転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第36話 霧の向こうの仕事仲間

 

 開店前のRandom Playで、ユウトは返却されたビデオを棚へ戻していた。

 

 昨夜のうちに確認を済ませたケースを順に差し込み、空いた棚を拭く。店の奥からは、リンがアキラを呼ぶ声が聞こえていた。テレビの録画予約を確かめてほしいらしい。

 

 もうじき、ヴィジョンの事件の裁判が始まる。

 

 カンバス通りの住民たちに代わって出廷するニコも、しばらく忙しくなるだろう。預けられた記憶素子の件を気にしながら、ユウトが最後の1本へ手を伸ばした時、脳内の掲示板に書き込みがあった。

 

【転生者掲示板】

 

「機械執事」

ご主人様から、バレエツインズでの業務を命じられた。これから先に入る。

いよいよ俺達ヴィクトリア家政の出番だな。

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

そっちに話が来たか。こっちはまだニコの返事待ちだ。

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

今度は執事おにいの職場に、副店長おにいがお邪魔するんだね!

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

あそこを職場に数えるのか。掃除する面積は考えたくないな。

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

分かる。画面越しなら好きなんだけどね、あの建物。

……うちの会場の方が楽だった?

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

来客が武器を抜かなければ、もっと楽だった。

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

そこ突く!? あれは私のせいじゃないでしょ!

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

ふふ。でも、今回は副店長も一緒にお仕事できそうね〜。

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

俺まで掃除に数えられてないか?

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

汚した分くらいは頼むよ。

 

 ユウトは小さく息を漏らし、残っていたケースを棚へ戻した。返却用の籠を片づけ、カウンターへ戻る間にも書き込みは続く。

 

 アルバートがこれからの出発時刻に触れたところで、ユウトは布巾を置いた。

 

【転生者掲示板】

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

そろそろ出発か。レインの方は、入ったら捜せそうか?

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

調査する範囲で、人のいた痕跡も確認する。今の居場所が分からないから、まずそこからだな。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

見つけたら状態を知らせろ。必要なら、帰還先まで俺が出る。

ーーーーーーーーーー

「ちびリス博士」

先生のところに機材を届けるなら、ボクも手伝えるよ。

ーーーーーーーーーー

「半々医者」

頼む。何を持っていくかは、様子を聞いてから決めよう。

ーーーーーーーーーー

「シーホースCEO」

飛行船の方も気になる。裁判の報道は私が追うわ。運航に変更があれば知らせる。

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

邪兎屋とは、搭乗後も連絡がつくようにしておく。船内で動けるやつがいるのは大きい。

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

こちらは上へ通じる経路を調べる。救助に向かうにしても、道が分からなければ動けない。

ーーーーーーーーーー

「おっとり師範」

あの子も、何か他にも知らせようとしているかもしれないものね〜。早く見つけてあげたいです〜。

ーーーーーーーーーー

「ビデオ屋副店長(仮)」

ああ。起きるのを待つつもりはないよ。

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

そっちが出る時も教えてくれ。こっちはそろそろ行ってくる。

 

 バレエツインズ。レイン。そして、裁判へ向かう飛行船。

 

 知っている出来事が近づいたからといって、目の前に同じものが並ぶとは限らない。白祇重工で見た怪物の姿が、一瞬だけ脳裏をよぎった。

 

 店の奥から、今度は自分を呼ぶ声がする。

 

「ユウト兄、ちょっと来て! ニコから連絡!」

 

「今行く」

 

 布巾を片づけ、ユウトはスタッフルームへ向かった。

 

     ◇

 

 ニコは、アンビーを連れて店へ来た。

 

 飛行船への搭乗を控えているというのに、落ち着いて待ってはいられなかったらしい。挨拶もそこそこに取り出された端末には、レインから届いたメッセージが並んでいた。

 

 どれを開いても、中身がない。

 

 それが2週間も続き、本人とは連絡がつかない。今朝になって送信の回数が増えたという説明に、リンの顔からも軽い調子が消えた。何も表示されない画面を指で示す。

 

「何か伝えたいのに、送れないのかな」

 

「その可能性はあるね。Fairy、調べられる?」

 

