転生者たちは今日も新エリー都を駆け回る   作:『 』を応援するテト

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第7話 華やかな宴、その舞台裏

 

移動式テーマパーク計画が再び動き出してから、数ヶ月。

 

 当初は過去に凍結された企画を再検討するところから始まった計画も、今では複数の部署と協力企業を巻き込む一大プロジェクトへ成長していた。

 

 新たに迎え入れた技術者。

 

 新しく契約を結んだ企業。

 

 大型ユニットを移送するための設備。

 

 エーテル動力。

 

 安全機構。

 

 そして、実際に人を楽しませるためのアトラクション。

 

 すべてが完成したわけではない。

 

 むしろ、建造という意味ではこれからが本番と言っていい。

 

 それでも採算性、技術、人員、権利関係といった事業化に必要な条件が整い、正式にプロジェクトとして動かせる段階へ到達した。

 

 その節目として、アークライト社は出資者や協力企業、技術責任者を招いた始動記念パーティーを開催することになった。

 

     ◇

 

「ヴィクトリア家政からは?」

 

「最終確認まで完了しております」

 

 パーティーを数日後に控えたアークライト社。

 

 CEO執務室でヴァレリアから問いかけられ、磯野は手元の資料を確認した。

 

「先方もすでに会場資料を受領済みです。当日はヴィクトリア家政の皆様が担当される予定となっております」

 

「全員か」

 

「はい」

 

 ヴァレリアの目がほんの僅かに動いた。

 

 だが、それだけだった。

 

「なら問題ない。こちらの人員配置は?」

 

「会場運営、受付、技術展示の説明員まで確定しています。警備についても通常の重要催事と同じ基準で実施。招待客だけでなく、搬入業者、臨時スタッフ、会場側の人員についても身元確認を行っております」

 

「予定通りだな」

 

「はい」

 

 磯野の返答に迷いはない。

 

 今回は数ヶ月かけて準備してきた催事だ。

 

 ヴァレリアが重要な場で何を要求するかも、磯野にはよく分かっている。

 

「社長の当日の予定ですが、開会挨拶後は歓談。その後、2回目の登壇までの間に技術責任者からの報告が1件。後半には取引先との個別面談がございます」

 

「十五分だったな」

 

「はい」

 

「十分で終わらせる」

 

「その可能性を考慮し、次の予定まで5分の予備時間を確保しております」

 

 ヴァレリアが磯野を見る。

 

「なら最初から十分で組め」

 

「先方にもお話がありますので」

 

「長ければ切り上げる」

 

「承知しております」

 

「……分かっているならいい」

 

 磯野はそのまま次の項目へ移る。

 

「また、社長が会場を離れる時間帯についても警備配置は調整済みです。移動経路も一般来賓とは分離しております」

 

「そこは今までと同じでいい。妙に増やして客を警戒させる必要はない」

 

「承知しております」

 

「何かあれば即座に上げろ」

 

「はい、社長」

 

 磯野が一礼する。

 

 ヴァレリアは次の資料へ目を落とした。

 

 彼女にとって、大勢の人間が集まる催事で警備を固めることは特別なことではない。

 

 アークライト社が今の規模へ成長するまでには、企業同士の競争だけでなく、外から余計な手を伸ばされたことも何度かある。

 

 だから対策する。

 

 それだけの話だった。

 

     ◇

 

 数日後。

 

 ヴィクトリア家政では、今回の依頼に関する最終確認が行われていた。

 

 テーブルへ広げられているのは、会場図、進行表、招待客の一覧、搬入経路、料理の提供予定、緊急時の避難経路など。

 

 大規模な催事だけあって、確認すべき項目も多い。

 

「今回はかなり大きな催しですね」

 

 リナが資料を眺めながら微笑む。

 

「はい。アークライト社にとって重要な新規事業の正式始動を記念する場と伺っております」

 

 ライカンが答えると、招待客一覧を見ていたエレンも顔を上げた。

 

「人、多いね」

 

「わ、私、ちゃんとできるでしょうか……」

 

 カリンが会場図を見ながら不安そうに呟く。

 

「大丈夫ですよ、カリンちゃん」

 

 リナが柔らかく笑った。

 

「今回は私たちも一緒です。それに、すべてを私たちだけで担当するわけではありませんから」

 

「はい」

 

 その隣で、アルバートが進行表を確認している。

 

