エマがいなくなった。
願い屋トレシィとの契約。
クイントを救うための対価として。
エマは、自らその身を差し出した。
そして。
クイントは生き残った。
■
数日後。
「……お父さん」
小さな声。
ギルは、ずっと握っていた手に僅かな力が戻ったことに気付いた。
「クイント」
「……うん」
「分かるか」
「……お父さん」
「ああ」
「…………」
クイントが弱々しく笑った。
「よかった……」
「何がだ」
「……まだ、いた……」
「…………」
ギルは何も言えなかった。
「いる」
「…………うん」
まだ身体は重い。
傷そのものは治ったが、星魅の巫女によって削られた生命力まですぐに戻るわけではない。
クイントは、しばらく天井を見ていた。
そして。
「…………」
部屋の中を見る。
何かを探すように。
「ねえ」
「…………」
「エマは?」
「…………」
ギルの手が止まった。
「お父さん?」
「…………」
「エマ、どこ?」
「…………」
クイントがギルを見る。
「ねえ」
「…………」
「エマは?」
答えない。
その沈黙だけで。
クイントの顔から、少しずつ笑顔が消えていった。
「……お前を助けるために」
「…………?」
「トレシィへ」
「…………」
ギルの声が詰まる。
「対価として……渡った」
「…………」
クイントは瞬きをした。
「……なに、それ」
「…………」
「どういう意味?」
「クイント」
「エマは?」
「…………」
「どこにいるの?」
「…………」
ギルは逃げなかった。
「……もう、いない」
「…………」
長い沈黙。
「……うそ」
「…………」
「嘘だよ」
「…………」
「だって……」
クイントが起き上がろうとする。
「まだ無理だ!」
「エマ!」
「クイント!」
「エマ!」
身体に力が入らない。
それでも。
寝台から降りようとする。
「離して!」
「駄目だ!」
「エマどこ!?」
「クイント!」
「私、何も頼んでない!」
「…………」
「助けてなんて言ってない!」
「…………」
「エマに死んでなんて言ってない!!」
泣きながら。
クイントはギルの服を掴んだ。
「なんで……」
「…………」
「なんで助けたの……」
「…………」
「私が死ねばよかったじゃん……」
「それだけは言うな」
「だって!」
「言うな!」
「私が死んでたらエマはいたんでしょ!?」
「…………」
「だったら……」
「…………」
「私なんか助けなきゃよかったのに……」
ギルには。
その言葉を否定することしかできなかった。
けれど。
どんな言葉を使っても。
クイントの中にできた傷だけは。
治すことができなかった。
■
その頃。
コウヤにも。
エマの死が伝えられた。
「…………」
最初は。
何を言われたのか分からなかった。
「……もう一回言って」
「コウヤ」
「母さんが、どうしたって?」
「…………」
ギルが答える。
「クイントを救うために、トレシィとの契約の対価になった」
「…………」
「エマ自身が決めたことだ」
「……なんで」
「…………」
「なんで母さんなんだよ」
「トレシィが指定した」
「なんで母さんなんだよ!」
コウヤが叫ぶ。
「他にいただろ!」
「…………」
「俺でも!」
「…………」
「お前でも!」
「…………」
「他にいくらでもいたじゃねぇか!」
「トレシィが求めたのは、クイントにとって母親に等しい存在だ」
「…………」
「だからエマが――」
「だからって!」
拳が震える。
「母さんが死んでいい理由になるかよ!!」
ならない。
そんなことは。
ギルだって分かっていた。
■
数日後。
クイントは、ようやく一人で歩けるようになっていた。
まだ長く歩けば息が切れる。
それでも。
ずっと部屋にいることには耐えられなかった。
「…………」
廊下。
向こうから。
コウヤが歩いてくる。
「…………」
二人とも。
足を止めた。
「……コウヤ」
「…………」
「何?」
「……身体」
「…………」
