転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第4話

依頼完了――のはずだった

 

共生ホロウから無事に脱出したユウトとイアスは、六分街へと帰還した。

 

ホロウを出る直前にはHDDシステムとの接続も解除している。

 

イアスと同調していたアキラの意識は一足先に自分の身体へ戻り、リンと共に二人の帰りを待っていた。

 

「ただいまー」

 

Random Playの扉を開ける。

 

店内では、ソファに座ったアキラが大きく身体を伸ばしていた。

 

「おかえり、ユウト」

 

「ただいま」

 

その足元ではイアスも元気よく両手を振る。

 

「ンナンナ!(ただいま!)」

 

「イアスもお疲れさま」

 

リンがしゃがみ込み、イアスの頭を撫でた。

 

ユウトは背負っていた荷物を軽く叩く。

 

中には今回の依頼品である素材が入っている。

 

「とりあえず、依頼は達成」

 

「結構大変だったけどね」

 

リンが苦笑する。

 

「ホロウレイダーに、エーテリアスの群れに、最後はあんな大きいのまで出てきたし」

 

「素材採って帰るだけの仕事だったはずなんだけどなぁ」

 

「最初にそれ言ったのユウト兄だからね?」

 

「まだ言う?」

 

「言う」

 

ソファで身体を伸ばしていたアキラも、二人のやり取りに苦笑する。

 

「まあ、必要な量は確保できたんだ。まずはあかりちゃんに届けよう」

 

「だな」

 

納期は明後日。

 

材料が手に入ったとはいえ、あかりの仕事はこれからだ。

 

ユウトは休む間もなく荷物を持ち直す。

 

「行くか」

 

「うん」

 

アキラもソファから立ち上がった。

 

三人はそのまま、あかりの待つクルクル・アカリン工房へ向かった。

 

 

工房へ到着すると。

 

扉を開けるより先に、中から慌ただしい音が聞こえてきた。

 

金属音。

 

機械音。

 

ボンプが走り回る足音。

 

そして――。

 

「まだかなー!」

 

少女の声。

 

「まだかなー!」

 

また聞こえた。

 

「まだかなー!」

 

三回目。

 

ユウトは扉の前で足を止めた。

 

「……元気だな」

 

「待ちきれないんじゃない?」

 

リンが苦笑する。

 

アキラが扉を開けた。

 

「ただいま、あかりちゃん」

 

「帰ってきたー!?」

 

工房の奥から、小柄な少女が飛び出してきた。

 

リスの耳をぴんと立て、大きな尻尾を膨らませながら駆けてくる。

 

その後ろから、護衛兼世話役のボンプが二体ついてきた。

 

「素材!?」

 

「俺たちの心配より先にそっち?」

 

ユウトが呆れる。

 

「あっ」

 

あかりが止まった。

 

「えっと……」

 

少し考えて。

 

「みんな無事!?」

 

「遅い」

 

「えへへ……」

 

「まあいいけど」

 

ユウトは背負っていた荷物を下ろした。

 

「ほれ」

 

中身を見せる。

 

瞬間。

 

あかりの目が輝いた。

 

「おおおおおお!」

 

素材へ飛びつく。

 

「これこれ!」

 

一つを手に取る。

 

表面を見る。

 

ひっくり返す。

 

別のものも確認する。

 

さらに端末を取り出して測定を始めた。

 

「状態もいい! 純度も大丈夫!」

 

リス耳がぴんと立つ。

 

「これだけあれば足りるよ!」

 

「それはよかった」

 

アキラもほっとした様子で頷いた。

 

「予定より少し多めに確保してきたから、加工するときも余裕があると思う」

 

「ありがとー! アキラおにい!」

 

続いてリンを見る。

 

「リンおねいもありがと!」

 

「どういたしまして」

 

最後にユウト。

 

「ユウトおにいも!」

 

「はいよ」

 

あかりは素材を抱えて満面の笑みを浮かべた。

 

「これなら間に合う!」

 

そして。

 

くるり。

 

工房の奥を向く。

 

