転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る 作:『 』を応援するテト
# 副店長の本気
大型エーテリアスが地面を蹴った。
巨体からは想像できない速度で距離が縮まる。
ユウトは刀を抜いた。
「アキラ、下がってろ」
『分かった』
イアスが素早く後退し、崩れた壁の陰へ飛び込む。
その直後。
大型エーテリアスの腕が振り下ろされた。
ユウトは横へ跳ぶ。
轟音。
地面が砕け、大小の瓦礫が飛び散った。
着地。
間髪入れず、ユウトが地面を蹴る。
大型エーテリアスが腕を持ち上げるより早く懐へ潜り込み、刀を横薙ぎに振るった。
刃が脚の関節を捉える。
浅い。
大型エーテリアスが身体を捻った。
薙ぎ払われる腕。
ユウトは身体を沈めて潜り抜け、その腕へ手をつく。
跳躍。
腕を足場に肩まで駆け上がる。
刀を振り下ろした。
甲高い音。
刃とエーテル結晶がぶつかり、火花が散る。
硬い。
無理に押し込まない。
即座に刀を引く。
大型エーテリアスが身体を振った。
ユウトは自ら後方へ跳び、空中で体勢を整えて着地する。
その視線は敵から外れない。
関節。
結晶の位置。
攻撃前の動き。
体重移動。
一つずつ頭へ入れていく。
『ユウト』
瓦礫の陰からアキラの声が飛ぶ。
『右側の通路。何か来る』
ユウトは大型個体を見たまま尋ねる。
「数は?」
『待って……』
イアスが壁から僅かに顔を出す。
すぐに引っ込んだ。
『多い。下級が十体以上』
「他は?」
イアスが別方向を確認する。
『左からも来てる。奥に大きいのが二体』
精鋭個体。
「後ろは?」
『今は大丈夫』
「了解」
大型エーテリアスが咆哮する。
それに呼応するように、周囲から異形の声が響いた。
瓦礫の隙間。
崩れた通路。
建物の陰。
下級エーテリアスが次々と姿を現す。
一体。
二体。
五体。
十体。
さらに増える。
大型個体の咆哮と、先ほどまでの戦闘音に引き寄せられたのだろう。
そして群れの奥。
通常個体より明らかに大きなエーテリアスが二体。
ユウトは一度だけ背後を見る。
ホロウレイダーたちは、先ほど叩きのめした影響で満足に動けない。
このまま放置すれば、まず助からないだろう。
「……面倒なことになったな」
『お兄ちゃん、ユウト』
今度はリンの声だった。
『周囲のエーテル環境も少し不安定になってる。私はこっちを確認するね』
「頼む」
『帰還ルートもまとめ直しておく。そっちはお兄ちゃんに任せるから』
『分かった』
アキラが応じる。
ユウトも刀を構え直した。
「アキラ、周りを頼む」
『任せて』
それで十分だった。
三人とも自分の仕事へ集中する。
最初の下級エーテリアスが飛びかかってきた。
爪。
ユウトは刀の腹で受け流す。
敵の身体が横へ流れた。
踏み込む。
柄頭を頭部へ叩き込む。
よろめいたところへ一閃。
一体目。
背後から二体。
振り返らない。
足音。
風を切る音。
僅かに身体をずらす。
爪が空を切った。
伸びきった腕を掴む。
引く。
エーテリアスの身体が前へ崩れる。
そのまま投げた。
もう一体へ激突。
二体が絡み合って倒れる。
刀が走った。
二体。
三体。
『左!』
ユウトが地面を蹴る。
直後、先ほどまでいた場所へエーテリアスが飛び込んできた。
空中で身体を捻る。
踵。
頭部へ直撃。
着地と同時に刀を突き込む。
四体目。
さらに前から三体。
ユウトは刀を振り抜く。
