カズサ「へー、先生ってベース弾けるんだ」先生「昔ちょっとね」 作:MALUM
日が昇り、穏やかな風が肌を撫でる晴れた日の朝。最近の気温は穏やかで過ごしやすく、ここD.Uは休日を満喫する生徒たちで賑わっていた。可愛い服に目を輝かせる生徒や、甘いスイーツに舌鼓を打つ生徒、カフェで談笑する生徒など、普遍的な平和を感じるような美しい光景(皆銃を所持しています)。
そんな光景を眺めながら、一人の少女が、シャーレのビルへとやってきた。
彼女の名は早瀬ユウカ。ミレニアムサイエンススクールの二年生であり、生徒会的組織であるセミナーの会計である。
休日でも書類の山に追われ、苦しんでいるであろう先生を助けてあげよう(という建前)と思い、当番の日でもないのにやってきたのである。
「先生、いらっしゃいますかー?」
勝手に入っていっても良いのだが、マナーとして声をかける。しかし返事は返ってこず、ユウカは首をかしげる。
「おかしいわね。いつもならすぐに声が返ってくるのに」
そう言いながら慣れた様子で執務室まで足を運ぶ。
きっと昨日徹夜で仕事して寝落ちしてしまったんだろう。そう思って起こさないようにそっとドアを開けると、そこには誰も居なかった。
「あら?出かけてるのかしら。でも外出中の札はかかってなかったはず…」
そう言いながらオフィスを見渡すと、先生の机になにか貼られているのを見つけた。
「なにかしら、これ」
そう言って覗き込むと、そこには付箋が貼られており、『視聴覚室にいます』とだけ書かれてあった。
なにか視聴覚室を使わなければならないようなことがあるのだろうか。
疑問に思いながら視聴覚室の扉に手をかけた瞬間――。
「ヴォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!!イ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!!」
「ヒッ!何よこの音!?」
聞いたこともないような絶叫が耳を劈いた。
「それに金属どうしをこすったような音と、これは…銃声!?」
荒々しいギュワーンという音や、銃が乱射されているような音も聞こえてくる。
もしかしたら先生の身に何か合ったのかも知れない。そう思うと居ても経っても居られなくなり、愛銃を構えながら視聴覚室の扉を蹴り破った。
「先生!!何があっ――!!」
太陽が頂点に登り、少し暑さを感じる昼頃。ここD.Uは沢山の生徒たちで賑わっていた。ファミレスでご飯を食べながら談笑する生徒や、新しくできたラーメン屋に入っていく生徒、スマホでいいお店がないか探す生徒などで、普段よりも賑わっていた。
そんな光景を記憶しながら、一人の少女が、シャーレのビルへとやってきた。
彼女の名は生塩ノア。ミレニアムサイエンススクールの二年生であり、ユウカと同じくセミナーで書紀を務めている。
先生の仕事を助けるという建前でシャーレへと向かった親友を手伝う(という建前)ため、やってきたのである。
「先生、ユウカちゃん、いらっしゃいますか?」
そう言いながら執務室の扉を開けると、そこには誰もおらず、机の上に付箋で書き置きだけされていた。
「視聴覚室ですか…。視聴覚室を使うような予定は無かったはずですが、なにか急用でしょうか」
二週間程前に当番に来たときに先生のスケジュールは記憶している。今日は執務室で書類の整理をするだけだったはず。
そう思い返しながら視聴覚室の扉に手をかけ――
先生は後悔した。何故二度も同じ過ちを犯したのだと。
ユウカは後悔した。何故その場のテンションで盛り上がってしまったのかと。
ノアは驚愕した。何故なら先生とユウカちゃんの他に三人も大人の男性がいるし、その全員がノアの人生で見たことないような奇抜な格好をしていたからだ。
先生と見知らぬ三人の大人の男性たちは黒のライダースーツやスカジャンに北◯の拳みたいな服、なんなら上裸の人も居た。
ユウカもいつもの制服の黒いスーツの代わりにドクロが描かれたスカジャンを羽織っていた。
数秒の沈黙の後、ノアの一言。
「…私は何も見ていませんから………」
「「「「「待って待って待って!!!!」」」」」
「嫌です!待ちません!!」
「頼むから!話聞いてくれ!!」
「少しだけでも良いから!!」
「俺の話を聞けぇ!!」
”五分だけでも良い!!”
「嫌です!!皆さん今一度自分の格好を見てみてくださいよ!!」
男共、自分の格好を一瞥し一言。
「「「”最高にイカしてるな”」」」
「風邪ひいてるときに見る夢くらい頓珍漢ですよ!!!」
「まぁまぁ、ノア、落ち着いて…」
ユウカが宥めようとする。だがしかし!!今のノアには最早ユウカの言葉など届かない!!
