オタク至上主義の教室   作:EXTERMINATION

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第12話 堀北の痛部屋改造計画 後編

堀北の痛部屋作りの議論は一時間以上続いた。

 

最終的に、部屋の方向性は次のように決まった。

 

机周辺には小型のモニターを一台追加し、

勉強、ゲーム、アニメ視聴を切り替えやすくする。

 

机の上からフィギュアや雑誌を取り除き、

代わりにヘッドホンスタンドと小さな収納箱だけを置く。

 

壁の一部には、伊吹が配線を目立たなくするカバーを取りつける。

 

本棚は、現在のものより背が高く、奥行きの浅いものへ交換する。

 

ひよりの提案によって、上段は特に気に入っている漫画とライトノベル、

中段は読了済み、下段は未読と資料集へ分ける。

 

展示用のガラス棚は机とベッドの間へ置き、フィギュアやアクリルスタンドを並べる。

 

中央には妹姫と女性指揮官を配置し、他の人物は段差をつけて周囲へ置く。

 

ベッド側の壁には、妹姫の大型タペストリーを一枚だけ飾り、

その左右へ額へ入れた記念イラストを配置する。

 

間接照明は暖色系とし、視聴中だけ使用する。

 

「天蓋は?」

 

坂柳が最後に尋ねた。

 

「却下したでしょう」

 

堀北は即答した。

 

「念のため確認しただけです」

 

「赤い絨毯もいらないわ」

 

「まだ何も申し上げていませんよ」

 

「あなたが考えそうなことだから先に否定したの」

 

坂柳は残念そうに微笑んだ。

 

「姫君の部屋としては、少々控えめですね」

 

「私の部屋を宮殿にするつもりはないわ」

 

「でも天蓋、ちょっと可愛いと思うけど」

 

軽井沢が言う。

 

「あなたまで蒸し返さないで」

 

「白いやつならそんな派手じゃないよ」

 

「必要ないわ」

 

「じゃあ小さい王冠のクッションは?」

 

「いらない」

 

「姫って書いてあるプレートは?」

 

「絶対にいらないわ」

 

堀北の拒否が速くなるほど、軽井沢と櫛田は楽しそうに笑った。

 

必要な家具と道具は、その日のうちにアキバモールで揃えることになった。

 

全員で店へ向かい、候補を一つずつ確認していく。

 

家具売り場では、伊吹が棚の強度や組み立て方を確認し、

オレが部屋へ入る寸法か計算した。

 

ひよりは本が増えた時に並べ替えやすい可動棚を勧め、

坂柳は表面の色が他の家具と合うかを見ていた。

 

軽井沢と櫛田は、実用性より見た目を優先した商品を次々と持ってくる。

 

「この猫の形の本立て可愛くない?」

 

軽井沢が尋ねる。

 

「私の部屋のどこに猫の要素があるの?」

 

堀北は冷静に却下した。

 

「このクッションは?」

 

櫛田が妹姫の顔を大きく印刷したものを見せる。

 

「毎日その上へ座るのは抵抗があるわ」

 

「じゃあ抱える用にすればいいよ」

 

「もっと抵抗があるわ」

 

「でも柔らかいよ」

 

「触らせなくていいから」

 

堀北は次々と判断を下した。

 

しかし、すべてを否定するわけではない。

 

妹姫の小さな髪飾りを再現した展示品を見つけた時は、手に取って長く眺めていた。

 

「それは買うのか」

 

オレが尋ねる。

 

「フィギュアの隣へ置けば、作品の雰囲気が出ると思っただけよ」

 

「買うかどうかを聞いた」

 

堀北は少し迷い、最終的に買い物籠へ入れた。

 

「展示全体の完成度を高めるためよ」

 

「分かった」

 

「その返事は何?」

 

「納得しただけだ」

 

「余計な含みを持たせないで」

 

堀北は不満そうだったが、籠から戻すことはなかった。

 

坂柳は限定品の展示コーナーで、妹姫の小さな複製画を見つけた。

 

「こちらは中央のタペストリーと同じ作家が描いたものですね」

 

「値段が高いわ」

 

堀北が表示を見て言う。

 

「限定数が少なく、額も専用ですから」

 

「だからといって、簡単に買える価格ではないでしょう」

 