一体目の爪を弾く。
蹴り。
二体目へぶつける。
そこへ三体目が突進してきた。
ユウトの指が素早く動く。
白煙。
三体目の爪がユウトを貫いた。
――ように見えた。
白煙が晴れる。
そこにあったのは瓦礫だけ。
次の瞬間。
エーテリアスの頭上へ影が落ちる。
ユウト。
刀を逆手に持ち、落下の勢いを乗せて突き立てる。
刀を引き抜く。
振り返る。
先ほど蹴り飛ばした二体が立ち上がろうとしていた。
片手で印を結ぶ。
息を吸う。
炎。
火炎が二体を呑み込み、その後ろから迫っていた下級個体までまとめて吹き飛ばす。
爆炎の向こう。
大きな影が炎を突き破った。
精鋭エーテリアス。
巨大な結晶の刃が振り下ろされる。
ユウトは前へ。
攻撃の内側へ潜り込む。
刀を振るう。
硬い外殻に阻まれた。
即座に引く。
反対側の腕。
後方へ跳ぶ。
『右後ろ、三体!』
着地する前に身体を捻る。
下級エーテリアスが三体。
着地。
刀を鞘へ。
両手が動く。
白煙。
ユウトが三人に増えた。
一人が正面。
二人が左右へ。
下級個体の意識が分散する。
正面のユウトへ二体が殺到。
爪が身体を引き裂いた。
白煙。
分身が消える。
その瞬間。
左右から二人。
一人が脚を払う。
もう一人が首元へ刀を走らせる。
さらに奥から下級個体。
分身がそちらへ向かう。
本体は振り返らない。
精鋭が来ている。
巨大な刃。
横へ。
刃が地面を砕く。
ユウトはその腕を駆け上がった。
精鋭が振り払おうとする。
跳ぶ。
空中。
右手へエーテルを集中させる。
青白い雷光が弾けた。
落下。
精鋭の背中。
結晶の隙間へ雷光を纏った手が突き込まれる。
轟音。
精鋭エーテリアスの身体が大きく痙攣する。
ユウトはすぐに手を引いた。
肩を蹴って離脱。
直後。
精鋭の身体へ亀裂が走る。
崩れた。
着地。
『ユウト、前!』
大型個体。
腕が迫っていた。
ユウトは横へ飛ぶ。
地面が抉れる。
その先。
二体目の精鋭個体が迫ってくる。
挟まれた。
ユウトの手が動く。
白煙。
大型個体の拳がユウトを捉えた。
直撃。
だが、砕けたのは瓦礫。
本体は精鋭の背後。
一閃。
精鋭が振り向く。
ユウトはすでに低い姿勢。
脚へ二撃目。
体勢を崩す。
そこへ大型個体が再び腕を振るった。
ユウトが跳ぶ。
巨大な腕は――。
精鋭エーテリアスへ直撃した。
轟音。
精鋭の身体が吹き飛ぶ。
瓦礫へ激突。
ユウトは大型個体の腕へ着地。
そのまま駆ける。
大型個体がもう一方の腕を振り上げる。
跳躍。
攻撃を回避。
その拳が、起き上がろうとした精鋭個体へ再び叩き込まれた。
今度こそ動かなくなる。
ユウトは着地した。
『下級、左から八体!』
「了解」
振り向く。
群れ。
印。
白煙。
今度は四人。
分身が一斉に散る。
一人が群れの中央へ。
敵が集中。
爪。
牙。
攻撃が殺到する。
白煙。
分身が消えた。
空振りした敵の側面へ、別のユウトが入る。
斬撃。
反対側からもう一人。
蹴り。
体勢を崩した個体へ本体が刀を突き込む。
一体。
二体。
三体。
分身が一人消える。
それでも動きは止まらない。
敵の数。
位置。
互いの距離。
全てを利用する。
一体の攻撃を避ければ、その爪が別の個体を捉える。
突進してきた敵を横へ流し、別のエーテリアスへぶつける。
分身が敵を引きつけ、本体が死角へ。
一撃。
また一撃。
最後の数体が本体へ殺到する。
刀を鞘へ。
印。
炎が前方を埋め尽くした。