「ユウカちゃんもユウカちゃんですよ!!親友の私が見たことないくらいはしゃいでたじゃないですか!!親友なのに!私親友なのに!!」
クールなお姉さんといった風貌の美少女が駄々を捏ねている。
高橋、加藤、田中は少し前屈みになった。先生は背筋が綺麗だった。
「そ、そんな事言われても、あんなはしゃぎ方したの初めてだし…」
「ユ゛ウ゛カ゛ち゛ゃ゛ん゛の゛は゛し゛め゛て゛う゛ば゛わ゛れ゛ち゛ゃ゛い゛ま゛し゛た゛ぁ゛!!」
「ちょ、ちょっとノア!?何言ってるの!?」
高橋、加藤、田中はポケットに手を突っ込んだ。先生は腕を組んでいた。
「ノア、落ち着いて?ね?」
「うわーん。゚゚(*´□`*。)°゚。」
「美少女JKが美少女JKを膝枕であやしている!?ここが
「リアル美少女JKの百合展開だと!?俺のデータベースには沢山あるZE☆でも追加のデータは必要だよナァ!!」
「一眼レフ持ってきたぞ!!」
「最高」
「神」
”君よく有能って言われない?”
「すみません、取り乱してしまいました……」
”全然気にしなくていいよ。なぁ?”
「あぁ、良いもん見せてもらったぜ」
「最高でした」
「これだけで後一ヶ月はイケる」
笑顔でサムズアップする男四人。全員顔がなんかツヤツヤしていた。
「先生たちはトリニティ謝肉祭に向けてバンドの練習をしていたと…。ですが何故練習でこんな服を着ているのですか?」
「そりゃあ、なぁ?」
”これが私たちのバンドの正装だからだよ”
「単純に面白いと思って」
「教師がメタルファッションしてるの見てみたくて」
「あとはまぁ、ノリ?」
”お前らァ…!”
高橋加藤田中に飛鳥文化アタックを仕掛ける先生を尻目に、ノアはユウカに問う。
「ユウカちゃん、大丈夫なんですか?あの人達」
「どうしたのよノア、いつになく暗い顔してるじゃない。あの人達はちょっと変だけど悪い人たちじゃないわよ」
「それはわかっているのですが、どうしても気になるんです」
「あの人達は先生と同じく、ヘイローを持ちません。弾丸一発一発が致命傷足り得るというのに、何故キヴォトスに来たのでしょうか」
「それはまぁ…そうだけど。それを言ったら先生だってそうじゃない?」
「先生は教師としての責務を全うするという信念がありますし、シッテムの箱があります。ですが、あの御三方はそうではないじゃないですか」
二人の目に映る大人たちは、とても弱い。先生はシッテムの箱の力で守られているとは言え、それでも先生にとってキヴォトスは安全とは言えない。ましてや、シッテムの箱を持たないあの大人たちはどうしてこうも危ない橋を渡っているのだろうか。
聞いたところ、あの三人は職業バンドマンのフリーターで、先生のように強い信念を持っているようにも見えなかった。
「それなんだけどね?私も気になって訊いてみたのよ。そしたらあの人達、なんて答えたと思う?」
ため息を付きながら、呆れた様子でその衝撃の答えを口にする。
「可愛い女の子に会いたかったから、だって。そのためだけに命をかけるなんて、ロックな人生送ってるわよね」
「ロックって便利な言葉ですね」
(まぁ実際は、こいつが久しぶりに連絡くれたからなんだけどな)
(あんな解散の仕方したのに、頼ってくれたわけだからな)
(安心したんだ、あいつがバンドのこと恨んでないってわかったからな)
「で、そのフウカちゃんの飯食ってプロポーズみたいなセリフを言ったと?」
”いやでも流石に本気にしてるわけ無いだろうし…”
「しかもお前ミカちゃんのこと自分のお姫様呼びしたんだろ?」
”それはそうだけど…”
「他にも生徒の女の子たち誑かしてるんだろ?」
”してねぇっての!!”
「「「どう考えても誑かしてんだろうがこのクソボケ野郎!!!!」」」
”なんだやんのかこの野郎!!”
