転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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感想を書いて下さった方、ありがとう御座います。作者は凄く嬉しいんですが移動の合間などで書いている為休みの時しかゆっくり返事ができないのでご容赦下さい。
また今回からまだ先だろっ!と言うキャラ達が普通に登場してきますのであしからず。


第5話 黒い枝が来る前に

 

翌朝。

 

Random Playの地下室。

 

目を覚ましたユウトが最初にしたことは、時計を見ることだった。

 

そして次に、もう一度目を閉じる。

 

「……まだ寝られるな」

 

昨日はホロウへ潜り、ホロウレイダーを蹴散らし、エーテリアスの群れを相手にし、大型まで仕留めた。

 

その後はあかりへ素材を届け、帰宅して夕飯を作った。

 

今日はできれば昼まで寝たい。

 

いや、何もなければ一日中だらけていてもいい。

 

そんなことを考えながら布団を被り直した、その時だった。

 

脳内掲示板に通知が入る。

 

「…………」

 

嫌な予感がした。

 

昨日の最後。

 

『詳しい話は明日』

 

そう言っていた人物がいた。

 

「見なかったことに……」

 

もう一度通知。

 

「……ならねえよなぁ」

 

諦めて掲示板を開いた。

 

 

【転生者掲示板】

 

シーホースCEO

 

全員いる?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

朝っぱらから何ですか社長

 

半々医者

 

いる。

 

機械執事

 

いるぞ。

 

ちびリス博士

 

いるよー!

 

おっとり師範

 

いますよ~。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

珍しく全員集合

 

昨日の続き?

 

シーホースCEO

 

そう

 

あと、この話はここだけにして

 

外には一切漏らさないで

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

……ほう

 

機械執事

 

随分と慎重だな。

 

半々医者

 

何か分かったのか?

 

少し間を置いて、書き込みが入る。

 

シーホースCEO

 

昨日あれから詳しく調べた

 

例のTOPS傘下企業

 

思ってた以上に真っ黒

 

ちびリス博士

 

真っ黒!?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

違法採掘への関与掴めた?

 

シーホースCEO

 

決定的な証拠まではない

 

でも昨日見つけた業者以外にも

 

複数のダミー企業を経由して素材を買い集めてる

 

資金の流れも追った

 

最終的にはほぼ同じところに繋がる

 

機械執事

 

例の企業か。

 

シーホースCEO

 

そう

 

それと似たような動きが今回だけじゃない

 

別の商品でも何度かやってる形跡がある

 

半々医者

 

常習犯か。

 

シーホースCEO

 

その可能性は高い

 

供給を絞って価格を上げる

 

裏で確保していた在庫を高値で流す

 

昨日考えた通りならそういう仕組み

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

思ったより手広くやってんな

 

ちびリス博士

 

ボクの部品が届かなかったところから

 

すごい話になってきた……

 

半々医者

 

お前が気にすることではない。

 

今回たまたま表に出ただけだ。

 

ちびリス博士

 

そっかぁ……

 

そこで別の書き込みが入った。

 

おっとり師範

 

CEOさん

 

ここだけで共有する理由は

 

それだけではありませんよね~?

 

数秒。

 

掲示板が止まった。

 

シーホースCEO

 

さすが

 

本題はここから

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

嫌な予感しかしない

 

シーホースCEO

 

調べてる途中で気づいた

 

あの企業

 

もう別口から探られてる

 

機械執事

 

どこだ?

 

シーホースCEO

 

最初は分からなかった

 

だからそっちも調べた

 

今朝確認が取れた

 

そして。

 

シーホースCEO

 

クランプスの黒枝が動いてる

 

書き込みが止まった。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

マジ?

 

ちびリス博士

 

うわぁ

 

機械執事

 

なるほど。

 

半々医者

 

……誰だ?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

先生知らないんだった

 

半々医者

 

また私だけか。

 

ちびリス博士

 

医者おにいどんまい!