「じゃ、作ってくる!」

 

「待て」

 

ユウトが襟首を掴んだ。

 

「ぐえっ」

 

止まった。

 

「な、なにするのユウトおにい!」

 

「今から始める気?」

 

「もちろん!」

 

「今何時だと思ってんの」

 

「時間なんて関係ないよ!」

 

「あります」

 

「納期が!」

 

「明後日」

 

「そう!」

 

「なら、まだ余裕あるだろ」

 

「でも早く完成させたい!」

 

「駄目」

 

「なんでー!」

 

「飯食った?」

 

「…………」

 

「おい」

 

「お菓子食べた!」

 

「飯は?」

 

「…………」

 

ユウトの目が細くなる。

 

「寝た?」

 

「昨日は寝たよ!」

 

「何時間?」

 

「…………」

 

「おい」

 

すると横からリンが腰へ手を当てた。

 

「あかりちゃん?」

 

「リンおねいまで!?」

 

アキラも苦笑する。

 

「まず休んでからの方がいいと思うよ」

 

「アキラおにいまでぇ!」

 

三方向から包囲された。

 

逃げ道なし。

 

あかりは最後の希望を求めるように、後ろにいた二体のボンプを見る。

 

「ワタンナ……」

 

「ンナンナ……」

 

二体揃って目を逸らした。

 

「裏切った!?」

 

ユウトが笑う。

 

「ボンプの方が分かってるな」

 

「ボクが作ったんだけど!?」

 

「なら製作者の健康管理までできる優秀なボンプだ」

 

「むぅぅぅ……!」

 

大きな尻尾が不満そうに揺れる。

 

だが。

 

「……分かったよ」

 

ついに観念した。

 

「ちゃんとご飯食べる」

 

「よろしい」

 

「その後なら作っていい?」

 

「徹夜しないなら」

 

「しない!」

 

「本当に?」

 

「……たぶん」

 

「おい」

 

「しません!」

 

「よろしい」

 

これで一つ片付いた。

 

だが、ユウトにはもう一つ確認しておきたいことがあった。

 

「あかり」

 

「なに?」

 

「ホロウの中で、ちょっと気になるものを見つけた」

 

ユウトが端末を取り出す。

 

表示したのは、現場で確認した採掘跡。

 

そして、ホロウレイダーたちが集めていた大量の素材。

 

「うわ……」

 

あかりの表情が変わった。

 

「こんなに採ってたの?」

 

「ああ」

 

アキラも端末を見る。

 

「僕たちが目的地に着いた時には、ほとんど掘り尽くされていた」

 

リンも画面を覗き込んだ。

 

「素材、全然なかったんだよね」

 

「うん……これだけ採られてたら、そりゃなくなるよ」

 

あかりは採掘跡の記録を眺めながら、大きな尻尾を揺らした。

 

リンが尋ねる。

 

「そういえば、最近この素材の値段も上がってるんだよね?」

 

「うん」

 

あかりが自分の端末を操作する。

 

取引価格の推移が表示された。

 

「前から安い素材じゃなかったけど、最近になって急に高くなったの」

 

「……やっぱりな」

 

ユウトの声が少しだけ低くなる。

 

アキラがその変化に気づいた。

 

「ユウト?」

 

「現場で見た時から引っかかってたんだよ」

 

ユウトは端末に映る採掘跡を指差した。

 

「あいつら、ただのごろつきにしちゃ掘りすぎてる」

 

「掘りすぎ?」

 

あかりが首を傾げる。

 

「ああ。自分たちで使う量じゃない。それに、これだけの量を継続して掘ってるなら、採った後に捌く場所が必要になる」

 

ユウトの目から、普段の気の抜けた雰囲気が消えていた。

 

「違法採掘して小遣い稼ぎしてる連中なら珍しくもない。けど、今回のは規模が違う」

 

かつて。

 

ユウトは表の世界とは縁遠い場所で生きていた。

 

誰かが金を出す。

 

誰かが命令を下す。

 

そして実際に手を汚す者は、何も知らない末端。

 

