エマ   作:篠原えれの

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第五話『神々は少女を欲しがる』

神系宇宙『ラ』所属、惑星ストリジア『ラウル王国』

 

SH.2010年4月11日。10:30 天候:晴

ラウル王国城『王宮内部』

 

 それは、広重達がギルド『希望の協会』へたどり着く三十分ほど前のことだった。

 

 キリナ・アイテールは、ラウル王国国王アイザック・ラウルから正式な招待を受け、王宮を訪れていた。

 

 会談用に用意された円形の会議室。

 

 中央には大きな円卓が置かれ、アイザック王、その護衛を務めるラウル王国親衛隊隊長ギルバート・アタンチェルト。そしてキリナとミカエルが席についている。

 

 壁面には複数の通信画面が展開され、日本国、アメリカ国を始めとする同盟国の議員達も遠隔で参加していた。

 

「遠い場所からご苦労であった、キリナ・アイテールよ。此度の会談への参加を歓迎する」

 

「お招きいただきありがとうございます。アイザック陛下」

 

 キリナは車椅子に座ったまま、丁寧に頭を下げた。

 

 そして顔を上げた直後。

 

 誰にも聞こえない声が、キリナの頭の中へ響いた。

 

『アルテミスから連絡は?』

 

 ミカエルからの念話だった。

 

 キリナは表情を変えない。

 

『ありません。そちらは?』

 

『同じです。ノヴァから観測を続けていますが、未だに見つかっていません』

 

『ゼウス様とロキも?』

 

『捜しています』

 

『……そうですか』

 

 ほんの僅かに、キリナの表情が曇った。

 

 アルテミスが姿を消したのは、エマへ干渉しようとした直後だった。

 

 天族が世界へ干渉する。

 

 それ自体が危険な行為である。

 

 天族が創り上げた世界を喰らう存在――ワールドイーターに、存在を察知される可能性があるからだ。

 

 そして今回。

 

 アルテミスは突然、ノヴァから観測できなくなった。

 

 普通に別の世界へ渡ったのであれば、移動した痕跡を辿ることができる。

 

 だが、それすらない。

 

 死亡も確認されていない。

 

 消滅もしていない。

 

 ならば。

 

 二人には何が起きたのか、おおよその見当がついていた。

 

『ワールドイーターと戦闘になったのでしょうか』

 

『可能性は高いでしょうね』

 

『それで、どこかへ飛ばされた』

 

『そこまでは分かっています。問題は――どこへ、ということです』

 

『……時空座標まで追えない?』

 

『ええ。ゼウス様でも無理だそうです』

 

『アルテミス、大丈夫かな』

 

『少なくとも死亡は確認されていません』

 

『心配じゃないんですか』

 

『何を馬鹿なことを』

 

『だって、いつも通りなので』

 

『私が取り乱したところでアルテミスが戻ってくるなら、いくらでも取り乱して差し上げます』

 

『……心配なんじゃないですか』

 

『当たり前でしょう』

 

『素直ですね』

 

『キリナ』

 

『はいはい。会議に集中します』

 

 念話が切れる。

 

 ミカエルは何事もなかったように資料へ目を落とした。

 

 今はゼウスとロキに任せるしかない。

 

 アルテミスの捜索だけに全員が動けば、今度はエマ側で何が起こるか分からない。

 

 そして実際。

 

 地上では既に、別の異変が始まっていた。

 

「では、本題に移ろう」

 

 アイザック王が卓上へ資料を表示する。

 

「今回お主達を招いたのは、先日の我が国への襲撃について意見を聞くためだ」

 

「エウ・ルミナス王国の『アルテマ』と『デルタ』ですね」

 

「左様」

 

 資料には、破壊された無人四足型機動兵器の映像が並んでいた。

 

「先日の『青の雨』の最中、我が国は正体不明の部隊による襲撃を受けた。確認されたのは、エウ・ルミナス王国が保有する中型無人四足型機動兵器『アルテマ』及び、小型無人四足型機動兵器『デルタ』。合計三十機近い」

 

「前回の『青の雨』でも似たような襲撃があったなァ」

 

 ギルバートが資料を操作する。

 

