転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第6話 商機を逃すな

 

あれから、一週間が経った。

 

ユウトが持ち帰った資料の中身は、大方の予想通りだった。

 

そして現在。

 

クランプスの黒枝による査定は、着実に進んでいる。

 

それに伴い、問題のTOPS傘下企業が黒枝の査定を受けているという事実も、企業間で徐々に知れ渡り始めていた。

 

当然、それを知ってなお静観しているほど、TOPSに名を連ねる企業は甘くない。

 

今後の裁定次第では、対象企業が一定期間まともに業務を行えなくなる可能性もある。

 

そうなれば――人が動く。

 

取引先が動く。

 

契約が動く。

 

そして、市場が動く。

 

すでにいくつかの企業は、今後生じるであろう空白を見越して動き始めていた。

 

誰もが一流。

 

だからこそ、商機を見逃さない。

 

――だが。

 

ヴァレリア・アークライトは、その一歩先にいた。

 

 

――アークライト社、本社。

 

「候補者の選定は終わったか?」

 

「はい。問題企業に所属する社員のうち、不正への関与が確認されず、一定以上の実績を持つ人材をこちらに」

 

秘書から渡された資料へ、ヴァレリアは素早く目を通した。

 

技術者。

 

企画担当。

 

物流部門の責任者。

 

営業。

 

現場管理。

 

一人一人の経歴と実績が詳細にまとめられている。

 

「……悪くない」

 

「ありがとうございます」

 

「だが足りん」

 

「……はい?」

 

ヴァレリアが資料を机へ置いた。

 

「社員だけを見るな! 奴らと取引している下請けまで含めろ!」

 

「下請け企業も、ですか?」

 

「当然だ!」

 

端末を操作すると、別の資料が表示された。

 

問題企業と取引関係にある企業。

 

その中でも、今回の件によって不利益を被っている企業を中心にまとめられている。

 

秘書が僅かに目を見開いた。

 

「すでに調査を……?」

 

「今頃になって他社も動き始めた。なら、こちらが同じ場所から走り始めてどうする?」

 

一週間。

 

決して長い時間ではない。

 

だが、一流同士が競争する世界では、その一週間が大きな差になる。

 

「こちらは一週間前から準備している」

 

ヴァレリアは不敵に笑った。

 

「ならば一歩先にいるのは当然だ!」

 

資料へ視線を戻す。

 

「不正に関与した者は除外しろ。上層部に取り入って利益を得ていた連中も要らん」

 

次々と候補が振り分けられていく。

 

やがて。

 

「……ほう」

 

ヴァレリアの指が止まった。

 

若手ながら複数の開発プロジェクトで成果を残した技術者。

 

現場から物流網の改善案を提出し、大幅な効率化を成功させた管理職。

 

何度却下されても新規事業を提案し続けていた企画担当。

 

「いるではないか」

 

「何がでしょう?」

 

「使える人間だ」

 

ヴァレリアの口元が吊り上がる。

 

「上が腐っているからといって、下まで腐っているとは限らん」

 

資料を机へ置いた。

 

「泥船に有能な人間まで乗せたまま沈める必要はない」

 

「ヘッドハンティングを?」

 

「接触しろ」

 

即答だった。

 

「ただし、まだ引き抜くな。正式な裁定が下る前に大々的に動けば余計な問題を招く。転職の意思があるか、それだけ確認しておけ」

 

「条件はいかがいたしますか?」

 

「現在の給与の一・五倍を基準にしろ」

 

「一・五倍ですか?」

 

ヴァレリアが眉を寄せる。

 

「安いか?」

 

「いえ、むしろ逆で――」

 

「なら能力次第で二倍まで出せ!」

 

「二倍!?」

 

「騒ぐな!」

 

一喝。

 

「優秀な人間を安く買い叩き、目先の人件費を削って利益を出した気になる……フン、三流企業の発想だ!」

 

ヴァレリアは鼻を鳴らした。

 

