転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
大型エーテリアスが地面を蹴った。
巨体からは想像できないほど鋭い踏み込みだった。地面を砕きながら一気に距離を詰めてくる異形を前に、ユウトは背中の刀を抜きながら短く告げる。
「アキラ、下がってろ」
『分かった。ユウトも気をつけて』
イアスが素早く後退し、崩れた壁の陰へ飛び込む。その直後、大型エーテリアスの太い腕が振り下ろされ、先ほどまでユウトが立っていた場所が轟音とともに砕け散った。
飛び散る瓦礫を避けながら横へ抜けたユウトは、そのまま地面を蹴って懐へ潜り込む。狙ったのは脚の関節。横薙ぎに振るった刀が硬い外殻へ食い込み、甲高い音とともに火花が散った。
浅い。
ならば、無理に押し込む必要はない。
大型エーテリアスが身体を捻って腕を薙ぎ払ってくるより早く、ユウトは身を沈めてその下を潜り抜けた。すれ違いざまに腕へ手をつき、そのまま巨体を足場に肩まで駆け上がる。頭部を覆う結晶へ刀を振り下ろしたものの、先ほど以上に硬い感触が返ってきた。
「なるほど」
すぐに刃を引き、敵が身体を振るのに合わせて自ら後方へ跳ぶ。空中で体勢を整えて着地したユウトの目は、既に次の攻撃ではなく敵そのものを見ていた。
関節の位置、結晶の厚さ、攻撃へ移る直前の動きと体重移動。大型個体が再び向き直るまでの僅かな時間にも、その特徴を一つずつ頭へ入れていく。
『ユウト、右側の通路』
瓦礫の陰から周囲を確認していたアキラの声が飛んだ。
『何か来る。……多いな。下級が10体以上いる』
「他は?」
イアスが一瞬だけ反対側を確認し、すぐに身を引く。
『左からも来てる。大きい反応が2つ。後ろは今のところ大丈夫だけど――』
大型エーテリアスの咆哮が周囲へ響き渡った。
それに呼応するかのように、崩れた通路や建物の陰から次々と異形が姿を現す。下級個体だけでも10体を優に超え、その奥には明らかに通常個体より大きな精鋭エーテリアスが2体混じっていた。
先ほどのホロウレイダーとの戦闘に加え、目の前の大型個体が暴れたことで、周辺のエーテリアスまで引き寄せられたらしい。
「……面倒なことになったな」
ユウトは一度だけ背後へ視線を向ける。
倒れているホロウレイダーたちは、先ほど叩きのめしたばかりでまともに逃げられる状態ではない。このまま群れを放置すれば、まず助からないだろう。
『お兄ちゃん、ユウト兄。周囲のエーテル環境も少し不安定になってるよ』
今度はRandom Playにいるリンから通信が入った。
『私はこっちの確認を続けるね。キャロットも今の状態に合わせて見直して、帰りのルートをまとめておく』
「頼む」
そしてユウトは、瓦礫の陰にいるイアスへ視線を向けた。
「アキラ、もう周りを見なくていい。そこから動くな」
『……うん。分かった』
アキラも状況を理解していた。
戦えるユウトとは違い、イアスと意識を同期している自分に戦闘能力はない。これだけのエーテリアスが集まった中で下手に動けば、ユウトに余計な負担を増やすだけだ。
イアスはさらに瓦礫の奥へ身を寄せ、外から姿が見えない位置まで下がった。
『こっちは気にしなくていい。ユウトも無理はするなよ』
「あいよ」
それだけ答えると、ユウトは刀を構え直した。
ここから先は、自分の仕事だ。
最初の下級エーテリアスが飛びかかってきた。
振り下ろされた爪を刀の腹で受け流し、相手の身体が横へ流れたところへ一歩踏み込む。柄頭を頭部へ叩き込み、よろめいたところへ刃を走らせると、その背後から別の2体が迫ってきた。