「アークライト社の会場運営担当とも連携します。私は当日の進行管理と、各担当間の情報整理を担当しましょう。予定との齟齬が発生した場合には、その都度修正案を提示します」

 

「お願いします、アルバート」

 

 ライカンが頷く。

 

「私が会場全体を統括します。リナは来賓対応と給仕部門を。エレンには会場側の補佐、カリンにはリナの補佐を中心にお願いしましょう」

 

「分かった」

 

「はいっ!」

 

 カリンが勢いよく背筋を伸ばした。

 

「そんなに力を入れなくても大丈夫ですよ、カリンちゃん」

 

「で、でも大事なパーティーですし……」

 

「緊張しすぎる方が失敗するよ」

 

 エレンが気だるげな声で口を挟む。

 

「やること確認して、順番に終わらせればいいだけだし」

 

「エレンさん……」

 

「エレンの言う通りです」

 

 ライカンも穏やかに続ける。

 

「普段通り、一つずつ確実にこなしていきましょう」

 

     ◇

 

 パーティー開催前日。

 

 会場となる大ホールでは、最後の設営作業が進んでいた。

 

「第一搬入口が予定より遅れております」

 

 アークライト社側の担当者から報告を受け、ライカンがアルバートへ視線を向ける。

 

「確認します」

 

 アルバートのアイセンサーが明滅した。

 

 各部門から送られてくる現在の進捗。

 

 搬入物。

 

 利用可能な経路。

 

 必要な人員。

 

 それらを短時間で照合していく。

 

「第二搬入口へ一部を振り分けることは可能です。ただし料理関係を移動させた場合、厨房までの導線が伸び、現状では提供準備に約7分の遅れが出ます」

 

「それは避けたいですね」

 

 リナが言う。

 

「同意します。料理関係は第一搬入口を維持。第二へ回すのは装飾品と展示設備の一部としましょう。設営側へ3名追加すれば、全体工程への影響は吸収できます」

 

「では、そのように」

 

 ライカンが判断すると、アルバートはすぐ各担当へ変更内容を共有した。

 

 少し離れた場所でそのやり取りを見ていたカリンが、小さく息を漏らす。

 

「す、すごいです……」

 

「こういうの珍しくないよ」

 

 エレンが確認表へ印を入れながら答えた。

 

「全部予定通りに進む方が珍しいし」

 

「エレンさんは大丈夫なんですか?」

 

「第二会場ならもう終わった」

 

「えっ?」

 

「テーブル、備品、非常口までの導線も確認した。5番テーブルだけグラスが1個足りなかったから追加済み」

 

 アルバートが情報を確認する。

 

「こちらでも確認しました。問題ありません」

 

「じゃ、次は?」

 

「こちらをお願いできますか、エレンちゃん?」

 

 リナに呼ばれ、エレンは小さく頷いた。

 

「はーい」

 

 気だるそうに見えても、必要な仕事は終わらせる。

 

 カリンはその背中を見送り、自分の確認表を握り直した。

 

     ◇

 

 そして当日。

 

 開場1時間前。

 

 ヴァレリアが会場へ姿を現した。

 

「お待ちしておりました、ヴァレリア様」

 

 ライカンが一礼する。

 

「状況を聞こう」

 

「アルバート」

 

「はい」

 

 一歩前へ出たアルバートが答える。

 

「ヴァレリア様。会場設営、厨房、来賓受付、いずれも準備を完了しております。全体工程は予定より6分先行。警備部門からも現時点で異常なしとの報告です」

 

「来賓は?」

 

「3名から到着時間の変更がございましたが、進行に影響はありません」

 

「なら予定通り始めろ」

 

「承知いたしました」

 

 ヴァレリアは会場内へ視線を巡らせる。

 

 ライカン。

 

 リナ。

 

 エレン。

 

 カリン。

 

 そしてアルバート。

 

 ヴィクトリア家政へ仕事を依頼すること自体は、すでに珍しいことではない。アルバートに至っては業務上顔を合わせる機会も多い。

 

 それでも――。

 

 今日は綺麗に揃っている。

 

 ほんの一瞬だけ、ヴァレリアの内側で別の感情が顔を出した。

 

 だが表情には一切出さない。

 

「今回も期待しているぞ」

 

「ご期待に添えるよう、最善を尽くします」

 

「結構」

 

 それだけ答え、ヴァレリアは磯野の待つ控室へ向かった。

 

     ◇

 

 やがて開場。

 