 アキラに応じたFairyは、本文に隠された情報はないと報告した。その一方で、送信時の位置情報から、バレエツインズ付近という場所が割り出された。

 

 ニコが露骨に顔を引きつらせる。アンビーが心霊現象の噂に触れると、すぐさま説明を遮った。

 

「その話は後でいいでしょ! 今はレインよ!」

 

「ニコが怖がるなら、後にする」

 

「怖がってないわよ!」

 

 ニコは咳払いをして、端末に別の画像を表示した。

 

「とにかく、会って確かめるしかないわね。これがレインの写真よ」

 

 画面に映った少女を見て、ユウトは手を止めた。アキラも覗き込み、驚いた声を漏らす。

 

「この子、うちによく来る……」

 

 リンも兄の横から写真を見た。

 

「通学用のリュックを背負ってる子だよね。そっか、あの子がレインなんだ」

 

 リンの言葉に、ユウトも頷いた。ケースを抱えてカウンターへ来る姿には覚えがある。その少女がホロウの中にいるかもしれないと思うと、いつもの店内が急に遠く感じられた。

 

 ユウトはメッセージの画面へ戻してもらった。繰り返し届いた空欄の下に、送信時刻だけが残っている。

 

「これ、最新の分も同じ場所か?」

 

 Fairyの肯定を聞き、ユウトはアキラと目を合わせた。

 

「確かめに行こう。返事を待つだけじゃ、何も分からない」

 

「そうだね。レインが困っているなら、力になりたい」

 

 アキラが答えると、ニコは息を吐いた。椅子へ腰を落としかけ、壁の時計を見て思い直す。

 

「あたしも行きたいところなんだけど……」

 

 リンがニコへ声を掛けた。

 

「裁判の方は頼むよ。向こうでニコを待っている人もいるんだから」

 

 ニコは悔しそうに唇を曲げた。それでも、同行させるアンビーたちへ話をつけ始める。

 

 ユウトも装備を取りに席を立った。追ってきたリンが、階段の手前で声を掛ける。

 

「ユウト兄。レイン、ちゃんと逃げ込める場所にいるといいね」

 

「そうだな。まずは居場所を突き止めよう。ニコに追加で届いた分も、見ておいてくれるか?」

 

 リンは手元の端末へ目を落とし、頷いた。

 

「うん。任せて」

 

 戻っていくリンを見送り、ユウトは階段を上がった。

 

 掲示板には、レインのメッセージと邪兎屋の予定だけを短く書き込む。アルバートからは、確認した、という返事があった。

 

     ◇

 

 ホロウへ入る前、ユウトは対岸の建物を見上げた。

 

 巨大な2棟はほとんどをホロウに呑まれ、片方の屋上だけが外へ覗いている。あそこからなら、通信が届いたことにも説明がつく。

 

 隣のイアスも顔を上げた、店で接続を済ませたアキラの声が聞こえる。

 

『屋上へ行く道を探そう。ただ、古い情報と違っている場所がありそうだ。慎重に進もう』

 

 ユウトはイアスに頷き、後ろのビリーへ振り返った。

 

「了解。ビリー、そっちは?」

 

「いつでもいけるぜ! ……なあ、ユウト。こういう時って、外で待つ係も必要だったりしねえ?」

 

 アンビーがビリーを見上げた。

 

「ニコに、レインを捜すって言ってきたばかりでしょ」

 

 猫又も腰に手を当て、ビリーの逃げ道を塞ぐ。

 

「そうそう。あたしたちだけを中に行かせる気か?」

 

「そんなこと言ってねえだろ!?」

 

 ユウトは笑い、イアスの横へ並んだ。

 

 建物の中は、思っていたよりも整っていた。

 

 踏み込んだ靴底の下で、床が鈍く光る。人の暮らす気配がないのに、足元だけは妙にきれいだった。入口ロビーには霧が溜まり、照明の届く範囲が途中で途切れている。

 

 イアスの足音に、いくつもの靴音が重なった。

 

 ユウトはイアスの横につき、ロビーを見渡した。

 

「掃除が行き届いてるな」

 

「それ、言わなきゃ駄目か?」

 

 ビリーが声を落とした。

 

「誰かいるなら、足跡が残っているかと思ってね」

 

