神系宇宙『ラ』所属、惑星ストリジア『エルサイア王国』
SH.2010年4月――エルサイア城
エルサイア王国が復活してから、少しずつ国としての機能も戻り始めていた。
ソーサリー・アルケミストとその部下達によって城と街は再建され、各地へ避難していた旧エルサイア国民も続々と帰還している。
エーディン・クライスが戻ったことで医療体制も整い、ギルを中心に騎士団の再編も始まった。
だが、国が復活すれば次に必要になるものがある。
外交である。
五年前に滅亡したエルサイア王国は、かつてラウル王国を始め、地球の日本国やアメリカ国とも深い交流を持っていた。
しかし、一度国家として消滅した以上、それらの関係をそのまま引き継げるわけではない。
改めて国交を結び直し、世界各国との交流を再開する必要があった。
そして、エルサイア王国が最初に大きな交流拠点を設けることになった国が、日本だった。
■
「――というわけで、広重」
「なんだ?」
「騎士になって!」
「…………」
「…………」
「なんでそうなる?」
広重は困惑した。
場所は復元されたエルサイア城の謁見室。
玉座にはエルサイア王となったクイントが座っている。
そして、その真正面には広重とティオがいた。
「いや、待てクイント。外交の話をすると聞いて俺は来たんだが」
「うん」
「俺は日本の平和政策連邦の人間だぞ」
「知ってるよ」
「じゃあ何故、俺がエルサイアの騎士になる話になるんだ?」
「日本の人だから!」
「説明になってない」
広重が額を押さえる。
「ティー坊。お前からも何か言ってやってくれ」
「俺も騎士になるのか?」
「なるよ!」
「そうか」
「納得するな!」
広重が思わずティオへ突っ込む。
少し離れた場所で見ていたギルが盛大に溜息を吐いた。
「陛下」
「なに?」
「説明を省略しすぎだ」
「だって長いんだもん」
「外交でそれをやるな」
「はーい」
クイントが少し不満そうに返事をする。
「広重。お前を平和政策連邦から引き抜くつもりはない」
「なら?」
「所属はそのままだ」
「……兼任か?」
「近いな」
ギルは机の上に置かれていた資料を広重へ渡した。
「これを見てくれ」
「ん?」
広重が資料を開く。
そこには。
――エルサイア王国日本支部設立計画。
そう記されていた。
「日本支部?」
「ああ」
「大使館みたいなものか?」
「将来的には正式な大使館も必要になるだろう。だが、日本支部はそれより実務的な組織になる予定だ」
ギルが説明を続ける。
五年前。
エルサイア王国が滅亡した際、多くの国民が国外へ避難した。
その中でも日本へ避難した者は少なくない。
アルファルドやセレスのように、エルサイアと深い関係を持ちながら日本で生活していた者もいる。
「国が復活したからといって、全員がすぐ帰ってこられるわけじゃないからな」
「まぁ、そうだろうな」
「五年間、日本で生活していた者もいる。仕事を持っている者もいれば、家族を作った者だっているだろう」
「そいつらに、国が復活したから今日から帰ってこいってのも無茶な話か」
「そういうことだ」
だからこそ。
日本国内に、エルサイア王国の正式な窓口を作る。
旧エルサイア国民の帰還支援。
日本とエルサイア間の人的交流。
技術交流。
人工精霊やスフロン水晶に関する各種手続き。
地球人が惑星ストリジアへ渡航する際の支援。
エルサイア国民が日本へ滞在する際の支援。
そして。
青の雨や天界に関係する事件が地球側で発生した場合、日本とエルサイアが迅速に共同対処するための連絡拠点。
それが、エルサイア王国日本支部だった。
「それで俺か」
「そういうことだ」
ギルが頷いた。
「お前なら日本側の事情が分かる。それでいて、こちら側の事情もよく知っている」
「まぁ、ガキの頃からこっちには来てたからな」
「平和政策連邦との繋がりもある。日本とエルサイア、双方の立場を理解できる人間が必要なんだ」
「なるほどな」
ようやく広重も納得した。
「でも、それなら俺を騎士にする必要はあるのか?」
「あるよ」
今度はクイントが答えた。
「広重には、日本の人として来てもらうだけじゃなくて、エルサイアの人としても動いてほしいから」
「…………」
「広重は日本を辞めなくていいよ」
「…………」
「日本の広重のままでいい」
クイントは笑った。
「でもエルサイアに来た時は、私達の騎士でもいてほしい」
「随分都合のいい話だな」
「ダメ?」
「…………」
広重は腕を組んだ。
しばらく考える。
「平和政策連邦側が認めるなら、俺は構わない」
「ほんと!?」
「ただし」
「なに?」
「日本とエルサイアの利害が完全に対立して、どちらかを選ばなきゃならない状況になったら、俺は日本側に立つぞ」
「うん」