「能力に相応しい報酬を出す。その代わり、それ以上の利益を生み出してもらう。当然の話だろう!」

 

「……承知しました」

 

「次だ」

 

今度は下請け企業の資料。

 

親会社の都合で契約を変更された企業。

 

無理な納期を押し付けられていた企業。

 

今回の素材価格高騰によって損失を被った企業。

 

その中から、ヴァレリアはいくつかを選び出した。

 

「ここ。それから、こことここだ」

 

「こちらは?」

 

「技術力と財務状況を精査しろ。不正に関与していないことも確認しておけ」

 

秘書が頷く。

 

「救済を検討されるのでしょうか?」

 

「救済?」

 

ヴァレリアが露骨に顔をしかめた。

 

「くだらん」

 

「……はい?」

 

「何故、私が慈善事業をする必要がある?」

 

画面を指差す。

 

「こいつらには技術がある。そして親会社が止まれば仕事が減る」

 

「はい」

 

「こちらには仕事を任せられる企業が必要になる」

 

「……なるほど」

 

「なら使う。それだけだ!」

 

きっぱりと言い切った。

 

「向こうは仕事を得る。こちらは必要な成果を得る。対価も払う。それのどこが救済だ?」

 

「失礼しました」

 

「分かればいい」

 

そこでヴァレリアは、今後新たに確保できる可能性のある人材と取引先を見ながら、過去の事業計画へ目を移した。

 

人材が増える。

 

使える企業も増える。

 

ならば、それらを投入できる事業も必要になる。

 

端末に表示されたのは、これまでアークライト社で提案されながらも、様々な事情によって凍結された企画の一覧。

 

「…………」

 

ヴァレリアの指が止まった。

 

数年前に凍結された、一つの企画。

 

その名前を見た瞬間。

 

「……フン」

 

僅かに口元が上がった。

 

「そういえば――これがあったな」

 

「社長?」

 

ヴァレリアがその項目を選択する。

 

企画書が開かれ、画面いっぱいにタイトルが表示された。

 

《移動式テーマパーク事業計画》

 

秘書が息を呑む。

 

「これは……以前凍結された」

 

「ああ」

 

かつてアークライト社で検討されていた大規模事業。

 

社内での評価は高く、採算性も将来性も十分にあった。

 

固定された土地へ巨大な娯楽施設を建設するのではない。

 

複数の大型移動ユニットを組み合わせ、一つのテーマパークとして運用する。

 

一定期間営業した後は、別の地域へ移動。

 

新エリー都各地を巡回する大型娯楽施設。

 

だが、実現に必要な輸送・設備関連の契約や権利の一部を競合企業に押さえられ、複数の横槍まで入ったことで凍結された計画だった。

 

そして、その障害の一つとなっていたのが――。

 

今回、黒枝の査定を受けている企業。

 

ヴァレリアは改めて企画書へ目を通す。

 

凍結された当時とは状況が違う。

 

障害となっていた企業は黒枝の査定を受け、業務停止となる可能性がある。

 

さらに、今回の一件で新たに確保できそうな人材や取引先もある。

 

条件が揃い始めていた。

 

「……なるほどな」

 

ヴァレリアの笑みが深くなる。

 

秘書は、その表情を見た瞬間に何かを察した。

 

「まさか……」

 

「企画部長を呼べ」

 

「社長?」

 

「聞こえなかったのか?」

 

ヴァレリアは椅子から立ち上がった。

 

そして、画面に映る企画書を指し示す。

 

「この計画を再始動する!」

 

「い、今からですか!?」

 

「当然だ!」

 

「ですが、黒枝の裁定はまだ――」

 

「だからどうした!」

 

一喝。

 

「奴らが業務停止になれば好機! ならなければ競争相手が残る! それだけの話だ!」

 

「ですが――」

 

「他社が結果を確認してから動き出すのを待つつもりか?」

 

ヴァレリアが鼻で笑う。

 

「市場に空席ができると分かっているなら、座る準備くらい先に済ませておけ!」

 