「そういう、普通の誰かならいいんだけどよ……」

 

 ロビーに面したエレベーターの扉の前で、イアスが立ち止まった。操作盤を確かめたアキラが、スピーカー越しに事情を伝える。

 

『認証カードが必要みたいだ。今のままでは使えないね』

 

「この高さを階段で行くのは勘弁してくれよ……」

 

 ビリーが天井を仰いだ。その横で猫又の耳が動き、ロビーへ顔を向ける。

 

 霧の向こうを、細い影が横切った。

 

「今、あそこ! 何か通ったぞ!」

 

 猫又の指す先へ、アンビーが視線を走らせる。ユウトもイアスの横から目を凝らしたが、影はロビーの霧に紛れていた。

 

「レインか?」

 

『まだ分からない。確かめよう。離れずについてきて』

 

 ユウトの問いにアキラが答えると、アンビーも頷いた。

 

「どうせ、ここからは上れない。向こうに別の手段があるかもしれない」

 

「あたしが見つけたからって、あたしを先頭にするなよ?」

 

 猫又が言うと、ユウトはイアスとともに歩き出した。

 

「じゃあ後ろを頼む。何か来たら教えてくれ」

 

「後ろも来るのか!?」

 

 影の正体は、人ではなかった。ロビーの奥で姿を現したエーテリアスを排除し、周囲を調べるうちに、猫又が床に落ちていたカードを見つけた。

 

 ビリーが覗き込む横からイアスへ渡すと、アキラが認証用のものだと確かめる。

 

『これで先に進めそうだ。ありがとう、猫又』

 

「へへ。暗いところで捜し物なら、あたしに任せとけ!」

 

 胸を張った猫又に、ビリーもようやく明るい声を出した。

 

「幽霊もいなかったしな! 最初から、エーテリアスだと思ってたんだよ」

 

 アンビーは返事をせず、背後へ目を向けた。

 

「でも、まだ見られている気がする」

 

「……それ、今言う?」

 

 ビリーの声がまた小さくなる。ユウトは周囲を見渡してから、イアスへ向き直った。

 

「アキラ、今のデータで周りまで見られるか?」

 

『裂け目が多くて、まだ難しい。進みながら確かめるよ』

 

 ユウトはイアスとともにエレベーターの方へ戻りかけた。その時、アンビーがロビーの霧へ剣を向ける。

 

「待って。まだいる」

 

 霧を割ってエーテリアスが現れた。アンビーが正面から迎え撃つ間に、ビリーは左へ回り、後ろから続く敵を銃撃で押し留める。

 

 ユウトはイアスを自分の後ろへ下げた。アンビーへ向かう敵の脇を抜け、別の1体がこちらへ走ってくる。

 

「猫又、右を頼む」

 

「任せとけ!」

 

 猫又が床を蹴った。敵がそちらへ腕を振り向けたところを、ユウトは反対側から斬りつける。体勢を崩した敵へ猫又の刃が続き、その体が床へ倒れた。

 

 正面では、アンビーが最後の敵を斬り伏せていた。ビリーは銃を構えたまま、再び静かになったロビーを見回す。

 

「……これで全部だよな?」

 

 アンビーはすぐには剣を収めなかった。

 

「分からない。さっきの視線も、まだ気になる」

 

 ユウトも周囲へ目を配った。エーテリアスが倒れても、こちらを窺う気配は消えていない。

 

 入口ロビーの中央へ戻ろうと、猫又が足を踏み出した。

 

 その進路へ、大きな鋏が突き出された。

 

「猫又、止まって!」

 

 アンビーの声とほぼ同時に、猫又が後ろへ跳ぶ。鼻先をかすめた刃の向こうには、メイド服を着たサメのシリオンが立っていた。

 

 ビリーが銃口を向け、アンビーが剣を構え直す。ユウトはイアスの前へ移り、刀を低く構えた。相手の鋏は、退いた猫又を追ってこない。

 

 霧の奥から、今度はオオカミのシリオンが歩み出た。こちらの武器を一瞥しても、その歩調は変わらない。

 

「この先は私有地です。立ち入られた理由を、手短に伺いましょう」

 