「私から完成祝いとして贈りましょうか?」

 

坂柳が自然に提案した。

 

「必要ないわ」

 

堀北はすぐに断った。

 

「自分の部屋へ飾るものは、自分で選んで買うべきよ」

 

「立派なお考えですね」

 

坂柳は笑顔で答えた。

 

「では、無理に勧めることはいたしません」

 

堀北は複製画から離れた。

 

しかし、数分後にもう一度戻り、しばらく考えた末、自分のポイントで購入した。

 

坂柳は何も言わず、その様子を見ていた。

 

すべての買い物が終わった頃には、全員の手に大きな袋や家具の箱が増えていた。

 

堀北は合計金額を確認し、僅かに表情を曇らせる。

 

「想定より高くなったわ」

 

「だから最初に予算決めた方がいいって言ったじゃん」

 

軽井沢が言う。

 

「不要なものは買っていないはずよ」

 

「その台詞、外村くんと同じだね」

 

櫛田が笑う。

 

「一緒にしないで」

 

「でも、複製画まで買ったよね」

 

「あれは展示の中心として必要だったの」

 

「限定だから欲しかったんじゃなくて?」

 

「両方が一致しただけよ」

 

堀北の説明は、すでに趣味へ深く入り込んだ人間のものになっていた。

 

翌日の休日、朝から作業が始まった。

 

最初に伊吹が古い棚を動かし、壁と床へ傷がないか確認した。

 

オレは家具の箱を開き、部品と説明書を並べる。

 

軽井沢と櫛田は購入したグッズを床へ広げ、どこへ置くか話し合っていた。

 

ひよりは本を一冊ずつ分類し、坂柳は部屋の中央から全体の配置を見ている。

 

堀北は全員の作業を確認しながら、必要に応じて判断を下す。

 

「この棚、右へ5センチ寄せる」

 

伊吹が言う。

 

「どうして?」

 

堀北が尋ねる。

 

「左へ寄せると、扉を開けた時に角が見えるから。右の方が通りやすい」

 

堀北は実際に入口から歩き、動線を確かめた。

 

「そうね。右へ寄せましょう」

 

伊吹は頷き、棚の位置を調整した。

 

「この器具、どこにつける?」

 

「タペストリーの上部ね」

 

軽井沢が答える。

 

「そこだと高すぎる」

 

坂柳が指摘した。

 

「入室した時、最初に視線が向かう位置より上になります。

中央を堀北さんの目線より少し高い程度へ合わせるべきでしょう」

 

「でも、大きいから上じゃないとベッドにかからないよ」

 

「ベッドを少しだけ移動すれば解決します」

 

「動かすの?」

 

堀北が尋ねる。

 

オレは部屋の幅を確認した。

 

「5センチ程度なら移動しても通路は狭くならない」

 

「なら移動していいわ」

 

伊吹とオレでベッドをずらし、タペストリーの位置を調整した。

 

軽井沢が壁へ当て、櫛田が少し離れた場所から左右の高さを確認する。

 

「もう少し右かな」

 

「このくらい?」

 

「行きすぎ」

 

「じゃあ戻すね」

 

二人が何度も位置を変えているうち、伊吹が苛立ったように近づいた。

 

「貸して」

 

「今決まりそうだったのに」

 

「十分やって決まってないでしょ」

 

伊吹は水平器を壁へ当て、中心と高さを測った。

 

「ここ」

 

一度で正確な位置を決め、固定器具を設置する。

 

軽井沢は不満そうだったが、完成したタペストリーを見て納得した。

 

「ちゃんと真っ直ぐじゃん」

 

「当たり前でしょ」

 

「伊吹さんって意外とすごいね」

 

「意外ってつけるのやめて」

 

ひよりは本棚の前で、本の順番を考えていた。

 

「こちらの作品は、漫画と小説を隣へ置いた方が良いと思います」

 

「作者別に分けなくていいの?」

 

櫛田が尋ねる。

 

「堀北さんは、原作と映像版の違いを確認することが多いので、

同じ作品をまとめた方が使いやすいと思います」

 

「確かにそうね」

 

堀北は頷いた。

 

「設定資料集も同じ場所へ置きましょう」

 

「では、こちらの棚を作品別にして、下段を未読へしましょうか」

 