「……!」

 

「こちらには一週間の先行がある。その時間を無駄にするな!」

 

次々と指示が飛ぶ。

 

「企画部門を招集!」

 

「はい!」

 

「物流、技術、安全管理にも連絡しろ!」

 

「はい!」

 

「凍結当時から変化した市場、技術、建造費、運営費をすべて再計算! 使える下請けにはこの事業を回せ!」

 

「承知しました!」

 

「それからアトラクション開発は――」

 

ヴァレリアの動きが止まる。

 

「…………」

 

「社長?」

 

「適任がいるな」

 

「どなたでしょうか?」

 

「こちらで手配する。お前たちは会議の準備を進めろ」

 

「承知しました」

 

秘書が退室する。

 

ヴァレリアは端末を操作した。

 

送信先。

 

――天宮あかり。

 

 

――クルクル・アカリン工房。

 

作業机の上で部品を弄っていたあかりの端末が鳴った。

 

「ん~?」

 

リス耳が動く。

 

「ヴァレリアおねいから?」

 

届いた資料を開く。

 

そこに記されていたのは、

 

《移動式テーマパーク事業・技術協力依頼》

 

「…………」

 

あかりの手が止まった。

 

一秒。

 

二秒。

 

リス耳が、ぴんっと立つ。

 

「テーマパーク……?」

 

資料を読み進める。

 

移動式大型施設。

 

各種アトラクション。

 

ボンプ向け設備。

 

安全基準を満たすことを前提に、新規技術の提案も歓迎。

 

「…………!」

 

尻尾がぶわっと膨らんだ。

 

「アトラクション作っていいの!?」

 

「ンナ!?」

 

近くにいたボンプが振り返る。

 

「ボクが!?」

 

「ンナンナ!」

 

「いっぱい!?」

 

次の瞬間。

 

あかりは転生者掲示板を開いていた。

 

 

【転生者掲示板】

 

ちびリス博士

 

みんな!!!!!!

 

テーマパーク作るって!!!!!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

はい?

 

半々医者

 

何の話だ。

 

機械執事

 

私も初耳だな。

 

おっとり師範

 

テーマパークですか~?

 

シーホースCEO

 

ちょっと待って

 

まだ私が説明してないんだけど!?

 

ちびリス博士

 

だっておねいから依頼きた!!

 

アトラクション作っていいんでしょ!?

 

シーホースCEO

 

いいけど!!

 

いいけど順番!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

社長

 

説明

 

半々医者

 

同感だ。

 

シーホースCEO

 

分かったわよ!

 

昔うちで移動式テーマパークの企画があったの!

 

でも例の企業が持ってる契約とか色々邪魔で凍結してた!

 

機械執事

 

黒枝の査定が進んだことで

 

その障害が取り除かれる可能性が出てきたわけか。

 

シーホースCEO

 

そう!

 

だから今のうちに再始動する!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

一週間前まで企業の不正調べてたのに

 

テーマパーク生えてきた

 

シーホースCEO

 

商機なんだからいいでしょ!

 

それにこれ

 

ずっとやりたかったの!!

 

ちびリス博士

 

なんで移動式なの!?

 

シーホースCEO

 

そこが最高なの!!

 

原作知ってる組なら分かるでしょ!?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

……あ

 

ちびリス博士

 

あっ!

 

おっとり師範

 

あら~。

 

機械執事

 

なるほど。

 

半々医者

 

……私には分からんぞ。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

先生は知らなくて当然

 

ブートピア

 

半々医者

 

ブートピア?

 

シーホースCEO

 

ボンプのために作られたリゾート施設!

 

シーズンイベントで後々ホロウ災害の被害に遭うの!

 

半々医者

 

……なるほど。

 

シーホースCEO

 

あんな立派な施設でも!

 

ホロウに巻き込まれたら営業どころじゃなくなる!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

確か無期限の営業停止だったよな

 

シーホースCEO

 

そう!!