 来賓が次々と会場へ入ってくる。

 

 ライカンは各担当の動きを見ながら会場全体を管理し、リナは来賓対応を中心に動く。

 

 カリンも最初こそ緊張していたものの、リナの補佐を続けるうちに少しずつ肩の力が抜けていった。

 

「カリンちゃん、そのままで大丈夫ですよ」

 

「は、はい!」

 

「少しだけ声が大きいですね」

 

「すみま――」

 

「謝らなくて大丈夫です」

 

「……はい」

 

 一方、エレンも給仕や備品の補充をこなしながら、必要な場所へ先回りしていた。

 

「エレン」

 

「はい、ボス」

 

「第3テーブルの確認をお願いします」

 

「もうやったよ」

 

 ライカンが視線を向ければ、必要な備品はすでに補充されている。

 

「さすがですね」

 

「後回しにすると面倒だから」

 

 そう言って、エレンは別の仕事へ向かっていった。

 

     ◇

 

 やがて会場の照明が僅かに落ちた。

 

 壇上へヴァレリアが上がる。

 

「諸君」

 

 その一言だけで、会場のざわめきが静まった。

 

 背後の大型スクリーンへ、巨大施設の完成予想図が映し出される。

 

「本日をもって、アークライト社は移動式テーマパーク建造プロジェクトを正式に始動する」

 

 会場から拍手が起こる。

 

「ホロウ災害が起きれば閉鎖する。危険になれば捨てる。娯楽施設とはそういうものだと考える者もいるだろう」

 

 ヴァレリアは鼻で笑った。

 

「くだらん」

 

 拍手が止まり、会場が静かになる。

 

「危険になれば逃げればいい。客だけではない。施設そのものもな」

 

 映像が切り替わる。

 

 複数の大型ユニット。

 

 移動機構。

 

 展開予定地。

 

 緊急撤収計画。

 

「娯楽の少ない地域があるなら、こちらから向かう。危険が迫れば移動する。そして安全が確保できれば、また人を迎えればいい」

 

 ヴァレリアは集まった者たちを見渡した。

 

「技術的に難しい?」

 

 一拍。

 

「だから何だ」

 

 口元に自信に満ちた笑みを浮かべる。

 

「できない理由を並べるために、私は諸君をここへ呼んだのではない」

 

 スクリーンに映る巨大なテーマパーク。

 

「これは夢物語ではない」

 

 そして言い切る。

 

「我々が実現する」

 

 先ほどよりも大きな拍手が会場を満たした。

 

     ◇

 

 開会からしばらく。

 

 ヴァレリアは歓談を終えると、予定通り一度会場を離れた。

 

「社長、次の技術報告は予定通り第2控室です」

 

 磯野が確認する。

 

「ああ」

 

「私はこの後、遅れて到着される来賓への対応があります。終了後はそのまま個別面談へお願いします」

 

「分かっている」

 

「警備担当も配置済みです」

 

「なら行ってこい」

 

「はい、社長」

 

 磯野と別れ、ヴァレリアは関係者用の通路へ入った。

 

 ここを通るのも予定通り。

 

 数分後には担当者と合流する。

 

 そのはずだった。

 

 ヴァレリアの足が止まる。

 

「……」

 

 通路の角。

 

 本来ならそこに警備担当がいる。

 

 いない。

 

 急な配置変更についても聞いていない。

 

 ヴァレリアは何も言わず、少し先まで進んだ。

 

 次の配置地点。

 

 そこにも人影がない。

 

「なるほど」

 

 低く呟く。

 

 偶然ではない。

 

 アークライト社の警備が、重要催事の最中に2か所続けて無断で持ち場を空けるなどあり得ない。

 

 まして、社長である自分の移動時間に合わせて。

 

「今回は随分と露骨だな」

 

 足音が聞こえた。

 

 後方。

 

 前方。

 

 ヴァレリアは慌てない。

 

 ゆっくりと振り返る。

 

 関係者用の服装をした男が3人。

 

 だが、会場スタッフではない。

 

 立ち方を見れば十分だった。

 

「私の予定まで掴んだか」

 

 返事はない。

 

「それで3人?」

 

 ヴァレリアの口元が歪む。

 

「舐められたものだな」

 

 1人が銃を抜いた。

 

 ほぼ同時に残る2人が左右へ散る。

 

 銃声。

 

 ヴァレリアは上体を僅かに傾けただけで射線を外した。

 

