胸に桜のシールが付いた名札を付け、頭に黄色の帽子を被ると両親は歓喜のあまり泣いた。さらにランドセルを背負うと両親は真顔で「かわいい。かわいい」と、かわいいしか言わなくなった______のが3ヶ月前。
どうも、壱こと改めまして仁志です。
筒井仁志という女の子として爆誕したのち、赤子の内に念能力を再確認的な感じで極めました。
そして幼稚園児の時はパパ黒と遭遇し、いかにまだ弱いかを悟ったので呪力の捻出を頑張りました。が、やっぱり把握出来るものの使えない。なので毎日欠かさず体力作りをしてます。
……というのは建前の言葉ね。
普通の小学生を演じられなくなってきた。いやさ、パパ黒の前はいいんだよ。パパ黒の前では。でも他の人となると違うのよ。
だから、宗教っぽい所に誘拐されては1時間後には警察署でアイス食べてたり、その攫った主犯格はパパ黒が愉快な顔をしてどこかへ連れて行ったり、その話が誰からか洩れて小学校の女子からセコム扱いされてるのも普通じゃない。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに。
勉強に関して満点を沢山取らないとか妥協しなかったから?
いやだって、満点取りすぎるとカンニングを疑われるっていうシチュエーションは先生からの好感度をMAXにしたので来ないんだもん。
あざとい小学生? いえいえちょっと中身が大人なだけです。普通はもう諦めることにした。そもそも普通になりたいって考えてる時点で普通じゃなかった。
うっ......、前世のことを思い出すとあの嫌な思い出も蘇る。あれで初キス奪われた訳だが、一回死んだからカウントは無効化じゃい。
閑話休題。
本日は______絶望的状況でございます。
夏休みなのになぁ、と現実逃避していてもビリビリと脳に直接伝わってくる危険な雰囲気。
前世で私と因縁のあるヤツがそこに居た。
「何故一度死んだ人間が生きている? それに何だその姿は」
傲岸不遜な態度で骨の上に座る、腕が4つも生えた男。水浸しで、動物や人間の骨だらけのこの場所は原作で見た事のある場所だった。
あれれー、おかしいぞー。さっきまでベッドの上で推しの真似して目隠ししながら寝てたのになぁー。「むりょーくーしょ!!」ってやってたのを父親から微笑ましく見られてた筈なのになぁー。
私の視線が低いことで自分の状況に嫌でも気づいてしまう。ヤツの発言からして未だ小学生であることを、ここまで絶望したのは某名探偵よりも酷いかもしれない。
水に晒された足から冷たい感触があるけれど、まだ夢だと思いたい自分が存在する。ならばと考えたのは本人に聞くこと。
もしや、もしやですよ……?
「すく、な……さん。いや、様?くん?……ちゃん?」
「どうやらオマエは余程馬鹿なようだ」
そう言って指をヒョイっと縦に振ると、ブツン!と右横で嫌な音がした。見れば小さな腕が水浸しの床の上に落ちていて……。途端に軽くなった右に平衡感覚が狂い、転びそうになるのを右足で抑える。
「っ……!」
叫び出したい声を喉に押し殺して、見下ろしてくる男を睨んだ。いや確かに自分も馬鹿な質問したと思ったよ!! 様呼びしとけば良かった。
なぜこうも不運が重なる? 恩人達を殺した人なんて見たくないのに。
「聞きたいことがある。そのあとにジワジワと痛みを載せていこうではないか」
愉快そうに伝えられた言葉は残酷で最悪だった。それなら一度に来た方がマシだ。
人間は切られた直後は痛みを感じない。エンドルフィンという脳内麻薬が作用して数分は痛みを感じないようにしているからだ。
だから刺されたとき切られたときは、友人談だが「あ、なんか当たった」ぐらいに感じるだけで少しの間は無痛である。前回の戦いではバリバリ痛みを感じてましたけど!?!? というか前回スピード早すぎなんだよ!!このハイスペ特級め!!
この男は徐々に痛みを載せていくと言った。少し経ってから悶え苦しむような激痛に上乗せをすると言っているのだ。それがどれだけ怖いことなのかを想像してしまい、足がガクガクと震え始める。うわ、嬉しそうな顔で見てきてるよあの人。
「何を、お聞きになられたいんですか?」
「……」
段々と痛み出す右を頑張って無視し、笑顔で聞いてみたら問答無用で私の横に風が吹いた。ビシャァ!!と水が割られて道が出来る。モーセかよ!! 何も切られてないけど、何も切られてないけどォ!! 切られてないからいいけどさぁ!! 今かなり下手に出てましたよね!?