 

それが嫌なの!!

 

せっかく何年もかけて巨大テーマパーク作って!

 

みんなに楽しんでもらえるようになって!

 

ある日突然ホロウ発生しました!

 

施設が被害受けました!

 

無期限営業停止です!

 

なんて悲しすぎるじゃん!!

 

機械執事

 

だから固定式にしない。

 

シーホースCEO

 

そう!!

 

危なくなったらテーマパークそのものが逃げるの!!

 

ちびリス博士

 

テーマパークが逃げる!!

 

すごい!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

字面が強い

 

シーホースCEO

 

でもこの世界じゃめちゃくちゃ合理的でしょ!?

 

ホロウの発生予兆とか危険度上昇が確認されたら

 

お客さんとスタッフを避難させて!

 

施設そのものも安全圏へ移動させる!!

 

機械執事

 

固定施設よりホロウ災害による損失を抑えやすい。

 

ブートピアのような事態への対策にもなるな。

 

シーホースCEO

 

それ!!

 

現実にブートピア見た時からずっと思ってたの!!

 

新エリー都で大規模な娯楽施設作るなら

 

固定式は怖すぎるって!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

原作イベントを経営の反面教師にしてる……

 

シーホースCEO

 

するでしょ普通!!

 

何年もかけて作った夢の施設が

 

ホロウ一個で終わるなんて絶対嫌!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

だいぶ私情入ってんな

 

シーホースCEO

 

当たり前でしょ!!

 

私が作るんだから!!

 

絶対長く続けたいの!!

 

おっとり師範

 

でも移動できるなら

 

災害対策以外にも利点がありますよね~。

 

シーホースCEO

 

そうなの!!

 

そこも最高!!

 

移動できるなら

 

大きな娯楽施設がない地域にも持っていける!!

 

市民がテーマパークまで行くんじゃなくて

 

テーマパークの方から市民のところに行くの!!

 

ちびリス博士

 

楽しそう!!

 

シーホースCEO

 

でしょ!?

 

安全な場所を選びながら色んな地域を巡れる!!

 

ずっと同じ場所に置く必要もない!!

 

機械執事

 

災害対策と巡回型営業を同じ仕組みで実現するわけか。

 

シーホースCEO

 

そう!!

 

前は色々邪魔されて凍結したけど!

 

今なら作れるかもしれないの!!

 

ちびリス博士

 

ボク作る!!

 

いっぱい作る!!

 

シーホースCEO

 

だから依頼送ったの!

 

ただし安全基準は絶対守ってね!!

 

ちびリス博士

 

はーい!!

 

ジェットコースター作る!!

 

ボンプの乗り物も!!

 

あとエーテル技術で――

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

待て十二歳

 

ちびリス博士

 

なに!?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

まず安全なやつから考えよう

 

ちびリス博士

 

安全だよ!

 

たぶん!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

最後の二文字が怖いんだよ

 

半々医者

 

安全基準については私も確認した方がよさそうだな。

 

ちびリス博士

 

医者おにいもやる!?

 

半々医者

 

事故が起きてから呼ばれるよりマシだ。

 

機械執事

 

私も運営システムと避難計画なら協力できる。

 

シーホースCEO

 

最高!!

 

みんなで作ろう!!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

いつの間に転生者共同事業になった

 

おっとり師範

 

楽しそうでいいじゃありませんか~。

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

まあ完成したら俺も行ってみたいけど

 

シーホースCEO

 

でしょ!?

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

でも俺は作れないからな

 

シーホースCEO

 

………………

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

おい

 

その沈黙やめろ

 

ちびリス博士

 

副店長おにいもやろー!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

俺にテーマパーク建設の技能はありません

 

シーホースCEO

 

あかりが現地視察する時の護衛

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

ほら来た

 

シーホースCEO

 

報酬出す

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

詳細を聞こう

 

機械執事

 

早い。

 

半々医者

 

いつものだな。

 

おっとり師範

 

いつものですね~。

 

ちびリス博士

 

いつものー!