「加藤、田中、ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ」
「「おう!!」」
「「「”うおぉぉぉぉ!!!!”」」」
「………アレが大人の姿なのかしら」
「………一種の幼児退行なのでは?」
夜も更け、ユウカとノアが帰った後、先生と田中はベランダで酒を煽っていた。
「なぁ、お前さ。先生になったの、後悔したりしねぇのか?」
”どうしたんだよヤブから棒に”
「いや、ふと気になってよ。ここって可愛い子ばっかだけど、治安クソじゃんか」
”まぁ、そうだな”
これに関しては否定のしようがない。何度死にかけたものか。
「しかもよ、仕事だってすげぇ量なんだろ?ユウカちゃんから聞いたぜ?毎度毎度無理して倒れるって」
”…自分で選んだ道だからな。しょうがないさ”
「しょうがないで済んで良いレベルじゃないと思うんだけどな。無茶だけはしないでくれよ?また倒れられても困るからな」
”あのときは迷惑かけたな。ま、死なない程度に頑張るさ”
「お前は誰かのために自分を使い潰す癖があるからな。目を離したらすぐ面倒事引き受けてくるんだもんなぁ」
”…返す言葉もないな”
「ま、お前が楽しそうで良かったよ」
”そうか…”
二人の間に沈黙が流れる。
何分経っただろうか。二人とも夜空を眺めながら時々缶に口をつけるだけで、互いに干渉しない。
しかし、不思議と気まずい感じはしなかった。逆に安心感すら覚えていた。
”なぁ、一つ訊いてもいいか?”
「ん?」
”バンド抜けたこと、起こってるか?”
「……そうだなぁ」
夜風に吹かれた空き缶が、カランカランと転がる。
タバコに火を付け一口吸い込んで、吐き出す。紫の煙が、夜空と混ざり合って消えていく。
「もちろん驚いたし、なんでだよって、悔しかったさ」
”……”
「攻めてるわけじゃないさ。お前の人生だからな。俺らにはお前の決めたことに対してとやかく言う権利はない」
”……そうか”
「まぁ、本当に驚いたけどな。あのお前が教師になるって言って聞かなかったんだもんな。まるで正気とは思えなかったぜ?」
”ハハ、ま、そうだろうな。あん時の俺、尖ってたもんな”
「ハハッ、懐かしいなぁ。酔っ払ったままライブして、その場のノリで滅茶苦茶なソロ弾いて会場湧かせてたもんなぁ。あの時の対バン相手の顔は傑作だったぜ」
”あの頃は色々やらかしてたなぁ”
「それが今となっちゃ大勢の生徒に慕われる先生だもんな。ヤニカス酒カスのお前はどこ行ったんだよ」
”先生になるって決めてから死ぬ気で直したんだよ”
「へぇ。どうだい?久々に吸うか?」
眼の前に差し出された箱を一瞥し首を横に振る。
自分はこれとはおさらばしたのだ。
"いや、遠慮しとく"
「…生徒が居ない今は『先生』じゃなくても良いんだぜ?一条」
”……先生になると決めたときに誓ったんだ”
”子供は大人に寄り掛かるけど、大人は酒、タバコ、ギャンブルに寄り掛かる。でも、それらは軽いから。すぐに倒れてしまう。そしたら子供が寄り掛かれなくなるだろ?だから、辛くても、苦しくても、自分の力で寄り掛かってきた子供たちを支えられるように強くなる”
そう語った先生の目は、あの光を失った目ではなく、
それはまるで、ヒーローに憧れる少年のようであった。それはかつて、皆が持っていたものだった。それはまさに、今の我々が失ってしまったものだった。
先生は、今までにこの光を三度手に入れ、二度失った。
テレビの中のヒーローに憧れた。友人たちに対してコンプレックスを拗らせた。初めて見たバンドのライブに魅入られた。愛する人を失った。
ごく普通の家庭に生まれ、よくある思春期の悩みにぶつかり、圧倒的に輝く存在に魅入られ、大切なものを失い、それでもまた光を見出す。この普通という名の幸せを、子供たちに見せてやりたい。できることならそれを永遠に紡いでいってほしい。
そのために、街の片隅のライブハウスで荒んでいた少年は、生徒たちの見本となる青年へとなったのだ。
「…そっか」
田中はそれ以上何も言わなかった。タバコの火を消し、ただ、星を眺めていた。先生は、街灯が照らすD.Uを見つめていた。
夢を見る少年と、夢に向かった青年。もう、昔みたいに肩は組めなかった。
ジャーン、と、視聴覚室に音が木霊する。
「いよいよ明日が本番か。今までやってきたライブハウスとは違って、数千人単位の人が見に来るわけだからな。緊張するぜ」
「ライブハウスでのライブには慣れてんだけどな。大規模野外フェスとかやったことねぇもんな」
「まさかこんな形で夢が一つ叶うとはな」
”できるだけのことはやったさ。あとは、思いっきりぶつけるだけだ”
かつてのバンド曲も完璧に思い出した。機材も少し古いが、しっかり手入れしていたのか問題なく使える。エフェクターの調整もできてる。
今回のライブは、景品のために勝つのではない。生徒たちのために演奏するわけでもない。ただ、最高の俺達を見せつけるためのライブだ。
次回、ライブ本番