 白いジャケットの内側へ手を入れる。

 

 引き抜かれたのは細身の剣。

 

 2発目が放たれるより早く、一気に距離を詰めた。

 

「っ!?」

 

 剣の腹で銃を弾き上げ、そのまま男の腹部へ膝を叩き込む。

 

 身体が折れたところへ柄を打ちつけた。

 

 左から刃物。

 

 振り返りざまに剣で受ける。

 

 甲高い音。

 

「遅い」

 

 相手の力を流し、その脇腹へ蹴りを叩き込んだ。

 

 最後の1人が背後から飛び込む。

 

 振り向かない。

 

 身体を沈め、頭上を通過した腕を掴む。

 

 そのまま重心を崩して床へ叩きつけた。

 

 数秒。

 

 3人全員が倒れる。

 

「……」

 

 ヴァレリアは剣についた僅かな汚れを払った。

 

 弱すぎる。

 

 一般人相手なら十分な腕だろう。

 

 だが、ヴァレリア・アークライトを狙う戦力としては話にならない。

 

 そこで気づく。

 

「――囮か」

 

 その言葉と同時だった。

 

 前方の扉が開く。

 

 左右の連絡通路からも人影。

 

 最初の3人とは違う。

 

 足運び。

 

 位置取り。

 

 武器を構えるまでの速さ。

 

 正面から3人。

 

 左右に1人ずつ。

 

 さらに、上階の連絡通路に銃を持った1人。

 

「今度は少しまともらしいな」

 

 ヴァレリアが笑う。

 

 刺客たちが一斉に動いた。

 

 正面から2人。

 

 1人が距離を取り、左右から挟み込む。

 

 上から射撃。

 

 単純に人数をぶつけているわけではない。

 

 逃走経路を潰し、互いの死角を補いながら確実に仕留めるための配置。

 

 ヴァレリアは正面の刃を受け、すぐに横へずれる。

 

 銃声。

 

 弾丸が頬を浅く掠めた。

 

「逃がすな!」

 

「囲め!」

 

「逃げる?」

 

 ヴァレリアの青い瞳が細くなる。

 

「誰が?」

 

 剣へエーテルが流れる。

 

 次の瞬間。

 

 一本だった刀身が分割された。

 

「な――」

 

 細い節で連結された刃が、一気に伸びる。

 

 刺客の1人が目を見開いた。

 

「私について調べた割には」

 

 ヴァレリアが腕を振る。

 

「随分と調査が甘いな!」

 

 蛇腹剣が唸りを上げ、通路いっぱいに弧を描いた。

 

 刺客たちが慌てて散る。

 

 1人の武器へ刃が絡みつく。

 

 強く引く。

 

 相手の身体が前へ崩れた。

 

 そこへ拳。

 

 顔面を打ち抜く。

 

 背後から別の1人。

 

 ヴァレリアは蛇腹剣を大きく旋回させ、足元を払った。

 

 倒れた相手へ踏み込もうとした――その時。

 

 上階で銃口が光った。

 

 死角。

 

 銃声。

 

 だが。

 

 弾丸はヴァレリアへ届かなかった。

 

 青白い光が横から走り、空中で弾丸を弾き飛ばす。

 

「!」

 

 複数の小型ビットが通路へ飛び込んできた。

 

「ヴァレリア様」

 

 聞き慣れた声。

 

「予定より戻りが遅れていると思えば、随分と物騒なことになっていますね」

 

 アルバートが通路へ姿を現した。

 

「遅いぞ」

 

「申し訳ありません。進行表に暗殺者への対応時間が記載されておりませんでしたので」

 

「今追加しておけ」

 

「承知しました」

 

 アルバートの周囲へビットが展開する。

 

 刺客の1人が僅かに動揺した。

 

「知能機械人が武装しているだと……?」

 

「聞いてないぞ!」

 

「奇遇ですね」

 

 アルバートのアイセンサーが静かに明滅する。

 

「私も皆様がいらっしゃるとは伺っておりません」

 

 ビットが散開した。

 

「何より――」

 

 声色そのものは変わらない。

 

 それでも、その場にいる者には十分伝わった。

 

「依頼人であるヴァレリア様へ危害を加えられては、ヴィクトリア家政として困ります」

 

 光弾。

 

 刺客たちが散る。

 

「右方2名。左方1名。上方に射撃手」

 

「見えている」

 

「では上方はこちらで」

 

「任せた」

 

