5話
はいはい呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!
という感じで母から飛び出た訳でもなく、目が覚めたら赤ちゃん用のガラガラが天井に付いてるのが見えました。
うわぁ~、ガラガラだぁ!!
なんて現実逃避をしていたら、どたどたと慌ただしい足音が迫り込んでくる。するとドアから見知らぬ男女が興奮しながら入ってきた。
そして私に近づいてくると脇に手を入れてきて、私の視界がぐぐんと上に上昇した。いわゆる大人の高さという奴で、自然と自分の身長も状態も知ってしまった訳で。
若返りにも程がある。
目がかっぴいていたので命の危機を感じた私は、咄嗟にも、念がある訳じゃないのに堅を使おうとして____あらま不思議使えるではありませんか。
あれれ~? 今度こそ本当にハンターハンターの世界に来ちゃった系? さらに言えばオーラの量が前世よりも若干増えているような。
それと同時に何かは知らないけどオーラ以外のむず痒いモノを身体の奥底に感じる。
しかしこの正体は雲を掴むように私にはピンと来なかった。
思考を現実に戻すと、男女はいきなりダイヤモンド並みに堅くなった赤ちゃんに驚いて固まってしまっていた。
慌てて解除して、もとの柔らかさに戻ると緩んだ表情を見せて私に再び抱きついてくる。
「パパだよ~」
「ママよ~」
男女は顔をぬっ!と近づけて冷たい肌をぴっとりと付けてきた。ゆっくりと頬っぺたをすりすりしてくるそれは見知らぬ人からすれば恐ろしい。
男女の台詞で私にとって彼彼女らがどんな存在なのかを悟った。
無償で与えてくれる愛情に戸惑いながらも、なるべく彼彼女ら……いや、両親に応えるようにした。
本来産まれるべき新しい生命を奪ってしまったとは考えない。
記憶があるだけで、私が産まれてきたことは変わらなかったかもしれないからだ。
それに何故生まれてきたかを延々に考えて親不孝をするよりはマシだろう。優しそうな人達の元に産まれてよかったけど嬉しさよりも羞恥心が勝つ。
今世の名前は『
前世にて、独り生きていく為に適当に付けた名前とは大違いだ。親が私の名前を呼ぶ度に、湯たんぽを当てられたみたいにポカポカと心が温まるのもそのおかげかもしれない。
と言ってもやっぱり頬っぺすりすりは嫌だけど。
ある日のことだ。
私は部屋の片隅で見てしまった。
黒光りの光沢を持ち、飛ばなさそうに見えてピョンピョン飛んでくるアレを。カサカサと高速で走ってきては私達人類の不快を煽るアレを。
「あいあー!!(呪霊居るんかーい!)」
どうやら前世に引き続き、今世も呪術廻戦のようです。あのむず痒い力の正体も薄々と気づいてしまいました。
*
最近気付いたことだが、呪霊の出現率が多い。
これに至っては恐らく......、私が一度死んでしまったことが起因していると思う。
説明すると、念能力に死者の念というのがあってだな。その名通り、死んだときに強い想いによって死後限定で他者に効果が出るというもの。
怨念と思ってくれた方が理解しやすいだろう。
ただし効力は徐々に薄れていくと原作にあった。
が、それはあくまで他人にかけた場合について。
つまり、自分が自分に死者の念を掛けてしまった場合は原作には無い。だからもしかしたら、その原作には無かったことが今実際に起きているのかもしれない。
試しに自分のオーラを少しだけ放出してみるとそのドス黒さが分かる。前世は湯気だったのが今では禍々しい黒煙にしか見えない。
問題は死者の念による弊害だ。
その前に、まずは呪力について話そう。
呪霊を呼び寄せてしまうのは非術師が多いという。そもそも呪力とは例外もいるけどほぼ誰もが持ち合わせているものだったりする。
だって負の感情が元だし。
そこで「あれ? 呪力はみんな有るモノとか言ってるけど呪霊見えてない人が沢山居るじゃん」と思っただろう。
それは呪力を操れないからだ。
操れない限りは呪霊は見えないし触れない。
つまり、延々に呪力が駄々漏れ状態である。
要するに、呪力が垂れ流しだと呪霊が『ウホッいい呪力!』と寄ってくる。
会社や学校に呪霊が多いのはその為だ。
操れない人間が負の感情を溜め込んで呪霊を呼び寄せているのである。
逆に、術師だと術式で放出したりして呪力をコントロール出きるので呪霊の発生を防げられるのだ。
ちなみにこのことは今さっき思い出した。テヘッ。
とりあえず私風に食べ物で表現するとしよう。
呪力を美味しい餌として、餌を自由に出し入れできるのが術師、餌を出しっぱにして食われるのが非術師となる。
そして私は『新しい力』____自分の呪力を認知出来ているが、まだ操れない為に餌を出しっぱにしてしまっている状態だ。認知を出来ているのに操れないとはこれ如何に?
しかも面倒くさいことに非力な赤子の姿なものだからナメて来る奴が多い多い。
ここで死者の念の話に戻るけど、死者の念は一般的に見て異質なものだ。
別世界のものだから異質に決まってんじゃんという意見は無しで聞いて欲しい。
死者の念はハンターハンターの中でも異質に分類される。ドス黒さで嫌でも分かってしまうくらい邪悪な存在なんだ。
てことでハイ。
美味しい邪悪な存在(食べ物)に、駄々漏れの呪力がトッピングされてたら_____呪霊はどう思うだろう。
わかるか、我々の業界だと『たまごかけご飯』だ。
チラッと窓の外を見る。ムンクの叫びみたいな呪霊がボサボサの黒髪を垂らしていた。
「ヒト......ヒト......クワセロ」
つまりあんな感じのが毎日大量に来るんですね。
キャー、棒読みで困っちゃ~う。
『呪い大量の赤ん坊』を食べて強くなろうとする奴がうじゃうじゃと居るのだ。
たまーに弱い呪霊の癖に頭を使ってくる奴がいるけど、そいつらは頭を使わせる前に倒すことにした。
今世の親を交渉材料にされたら堪ったもんじゃない。
前々世は天与呪縛で呪力が無い代わりに成長速度が早かったが、今回は呪力が存在している。
だからもし、今回も天与呪縛があるとすれば対価は呪力以外の何かだ。
身体能力に何らかの影響が出ているはずと言っても過言ではない。
だけど無いんだな、これが。
成長したら分かる事かもしれないけれど、今のところは何も起きていない。
成長速度は普通に戻ったと思う。
なので、念の扱いはもう一度するとして、呪力のコントロールも早めに行わないと。
ずっと天与呪縛のことを考えている訳にもいかないし。
それも赤ちゃんの今から特訓だ。
「あぅ......」
「どうした仁志!? パパが嫌だから、そんな連日勤務でくたびれた社会人みたいな顔をしているのか!?」
泣きそうな父親を慰めたく首を振ろうと思ったが、そういえば赤ちゃんだった。赤ちゃんは首を動かせないのは前前世にて予習済みである。
私のよだれ掛けにすがる父親に「違うんだ、分かってくれ」と目線を送れば父親はハッとした表情をみせた。
これは完全に誤解してそうな展開であった。
「仁志ぃぃぃぃぃ」
父よ、ステイステイ。
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