「ケヒッ、オマエのアホ面が見たくなってな」
「理不尽!!」
「戯言に付き合う気は無い。俺の問いに対する答えだけを聴いてやろう」
勝手に始まった会話にスンッと私の表情が無くなった気がする。そっちが始めたことでは?? なんだか五条さん居ないけど情報処理出来ないっす。両面宿儺風の無量空処でしょうか。そんなの嫌だ。
「一体、オマエは何の縛りを施した? 受肉も何もなしに領域に入るとは正気の沙汰では無いぞ」
その言葉に驚いたのは言うまでもなく私だった。え? 受肉無しの両面宿儺の生得領域内に入ってたってこと? 生得領域って確か原作では心の中みたいなもの、って目の前の男自身が序盤で話していたはず。何故に両面宿儺と私の心がリンクしたのだろう。今は考えても全く分からないのでパス。
にしても受肉無しってことはまだ悠仁くんは来てない? まあそれもそうか。80年代に主人公居ないもんね。
1人で納得しつつ、今度は縛りのことを考える。…………ダメだ。全くもって分からん。どっちも分からん。
恐らく知らないって言うと「あっそう」で殺されるんだと思うけど、あえて言わしてもらおう。
深く息を吸って、見上げる。
「知らない」
あー、言っちゃった。言っちゃったよ。
両面宿儺は冷たくも冴えた目で面白くないとでも言うかのように人差し指を突き出してくる。
「……ならば死ね」
最後に見たのは自分の首のない胴体だった。
なんという理不尽。
*
「あらあら、どうしたの?」
「りふじんな、きちくに、あった」
「仁志ちゃんどこでそんな言葉を!? 不審者が居たのね!?」
「う"ん"。しらないけど、あってくるの」
「ここら辺を拠点にしてるのね!? すぐに皆に知らせないと!!」
「仁志のことは皆で守るからね」
と、(寝起きで言った)両面宿儺のおかげで私の街の防御力がアップした。
*
その日、怖くなって両親にベタベタに甘えたその夜。
あれー、おかしいなぁ。
目の前が涙で、さも面白くなさそうな両面宿儺しか見えないや。
「……」
「……私だって来たくて来た訳じゃない。です」
「敬語を後付けするな。クソみたいな縛りをしおって」
いやマジで分からな、、
そこでピタリと止まってしまった私に両面宿儺は片眉を上げた。
「あ……」
「オマエは分かりやすい顔をする。思い出したことを言ってみろ」
「いや言えな」
「2度も言わせるな」
またもや顔の横に風が吹く。骨が砕ける音が聞こえてきた。
速すぎて何も見えなかったことに、前世では手加減されていたかもしれない可能性が見えてくる。
それにしても、
「超理不尽」
理不尽の極まり。
そんな両面宿儺に、いや本当に分からないですけど、と前置きを置く。
「私、死ぬ前にその……」
「モジモジするな。気色の悪い」
「ぐっ……死ぬ前に私言ったじゃないですか!!」
「何をだ?」
「手を、繋ぎたいと……」
だからモジモジする内容だって体が言ってたでしょうが。
……両面宿儺にまで真顔をされると気が滅入る。
気付いたことはただ1つ。恐らくこれは死者の念だ。
前回はオーラがドス黒くなっただけと思っていたが、そもそもの本質を忘れていた。
死者の念は怨念みたいなもの。
つまり私にとって最後の言葉が遺言となり、その遺言が推しに向けてのものだったのが、この理不尽男になってしまったのだろう。
結論を言うとめちゃくちゃややこしい。
私の遺言は『手を繋ぎたい』こと。
もしかしたら私とあの男の意識下がマッチングしたのはそのせいかもしれない。
それなら推しが良かった……。
いや待てよ? もし推しと一緒の夢だったら推しが寝れなくて迷惑をかけるのでは?
じゃあ両面宿儺でも……無理。
激痛なのは嫌だ。死ぬのも嫌だ。
後半はお口チャックして、死者の念だけを両面宿儺に分かりやすく、ていねーーいに伝えた。念を知らない人でも分かるように教えた。
「という訳かと」
「つまりオマエの自作自爆という訳か」
「新しいワード作っちゃってる……。そういう訳です」
「鏖殺」
「なんで!?!?」
拝啓、お母様、お父様、そしてパパ黒。
『そこに人が居たから』という理由で殺す人間がどこに居ると思いますか。
ここです。
両面宿儺は登山者にでもなりなよ。