「やりま、やりたくなりますねぇ!」未来の闇の帝王?うるせぇ!ホモビ見ろ!! 作:未完成な人
「やりま……やりたくなりますね。」
「惜しい! 惜しいけど『ますね』のアクセントが怪しいのよホヨ!」
新学期が始まって数週間。秋の気配が深まるホグワーツの空き教室で、ミリセント・ヴァンスは羊皮紙のロールを叩きつけながら頭を抱えていた。
2年生に進級したことで、生徒たちの間では将来の進路や社交界についての話題がちらほらと出始めるようになっていた。面倒見の良すぎるミリセントは、夏休みが開けた瞬間からある危機感を募らせていたのだ。このままホヨが「おかのした」と「サーッ!」だけで高学年になれば、就職どころか社会的に抹殺されるのではないか、と。
そうして始まったのが、この『ホヨ・モノリーお話し方矯正レッスン』であった。
「いい? ホヨ。まずは日常の挨拶と、目上の人や友達に対する『正しい丁寧語』を覚えるの。『やってみたいです』って素直に言えばいいのよ。もう一度!」
「やりま……やりたくなりますね。」
「だから何で一回『やりま』で溜めてから言い直すのよ! 丁寧なんだか煽ってるんだか分からないでしょ!」
「(涙)で、出ますよ…」
「出さない! 泣かない! 次! お礼の言葉! 『ありがとうございます』は?」
「ありがとナ……うございます…。」
「なんで『ナ』で一回区切るのよ! 『ありがとナ』って何!? 途中でヤンキーが混ざってきてるじゃないの!」
ミリセントの絶叫が防音の施されていない空き教室に響き渡る。
当のホヨはといえば、脳内に染み付いた前世の「語録」という名の悪霊と、ミリセントの熱心な指導の狭間で必死に格闘していた。語録を力ずくで隠そうとした結果、出力される言葉がすべて「絶妙に不快で慇懃無礼な謎の敬語」へと変貌を遂げていたのだ。
「おっKMR!見ろよ。見ろよ。」
「その『KMR』も禁止! なに? その謎のアルファベットは! トム・リドルはトムでしょ!」
「……何が『トム』なのかな?」
背後から刺すような冷気を含んだ声が聞こえ、ミリセントとホヨは同時に振り返った。
教室の入り口に立っていたのは、トム・リドルだった。
2年生になり、その容姿と魔法の才能に磨きがかかった黒髪の美少年は、完璧に計算された「優等生の笑み」を浮かべながら、ゆっくりと教室の中に足を踏み入れてきた。
トムは心の中で誓っていたのだ。2年生になった自分は、去年よりも大人だ。あの同室の汚物(ホヨ)がどれだけ奇怪な言動をとろうとも、一切の関わりを断ち、完全に無視して完璧なホグワーツ生活を送るのだと。
……しかし、通りがかった空き教室から聞こえてきた「やりたくなりますね」「ありがとナ…うございます…」という、あまりにも神経を逆撫でする新手の謎言語を無視することは、彼の高すぎる自尊心と探求心が許さなかった。
「ふたりで何をしているんだい? ヴァンス」
トムは穏やかな声で問いかける。その瞳の奥には、ホヨに対する底なしの殺意が揺らめいていた。
ミリセントは気まずそうに咳払いをした。
「あ、ええと……ちょっとホヨの言葉遣いを直す練習をしてたのよ。ほら、ホヨ。トムにもちゃんとお礼を言いなさい。この前、変身術の授業で落とした教科書を拾ってくれたでしょ?」
ホヨはトムを見上げ、ミリセントに教わった成果を見せつけるべく、精一杯の敬意を込めて口を開いた。
「ありがとナ……うございます…。」
「……」
トムの額に、ピキッと青い筋が浮かび上がった。
(……なんだ? なんだ今の言葉は……!?)
トムの明晰な頭脳が猛スピードで回転を始める。
「ありがとう」と言いたいのか? しかしなぜ途中に「ナ」という謎の音が挟まる? そしてなぜ語尾が消え入りそうな自信なさげな敬語になる?
(煽っているのか……? 僕が教科書を拾ってやったのに、上から目線で馬鹿にしているのか……!?)
「見たけりゃ見せてやるよ。ホラ、見ろよ見ろよ。」
ホヨが嬉しそうに、ミリセントに赤ペンでびっしり添削された「正しい敬語リスト」の羊皮紙をトムの顔前に突き出す。
「やりま……やりたくなりますね。」
「……っ!!」
トムは必死で顔の筋肉を制御し、貼り付けた笑顔を維持した。だが、両手は教科書を破らんばかりの力で握りしめられていた。
去年までのストレートな暴言や奇声(おかのした、サーッ!)の方が、まだ「狂人の戯言」として処理できた。
だが、今のこれは違う。語録を隠そうとして醸し出されるこの「不快極まりない慇懃無礼さ」は、トムの誇り高き精神をダイレクトに削り取っていく。
(許せない……! 僕を……この僕を、こんな妙な敬語で小馬鹿にするなど……!)
「……ふふ、とても楽しそうな練習だね。成果が出るといいけれど」
トムは低く滑らかな声でそう言い残すと、優雅な動作でくるりと背を向け、早足で教室を立ち去った。廊下に出た瞬間、彼の完璧な優等生の仮面は剥がれ落ち、殺気立った表情で壁を睨みつけた。
(あの女も余計な真似を……! 変に教え込むから、あの汚物がより一層タチの悪い精神汚染兵器に進化しているじゃないか……!)
トム・リドルは深呼吸をし、乱れた胸襟を整えた。
2年生の初日。平穏な学園生活を送るという彼の誓いは、開始数週間にして脆くも崩れ去った。
(覚えていろ……ホヨ・モノリー……。その腐った口を二度と開けないようにする魔法を、今年こそ絶対に見つけ出してやる……!)
未来の闇の帝王は、静かな殺意と激しい胃痛を抱えながら、ひとりようやく教師から引き出した閲覧許可証を持ち、図書室の禁書区へと足を向けるのだった。
なんかもう少し書けそうなので短編から連載に変更しました。