エマ   作:篠原えれの

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第三十一話『受け継いだ竜』

 

 

 リリーが三歳になった。

 

 赤ん坊だった頃から茶色かった髪は、肩に触れるほどまで伸びた。

 

 顔立ちもずいぶんとはっきりしてきた。

 

 そして。

 

 成長すればするほど。

 

 ギルには、一つ。

 

 困ったことがあった。

 

「おじいちゃーん!」

 

「走るな」

 

「おじいちゃん!」

 

「聞こえている。だから走るなと言っている」

 

「わーっ!」

 

 聞いていない。

 

 廊下の向こうから全速力で走ってきたリリーを、ギルは仕方なく受け止めた。

 

「わっ!」

 

「ほら見ろ」

 

「つかまった!」

 

「捕まえたんだ」

 

「えへへ」

 

 腕の中で。

 

 リリーが笑った。

 

「…………」

 

 ギルは。

 

 その顔を見つめる。

 

「おじいちゃん?」

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

「また見てる」

 

「何をだ」

 

「リリーのお顔」

 

「……そうか?」

 

「うん」

 

「気のせいだ」

 

「うそ」

 

「嘘ではない」

 

「ずーっと見てた」

 

「…………」

 

 妙なところだけよく見ている。

 

「リリーのお顔、へん?」

 

「そんなわけないだろう」

 

「じゃあなんで見るの?」

 

「…………」

 

 答えに困った。

 

 理由は。

 

 はっきりしている。

 

 似ている。

 

 あまりにも。

 

 茶色い髪。

 

 顔立ち。

 

 笑った時の目元。

 

 ふとした瞬間に見せる表情まで。

 

「…………」

 

 血が繋がっているのだから。

 

 何もおかしくはない。

 

 この子の父親はコウヤ。

 

 コウヤは。

 

 自分とエマの息子なのだから。

 

 それでも。

 

「……似すぎだろう」

 

「なに?」

 

「何でもない」

 

「またそれ!」

 

「気にするな」

 

「むー」

 

 頬を膨らませる。

 

「…………」

 

 それすら。

 

 昔見た顔に似ている気がした。

 

「父さん」

 

 後ろから。

 

 声がする。

 

「何だ」

 

「またリリー見てたのか?」

 

「…………」

 

 コウヤだった。

 

「パパ!」

 

「おう」

 

 コウヤが近づいてきて。

 

 娘の頭を撫でる。

 

「おじいちゃん、リリーのお顔ずっと見る」

 

「ああ」

 

「なんで?」

 

「母さんに似てるからだろ」

 

「…………」

 

 ギルが。

 

 コウヤを見る。

 

「お前もそう思うか」

 

「そりゃ思うよ」

 

 コウヤは。

 

 当たり前のように言った。

 

「リリー」

 

「なあに?」

 

「お前、俺の母さんに似てるんだぞ」

 

「パパのママ?」

 

「ああ」

 

「おばあちゃん?」

 

「そう」

 

「リリー、おばあちゃんに似てる?」

 

「似てるぞ」

 

「いっぱい?」

 

「すげぇ似てる」

 

「へえー!」

 

 リリーの目が輝く。

 

「髪も?」

 

「母さんも茶色かったからな」

 

「おんなじ!」

 

「顔も似てる」

 

「おんなじ!」

 

「笑った顔なんか特にな」

 

「じゃあリリー、おばあちゃん!」

 

「おばあちゃんにはなるな」

 

「なんで?」

 

「ややこしいから」

 

「?」

 

「おばあちゃんに似たんだぞってこと」

 

「そっか!」

 

「そうそう」

 

 コウヤが笑う。

 

「パパには?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 コウヤが止まった。

 

「リリー、パパにも似てる?」

 

「そりゃ似てるだろ」

 

「どこ?」

 

「…………」

 

 コウヤが娘を見る。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ギルが視線を逸らした。

 

「父さん」

 

「何だ」

 

「何で目逸らした」

 

