オタク至上主義の教室   作:EXTERMINATION

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第16話 堀北鈴音の休日ルーティン

休日であっても、私は普段と同じ午前6時に目を覚ます。

 

目覚まし時計の電子音が鳴り始めるより少し前から意識は浮上していたため、

音が部屋へ響くと同時に手を伸ばして停止させた。

 

以前の私であれば、休日に早起きをする理由として、

勉強や運動、部屋の整理といった実用的な目的を挙げていただろう。

 

現在も、その考え方自体が大きく変わったわけではない。

 

ただし、今の私には、それらに加えて早く起きたいと思える理由が増えていた。

 

まだ横になったまま視線を動かすと、薄暗い室内にガラス製の展示棚が見える。

 

棚の内側に設置された照明は消えているものの、

カーテンの隙間から差し込む朝の光によって、

並べられたフィギュアの輪郭だけは確認できた。

 

中央には、私が最初に強い関心を持った大正剣戟奇譚の妹姫が置かれている。

 

その少し後ろには、最近見始めた戦記アニメに登場する女性指揮官が立っていた。

 

両側にはアクリルスタンドや小型のグッズが並び、作品ごとに高さや間隔を調整してある。

 

完成した直後から配置を何度か変更したため、

坂柳さんが最初に考えた形とは少し異なっていた。

 

誰かから見れば、数センチ単位の違いなど意味がないと思うかもしれない。

 

しかし、照明の角度や見る位置によって表情の印象は変わる。

特に妹姫のフィギュアは、正面から見るより僅かに右側から見た方が、

穏やかな表情がよく分かる。

 

私は起き上がる前に、少しだけ棚を眺めた。

 

以前の部屋には、朝一番に目へ入って気持ちが和らぐようなものなど何もなかった。

 

必要な家具と教材だけが整然と置かれ、眠り、勉強し、

生活するための機能だけを備えた部屋だった。

 

現在も整理されていることに変わりはない。

 

けれど、そこには私が自分で選び、自分で好きだと判断したものが並んでいる。

 

その違いは思っていた以上に大きかった。

 

「もう6時ね」

 

誰へ聞かせるでもなく呟き、私は布団から出た。

 

最初にベッドを整える。

 

掛け布団の皺を伸ばし、枕の位置を戻す。

 

休日だからといって、夜まで乱れた状態にしておく理由はない。

 

カーテンを開けると、朝日が部屋へ差し込み、壁へ飾った大型のタペストリーを照らした。

 

縁側に腰かけた妹姫が、柔らかな表情で庭を眺めている絵柄である。

 

朝の静かな時間にこの絵を見ると、こちらまで穏やかな気持ちになれる。

そのことを認めるまでに、以前の私なら随分時間がかかったかもしれない。

 

私は洗面所へ向かい、冷たい水で顔を洗った。

 

鏡の中には、まだ僅かに眠気の残る自分の顔が映っている。

 

前髪を整え、歯を磨き、部屋着から動きやすい服装へ着替えた後、

昨日着ていた服とタオルを洗濯機へ入れる。

 

洗濯が終わるまでの間に朝食を用意する。

 

食パンをトースターへ入れ、冷蔵庫からレタス、トマト、キュウリを取り出した。

 

野菜を切って皿へ盛り、少量のドレッシングをかける。

 

焼き上がったトーストにはバターを薄く塗り、最後にコーヒーを淹れた。

 

テーブルへ朝食を並べると、時計は午前6時15分を過ぎたところだった。

 

私は椅子へ腰を下ろし、湯気の立つコーヒーへ口をつける。

 

朝食中に端末を眺める習慣はなかったが、

最近はテーブルの端へアニメ雑誌や番組表を置くことが増えていた。

 

今日置いてあるのは、翌月から放送が始まる新作アニメの特集号だった。

 

付箋を挟んでいたページを開く。

 

原作がライトノベルの作品、漫画が原作の作品、完全なオリジナル作品が並び、

それぞれに放送局、配信開始日、主要スタッフ、出演者の情報が掲載されている。

 

少し前までの私は、アニメを見る前に監督や、

脚本家の過去作品を調べる人間の気持ちが分からなかった。

 

作品は始まってから内容を確認すればいいと思っていた。

 

しかし、実際に複数のアニメを見るようになると、

同じ制作会社でも監督や演出家によって映像の印象が異なり、

同じ原作でも脚本の構成によって人物の見え方まで変わることを知った。

 

「この作品は、シリーズ構成があの人なのね」

 

私は紹介欄を読みながら、小さな付箋を追加した。

 

過去に見た作品では、

前半に何気なく置かれた要素を終盤で回収する構成が巧みだった。

今回も同じ強みが発揮されるなら、少なくとも最初の数話は確認しておく価値がある。

 

別の作品には、アクション場面に定評のある監督の名前があった。

 

こちらも視聴候補へ加える。

 

候補を増やし続ければ、毎週確認する作品数が多くなりすぎることは理解している。

 

それでも、放送前の情報だけで除外した作品が、

後から評判になった時のことを考えると、

最初の一話だけでも見ておきたいと思ってしまう。

 