 丁寧な口調だったが、通してくれる気配はない。ユウトは間合いを保ち、目の前の相手を見返した。

 

「人を捜してる。そっちの邪魔をするつもりはないよ」

 

「それを判断するのは――」

 

 言葉の途中で、金属が跳ねる音と短い悲鳴が響いた。奥から出てきた小柄なメイドが、電動ノコギリを抱えて足を踏ん張っている。

 

 オオカミのシリオンが振り返った。

 

「カリン。道具の手入れは、済ませておくよう申し上げたはずですが」

 

「す、すみません! 床の方も、その……!」

 

 猫又は目を瞬かせ、構えていた腕を下ろしかけた。

 

「カリンちゃん?」

 

「あっ、猫又様! それに、調査員様も……!」

 

 カリンの顔がぱっと明るくなる。その視線を受けて、イアスがユウトの横から顔を出した。

 

『久しぶり、カリン。君たちだったんだね』

 

 アキラの声を聞いたカリンは、上司へ慌てて説明した。以前ホロウで助けてもらった相手なのだと、猫又とイアスを交互に示す。

 

 話を聞いたオオカミのシリオンから、鋭さがわずかに薄れた。

 

「そういうことでしたか。リナ、こちらへ」

 

「ええ。ただいま」

 

 返事は後ろから聞こえた。

 

 ユウトが振り向くと、2体のボンプを伴ったメイドが霧から姿を現した。アンビーも彼女を目で追っている。こちらの退路を押さえられる位置だった。

 

 さらにその奥から、知能機械人が歩み寄った。

 

「アルバート。そっちも来てたか」

 

「ユウト様。お久しぶりです」

 

「ああ、久しぶり。助かるよ、話の通じる顔がいて」

 

 ユウトが刀を収めると、アンビーとビリーも武器を下げた。猫又はユウトとアルバートを見比べる。

 

「なんだ、そっちも知り合いなのか?」

 

「前から少しね」

 

 ユウトの返事を受け、アルバートが上司へ向き直る。

 

「彼は私の知人です。人捜しというお話は、伺ってよろしいかと」

 

「承知しました。皆様、まずはご挨拶を」

 

 オオカミのシリオンは、ヴィクトリア家政の執行責任者、フォン・ライカンと名乗った。リナ、エレン、カリンに続き、アルバートも家政の一員として紹介される。

 

 大きな鋏を下ろしたエレンが、口元を押さえてあくびをした。ライカンに姿勢を指摘されると、気のない返事をしながらも立ち直る。

 

「ヴィクトリア家政……ごめんなさい。私は、詳しく知らない」

 

 アンビーが言うと、リナは微笑んだ。

 

「どうぞ、お気になさらず。限られたお客様にお仕えしておりますから、無理もありませんわ」

 

「ああ……あたしたちには、縁のないお値段ってことか」

 

 猫又が耳を伏せる。ライカンが言葉を添えようとしたところで、ユウトは苦笑した。

 

「その辺は、詳しく聞かないでおこう。今は別件だしな」

 

 ライカンも頷き、ここへ来た事情を説明した。ご主人様が建物の取得に手付金を支払い、その指示で設備のメンテナンスに入っているという。共生ホロウを鎮圧する当局の動きを見込み、建物の価値が戻ると判断したらしい。

 

 猫又はホロウの奥を見上げ、感心と呆れの混じった息を漏らした。

 

「こんなところまで買おうっていうんだから、お金持ちはすごいな……」

 

「ですが、調査員様は、こちらへどのようなお仕事で……?」

 

 カリンが遠慮がちに尋ねた。イアスを見てからユウトへ目を移し、答えを待っている。

 

 その横で、エレンが首を傾げた。

 

「カリンちゃん。協会の調査だったら、先にこっちへ話が来るんじゃない?」

 

「えっ? それじゃあ……」

 

 戸惑うカリンへ、リナが穏やかに言い添えた。

 

「お仕事の種類が、あなたの思っていたものとは違うのかもしれませんわね」

 

 アキラはすぐには答えなかった。ユウトも口を挟まず、ライカンを見る。

 

 こちらの警戒を察したのか、彼は武器を持たない手をゆっくりと下ろした。

 