「前回は所属不明だった。だが今回は、日本国とアメリカ国にも協力してもらって徹底的に調べた。機体は本物。幻術でも偽装でもねェ。それどころか過去視で確認した結果、命令そのものがエウ・ルミナス王国の作戦指令室から発信されてる」

 

「エウ・ルミナス王国は?」

 

「当然、否定してる」

 

「でしょうね」

 

 キリナが即答する。

 

 通信画面の一つから、男の声が飛んできた。

 

『随分とエウ・ルミナス王国を信用しているようだな、キリナ・アイテール』

 

「少なくとも、アルテミスがラウル王国への無差別攻撃を許可したとは考えていません」

 

『しかし、そのアルテミス本人は現在行方不明だ』

 

「だからこそですよ」

 

『何?』

 

「アルテミスが姿を消した直後に、彼女の管理していた国の兵器が勝手に動き始めている。それを本人の命令だと考える方が不自然です」

 

 キリナの言葉に、ミカエルも頷いた。

 

「私も同意見です」

 

『ミカエルまで……』

 

「アルテミスが本気でラウル王国を滅ぼすつもりなら、このような回りくどい手段を選ぶ必要がありません」

 

「随分な言い方だなァ」

 

「事実でしょう」

 

「まぁ、否定はしねェけどよ」

 

「本人が不在になった直後、その国の兵器が勝手に動いた。ならば疑うべきはアルテミスではなく――」

 

 ミカエルが資料を見る。

 

「彼女の不在を利用した第三者でしょう」

 

 会議室が静かになる。

 

「私もそう考えています」

 

 キリナが続けた。

 

「そして問題は、この機体に使われていたスフロン水晶です」

 

「スフロン水晶?」

 

「はい」

 

 キリナが回収された水晶の分析結果を表示する。

 

「通常、精霊歌によって自由に命令を送れるのは、何も情報が組み込まれていない無垢なスフロン水晶だけです」

 

「無色透明の状態だな」

 

「はい。一度でも機械や魔道具へ組み込まれれば、スフロン水晶は赤色へ変化します。そして、色が変化したスフロン水晶へ外部から無理に干渉した場合――相応の『対価』が発生する」

 

 肉体の欠損。

 

 死。

 

 記憶の喪失。

 

 人格の欠如。

 

 精神崩壊。

 

 奇病。

 

 場合によっては魂そのものの消滅。

 

 塔コアスピアの管理下にあるスフロン水晶へ不正に干渉した者には、実行した行為に応じて様々な代償が発生する。

 

『私から質問しても構わないかね』

 

 新たな通信画面が開く。

 

「リアス・ハーシエンテ議員」

 

『久しいな、キリナ殿』

 

 リアス・ハーシエンテ。

 

 惑星ストリジア側の『星紡ぎ』。

 

 スフロン水晶を製造するため、塔コアスピアと契約した者である。

 

 現在は旧エルサイア王国領に存在する『スフロン水晶製造エリア』に暮らしている。

 

『仮に第三者が三十機近い兵器を支配したとして、一つ問題がある』

 

「対価ですね」

 

『その通りだ』

 

 リアスが頷く。

 

『アルテマとデルタには、それぞれ一つずつスフロン水晶が使用されている。それら全てを外部から強制的に支配したなら、通常では考えられないほどの対価が発生するはずだ』

 

「ええ」

 

『しかし、そのような事件は各国から報告されていない』

 

「はい」

 

『ならば誰がやった?』

 

「――対価を踏み倒せる者です」

 

『ほう』

 

「あるいは、対価そのものを別の方法で処理できる存在」

 

 そこで。

 

 ミカエルが僅かに眉を動かした。

 

「……キリナ」

 

「何です?」

 

「回収された水晶をもう一度」

 

「はい?」

 

 キリナが資料を拡大する。

 

「…………」

 

「ミカエル?」

 

「微量ですが、何か付着していませんか」

 

「これは――」

 

 キリナが分析結果を確認する。

 

 その顔から。

 

 少しずつ余裕が消えた。

 

「PNTウイルス……?」

 

「やはり」

 

 ミカエルが立ち上がった。

 

「どういうことだ?」

 

 アイザック王が尋ねる。

 

「まだ断定はできません。でも、この反応は――」

 

「キリナ」

 

 ミカエルが遮る。

 

「その話は後です」

 

「どうして――」

 

 ――――ドォォォォォン!!