以前、櫛田さんから今期は何本見ているのかと尋ねられ、

まだ十二本だと答えた時、池くんたちに「まだ」と言ったことを指摘された。

 

あの時は、比較対象として十分な数ではないという意味で答えただけだった。

 

しかし、現在では五十本近い作品の情報を確認している。

 

すべてを最後まで見るわけではない。

 

一話か二話の段階で、自分には合わないと判断する作品もある。

 

それでも、可能性を見落とさないために最初は広く確認するという姿勢は、

勉強や情報収集と変わらないはずだった。

 

少なくとも、私はそう考えている。

 

朝食を食べ終え、食器を洗って水気を拭き取る。

 

洗濯機の運転が終わるまでには、まだ少し時間が残っていた。

 

私は部屋へ戻り、パソコンの電源を入れた。

 

時計は午前6時半を示している。

 

椅子へ腰を下ろし、ヘッドホンを装着する。

 

最初に再生したのは、最近特に気に入っているアニメのオープニング曲だった。

 

激しい曲ではない。

 

主人公たちが何度も失敗しながら、

それでも前へ進んでいく作品のために作られた曲であり、

歌詞と物語の内容がよく噛み合っている。

 

最初に聞いた時は、明るく聞きやすい曲だと思った程度だった。

 

しかし、作品を最後まで見た後で改めて聞くと、

序盤では意味が分からなかった言葉が、

登場人物たちの選択や結末を示していたことに気づいた。

 

アニメソングは、映像へ付随しているだけの音楽ではない。

 

作品そのものを数分間へ圧縮し、

登場人物の心情や物語の方向性を表現している場合がある。

 

私は音量を少し調整しながら、SNSを開いた。

 

最初に確認するのは、公式アカウントからの情報だった。

 

放送時間の変更、配信開始、新商品の予約、イベントの開催、

原作者や制作スタッフからの告知。

 

誤った情報へ振り回されないためにも、一次情報を先に見る必要がある。

 

新作フィギュアの予約開始を知らせる投稿があった。

 

画面へ表示されたのは、昨夜見たアニメに登場する人物だった。

 

表情や衣装の再現度は高い。

 

しかし、価格も相応に高く、発売は半年以上先だった。

 

私はすぐに予約することはせず、商品ページを保存した。

 

軽井沢さんなら、可愛いと思った時点で購入候補へ入れるかもしれない。

 

坂柳さんなら、造形、限定性、今後の価値まで考えた上で判断するだろう。

 

私の場合は、作品が今後どのような展開になるか、

登場人物への評価が最後まで変わらないかを確認してから決めたい。

 

フィギュアは安い買い物ではないし、部屋へ飾る以上、

長く見続けたいと思える人物を選ぶべきだった。

 

次に、昨夜放送された作品の感想を確認する。

 

同じ場面へ肯定的な意見と否定的な意見が並んでいる。

 

ある人物が仲間へ真実を伝えなかった行動について、

臆病だと批判する人もいれば、仲間を巻き込みたくなかったのだと解釈する人もいた。

 

私は投稿を読みながら、自分の考えを整理した。

 

本心を隠した行動そのものは正しかったとは言えない。

 

しかし、その人物は以前から自分だけで問題を解決しようとする傾向があり、

今回だけ急に判断を誤ったわけではなかった。

 

物語上の都合で不自然に動かされたというより、

その人物の弱さが悪い方向へ出た結果だろう。

 

そう考えると、単純に脚本の問題として切り捨てる気にはなれなかった。

 

返信を書くことも考えたが、知らない相手と朝から議論を始める必要はない。

 

私は気になった意見だけを保存し、動画サイトへ移動した。

 

公式の短い予告映像、新作ゲームの紹介番組、

アニメの背景美術を解説する動画、

複数の作品を比較する考察動画が更新されている。

 

すべてを見る時間はないため、重要度を考えて順番を決める。

 

最初に公式番組を確認し、その後で考察動画を再生した。

 

ヘッドホンから流れるアニメソングを止め、動画の音声へ切り替える。

 

投稿者は、昨夜の作品で何度も映った時計の時刻に意味があると説明していた。

 

私は映像を戻し、実際の画面を確認する。

 

確かに、重要な台詞の直前だけ時計の針が同じ時刻を示している。

 

ただし、それが意図的な伏線なのか、

単に背景素材を使い回しているのかは判断できない。

 

「根拠としては、まだ弱いわね」

 

画面へ向かって小さく呟いた。

 

そのまま否定するのではなく、

次回以降も同じ時刻が映るか確認するため、メモへ書き残した。

 

情報収集は、誰かの意見をそのまま信じることではない。

 

自分では気づかなかった視点を知り、それが妥当か自分で確かめることに意味がある。

 

動画を見終えたところで、洗濯機の終了音が聞こえた。

 

私は一度パソコンの前から離れ、衣類を取り出して干した。

 

天気が良いため、夕方までには乾くだろう。

 

部屋へ戻って時計を確認すると、午前8時を少し過ぎていた。

 

ここからは、今日最初のアニメ視聴時間である。

 