そんな構図は嫌というほど見てきた。

 

「こういう連中がまとまって動いてる時は、大抵後ろに金を出してる奴がいる」

 

リンの表情も真剣になる。

 

「じゃあ、あのホロウレイダーたちだけの問題じゃないってこと?」

 

「たぶんな」

 

「誰がいると思う?」

 

アキラが尋ねる。

 

「そこまでは分からん」

 

ユウトは肩をすくめた。

 

「現場を見りゃ怪しいかどうかくらいは分かる。でも金の流れや市場の話は専門外だ」

 

そして、あかりの端末に表示された価格推移へ視線を向ける。

 

「ただ――素材の値段まで上がってるなら、ますます臭い」

 

「臭い?」

 

「裏にいる誰かの規模がってこと」

 

そう言って端末をしまう。

 

「まあ、そっちは詳しい奴に投げてみるよ」

 

「詳しい人?」

 

リンが尋ねる。

 

「いるんだよ。そういう面倒なのが得意な奴らが」

 

「ユウト兄が面倒なの押しつけようとしてる」

 

「適材適所と言ってくれ」

 

いつもの調子へ戻ったユウトに、リンが呆れたように笑った。

 

「とりあえず、依頼は完了だ」

 

「うん!」

 

あかりも笑顔へ戻る。

 

「本当にありがと! アキラおにい、リンおねい、ユウトおにい!」

 

「どういたしまして」

 

「ちゃんと間に合わせてね」

 

「任せて!」

 

「飯と睡眠」

 

「分かってるってば!」

 

三人は工房を後にした。

 

 

Random Playへ戻った頃には、すっかり日も傾いていた。

 

ユウトは地下の自室へ降りる。

 

「疲れたー……」

 

装備を一つずつ外していく。

 

紺色のバンダナ。

 

黒いマスク。

 

戦闘用のベスト。

 

携行していた装備。

 

最後に背負っていた刀を所定の位置へ戻した。

 

全部片付け終えると、そのままベッドへ倒れ込む。

 

「もう今日は何もしない」

 

誰に言うでもなく宣言した。

 

そう。

 

何もしない。

 

ただし。

 

一つだけ。

 

「……あれだけ投げとくか」

 

脳内掲示板を開いた。

 

 

【転生者掲示板】

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

帰宅

 

本日の業務終了

 

もう働きません

 

ちびリス博士

 

素材ありがとー!!

 

これで間に合う!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

どういたしまして

 

ちゃんと約束守れよ

 

ちびリス博士

 

わかってるよー!

 

シーホースCEO

 

何の約束?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

徹夜禁止

 

半々医者

 

当然だ。

 

ちびリス博士

 

もう注意されたから!

 

この話おしまい!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

じゃ本題

 

今回のホロウレイダー

 

たぶん後ろに誰かいる

 

機械執事

 

根拠は?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

規模

 

採掘量がごろつきの小遣い稼ぎじゃない

 

あれだけ掘ってるなら安定した売り先が必要になる

 

半々医者

 

組織的ということか。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

その可能性高め

 

少なくとも俺ならそう見る

 

シーホースCEO

 

なるほど

 

副店長の裏稼業センサーが反応したか

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

嫌な言い方すんな

 

おっとり師範

 

でも副店長さんがそう感じたのなら、調べた方がよさそうですね~。

 

機械執事

 

同感だ。

 

素材の市場データはあるか?

 

ちびリス博士

 

あるよー!

 

ちょっと待ってね

 

データ貼る!

 

数秒後。

 

あかりからデータが共有された。

 

半々医者

 

随分と上がっているな。

 

おっとり師範

 

短期間でこれは不自然ですね~。

 

機械執事

 

……なるほど

 

副店長

 

おそらく当たりだ

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

やっぱり?

 

機械執事

 

価格が上昇し始めた時期と

 

正規市場への供給量が減少し始めた時期がほぼ一致している

 

半々医者

 

違法採掘で供給が減ったからではないのか?