ユウトは振り返らない。背後から聞こえる足音と風を切る音に合わせて僅かに身体をずらし、空振りした1体の腕を掴む。その勢いを殺さず前へ引き倒してもう1体へぶつけ、絡み合って倒れたところへ続けざまに刀を振るった。
だが、敵はそれだけではない。
横から回り込んだ1体が飛びかかってくるのを視界の端で捉え、ユウトは地面を蹴った。空中で身体を捻り、すれ違いざまに踵を頭部へ叩き込む。着地と同時に刀を突き込み、すぐに引き抜いたところへ正面からさらに3体が迫った。
1体目の爪を刀で弾き、その腹へ蹴りを入れて後ろの個体へぶつける。だが、左右へ散った3体目はその隙を逃さず、ユウト目掛けて鋭い爪を振り抜いた。
直撃する。
そう見えた瞬間、白い煙が弾けた。
爪が貫いたはずの場所に残っていたのは、ユウトではなく砕けた瓦礫だった。
次の瞬間には頭上から影が落ちる。逆手に持った刀がエーテリアスへ深く突き刺さり、落下の勢いまで乗せた一撃で地面へ縫い止めた。
刀を引き抜いたユウトは、起き上がろうとしていた2体へ視線を向ける。片手が素早く印を結び、直後に放たれた炎が前方を走った。
火炎は2体だけでなく、その後ろから迫っていた下級個体までまとめて呑み込む。
その炎を突き破って、大きな影が飛び出した。
精鋭エーテリアス。
結晶に覆われた巨大な腕が振り下ろされる。ユウトは後ろへ逃げず、逆にその内側へ踏み込んだ。懐へ潜り込みながら外殻の継ぎ目へ刀を走らせるものの、硬い結晶に阻まれて刃が止まる。
すぐに引く。
反対側の腕が迫るより早く地面を蹴り、攻撃範囲から抜けた。
着地したユウトの周囲へ、残っていた下級個体が左右から迫る。正面には先ほどの精鋭個体。そのさらに向こうでは、最初の大型個体もこちらへ向き直っていた。
数が多い。
なら、一人ですべてを相手にする必要もない。
ユウトは刀を一度納め、両手を素早く動かした。
白煙が広がり、その中から同じ姿をした2人の分身が左右へ飛び出す。
下級個体の意識が一斉に散った。
片方の分身を追って数体が横へ流れ、もう片方にも別の群れが食いつく。その間に本体は正面の精鋭個体へ狙いを絞り、振り下ろされた腕を紙一重でかわすと、その巨腕へ足をかけた。
一気に駆け上がる。
振り落とされる前に肩から跳躍し、空中で右手へエーテルを集中させる。青白い雷光が指先から腕を這い、落下と同時に先ほど刀で確認していた外殻の継ぎ目へ叩き込まれた。
轟音とともに雷光が弾ける。
硬い外殻の内側へ直接流れ込んだ一撃に、精鋭個体の巨体が大きく痙攣した。
ユウトは手応えを確認するとすぐに腕を引き抜き、敵の肩を蹴って離脱する。その背後で結晶へ亀裂が走り、精鋭エーテリアスが崩れ落ちた。
だが、着地したユウトに休む暇はない。
最初の大型個体が既に迫っている。
振り下ろされた拳が地面を大きく抉り、横へ抜けたユウトの進路へ今度はもう1体の精鋭個体が突進してきた。
大型と精鋭。
挟まれる形になったところで、ユウトの姿が再び白煙に包まれた。
巨大な拳が直撃し、煙の中にあった何かを粉々に砕く。
だが、それもユウトではない。
砕けた瓦礫の向こうで、本体は既に精鋭個体の背後へ回り込んでいた。抜き放った刀で脚を斬りつけ、振り返ろうとしたところへさらに一撃。精鋭個体が体勢を崩した瞬間、ユウトは追撃せず横へ跳んだ。
直後、大型エーテリアスの拳が精鋭個体へ直撃する。
巨体が派手に吹き飛び、瓦礫へ叩きつけられた。
「そっちじゃないぞ」
もちろん通じるはずもない。
怒り狂ったように大型個体が再び腕を振り上げる。ユウトは真正面から駆け出すと、振り抜かれた巨腕を足場にして一気に駆け上がり、敵がもう一方の腕を振るう直前に跳躍した。
追うように拳が振り抜かれる。