「もう大丈夫なのか」
「……うん」
「…………」
「…………」
それだけで。
終わればよかった。
「……そうか」
コウヤが俯く。
「よかったな」
「…………」
「助かって」
「……何それ」
「そのままだよ」
「…………」
「お前は生きてる」
「…………」
「母さんは死んだけど」
「やめて」
「…………」
「それ以上言わないで」
「なんで」
「コウヤ」
「なんで母さんだったんだよ」
「…………」
クイントの顔が歪んだ。
「知らないよ」
「お前を助けるためだったんだろ」
「知ってる」
「母さんがお前の代わりに――」
「知ってるって言ってるじゃん!」
「だったら!」
「私だって嫌だったよ!」
クイントが叫んだ。
「起きたらいなかったんだよ!」
「…………」
「何も知らなかった!」
「…………」
「助けてなんて頼んでない!」
「…………」
「エマに死んでなんて言ってない!」
「母さんだって死にたくなかった!」
「分かってるよ!!」
クイントの目から涙が落ちる。
「分かってる!」
「…………」
「だからずっと思ってるよ!」
「…………」
「私なんか助けなきゃよかったって!」
「…………」
「エマじゃなくて!」
声が震えた。
「私が死ねばよかったんでしょ!」
「…………」
コウヤは。
何も言えなかった。
本当なら。
否定すればよかった。
母さんが選んだことだ。
お前のせいじゃない。
そう言えばよかった。
けれど。
コウヤの頭に浮かんだのは。
エマだった。
母さんだった。
もう。
どこにもいない。
「……そうだよ」
「…………」
言った瞬間。
自分でも。
間違えたと分かった。
それでも。
止められなかった。
「だったら……」
「…………」
「お前が死ねばよかったんだよ」
「――――」
クイントの顔から。
表情が消えた。
「……クイント」
「…………」
「今のは」
「……そっか」
「違う」
「そう思ってたんだ」
「違う!」
「何が違うの?」
「俺は……」
「いいよ」
「クイント」
「もういい」
クイントが涙を拭う。
「私もそう思ってるから」
「…………」
「私が死ねばよかったって」
「違う、俺は――」
「でも」
クイントが。
初めて。
コウヤを睨んだ。
「それをコウヤに言われたくなかった」
「…………」
コウヤは。
何も言えなくなった。
「もう話しかけないで」
「待て」
「嫌」
「クイント!」
「顔も見たくない!」
走っていく。
コウヤは追えなかった。
追いかけて。
謝ればよかった。
今のは違う。
本当はそんなこと思っていない。
そう言えばよかった。
けれど。
その時のコウヤには。
まだ。
エマを失った悲しみの方が。
何よりも大きかった。
だから。
追いかけなかった。
その一度の選択が。
一年になった。
三年になった。
五年になった。
そして。
十年近い時間になった。
■
一年後。
「…………」
食堂。
クイントが朝食を取っている。
少し離れた席にはコウヤ。
以前なら。
同じ場所にいれば。
どちらかが何かしら話していた。
今は。
「…………」
クイントが立ち上がる。
「ごちそうさま」
「ああ」
ギルにだけ声をかける。
コウヤの横を通り過ぎても。
見もしなかった。
「…………」
コウヤも。
顔を上げない。
「おい」
「何」
「いつまで続ける気だ」
「何が」
「分かってるだろ」
「…………」
コウヤがパンをちぎる。
「別に」
「別にじゃない」
「向こうが話しかけるなって言ったんだ」
「だから十年でも二十年でも、そのままでいる気か」
「…………」
答えない。
「謝れ」
「…………」
「お前が悪い」
「分かってるよ」
「なら――」
「分かってるって言ってんだろ!」
声を荒らげる。
「…………」
すぐに。
コウヤ自身が黙った。
「……分かってるよ」
「…………」
「俺が悪い」
「なら話せ」
「…………」
コウヤが。
クイントの消えた扉を見る。
「何て言うんだよ」