「未読と視聴中は分けたいわ」

 

「それなら、左側を未読、右側を現在見ている作品にしましょう」

 

ひよりは堀北の希望を聞きながら、丁寧に本を並べていく。

 

背表紙の高さや色まで揃えすぎず、取り出しやすさを優先している。

 

坂柳は展示棚の前へ立ち、台座の位置を一つずつ調整していた。

 

「妹姫を中央へ置くなら、女性指揮官は少し後ろへ下げた方が良いでしょう」

 

「同じ高さでは駄目なの?」

 

堀北が尋ねる。

 

「同じ高さでは、どちらへ視線を向ければよいか曖昧になります。

妹姫を中央へ置くのは、堀北さんが最初に二次元文化へ

深く関わるきっかけとなった作品だからでしょう?」

 

「そうね」

 

「では、その意味が分かる配置にするべきです。

ただし、女性指揮官を下へ置けば格が落ちたように見えるため、奥へ一段上げます」

 

坂柳は透明な台座を使い、二体の高さへ差をつけた。

 

正面から見ると妹姫へ最初に目が向き、

その後、背後の女性指揮官へ自然に視線が移る。

 

「確かに、さっきより見やすいわ」

 

堀北は素直に認めた。

 

「その左右へ、他の人物を作品ごとに配置します」

 

「作品ごとにまとめるの?」

 

軽井沢が尋ねる。

 

「基本的にはそうですが、色のバランスも必要です。

同じ色の衣装が片側へ集まりすぎれば、棚全体が偏って見えます」

 

「フィギュアを並べるだけなのに、そこまで考えるんだ」

 

「並べるだけだからこそ、差が出るのです」

 

坂柳は楽しそうだった。

 

自分の知識を使い、他人の部屋を完成させることに本気で取り組んでいる。

 

堀北も、坂柳の提案をすべて受け入れるわけではなかった。

 

「このアクリルスタンドは中央へ置きましょう」

 

坂柳が言うと、堀北は首を振った。

 

「それは右側がいいわ」

 

「理由を伺っても?」

 

「その人物は主人公を導く立場だけれど、物語の中心ではないもの。

中央へ近づけすぎれば、役割以上に目立つでしょう」

 

坂柳は僅かに目を細めた後、笑った。

 

「なるほど。作品内での立場まで考慮されるのですね」

 

「見た目だけで決めるつもりはないわ」

 

「では、堀北さんの判断を採用しましょう」

 

最終決定権が堀北にあることを、坂柳も尊重していた。

 

机周辺では、オレと伊吹がモニターを設置していた。

 

現在のモニターを左へ寄せ、新しく購入した小型モニターを右へ置く。

 

高さが異なると視線移動で疲れやすいため、台座を使って中央を揃えた。

 

伊吹は机の裏へ回り、電源や映像用のケーブルを一本ずつまとめていく。

 

「この線、長すぎる」

 

「余った分を机の裏へ固定すればいい」

 

オレが答える。

 

「丸めると熱がこもらない?」

 

「この程度の電力なら問題ない。ただし、電源ケーブルと通信線は分けた方がいい」

 

伊吹は少し意外そうにこちらを見た。

 

「詳しいのね」

 

「自分の机でも整理した」

 

「二十四時間ゲームするため?」

 

「それとは関係ない」

 

「絶対あるでしょ」

 

伊吹は鼻で笑いながらも、提案通りに線を分けた。

 

作業の途中、軽井沢がヘッドホンスタンドへ小さなリボンを結ぼうとした。

 

「それは必要なの?」

 

堀北がすぐに気づく。

 

「ちょっと可愛くなるじゃん」

 

「実用性が落ちるわ」

 

「リボン一個で何が落ちるの?」

 

「引っかかる可能性があるでしょう」

 

「そんなに長くないって」

 

堀北はしばらく見た後、短いものへ替えるという条件で認めた。

 

「意外。採用するんだ」

 

軽井沢が驚く。

 

「全体が無機質になりすぎるのも良くないと思っただけよ」

 

「可愛いと思ったって言えばいいじゃん」

 

「同じ意味ではないわ」

 

軽井沢は笑いながら、リボンを結び直した。

 

櫛田は、作品ごとの小さなカードを作っていた。

 