空中で身を捻ったユウトのすぐ下を巨大な腕が通過し、その先にいたのは起き上がろうとしていた精鋭エーテリアスだった。
再び直撃。
今度こそ精鋭個体は動かなくなった。
ユウトは着地すると、すぐに周囲へ視線を走らせた。
まだ下級個体が残っている。
瓦礫の向こう、崩れた通路、左右の死角。敵の足音や結晶が擦れる音、僅かな気配まで拾いながら、ユウトは再び印を結んだ。
白煙の中から複数の分身が飛び出し、それぞれ別方向へ散る。
群れの中央へ走った1人に敵が殺到するが、爪や牙が届いた瞬間には煙となって消えた。その隙に別の分身が側面へ回り、本体は逆側から死角へ滑り込む。
敵が多いほど、互いの動きも邪魔になる。
正面から突進してきた1体を受け流せば、そのまま後ろの個体へ激突する。分身を追って向きを変えた敵の側面へ刀を走らせ、別の個体が飛びかかってくれば一歩引いて攻撃を空振りさせる。
1体ずつ正面から倒す必要はない。
敵の位置も、攻撃も、数の多ささえ利用する。
ユウトと分身が群れの間を縫うように動くたび、下級エーテリアスの数が減っていった。
やがて残った数体が一斉に本体へ向かってくる。
ユウトは一度距離を取り、刀を納めた。素早く結ばれた印に応じて炎が前方へ広がり、殺到していた群れをまとめて呑み込む。
火勢が収まった時、立っている下級個体はもういなかった。
「……ふぅ」
短く息を吐く。
呼吸は戦闘前より深くなり、額には薄く汗が滲んでいた。分身も既に消えている。刀を握り直した指先にも、僅かな重さが残っていた。
それでも、ユウトの目から鋭さは消えない。
残っているのは、最初の大型個体だけだ。
大型エーテリアスも無傷ではない。最初の攻防に加え、混戦の中でも何度か攻撃を受けている。それでもなお巨体は健在で、低い唸り声を上げながらユウトへ向き直った。
対するユウトも、これ以上戦闘を長引かせるつもりはなかった。
大型個体が再び地面を蹴る。
ユウトはすぐには動かない。
これまで何度も見てきた攻撃を思い返す。
右腕を振る直前に肩が沈み、左脚へ大きく体重が乗る。その瞬間だけ、右脚の付け根にある結晶の隙間が僅かに広がる。
大型個体の肩が沈んだ。
ユウトが動く。
振り下ろされた腕の内側へ滑り込み、狙っていた右脚の付け根へ刀を走らせた。
今度は深い。
大型エーテリアスの体勢が崩れ、巨体が大きく沈む。
その瞬間を逃さず、ユウトは敵の腕へ飛び乗った。
一歩、二歩と駆け上がる。大型個体が振り払おうと身体を捻るより早く肩を蹴り、さらに高く跳躍した。
頭部を覆う結晶。
そこにも、これまでの攻防で見つけていた僅かな隙間がある。
空中で刀を逆手へ持ち替え、落下の勢いを乗せてその一点へ刃を突き立てた。
大型エーテリアスの絶叫が響き渡る。
深く突き刺さった刀を通して、一気にエーテルを流し込む。青白い雷光が刀身を覆い、そのまま結晶の内側へ走った。
閃光が弾け、巨体が硬直する。
内部を駆け巡った雷撃に耐えきれず、頭部から全身へ次々と亀裂が広がっていった。
ユウトは刀を引き抜き、大型個体の身体を蹴って離脱する。地面へ着地すると同時に数歩下がり、なおも刀を構えたまま敵を見据えた。
数秒後、大型エーテリアスの巨体がゆっくりと傾いた。
轟音とともに倒れ、地面が大きく揺れる。
それでもユウトはすぐには刀を納めない。動かなくなった大型個体から周囲へ視線を移し、耳を澄ます。新たに近づいてくる足音も、異形の唸り声もない。
しばらく警戒を続けた後、ようやく刀を下げた。
「アキラ。もう大丈夫だ」
少し間を置いてから、瓦礫の奥で小さな動きがあった。
イアスが慎重に顔を出し、周囲を確認してから姿を現す。
『……本当にいないな』
「俺の方でも確認した。出てきていいぞ」