パソコンとは別に、少し大きな画面へ映像を表示する。

 

カーテンを半分閉め、外の光が画面へ反射しないように調整した。

 

主照明は点けたままにして、展示棚の照明だけを弱く点灯させる。

 

夜ほど暗くする必要はない。

 

椅子の位置を正面へ戻し、手元には飲み物と小さなノートを用意した。

 

最初に見るのは、前日に録画しておいたロボットアニメだった。

 

昨日、龍園くんが模型店で主役機の新しいプラモデルを見つけ、

以前の機体との武装の違いについて熱心に話していた作品である。

 

龍園くんはアニメ本編より機体の構造や戦闘方法へ関心があるようだが、

私は人物同士の対立や、指揮官の判断へ興味を持っていた。

 

私は腕を組み、アニメに全集中する。

 

一話が終わると、すぐに次の作品へ移った。

 

二本目は学園を舞台にした群像劇である。

 

こちらは大きな事件が起こる作品ではない。

 

派手さはないが、表情や会話の間が丁寧だった。

 

特に、主人公が親友へ本音を伝えようとして結局別の話をする場面では、

声の僅かな震えや、机の下で握られた手が映されていた。

 

私はその部分を一度戻した。

 

台詞だけを聞けば何気ない会話に見える。

 

しかし、視線と指の動きを確認すると、本当は伝えたいことがあると分かる。

 

「ここまで描くなら、次回には話すかもしれないわね」

 

私はノートへ短く書き込んだ。

 

三本目はコメディ作品だった。

 

難しく考える必要はなく、登場人物たちの勘違いと勢いを楽しむ内容である。

 

以前の私なら、非現実的な行動や過剰な反応へ冷静な指摘を続け、

素直に笑うことができなかったかもしれない。

 

今でも、なぜそうなるのかと思う場面はある。

 

それでも、作品が最初から現実的な行動を描くつもりではなく、

誇張そのものを笑いにしていると分かれば、その前提で楽しめるようになった。

 

主人公が小さな勘違いから、

学校全体を巻き込む騒動を起こした場面では、私も思わず笑ってしまった。

 

誰もいない部屋で笑ったことへ、自分でも少し驚いた。

 

ただし、すぐに表情を戻す必要もない。

 

ここは私の部屋であり、誰かへ見せるために作品を見ているわけではなかった。

 

三本を見終えたところで、時計は午前10時に近づいていた。

 

二時間という時間は、始める前には十分長く感じる。

 

しかし、実際に複数の物語へ集中していると、驚くほど早く過ぎていく。

 

私は映像を停止し、パソコンの画面をゲーム用へ切り替えた。

 

今日は綾小路くん、外村くん、池くんたちとオンラインゲームへ入る約束をしている。

 

約束の時刻より一分早く接続すると、すでに綾小路くんの名前が表示されていた。

 

音声通話へ入る。

 

「おはよう」

 

『おはよう』

 

綾小路くんの声は、普段の教室と変わらず落ち着いている。

 

「今日は早いのね」

 

『開始時刻を間違える理由はない』

 

「そうね」

 

彼らしい返答だった。

 

数秒後、外村くんが接続してきた。

 

『お待たせしたのでござる。装備の最終確認に時間を要したのでござるよ』

 

「まだ開始時刻前よ」

 

『備えは重要でござる。今回の任務では、

属性耐性を考慮しなければならないのでござるからな』

 

続いて池くんの声が入る。

 

『今日こそ限定装備取るぞ!昨日二十周しても出なかったんだよ』

 

「二十周もしたの?」

 

『途中から意地になった』

 

『池は効率の悪い場所を回っていた』

 

綾小路くんが淡々と指摘する。

 

『先に言えよ!』

 

『聞かれなかった』

 

『普通、仲間なら教えるだろ!』

 

『途中で気づくと思った』

 

二人の会話を聞きながら、私は小さく息を吐いた。

 

「今日は綾小路くんの指示に従った方がよさそうね」

 

『堀北までそっちにつくのかよ』

 

「限定装備が欲しいのでしょう。目的を優先しなさい」

 

『分かったよ』

 

今回挑戦するのは、複数人で役割を分担して進む高難度の任務だった。

 

敵の攻撃力が高く、正面から攻撃だけを続ければ、すぐに全員が倒される。

 

綾小路くんは攻撃と敵の行動予測。

 

外村くんは特殊効果を利用した妨害。

 

池くんは敵の注意を引きつける役割。

 

私は回復と支援を担当した。

 

全員の体力を確認しながら、必要な時だけ回復を使っていく。

 

一度目の挑戦は、終盤で外村くんが範囲攻撃へ巻き込まれ、

立て直すことができずに失敗した。

 

二度目の挑戦では、全員の動きが明らかに良くなった。

 

敵が大きな攻撃へ入る前に外村くんが妨害し、池くんが位置を調整する。

 

綾小路くんは攻撃へ集中しながらも、次の行動を短い言葉で伝える。

 

私は回復だけでなく、敵の攻撃力を下げる支援も使った。

 

戦闘は十数分続いた。

 

