堀北鈴音の部屋を改造するという計画は、
本人が正式に承諾しないまま、周囲だけで着々と進められていた。
最初に話を持ち出したのは櫛田と軽井沢だったが、
二人の中ではすでに、単なる整理整頓ではなく、
堀北の趣味を余すところなく反映した本格的な部屋を作ることが目的になっている。
壁へ何を飾るのか。
フィギュアをどこへ並べるのか。
漫画やライトノベルをどう収納するのか。
机の周辺をゲームやアニメ鑑賞に適した環境へ変えるべきか。
軽井沢は暇を見つけるたびに参考となる部屋の画像を探し、
櫛田はアキバモールで販売されている家具や収納用品を確認していた。
さらに伊吹へ工具を扱えるか尋ねたところ、彼女は面倒そうな顔をしながらも、
棚の組み立てや壁面収納の設置くらいならできると答えた。
「どうして伊吹さんが棚を組み立てられるのよ」
計画について知らされた堀北は、最初にそこへ疑問を持った。
放課後の空き教室には、オレと堀北、櫛田、軽井沢、伊吹が集まっていた。
「普通に説明書を読めば作れるでしょ」
伊吹は椅子へ座り、カードを整理しながら答えた。
「家具を組み立てるくらいで驚かないでくれる?」
「あなたは、そういう細かな作業が得意には見えなかったからよ」
「喧嘩しかできないと思ってるわけ?」
「そこまでは言っていないわ」
「顔には出てるけど」
伊吹は不機嫌そうに堀北を睨んだ。
最近の二人は、カードゲームを通じて顔を合わせる機会が増えている。
仲が良いと表現すれば、二人とも否定するだろう。
しかし、以前のように会えばすぐ本気の衝突へ発展する関係ではなくなっていた。
伊吹は堀北の部屋へ週に何度か訪れ、カードを使って勝負をしている。
堀北も負けたまま終わることを嫌うため、
対戦後には次の勝負へ向けてデッキの構成を調べるようになった。
二人の間にあるものは友情より競争心に近いが、
それでも同じ趣味を通して関係が変化していることは確かだった。
「そもそも、私の部屋を改造すること自体、まだ認めていないのだけれど」
堀北は櫛田たちへ視線を向けた。
「でも、収納が足りないんでしょ?」
櫛田が尋ねる。
「少し整理すれば収まるわ」
「床に漫画積んでるじゃん」
軽井沢が指摘した。
「一時的に置いているだけよ」
「机の横にも雑誌があったよね」
「読み終えた後に片づけるつもりだったわ」
「フィギュアの箱も棚に入り切ってなかったじゃん」
「どうしてあなたたちは、私の部屋の中をそこまで細かく覚えているの?」
堀北は警戒するように二人を見た。
櫛田と軽井沢は顔を見合わせ、少しだけ笑った。
「別に勝手に見たわけじゃないよ」
櫛田が答える。
「部屋へ入った時、普通に見える場所へ置いてあったから」
「つまり、隠し切れていないってことじゃん」
軽井沢が続けた。
「隠しているわけではないわ」
「なら、ちゃんと飾っても問題ないでしょ」
「飾る必要があるかどうかは別の話よ」
堀北は簡単には認めなかった。
ただし、本気で拒絶しているわけでもない。
本当に嫌なら、教室へ集まって計画を話し合うこと自体を断っていただろう。
それでもここにいるということは、少なくとも現在の部屋へ不便を感じているのは事実らしい。
「収納を増やすことには反対しない」
堀北は慎重に言葉を選んだ。
「漫画や資料が増えた以上、整理する必要はあるわ。
ただし、壁が見えなくなるほどポスターを貼ったり、
生活に支障が出るほどフィギュアを並べたりするつもりはないから」
「分かってるって」
軽井沢は軽い調子で答えた。
「堀北さんに合う、ちゃんと綺麗な部屋にするから」
「その判断をあなた一人に任せるつもりはないわ」
「じゃあ最後は堀北さんが決めればいいじゃん」
櫛田が提案した。
