ステーキを食べ終わり、ズズズズとまたもや(勝手に)奢って貰ったオレンジジュースを飲みながらパパ黒のことを見る。
そういやパパ黒死ぬキャラだっけ、と買い忘れたものを思い出す感覚で心の中で唱えてみた。
しかし唱えてみただけで、実際は思考を止めてしまうくらいショックだったりする。
再度パパ黒を見れば長くすらっとした足を組みながら暇そうに携帯を弄っていた。
あまり見すぎると「なんだ。"大人"が気になるのか?」とからかわれるので、ここまでとしよう。
ステーキを奢って貰った分は働かないと。
ポッケからステッキ型のセーラー●ーンペンを出してみた。
パパ黒は私のペンを一瞬見ただけに終わったかと思えば、また視線を寄越して2つ折り携帯をパチンと軽い音を立てて閉じた。
まじまじと見てくるパパ黒は新鮮である。
「なんだそのちっこいステッキは」
「おしおきグッズ」
「拷問でもすんのか?」
「とーじ兄さん、こわーい」
幼稚園児が拷問なんてする訳ないでしょーが。
ツッコミを入れると「それもそうか」と普通に納得しているパパ黒にハハッと半笑いになる。
失礼だが、幼稚園児に対する知識も天与呪縛に持ってかれたのかな??
それより私は作業をしなければ。
ボーイを呼んでちょっと質の良い紙を貰うと、ペンをぎゅっと持ち、ドス黒いオーラを指先からペン先までゆっくりと垂れ流す。
ジワジワと真っ黒なオーラが飲み込んでいく姿は見える者からしたらおぞましいモノ以外何者でもない。
自然と私とパパ黒の間にピリピリと肌の痛い緊張感が漂い始めた。
神字というのをご存知だろうか。
ハンターハンターの世界にある技の1つで、これまた不思議なことに念能力者だけに限らず万人に扱えるものである。
大がかりな道具を用いて時間を掛けて字を書くと比較的ノーリスクで書き込んだプログラム通りに恩恵を受けることが出来る。
ただし出来る範囲の大小は私はまだ分かっていない。
こんな話をしたのだから神字を書くんだろう?
と思われるが、その必要は無い。
私はもう片方の手を使って紙を隠し、何かを書いたフリをした。
私は今この場で作った事実が欲しいだけ。
というのも、既に完成した文字板を入れたお守りを所持しているからである。"1度も発動していない"ソレは、今日までパパ黒に渡す予定は無かった。
しかし、今チャンスを逃せばいつ会えるか分からない。
スラスラと書いたフリをし終わると、それを1回1回丁寧に、小さくなるまで折り畳んで四角くした。
ついでに『お守り』を取り出して、小さな四角になってしまった紙を中に入れ、最後にまたドス黒いオーラを染み込ませる。
そして不思議そうに見ていたパパ黒に渡した。
「何だ」
「お守り。肌身離さず。効果は、」
言わなくても分かってそうだ。顔色がさっきとは180度入れ替わって目が本気だ。
そしてもっと聞いて欲しいのが、あのお守りは何も1つだけじゃない。「あとこれも」と、もう一つお守りを胸元のポッケから取り出して渡しておく。
「......安産?」
「このお守りは私の考えた最強アイテムです」
「必要ねぇ」
「もし、とーじ兄さん自身が持っていなかったら呪いに変わります」
「……」
素直に持つことにしたらしい。
苦虫を噛み潰したような顔でパパ黒は口を開けて先程の豆粒くらいの芋虫呪霊を取り出すと、徐々に大きくさせてマフラーのように肩に載せた。
今度は芋虫呪霊がパパ黒の肩で、顎が無いのかってくらい大きく口を開けるとお守りを放り込む。
その様子を眺めていると「見えないんじゃなかったのか?」とニヤニヤして言われた。
「パパ黒を見てました」と言うと「惚れたか?」と聞かれたので「既に(前前世から)惚れてますよ」と告げた。
そうしたらパパ黒は色が抜け落ちたみたいに真顔になってしまった。
なんでやねん。
そこで、ピリリリリ!!とパパ黒の手元からデフォルトの着信音が鳴り響く。
パパ黒は電話番号も見ずに携帯を私の方に投げやりに渡してきた。
見なかった理由が分かったのは、私がその電話番号を見たあとである。
両親から電話だった。
携帯を開いて通話ボタンを押せば、私の名前が開口一番に耳に爆音で来る。
『仁志!!!』
言わずもがな父だった。
やっと抜け出せた!! と嬉しそうに話す父に「警察を裏で動かして父を止めてた犯人知ってる? いま目の前にいるんだよ!」とは言えないので、黙って父の言葉を耳に流し続けた。
場所を聞かれたので、言う前にパパ黒のことを見れば静かに頷かれる。
ここの店の名前を素直に言った。
数分の間、パパ黒の前で電話を続けた。
流石に人の携帯なので、そろそろ……と父にストップをかける。
『待っててね』という言葉を最後に通話を切った。
パパ黒は腕を組んで待っていた。
携帯はいつの間にか取られていた。
「筒井仁志と言ったな......」
そこで言葉を区切るパパ黒。
何も言わないんかい。そう心の中で突っ込んでみた。
じっとお互い眺める。
パパ黒の場合は、ジロジロと見定めるようや嫌な目だったけど。
そんなパパ黒は腕を伸ばしてきて______ポン、と頭に手を載せてきた。
「……え」
「意外と小せぇな」
載せたままの手はすりすりと右へ行ったり、左へ行ったり。
つまり撫でられていた。
あまりのパパ黒らしくない行動に驚いていると、何やらこの部屋の外が騒がしくなってくる。
パパ黒が何かを言いかけていたとき、バン!!とドアが勢いよく開かれた。頭の上の温もりは消えていた。
親が到着したと同時にパパ黒の姿も忽然と消えていた。
「仁志!!!!」
飛びついて来た両親は私を包み込んだ。
その両親の後ろには涙ぐんでいるボーイの姿が。
「仁志、帰ろう」
「うん」
「仁志、おかえり」
「うん」
ひとつひとつ確かめるようにして安否確認をされている合間、私にはどうしても、あの人がもう少し居れば良かったのにとしか考えられなかった。
これは後で気づいたことだが、会計は終わっていたらしい。
店を出る時、払いますと高い金額を覚悟した父を驚かせる結果だった。勿論払ってくれた犯人を私は知っている。
父は私に聞いてきたが、私が知らないと言うとそこまで問い質しはしなかった。
それにしても、プロのヒモってことを忘れそうになるパパ黒だったな。
おっと間違えた。
現在進行形ヒモのとーじ兄さんである。
あのお守りの中にある願いが、どうか届きますように。
誰か、ポッケにスペシャルスーパーレアな、とーじ兄さんの携帯番号が入ってたのを説明して!?!?!?!!!
使われる筈が無いと高をくくってたら、意外にも飲食店に連れて行かれるハメになるとはこのとき考えもしなかった。時にはヒモ男の為に子役になりきったり、呪霊狩りという名のストレス発散に付き合わされたり、…………意味不明にも撫でられたり。
そしてそれが原因で呪術界に目を付けられたことは______ご本人様から堂々と教えて頂きました。
「幸いにも奴らには"使える"ってだけしかバレてねぇ」
「ほうほう」
「仁志」
「……」
「絶対にバレるなよ」
念を押されて、強制的に頷かされる。
パパ黒の目は本気だった。
「ちなみにとーじ兄さんは」
「今まで通りに決まってんだろ」
「ですよねー」
筒井仁志、これからも悪用されるようです。