『分かった』
安全を確認してから近づいてきたイアスに、ユウトはしゃがんで損傷がないか確認した。
「アキラ、大丈夫か?」
『僕は大丈夫。イアスにも損傷はないよ』
「ならよし」
ぽん、とイアスの頭を撫でる。
そこで緊張が切れたのか、ユウトは肩から力を抜いた。
「……疲れた」
『お疲れさま。こっちは気にしなくていいって言われたから、本当に隠れてるしかなかったけど』
「それで正解。あの数の中をイアスでうろつかれた方が怖いって」
『僕もそう思ったよ。余計な心配を増やすわけにはいかないからね』
『お兄ちゃん、ユウト兄。こっちも確認終わったよ』
戦闘中はエーテル環境と帰還経路の確認へ集中していたリンも、そこで通信へ戻ってきた。
『周辺のエーテル環境はひとまず安定してる。キャロットも今の状態に合わせて整理し直したから、帰りは大丈夫そう』
「さすが。じゃあ――」
ユウトが刀を鞘へ戻し、帰路へ視線を向ける。
「帰るか」
『ユウト』
アキラの声が止めた。
「ん?」
イアスが無言で一方向を指差す。
そこには、ホロウレイダーたちが採掘していた素材が積まれていた。
「…………」
『ユウト兄』
今度はリンだった。
「……分かってるよ」
『今、絶対忘れてたでしょ』
「忘れてない。戦闘が終わって気が抜けただけ」
『それ、忘れてたって言うんじゃない?』
「リンさん、細かい」
『細かくないよ。今日の依頼の目的なんだから』
アキラも苦笑混じりに口を挟む。
『まあ、疲れてるのは本当だろうけどね。でも素材を持って帰らないと、何のためにここまで来たのか分からなくなるよ』
「……ごもっともです」
ようやくいつもの空気へ戻り、ユウトは肩をすくめながら素材の山へ向かった。
その途中。
「お、おい……」
背後から掠れた声がした。
振り返れば、先ほど倒したホロウレイダーの1人が身体を起こそうとしていた。
男はユウトを見る。次に、周囲へ目を向けた。
倒された大量の下級エーテリアス。2体の精鋭個体。そして最後に倒れた大型個体。
刀と体術だけではない。突然現れた分身、攻撃が当たったと思った瞬間には別の場所へ移っている不可解な動き、炎と雷。それらすべてを状況に応じて組み合わせ、たった1人であれだけの敵を処理した男を前に、ホロウレイダーはしばらく言葉を失っていた。
やがて、恐る恐る口を開く。
「お前……何者なんだよ……?」
ユウトは少しだけ考えた。
真庭一族のことを話す理由はない。自分が何者なのかを説明してやる義理もない。
なら、答えは簡単だった。
「内緒」
「…………」
それだけ答えて、ユウトは男へ背を向けた。
「アキラ、必要量の確認頼む」
『うん。あかりちゃんから指定された量と照らし合わせるよ』
「リンもそっちから確認お願い」
『もう出してるよ。加工で使えなくなる分も考えて、少し余裕を持って確保した方がいいと思う』
「了解」
積み上げられた素材を確認していくと、幸いにもあかりが必要としていた量は十分に残っていた。現場そのものはかなり掘り荒らされていたものの、ホロウレイダーたちが既に採掘していた分から必要量を確保できる。
ユウトは指定された量より少し余裕を持たせて素材をまとめた。
その最中にも、視線は自然と周囲へ向く。
広範囲に残された採掘跡。使われていた道具。そして、ホロウレイダーたちが既に掘り出していた素材の量。
「…………」
『ユウト?』
アキラが気づいた。
「いや。ちょっと気になっただけ」
『何が?』
「採ってる量。こいつらが自分たちで使うにしちゃ多すぎる」
ユウトはそれ以上を口にせず、現場の様子を記録しておく。