「私たちは候補を出して、堀北さんが採用するか決める。
それなら勝手に変えたことにはならないよ」
その条件なら、堀北も拒みにくい。
しばらく考えた後、彼女は小さく息を吐いた。
「分かったわ。ただし、最終的な判断はすべて私が行うこと。
それから、壁や家具を傷つけるような作業は禁止よ」
「そこは私が見る」
伊吹が答えた。
「壁を傷つけない固定器具くらい売ってるし、配線もまとめられる。
軽井沢たちだけでやらせたら、絶対斜めに貼るだろうけど」
「斜めに貼らないし」
軽井沢が反論する。
「前に教室の掲示物を貼った時、右側が下がってたでしょ」
「ちょっとだけじゃん」
「見れば分かるくらい傾いてたわよ」
「細かすぎ」
伊吹と軽井沢が言い合う中、堀北はオレへ視線を向けた。
「あなたも参加するつもりなの?」
「必要なら手伝う」
「また徹夜して使い物にならないのではなくて?」
「今回は寝ている」
「当然でしょう」
オンラインゲームを二十四時間以上続けた一件以来、
堀北たちはオレの生活時間を以前より気にするようになった。
軽井沢はゲーム内のイベント予定まで確認し、徹夜しそうな日には先に連絡してくる。
堀北は、一日の利用時間を自分で決めるよう何度も求めてきた。
その結果、以前のような二十四時間連続のプレイは避けるようになったが、
限定イベントが始まれば予定より長くなることは今もある。
「部屋を整えるなら、机周辺の動線と配線は考えた方がいい」
オレが言うと、堀北は少し意外そうに見た。
「あなたは実用性を担当するつもり?」
「見た目だけを優先して、机が使いにくくなるのは避けるべきだ」
「その点については同意するわ」
「モニターを置くなら、窓からの光が直接映り込まない位置にした方がいい。
棚も、椅子へ座ったまま頻繁に使うものへ手が届く距離に置く」
「モニターを増やすとは言っていないけれど」
「今後、ゲームとアニメを同時に進めるなら二台あった方がいい」
「あなたと同じことをするつもりはないわ」
「そうか」
オレがそれ以上押さなかったことで、堀北は少し疑うような視線を向けた。
「何よ」
「何も」
「今の返事は納得していない人の言い方だったわ」
軽井沢が笑った。
「絶対そのうち堀北さんも二画面になるって」
「ならないわ」
「アニメ見ながら原作とか設定調べたくならない?」
堀北は答えなかった。
その沈黙だけで、必要性を感じ始めていることは分かった。
話し合いが進むうち、櫛田が新しい提案をした。
「私たちだけで考えるより、詳しい人にも聞いた方がいいんじゃないかな」
「詳しい人?」
堀北が尋ねる。
「椎名さんと坂柳さん」
堀北の表情が僅かに動いた。
「なぜその二人なの?」
「二人とも本やグッズに詳しいし、飾り方も考えてくれそうだから」
「椎名さんは分かるけれど、坂柳さんまで呼べば、
必要以上に大がかりな提案をしてくる可能性があるわ」
「ありそう」
軽井沢が笑う。
「でも、見栄えを考えるなら坂柳さんってかなり詳しそうじゃん」
坂柳は自分の部屋にも数多くのグッズを所有している。
単純に量を増やすのではなく、棚の高さや照明、
色彩の組み合わせまで考えながら配置していると神室から聞いたことがあった。
ひよりは本や物語に対する知識が深く、
作品同士の雰囲気を壊さない飾り方を考えられるだろう。
二人の助言は役立つ可能性が高い。
「呼ぶだけ呼んで、採用するかどうかは私が判断するわ」
堀北は最終的に了承した。
その日のうちに櫛田が連絡すると、ひよりはすぐに参加すると返事をした。
坂柳も興味を示し、翌日の放課後に部屋を確認したいと申し出た。
ただし、神室まで同行しようとしたため、堀北が必要ないと断ったらしい。
翌日。
授業が終わると、オレたちは堀北の部屋へ集まった。