最後の攻撃が成功し、巨大な敵が倒れる。

 

画面へ任務達成の表示が現れた。

 

『よし!』

 

池くんが声を上げた。

 

『限定装備来い!』

 

報酬画面が開く。

 

池くんの希望していた装備は表示されなかった。

 

『また出ねえ!』

 

『拙者には出たのでござる』

 

外村くんが申し訳なさそうに言う。

 

『何でだよ!』

 

『確率の問題だ』

 

『綾小路、冷静に言うな!』

 

私は自分の報酬を確認した。

 

限定装備そのものではないが、強化に使える素材が手に入っている。

 

「もう一度行く?」

 

『当然!』

 

池くんは即答した。

 

綾小路くんも拒否しなかった。

 

予定では正午まで二時間ある。

 

休憩を挟みながら、あと数回は挑戦できるだろう。

 

三回目の任務で、ようやく池くんにも目当ての装備が出たようだった。

 

私は時計を確認した。

 

「11時50分には切り上げるわよ。出かける準備があるから」

 

『分かった』

 

『拙者も昼食の予定があるのでござる』

 

『オレも一回装備見直す』

 

最後に短い任務を一つ進め、予定通り接続を切った。

 

通話が終わると、部屋へ静けさが戻る。

 

二時間近く話していたため、ヘッドホンを外すと耳の周囲が少し軽く感じられた。

 

私は椅子から立ち上がり、肩と腕を伸ばした。

 

ゲームは座ったまま遊ぶものだが、

長時間同じ姿勢で集中していると体は意外に疲れる。

 

綾小路くんが二十四時間続けた時、本人は問題ないと主張していた。

 

今思い返しても、問題しかなかった。

 

次に同じことをしようとしたら、今度は開始前に止める必要がある。

 

身支度を整え、財布と端末を鞄へ入れる。

 

今日は午後1時に、綾小路くん、櫛田さん、

軽井沢さんとアキバモールで合流する予定だった。

 

その前に昼食を済ませるため、私は正午少し前に部屋を出た。

 

休日のアキバモールは、平日より明らかに人が多い。

 

入口の大型画面では新作アニメの宣伝映像が流れ、

通路にはキャラクターの旗やイベントの案内が並んでいる。

 

最初にここへ来た頃は、店内の音や色、人の多さに圧倒された。

 

現在は、むしろどこで何が販売されているか、

どの時間帯に混雑するかまで分かるようになっていた。

 

昼食に選んだのは、モール内の洋食店だった。

 

何度か利用しており、落ち着いて食事ができる。

 

店員に案内された一人席へ座り、ハンバーグランチを注文した。

 

料理が届くまでの間、私は午後に確認する店の順番を考えた。

 

最初にアニメショップの新作コーナー。

 

その後、書店でライトノベルの新刊を確認する。

 

最後にグッズショップで、先週から気になっているタペストリーの実物を見る。

 

オンライン上で画像は確認しているが、

布地の色や大きさは実物を見なければ分からない。

 

料理が運ばれてきた。

 

鉄板の上ではハンバーグが音を立て、湯気と共に香りが広がる。

 

付け合わせには温野菜とポテトが添えられ、小さなスープとライスも付いていた。

 

私はナイフでハンバーグを切り、溢れた肉汁をソースへ絡めて口へ運んだ。

 

「美味しい」

 

誰へ向けた言葉でもないが、自然に声が出た。

 

以前の私は、一人で食事をする時に感想を口へ出すことなどほとんどなかった。

 

味を確認し、必要な栄養を取り、食べ終えれば片づける。

 

それで十分だった。

 

今も一人で静かに食べることは嫌いではない。

 

ただ、楽しい予定の途中で好きなものを食べる時間には、

以前より明確な満足を感じるようになっていた。

 

食事を終え、店を出る。

 

時計は午後一時の少し前だった。

 

待ち合わせ場所へ向かうと、綾小路くんが柱の近くへ立っていた。

 

「早いのね」

 

「今来たところだ」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

彼がどの程度前からいたのかは分からない。

 

少なくとも、遅れてはいなかった。

 

数分後、櫛田さんが笑顔で手を振りながら近づいてきた。

 

「二人とも、お待たせ」

 

「まだ時間前よ」

 

「でも、二人とも先にいるから」

 

その後ろから軽井沢さんも歩いてくる。

 

「今日は絶対限定ぬいぐるみ見るからね」

 

「買うと決めているの?」

 

私が尋ねると、軽井沢さんは当然のように答えた。

 

「実物見て可愛かったら買う」

 

「価格や置き場所は考えないの?」

 

「置き場所は後から考える」

 

「順番が逆でしょう」

 

「堀北さんだって、タペストリー見に行くんでしょ?」

 

「私は大きさと部屋全体の調和を確認してから決めるわ」

 

「でも、かなり買う気じゃん」

 

「候補として見ているだけよ」

 

「はいはい」

 

軽井沢さんは笑いながら、櫛田さんと顔を見合わせた。

 

最初に入ったアニメショップでは、新商品が並ぶ特設コーナーに多くの生徒が集まっていた。

 