 それだけだった。

 

 細かな相談などしない。

 

 ヴァレリアが一歩前へ出る。

 

 アルバートはその後方。

 

 蛇腹剣が広い範囲を制圧し、ビットがその隙間を埋める。

 

 ヴァレリアへ向けられた銃口を、ビットが正確に弾く。

 

 アルバートへ接近しようとした敵の足元へ、蛇腹剣が横から滑り込む。

 

 互いに振り返らない。

 

「3秒後、右」

 

「分かっている」

 

「では2秒後、左上」

 

「そこは貴様の仕事だ」

 

「承知しました」

 

 上階の射撃手が位置を変えた。

 

 2機のビットが追う。

 

 1機が正面から牽制し、もう1機が逃げ道へ先回りする。

 

 撃たれない位置へ移動したつもりの男が、逆にヴァレリアから見える場所へ追い出された。

 

「そこか」

 

 蛇腹剣が伸びる。

 

 絡みついたのは身体ではなく銃。

 

 一気に引けば、武器だけが宙を舞った。

 

「正面」

 

「見えていると言っている!」

 

 ヴァレリアは正面から飛び込んできた相手の刃を紙一重でかわし、そのまま懐へ潜り込んだ。

 

 肘を胸へ。

 

 返す拳を腹部へ。

 

 体勢が崩れる。

 

「アルバート!」

 

「はい」

 

 光弾が相手の背後の床へ着弾した。

 

 逃げようとした身体が衝撃で前へ押し戻される。

 

 そこへヴァレリアの柄が叩き込まれた。

 

 床を転がる刺客。

 

 アルバートは戦況を見続ける。

 

 敵がどこへ動くか。

 

 誰が誰の死角を狙っているか。

 

 どこを塞げば動きを限定できるか。

 

 そして、ヴァレリアなら次にどこへ踏み込むか。

 

 ビットがただ攻撃するのではない。

 

 射線を作り、逃走経路を塞ぎ、相手の選択肢そのものを削っていく。

 

「退け!」

 

 残った刺客の1人が叫んだ。

 

 もう1人が後方へ下がる。

 

「遅い」

 

 通路の奥。

 

 すでに複数のビットが浮いている。

 

 後退先がない。

 

 左右も蛇腹剣の間合い。

 

「終わりだ」

 

 ヴァレリアが腕を振る。

 

 長い刀身が2人の周囲を走り、武器だけを絡め取った。

 

 一気に引き抜く。

 

 同時に武器が手から離れる。

 

 蛇腹剣が収束。

 

 一本の剣へ戻った。

 

 ヴァレリアが踏み込む。

 

 刃が走る。

 

 斬ったのは身体ではない。

 

 2人の戦闘装備。

 

 そこへアルバートのビットが同時に射撃を叩き込んだ。

 

 2人が床へ倒れる。

 

 静寂。

 

 数秒間、アルバートは周囲を確認した。

 

「戦闘可能な者はいません」

 

「当然だ」

 

 ヴァレリアは剣を収める。

 

     ◇

 

「それで」

 

 倒れた刺客を見下ろしながら、ヴァレリアが尋ねた。

 

「どうしてこいつらがここにいる?」

 

「確認します」

 

 アルバートが会場側の情報へ接続する。

 

 今回、彼は進行管理のため各部署の状況を常時確認していた。

 

 だからこそ違和感に気づいた。

 

「……やはり」

 

「何だ」

 

「ヴァレリア様が会場を離れる直前、この区画の警備配置が変更されています」

 

「誰の指示だ?」

 

「記録上は正規のものです」

 

「記録上は、か」

 

「はい」

 

 続いて監視記録を確認する。

 

「こちらも同様ですね。一部の監視映像が正常稼働を示したまま、同じ映像を繰り返しています」

 

「つまり?」

 

「侵入者が警備を突破したのではありません」

 

 アルバートがヴァレリアを見る。

 

「最初から通れる状態を作られていた、と考える方が自然でしょう」

 

「……またか」

 

 ヴァレリアが露骨に眉を寄せた。

 

 驚きよりも先に出たのは、面倒そうな声だった。

 

 アークライト社がここまで大きくなるまで、似たような干渉は何度か経験している。

 

 古くから続くアークライト家には本家以外にも複数の分家があり、その中には今の会社を自分たちの手へ戻したがる者もいる。

 

 会社が拡大すれば競合も増える。

 

