「やりま、やりたくなりますねぇ!」未来の闇の帝王?うるせぇ!ホモビ見ろ!! 作:未完成な人
入学してから数ヶ月が経過してトム・リドルは例のアレのせいで失った自尊心を取り戻しつつあった。自前の優秀な頭と魔法の才能のおかげで授業内で寮への加点は朝飯前。その度に他の寮生からは惜しみない称賛の拍手がおくられる。
更に自身の優秀さにあやかろうと自ら近づいて話しかけてくる奴も後を絶たない。あの孤児院での地獄を考えれば素晴らしき日々だろう。
…ただ一点を除けば。
ホヨ・モノリー、名前を呼ぶのも忌々しく腹立たしいので例のアレと心の中では呼称しているアイツだ。認めたくない、本当に認めたくないが、アイツに魔法の才能があるというのは本当らしい。あのダンブルドアがボケ始めていて目が曇っていたから入学出来たという僕の仮説は正しくなかったということだ。残念なことに。
こと変身術においてはこのトム・リドルよりも優秀であることも許せない。何故あの意味不明な言動をしながら変身術と言う繊細かつミスが許されない呪文を行使できるというのだ。本当に訳がわからない。
ほかの教科でも指十本で数えれる程には出来るらしい。まあ、答弁式でやらされればぶっちぎりで最下位なのは間違いないが。
何より腹立たしいのがアイツが僕と同じ誇り高きスリザリンであり事魔法においては優秀と呼ばれる能力を持っていることだ。
「魔法使いというくくりで考えてはダメだ…トム・リドル…!」
鏡の前で自分に問いかけながら落ち着ける。胃痛、頭痛、吐気、この体調不良の原因はすべてアイツがいるからだ。
あぁ、本当に頭がおかしくなりそうだ。アイツは言動のせいで誤魔化されているが僕と同じ優秀な魔法使いに分類されるはずだ…!奴と同じなど反吐が出る。
…なってみせる。…なってみせるぞ、奴とは比べられないほど高位な魔法使いに。そうすれば奴を消す方法を見えてくるというものだ。
……そう決意を新たにして鏡から離れた瞬間、洗面所のドアが勢いよく開いた。
「冷えてるか~?」
「……ッ!!」
リドルの心臓が跳ね上がった。鏡に映った自分の顔が、一瞬で死人のように青ざめる。
なぜスリザリン寮から離れた階の廊下の洗面所にまで現れる。どうやってここを突き止めた。
「お前……ここは男子の領域だぞ。早く出ていけ」
「男だゾ(便乗)」
「貴様は女だろうが!」
ホヨはなぜか誇らしげに胸を張り、短く詠唱をすると手にした杖をひと振リした。
すると、彼女の着ていたスリザリンの制服が一瞬でフワリと姿を変え、トムが着ているのと見分けがつかないほど精巧な男子生徒用ローブへと変身を遂げた。
「(これで男子トイレに)入って、どうぞ」
「変身術の無駄使いをするな!! 高難易度の変身術をそんな下らない用途に使うな!!」
リドルは思わず大声を上げた。
そう、これだ。これが一番腹が立つのだ。
リドルが授業で何度も教科書を読み込み、魔力の波長を完璧にコントロールしてようやく成功させる高度な変身術を、こいつは「男子トイレに不法侵入するため」だけに感覚でやってのける。
「あぁ~いいっすね~」
「良くない!! だいたい変身させたところで中身は女だろうが! 早く自分の部屋へ戻れ!」
「(涙)で、出ますよ…」
「泣くな! 泣けば済むと思うなよ!いつも同じセリフばかり言いやがって…!」
ホヨは「クゥーン…おかのした」と呟くと、手にした杖を今度は自分の顔面に向けて一振りした。
次の瞬間、ホヨの顔がぐにゃりと歪み――なんと、完璧にトム・リドルと同じ顔に変身した。
「……は?」
リドルは絶句した。
人体変身。それも他人の姿へと完璧に模倣する変身術は、N.E.W.T.レベル、つまり7年生でも限られた天才しか扱えない超高難度の高等魔法だ。ポリジュース薬すら使わずに、杖一筋でそれを行うなど、やはり常識ではあり得ない。
鏡のように自分と全く同じ顔になったホヨが、リドルの顔でニタニタと笑いながら言い放った。
「見ろよ見ろよ。お前(俺)じゃい!」
「やめろぉぉぉぉぉぉッ!!」
リドルはついに理性を失って叫んだ。
自分の美貌と誇り高い顔立ちが、語録を吐き捨てる汚物によってリアルタイムで汚されていく。これ以上の屈辱がこの世にあるだろうか。いや、ない。
「元に戻せ! 今すぐ元に戻せ!!」
「ん。おかのした」
ホヨがパチンと指を鳴らすと、顔は元に戻った。
しかし、リドルの精神的ダメージは計り知れなかった。目の前で自分の尊厳が粉々に砕かれたのだ。
(だめだ……こいつは野放しにしておけない……! 変身術の天才? 違う、こいつは魔法界の法則そのものをバグらせる悪魔だ……!)
リドルは震える手で杖を抜き、人生で初めて、純粋な○意ではなく**「防衛本能」**から呪文を唱えようとした。
「……『スピュ――』」
「ぬあああああん疲れたもおおおおおん!」
リドルが呪文を放つ直前、ホヨは豪快なあくびを一つかますと、リドルの脇をすり抜けて廊下へと歩き出した。
「じゃけん、寝ますね~」
ひらひらと手を振りながら、男子寮の廊下を平然と去っていくホヨ。
残されたトム・リドルは、杖を掲げた姿勢のまま凍りついていた。
許されざる呪文すら打ち消す、圧倒的なマイペースと圧倒的な脱力感。
リドルは静かに杖を下げ、力なく洗面所の壁に背中を預けた。
そのままずりずりと床に座り込み、頭を抱える。
(勝てない……僕の魔法がどうとか、闇の術がどうとか、そういう次元じゃない……)
優秀になれば消す方法が見えると思っていた。
しかし現実には、自分が成長すればするほど、**「こいつがどれだけあり得ない規格外の怪物か」**を正確に理解できてしまうだけだったのだ。
「……誰か……僕を助けてくれ……」
未来の闇の帝王とは思えない小さな呟きは、深夜のスリザリン地下牢に虚しく響き渡った。
そして翌朝、例のアレがスリザリンのテーブルで「冷えてるか~?」とリドルの顔で語録を話し始める未来を、彼はまだ知らない。