タペストリーや棚の近くへ、題名や放送時期、

堀北が気に入っている場面を簡潔に書いたカードを置くという案だった。

 

「展示会ではないのだから、説明は必要ないでしょう」

 

堀北は最初、否定的だった。

 

「でも、自分で後から見た時に、いつ好きになったか思い出せるよ」

 

櫛田が答える。

 

「友達が来た時にも、どんな作品か説明しやすいし」

 

「口頭で説明すれば済むわ」

 

「全部説明するの大変じゃない?」

 

堀北は考えた。

 

「題名だけなら置いてもいいわ。ただし、私の感想まで勝手に書かないで」

 

「じゃあ、一緒に考えようよ」

 

櫛田は堀北と並び、カードへ書く言葉を選び始めた。

 

最初は短い題名だけだったが、

次第に堀北自身が放送年や原作者の名前、好きな人物を小さく書き加えている。

 

「もう説明カードになってるじゃん」

 

軽井沢が言う。

 

「情報が不足していたから補っただけよ」

 

「楽しそうだね」

 

「必要な作業をしているだけだわ」

 

堀北は否定したが、字を書く表情は真剣で、どこか満足そうだった。

 

昼を過ぎた頃、部屋の大きな家具はほぼ配置し終えていた。

 

全員で簡単な食事を取りながら、残りの作業を確認する。

 

「意外とちゃんとした部屋になってきたね」

 

軽井沢が言う。

 

「最初から、ふざけた部屋にするつもりはないわ」

 

堀北が答える。

 

「私たちが持ってきた王冠クッション、却下されたけど」

 

「必要ないからよ」

 

「一回置くだけ置いてみない?」

 

「置かないわ」

 

「写真撮ったら片づけるから」

 

「写真も撮らない」

 

軽井沢は諦めきれない様子だった。

 

坂柳が飲み物を置き、部屋全体を見渡した。

 

「仕上がりとしては悪くありませんが、まだ中心が弱いですね」

 

「中心?」

 

堀北が尋ねる。

 

「部屋へ入った瞬間、タペストリーへ目は向きます。

しかし、そこから展示棚と本棚へ視線が繋がっていません」

 

「どうすればいいの?」

 

櫛田が尋ねる。

 

「色と高さを連続させます。タペストリーの赤を、

棚の小物と本棚の一部にも少しだけ入れれば、部屋全体が一つに見えるでしょう」

 

「赤い物を増やすの?」

 

「増やしすぎてはいけません。視線を導く程度で十分です」

 

坂柳は、妹姫の髪飾りを展示棚の下段へ置き、

本棚には赤いブックエンドを一つだけ追加することを提案した。

 

さらに机周辺には、赤い縁取りがある小さなマウスパッドを置く。

 

「これなら、派手になりすぎないわね」

 

堀北は部屋の入口から確認し、提案を採用した。

 

ひよりは、タペストリーの前に余白を残すよう勧めた。

 

「壁へもっと小さなグッズを置けますが、何もない部分も必要だと思います」

 

「空いていると寂しくない?」

 

軽井沢が尋ねる。

 

「余白があるから、中央の絵をゆっくり見られるんです。

すべて埋まっていると、一つ一つを見る前に疲れてしまうこともありますから」

 

「それは分かる気がするわ」

 

堀北は頷いた。

 

「このままにしましょう」

 

軽井沢は少し物足りなそうだったが、

完成に近づいた部屋を見ると、それ以上何も追加しなかった。

 

午後になると、最後の作業として照明を設置した。

 

展示棚の内側へ小さな照明を取りつけ、

直接フィギュアへ強い光が当たらないよう角度を調整する。

 

ベッド側には暖色の間接照明を置き、アニメを見る時だけ使えるようにした。

 

「一度消してみようよ」

 

櫛田が言う。

 

カーテンを閉め、部屋の主照明を消す。

 

その後、間接照明と展示棚の灯りだけを点けた。

 

柔らかな光が壁のタペストリーを照らし、

ガラス棚の中では妹姫や女性指揮官の表情が昼間とは違って見える。

 

机のモニターへ映像を出せば、部屋全体が小さな上映室のようになった。

 

全員がしばらく黙って完成した光景を見ていた。

 