軽井沢さんは目当てのぬいぐるみを見つけると、すぐに棚から一つ手に取った。

 

「見て、これ可愛くない?」

 

「写真より少し色が薄いね」

 

櫛田さんが答える。

 

「でも、こっちの方が優しい感じでいいかも」

 

「だよね。買おうかな」

 

「まだ三十秒しか見ていないわよ」

 

私が指摘すると、軽井沢さんはぬいぐるみを抱えたまま振り返った。

 

「可愛いかどうかは三十秒あれば分かるし」

 

「縫製や大きさは?」

 

「ちゃんと見るって」

 

軽井沢さんは裏側やタグを確認し始めた。

 

私たちはその間、隣の棚に並んだアクリルスタンドを見た。

 

櫛田さんは、自分が配信で話題にした作品の人物を見つけたらしい。

 

「これ、配信で紹介したら喜ばれそう」

 

すぐに小さな声へ変えたが、私は聞き逃さなかった。

 

「正体を隠すなら、店内で配信の話をしない方がいいわ」

 

「分かってるよ」

 

櫛田さんは周囲を確認し、少し困ったように笑った。

 

「でも、最近コメントでグッズを飾ってほしいって言われることが増えたの。

背景に少し置こうかなと思って」

 

「画面へ映すなら、権利や学校の情報が分かるものには注意しなさい」

 

「堀北さん、もう配信の管理役みたいだね」

 

「問題が起きれば、正体を知っている私たちまで巻き込まれる可能性があるからよ」

 

「ありがとう」

 

「感謝される理由はないわ」

 

いつもの会話を続けながら、私は目当ての売り場へ向かった。

 

大型のタペストリーが複数並んでいる。

 

その中に、事前に調べていたものがあった。

 

最近気に入っている作品の二人の人物が、夜の街を歩いている絵柄だった。

 

私は広げられた見本を確認した。

 

印刷の色は、商品画像より落ち着いている。

 

部屋のベッド側へ飾っている妹姫のタペストリーとは色調が異なるが、

机側の壁なら問題ない。

 

ただし、大きさを考えると、現在飾っている小型の複製画を一つ移動する必要がある。

 

「それ、買うのか?」

 

綾小路くんが隣から尋ねた。

 

「まだ判断しているところよ」

 

「さっきから十分以上見ている」

 

「長く見ていることと、購入を決めることは同じではないわ」

 

「部屋のどこへ置くかは考えたのか」

 

「机の右側ね。複製画を本棚側へ移せば収まると思う」

 

「もう決めているように聞こえる」

 

私は一度黙った。

 

確かに、置き場所まで考えた時点で、

購入する方向へ大きく傾いていることは否定できない。

 

「実物の品質に問題がないと分かったから、購入するわ」

 

「そうか」

 

軽井沢さんと櫛田さんが、少し離れた場所からこちらを見て笑っていた。

 

結局、私はタペストリーを買い物籠へ入れた。

 

同じ作品のアクリルスタンドも二種類見つけた。

 

一つは主人公で、もう一つは先ほどのタペストリーにも描かれている女性だった。

 

片方だけを買うという選択肢もあったが、

二人の関係性を考えれば並べて飾る方が自然である。

 

これは単に揃えたいからではない。

 

展示としての意味を考えた結果だった。

 

「二つとも買うんだ」

 

軽井沢さんが言う。

 

「一つだけでは、作品内の関係が伝わりにくいでしょう」

 

「誰に伝えるの?」

 

「私が見た時によ」

 

「それなら、普通に二人とも好きだからでいいじゃん」

 

「説明を単純化しすぎよ」

 

私は二つとも籠へ入れた。

 

買い物を終えた後、四人でモール内のカフェへ入った。

 

休日の午後ということもあり、店内は混雑している。

 

幸い、四人用の席が空いたため、奥へ座ることができた。

 

それぞれ飲み物を注文し、購入した物を机の下へ置く。

 

軽井沢さんは、先ほど買ったぬいぐるみの袋を何度も確認していた。

 

「軽井沢さん、本当に気に入ったんだね」

 

櫛田さんが笑う。

 

「だって可愛いし。部屋のベッドに置く」

 

「置き場所は後から考えると言っていたけれど、もう決まったのね」

 

私が言うと、軽井沢さんは得意そうに答えた。

 

「見てるうちに決まった」

 

「それなら問題ないわ」

 

「堀北さんも、タペストリーどこに飾るかずっと考えてたじゃん」

 

「私は買う前から考えていたわ」

 

「結局買ったんだから同じでしょ」

 

「過程が違うのよ」

 

綾小路くんは、二人の会話を聞きながら新しく買った攻略本を開いている。

 

「カフェへ来てまで読むの?」

 

「内容を確認しているだけだ」

 

「あなたも同じ言い訳を使っているわね」

 

「何のことだ」

 

「以前の私が、作品を学習のために見ていると言っていた時と同じよ」

 

綾小路くんは少し考えた。

 

「必要な確認ではある」

 

「攻略本を買った時点で、かなり熱中していると思うけれど」

 

「お前にだけは言われたくない」

 