 

機械執事

 

それだけなら説明がつかない

 

ホロウレイダーが採掘した素材は消滅するわけではない

 

自分たちで使用しない以上

 

どこかへ流れる

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

なのに表じゃ供給不足

 

機械執事

 

そういうことだ

 

シーホースCEO

 

誰かが裏で集めてる?

 

機械執事

 

可能性は高い

 

ちびリス博士

 

じゃあ誰かがわざと値段上げてるってこと?

 

機械執事

 

そこまでは断定できない

 

だが調べる価値はある

 

少し間が空く。

 

シーホースCEO

 

待って

 

そっちは私が調べる

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

よろしく専門家

 

シーホースCEO

 

こういう時だけ素直ね

 

 

数分後。

 

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

まだー?

 

機械執事

 

数分くらい待て。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

俺もう寝たい

 

半々医者

 

なら寝ろ。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

結果だけ気になる

 

おっとり師範

 

ふふっ。

 

さらに少しして。

 

シーホースCEO

 

最悪

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

帰ってきた

 

機械執事

 

何が出た?

 

シーホースCEO

 

正規流通量が減った時期とほぼ同じ頃から

 

複数の小規模業者がこの素材を買い集めてる

 

しかも相場より高値

 

半々医者

 

同じ会社か?

 

シーホースCEO

 

表向きは全部別

 

でも資本関係を辿ったら繋がった

 

機械執事

 

どこへ?

 

少し間。

 

シーホースCEO

 

TOPS傘下

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

うわぁ

 

半々医者

 

面倒だな。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

先生に即面倒判定されてて草

 

半々医者

 

企業絡みなど面倒に決まっている。

 

シーホースCEO

 

しかも副店長の勘

 

たぶん正解

 

ホロウレイダーが勝手にやってるだけじゃない可能性高い

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

でしょうね

 

機械執事

 

買い取り側から指示が出ている可能性か。

 

シーホースCEO

 

そこはまだ分からない

 

証拠がない

 

でも流れが綺麗すぎる

 

ちびリス博士

 

つまり?

 

シーホースCEO

 

違法採掘で正規流通から素材を減らす

 

 

裏で確保

 

 

供給不足で価格上昇

 

 

高値になったところで売る

 

たぶんこう

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

わあシンプル

 

半々医者

 

そして悪質だ。

 

機械執事

 

市場操作を狙っているなら筋は通る。

 

シーホースCEO

 

まだ疑惑だけどね

 

だから証拠がいる

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

頑張れ社長

 

シーホースCEO

 

他人事みたいに言うな

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

俺の仕事は怪しいって報告するとこまでです

 

シーホースCEO

 

誰が決めたのよ

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

 

機械執事

 

却下されるだろうな。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

えっ

 

シーホースCEO

 

副店長

 

明日暇?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

暇じゃないです

 

シーホースCEO

 

まだ何も言ってないんだけど

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

この流れ何度も経験してるから

 

半々医者

 

学習したか。

 

ちびリス博士

 

副店長おにい逃げて!

 

シーホースCEO

 

事が発覚した経緯はおちびだからね

 

ちびリス博士

 

あっ

 

おっとり師範

 

逃げられませんね~。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

俺今日大型エーテリアス倒してきたんですけど

 

シーホースCEO

 

知ってる

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

疲れてるんですけど

 

シーホースCEO

 

知ってる

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

休暇を要求します

 

シーホースCEO

 

報酬出す

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

詳細を聞こう

 

機械執事

 

はや。

 

半々医者

 

いつもの。

 

ちびリス博士

 

副店長おにいチョロい!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

うるせえ!

 

金は大事なんだよ!