「すごい」

 

櫛田が最初に声を出した。

 

「思ったよりずっといいじゃん」

 

軽井沢も満足そうだった。

 

「伊吹さん、照明の線も全然見えないね」

 

「見えるようにやる意味ないでしょ」

 

伊吹は工具を片づけながら答えた。

 

坂柳は部屋の中央へ立ち、最後に全体を確認している。

 

「非常に洗練された痛部屋になりましたね」

 

「痛部屋と呼ばないで」

 

堀北がすぐに反応した。

 

「これだけタペストリーとフィギュアとグッズを置いているのですから、

一般的な呼び方としては正しいでしょう」

 

「趣味の資料を効率よく整理した部屋よ」

 

伊吹が工具箱を閉じた。

 

「壁に大きなタペストリーを飾って、

光る棚にフィギュア並べてる部屋は、どう見ても痛部屋でしょ」

 

「あなたまで言うの?」

 

「事実だから」

 

軽井沢が笑う。

 

「でも、めっちゃ堀北さんっぽい痛部屋になったじゃん」

 

「どういう意味よ」

 

「ごちゃごちゃしすぎてないし、何が好きかすぐ分かるし、ちゃんと綺麗に揃ってる」

 

櫛田も頷いた。

 

「堀北さんが自分で全部決めたから、本当に好きなものだけが残ってる感じだね」

 

ひよりは完成した本棚の前へ立ち、静かに微笑んだ。

 

「堀北さんがお好きなものが、よく分かる素敵なお部屋だと思います」

 

他の生徒たちから痛部屋と呼ばれた時は反論していた堀北も、

ひよりの言葉にはすぐ答えなかった。

 

改めて部屋全体を見渡す。

 

整然と並べられた漫画とライトノベル。

 

二台になったモニター。

 

壁へ飾られた妹姫のタペストリー。

 

照明の中で静かに並ぶフィギュアとアクリルスタンド。

 

どれも、少し前までの堀北の部屋には存在しなかった。

 

単なる装飾品ではない。

 

作品を見た時の感情や、誰かと話した記憶、

自分が少しずつ変化してきた過程が、部屋の中へ形として残っている。

 

「……悪くはないわね」

 

堀北は小さく答えた。

 

「それ、堀北さんの最高評価じゃん」

 

軽井沢が言う。

 

「もっと素直に喜べばいいのに」

 

「十分評価しているでしょう」

 

「じゃあ写真撮ろうよ」

 

「なぜ?」

 

「完成記念」

 

軽井沢は全員を部屋の中央へ集めた。

 

堀北は最初断ろうとしたが、

櫛田やひよりまで一緒に撮ろうとすると、最終的には受け入れた。

 

端末を机の上へ置き、時間を設定する。

 

七人が完成した展示棚の前へ並んだ。

 

坂柳は余裕のある笑顔を浮かべ、ひよりは穏やかに微笑んでいる。

 

伊吹は面倒そうな顔をしながらも、その場から離れなかった。

 

軽井沢と櫛田は楽しそうに堀北の両側へ立ち、オレは少し後ろへ入った。

 

「堀北さん、もうちょっと笑って」

 

軽井沢が言う。

 

「普通にしているわ」

 

「全然笑ってないじゃん」

 

「無理に笑う必要はないでしょう」

 

「完成したんだから、少しくらい嬉しそうにしてよ」

 

堀北は不満そうだったが、撮影される直前、ほんの僅かに口元を緩めた。

 

音が鳴り、写真が保存される。

 

軽井沢がすぐに確認した。

 

「いいじゃん。ちゃんと笑ってる」

 

「見せなさい」

 

堀北は端末を受け取り、自分の表情を確認した。

 

予想以上に自然な顔で写っていたらしく、しばらく画面を見ている。

 

「消さないの?」

 

櫛田が尋ねる。

 

「別に、消す必要はないわ」

 

その言葉を聞き、軽井沢たちは満足そうに笑った。

 

夕方になると、全員が片づけを終え、順番に帰っていった。

 

坂柳は帰り際に、今後グッズが増えた時は展示棚の配置を変更すると良いと助言した。

 

ひよりは、まだ読んでいない本の中に自分のお勧めを一冊加えていた。

 