 

 大地が。

 

 鳴った。

 

「なっ――!?」

 

 王宮全体が激しく揺れる。

 

「陛下!」

 

 ギルバートが即座にアイザック王を庇う。

 

 資料が床へ落ち。

 

 通信画面にノイズが走る。

 

 窓が激しく震え、王宮の警報が一斉に鳴り響いた。

 

「地震か!?」

 

「違います!」

 

 キリナが叫ぶ。

 

「こんなもの、予知していません!」

 

「なら何だ!」

 

「……来ましたよ」

 

 ミカエルだけが。

 

 会議室の中央を見ていた。

 

「ミカエル?」

 

「下がっていなさい、キリナ」

 

「何が――」

 

 空間が歪む。

 

「…………!」

 

 青い霧が溢れ出した。

 

 床を這い。

 

 壁を伝い。

 

 まるで意思を持つ生物のように、会議室へ広がっていく。

 

「この反応……!」

 

 キリナが息を呑む。

 

「PNTウイルス……!」

 

 青い霧の向こうから。

 

 足音が聞こえる。

 

 一歩。

 

 また、一歩。

 

 その存在が世界へ足を踏み入れるたび。

 

 大地が軋んだ。

 

「…………」

 

 そして。

 

 青い霧の中から。

 

 一人の女が現れた。

 

「あら」

 

 女は周囲を見渡して。

 

 楽しそうに笑う。

 

「随分と大勢集まっているのね」

 

 星魅の巫女。

 

「……貴女様でしたか」

 

 ミカエルが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「あら、ミカエル。久しぶり」

 

「私はできれば、もう少しお会いしたくありませんでしたが」

 

「酷い言い方ね」

 

「身に覚えがおありでしょう」

 

「さあ?」

 

 星魅の巫女は首を傾げる。

 

「昨日の『青の雨』」

 

 キリナが彼女を睨んだ。

 

「貴女ですね」

 

「ええ」

 

「アルテマとデルタを動かしたのも」

 

「そうよ」

 

「……やっぱり」

 

 あまりにも簡単に認めた。

 

「何故です」

 

「必要だったから」

 

「何に?」

 

「今から説明するわ」

 

「その前に一つよろしいですか」

 

 ミカエルが口を挟む。

 

「何?」

 

「エウ・ルミナス王国へ干渉したのなら、アルテミスが現在不在であることも把握しているのでしょう」

 

「ええ。それくらいは」

 

「それについて、何か知っていますか」

 

「知らないわ」

 

 即答だった。

 

「天族側で何かあったみたいだけど、私は知らない」

 

「…………」

 

「《あれ》が関わってるんでしょう?」

 

「ワールドイーターですか」

 

「名前なんてどうでもいいわ」

 

 星魅の巫女は。

 

 明らかに興味を失ったように答えた。

 

「だったら、なおさら私は知らない」

 

「調べる気も?」

 

「ないわよ」

 

「即答ですね」

 

「だって嫌だもの」

 

 星魅の巫女は肩をすくめる。

 

「天族が何をして、アルテミスが何をして、《あれ》と何があったのか。そんなもの私には関係ないわ」

 

「…………」

 

「勝手にやって」

 

 ミカエルもそれ以上追及しなかった。

 

 元々、星魅の巫女がアルテミスを消したとは考えていない。

 

 アルテミスがエマへ干渉したこと。

 

 その直後にワールドイーターと接触した可能性が極めて高いこと。

 

 それは天族側で既に把握している。

 

 ただ。

 

 星魅の巫女は。

 

 少しだけ楽しそうに付け加えた。

 

「でも、アルテミスがいないのは好都合ね」

 

「…………」

 

 キリナの表情が険しくなる。

 

「どういう意味です」

 

「そのままよ」

 

「彼女の不在を利用した?」

 

「ええ」

 

「だからエウ・ルミナス王国の兵器を!」

 

「使えるものは使うでしょう?」

 

 星魅の巫女は悪びれもしない。

 

「アルテミスがいたら邪魔されるもの。でも今はいない」

 

「…………」

 