 

半々医者

 

嬉しくない。

 

機械執事

 

簡単に説明すると

 

TOPS内部で問題を起こした者を調査し

 

必要なら裁定する者たちだ

 

半々医者

 

なるほど。

 

それで全員の反応が変わったわけか。

 

シーホースCEO

 

しかも今回の件を見つけて動いたわけじゃない

 

あっちはあっちで前からこの企業を調べてたみたい

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

つまり今回の違法採掘は

 

あの会社がやってる悪さの一部かもしれないと

 

シーホースCEO

 

そういうこと

 

機械執事

 

それなら表立って動くべきではないな。

 

こちらの調査が相手に知られれば、黒枝の調査にも影響する。

 

シーホースCEO

 

だからここだけ

 

アークライト社として大々的に動くのは中止

 

半々医者

 

黒枝に任せればいいのでは?

 

シーホースCEO

 

裁定そのものはね

 

でも問題が一つある

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

証拠隠滅?

 

シーホースCEO

 

正解

 

黒枝が正式に動けば

 

向こうだって何をされるか分かってる

 

特にダイアリンが直接内偵に来たら

 

証拠を隠そうとするはず

 

機械執事

 

外部から確認できる情報だけでは、企業上層部まで責任を追及するには足りない。

 

シーホースCEO

 

そういうこと

 

「下請けが勝手にやりました」

 

「一部社員の独断です」

 

で逃げられる可能性がある

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

 

その消される前の証拠をどうにかしたいと

 

シーホースCEO

 

話が早くて助かる

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

嫌な予感当たったわ

 

 

布団の中でユウトは天井を見上げた。

 

この後に続く言葉が分かる。

 

分かりたくなかったが。

 

 

シーホースCEO

 

外から探れる範囲はもう限界

 

だから誰かに中へ入ってもらいたい

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

誰かさん大変だなぁ

 

機械執事

 

他人事ではないと思うぞ。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

誰だろうなぁ

 

潜入できて

 

変装できて

 

裏社会にも詳しい便利な奴

 

半々医者

 

自己紹介か?

 

ちびリス博士

 

副店長おにいだ!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

知ってた

 

シーホースCEO

 

報酬は昨日の話に上乗せする

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

仕事内容を聞こう

 

機械執事

 

相変わらず切り替えが早いな。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

金は大事

 

続いて、ヴァレリアから詳しい説明が送られてきた。

 

目的は証拠を盗むことではない。

 

ましてや、黒枝より先に企業を告発することでもない。

 

黒枝が正式に踏み込んだ際、企業側が隠そうとする証拠を特定する。

 

消去されるデータ。

 

処分される帳簿。

 

隠される契約書。

 

移動される資産。

 

それらがどこにあるのかを確認し、黒枝が調査すれば自然と発見できる状態を作る。

 

黒枝の仕事を奪うのではない。

 

相手に逃げ道を与えないための下準備。

 

それがユウトの仕事だった。

 

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

なるほどね

 

それならできる

 

シーホースCEO

 

頼める?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

報酬次第

 

シーホースCEO

 

これで

 

金額が表示された。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

本日より私は御社の忠実な犬です

 

ちびリス博士

 

チョロい!

 

半々医者

 

現金な男だ。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

うるせえ

 

こっちは貯金増やすのに必死なんだよ

 

シーホースCEO

 

じゃあ詳細送る

 

あともう一つ

 

できれば企業同士の繋がりも確認して

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

了解

 

機械執事

 

無理はするな。

 

黒枝も動いている以上、長時間の潜入は避けた方がいい。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

へいへい

 

じゃ

 

ちょっと出勤してきますかね

 

 

数時間後。

 

問題の企業へ、一人の男が出社した。

 

ごく普通の会社員。

 

年齢。

 

身長。

 

体格。

 

顔。

 

声。

 

どれも社員記録と一致している。

 

受付で社員証をかざす。

 

認証。

 

問題なし。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

同僚と自然に挨拶を交わす。

 

誰も疑わない。

 

その男が、本物ではないことを。

 

 

エレベーターへ乗る。

 

扉が閉じる。

 

他に誰もいないことを確認してから、男――ユウトは小さく息を吐いた。

 

「さて、と」

 

変化の術。

 

外見だけを似せるような単純な変装ではない。

 

体格も。

 

声も。

 

細かな特徴も。

 

事前に調べた対象へ合わせている。

 

とはいえ、姿を変えただけで潜入できるほど甘くはない。

 