伊吹は工具を持って扉を出ながら、棚が傾いたらすぐに連絡するよう伝えた。

 

軽井沢と櫛田は、次はオレの部屋も改造しようと話していたが、

その計画については聞かなかったことにした。

 

最後にオレも部屋を出た。

 

廊下を歩き始めてから、堀北の机へ自分の小さな工具を置き忘れたことに気づいた。

 

伊吹から借りたものではなく、モニターの台座を調整するために持参したものだった。

 

まだ堀北は部屋にいる。

 

オレは引き返し、扉の前へ立った。

 

中から物を動かす小さな音が聞こえる。

 

扉を叩こうとした時、堀北の声が聞こえた。

 

「この位置の方が、表情がよく見えるわね」

 

誰かと話しているわけではない。

 

部屋には堀北一人しかいないはずだった。

 

僅かに開いていた扉から中を見ると、

堀北は展示棚の前へ立ち、妹姫のフィギュアを数センチだけ動かしていた。

 

照明を点け、正面だけでなく少し横からも確認している。

 

全員がいる時は、坂柳の提案へ慎重に判断を下していたが、

今は自分の感覚だけで位置を調整している。

 

「十分楽しんでいるようだな」

 

オレが声をかけると、堀北の肩が僅かに動いた。

 

勢いよく振り返り、扉の前にいるオレを見た。

 

「いつからそこにいたの?」

 

「今戻ったところだ」

 

「聞いていたの?」

 

「この位置の方が表情がよく見える、という部分は聞いた」

 

堀北はしばらく黙った。

 

「今の言葉は忘れなさい」

 

「難しいな」

 

「なぜ?」

 

「実際に楽しんでいることを否定する必要はないと思う」

 

「否定しているわけではないわ。

ただ、一人でフィギュアへ話しかけていたように思われるのは不本意なの」

 

「話しかけてはいなかった。位置を確認していただけだ」

 

「なら、そう理解しなさい」

 

「分かった」

 

オレは机の上に置き忘れた工具を手に取った。

 

堀北は再び展示棚へ視線を向けた。

 

「どう思う?」

 

「何がだ」

 

「今の位置よ。坂柳さんが置いた場所より少し右へ動かしたのだけれど」

 

オレは棚を確認した。

 

僅かな違いだが、照明の角度によって顔へ落ちていた影が薄くなっている。

 

「今の方が表情は見やすい」

 

「そうでしょう」

 

堀北は満足そうに頷いた。

 

数秒後、自分が自然に意見を求めていたことへ気づいたらしい。

 

表情を少し硬くする。

 

「これは展示全体の確認よ」

 

「分かっている」

 

「明日になれば、別の位置へ変えるかもしれないわ」

 

「それも自由だ」

 

「ええ。私の部屋なのだから、最終的に決めるのは私よ」

 

堀北は改めて部屋全体を見渡した。

 

最初は周囲に押し切られ、勝手に趣味の部屋へ変えられることを警戒していた。

 

しかし、実際には誰かの好みを押しつけられたわけではない。

 

綾小路、ひより、坂柳が異なる角度から意見を出し、

伊吹がその考えを形にし、軽井沢と櫛田が作業を楽しみながら部屋へ明るさを加えた。

 

そのすべてを聞いた上で、何を残し、何を却下するかを決めたのは堀北だった。

 

完成した部屋は、周囲が考えた理想の痛部屋ではない。

 

堀北鈴音自身が、自分の好きなものをどのように見たいのか考え、

自分の判断で完成させた部屋だった。

 

「綾小路くん」

 

オレが帰ろうとすると、堀北が呼び止めた。

 

「何だ」

 

「次にアキバモールへ行く時、

展示棚へ置く小さな台座を見たいのだけれど、付き合ってもらえる?」

 

「構わない」

 

「坂柳さんが使ったものより、もう少し高さの低いものがあると思うの」

 

「探してみればいい」

 

堀北は頷いた。

 

その視線は、すでに展示棚の空いている場所へ向けられている。

 

今後もグッズは増えるだろう。

 

そのたびに棚の配置を考え、照明を調整し、何を目立たせるか判断することになる。

 

立派な痛部屋は完成した。

 

しかし、堀北鈴音のオタクとしての成長は、まだ完成からは程遠かった。

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