人数は、堀北、オレ、櫛田、軽井沢、伊吹、ひより、坂柳の七人だった。
それほど広くない部屋へ七人が入ると、さすがに余裕は少ない。
坂柳は部屋へ入るなり、中央から全体を見渡した。
「なるほど。事前に聞いていた以上に、改善の余地がありそうですね」
「失礼なことを言わないで」
堀北がすぐに反応する。
「散らかっているとは申し上げていません。
むしろ、日常生活に必要なものは整然と配置されています」
坂柳は穏やかな笑顔を浮かべながら、机、本棚、ベッド、壁の順番で視線を動かした。
「ただし、趣味の空間として見るなら、どこへ注目してよいのか分かりにくいですね」
「注目してもらうための部屋ではないわ」
「ご本人が暮らす場所であると同時に、
好きなものを眺めて楽しむ場所でもあるのでしょう?」
堀北は反論しようとしたが、
机の上に並ぶ二体のフィギュアへ視線を向け、言葉を止めた。
ひよりは床へ積まれた漫画やライトノベルを一冊ずつ確認している。
「以前より随分増えましたね」
「借りていたものを自分でも揃え始めただけよ」
堀北が答える。
「好きな場面を読み返したいと思うことが増えたから」
「それは素敵なことだと思います」
ひよりは柔らかく微笑んだ。
「でも、この状態ですと、次に読む本と読み終えた本が混ざってしまいませんか?」
「一応、自分の中では分けているわ」
「どのように?」
「右側が読了、左側が未読よ」
全員が床を見た。
二つの山が並んでいるが、高さ以外に大きな違いはない。
軽井沢が笑いを堪えながら尋ねた。
「それ、崩れたら分かんなくならない?」
「崩れないように置いているわ」
「昨日、カードの箱取ろうとして崩してたじゃない」
伊吹が言った。
「あなたが机へ鞄を置いたからでしょう」
「床に積んでる方が悪いでしょ」
二人が睨み合う。
坂柳は机へ近づき、フィギュアの位置を確認した。
一体は、堀北と声が似ていると話題になった妹姫だった。
もう一体は、最近堀北が熱心に見ている作品に登場する女性指揮官である。
どちらも本来は細かな台座が付属していたが、机の上では端へ寄せられ、
教科書やノートの邪魔にならないよう置かれている。
「せっかくの造形が、十分に見えませんね」
坂柳が言った。
「勉強する場所なのだから、中央へ置くわけにはいかないでしょう」
「机へ置くこと自体が適切ではないということです」
「では、どこへ置くの?」
「専用の展示棚を用意しましょう」
坂柳は当然のように答えた。
「照明付きのガラス棚が良いでしょう。
正面だけでなく側面からも眺められますし、埃も防げます」
「大げさではないかしら」
「今後も増えるのでしょう?」
「増やすとは言っていないわ」
軽井沢が端末を取り出した。
「昨日、新しいフィギュアの販売ページ見てたよね」
「なぜ知っているの?」
「話してる時、画面見えたから」
「勝手に見ないで」
「普通に開いてたじゃん」
堀北はしばらく黙り、最終的に小さく息を吐いた。
「展示棚の候補を見るだけなら構わないわ」
「採用に一歩近づきましたね」
坂柳が楽しそうに言う。
「まだ決めていないわ」
部屋の確認が終わると、全員で配置について話し合うことになった。
オレは机の上へ簡単な見取り図を置き、現在の家具の位置を書き込んだ。
「大きく分けるなら、壁面を三つの用途へ分けた方がいい」
「三つ?」
櫛田が尋ねる。
「机周辺は勉強、ゲーム、視聴のための作業区域。
本棚側は漫画、ライトノベル、資料の収納。
ベッド側はタペストリーやポスターなど、眺めることを目的とした展示区域にする」
堀北は図面へ視線を落とした。
「用途が混ざらないようにするということね」
「ああ。机へフィギュアや本を置きすぎれば、勉強へ使える面積が減る。
