転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
クレタから記憶素子を預かってからも、Random Playの営業はいつもどおり続いていた。
ニコには暗号を解ける専門家を探してもらっている。返事を待つ間にも、返却されたビデオは積み上がるし、新しく仕入れた作品には棚の場所を空けなければならない。
ユウトがケースを揃えていると、店の扉が開いた。
免許更新に出掛けていたアキラと、付き添いのリンだった。予定より遅い帰宅に顔を上げると、リンが片手を振る。
「ただいま。ごめんね、店番、長くなっちゃって」
「こっちはいいけど、何かあったのか?」
アキラが妹を見てから、ユウトへ向き直った。
「車の事故があってね。リンが巻き込まれそうになったんだ」
ユウトはケースを置いた。慌ててリンが両手を振る。
「怪我はないよ! 治安官の人が助けてくれたから」
「……そうか。よかった」
それでも顔から足元まで確かめずにはいられなかった。アキラも、帰り道で何度も同じことをしたのだろう。リンは少し困った顔をしたが、急かさずに待っていた。
2人はルミナスクエアで暴走車に遭遇し、朱鳶と青衣に助けられたという。ルミナ分署で調書の作成などに協力していたため、帰りが遅くなったらしい。
その名前を聞き、ユウトはアキラと目を合わせた。
「白祇の現場に来た、あの2人か」
「ああ。向こうにとっては初対面だけどね」
「危うく、どこかで会ったって言っちゃうところだったよ」
リンが小さく肩をすくめ、スタッフルームへ向かった。
店の方を片づけてから合流すると、机にはアンケートが置かれていた。治安パトロール強化月間の安全講習に関するものだ。
朱鳶と青衣はその準備でルミナ分署へ派遣されており、近いうちに六分街にも来るらしい。
「2人とも、あの現場から外された後でこれを任されたんだよね」
リンが用紙を指した。アキラは頷き、椅子の背へ寄り掛かる。
「僕たちも参加してみないか。助けてもらったお礼もしたいし」
「うん。私も賛成」
「なら、俺も顔を出すよ。リンを助けてもらった礼を言いたい」
ユウトは、用紙に載っているブリンガーの顔へ一度目を落とした。それからリンへ向き直る。
「今日はもう休め。記入は明日でもできるだろ」
「分かってるって。……晩ご飯は、ちゃんと食べたいけど」
「その元気があれば大丈夫そうだな」
アキラが笑った。ユウトも頷き、先にキッチンへ向かった。
◇
後日、六分街へ来た朱鳶と青衣を訪ねた際、ユウトも兄妹と一緒に挨拶をした。
アキラから副店長だと紹介され、改めてリンを助けてもらった礼を伝える。白祇重工の現場では社員の姿に変化していたため、2人とも、彼とは初めて会う相手として言葉を返した。
講習の準備は、難航していた。
近所との付き合いがある兄妹たちもアンケート配りを手伝ったが、顔馴染みを訪ねても返事は芳しくない。最後に会ったチョップ大将も、参加を断った。
理由を尋ねると、大将はチラシに刷られた男の顔を指した。
ブリンガーは、かつて住民に慕われた現場の治安官だった。それがホロウでの救援活動から生還し、出世していくうちに変わってしまったという。今では市民のためと言いながら、TOPSの企業を潤すことばかりしている、と。
今回の講習も、選挙に向けた宣伝に見えるのだろう。
アキラは無理に参加を勧めず、話してくれたことへ礼を言った。
結果を伝えに戻る途中、朱鳶と青衣の会話が聞こえてきた。名前を呼ぼうとしたリンが足を緩め、ユウトたちもその横で立ち止まる。
「長官が私を救ってくださらなかったら、私は今ここにいません。あの方は、自分の対侵蝕装備を子供に譲ってくれたんです」
朱鳶は手元のアンケートへ視線を落としていた。
評判がよくないことは知っている。それでも、自分を守るために危険を引き受けた人を、簡単に悪人だとは思えない。
そんな彼女の話を聞き、青衣が口を開いた。
「『義を見てせざるは、勇なきなり』。我らもまず、治安官として何をなすべきか、見失わぬことじゃ」
朱鳶が顔を上げる。
「長官への評価は人によって違おう。だが、ぬしがなすべき仕事まで変わるわけではあるまい」
