エマ   作:篠原えれの

2 / 29
世界《エマ》

 

 この世界の長い戦争の歴史を語るなら。

 

 まず。

 

 一つの惑星について話さなければならない。

 

 ――**惑星ルゥ**

 

       ◇

 

 惑星ルゥには。

 

 **《エルネアの民》**と呼ばれる種族が暮らしていた。

 

 吸血鬼の性質を持ち。

 

 強靭な肉体と。

 

 長い寿命を持つ者たち。

 

 そして。

 

 彼らには。

 

 他の多くの種族にはない特徴があった。

 

 **宇宙空間を、自らの力で移動することができる。**

 

 宇宙船に乗る必要はない。

 

 星と星の間に広がる宇宙を渡り。

 

 別の惑星へ辿り着くことのできる種族だった。

 

 そして。

 

 惑星ルゥには。

 

 もう一人。

 

 同じように星々の間を渡ることのできる存在がいた。

 

 ――**星魅の巫女《パヌト》**。

 

       ◇

 

 惑星ルゥの周辺には。

 

 巨大な宇宙生物が生息している。

 

 長い身体をうねらせ。

 

 真空の宇宙を泳ぐ。

 

 地上に生きる者から見れば。

 

 宇宙怪獣とでも呼ぶべき異形の生物たち。

 

 そんな環境の中で。

 

 エルネアの民は。

 

 長い歴史を築いてきた。

 

 しかし。

 

 ある時から。

 

 彼らは。

 

 自分たちの故郷だけで生き続けることが難しくなっていった。

 

 このまま。

 

 惑星ルゥだけに留まり続けるのか。

 

 それとも。

 

 新たな土地を探すのか。

 

 エルネアの民は。

 

 後者を選んだ。

 

       ◇

 

 幸いにも。

 

 彼らには。

 

 宇宙を渡る力がある。

 

 ならば。

 

 次に自分たちが暮らせる星を探せばいい。

 

 そうして。

 

 エルネアの民は。

 

 新たな生存圏を求め。

 

 星々を渡った。

 

 そして。

 

 二つの惑星を見つける。

 

 ――**惑星ストリジア**。

 

 そして。

 

 ――**地球**。

 

       ◇

 

 どちらも。

 

 生命が生きていくことのできる惑星だった。

 

 大地がある。

 

 水がある。

 

 文明がある。

 

 エルネアの民が。

 

 新たに暮らしていくことのできる環境が存在している。

 

 ただし。

 

 一つ。

 

 大きな問題があった。

 

 **既に、そこには別の者たちが暮らしていた。**

 

       ◇

 

 惑星ストリジアには。

 

 神。

 

 天使。

 

 竜人。

 

 魔族。

 

 精霊。

 

 獣人。

 

 エルフ。

 

 ドワーフ。

 

 ヒューマン。

 

 様々な種族が。

 

 国を築いていた。

 

 一方。

 

 地球では。

 

 人間が文明を築いている。

 

 当然。

 

 そこは。

 

 誰もいない土地ではない。

 

 誰かの故郷だった。

 

 だが。

 

 エルネアの民にも。

 

 次に生きる場所が必要だった。

 

 話し合いだけで。

 

 すべてが解決することはなかった。

 

 やがて。

 

 土地を守る者と。

 

 土地を求める者は。

 

 敵となった。

 

       ◇

 

 こうして。

 

 惑星ルゥは。

 

 **惑星ストリジアと地球。**

 

 二つの惑星を相手に。

 

 戦争を始めることになる。

 

 そして。

 

 エルネアの民が。

 

 侵略のために用意したもの。

 

 それは。

 

 巨大な戦艦でもなければ。

 

 惑星を破壊する兵器でもなかった。

 

 もっと。

 

 静かで。

 

 もっと。

 

 恐ろしいものだった。

 

 ――**《PNTウイルス》**。

 

 生物兵器である。

 

       ◇

 

 それは。

 

 雨となって。

 

 空から降った。

 

 雨粒は。

 

 青かった。

 

 だから。

 

 人々は。

 

 その災厄を。

 

 こう呼んだ。

 

 ――**《青い雨》**。

 

       ◇

 

 青い雨によって。

 

 PNTウイルスは。

 

 広大な土地へ拡散される。

 

 人へ。

 

 動物へ。

 

 そして。

 

 この世界を支える。

 

 目に見えない存在にまで。

 

 感染していった。

 

 感染者が死ねば。

 

 その死体が。

 

 再び動き始める。

 

 ――**《屍》**。

 

 屍は。

 

 青い雨によって狂暴化し。

 

 生きている者を襲う。

 

 元に戻す方法は。

 

 存在しない。

 

 家族であろうと。

 

 友人であろうと。

 

 愛した者であろうと。

 

 一度屍となれば。

 

 その生を完全に終わらせることだけが。

 

 唯一の救済だった。

 

       ◇

 

 だが。

 

 PNTウイルスが感染したのは。

 

 生物だけではない。

 

 ――**《人工精霊》**。

 

 惑星ストリジアの能力と文明を支える。

 

 目には見えない精霊。

 

 その人工精霊にまで。

 

 PNTウイルスは感染した。

 

 感染した人工精霊は。

 

 変質する。

 

 一つ。

 

 また一つ。

 

 互いに集まり。

 

 増殖し。

 

 やがて。

 

 形を得る。

 

 そして。

 

 生物のように。

 

 動き始める。

 

 人工精霊から生まれた異形。

 

 それを。

 

 人々は――

 

 **《ピリット》**と呼んだ。

 

       ◇

 

 人間を。

 

 《屍》へ。

 

 人工精霊を。

 

 《ピリット》へ。

 

 世界を支えていた生命と力そのものを。

 

 敵へと変える。

 

 それが。

 

 惑星ルゥが。

 

 地球と惑星ストリジアを侵略するために使用した生物兵器。

 

 **《青い雨》だった。**

 

       ◇

 

 そして。

 

 この戦争を語るためには。

 

 もう一つ。

 

 知っておかなければならないものがある。

 

 惑星ストリジアという星が。

 

 **どのような世界だったのか。**

 

 惑星ストリジアは。

 

 地球とは違う。

 

 ただ人々が集まり。

 

 土地を支配すれば。

 

 国を名乗れる世界ではない。

 

 そこには。

 

 《屍》が現れる遥か以前から存在する。

 

 古い。

 

 古いルールがあった。

 

 ――**《神精霊》**。

 

 神系宇宙に所属する星々が。

 

 国を得るために必要とする存在。

 

 神精霊が。

 

 王を選ぶ。

 

 神精霊が。

 

 国を認める。

 

 そして。

 

 王が。

 

 神精霊の定めた約束を破れば。

 

 神精霊は消滅し。

 

 **その国さえ、滅びる。**

 

 そんな世界へ。

 

 青い雨は降った。

 

 そして。

 

 惑星ルゥ。

 

 惑星ストリジア。

 

 地球。

 

 三つの星を巻き込む戦争が。

 

 世界《エマ》の歴史を。

 

 大きく変えていくことになる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。