 ヴァレリアの方針を気に入らないTOPSの人間もいる。

 

 これまでにも人事への介入、社員への接触、情報を持ち出そうとした者、取引先への圧力といった小細工は潰してきた。

 

 そして、その中には調査を続けた結果、讃頌会との繋がりを疑うことになった案件もあった。

 

 原作で知っているから警戒している。

 

 今となっては、それだけではない。

 

 実際にこの世界で生き、この会社を率いる間に何度も手を伸ばされてきた。

 

 だから対策を続けている。

 

 その警備へ、今回は明確に穴を開けられた。

 

「以前と同じ者でしょうか?」

 

「分からん」

 

 ヴァレリアは即答する。

 

「分家かもしれん。競合かもしれん。TOPSのどこかかもしれん。前に妙な動きをしていた連中の続きかもしれん」

 

「候補が多いですね」

 

「ありすぎて絞れん」

 

 ヴァレリアは倒れている刺客を見る。

 

「だから調べる」

 

「承知しました」

 

 そこで通路の向こうから足音が聞こえた。

 

「社長!」

 

 磯野だった。

 

 その後ろには、アークライト社側の警備責任者もいる。

 

 倒れている人数を確認した磯野だったが、立ち止まったのは一瞬だけだった。

 

「お怪我は」

 

「掠っただけだ」

 

「承知しました。医療担当をこちらへ。警備責任者はこの区画を封鎖してください。会場側には設備上の問題と伝え、来賓を近づけないように」

 

「はい!」

 

 指示を出した磯野が、改めてヴァレリアを見る。

 

「会場の進行については?」

 

「続ける」

 

 即答だった。

 

「ですが――」

 

「今日は何の日だ、磯野」

 

 その問いだけで、磯野も理解する。

 

「……移動式テーマパークプロジェクトの正式始動を記念する日です」

 

「そうだ」

 

 ヴァレリアは倒れた刺客を一瞥した。

 

「こんな連中のために、数ヶ月かけた門出を潰してたまるか」

 

「承知しました」

 

 磯野はそれ以上止めなかった。

 

「では、社長がお戻りになるまでの進行を調整します」

 

「アルバート」

 

「はい」

 

「警備責任者と情報を共有しろ。ただし、この件を知る人間は最低限にしろ」

 

「承知しました」

 

「磯野もだ。内部に誰がいるか分からん以上、全社へ警告を飛ばすな」

 

「では、警備部門もこちらで確認した者に限定します」

 

「そうしろ」

 

 ヴァレリアの目が細くなる。

 

「せっかく向こうから糸を垂らしてくれたんだ。わざわざ切る必要はない」

 

「泳がせる、と?」

 

 アルバートの問いに、ヴァレリアは首を横に振った。

 

「辿るんだよ」

 

 冷たい笑み。

 

「誰が穴を開けた。その人間へ誰が接触した。その先に誰がいる。全部な」

 

「承知しました」

 

 アルバートは倒れた刺客たちを見る。

 

「こちらの方々も可能な限り生かしてあります」

 

「よくやった。聞けることは全部聞け」

 

「では、そのように」

 

 ヴァレリアは時計を確認した。

 

「何分遅れた?」

 

「現在、8分12秒です」

 

「長引いたな」

 

 白いジャケットの裾には汚れ。

 

 頬には浅い傷。

 

 そのまま戻るわけにはいかない。

 

「磯野」

 

「替えのジャケットはすでに控室へ用意させています」

 

 ヴァレリアが磯野を見る。

 

「……話が早いな」

 

「社長がこの状態でパーティーへ戻らない選択肢はないと思いましたので」

 

「結構」

 

 ヴァレリアは歩き出した。

 

「戻るぞ」

 

     ◇

 

 少し後。

 

 新しいジャケットへ着替え、頬の傷も簡単な処置を済ませたヴァレリアは、何事もなかったかのように会場へ戻った。

 

「ヴァレリア社長」

 

 来賓の1人が気づき、声を掛ける。

 

「先ほどの件ですが――」

 

「ああ。聞こう」

 

 つい先ほどまで暗殺者と戦っていたとは思えない。

 

 いつものヴァレリア・アークライトだった。

 

 一方、アルバートも僅かに遅れて会場へ戻る。

 

 ライカンが近づいた。

 

「アルバート」

 

「はい」

 

「何か問題が?」

 

「すでに対処済みです」

 

 ごく短い返答。

 