対象社員の所属。

 

担当業務。

 

口癖。

 

人間関係。

 

出退勤の時間。

 

よく利用する場所。

 

それらは事前に頭へ叩き込んである。

 

術はあくまで道具。

 

潜入を成功させるのは、使う人間の技量だ。

 

エレベーターが止まる。

 

扉が開き、ユウトは他の社員たちに混じってフロアへ降りた。

 

「おはよう」

 

通りかかった社員から、何気なく声をかけられる。

 

「おはよう。朝から眠そうだな」

 

「昨日ちょっと寝るの遅くてな」

 

「またかよ」

 

「放っとけ」

 

軽く笑い合う。

 

それだけ。

 

相手は何も疑わず、そのまま自分の席へ向かった。

 

ユウトも自然な足取りで自分――正確には、変化した相手の部署へ向かう。

 

何気ない会話。

 

普段なら意識することすらないやり取り。

 

だが、その程度の情報まで事前に調べているからこそ成立する。

 

相手の姿を真似るだけでは、潜入とは呼べない。

 

その人物として振る舞い。

 

その人物として一日を過ごす。

 

そこまでやって、初めて周囲の目から消えることができる。

 

 

調査は慎重に進めた。

 

いきなり重要区画へ忍び込むような真似はしない。

 

普通に働く。

 

書類を運ぶ。

 

端末を使う。

 

社員同士の会話を聞く。

 

その中から違和感だけを拾っていく。

 

そして昼を過ぎる頃。

 

一つ目を見つけた。

 

表向きの仕入れ記録と一致しない搬入記録。

 

さらに辿る。

 

別の部署。

 

別の端末。

 

そこから繋がったのは、複数の小規模業者だった。

 

昨日、ヴァレリアが外部からの調査で突き止めた企業群だ。

 

そして内部の記録から辿ってみれば、その繋がりはさらに明確だった。

 

「……やっぱり繋がってるな」

 

ホロウレイダー。

 

買い取り業者。

 

ダミー企業。

 

そして、この会社。

 

資金と素材が何段階にも分けて行き来している。

 

巧妙ではある。

 

だが、一度繋がりを疑って見れば追える。

 

ユウトはデータを盗まない。

 

代わりに、削除対象として設定されていた一部記録の処理を変更する。

 

消したように見える。

 

だが、監査用領域には残る。

 

別の帳簿。

 

廃棄予定。

 

それも持ち出さない。

 

ただし、その帳簿の存在へ繋がる記録だけは、通常の監査から発見できるようにする。

 

隠し金庫。

 

こちらも開けない。

 

その代わり、金庫へ繋がる不自然な管理記録が消されないようにする。

 

やりすぎない。

 

露骨にしない。

 

黒枝なら気づく。

 

それで十分だった。

 

「本職なら、これくらい辿るだろ」

 

ユウトは小さく呟いた。

 

 

そこで終わるはずだった。

 

企業上層部が違法採掘へ関与していた証拠。

 

市場操作。

 

資金の流れ。

 

これだけ確認できれば十分。

 

だが。

 

ユウトは一つの送金記録に目を止めた。

 

「……ん?」

 

利益の一部が別の企業へ送られている。

 

名目は研究開発費。

 

金額自体は、企業規模からすれば不自然ではない。

 

だが。

 

送金先が妙だった。

 

実体が薄い。

 

さらに追う。

 

別会社へ。

 

さらに別会社。

 

その先も。

 

「随分回すな」

 

資金洗浄。

 

そう考えれば納得できる。

 

だが問題は――。

 

何のために?