 

シーホースCEO

 

じゃ

 

詳しい話は明日

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

へいへい

 

 

ユウトは掲示板を閉じた。

 

「……結局仕事増えた」

 

ベッドへ倒れ込む。

 

今日はもう動かない。

 

絶対に。

 

そう決意したところで。

 

コンコン。

 

地下室の扉が叩かれた。

 

「ユウト兄ー?」

 

リンの声。

 

「なにー?」

 

「夕飯どうする?」

 

「…………」

 

ユウトは天井を見つめた。

 

そうだった。

 

まだ作っていない。

 

「今行くー」

 

重い身体を起こす。

 

疲れている。

 

できればこのまま寝たい。

 

自分一人なら適当に済ませてもいい。

 

だが、アキラとリンの分もある。

 

「働きたくねぇ……」

 

ぶつぶつ言いながら階段を上る。

 

それでも結局、夕飯を作りに行く。

 

面倒くさがりではあるが、やるべきことを放り出す性格ではない。

 

特にアキラとリンのことなら、尚更だった。

 

 

――アークライト社、本社。

 

社長室。

 

ヴァレリア・アークライトは一人、巨大なデスクの前に座っていた。

 

先ほどまで掲示板で軽口を叩いていた人物と同一人物とは思えないほど、その表情は鋭い。

 

端末には複数の資料が並んでいる。

 

市場価格。

 

正規流通量。

 

買い付け記録。

 

複数の小規模業者。

 

それらを繋ぐ資本関係。

 

そして。

 

その先に存在するTOPS傘下企業。

 

「フン……」

 

ヴァレリアは鼻を鳴らした。

 

「随分とくだらない真似をしてくれたものね」

 

企業が利益を求める。

 

それ自体は当然だ。

 

ヴァレリアとて経営者。

 

利益を否定するほど愚かではない。

 

むしろ企業である以上、利益を出すのは当然の責務だ。

 

だが。

 

意図的に供給を絞る。

 

裏で素材を確保する。

 

その結果として価格を吊り上げる。

 

さらにホロウレイダーによる違法採掘にまで関与しているのなら。

 

話はまったく違う。

 

「市場を弄び、市民から不当に利益を掠め取る……」

 

端末を操作する。

 

関連企業。

 

役員。

 

資金の流れ。

 

取引先。

 

次々と情報が表示される。

 

「その程度の小細工で私の目を欺けるとでも思ったか?」

 

ヴァレリアの口元が僅かに吊り上がった。

 

だが。

 

まだ動かない。

 

今あるのは、あくまで状況証拠だ。

 

買い付け業者が勝手にやった。

 

下請けの独断だった。

 

自分たちは知らなかった。

 

いくらでも言い逃れはできる。

 

相手はTOPS傘下。

 

仕留めるのであれば、中途半端な証拠では意味がない。

 

「証拠が足りん」

 

ヴァレリアは椅子へ深く腰掛けた。

 

アークライト社もまた、TOPS財政ユニオンに籍を置く企業。

 

だからこそ彼女は知っている。

 

この疑惑が事実なら、単なる企業間の揉め事では済まない。

 

「ならば、逃げ道がなくなるまで揃えてやればいい」

 

明日、ユウトに頼む仕事も決まった。

 

本人は嫌そうにするだろう。

 

もっとも、報酬額を提示すれば働くことも分かっている。

 

「まったく、扱いやすい男だ」

 

小さく笑う。

 

もっとも。

 

ヴァレリアはまだ知らなかった。

 

自分が目を付けたその企業を――。

 

すでに別の者たちも監視していることを。

 

TOPSの秩序を乱す者を裁定するため。

 

その『黒い枝』が、静かに伸び始めていることを。

 

それを知るのは、もう少し先の話だ。

 

ヴァレリアは端末に映る企業名を睨んだ。

 

「私の目の届く場所で市場を弄び、その上で利益を掠め取ろうとは……いい度胸じゃない」

 

不敵な笑みを浮かべる。

 

「せいぜい今のうちに稼いでおくことね」

 

ホロウでの戦いは終わった。

 

だが。

 

一つの素材回収依頼から浮かび上がった小さな違和感は、思いもよらない場所へと繋がり始めていた。

 

今度の舞台はホロウではない。

 

新エリー都を動かす企業たちの世界。

 

そしてそこは――。

 

ヴァレリア・アークライトが最も得意とする領域だった。

 

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