「…………」
「今さら」
■
そして。
そんな二人を。
どうにかしようとする者もいた。
「――で?」
ある日。
ゼウスがエルサイアへやって来た。
普段は加藤秋人として行動している男だが。
今は。
完全にゼウスの顔だった。
「お前ら」
「…………」
「…………」
「いつまで喧嘩してんだ」
「…………」
「…………」
クイントとコウヤを。
わざわざ同じ部屋へ呼び出した。
「俺様、忙しいんだけど」
「じゃあ帰れば?」
「クイント」
「何」
「そういうとこだぞ」
「何が?」
「そういうとこ」
「意味分かんない」
「…………」
ゼウスが。
今度はコウヤを見る。
「お前も」
「…………」
「謝れ」
「……なんで俺だけ」
「お前が『死ねばよかった』っつったからだろ」
「…………」
クイントの顔が。
露骨に強張る。
「ほら。謝れ」
「…………ごめん」
「…………」
クイントは何も言わない。
「クイント」
「何」
「コウヤ謝ったぞ」
「聞こえた」
「なら――」
「だから何?」
「…………」
ゼウスが止まる。
「十年近く前のことを今さら『ごめん』って言われて、じゃあ仲直りねってなると思う?」
「…………」
「私、ずっと覚えてるよ」
「クイント」
「エマがいなくなったことも」
「…………」
「私が死ねばよかったって言われたことも」
「…………」
コウヤが俯く。
「……だから謝ってるだろ」
「ほら」
「何が」
「そういうところが嫌い」
「は?」
「謝れば全部終わると思ってるところ」
「思ってねぇよ!」
「じゃあ何なの!」
「俺だってどうすればいいか分かんねぇんだよ!」
「知らないよ!」
「俺だって母さんが――」
「その話やめて!」
「なんでだよ!」
「やめてって言ってるでしょ!」
「――お前ら!!」
ゼウスが二人の間へ入る。
「喧嘩止めるために呼んだのに悪化してんじゃねぇか!!」
「ゼウスが余計なことするからでしょ!」
「俺様!?」
「俺は何もしたくなかった!」
「コウヤまで!?」
結局。
クイントは部屋を出ていった。
「…………」
扉が閉まる。
「…………」
ゼウスが。
残されたコウヤを見る。
「……俺様、こういうの向いてねぇわ」
「知ってる」
「お前に言われたくねぇ」
■
ノヴァへ戻ると。
当然のように。
ミカエルが待っていた。
「どうでした?」
「…………」
ゼウスは。
酒を取り出した。
「飲む?」
「どうでした?」
「まあ飲めって」
「ゼウス」
「…………」
ゼウスが。
仕方なく答える。
「悪化した」
「何をしてきたんですか!!」
「俺様なりに頑張ったんだよ!」
「どうすれば仲直りさせようとして悪化するんです!」
「じゃあお前がやってみろ!」
「行けないんですよ!!」
「あ」
「『あ』ではありません!」
ミカエルが。
頭を抱える。
「……もう一度行ってきてください」
「嫌だ」
「ゼウス」
「絶対嫌だ」
「お願いします」
「お前がデメテル説得しろよ!」
「ずっと説得しています!」
「まだ駄目なのかよ」
「駄目です!」
二人で。
ため息をついた。
ミカエルは。
エマを見ることは許されている。
観測することも。
そこで何が起きているのか知ることも。
禁じられてはいない。
ただ。
エマへ行くことだけが。
許されていなかった。
だから。
クイントとコウヤが拗れていくのを。
何年も。
見ていることしかできなかった。
■
その頃。
エルサイアでは。
もう一つ。
大きな変化が起きていた。
「…………」
ライベルトが。
本を読んでいる。
人体。
解剖学。
魔術による再生。
人工精霊による生体への干渉。
錬金術。
記憶。
魂。
生命。
以前から本を読むことはあった。
だが。
エマが死んでから。
その量は。
明らかに増えていた。
「…………」
煙草を咥える。
「ライベルト」
「…………」
ギルが。
部屋へ入ってきた。
「また煙草か」
「……うん」
「酒もあるな」
「うん」