 

ユウトの表情から、気の抜けた雰囲気が消えた。

 

一段。

 

また一段。

 

慎重に追う。

 

そして。

 

最後に表示された情報を見た瞬間。

 

動きが止まった。

 

「…………」

 

もう一度確認する。

 

間違いではない。

 

「……おいおい」

 

声が低くなる。

 

送金先。

 

関連研究。

 

仲介している人物。

 

直接名前が書かれているわけではない。

 

そんな間抜けな真似をする組織ではない。

 

だが。

 

ユウトは知っている。

 

他の転生者たちも知っている。

 

この繋がりが何を意味するのか。

 

「讃頌会……」

 

今回の市場操作で得た利益。

 

その一部が、複数の企業を経由して流れている。

 

目的は――資金集め。

 

ユウトの目が細くなった。

 

「こんなところでも動いてやがったか」

 

ここから先は軽口で済ませる話ではない。

 

特に。

 

この名前に深い因縁を持つ仲間が一人いる。

 

ユウトは必要な情報だけを記憶する。

 

そして讃頌会へ繋がる証拠についても、同じように処理した。

 

盗まない。

 

改竄もしない。

 

ただ。

 

消せなくする。

 

そして。

 

辿れるようにする。

 

「……これでいい」

 

あとは黒枝の仕事だ。

 

 

夕方。

 

ユウトは何事もなかったように退社した。

 

「お疲れさまでした」

 

「お疲れー」

 

社員たちと挨拶を交わす。

 

会社を離れる。

 

人通りのない場所へ入る。

 

周囲に誰もいないことを確認する。

 

そこで術を解いた。

 

「ふぅ……」

 

元の姿へ戻る。

 

「やっぱこっちの仕事の方が疲れるな」

 

戦闘なら、敵を倒せば終わる。

 

潜入はそうはいかない。

 

一日中。

 

視線。

 

声。

 

仕草。

 

全部を管理しなければならない。

 

「帰って寝よ」

 

その前に。

 

報告だけは必要だった。

 

 

【転生者掲示板】

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

終わった

 

シーホースCEO

 

早いわね

 

どうだった?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

 

違法採掘も市場操作も

 

上まで繋がってる

 

機械執事

 

証拠は?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

ある

 

黒枝が調べれば見つかるようにしといた

 

消そうとしても残る

 

シーホースCEO

 

上出来

 

半々医者

 

それなら終わりか。

 

少し。

 

間が空いた。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

いや

 

追加でもう一個出た

 

ちびリス博士

 

なに?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

ここから真面目な話

 

空気が変わった。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

資金の流れ追った

 

今回の利益の一部

 

何社も経由して外に流れてる

 

機械執事

 

送金先は?

 

数秒。

 

ユウトは書き込んだ。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

讃頌会

 

誰も書き込まなかった。

 

先ほどまでの軽い空気が消える。

 

やがて。

 

おっとり師範

 

……確かですか?

 

普段の柔らかな調子ではなかった。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

かなり濃い

 

直接名前残すほど馬鹿じゃないけど

 

経由先と関係者を追えば繋がる

 

証拠も残した

 

機械執事

 

なるほど。

 

市場操作そのものが目的ではなく、資金調達も兼ねていた可能性があるわけか。

 

シーホースCEO

 

……本当にどこにでも湧いてくるわね

 

半々医者

 

私にも大体の話は聞かされている。

 

笑えない相手だということくらいは分かる。

 

ちびリス博士

 

師範おねい……

 

しばらくして。

 

おっとり師範

 

大丈夫ですよ。

 

ただ――

 

もし本当に関わっているのなら

 

見逃すわけにはいきませんね。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

ああ

 

だから黒枝に全部見つけてもらう

 

シーホースCEO

 

それでいい

 

私たちが表に出る必要はない

 

あとは裁定する側の仕事

 

 

数日後。

 

問題の企業へ、一人の女性が足を踏み入れていた。

 

クランプスの黒枝。

 

裁決官、ダイアリン。

 

査定が始まる。

 

そして当然。

 

企業側も動いた。

 

データの削除。

 

書類の処分。

 

帳簿の移動。

 

自分たちへ繋がる証拠を消そうとする。

 

だが。

 

消したはずのデータが残る。

 

処分したはずの帳簿へ繋がる記録が出る。

 

隠したはずの資金経路が、別の記録から浮かび上がる。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

調査を進めるほど、必要なものが繋がっていく。

 

やがて。

 

ダイアリンの手が止まった。

 

「……んー?」

 

端末を見る。

 

少し戻る。

 

もう一度確認。

 

証拠そのものは本物だ。

 

企業側が作った記録。

 

金の流れも一致する。

 

だが――。

 

何かがおかしい。

 

隠そうとしている。

 