下級エーテリアスがまとめて呑み込まれる。
やがて。
静かになった。
ユウトは周囲を確認する。
残っているのは――。
最初の大型個体。
「アキラ」
イアスが瓦礫から僅かに顔を出す。
周囲を確認。
『新しい敵は見えない』
「分かった」
これで目の前だけに集中できる。
ユウトは刀を構え直した。
大型エーテリアスが低く唸る。
身体には複数の傷。
だが、まだ健在。
対するユウトも、先ほどより呼吸が深くなっていた。
術を使えばエーテルを消耗する。
分身を増やせば、その分だけ負担も大きい。
長引かせる理由はない。
大型個体が突進する。
ユウトは動かない。
見る。
右腕。
肩。
左脚。
関節。
これまでの攻防。
最初から観察していた。
右腕を振る直前。
肩が沈む。
左脚へ体重が乗る。
そして。
右脚の付け根。
結晶が薄い。
大型個体の腕が上がった。
ユウトが走る。
腕が振り下ろされる。
紙一重。
内側へ。
右脚。
刀が走る。
深い。
大型個体の身体が沈んだ。
ユウトはその腕へ飛び乗る。
走る。
大型個体が振り払おうと身体を捻る。
一歩。
二歩。
跳躍。
肩を蹴る。
さらに上へ。
空中。
刀を逆手へ持ち替える。
狙いは既に決まっていた。
頭部を覆う結晶。
その僅かな隙間。
内部のコアへ続く一点。
落下。
刀が深く突き刺さった。
大型エーテリアスが絶叫した。
ユウトの片手が刀から離れる。
印。
エーテルが流れる。
青白い雷光が刀身を覆った。
そのまま内部へ。
閃光。
巨体が硬直する。
雷が内部を駆け巡る。
亀裂。
一本。
さらに一本。
全身へ広がった。
ユウトは刀を引き抜く。
大型個体の身体を蹴る。
離脱。
着地。
数歩。
その背後で。
大型エーテリアスがゆっくりと傾いた。
轟音。
地面が揺れる。
ユウトは振り返った。
動かない。
それでも、すぐには刀を納めない。
周囲を確認する。
『ユウト』
アキラの声。
『周囲にエーテリアスは見当たらない』
その直後。
『こっちも確認終わったよ』
戦闘が始まってから最低限の連絡だけに留めていたリンの声が戻ってくる。
『周辺のエーテル環境はひとまず安定してる。新しい変動も今のところなし』
「帰りは?」
『そっちも大丈夫。キャロットと今のホロウの状態を照らし合わせて、帰還ルートをまとめ直したよ』
「さすが」
そこでようやく。
ユウトは刀を軽く振り、鞘へ戻した。
肩から力が抜ける。
「……疲れた」
イアスも瓦礫の陰から出てきた。
ユウトがそちらへ歩いていく。
「アキラ、怪我ない?」
『僕は大丈夫。イアスも無事』
「ならよし」
イアスの頭を軽く撫でる。
そして。
「よし。帰ろう」
『待って』
アキラ。
「ん?」
イアスが無言で素材の山を指差した。
「…………」
『ユウト』
今度はリン。
「分かってるよ」
『今、絶対忘れてたでしょ』
「忘れてない」
『じゃあ、なんで帰ろうとしたの?』
「戦闘終わって気が抜けただけ」
『それを忘れてたって言うんじゃない?』
「リンさん、細かい」
『細かくないよ! 今日の依頼の目的!』
『まあ、疲れてるのは本当だろうし』
アキラが助け舟を出す。
「さすがアキラ」
『でも素材は回収しよう』
「逃げ道が塞がれた」
『最初からないよ』
ようやく、いつもの三人の空気へ戻った。
その時。
「お、おい……」
後ろから声がした。
ユウトが振り返る。
倒れていたホロウレイダーの一人。
その視線が周囲へ向く。