「朝だぞ」
「知ってる」
「…………」
ギルが。
少し止まる。
「お前」
「何」
「随分喋るようになったな」
「…………」
ライベルトが。
少し考える。
「前から喋れる」
「嘘つけ」
「…………」
「最初なんてほとんど単語だっただろ」
「……面倒だった」
「喋るのが?」
「うん」
「…………」
ギルが。
机を見る。
「何を調べてる」
「生命」
「それは見れば分かる」
「じゃあ聞かないで」
「お前な……」
ライベルトが。
煙を吐く。
そして。
また本へ目を落とした。
「……エマ」
「…………」
ギルの顔が。
僅かに変わる。
「生き返らないかな」
「…………」
「ずっと考えてる」
「ライベルト」
「身体を作って」
「…………」
「記憶を戻して」
「…………」
「魂も同じなら」
ページをめくる。
「エマになる?」
「…………」
ギルには。
答えられなかった。
「分からない」
「……そうだな」
「だから調べてる」
■
それから。
ライベルトは。
本当に。
ずっと研究を続けた。
一年。
人体構造。
三年。
人工精霊と生体の関係。
五年。
錬金術による人工臓器。
七年。
記憶と脳。
魂と人格。
九年。
人工生命。
そして。
十年。
「…………」
机の上には。
酒。
灰皿。
煙草。
大量の紙。
そして。
何百冊という本。
その頃には。
ライベルトも。
随分流暢に話せるようになっていた。
「無理だな」
「何がだ」
ギルが尋ねる。
「人造人間」
「…………」
「十年程度じゃ全然足りない」
「当たり前だ」
「分かってる」
「なら少し休め」
「嫌」
「お前、昨日もほとんど寝てないだろ」
「寝た」
「何時間」
「二時間」
「それを寝たとは言わん」
「私は言う」
煙草へ手を伸ばす。
ギルが取り上げた。
「返して」
「寝ろ」
「返して」
「駄目だ」
「ギル」
「駄目だ」
「……けち」
「何とでも言え」
ライベルトは。
仕方なく。
椅子へ身体を預けた。
「…………」
天井を見る。
「エマ」
「…………」
「作れると思ったんだけどな」
「十年でか?」
「最初は」
「随分自信家だったんだな」
「うん」
少しの沈黙。
「でも」
「ん?」
「身体を作れても」
「…………」
「それはエマなのかな」
「…………」
「同じ顔」
「…………」
「同じ身体」
「…………」
「同じ記憶」
「…………」
「全部作れたとして」
ライベルトが。
ギルを見る。
「それ、エマ?」
「…………」
ギルは。
長く黙った。
「……俺には分からん」
「私も」
「…………」
「だから困ってる」
「そうか」
「うん」
それでも。
ライベルトは。
本を閉じなかった。
■
ノヴァ。
ミカエルは。
その様子も。
十年間。
ずっと見ていた。
「またライベルトか」
ゼウスが。
隣へ来る。
「ええ」
「よく続くな」
「…………」
観測の向こう。
ライベルトが。
また新しい本を開く。
「彼女は諦めないのでしょうね」
「エマを生き返らせること?」
「それもありますが」
「ん?」
「知ることを」
「…………」
ミカエルが。
少し笑う。
「分からないから調べる」
「…………」
「できないから学ぶ」
「…………」
「十年で無理なら、さらに続ける」
「お前、好きそうだもんな。そういう奴」
「ええ」
そして。
観測の景色が変わる。
クイント。
王として。
仕事をしている。
そこへ。
コウヤが入ってくる。
「…………」
ミカエルが。
身を乗り出す。
「お」
「…………」
ゼウスも見る。
コウヤが。
書類を置く。
「……陛下」
「何」
「錬金術師側から」
「そこ置いて」
「…………」
「…………」
それだけ。
コウヤは。
部屋を出ていった。
「…………」
ミカエルが。
頭を抱える。
「十年ですよ」
「ああ」
「十年!」
「知ってる」
「何故まだこうなのです!」
「俺様に聞くな!」
「何度もエマへ行ったでしょう!」
「行ったよ!」
「成果は!」