「消えた理由なんて、私にはどうでもいい」

 

「貴女……!」

 

「いないなら、その間に利用するだけよ」

 

 キリナが言い返そうとする。

 

 しかし。

 

 ミカエルが先に口を開いた。

 

「なるほど」

 

「何?」

 

「貴女様がアルテミスの失踪に関与していないことは分かりました」

 

「最初からそう言ってるでしょう」

 

「ええ。ですが――」

 

 ミカエルの目が冷たくなる。

 

「友人の不在を喜ばれるのは、あまり愉快ではありませんね」

 

「……友人?」

 

「何か?」

 

「貴方、アルテミスのこと友人だと思ってたのね」

 

「…………」

 

「意外」

 

「貴女様には関係ありません」

 

「ふふっ」

 

「笑わないでいただけますか」

 

「嫌よ」

 

 キリナが思わずミカエルを見る。

 

「……友人だったんですね」

 

「キリナ」

 

「はい」

 

「黙りなさい」

 

「はいはい」

 

 星魅の巫女は、その様子を面白そうに眺めていた。

 

「それで」

 

 ミカエルが話を戻す。

 

「アルテミスの不在を利用してまで、貴女様は何をしたかったのです」

 

「あら。ようやく本題?」

 

「最初から本題を聞いています」

 

「相変わらず面倒な男ね」

 

「恐縮です」

 

「褒めてないわ」

 

「存じております」

 

 星魅の巫女が笑う。

 

「エルサイア王国を復活させようと思って」

 

「…………何?」

 

 アイザック王が。

 

 初めて大きく表情を変えた。

 

「エルサイアを……?」

 

「ええ」

 

「馬鹿な! エルサイア王国は五年前に滅びた! 国王タタン・エルサイアは死亡し、神精霊ミリィも消滅している!」

 

「だから?」

 

「神精霊の存在しない国を、どうやって再建するというのだ!」

 

「簡単よ」

 

 星魅の巫女が。

 

 指を鳴らした。

 

「いないなら、戻せばいいでしょう?」

 

 光が。

 

 彼女の隣へ集まり始める。

 

「…………」

 

 その光景を見て。

 

 ミカエルすら。

 

 僅かに目を見開いた。

 

「まさか……」

 

 光の中から。

 

 一人の少女が姿を現した。

 

「…………」

 

 アイザック王が。

 

 言葉を失う。

 

「紹介するわ」

 

 星魅の巫女は。

 

 あまりにも簡単に言った。

 

「神精霊ミリィ」

 

「――――ミリィ?」

 

 その声とほぼ同時だった。

 

 今まで姿を消して会談を聞いていた神精霊ジンが、強制的に実体化する。

 

「……嘘だろ」

 

 一歩。

 

 また、一歩。

 

「ミリィ……?」

 

「ジン……」

 

「…………っ!」

 

 声。

 

 姿。

 

 気配。

 

 魂。

 

 五年間。

 

 忘れたことなど、一度もなかった。

 

「本当に……お前なのか?」

 

「はい」

 

 ミリィが。

 

 小さく頷いた。

 

「ジン」

 

「…………っ!」

 

 次の瞬間。

 

 ジンが星魅の巫女へ飛びかかろうとした。

 

「ふざけるな!!」

 

 その腕を。

 

 ミカエルが掴む。

 

「離せ、ミカエル!」

 

「落ち着きなさい」

 

「これが落ち着いてられるか! ミリィは五年前に消えたんだぞ!」

 

「だから戻したのよ」

 

 星魅の巫女が。

 

 平然と言う。

 

「私が」

 

「てめぇ……!」

 

「ジン」

 

 ミカエルの声が低くなる。

 

「今、この方へ攻撃して何になるのです」

 

「だが!」

 

「ミリィは目の前にいる」

 

「…………」

 

「まずは本人の状態を確認しなさい」

 

「…………クソッ!」

 

 ジンは拳を握りしめながら。

 

 ミリィへ向き直った。

 

「さて」

 

 星魅の巫女は。

 

 まるで会議を再開するように話を続ける。

 

「これで神精霊は戻った」

 

「…………」

 

「国を作るには神精霊が必要」

 

「…………」

 