「私共の務めは、ご主人様の利益をお守りすることです。皆様のお立場を理由に、この場で敵対するつもりはございません。カリンが受けたご恩もあります」

 

 ユウトはイアスの前を空けた。誰に何を話すかは、アキラの判断に任せる。

 

『分かった。改めて名乗るよ。僕たちはプロキシのパエトーン。ユウトは、僕たちのエージェントだ』

 

「パエトーン様でしたか」

 

 ライカンの耳が動いた。カリンも驚いた顔でイアスを見つめている。

 

 アキラは、連絡の取れないレインを捜していることと、この建物付近から届いたメッセージについて説明した。ハッカーとしての仕事や、預けた記憶素子の話には触れない。

 

 その間に、ユウトはアルバートへ短く問い掛けた。

 

【転生者掲示板】

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

手掛かりは?

ーーーーーーーーーー

「機械執事」

まだ見つかっていない。上へ続く道も、調べている途中だ。

 

 返事を読み終える頃、ライカンも調査の状況を話し始めた。渡されたキャロットの情報が古く、内部を十分に把握できていないという。

 

 そこへ、リンからの通信が入った。

 

『お兄ちゃん、ちょっといい? ニコから連絡があって……アンビーたちも、裁判に行かないといけないんだって』

 

 ビリーが顔を上げた。

 

 出廷の書類には、邪兎屋全員で参加すると記されていたらしい。ニコ1人が向かえば済むと思っていた3人は、揃って顔を見合わせる。

 

「ニコ……先に確認してほしかった」

 

 アンビーが呟く横で、ユウトは時刻を確かめた。

 

「リン、今からで間に合うのか?」

 

『すぐ戻れば。ニコも、急いで来てって』

 

「けどよ、俺たちが抜けたら、人捜しはどうすんだ?」

 

 ビリーは出口へ向きかけた足を止め、イアスとユウトを見た。

 

 アキラが答えるより先に、ライカンがイアスへ向き直った。

 

「それでしたら、私共と行動をともにされてはいかがでしょう。道の案内をお願いできれば、私共も調査を進められます。その間、お捜しの方の手掛かりも確認いたしましょう」

 

『こちらは助かるけれど、ご主人の仕事に差し支えないかな』

 

「現場の判断は任されております。皆様のお力をお借りすることにも、問題はございません」

 

 イアスがユウトを見上げた。ユウトは頷き、邪兎屋の3人へ向き直る。

 

「俺も、引き続きイアスと行く。何か分かったら知らせるよ」

 

『ありがとう、ライカンさん。協力をお願いするよ。ビリーたちは、ニコのところへ向かってくれ』

 

 アキラの言葉に、ビリーがようやく頷いた。猫又も少し迷ってから、イアスへ顔を近づける。

 

「分かった。レインのこと、頼んだぞ」

 

     ◇

 

 邪兎屋の3人を送り出すため、ユウトたちは入口ロビーから引き返した。

 

 ライカンに見送りを任されたアルバートが、退路へビットを先行させる。ユウトはその動きを確かめ、イアスの横についた。

 

「出口まで、お願いできるか」

 

「ええ。皆様がお急ぎなのは承知しております」

 

 アルバートは足を止めずに答え、後方にもビットを回した。ユウトはそちらの射線を空けながら進む。

 

 イアスが2人を見比べ、アキラの声を届けた。

 

『2人とも、息が合うね』

 

「見ていてほしいところを、見てくれるからな」

 

 ユウトが答えると、アルバートもこちらへ顔を向けた。

 

「ユウトも、こちらの動きを見てくださいますので」

 

「頼もしいのは分かったから、今は急ぐぞ!」

 

 猫又に促され、ビリーも歩調を速めた。

 

 ホロウの外へ出ると、ユウトは走り出しかけたビリーを呼び止めた。

 

「搭乗してからも、連絡がつくようにしておいてくれ。レインのことが分かったら知らせたい」

 

「おう、任せとけ。ニコの親分にも言っとくぜ」

 

「それと、パールマンには気をつけろよ。ここまで来て逃げられたら、たまらないからな」

 

「分かってるって。あいつが変な真似しねえか、俺も見とく」

 