 

ビデオ屋副店長(仮)

 

うるせえ!!

 

 

ヴァレリアは掲示板を閉じた。

 

まだ少しだけ口元に笑みが残っている。

 

コンコン。

 

執務室の扉が叩かれた。

 

「社長。関係部署の責任者が揃いました」

 

その瞬間。

 

表情が変わった。

 

「そうか」

 

立ち上がる。

 

先ほどまで、

 

『テーマパークそのものが逃げるの!!』

 

と大はしゃぎしていた女性の姿は、もうどこにもない。

 

 

会議室。

 

各部門の責任者が席についている。

 

正面の巨大モニターには、かつて凍結された移動式テーマパークの計画案。

 

ヴァレリアが正面へ立つ。

 

「よく聞け!」

 

室内が静まり返る。

 

「今日から、この計画を再始動する!」

 

ざわめきが起こった。

 

「凍結当時の資料がそのまま使えるなどとは思うな! 技術も市場も状況も変わっている!」

 

画面を切り替える。

 

「設計!」

 

「はい!」

 

「施設の展開時間、移動性能、耐久性をすべて見直せ!」

 

「はい!」

 

「物流!」

 

「はい!」

 

「営業予定地域への移動経路を洗い出せ!」

 

ヴァレリアの声が会議室へ響く。

 

「そしてホロウ災害を『想定外』の一言で片付けるな!」

 

責任者たちの表情が引き締まった。

 

「この街で永久に安全な土地など存在しない!」

 

画面に新エリー都周辺の地図が表示される。

 

「ホロウの発生予兆、周辺のエーテル環境、交通網! すべてを考慮した緊急退避経路を最初から計画へ組み込め!」

 

「承知しました!」

 

「安全管理!」

 

「はい!」

 

「客と従業員を避難させれば終わりだと思うな!」

 

「……!」

 

「巨大施設をその場へ放棄するようでは、移動式にする意味がない!」

 

ヴァレリアが画面を指す。

 

「人員避難後、施設そのものも可能な限り速やかに危険区域から退避させる! それを前提に設計しろ!」

 

「はい!」

 

もちろん。

 

ヴァレリアは彼らにブートピアの未来など説明しない。

 

する必要もない。

 

彼らに必要なのは、未来のゲーム知識ではなく。

 

それを知るヴァレリアが導き出した要求仕様だけだ。

 

「人材が足りなければ集めろ!」

 

「技術が足りなければ開発しろ!」

 

「必要な外注先があるなら私のところへ持ってこい!」

 

そして。

 

机を叩く。

 

「妥協は許さん!」

 

誰も声を発さない。

 

「ホロウ災害程度で市民から娯楽を奪われるような代物を――」

 

ヴァレリアは不敵に笑った。

 

「アークライトの名で世に出せると思うな!」

 

「はい!」

 

声が揃う。

 

一つの企業による不正から始まった騒動。

 

黒枝による査定が進み。

 

企業社会がその変化を察知し。

 

TOPSに名を連ねる一流企業たちも、それぞれ次の一手へ動き始める。

 

その中で。

 

ほんの一週間だけ早く情報を掴んだ一人の経営者は、その時間を一秒たりとも無駄にはしなかった。

 

人材。

 

取引先。

 

新しい市場。

 

そして――。

 

かつて原作で、一つの娯楽施設がホロウ災害によってその役目を奪われる未来を知るからこそ生まれた、新しい答え。

 

巨大移動式テーマパーク。

 

危険が迫れば逃げる。

 

平時には、市民のもとへ自ら赴く。

 

そんな前代未聞の計画が。

 

今、新エリー都で動き始めた。

 

他社が商機を察知して走り始めた時には。

 

ヴァレリア・アークライトは、すでにその一歩先を走っていた。

 

そして何より。

 

その一歩先にある光景を、誰より楽しみにしているのも――。

 

彼女自身だった。

 

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