「別に」

 

「何か探してくれよ!」

 

「何故私が」

 

「俺の娘だぞ!」

 

「分かっている」

 

「パパに似てない?」

 

「似てるぞ!」

 

「どこ?」

 

「…………元気なところ」

 

「それクイントじゃねぇか?」

 

「父さん!」

 

「ふふっ」

 

 ◇

 

「何してるの?」

 

 そこへ。

 

 金色の髪を揺らしながら。

 

 クイントがやってきた。

 

「ママ!」

 

「リリー」

 

「ママ、聞いて!」

 

「なに?」

 

「リリーね、おばあちゃんに似てるんだって!」

 

「ああ」

 

 クイントが笑った。

 

「似てるよ」

 

「リリー、ちゃいろ!」

 

「うん」

 

「パパは?」

 

「…………」

 

「おいクイント」

 

「茶色……ではないね」

 

「そこじゃねぇよ!」

 

「ふふっ」

 

 クイントがリリーを抱き上げる。

 

「でも、本当にエマさんに似てきたよね」

 

「……ああ」

 

「お父さん、最近リリーの顔よく見てるもん」

 

「…………」

 

「困る?」

 

「何故だ」

 

「だって、似すぎてるから」

 

「…………」

 

 ギルは。

 

 しばらく黙った。

 

「困るというより」

 

「うん」

 

「驚く」

 

「驚く?」

 

「ああ」

 

 ギルが。

 

 リリーを見る。

 

「昔のエマを見ているようでな」

 

「…………」

 

 クイントが。

 

 少しだけ笑った。

 

「そっか」

 

「おじいちゃん」

 

「何だ」

 

「リリー、おばあちゃんに似てるの、いや?」

 

「嫌なわけがない」

 

 そこだけは。

 

 即答した。

 

「ほんと?」

 

「ああ」

 

「よかった!」

 

「…………」

 

 また。

 

 エマによく似た顔で笑う。

 

「……本当に困った孫だ」

 

「なんでー!」

 

「何でもない」

 

「おじいちゃん!」

 

「はいはい」

 

 ◇

 

 その日の午後。

 

「リリー」

 

「やだ」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「おひるね、やだ」

 

「分かってるじゃん」

 

「ねむくない!」

 

「さっき欠伸してたよ」

 

「してない!」

 

「してた」

 

「してないもん!」

 

「リリー」

 

「やーだー!」

 

 クイントが。

 

 腰へ手を当てる。

 

「リリー」

 

「…………」

 

 声が。

 

 少し低くなる。

 

「お昼寝」

 

「…………」

 

 リリーが止まった。

 

 そして。

 

「…………」

 

 なぜか。

 

 コウヤまで止まった。

 

「コウヤ?」

 

「何?」

 

「なんでコウヤまで固まるの?」

 

「いや……」

 

「何」

 

「昔思い出して」

 

「何の?」

 

「お前が怒った時」

 

「…………」

 

「その感じ」

 

「普通でしょ!」

 

「普通じゃねぇよ!」

 

「パパ」

 

「ん?」

 

「ママこわい」

 

「ほら!」

 

「リリーまで!?」

 

「クイント」

 

 ギルまで口を挟む。

 

「少し落ち着け」

 

「お父さんまで!」

 

「圧が出ている」

 

「出してない!」

 

「お前それ昔から自覚ねぇんだよ!」

 

「コウヤ!」

 

「ほらそれ!」

 

「もう!」

 

 その隙に。

 

「いまだー!」

 

 リリーが逃げた。

 

「あ!」

 

「わー!」

 

「リリー!」

 

「おひるねしなーい!」

 

「待ちなさい!」

 

「きゃはは!」

 

 廊下を走る。

 

「走るな!」

 

「パパおそーい!」

 

「待てって!」

 

 そして。

 

「あっ」

 

 リリーの足が。

 

 絨毯の端へ引っ掛かった。

 

「リリー!」

 