「どういう意味?」

 

「今日だけでタペストリー一つとアクリルスタンド二つを買っている」

 

「部屋の展示計画に必要だったのよ」

 

「オレも攻略に必要だから買った」

 

軽井沢さんが笑い出した。

 

「二人とも本当に似たこと言うよね」

 

「似ていないわ」

 

「どこが?」

 

「私は二十四時間ゲームを続けたりしないもの」

 

綾小路くんは本から視線を上げた。

 

「その話はもう終わったはずだ」

 

「再発防止のために、忘れない方がいいでしょう」

 

櫛田さんが二人の間で笑っている。

 

「でも、今日も午前中に一緒にゲームしてたんだよね?」

 

「約束していた任務を進めただけよ。

回復と支援。池くんが合図を待たずに前へ出るから、

予定より回復を使うことになったわ」

 

「池くんらしいね」

 

櫛田さんは楽しそうだった。

 

「私は最近、一人でできるゲームしかやってないけど、みんなで協力するのも面白そう」

 

「配信で遊べばいいんじゃない?」

 

軽井沢さんが提案する。

 

「正体を隠したまま?」

 

「声を加工してるんだから大丈夫でしょ」

 

「ゲーム内の名前や、学校の人しか知らない話を出さないよう注意すれば可能ね」

 

私が答えると、櫛田さんは真剣に考え始めた。

 

「視聴者参加型にしたら楽しそうかも」

 

「人数管理が必要になる。誰でも入れるようにすれば、

配信へ不適切な発言をする人間が来る可能性もあるわ」

 

「やっぱり堀北さん、運営側みたい」

 

「考えられる問題を指摘しているだけよ」

 

その後は、今期のアニメについて話した。

 

軽井沢さんは、恋愛作品の主人公が、

あまりに相手の気持ちへ気づかないことへ不満を持っていた。

 

「絶対好きって分かるじゃん。何であそこまで気づかないの?」

 

「視聴者は複数の人物の行動を見ているけれど、

主人公が知っている情報は限られているわ」

 

私は答えた。

 

「相手の少女も、本人の前では気持ちを隠しているでしょう」

 

「でも、あれだけ顔赤くしてるんだよ?」

 

「照れている理由が自分だと断定するのは、意外に難しいのかもしれない」

 

綾小路くんが言う。

 

「綾小路くんは気づかなそう」

 

軽井沢さんが即座に答えた。

 

「何に?」

 

「そういうところ」

 

「具体的に言ってくれ」

 

「もういい」

 

軽井沢さんは不満そうに飲み物を口へ運んだ。

 

櫛田さんは別の作品について話し始めた。

 

「昨日の配信で、あの敵キャラが本当に悪い人なのかって質問が多かったよ」

 

「本人だと分かる言い方をしないで」

 

私は小声で注意した。

 

「ここなら周りも聞いてないよ」

 

「念のためよ」

 

「分かった」

 

櫛田さんは声を落とした。

 

「私は、悪いことをしたのは事実だけど、

最初から誰かを傷つけたかったわけじゃないと思うんだ。

追い詰められて、他の方法が見えなくなった感じがして」

 

「私も完全な悪人として描かれているとは思わないわ」

 

私は昨日の場面を思い返した。

 

「ただし、事情があったことと、行動の責任がなくなることは別よ。

被害を受けた側へ許すことまで求めるべきではないでしょう」

 

「堀北さんらしい答えだね」

 

「どういう意味?」

 

「誰かの気持ちは考えるけど、悪いことは悪いって分けてるから」

 

「当然でしょう」

 

綾小路くんが口を挟んだ。

 

「作品の中では、その両方を描くつもりかもしれない」

 

「責任を取らせながら、立ち直る道も残すということ?」

 

「ああ。次回の題名から考えると、その可能性はある」

 

「題名まで確認しているのね」

 

「予告へ出ていた」

 

綾小路くんも、以前より細かな部分を覚えるようになっている。

 

ゲームだけではなく、アニメの構成にも関心が広がっているのかもしれない。

 

私たちは飲み物がなくなっても、しばらく話し続けた。

 

私たちは作品の考察や新作ゲーム、声優の演技、グッズを選ぶ基準、

原作とアニメの違いなどについて、飲み物がなくなった後も話し続けた。

 

作品を通じて誰かの考え方を知る時間は、単なる雑談以上の意味を持っていた。

 

午後4時半を過ぎた頃、四人でカフェを出た。

 

最後に少しだけ書店へ寄り、

私は続刊が発売されていたライトノベルを一冊購入した。

 

これで今日の買い物は終わりである。

 

軽井沢さんは、もう一度ぬいぐるみ売り場へ戻ろうとしたが、

同じ物を二つ買うつもりなのかと尋ねると、名残惜しそうに諦めた。

 

午後5時、私は自室へ戻った。

 

最初に購入した物を机へ置き、服を脱いでシャワーを浴びる。

 

温かい湯を肩へ当てると、アキバモールを長く歩いた疲れが少しずつ抜けていった。

 

シャワーを終え、髪を乾かして部屋着へ替える。

 