「ない!」
「堂々と言わないでください!!」
ゼウスも。
酒を飲む。
「……難しいんだよ」
「何がです」
「二人とも、もう分かってんだよ」
「…………」
ミカエルが。
ゼウスを見る。
「コウヤは自分が悪いって分かってる」
「…………」
「クイントも、コウヤが本気で自分に死んでほしいわけじゃないって、多分もう分かってる」
「なら何故」
「十年だからだよ」
「…………」
ゼウスが。
観測の向こうを見る。
「今さらなんだ」
「…………」
「今さら何て話しかければいいか分からねぇ」
「…………」
「謝って終わるには長すぎた」
「…………」
「だから今日も喋らねぇ」
「…………」
ミカエルは。
黙った。
やがて。
「……やはり私が行くしかありません」
「なんでそうなる」
「私なら――」
「お前でも無理だと思うぞ」
「やってみなければ分からないでしょう」
「だから行けねぇだろ」
「…………」
痛いところを突かれた。
■
「駄目です」
「まだ何も言っていません」
「エマへ行きたいのでしょう」
「…………」
デメテルは。
書類から顔すら上げなかった。
「十年です」
「知っています」
「クイントとコウヤは未だに口を利きません」
「知っています」
「ライベルトは十年間、生命に関する研究を続けています」
「知っています」
「ゼウスでは無理でした」
「おい」
後ろから。
ゼウスの声。
「最後の一言いる?」
「事実でしょう」
「俺様だって頑張ったんだけど」
「結果は?」
「…………」
「ありませんね」
「こいつムカつくな」
「ゼウス、静かに」
「お前が言うな」
デメテルが。
ようやく。
顔を上げた。
「ミカエル」
「はい」
「貴方は十年間、ずっとエマを見ていたのですか」
「毎日ではありません」
「…………」
「仕事のある日は仕事をしていました」
「それ以外は?」
「…………」
「ミカエル」
「……概ね」
「毎日ではありませんか」
「…………」
デメテルが。
深く。
ため息をついた。
エマへ行くことは許されない。
だから。
ただ見ていた。
クイントが大人になっていくところを。
コウヤが謝れないまま年月を重ねていくところを。
ライベルトが。
一本。
また一本と煙草を灰皿へ押し付け。
酒を飲み。
本を開き。
エマを生き返らせる方法を探しているところを。
十年間。
ずっと。
「…………」
デメテルは。
目を閉じた。
そして。
「……仕方ないわね」
「…………!」
ミカエルが。
顔を上げた。
「デメテル?」
「十年です」
「はい」
「十分でしょう」
「それは――」
「エマへの渡航禁止を、条件付きで解除します」
「…………」
ミカエルが。
完全に固まった。
「ただし」
「はい」
「勝手な介入は禁止」
「はい」
「星魅の巫女に関する異常を発見した場合は、即座に報告」
「はい」
「力を用いて歴史へ干渉することも原則禁止」
「はい」
「クイントとコウヤを魔法で仲直りさせることも禁止」
「しませんよ!?」
「念のためです」
「私を何だと思っているのです!」
「十年前、力ずくでエマへ転移しようとして、ゼウスと私に止められた大天使」
「…………」
「反論は?」
「ありません……」
ゼウスが。
堪えきれず。
吹き出した。
「お前、信用なさすぎだろ」
「誰のせいで十年間クイント達が拗れていると思っているんです?」
「俺様のせいじゃねぇだろ!」
「少なくとも改善はしませんでした」
「お前ほんっと一言多いな!」
デメテルが。
もう一度。
ため息をつく。
「行ってきなさい、ミカエル」
「…………」
ミカエルは。
十年間。
見ることしかできなかった世界を。
もう一度。
見た。
クイント。
コウヤ。
ギル。
そして。
酒と煙草と本に囲まれ。
未だ存在しない『人造人間』を作ろうと。
研究を続けるライベルト。
「――はい」
十年ぶりに。
大天使ミカエルは。
自分の足で。
エマの地を踏むことを許された。