 コウヤが手を伸ばす。

 

 クイントも。

 

 ギルも動いた。

 

 その瞬間。

 

「――きゅっ」

 

「…………」

 

 妙な声。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 三人とも。

 

 止まった。

 

「……え?」

 

 リリーがいない。

 

 代わりに。

 

 さっきまで少女がいた場所に。

 

「…………きゅ?」

 

 小さな竜がいた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 クイントが。

 

 恐る恐る。

 

「……リリー?」

 

「きゅ!」

 

「…………」

 

 小さな尻尾が。

 

 ぱたぱたと揺れた。

 

「リリーが竜になったあああああ!?」

 

「クイントうるせぇ!」

 

「だって!」

 

「俺も見えてる!」

 

「どうしよう!?」

 

「俺に聞くな!」

 

「お父さん!」

 

「…………」

 

 ギルだけが。

 

 小さな竜を凝視していた。

 

「お父さん?」

 

「……リリー」

 

「きゅ?」

 

「こちらへ来い」

 

「きゅー」

 

 てち。

 

 てち。

 

 小さな足で。

 

 リリーが近づいてくる。

 

 ギルがしゃがみ。

 

 両手を差し出す。

 

「きゅっ」

 

 リリーは。

 

 何の警戒もなく。

 

 その腕へ収まった。

 

「…………」

 

 温かい。

 

 間違いなく。

 

 リリーだ。

 

「……竜化か」

 

「やっぱり?」

 

「ああ」

 

「でも」

 

 クイントが。

 

 チビ竜になった娘を見る。

 

「私、できないよ?」

 

「…………」

 

「タタンお父さんは竜人だったけど、私はどれだけ頑張っても竜化できなかった」

 

「そうだったな」

 

「メリッサはできたのに」

 

「それでも、お前がタタンとサクラ王妃の娘であることは変わらん」

 

「…………」

 

「お前に現れなかった形質が、リリーに強く出たのだろう」

 

「……そっか」

 

 クイントが。

 

 しばらく娘を見る。

 

「…………いいなぁ」

 

「おい」

 

「だって!」

 

「娘がいきなり竜になったんだぞ!?」

 

「私も竜になりたかった!」

 

「今そこ!?」

 

「子供の頃すっごい練習したんだから!」

 

「知ってるけど!」

 

「全然できなかった!」

 

「娘と張り合うな!」

 

「張り合ってないよ!」

 

「きゅー!」

 

 リリーだけが。

 

 楽しそうだった。

 

 そして。

 

「…………」

 

 ギルは。

 

 腕の中のリリーを見つめる。

 

 人の姿なら。

 

 エマによく似ている。

 

 それは。

 

 コウヤから受け継いだ血。

 

 自分とエマの息子。

 

 そのコウヤの娘なのだから。

 

 けれど。

 

 この竜の姿は。

 

「……タタンか」

 

「お父さん?」

 

「いや」

 

「…………」

 

 タタン。

 

 クイントの実父。

 

 そして。

 

 かつて。

 

 エマが初めて想いを寄せた男。

 

「…………」

 

 ギルは。

 

 何とも言えない顔になった。

 

「お父さん?」

 

「…………」

 

「もしかして複雑?」

 

「……少しな」

 

「やっぱり」

 

「勘違いするな」

 

「え?」

 

「リリーが悪いわけではない」

 

「うん」

 

「タタンが悪いわけでもない」

 

「…………」

 

「エマが悪いわけでもない」

 

「うん」

 

 ただ。

 

 目の前の孫娘に。

 

 自分が愛した妻の面影と。

 

 その妻がかつて愛した男の血が。

 

 こんなにも分かりやすく。

 

 同居している。

 

「……何という巡り合わせだ」

 

「きゅ?」

 

「お前には分からんだろうな」

 

「きゅ!」

 

「そうだな」

 

 ギルが。

 

 苦笑する。

 

「お前はリリーだ」

 

「きゅー!」

 

 ◇

 