午後5時半になると、気持ちを切り替えるように机へ向かった。

 

どれほど二次元へ夢中になったとしても、

学業を疎かにするという選択肢だけは、私の中には存在していない。

 

もっとも、以前のように長時間を勉強へ費やす必要はなく、

今では綾小路くんから教わった、短時間でも雑念を徹底的に排除して、

一つの課題だけへ意識を集中させる「綾小路式勉強法」を実践している。

 

教科書を開いた瞬間からアニメやゲームのことを頭から追い出し、

限られた時間の中で理解、整理、記憶を一気に進めていくため、

同じ一時間でも以前とは比べものにならないほど多くの内容を吸収できるようになっていた。

 

この日も数学の問題集へ取りかかると、途中で端末を確認することもなく、

解法の根拠まで頭の中で組み立てながら次々と問題を処理していった。

 

分からない箇所だけを明確に切り分け、そこへ集中的に時間を使うことで、

既に理解している内容を何度も反復するような無駄もなくなっている。

 

趣味の時間を守りながら成績も落とさないためには、勉強時間を増やすのではなく、

その密度を高めればいいという彼の考え方は、合理性を好む私とも非常に相性が良かった。

 

こうして短時間の学習を高い集中力で終えた私は、

今日やるべき範囲を予定通り消化したことを確認すると、満足して教科書を閉じ、

再び自分の大好きな二次元の世界へ戻ることにした。

 

今日購入したグッズを部屋のどこへ置くか悩み始める。

 

タペストリーとアクリルスタンドは、まだ袋へ入ったままである。

 

夕食の後に開封しよう。

 

急いで扱い、折れや傷をつけるわけにはいかない。

 

午後6時半になると、私は夕食の準備を始めた。

 

今日の献立は、ご飯、味噌汁、肉野菜炒め、漬物である。

 

朝や昼を簡単に済ませることはあっても、

夜は可能な限り栄養の取れるものを食べたい。

 

調理を終え、料理をテーブルへ並べた後、一度部屋の画面へ目を向けた。

 

アニメの続きが気になる。

 

しかし、食事中に初めて見る作品を流せば、

画面へ集中して食事がおろそかになる可能性がある。

 

私は何度か見た短いコメディ作品を再生し、音量を低くした。

 

完全に無音で食べるより、聞き慣れた声が流れている方が落ち着くようになっていた。

 

「いただきます」

 

一人であっても、食事の前には言葉を口にする。

 

肉野菜炒めは少し味が濃かったが、ご飯と一緒に食べるなら問題ない。

 

漬物を間へ挟み、味噌汁を飲む。

 

画面では、何度も見た場面が流れている。

 

次に誰が何を言うか覚えているため、映像へ集中する必要はない。

 

それでも、好きな場面になると自然に視線が向いた。

 

食事を終えた後、食器を洗い、調理器具まで片づける。

 

時計は午後7時を少し過ぎていた。

 

ここからは、ライトノベルを読む時間である。

 

本棚の前へ立ち、今日買った新刊ではなく、途中まで読んでいた作品を取り出す。

 

新刊をすぐ読み始めたい気持ちはあるが、

現在読んでいる本を終わらせずに次へ移れば、内容が混ざる可能性がある。

 

椅子へ座り、ベッド側の画面には何度も見たアニメを再生した。

 

音量は、会話を聞き取れるぎりぎりまで下げる。

 

ライトノベルを読むのに、別の作品の映像を流せば集中できないのではないかと、

以前の私なら考えただろう。

 

実際、初めて見る作品を流せば気が散る。

 

しかし、何度も見た作品であれば、

音楽や人物の声が部屋の静けさを和らげる背景になる。

 

時折、好きな台詞が聞こえれば画面へ目を向ける。

 

その後、再び本へ戻る。

 

一時間半ほど読み続け、区切りの良い章まで終えた。

 

時計は午後8時半を過ぎている。

 

少し休憩を取り、今日購入したグッズを開封することにした。

 

最初にタペストリーを袋から出す。

 

両端を持ち、皺がつかないようゆっくり広げる。

 

店頭で見た時と同じく、色は落ち着いている。

 

部屋へ置いてみると、思っていた以上に机側の壁へ合いそうだった。

 

ただし、現在飾っている複製画と一部が重なる。

 

予定通り複製画を本棚側へ移し、仮の位置へタペストリーを当てた。

 

固定は後日にするつもりだったが、実際に見るとすぐ飾りたくなる。

 

伊吹さんが取りつけてくれた予備の固定器具が残っていたはずだ。

 

工具箱から必要な物を取り出し、壁の高さを測る。

 

一人で大型の布を真っ直ぐ設置するのは簡単ではない。

 

何度か離れて確認し、右側を僅かに上げる。

 

「この位置ね」

 

固定を終え、机の前へ座って見上げる。

 

画面を見ている時に視界へ入りすぎず、立ち上がれば全体が見える。

 

悪くない。

 

次にアクリルスタンドを開封した。

 

透明な台座へ二人を差し込み、展示棚の空いている場所へ置く。

 

最初は同じ高さへ並べた。

 