本棚だけでは足りないなら、上部へ壁面収納を追加する方法もある」
「壁へ穴は開けないで」
「固定器具を使えば穴を開けずに設置できる」
伊吹が答えた。
「重さの上限はあるけど、本じゃなくて軽いグッズなら問題ない。
漫画はちゃんとした棚に入れた方がいいけど」
「棚を置く場所はあるの?」
堀北が尋ねる。
伊吹はメジャーを取り出し、壁とベッドの間の距離を測った。
「今の小さい棚を外して、細長い本棚に替えれば入る。
奥行きが深すぎると通りにくくなるから、25センチくらいまでね」
「準備が良すぎない?」
軽井沢が驚く。
「必要になると思ったから持ってきたのよ」
伊吹は当然のように答えた。
腰には小さな工具袋まで下げている。
本人は手伝うことに文句を言っていたが、
作業へ参加すると決めた以上、中途半端に終わらせるつもりはないらしい。
「ゲーム用の環境については、モニターを一台追加する余地がある」
オレは机の幅を測りながら続けた。
「現在のモニターを少し左へ寄せ、
右側へ小型のものを置けば、映像を見ながら調べものができる」
「本当に必要かしら」
堀北は疑うように尋ねた。
「アニメを見ながら原作との違いを確認することはあるか?」
「あるわ」
「放送中に登場した用語を調べることは?」
「あるわね」
「一台で行うと、そのたびに画面を切り替える必要がある」
堀北は少し考えた。
「効率だけを考えるなら、二台の方が良いということね」
「そうなる」
「でも、光るゲーミング機器は必要ないわ」
「誰も勧めていない」
軽井沢が残念そうに声を上げる。
「ちょっとくらい光った方が可愛くない?」
「集中を妨げるだけよ」
「色を固定できるやつもあるよ」
「固定するなら、最初から光らせなくていいでしょう」
「でも雰囲気出るじゃん」
「却下よ」
堀北は迷いなく判断した。
最終決定者としての役割を理解したらしく、
提案を聞くたび、必要性を考えて採用と却下を分けている。
坂柳はその様子を面白そうに見ていた。
「では、間接照明はいかがでしょう」
「それも光るでしょう」
「作業中に常時点灯させる必要はありません。
アニメを視聴する時だけ部屋全体を少し暗くし、棚の周辺へ柔らかな光を入れるのです」
「点滅はしない?」
「もちろんです。色も一色へ固定できます」
堀北は少し考えた。
「白か、暖色系なら検討してもいいわ」
「採用ですね」
「検討すると言ったのよ」
「ほとんど同じでしょう」
「違うわ」
坂柳は笑顔を崩さなかった。
次に、壁へ何を飾るかという話になった。
軽井沢は端末へ保存していた画像を次々と見せる。
「この大型タペストリー、絶対いいと思う」
画面には、大正剣戟奇譚の妹姫が大きく描かれていた。
刀を持つ姿ではなく、縁側で穏やかに座っている絵柄である。
「なぜ最初にそれを選ぶの?」
堀北が尋ねる。
「堀北さんの代表みたいになってるから」
「私はその人物ではないわ」
「でも声がそっくりじゃん」
「それだけでしょう」
「しかも可愛いし」
軽井沢は譲らない。
櫛田も画面を見ながら頷いた。
「戦ってる絵より、こっちの方が部屋には合いそうだね」
「私は、どちらが合うかという話をしていないのだけれど」
堀北は拒否しようとした。
しかし、ひよりが画面を覗き込み、静かに意見を述べた。
「私は良いと思います」
「椎名さんまで?」
「堀北さんが最初にご自身から見ようと思ったアニメですし、
クラスの皆さんと話すきっかけにもなった作品ですよね」
ひよりの言葉に、堀北は少し黙った。
大正剣戟奇譚は、単に自分と声が似ている人物が登場する作品ではない。
その話題をきっかけに、これまで距離のあったクラスメイトたちから話しかけられるようになった。