それは間違いない。

 

なのに、肝心なところだけ妙に辿りやすい。

 

「なんか、少し作為的なものを感じますね?」

 

首を傾げる。

 

誰かが証拠を作ったわけではない。

 

情報を捏造した形跡もない。

 

むしろ逆。

 

元々存在していた証拠が――消えないようにされている。

 

「わざわざ手間がかかることをするなんて……」

 

「うーん……」

 

少し考える。

 

企業側ではない。

 

自分たちでもない。

 

ならば。

 

黒枝より先にここへ入り込んだ何者かがいる。

 

その人物は証拠を持ち出さず、黒枝が自分たちで発見できるようにして去った。

 

目的は不明。

 

味方とも限らない。

 

だから無視するわけにもいかない。

 

ダイアリンは端末へ記録を残す。

 

「一応、照ちゃん先輩にこれも報告しますか」

 

そして。

 

査定を続ける。

 

まだ終わりではない。

 

資金の流れには、さらに先がある。

 

複数の企業。

 

複数の名義。

 

研究費。

 

投資。

 

外部委託。

 

それらを一つずつ繋いだ先。

 

黒枝がこれから辿り着くことになる名前を――。

 

数日前。

 

一人の忍者はすでに見つけていた。

 

 

――クランプスの黒枝、本部。

 

査定を終えたダイアリンは、その足で本部へ戻っていた。

 

今回の査定で確認した内容。

 

対象企業が行っていた市場操作。

 

ホロウレイダーを利用した違法採掘。

 

複数の企業を経由した資金の流れ。

 

そして、その調査の中で感じた奇妙な作為。

 

一通りの報告を聞き終えた照は、手元の資料を眺めていた。

 

ページを一枚。

 

さらに一枚。

 

最後まで目を通してから。

 

「ふーん……」

 

照が小さく声を漏らした。

 

その表情には驚きよりも、どこか面白がるような色が浮かんでいる。

 

「わざわざ照ちゃん達にお肉をくれるなんて、随分な親切さんだね?」

 

「そうですねぇ」

 

ダイアリンも困ったように笑った。

 

「正直、今回の査定では一度逃げられる事を想定して動いていたんですけどねぇ」

 

「まあ、あれだけ色々やってた会社だしね」

 

照も最初から、一度ですべてが片付くとは考えていなかった。

 

査定の気配を察すれば、証拠を隠す。

 

責任を下へ押しつける。

 

それでも駄目なら、関係企業や取引先との繋がりを切る。

 

そうやって尻尾を切りながら逃げることくらいは、当然想定していた。

 

だからこそ、その先まで含めて追い詰める準備を進めていたのだ。

 

「その後はプロメイアさんにも動いてもらう予定でしたし」

 

ダイアリンの言葉に、照が頷く。

 

「あー、そうだったね」

 

頬杖をつきながら、資料を指先で軽く叩く。

 

「逃げた後はプロメイアに追ってもらう予定だったのに」

 

「ええ」

 

「でも――」

 

照は資料へ目を落とした。

 

今回、黒枝が得たものは予想よりも多い。

 

本来なら一度目の査定で相手の出方を確認し、そこから次の手へ移るはずだった。

 

その手順を踏む必要が、ほとんどなくなってしまった。

 

「これなら、わざわざプロメイアにお願いする必要もなさそうだね」

 

「そうですねぇ」

 

ダイアリンも頷いた。

 

「プロメイアさんなら頼めば動いてくれたでしょうけど、必要がなくなった仕事までお願いするのも違いますし」

 

「うんうん」

 

照もあっさり同意する。

 

必要なら動く。

 

必要でなければ動かない。

 

そこに余計なものを挟む必要はない。

 

ましてや今回、すでに査定を進めるだけの材料は揃っている。

 

「せっかく予定空けてもらってたのにねー」

 

「まあ……」

 

ダイアリンが少しだけ苦笑する。

 

「プロメイアさんなら、『必要ないならそれでいい』で終わりそうですけどねぇ」

 

「言いそう」

 

照がくすっと笑う。

 

「というか、それ以外言わなそう」

 

「ふふっ」

 

短い笑いが二人の間に流れた。

 