 しばらくして。

 

 ぽん。

 

「…………」

 

 ギルの腕の中で。

 

 小さな竜が消えた。

 

 代わりに。

 

「……おじいちゃん?」

 

 三歳のリリーがいた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「戻った!」

 

「ママ?」

 

「リリー!」

 

 クイントが飛んでくる。

 

「大丈夫!?」

 

「うん」

 

「痛くない?」

 

「いたくない」

 

「苦しくない?」

 

「ううん」

 

「気持ち悪くない?」

 

「ママ、くすぐったい!」

 

「よかったぁ……」

 

 クイントが。

 

 ぎゅっと娘を抱き締める。

 

「ママ」

 

「なに?」

 

「リリーね」

 

「うん」

 

「りゅうになった!」

 

「覚えてるの?」

 

「うん!」

 

「怖くなかった?」

 

「たのしかった!」

 

「…………」

 

 リリーの目が。

 

 輝く。

 

「リリー、ドラゴン!」

 

「そうだね」

 

「すごい!?」

 

「すごいすごい」

 

「ママも!」

 

「…………」

 

「ママもドラゴン!」

 

「…………」

 

 クイントが。

 

 静かに目を逸らした。

 

「ママ?」

 

「……ママはなれない」

 

「なんで?」

 

「私が聞きたい!」

 

「ははっ!」

 

「コウヤ笑わないで!」

 

「悪い悪い」

 

「パパは?」

 

「俺はエルフだから無理だな」

 

「おじいちゃんは?」

 

「私も無理だ」

 

「じゃあリリーだけ!?」

 

「今のところはな」

 

「すごーい!」

 

 本人は。

 

 完全に気に入っていた。

 

「もういっかい!」

 

「え?」

 

「りゅう!」

 

「待ってリリー」

 

「んんんーっ!」

 

 リリーが力む。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 何も起こらない。

 

「んんんんー!」

 

「リリー」

 

「りゅうー!」

 

「多分そうやってなるんじゃないよ」

 

「ママも!」

 

「え?」

 

「ママも、んーって!」

 

「私?」

 

「うん!」

 

「…………」

 

 クイントが。

 

 少し考える。

 

「やってみる」

 

「やるのかよ!」

 

「だって今ならできるかもしれないじゃん!」

 

「何でそうなるんだよ!」

 

「リリーができたから!」

 

「遺伝はそういうもんじゃねぇだろ!」

 

「やってみなきゃ分からないよ!」

 

「ママがんばれー!」

 

「よーし!」

 

 クイントが。

 

 目を閉じる。

 

「んー……」

 

「…………」

 

 何も起きない。

 

「んんー……」

 

 その時。

 

 空気が。

 

 僅かに震えた。

 

「…………」

 

 ギルが。

 

 顔を上げる。

 

「クイント」

 

「んー……」

 

「やめろ」

 

「…………え?」

 

 クイントが目を開けた。

 

 気配が消える。

 

「どうしたの?」

 

「…………」

 

「お父さん?」

 

「……いや」

 

「何?」

 

「何でもない」

 

「またそれ?」

 

 ギルは答えなかった。

 

 ただ。

 

 確かに。

 

 感じた。

 

 今。

 

 何かが。

 

 クイントの身体の奥から。

 

 出ようとした。

 

 それも。

 

 リリーとは。

 

 比べ物にならない何かが。

 

 ◇

 

「――城の中で試した?」

 

 夕方。

 

 話を聞いたライベルトは。

 

 開口一番そう言った。

 

「うん」

 

「馬鹿か」

 

「なんで!?」

 

「お前な……」

 

「リリーはできたよ?」

 

「リリーは三歳だろ!」

 

「関係ある?」

 

「あるかもしれねぇから言ってんだよ!」

 

 ライベルトは。

 

 リリーの身体を診察する。

 

「リリー」

 

「なあに?」

 

「痛いところは?」

 

「ない!」

 

「気持ち悪い?」

 