「……はい、先輩」
ユウトはアキラを見た。彼も頷き、そこで初めて2人へ声を掛ける。
訪ねた相手には断られてしまったと伝えると、朱鳶は取り次いでくれただけでもありがたいと答えた。
そのまま局へ戻ろうとする2人を呼び止めたのは、息を切らせて駆けてきたチョップ大将だった。
近くで騒ぎが起きているという言葉に、朱鳶はすぐ顔つきを変えた。青衣とともに現場へ急ぐのを、ユウトたちも追った。
天馬エクスプレスのトラックから、積み荷のアヒルが逃げ出していた。
運転手のゲールは、近くにいた雑貨店のボンプ、オツリが荷台を開けたのだと疑っている。ティンはオツリを庇い、互いの主張がぶつかっていた。
朱鳶たちはまず双方の話を聞き、騒ぎを収めた。そのうえで、住民たちと一緒に逃げたアヒルを捜すことになった。
ユウトも兄妹と手分けして通りを回った。アヒルを追う途中で出てきた車両の不具合や、ボンプたちの異常については、朱鳶たちへ伝える。
捜査の末、騒ぎの背後にEMP発生装置を持つ男が浮かび上がった。
男がホロウへ逃げ、朱鳶たちも後を追ったところで、3人は店へ戻った。
「僕たちも手伝わないか。あの装置を、また追跡の邪魔に使うかもしれない」
アキラの言葉に、リンが頷いた。
「賛成。でも、見つかったらこっちまで追われない?」
「できれば、気づかれずに手を貸したいね」
「俺とイアスで距離を取ってついていこう。2人が捕まえられそうなら、そのまま引き上げればいい」
ユウトが言うと、アキラは機器へ目を向けた。
「それでいこう。リン、こちらの補助を頼む」
「任せて。これ以上、街で好き勝手されたら困るもん」
ユウトは装備を整え、銀髪の忍者へ変化した。アキラが操作するイアスとともにホロウへ入り、2人に気づかれない距離を保って追跡を支える。
犯人が設備を作動させて道を塞いだ時には、別の制御盤へ回り込んだ。ユウトが通路を見張る間にアキラが回路を修復し、朱鳶たちが進めるようにする。
犯人は使い続けたEMPでエーテリアスまで引き寄せ、最後には追ってきた2人に救助されてから逮捕された。
救助された男が震える声で名前を告げるのを、ユウトは物陰で聞いていた。
カルロ・モロン。
青衣が辺りを見回し始めたので、ユウトはイアスに合図し、その場を離れた。
◇
モロンを局へ連行した朱鳶たちが六分街へ戻る頃には、ユウトも普段の姿に戻っていた。
兄妹とトラックの近くへ行くと、2人が逮捕の顛末を説明している。
モロンは車を盗むつもりで装置を使い、操作に不慣れなせいで、周囲にまで異常を起こしていたという。オツリの疑いも晴れ、運転手のゲールも安堵していた。
捜査はそこで終わりではなかった。モロンが所属する強盗団について、さらに取り調べる必要があるらしい。
朱鳶たちが戻ろうとした時、チョップ大将が声を掛けた。
隣にいたティンが、記入済みのアンケートを差し出す。
「先ほど、近所の皆さんと相談しました。講習には、私たちも参加させていただきます」
「えっ……本当ですか?」
朱鳶が受け取った紙へ目を落とした。
ティンはオツリの疑いを晴らしてくれたことに礼を述べ、朝の対応を詫びた。チョップ大将も、少し照れたように頭を掻く。
「ブリンガーに言いたいことは、今でも山ほどあるさ。けど、それで嬢ちゃんたちの仕事まで邪魔するんじゃ、おかしな話だろ」
「ありがとうございます。皆さんに来ていただけるなら、とても助かります」
朱鳶の声が弾んだ。青衣も、その手元のアンケートを見て目を細める。
ユウトの隣で、リンがアキラの袖を引いた。
「よかったね、お兄ちゃん」
「ああ。2人が頑張ったのを、みんな見ていたんだね」
ユウトも頷いた。
オツリはもう、責められていた時のように身を縮めていなかった。住民たちの間から顔を出し、治安官たちへ何度も頭を下げている。
朱鳶がその前にしゃがみ、何か声を掛けた。オツリが勢いよく頷くのを見て、ユウトもようやく笑った。
◇
講習当日、3人で訪れたルミナ分署の前は賑わっていた。
六分街の住民たちも顔を揃え、朱鳶によれば、ほかの街区で宣伝までしてくれたらしい。アキラが声を掛けると、彼女は嬉しそうに答えた。
そこへ別の治安官が報告書を持ってきた。