しかし、人物同士の距離がタペストリーより近すぎるように見える。

 

私は少し離し、主人公を半歩前へ出す位置に変えた。

 

物語の中では、主人公の方が他者へ近づこうとしている。

 

その関係性を考えるなら、この配置の方が自然だった。

 

数分間眺めた後、私は満足して展示棚の扉を閉めた。

 

午後9時。

 

一日の最後に、再びアニメを集中して見る時間である。

 

別の日なら、この時間をオンラインゲームや美少女ゲームに使うこともある。

 

ゲームの期間限定イベントが行われている時は、

綾小路くんや池くんたちと再び接続する場合もある。

 

白石さんから勧められた美少女ゲームの続きを進め、選択肢について考える夜もある。

 

今日は、朝から見ようと決めていた長編アニメの続きを再生する。

 

全集中して見ていると、あっという間に終わった。

 

しかし、続きが気になる。

 

配信一覧を確認すると、次の話もすでに公開されていた。

 

時計は午後10時半。

 

一話だけなら問題ない。

 

私はそのまま再生した。

 

話では、離れた仲間たちがそれぞれ別の場所で同じ出来事を思い出すシーンだった。

 

私は画面を見ながら、少しだけ胸が熱くなるのを感じた。

 

人間関係は、正しい言葉だけで成立するものではない。

 

不格好でも、伝えようとしなければ始まらない。

 

以前の私は、相手が自分を理解できないなら関わる必要はないと考えることが多かった。

 

現在でも、無理に全員と親しくなりたいとは思っていない。

 

しかし、アニメの話をするために軽井沢さんや櫛田さんと集まり、

椎名さんや坂柳さんの意見を聞き、伊吹さんとカードゲームをするようになった。

 

趣味というきっかけがなければ、ここまで関わることのなかった相手も多い。

 

画面の人物たちが再会し、少しずつ言葉を交わし始める。

 

私は最後まで静かに見届けた。

 

午後11時。

 

エンディングが終わるのとほぼ同時に、私は再生を停止した。

 

歯磨きや洗面は既に済ませてあり、洗濯物も夕方のうちに収納し、

明日の授業に必要な物も鞄へ入れてある。

 

アニメを見終えてから就寝準備を始めるような非効率な時間の使い方をするつもりはなかった。

 

「今日はここまでね」

 

誰へ言うでもなく呟く。

 

以前の私なら、決められた時刻に止めることへ迷いなどなかった。

 

現在は、続きが気になるという感情を理解した上で止めている。

 

それは我慢が弱くなったのではなく、

自分が何を楽しみにしているのか分かるようになったということだと思いたい。

 

部屋の机には、午前中に書いたアニメのメモと、読みかけのライトノベルが残っている。

 

それぞれを所定の場所へ戻す。

 

今日買ったタペストリーを改めて確認し、展示棚の照明を点けた。

 

展示棚には、妹姫のフィギュアと女性指揮官、

さらに今日新しく加わった二体のアクリルスタンドが並んでいた。

 

作品も人物も異なっているが、どれも私自身が見て、

考え、好きだと判断したものだった。

 

私は展示棚の前へ立ち、新しく置いたアクリルスタンドの向きを少しだけ調整した。

 

主人公が隣の人物へ視線を向けているように見える角度へ変える。

 

「この方がいいわね」

 

満足して棚の扉を閉めた。

 

私は展示棚の照明を消し、最後に部屋全体を見渡した。

 

壁には好きな作品のタペストリー。

 

本棚には漫画とライトノベル。

 

机には二台のモニターとヘッドホン。

 

ガラス棚にはフィギュアとアクリルスタンド。

 

それらに囲まれた部屋は、以前の私なら落ち着かないと感じたかもしれない。

 

今は、この場所が自分の部屋なのだと、以前より強く感じられる。

 

「普段の休日を過ごす人から見れば、つまらない一日なのかもしれないわね」

 

私は小さく呟いた。

 

しかし少なくとも私は、大好きなアニメの人物たちに囲まれ、

同じ二次元文化を楽しむ仲間たちと過ごした今日を、退屈だったとは思わない。

 

むしろ、朝から夜まで好きなものへ触れられた、とても充実した休日だった。

 

「私は、こういう休日が好きよ」

 

誰もいない部屋で、今度ははっきりと言った。

 

私は主照明を消し、ベッドへ入った。

 

午後11時。

 

予定通りの消灯だった。

 

明日は授業がある。

 

放課後には、今日見たアニメについて軽井沢さんたちが話し始めるだろう。

 

椎名さんへライトノベルの感想も伝えたい。

 

伊吹さんとはカードゲームの続きがある。

 

綾小路くんは、オンラインゲームの次の任務へ誘ってくるかもしれない。

 

そして、夜になれば今日止めたアニメの続きを見る。

 

そう考えると、眠りにつく前から明日が少し楽しみになった。

 

「おやすみなさい」

 

私は静かに目を閉じた。

 

大好きな物語と、それを語り合える仲間たちがいる日常は、

以前の私が考えていたよりも、ずっと豊かで温かいものだった。

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