 横で聞いていたアンビーも頷いた。猫又に急かされ、3人が駆けていく。

 

 ユウトはその背中を見送り、アルバートへ目を向けた。彼も短く頷いた。

 

 これで、ビリーたちが搭乗してからも連絡を取り合える。こちらは、レインに辿り着く道を急いで探さなければならない。

 

 足元のイアスが片脚を上げた。関節の動きにわずかな引っ掛かりがあり、アキラも気づいたらしい。

 

『……戻る前に、一度点検しよう。あの湿気もあるしね』

 

「そうだな。無理して奥へ入る前に見ておこう」

 

 ユウトはしゃがみ、イアスの脚に付いた汚れを確かめた。

 

 アルバートから連絡を受けたライカンは、ほかの家政の面々とともに外へ出ると答えた。次の探索で使う情報を整理し、その間にイアスの点検も手伝ってくれるという。

 

 アキラも直接こちらへ来ることになり、いったん接続を切った。いつもの鳴き声に戻ったイアスが、ユウトの袖を引く。ユウトはその歩幅に合わせ、待ち合わせの広場へ向かった。

 

     ◇

 

 バレエツインズを望む広場で待っていると、アキラがやって来た。

 

 ユウトが手を上げると、彼は歩み寄り、最初にイアスの居場所を尋ねた。ユウトはリナのいる方を示す。

 

「今、リナに見てもらってる。本人は随分ご機嫌だよ」

 

「それならよかった。リンにも、ちゃんと点検してもらってって念を押されてね」

 

 話していると、ライカンがこちらへ来た。

 

 ユウトが紹介するより先に、彼はアキラへ丁寧に一礼する。

 

「パエトーン様でいらっしゃいますね。改めまして、お目に掛かれて光栄です」

 

「こちらこそ。イアスのことまで、ありがとう」

 

「大切な協力者ですので。どうぞ、こちらへ」

 

 案内された先では、リナのそばでイアスが脚を動かしていた。2体のボンプも周囲に浮かび、小さな身振りに反応している。

 

 アキラに気づくと、イアスは勢いよく手を振った。

 

「ンナ!」

 

「うん。元気そうだね」

 

 リナがイアスの手をそっと下ろし、アキラへ微笑んだ。

 

「湿気の中を歩いて、お疲れだったようですわ。深層回路のマッサージをさせていただきましたの。もう、動きも滑らかでしょう?」

 

 イアスは確かめるように脚を曲げ伸ばしし、それからリナへ身振りを交えて何かを話し始めた。リナは頷きながら耳を傾け、2体のボンプも横から口を挟んでいる。

 

「冒険のお話の続きは、また後ほど伺いますわね」

 

 その言葉に、イアスが嬉しそうに両腕を上げた。ユウトは隣で腰を屈め、その顔を覗く。

 

「ずいぶん待遇がいいな。帰ってから同じのを頼まれても、できないぞ」

 

「ンナナ」

 

「おい。そこで考え込むな」

 

 アキラが笑った。リナも楽しげに目を細める。

 

「ユウト様も、ご希望でしたら」

 

「いや、俺は大丈夫。こいつが世話になった分で十分だよ」

 

 少し離れていたカリンが、おずおずと近づいてきた。ノコギリを持ち直し、アキラの前で頭を下げる。

 

「調査員さ……あっ、プロキシ様! 先ほどは、その、驚いてしまって……ちゃんとご挨拶もできず、すみません……!」

 

「僕も、説明するのが遅くなったね。驚かせてごめん」

 

 アキラが言うと、カリンは慌てて首を横に振った。

 

「い、いえ! カリンが勝手に、調査員様だと思っていただけですから……。あの時のお礼を、きちんとお伝えしたかったんです」

 

 握り直した指を見下ろしてから、彼女はもう一度顔を上げた。

 

「助けてくださって、ありがとうございました。今度はカリンにも、お手伝いさせてください……!」

 

「ありがとう。頼りにしているよ」

 

 アキラの返事に、カリンの肩から少し力が抜けた。

 

 ユウトも彼女の方へ向き直る。

 

「俺もイアスについていく。よろしくな、カリン」

 

「は、はい! カリン、お役に立てるように頑張ります……!」

 