「そして、神精霊がいるなら――次に必要なのは王でしょう?」

 

 キリナが。

 

 嫌な予感を覚える。

 

「誰を王にするつもりです」

 

「決まってるじゃない」

 

 星魅の巫女が笑った。

 

「メリッサ・エルサイア」

 

 ミリィの身体が。

 

 僅かに震えた。

 

「……メリッサ様」

 

「今は違う名前だったわね」

 

 星魅の巫女が。

 

 その名を口にする。

 

「クイント」

 

「…………」

 

 キリナの表情が変わる。

 

「クイントを……?」

 

「ええ」

 

「何故です」

 

「だって、あの子がメリッサなんでしょう?」

 

「そういう意味ではありません!」

 

 キリナが星魅の巫女を睨む。

 

「どうして貴女がクイントに拘るんです!」

 

「拘る?」

 

「そうでしょう! エルサイア王国の再建だけなら、そこまで――」

 

「欲しいから」

 

 星魅の巫女が。

 

 あっさりと答えた。

 

「…………え?」

 

「クイントが欲しいの」

 

 会議室が。

 

 静まり返った。

 

「……何を言ってるんですか」

 

「そのままの意味よ」

 

「クイントは物じゃありません!」

 

「知ってるわ」

 

「なら――」

 

「でも、欲しいものは欲しいでしょう?」

 

 星魅の巫女は。

 

 本当に当然のことのように言う。

 

「面白い子だもの」

 

「何が面白いんです!」

 

「それを貴女に教える必要ある?」

 

「あります!」

 

「ないわ」

 

「あります!!」

 

「キリナ」

 

 ミカエルが。

 

 静かに止めた。

 

「止めないでください!」

 

「貴女が怒鳴ったところで、この方が考えを変えると思いますか」

 

「思いません!」

 

「ならば体力の無駄です」

 

「ミカエルまで腹立つ!」

 

 星魅の巫女が笑う。

 

「ミカエルは気にならないの?」

 

「何がです」

 

「クイント」

 

「…………」

 

 ミカエルは。

 

 ほんの僅かに考えた。

 

「存在は以前から知っています」

 

「あら」

 

「メリッサ・エルサイアが別の姿、別の名で生きていることも」

 

「なら話が早いわね」

 

「しかし」

 

 ミカエルが星魅の巫女を見る。

 

「これまでは、それだけでした」

 

「…………」

 

「貴女様がそこまで興味を示すまでは」

 

 キリナが嫌そうな顔をした。

 

「ミカエル」

 

「何です」

 

「興味持たないでください」

 

「無茶を言いますね」

 

「絶対ろくなことになりません」

 

「私はまだ何もしていませんが」

 

「これからしそうだから言ってるんです!」

 

「未来予知ですか」

 

「そういう意味じゃありません!」

 

「なら言い掛かりでしょう」

 

「もう!!」

 

 星魅の巫女が。

 

 楽しそうに二人を見る。

 

「だったら、会えばいいじゃない」

 

「…………」

 

「クイントに」

 

「勝手なことを言わないでください」

 

「でも、本人がいないと話が進まないでしょう?」

 

 そこで。

 

 ミカエルが僅かに考えた。

 

「……それについては同意します」

 

「ミカエル!」

 

「勘違いしないように」

 

「…………」

 

「私はクイントをこの方へ渡せと言っているのではありません」

 

 ミカエルは。

 

 ミリィを見る。

 

 アイザック王を見る。

 

 そして最後に。

 

 星魅の巫女へ視線を戻した。

 

「エルサイア王国を再建する」

 

「…………」

 

「メリッサ・エルサイアを王にする」

 

「…………」

 

「そのどちらも、本人がいない場所で勝手に決めていい問題ではない」

 

 ミカエルの声は。

 

 静かだった。

 

「メリッサとして生きるのか」

 

「…………」

 

「エルサイア王になるのか」

 

「…………」

 

「それとも――」

 

 一拍置く。

 

「クイントとして、今の家族と生きるのか」

 

 ミリィが。

 

 ゆっくりと顔を上げた。

 

「本人に選ばせればいいでしょう」

 

「……もっともだ」

 

 アイザック王が頷く。

 