今の段階では、まだ確証はない。ただの違法採掘で終わる話なのか、それとも別の何かがあるのか。判断するには材料が足りなかった。
必要な素材をまとめ終えると、ユウトは倒れているホロウレイダーたちへ目を向ける。目が合った途端、何人かが露骨に身体を強張らせた。
「……そんな怖がらなくてもいいだろ」
誰も返事をしない。
ユウトは困ったように頭を掻く。
「もう周りにエーテリアスはいない。動けるようになったら、お前らもさっさとホロウから出ろ」
男たちは何度も頷いた。
「あと」
ユウトの声が少しだけ低くなる。
「違法採掘は、もうやめとけよ」
今度はさらに勢いよく頷いた。
「よろしい」
それ以上は何も言わず、回収した素材を持ち直す。
『ユウト兄、帰還ルートは送ったよ。今いる場所からだと、来た時とは少し違う道になるけど、そっちの方が今は安全』
「確認した。アキラは?」
『こっちでも見てる。問題なさそうだ』
「じゃあ、今度こそ帰ろう」
イアスが先頭へ立ち、ユウトもその後へ続く。
しばらく進んだところで、アキラが口を開いた。
『これだけあれば、あかりちゃんの試作品も間に合いそうだね』
「そうだな。問題は、届けた後か」
『あー……』
通信の向こうでリンが何かを察したような声を漏らした。
「たぶん素材を受け取った瞬間、そのまま作業始めるぞ。部品がなくて止まってた分、取り返そうとするだろうし」
『すると思う』
リンは迷いなく断言した。
『あかりちゃん、ずっと待ってたもんね。必要な素材が揃ったら、すぐ作業台に向かいそう』
『僕もそう思う。完成が見えてきたら、途中で止める方が難しそうだ』
アキラまで同意すると、ユウトは小さく息を吐いた。
「だよなぁ。じゃあ工房に届けた時、3人でちゃんと釘を刺しとくか。納期に間に合わせるのは大事だけど、飯も睡眠も削ってまでやる必要はない」
『賛成。お兄ちゃんとユウト兄と私の3人で言えば、さすがのあかりちゃんも少しは聞いてくれるでしょ』
『……少しは、かな』
アキラの微妙な言い方に、ユウトが笑う。
「そこは言い切ってやれよ」
『ユウトだって言い切れる?』
「…………」
『ほら』
リンの楽しそうな声が通信越しに響いた。
「まあ、その時はその時だ。まずは無事に帰って素材を届けないとな」
『うん。帰還ルートはこのままで大丈夫だよ』
「了解」
ユウトは肩を軽く回しながら、イアスの後を歩いていく。
「……帰ったらコーヒー飲みたい」
『その前に工房ね、ユウト兄』
「分かってるって」
『さっき素材を忘れかけた人の言葉だからなぁ』
「まだ言う?」
『だって本当じゃん』
『まあまあ。今回はちゃんと持ってるんだからいいじゃないか』
「アキラ、それフォローになってる?」
『なってるつもりだけど?』
リンの笑い声が通信越しに響く。
先ほどまで大量のエーテリアスを相手にしていた時とは打って変わった、いつもの3人のやり取りだった。
そのまま一行は、リンが整理した帰還ルートを進んでいく。
後に残されたホロウレイダーたちは、遠ざかっていくユウトの背中をしばらく無言で見送っていた。
やがて1人がぽつりと呟く。
「……俺、もう違法採掘やめる」
「……俺も」
「俺も……」
反対する者はいなかった。
こうして、素材を採取して帰るだけだったはずの依頼は、ホロウレイダーとの遭遇と大量のエーテリアスという予想外の事態に見舞われながらも、ひとまず目的を達成した。
必要な素材は確保した。
帰還経路も問題ない。
あとは無事にホロウを出て、依頼人の待つ工房へ届けるだけだ。
もっとも、ユウトの頭には先ほど目にした大量の採掘跡が、小さな引っかかりとして残っていた。それについて考えるのは、無事に帰ってからでも遅くない。
今はまず、帰還することが先だった。