「ない!」

 

「変な感じは?」

 

「ドラゴン!」

 

「それは聞いた」

 

「きゅってなった!」

 

「それも聞いた」

 

「ライベルトもなって!」

 

「嫌だ」

 

「なんで?」

 

「城が壊れる」

 

「…………」

 

 リリーが。

 

 目を丸くする。

 

「おしろ、こわれる?」

 

「私がここで獣化したらな」

 

「ライベルト、そんなにおっきい?」

 

「でかい」

 

「みたい!」

 

「駄目」

 

「みたいー!」

 

「絶対駄目」

 

「おそと!」

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

「けち!」

 

「何とでも言え!」

 

 クイントが笑っていたが。

 

「クイント」

 

「何?」

 

「お前もだ」

 

「え?」

 

「もう城内で試すな」

 

「なんで?」

 

「分からねぇから」

 

「何が?」

 

「お前が何になるか」

 

「…………」

 

 ライベルトが。

 

 真面目な顔になる。

 

「お前、自分は竜化できないって言ってたよな」

 

「うん」

 

「本当に?」

 

「…………?」

 

「今まで一度も、何も起きなかった?」

 

「何もって」

 

「竜化しようとした時。身体が止めるような感覚とか」

 

「…………」

 

 クイントが。

 

 考える。

 

「……あったかも」

 

「どんな」

 

「分かんない」

 

「思い出せ」

 

「…………」

 

 昔。

 

 メリッサが竜化できた。

 

 自分もやりたくて。

 

 何度も。

 

 何度も試した。

 

 けれど。

 

「……怖かった」

 

「何が?」

 

「分かんない」

 

「…………」

 

「竜になるのが怖かったんじゃなくて」

 

「うん」

 

「その先に行っちゃ駄目な気がした」

 

「…………」

 

 ライベルトの表情が変わる。

 

「それ」

 

「なに?」

 

「できなかったんじゃなくて」

 

「…………」

 

「自分で止めてたんじゃねぇのか」

 

「…………え?」

 

 クイントが。

 

 瞬きをする。

 

「無意識にな」

 

「私が?」

 

「ああ」

 

「なんで?」

 

「知らん」

 

「…………」

 

「だから調べる」

 

「…………」

 

 クイントの目が。

 

 じわじわと輝いていく。

 

「じゃあ」

 

「待て」

 

「私」

 

「待てって」

 

「竜になれる!?」

 

「まだ分からん!」

 

「やった!」

 

「話聞け!」

 

「ママ、ドラゴン!」

 

「リリーも喜んでる!」

 

「煽るな!」

 

「お父さん!」

 

「私に振るな」

 

「コウヤ!」

 

「俺も知らねぇよ!」

 

「じゃあミカエル!」

 

「ここにいねぇだろ!」

 

 ライベルトの怒鳴り声が。

 

 部屋に響いた。

 

 ◇

 

 その夜。

 

 ギルは。

 

 一人で窓の外を見ていた。

 

「…………」

 

 タタン。

 

 サクラ王妃。

 

 二人の娘。

 

 クイント。

 

 そして。

 

 エマ。

 

 自分。

 

 二人の息子。

 

 コウヤ。

 

 その二つの血が。

 

 リリーで一つになった。

 

 エマによく似た顔。

 

 タタンから受け継いだ竜。

 

「…………」

 

 そして。

 

 もしかすると。

 

 クイント自身にも。

 

 まだ誰も知らない竜がいる。

 

「……タタン」

 

 ギルが。

 

 小さく呟く。

 

「お前の娘は」

 

 少し考えて。

 

「……どうやら、お前が思っていた以上に厄介らしいぞ」

 

 もちろん。

 

 返事はない。

 

 けれど。

 

 ギルは少しだけ笑った。

 

 翌日から。

 

 ライベルトによる。

 

 『クイントを絶対に城内で竜化させるな』

 

 という。

 

 妙に物々しい検査計画が始まることになる。

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