モロンが供述した、ホロウ内の地点。その座標に目を通した青衣が、ふと手を止める。
「すまぬな。少し朱鳶と話がある。ぬしらは先に会場へ入っておれ」
2人は離れた路地へ移った。
リンが、その背中を気にしている。
「何か、変じゃなかった? さっきまで楽しそうだったのに」
「モロンの話が出た途端だったね」
アキラも報告書が運ばれてきた方を見た。ユウトは路地へ視線を戻す。
「少し様子を見よう。あの事件の続きなら、俺たちにも関係がある」
3人は近くへ回り、壁の陰で足を止めた。
青衣が気づいたのは、強盗団の下見した地点と、怪物の残骸を運ぶ自動輸送車の経路が重なっていることだった。
ユウトは息を潜め、続きを聞いた。
装置には車両の警備を破るための改造が施され、強盗団はエーテル物質用の密閉容器も仕入れていた。そして輸送車には、ホロウ内で不自然に停まっていた記録がある。
すでに証拠品を持ち去られていても、おかしくなかった。
朱鳶はすぐ報告しようとしたが、青衣が止めた。ホロウの構造変化による停車もあり得るため、記録だけでは襲撃の証拠にならない。加えて、回収の日時や経路は機密だった。
強盗団が前もって下見していたなら、治安局の内側から情報が流れていたのかもしれない。
「今ここで報告すれば、向こうにも伝わるやもしれぬ。我が直接確かめよう」
「待ってください、先輩。それでは服務規定に反します。それに、1人では危険です」
青衣は朱鳶に講習を任せようとした。間もなくブリンガーが到着する。準備を重ねた行事で、朱鳶には上司とともに壇上へ出る予定もあった。
ユウトは隣のアキラを見た。彼は黙ったまま、2人の会話を聞いていた。
遠くで、長官の到着を知らせる声が上がる。
歩き出そうとした青衣を、朱鳶が呼び止めた。
「『義を見てせざるは、勇なきなり』。先輩が、そう教えてくれたじゃないですか」
青衣が振り返った。
「私が治安官になったのは、長官に褒めてもらうためではありません。あの時の長官のように、誰かを守れる人になりたかったからです」
朱鳶は青衣の隣へ並んだ。
「私も行きます。一緒に証拠品を守りましょう」
2人が路地を出ていくまで、ユウトたちは動かなかった。
姿が見えなくなると、リンが小さく息を吐く。
「あの怪物の証拠まで危ないなら、放っておけないよね」
「うん。前と同じように、できるだけ支えよう」
「まず店へ戻ろう。俺もすぐに準備する」
ユウトの言葉に兄妹が頷く。
戻ると、アキラとリンはH.D.Dを起動した。ユウトも装備を整えて変化を済ませ、イアスを連れて再び出た。
◇
朱鳶たちが輸送車へ向かう間、アキラとリンはFairyの力も借りて、密かに2人の移動を支えた。
ユウトはイアスとともに後を追い、車両へ辿り着いた2人を物陰から見守った。
外からは異常がないように見えた。だが、内部を調べた青衣が、証拠品の箱に違和感を見つける。封の位置と、箱から感じるエーテルの気配が違うという。
証拠品はすり替えられていた。
その直後、近くの壁の向こうから銃撃が浴びせられた。
朱鳶たちは即座に身をかわし、反撃した。前へ出ようとする敵を朱鳶が抑え、青衣が脇から迫る相手を打ち倒す。
だが、退路へも別の一団が回り込んでいた。
ユウトはイアスを遮蔽物の陰へ入れた。壁越しに銃声を聞きながら、通信機へ声を落とす。
「このままだと、どちらかが囮になりかねないぞ」
『道は探せる。でも、前みたいに設備を動かすだけじゃ、2人に伝わらないね』
アキラが答えた。続いてリンの声が入る。
『通信を繋いだら、プロキシだって分かっちゃう。相手は治安官だよ』
『……うん。それでも、助けたい。帰ってから何ができたか考えるのは嫌だから』
銃声が重なった。
ユウトは隙間から向こうを窺い、朱鳶たちの位置を確かめる。
「声を掛けるなら、こっちも合わせて動ける。イアスは俺が守る」
『分かった。私も手伝う。Fairy、2人の無線に繋げられる?』
リンの問いに応答が返り、接続の準備が進んだ。
ユウトは通信を聞くための受信機を確かめ、イアスへ目を向ける。小さな頭が頷いた。
『2人とも。ここから抜ける道を案内するよ』
アキラが呼び掛けた。