「我々だけで決定するには、あまりにも重大な問題だ」

 

「陛下」

 

「ギルバート」

 

「はいよ」

 

「ギル・ウィリアムズへ連絡を」

 

「……了解」

 

 ギルバートが通信機を操作する。

 

 希望の協会管理地。

 

 南の森。

 

 位置情報を検索する。

 

「いた」

 

 ギル・ウィリアムズ。

 

 そして。

 

 そのすぐ近くに。

 

 クイント。

 

「秘匿通信を開く」

 

 ギルバートが回線を接続する。

 

 その様子を。

 

 ミカエルは黙って見ていた。

 

 クイント。

 

 存在そのものは知っていた。

 

 メリッサ・エルサイアであることも知っていた。

 

 しかし。

 

 それだけだった。

 

 今までは。

 

 ミカエルは。

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 隣に立つ星魅の巫女を見る。

 

 彼女が。

 

 わざわざ神精霊を蘇らせ。

 

 一つの国を再建してまで。

 

 手に入れようとしている少女。

 

 それが。

 

 どのような存在なのか。

 

 ほんの僅かに。

 

 興味を持った。

 

『ラウル王国親衛隊隊長、ギルバート・アタンチェルトだ』

 

 通信が繋がる。

 

『久しぶりだなァ、聖騎士ギル・ウィリアムズ』

 

 そして。

 

 五年間守られてきたクイントの日常が。

 

 静かに。

 

 動き始めた。




うおおやっとここまで出来た
AI様々すぎる。
お気に入り、感想まってます。

登場人物紹介

登場人物が増えてきたので、一度まとめます。
※基本的に現時点で本編に出ている情報のみです。

◆クイント

本作の主要人物。10歳の金髪の少女。
五年前、滅亡したエルサイア王国で瀕死の状態だったところをギルに保護された。

その正体は、エルサイア王国第一王女メリッサ・エルサイアと同一の存在。ただし現在は「メリッサ」とは異なる人格・容姿を持ち、ギルから与えられた「クイント」という名前で生活している。

明るくフレンドリーで、かなり調子に乗りやすい。魔法の才能も高いが、強い魔法を無駄撃ちしてギルに怒られることもしばしば。

ギルとエマを両親として慕い、コウヤとは姉弟同然に育った。

本人が平和に暮らしている間に、なんか神々から目を付けられ始めている。かわいそう。

◆ギル・ウィリアムズ

元エルサイア王国聖騎士。クイントの養父。

五年前のエルサイア王国崩壊時、暴走したタタン王を自らの手で討った人物。その後、瀕死だったクイントを保護し、家族と共にラウル王国へ移住した。

現在はギルド『希望の協会』に所属。

非常に高い戦闘能力を持ち、精神操作に対しても強い耐性を持つ。

クイントには戦闘技術をかなり厳しく教えているものの、完全に娘として大切にしている。

最近、娘を神とか巫女とか滅びた祖国とかが狙い始めた。胃が痛い。

◆エマ

ギルの妻。クイントの養母。

ギルと共に希望の協会で生活しており、クイントを実の娘同然に育てている。

穏やかで家庭的な女性で、希望の協会の家庭部分を支えている存在。

息子のコウヤとクイントを分け隔てなく育てており、クイントにとって現在の日常を象徴する人物でもある。

◆コウヤ

ギルとエマの実子。10歳。黒髪のエルフの少年。

クイントとは血こそ繋がっていないものの、姉弟同然。

聖騎士である父に憧れており、本人も聖騎士を目指している。

錬金術の才能が非常に高く、10歳としてはかなり優秀。

ただし広重に勝負を挑んでは秒でボコボコにされている。

それでも懲りない。

◆キリナ・アイテール

ギルド『希望の協会』に所属する女性。

予知能力を持ち、『青の雨』を始めとする災害の予知を担当している。

かつてワールドイーターとの戦闘によって大部分の力を失い、現在は歩行も困難なため車椅子で生活している。

「アイテール」は彼女に紐付けられている神名。

クイントとは友人のような関係で、クイント本人からは「キリナ」と呼ばれている。

天族側にも深い関係があるようだが……?