 アキラが、肩に力の戻ったカリンへ笑い掛けた。

 

「そんなに力まなくて大丈夫だよ。まずは、一緒に進める道を探そう」

 

 カリンが頷く横で、ベンチに腰掛けていたエレンが端末から顔を上げた。

 

「その道、さっきより分かりそう?」

 

 アキラは端末の記録を開き、エレンへ見せた。

 

「調べてもらった分と照らし合わせるよ。ホロウの中で、もう一度確かめる必要はあるけどね」

 

「そっか。じゃ、余計に歩かなくて済むといいな」

 

 画面を覗き込んでいたエレンへ、ライカンが声を掛けた。

 

「エレン。そのためにも、次はあなたの確認した通路について伺います」

 

 ライカンに呼ばれ、エレンは短く返事をして立ち上がった。通ってきた場所を説明する言葉には、迷いがない。

 

 アキラも加わり、アルバートの記録と照合が進んだ。ユウトはロビーで敵が現れた位置を補足する。入口周辺の状況は整理できたが、その先の上階には、まだ調べなければならない場所が残っていた。

 

 回収した認証カードを使い、どこまで上へ進めるか。次は、そこから確かめることになる。

 

「では、僕は店へ戻るよ。次もイアスを通じて案内する」

 

 アキラが端末をしまった。

 

「ユウト、引き続き頼むね」

 

「ああ。こっちは準備して待ってる」

 

 アキラを見送った後、ユウトはアルバートの隣へ戻った。彼はビットを呼び戻し、1基ずつ状態を確かめている。

 

「よく働くな、そいつらも」

 

「戻ってからの手入れまでが仕事ですからね」

 

「俺も刀を放って寝るなって言われそうだ」

 

「なさらないのでしょう?」

 

「疲れてたら、誘惑には負けそうになる」

 

 アルバートが小さく笑った。点検を終えたビットが、静かに定位置へ戻る。

 

 ユウトも装備を確かめ、イアスの隣へ立った。頭上には曇った空が広がり、その向こうに、ホロウから突き出た屋上が見える。

 

 やがて、イアスの動きが切り替わった。

 

『準備できたよ。みんな、聞こえるかな』

 

 アキラの声へ、ライカンが応じた。ユウトも片手を上げる。

 

 アルバートは最後のビットを送り出すと、こちらへ向き直った。

 

「では、改めて。よろしくお願いいたします」

 

「ああ。こっちこそ」

 

 差し出された手を握ると、金属の指が確かな力で握り返してきた。

 

 手を離し、ユウトはイアスとともに歩き出した。今度はその前を、ヴィクトリア家政の面々が進んでいく。

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能力だけのコミュ障なんです(ガチ)(作者:枕オバケ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

転生してアニメのキャラの能力を使えたため強かったけど、メンタルは貧弱でコミュ障な主人公が勘違いされたりする話。▼「本当にコミュ障なだけなのに……能力が強いだけなのに……絶大な期待をされてる…」▼「はぁ……辛い。嫌われてたらどうしよう……あぁ、辛い」▼↑こんな感じです▼


総合評価:847/評価:7.19/連載:9話/更新日時:2026年10月25日(日) 21:46 小説情報

終末世界のラーメン屋台の店長さん(作者:一反木綿豆腐)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼ ▼ いつ壊れ、跡形もなく崩れ去ってもおかしくない終末世界。▼ 人類最後の砦となった街、新エリー都は今日も危ういながらも何とか繁栄を謳歌する。▼ そんな街を転々とする、ラーメン屋台が一軒。▼ 何やら謎の多い店主と相棒の超々高性能ボンプは、今日も今日とて店を出す。▼  ▼ 「パエトーン」の家族として、エージェントの知人友人として生きていく。▼


総合評価:3619/評価:8.88/連載:34話/更新日時:2026年10月29日(木) 00:00 小説情報

ハッピーエンドを目指して(作者:上条@そぉい!)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

よく知る見た目と能力を得た人たちが原作の悲劇から救おうと頑張るお話。何番煎じになるかも分からないけどやりたい放題楽しそうなので書きます。


総合評価:1839/評価:8.63/連載:53話/更新日時:2026年09月21日(月) 11:52 小説情報


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