大量に倒された下級エーテリアス。
二体の精鋭。
そして大型個体。
炎。
雷。
分身。
突然消えたかと思えば別の場所から現れる不可解な技。
何より、それら全てを状況に合わせて使い分けながら、あれだけの敵を一人で倒した戦闘能力。
男は再びユウトを見る。
「お前……」
声が掠れていた。
「何者なんだよ……?」
ユウトは黙った。
ほんの少しだけ考える。
やがて。
目元を緩めた。
「内緒」
「…………」
それだけだった。
ユウトはイアスへ向き直る。
「アキラ、必要な量を確認しよう」
『うん』
「リンも指定量もう一回頼む」
『はいはい。最初から出してるから確認して』
「助かります」
三人で確認を進める。
積み上げられた素材は、あかりが指定していた量を十分に上回っていた。
必要な分だけ確保する。
「これなら足りるな」
『余裕を持って必要量は確保できてるよ』
「じゃあ回収して帰るか」
『今度こそね』
「信用ないなぁ」
『さっき帰ろうとした人が言わないで』
素材をまとめる。
その途中。
ユウトはふと後ろを振り返った。
ホロウレイダーたちと目が合う。
全員がびくりと身体を震わせた。
「……そんな怖がらなくてもいいだろ」
返事はない。
ユウトは困ったように頭を掻く。
「まあいいや」
少しだけ声を低くした。
「違法採掘は、もうやめとけよ」
男たちは一斉に頷いた。
「よろしい」
それ以上は何も言わない。
素材の回収を終える。
あとはリンが整理したルートを使って、ホロウから脱出するだけ。
「これで依頼達成だな」
『うん。帰り道も今のところ問題なし』
「じゃあ、あかりに届けるか」
『ずっと待ってるだろうね』
アキラの言葉に、ユウトは素材を見る。
二週間前には届いているはずだった部品。
それが届かなかったせいで、あかりは急遽この素材を必要としていた。
しかも納期は目前。
嫌な予感がする。
「……なあ」
『何?』
「これ届けたら、あかりそのまま作業始めるよな」
一瞬の沈黙。
『始めると思う』
アキラが答えた。
続いてリン。
『絶対始めるよ』
「だよなぁ……」
『しかも止めなかったら、そのまま朝までやりそう』
「だよなぁ……」
ユウトは同じ言葉を繰り返した。
十二歳。
本人は元気いっぱい。
中身についてはともかく。
今の身体が子供なのは間違いない。
「帰ったら、ちゃんと休ませないとな」
『お願いね、ユウト』
「俺?」
『工房まで行くんでしょ?』
「まあ、素材届けるし」
『じゃあお願い』
「……はいはい」
『私からも後で言うから』
「それなら助かる」
イアスが先頭へ立つ。
『それじゃ、帰ろう』
「了解」
ユウトは回収した素材を持ち、イアスの後へ続いた。
戦闘が終われば。
そこにいるのは、いつものパエトーンとそのエージェントだった。
その背後。
ホロウレイダーたちは、遠ざかっていくユウトの背中を無言で見つめていた。
しばらくして。
一人が呟いた。
「……俺、もう違法採掘やめる」
「……俺も」
「俺も……」
誰も反対しなかった。
こうして。
あかりから依頼された素材回収は、予想外の事態に巻き込まれながらも無事に完了した。
普段は六分街のビデオ屋で働く、どこか気の抜けた副店長。
ホロウへ入れば、パエトーンと共に依頼をこなすエージェント。
だが。
その男が使う不可思議な技の正体も。
ユウトという男が本当は何者なのかも。
それを尋ねた者へ返された答えは、たった一言だけだった。
――内緒。