◆ミカエル

天族の一人。

デメテルの第一側近であり、本来はエマへ直接干渉するのではなく、傍観者として世界を見守る立場にある。

キリナやアルテミスとも以前から面識がある。

基本的には冷静で皮肉屋。かなり口が悪い。

クイント=メリッサであること自体は以前から把握していたが、それほど強い関心は持っていなかった。

ところが、星魅の巫女がわざわざミリィを蘇生させてまでクイントを求め始めたことで、

「……そこまでして欲しがる少女とは何者なのか」

と、ちょっと興味を持ってしまった。

たぶんそれが良くない。

◆星魅の巫女

惑星ルゥに住まう謎の女性。

PNTウイルスを操り、『青の雨』を引き起こすことができる。

エウ・ルミナス王国の兵器『アルテマ』『デルタ』を利用してラウル王国への襲撃を引き起こした張本人。

さらに五年前に消滅したはずの神精霊ミリィを蘇生させ、

「エルサイア王国を再建する」

と言い出した。

そのうえ、

「クイントが欲しい」

とも言い出した。

何がしたいんだお前。

◆ミリィ

エルサイア王国の神精霊。

エルサイア王を選定する存在であり、かつてメリッサを次代の王として選ぼうとしていた。

五年前、エルサイア王国崩壊と共に消滅。

……したはずだった。

SH.2010年、星魅の巫女によってまさかの復活。

クイント=メリッサであることを知る重要人物。

◆ジン

ラウル王国の神精霊。

口が悪く態度も大きいが、ミリィとは長い付き合いがある。

五年前のエルサイア王国崩壊にも立ち会っており、ミリィの最期の言葉を聞いた人物。

当然ながら、五年後に本人が突然蘇ってきて大混乱している。

◆アイザック・ラウル

ラウル王国国王。

五年前のエルサイア王国との戦争を経験した人物。

現在はエルサイア崩壊後の国際情勢を背負いつつ、各国との同盟関係を維持している。

ある日いつものように会議を開いていたら、星魅の巫女が突然やってきて、

「滅んだ隣国復活させるわ」

と言われた。

王様も大変。

◆ギルバート・アタンチェルト

ラウル王国親衛隊隊長。

五年前のエルサイア王国崩壊時、ギルや神精霊達と共に戦った人物。

現在はアイザック王の側近として活動している。

軽い口調とは裏腹に判断はかなり現実的。

五年ぶりにギルへ連絡した内容が、

「お前の娘を王宮へ連れてこい」

だった。

ギルからすれば迷惑極まりない。

◆後藤広重

日本出身の青年。20歳。

幼少期の多くをラウル王国で過ごしており、希望の協会の面々とも古くから交流がある。

若くして大佐を務めるかなりの実力者。

コウヤからめちゃくちゃ懐かれており、帰ってくるたびに勝負を挑まれている。

そして容赦なく倒す。

◆ティオ

銀髪のエルフの青年。20歳。

広重の幼馴染であり契約者。

現在は団長を務めている。

広重とは幼少期から付き合いがあり、二人揃って日本とラウル王国を行き来している。

広重よりはたぶん子供に優しい。

◆アルテミス

天族の一人。

エウ・ルミナス王国とも深い関係を持つ人物。

エマへ干渉しようとした際、ワールドイーターと戦闘になり、現在は行方不明。

死亡・消滅は確認されていないものの、ノヴァからも存在を観測できなくなっている。

ゼウスやロキ達が捜索中。

本人がいない隙に自分と関係する国の兵器を星魅の巫女に勝手に使われた。

踏んだり蹴ったりである。

超ざっくり勢力関係

希望の協会
クイント/ギル/エマ/コウヤ/キリナ
→ 今のところクイントの「家」。

ラウル王国
アイザック/ジン/ギルバート
→ 五年前にエルサイアと戦争した国。現在クイントを王宮へ召集中。

旧エルサイア王国
クイント(メリッサ)/ミリィ
→ 五年前に滅亡。星魅の巫女が突然「復活させる」と言い出した。

天族
ミカエル/アルテミスほか
→ 本来はエマを管理・観測する側。現在アルテミス行方不明。

星魅の巫女
→ 青の雨。PNTウイルス。ミリィ蘇生。
→ 「クイントが欲しい」←今ここ。
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