朱鳶が周囲を見回し、青衣も一瞬こちらのいる方へ顔を向けた。声の主を探しているのだろう。ユウトはまだ姿を出さず、次の指示を待った。
『無線に何者かが……あなたは誰ですか?』
『プロキシだよ。今、君たちの近くにいる。このまま見過ごせなくてね』
青衣が何をするつもりかと尋ねると、アキラは短く答えた。敵の注意を逸らし、その隙に裂け目へ向かってもらう。
ユウトにも、専用の通信で位置が伝えられた。
イアスを物陰で待たせ、低く身を屈めて移動する。横合いから見張っていた男の背後へ回り、武器を持つ腕を押さえ込んだ。引き倒すと、近くの敵がこちらへ振り向く。
飛んできた弾丸を壁の陰へかわしながら、ユウトは声を上げた。
「今だ!」
朱鳶の射撃が残った敵を押し戻し、青衣がその横を駆け抜けた。ユウトもイアスのもとへ戻り、抱き上げて走る。
アキラが示した裂け目の先へ逃れ、さらに追手を撒いたところで、ようやく足を止めることができた。
下ろされたイアスを見て、青衣の目が細くなる。
「ぬしは、白祇重工の現場におったボンプではないか」
ユウトは口を挟まず、2人の出てきた通路へ目を向けていた。
朱鳶もイアスを見た。
「ボンプを通じて、ホロウの外から案内するプロキシ……もしかして、パエトーンですか?」
『そう。僕たちがパエトーンだよ』
「では、白祇重工の通報を受けた時も、ぬしは我らの話を聞いておったのだな」
『あの日は、白祇重工の依頼で捜し物を手伝っていたんだ。そこで、あの怪物に遭遇した』
アキラは無線を通じて、怪物について調べたい理由があると伝えた。
『証拠がH.A.N.Dへ渡れば、何か分かるかもしれない。途中で奪われるのは、僕たちも困るんだ』
「そちらの方も、お仲間ですか?」
『ああ。同行してもらっている護衛だよ』
朱鳶の視線を受け、ユウトは頷いた。青衣も彼を一度見てから、相棒へ向き直る。
「朱鳶よ。緊急時には、身元の調査を待たずとも、市民を協力者に任命できるという規定があったな」
「先輩、それは……」
『僕たちからも頼みたい。証拠品を取り戻すために、協力させてくれないかな』
朱鳶はユウトとイアスを見た。それから姿勢を正し、頷く。
「パエトーン。証拠品の奪還に、協力をお願いします」
『引き受けるよ。相手の数が多くても、ホロウの中ならやりようはある』
ユウトもイアスの隣へ並んだ。
先ほどまで撃ち合っていた場所へ、同じ道で戻る必要はなかった。
その後の捜索では、朱鳶と青衣が現場の痕跡を拾い、アキラたちが経路を調べた。残された記録や足跡を照らし合わせ、奪われた証拠品の行方を絞り込んでいく。
ユウトはイアスのそばで周囲を警戒し、移動のたびに後方を確かめた。
追手の待つ道を避け、強盗団の先へ回る。足並みの乱れた敵へ、朱鳶と青衣が踏み込んだ。
朱鳶の射撃に敵が身を伏せると、その間に青衣が距離を詰めた。電撃を帯びた一撃が武器を弾き、反撃しようとした別の男を朱鳶が止める。
ユウトは側道から回ってきた敵を迎え撃ち、イアスへ向けさせる前に銃口を逸らした。手首を捻って武器を落とさせ、壁へ押しつける。
その向こうで、朱鳶が確保した箱へ駆け寄った。
中身を調べた青衣が頷いた時、ユウトもようやく肩の力を抜いた。
◇
出口が近づくと、アキラが別れを切り出した。
ユウトは立ち止まったイアスの隣で、朱鳶たちを見る。取り戻した証拠品は、確かに2人の手にあった。
『僕たちは、この辺で失礼しようと思う。今日は見逃してもらえるかな』
「助けられておいて、縄を掛けるほど薄情ではないぞ。そもそも、プロキシなら誰でも捕らえよというのも――」
「先輩。その先は控えてください」
朱鳶が咳払いをした。青衣は何食わぬ顔で口を閉じる。
「パエトーン。本日は、ご協力ありがとうございました」
『こちらこそ。少ない手掛かりから輸送車の危険に気づいて、証拠を守りに来てくれた。君たちが動いてくれて、助かったよ』
アキラの言葉を聞き、ユウトも短く会釈した。
イアスとともに歩き出しても、背後から呼び止められることはなかった。曲がり角を越えてから、通信機へ声を落とす。
「そっちは、どうだ?」
『……少し、緊張が解けたかな』
『私も。帰ってきたら、今日はもう休もうよ』