 ライカンは数秒アルバートを見たものの、それ以上その場では尋ねなかった。

 

「承知しました。こちらは問題ありません」

 

「ありがとうございます」

 

「アルバートさん」

 

 カリンが近づいてくる。

 

「こちらの最終確認をお願いしてもいいですか?」

 

「もちろんです」

 

 普段通り仕事へ戻る。

 

 来賓を不安にさせる必要はない。

 

 誰も騒がず。

 

 宴はそのまま続いていった。

 

     ◇

 

 数時間後。

 

 最後の来賓が会場を後にした。

 

「皆様、お疲れ様でした」

 

 ライカンが一同へ声を掛ける。

 

「今回も大きな混乱なく、来賓の皆様をお見送りすることができました」

 

「ふぅぅ……」

 

 カリンがようやく肩から力を抜いた。

 

「き、緊張しました……」

 

「よくできていましたよ、カリンちゃん」

 

 リナが微笑む。

 

「本当ですか?」

 

「ええ。後半は随分自然に動けていました」

 

「ありがとうございます!」

 

 その少し離れたところでは。

 

「ふぁ……」

 

 エレンが小さく欠伸を漏らした。

 

 客がいる間は仕事を優先していたが、最後の来賓まで見送ったことで、ようやく普段通りの眠そうな表情が戻っている。

 

「エレンもお疲れ様でした」

 

「ん……お疲れ、ボス」

 

「担当部分の確認は?」

 

「全部終わってる。備品も数合ってるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 エレンは眠そうな目で周囲を見る。

 

 来賓はいない。

 

 会場には自分たちと撤収作業を始めたスタッフたちだけが残っている。

 

「じゃ、もう帰っていい?」

 

「エレン」

 

 ライカンの声が僅かに低くなった。

 

 眠そうにしていたエレンも、そちらを見る。

 

「来賓の皆様をお見送りした時点で、今回の依頼が終了するわけではありません。会場の撤収と最終確認まで含めて、我々がお引き受けした仕事です」

 

「……分かってるよ、ボス。聞いただけ」

 

「でしたら結構です。疲れているところ申し訳ありませんが、もう少しだけお願いします」

 

「はーい……」

 

 いつもの調子で返事をしながらも、エレンはそのまま撤収作業へ戻っていく。

 

 そのやり取りを見ていたリナが、くすりと笑った。

 

「あと少しですよ、エレンちゃん」

 

「分かってるって……」

 

 そこへヴァレリアが近づいてきた。

 

「ライカン」

 

「はい、ヴァレリア様」

 

「今回も満足のいく仕事だった。ご苦労」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

「それと、次の予約を入れておけ」

 

「次回のご依頼でしょうか?」

 

「ああ。来月以降、会食と業務補佐で何度か必要になる。候補日は磯野から送らせる」

 

「かしこまりました。ただ、すでに多数のご予約をいただいておりますので、ご希望の日程に添えない可能性もございます」

 

「分かっている」

 

 ヴァレリアは当然のように答える。

 

「だから今取るんだ。必要になってから予約待ちなど時間の無駄だろう」

 

「承知いたしました。確認の上、改めてご連絡いたします」

 

「頼んだぞ」

 

「いつもありがとうございます、ヴァレリア様」

 

 リナが柔らかく微笑む。

 

「仕事の質に相応の金を払っているだけだ。次も同じものを期待している」

 

「ええ。もちろんです」

 

 高い。

 

 だが、それ以上の仕事をする。

 

 アークライト社がヴィクトリア家政を何度も利用する理由など、それで十分だった。

 

     ◇

 

 その日の夜。

 

【転生者掲示板】

 

「シーホースCEO」

パーティー終了!!

 

プロジェクト正式始動!!

 

ついでに暗殺されかけた!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

最後の1行で全部持ってくのやめろ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

えええええ!?

 

CEOおねい大丈夫!?

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

怪我は。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

かすり傷!!

 

問題なし!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

なお途中から俺も参加した。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

はいはい

 

助かりましたよ執事さん

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

随分と軽い感謝だな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

ちゃんと感謝してるっての!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

で

 

なんでそんな人数入れたの?

 

お前んとこの警備

そんな甘くないだろ

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

そこ

 

一番の問題はそこ

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

意図的に警備へ穴を開けられた形跡がある。

 

人員配置が正規記録を使って変更され

 

監視映像も一部ループしていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

……それは笑えませんねぇ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

また中に悪い人いたの?