だが、それもほんの僅かな時間。

 

照の視線はすぐに、再び手元の資料へ戻った。

 

「それにしても……」

 

今回。

 

黒枝の予定を大幅に短縮させた何者かがいる。

 

自分たちより先に企業内部へ入り込み。

 

企業側でも気づかなかったものを見つけ。

 

黒枝が踏み込む前に手を打っていた。

 

しかも、自分で企業を告発するでもない。

 

証拠を持ち出して取引材料にするでもない。

 

黒枝が来ることを知っていたかのように、仕事を終えた後は姿を消している。

 

「変な人だねぇ」

 

照がぽつりと言った。

 

「ですねぇ」

 

「これだけできるなら、自分でどうにかする方法だってあっただろうに」

 

「それをせずに、私たちに任せた」

 

「そうそう」

 

照は口元に笑みを浮かべた。

 

「照ちゃん達に食べてくださいって、お肉だけ置いて帰った」

 

何が目的だったのか。

 

単純に今回の企業を潰したかったのか。

 

黒枝へ協力する意図があったのか。

 

あるいは――。

 

そのさらに先に、別の目的があるのか。

 

現状では判断できない。

 

「……ま、いっか」

 

照はあっさりと言った。

 

ダイアリンが僅かに首を傾げる。

 

「いいんですか?」

 

「今はね」

 

照は笑っている。

 

だが、裁決官としての目はしっかりと状況を見ていた。

 

「照ちゃん達のお仕事を邪魔したわけじゃない」

 

「今回はむしろ助けてもらいましたからねぇ」

 

「でしょ?」

 

資料を閉じる。

 

「だったら今は、目の前のお肉をいただく方が先」

 

「なるほど」

 

「せっかく食べやすくしてくれたんだし」

 

照はにっこりと笑った。

 

「残したら親切さんに失礼でしょ?」

 

「それもそうですねぇ」

 

ダイアリンも笑う。

 

すると照が、閉じた資料を机へ置きながら付け加えた。

 

「あ、でも」

 

「はい?」

 

「親切さんのことも記録には残しといてね」

 

その一言に、ダイアリンの表情も僅かに引き締まった。

 

「もちろんです」

 

「今のところ敵じゃなさそうだけど――」

 

照は机へ頬杖をつく。

 

「照ちゃん達より先にあそこまで潜り込んで、これだけのことができる人がいる」

 

一拍。

 

「それはそれで、覚えといた方がいいからね」

 

「ええ。私もそう思います」

 

ダイアリンは素直に頷いた。

 

正体を無理に追う必要は、今のところない。

 

だが、存在そのものを忘れる理由もない。

 

今回限りの偶然なのか。

 

また別の査定で姿を見せるのか。

 

それはまだ分からない。

 

「じゃ、この話は一旦ここまで」

 

照が資料を横へ置いた。

 

「まずは――」

 

別の資料を手元へ引き寄せる。

 

今回の査定対象。

 

そこから繋がった企業。

 

そして。

 

さらに奥へと伸びている、不自然な資金の流れ。

 

「こっちのお肉、ちゃんと最後までいただこっか」

 

「はーい」

 

ダイアリンがいつもの調子で答える。

 

軽い会話とは裏腹に。

 

二人の前には、すでに次の査定へ繋がる情報が揃い始めていた。

 

市場操作だけでは終わらない。

 

その利益が、一体どこへ流れていたのか。

 

黒枝もまた。

 

ユウトが一足先に見つけた讃頌会へと続く糸を、確実に辿り始めていた。

 

 

その頃。

 

Random Play。

 

「ユウト兄ー、お客さん!」

 

「はいよー」

 

リンの声に、ユウトは気の抜けた返事をしながら店頭へ向かう。

 

数日前までTOPS傘下企業へ潜入していた人物には、とても見えない。

 

黒枝本部で自分が『親切さん』などと呼ばれていることも、当然知らない。

 

そして、知る必要もなかった。

 

誰にも知られない。

 

誰にも気づかれない。

 

表に名前も残さない。

 

必要な仕事だけ終わらせて、後は本来その仕事をするべき者へ任せる。

 

それが――。

 

彼がずっとやってきた仕事なのだから。

 

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