「賛成だ。店の仕事も、明日で間に合う分は明日に回そう」
リンの提案に応じると、通信越しにアキラの笑う声が聞こえた。
ユウトはイアスの歩幅に合わせ、出口へ向かった。
◇
青衣は、ボンプとその護衛が去っていった通路をしばらく眺めていた。
朱鳶が証拠品を確かめ、声を掛ける。
「先輩、私たちも出ましょう。早くこれを持ち帰らないと」
「うむ。……だが朱鳶よ。先ほどの礼、少し妙ではなかったか」
「お礼、ですか?」
青衣は、輸送車の危険に気づいて来てくれた、という言葉を思い返した。
ホロウ内で車両を見張っていただけなら、治安官が現れても通常の任務だと思うはずだ。ところがパエトーンは、2人が手掛かりから危機を察し、自ら動いたことまで知っていた。
そこを指摘すると、朱鳶も顔を上げた。
「私たちが、ホロウの外で相談していたことを……?」
「聞いておったのかもしれぬな。今日の講習会場には、随分と人が集まっておった」
それ以上は分からない。
青衣は通路から目を離し、朱鳶とともに出口へ向かった。
◇
数日後、リンが映画のケースを持ってユウトの前へ来た。
朱鳶と青衣が、今日で元の局へ戻るのだという。出発前に挨拶をして、餞別も渡したいらしい。
ケースの表紙を見て、カウンターにいたアキラが頷いた。
「『非常なる任務』か。いいと思うよ」
「でしょ? 治安官が主役だし、2人とも楽しめるかなって」
「最後に上官に逆らって、住民を守りに行くやつだな」
ユウトが言うと、リンが笑った。
「うん。あの場面、好きなんだ」
「それなら決まりだね。出発する前に届けよう」
アキラがケースを受け取り、3人で店を出た。
ルミナ分署へ着くと、朱鳶と青衣は荷物をまとめているところだった。
「おや、店長のご両人。それに副店長も。どうしたのじゃ?」
「元の局へ戻ると聞いて、挨拶に来たんだ」
アキラが答え、リンも隣から顔を出した。
「この前の講習、朱鳶さんに質問しようと思ってたのに。壇上にいなかったでしょ?」
「すみません。あの日は急に、先輩と別の事件を担当することになってしまって」
ユウトは黙って聞いていた。
詳しくは話せないけれど、事件は解決した。六分街で協力してくれたおかげだと、朱鳶は礼を言った。
アキラも、そうだったのかと頷く。
「無事に終わってよかった。そうだ、今日はこれを持ってきたんだ」
映画のケースを差し出すと、朱鳶が表紙へ目を留めた。
「治安官が主役の映画なんだ。よかったら、2人で見てほしい」
「ありがとうございます。ただ、規定がありますので、市民の方から贈り物を受け取ることはできなくて……」
朱鳶は一度言葉を切った。それから、アキラへ顔を上げる。
「ですが、お店の商品として、買わせていただくことはできますか?」
「もちろん。お買い上げ、ありがとう」
支払いを済ませた朱鳶へ、ユウトが袋を差し出した。リンは少し笑いながら、青衣を見る。
「見終わったら、感想を聞かせてね」
「うむ。朱鳶と休みが合えば、一緒に見よう」
「はい、先輩。今度は途中で呼び出されないといいですね」
「それは運次第であろうな」
朱鳶も苦笑した。
ユウトは車のそばに置かれた荷物へ目を向ける。これ以上、準備の手を止めさせるのも悪い。
アキラに目配せすると、彼も頷いた。
「それじゃ、僕たちはこの辺で。六分街へ来ることがあったら、また店にも寄ってね」
「はい。ぜひ、また」
朱鳶が答え、青衣も片手を上げた。
挨拶を済ませて分署から離れると、リンが兄の隣へ並ぶ。
「さて、お兄ちゃん。今日こそ、おいしいものを食べて帰ろうよ」
「そうだね。免許の更新に来た日は、それどころじゃなかったし」
「ユウト兄も一緒だから、いろいろ頼めるね」
「俺の腹を勘定に入れるなよ」
ユウトが返すと、リンはもう端末で店を探し始めていた。アキラがその画面を覗き込み、近くの店を指す。
ユウトは一度だけ分署を振り返った。
次に会う時も、店の客として気軽に話せればいい。
リンに呼ばれ、彼も2人の隣へ並んだ。
転生者達のエージェント秘話書くとしたら誰のを読みたいですか?
-
シーホースCEO
-
ちびリス博士
-
機械執事
-
半々医者
-
誰でもいい