「…………即答か」
「だって広重、日本の人だもん」
「それでいいのか?」
「いいよ」
クイントは当然のように答えた。
「だから広重にお願いするんでしょ?」
「…………」
広重は少し驚いた。
十歳の子供。
それも、つい先日即位したばかりの王だ。
だが。
何も考えていないようで。
妙なところでは、ちゃんと分かっている。
「……なるほどな」
広重が笑った。
「分かった。平和政策連邦から正式に許可が出るなら、引き受けよう」
「やったー!」
クイントが喜ぶ。
「じゃあティー君も!」
「俺もか」
「うん!」
「分かった」
「だからティー坊! お前はもう少し考えてから返事しろ!」
「広重がやるなら俺もやる」
「そういう問題じゃねぇ!」
謁見室に広重の声が響いた。
■
その後。
日本国及び平和政策連邦との正式な協議を経て、エルサイア王国日本支部の設立が決定した。
後藤広重は日本の平和政策連邦に籍を置いたまま、エルサイア王国から騎士位を授与。
日本とエルサイア王国双方の交流を担う立場として、日本支部に所属することとなった。
ティオもまたエルサイア王国から騎士位を授与された。
こうして。
復活したエルサイア王国にとって初めてとなる国外の本格的な活動拠点。
『エルサイア王国日本支部』が誕生した。
■
「広重が騎士かぁ」
「なんだよ」
「似合わねぇ」
「コウヤ、お前な」
エルサイア城の中庭。
コウヤが面白そうに広重を見ていた。
「だって広重兄ちゃん、騎士っていうより軍人じゃん」
「間違ってはいないが、騎士になった人間を捕まえて第一声がそれか」
「騎士様!」
「おう」
「似合わねぇ!」
「喧嘩売ってんのかお前!」
広重がコウヤの頭を掴む。
「痛い痛い痛い!」
「騎士に対する敬意というものを教えてやろう」
「昨日まで騎士じゃなかったじゃん!」
「今日から騎士だ!」
「横暴だー!」
「うるさい!」
その横を。
ミカエルが通り過ぎた。
「随分と騒々しい騎士ですね」
「ミカエルまで言うのかよ」
「事実を述べたまでですが」
「俺への当たり強くない?」
「日頃の行いでしょう」
「俺、お前に何かしたか?」
「特には」
「じゃあなんなんだよ!」
ミカエルは広重を無視して、そのまま通り過ぎようとする。
「あ、ミカエル!」
コウヤが広重の腕から抜け出した。
「ちょうどいい!」
「何です」
「昨日の続きやろうぜ!」
「昨日の?」
「錬金術!」
「…………」
ミカエルがコウヤを見る。
「まだ諦めていなかったのですか」
「なんで諦めるんだよ!」
「昨日だけで三度失敗していたでしょう」
「だから今日成功させるんだろ!」
「ほう」
ミカエルの目が僅かに細くなる。
「では、見せてみなさい」
「今度は絶対文句言わせねぇからな!」
「その台詞は完成させてから言うものです」
「うっせー!」
コウヤが走っていく。
その後を。
なんだかんだ言いながら、ミカエルも普通についていった。
「…………」
広重が二人を見送る。
「なんだあれ」
「最近ずっとあんな感じだよ」
声をかけてきたのはクイントだった。
「ミカエル、コウヤの錬金術見るの好きみたい」
「本人に言ったら怒りそうだな」
「怒るよ!」
「もう言ったのかよ」
「うん!」
「お前も懲りないな……」
広重が苦笑する。
そして。
クイントの隣には、ライベルトがいた。
「…………」
ライベルトは椅子に座っている。
その後ろでは、クイントが彼女の髪を櫛で梳かしていた。
「ライベルト、痛くない?」
「…………」
ライベルトが小さく首を横に振る。
「よかった」
クイントは安心して、再び髪を梳かす。
「随分懐いたな」
広重が言った。
「でしょ!」
「お前にだけじゃないか?」
「そうなの!」
何故かクイントは嬉しそうだった。
「最近ね、私がいないと探しに来るんだよ!」
「それはもう完全に懐いてるな」
「かわいいでしょ!」
「本人の前で言ってやるなよ」
「…………」
ライベルトが恥ずかしそうに俯く。
「あ」
「ほら」
「ごめん、ライベルト!」
そんなやり取りを。
少し離れた場所からギルが眺めていた。
日本とエルサイア。
五年前には、国家同士の同盟という形で繋がっていた。
だが。
今度はもう少し違った関係になるのかもしれない。
国と国だけではない。
人と人。
広重がいる。
ティオがいる。
アルファルドがいる。
セレスがいる。
日本で生活を続ける旧エルサイア国民もいる。
そして、これから先。
日本とエルサイアを行き来する者は、さらに増えていくだろう。
エルサイア王国日本支部。
それは復活したばかりの小さな国が、もう一度世界と繋がるために作った最初の国外拠点。
そして後に。
日本とエルサイアを繋ぐ、重要な架け橋となっていくことになる。