軽井沢や櫛田とアニメについて語り始めたのも、その作品が最初だった。
作品そのものだけでなく、現在の人間関係へ繋がった思い出がある。
「戦闘場面のものではなく、落ち着いた絵柄なら悪くないかもしれないわね」
堀北は最終的に答えた。
軽井沢は嬉しそうに笑った。
「決まり!」
「まだ大きさを確認していないわ」
「そこ?」
「壁の面積に対して大きすぎれば、圧迫感が出るでしょう」
「分かった。ちゃんと測るから」
軽井沢は伊吹からメジャーを借り、壁の幅を測り始めた。
しかし、数字を読む前にテープが斜めになり、伊吹がすぐに取り上げた。
「だから私がやるって言ったでしょ」
「測るくらいできるし」
「斜めに測ったら意味ないのよ」
「ちょっとくらい変わんないじゃん」
「変わるわよ」
伊吹は壁へ沿わせるようにメジャーを伸ばし、正確な幅を記録した。
その間、坂柳はベッド側の壁を眺めながら別の案を考えていた。
「タペストリーを一枚だけ中央へ配置するなら、その周囲へ小型の額を置くのはいかがでしょう」
「額?」
「好きな場面の複製画や、作品の記念イラストを入れます。
壁一面を埋めるのではなく、中央の作品を囲む形にすれば統一感が出ます」
「統一感は重要ね」
堀北は興味を示した。
「ただし、作品が異なるものを混ぜれば散漫にならないかしら」
「色調を合わせれば問題ありません」
坂柳は画面へいくつかの画像を表示した。
「妹姫のタペストリーが黒、赤、淡い桃色を中心としているなら、
周囲も同じ色を含む作品から選ぶべきでしょう。
青や緑が強いものを隣へ置けば、視線が分散します」
「なるほど」
堀北は真剣に聞いている。
「それなら、女性指揮官の作品も赤を基調とした記念絵があったはずよ」
「良い選択ですね」
坂柳は満足そうに頷いた。
「二つの作品に直接の関係はありませんが、
色彩と人物の立ち位置に共通点があります。
どちらも物語の中心で他者を支える人物ですから、
堀北さんの好みも伝わりやすいでしょう」
「私の好みを分析しないでくれる?」
「部屋を作る以上、必要なことです」
「それにしても言い方が気に入らないわ」
坂柳と堀北は穏やかな口調で話しているが、互いに一歩も引くつもりはない。
ただし、坂柳の分析は的確だった。
堀北が好む人物には、能力が高く、周囲から誤解されやすく、
自分の感情を表へ出すことが苦手という共通点がある。
本人が自覚しているかは分からない。
「好きなものをすべて見える場所へ置かなくても良いと思います」
ひよりが静かに言った。
全員が彼女へ視線を向ける。
「せっかく集めたのだから、全部飾った方がよくない?」
軽井沢が尋ねた。
「たくさん並べる楽しさもあると思います。
でも、堀北さんのお部屋なら、特に大切なものが分かる方が似合う気がします」
ひよりは机の上にある二体のフィギュアを見た。
「例えば、初めて買ったフィギュアや、
見た時に考え方が変わった作品を中心にするんです。
それ以外は同じ棚へ置いても、少し高さを変えたり、
照明を弱くしたりすれば、自然に主役が分かります」
「全部を同じように並べる必要はないということね」
堀北が言う。
「はい。作品ごとに大切さが違うのは、悪いことではありませんから」
「同意します」
坂柳も頷いた。
「展示とは、単に所有物を並べることではありません。
何を見せ、何を少し引くかによって、その人の価値観が表れます」
「二人とも、部屋の話なのに難しくしすぎじゃない?」
軽井沢が呆れたように言う。
「でも、堀北さんっぽくていいかも」
櫛田は楽しそうだった。
「好きな順番に並べたら?」
「単純に順位をつけるつもりはないわ」
堀北はそう答えたが、展示棚の中央へ何を置くかについては、
すでに考え始めているようだった。