回収器へ一度視線を落とした。

 

「でも、今は無事に帰りましょう。あかりも、この子たちも」

 

「うん」

 

 少し離れたところでは、プロトタイプから降りてきたクレタを、アンドーたちが迎えていた。

 

 あかりも立ち上がる。

 

 帰ったら、まずこの子たちを安全な場所へ繋いであげよう。

 

 また声を聞くために、やることはたくさんあった。

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