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

まだ分からない

 

でも内側に手を入れられたのはほぼ確定

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

またかよ

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

またです!!

 

会社デカいと変なの寄ってくるの!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

心当たりは。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

ありすぎて絞れん

 

身内かもしれない

 

競合かもしれない

 

前にちょっかい出してきた連中かもしれない

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

現時点で特定できる材料はないな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

だから辿る

 

今回は向こうから糸出してくれたし

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

必要なら言え

 

そういうの調べるなら手伝える

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

その時は頼む

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

ともあれ、ご無事で何よりです~。

 

それと。

 

プロジェクトの正式始動、おめでとうございます。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

そうだった!!

 

CEOおねいおめでとー!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

おめでとう。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

おめでとさん

 

数ヶ月ずっと走り回ってたもんな

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

俺からも改めて。

 

正式始動、おめでとう。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

みんな……

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

あと今日ヴィクトリア家政勢揃いだった

 

眼福だった

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

感動返せ

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

だって!!

 

ライカンもリナもいて!!

 

エレンとカリンもいたの!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

現実では終始平然としていたな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

当たり前でしょ!!

 

依頼人のCEOが家政の人たち見て

ニヤニヤしてたら怖いわ!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

自覚あるんだ

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

ある!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

私は普段から一緒に働いているが。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

お前その立場のありがたみ

ちゃんと分かってる???

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

もちろん。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

くっっっそ羨ましい!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

ふふっ。

 

楽しそうで何よりです~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

何の話だ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

先生は知らなくていいやつ

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

そうか。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

よし決めた!!

 

今度みんなでお祝いする!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

急だな

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

今日は仕事のパーティーだったの!!

 

次は6人だけ!!

 

プロジェクト正式始動祝い!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

やるー!!

 

ごちそうある!?

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

ある!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

やったー!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

食い物で即決した

 

ーーーーーーーーーー

 

「おっとり師範」

私は都合をつけますよ~。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

パーティーか……。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

先生

 

逃げるな

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

まだ何も言っていない。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

どうせ面倒だから行かないって

言うつもりだったでしょ!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

……。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

図星じゃん

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

沈黙が何より雄弁だな。

 

ーーーーーーーーーー

 

「半々医者」

分かった。

 

行く。

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

よし!!

 

あとは副店長!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

なんで俺だけ名指しなの

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

まだ参加するって言ってないから

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

逃げ道塞ぐなよ

 

ーーーーーーーーーー

 

「ちびリス博士」

副店長おにいも来ようよ!

 

みんなでお祝いしよ!

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

……まあ

 

たまにはいいか

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

よし!!

 

全員参加!!

 

日程はあとで決める!!

 

今度は刺客の来ない場所でやる!!

 

ーーーーーーーーーー

 

「機械執事」

それを開催条件へ含めなければならない時点で

 

少々問題があると思うが。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ビデオ屋副店長(仮)」

CEO主催だからなぁ

 

ーーーーーーーーーー

 

「シーホースCEO」

どういう意味よ!!

 

 こうして。

 

 数ヶ月前、古い企画書を机の上へ引っ張り出したところから再び始まった移動式テーマパーク計画は、正式に事業として走り始めた。

 

 その門出の裏で起きた襲撃。

 

 暗殺者たちは倒した。

 

 だが、本当に重要なのはその後だった。

 

 厳重に管理されていた警備網へ、誰かが意図的に開けた穴。

 

 似たような干渉そのものは、ヴァレリアにとって初めてではない。

 

 だからこそ、すぐに特定の相手へ結びつけることもしない。

 

 誰が穴を開けたのか。

 

 誰がその人間へ指示したのか。

 

 そして、その先に誰がいるのか。

 

 向こうから垂らされた糸を、こちらから辿ればいい。

 

 表では新しい事業を走らせ。

 

 裏では、自分の会社へ伸びてくる手を探る。

 

 それもまた、ヴァレリア・アークライトがこの街で長く企業を率いてきた中で身につけたやり方だった。

 

 そしてもう1つ。

 

 企業もTOPSも仕事も関係ない。

 

 6人だけでプロジェクトの始動を祝う、小さな集まりも決まった。

 

 その日くらいは、誰にも邪魔されず騒げればいい。

 

 ――もっとも。

 

 この6人が揃って、本当に何事もなく終わるのか。

 

 それはまた、別の話である。

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