オタク至上主義の教室   作:EXTERMINATION

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第7話 荒野の龍園

龍園翔がプラモデルとエアガンへ興味を持つようになってから、

彼の放課後の過ごし方は以前とは大きく変化していた。

 

それまでの龍園は、授業が終われば石崎や伊吹、アルベルトを連れ、

クラスの状況を確認したり、他クラスの動きを探ったりすることが多かった。

 

必要があればアキバモールへ立ち寄ることもあったが、

目的もなく商品を眺めるような人間ではなかった。

 

現在は違う。

 

龍園は放課後になると模型店へ足を運び、

組み立てを終えたプラモデルへ使う塗料や工具を確認し、

その後でエアガンを扱う売り場へ向かうようになっていた。

 

最初に興味を示したのは、西部劇映画で見たことのある古いリボルバーだった。

 

現代的な装備が並ぶ中で、その一丁だけは時代から取り残されたような形をしている。

 

大きなシリンダーと長い銃身。

 

装弾数の少なさ。

 

一発ずつ扱う必要がある不便さ。

 

性能だけを比較するなら、龍園がわざわざ選ぶ理由はほとんどなかった。

 

それでも、彼はその古い形へ強く惹かれていた。

 

「龍園さん、またそれ見てるんすか」

 

石崎は模型店の隣にあるエアガン売り場で、

同じショーケースの前へ立つ龍園へ声をかけた。

 

龍園は腕を組み、展示されたリボルバーから視線を外さなかった。

 

「悪いか?」

 

「悪くはないっすけど、他にもいっぱいあるじゃないですか」

 

石崎は隣に並ぶ電動ガンへ視線を向けた。

 

外観は現代的で、付属品を取りつけられるよう複数の溝や器具が備えられている。

 

試しに持てる展示品もあり、石崎は以前から気になっているらしい。

 

「こっちの方が強そうじゃないっすか。連射もできるみたいですし」

 

「強そうだから何だ」

 

「実際に遊ぶなら、そっちの方が有利じゃないっすか?」

 

「有利かどうかで選ぶなら、最初から玩具なんざ買わねぇよ」

 

龍園は迷いなく答えた。

 

石崎は言葉に詰まった。

 

プラモデルを選ぶ時にも、龍園は同じような考え方をしていた。

 

性能や人気だけでは決めない。

 

自分が格好いいと思えるかどうかを優先する。

 

それは以前の龍園からは想像しにくい選び方だった。

 

以前なら、勝利へ直接結びつかないものへ時間を使う理由はないと切り捨てていただろう。

 

しかし現在は、自分が楽しむためだけに商品を眺め、塗装や外観について考えている。

 

「それにしても、見るだけで満足してるんすか?」

 

石崎が尋ねた。

 

「何が言いてぇ」

 

「龍園さん、買ってから毎日触ってるじゃないですか。

塗ったり、部品変えたり、並べて眺めたりしてるだけで、実際には撃ってないっすよね」

 

龍園は石崎へ視線を向けた。

 

その言葉は、龍園自身も何度か考えていたことだった。

 

部屋で安全に扱い、外観を変え、手入れをすることは楽しい。

 

しかし、もともと道具として作られた形をしている以上、飾るだけでは物足りない。

 

実際に使い、誰かと競い、狙った場所へ当てる感覚を確かめたいと思い始めていた。

 

「サバゲでもやります?」

 

石崎が軽い調子で言った。

 

龍園はすぐには答えなかった。

 

「サバゲ?」

 

「サバイバルゲームっすよ。

決められた場所でチームに分かれて、当たったらヒットって言って抜けるやつです」

 

「知ってる」

 

「じゃあ、やってみればいいじゃないっすか」

 

「人数が足りねぇだろ」

 

「集めればいいっすよ」

 

石崎は簡単に言った。

 

龍園は再びショーケースへ視線を戻した。

 

数人だけでは面白くない。

 

障害物を置き、二つのチームへ分かれ、互いに狙い合うなら、最低でも八人程度は欲しい。

 

自分のクラスだけから集めることもできる。

 

しかし、慣れていない者ばかりでは、単調な展開になる可能性がある。

 

経験者が何人かいた方が、勝負として面白くなる。

 

龍園は誰を誘うべきか考え始めた。

 

最初に思い浮かんだのは、坂柳クラスの橋本正義だった。

 

橋本は人付き合いが広く、学校外の遊びにも詳しい。

 

以前の会話で、中学生の頃に友人たちと

サバイバルゲームを経験したことがあると話していた。

 

神室真澄も同じ場にいたことがあるらしく、基本的なルールは理解している。

 

山村美紀についても、意外なことに経験があると聞いた。

 

目立つことを好まない彼女がサバイバルゲームへ参加していた理由は分からない。

 

ただし、隠れて相手の動きを待つ遊びなら、山村の性格に合う可能性はあった。

 

残る一人については、橋本たちと行動することの多い森下藍を誘えばいい。

 

森下は経験者ではないが、古今東西のアクション映画を好み、

銃器や映画内の戦闘演出について妙に詳しい。

 

実物を安全な遊びとして体験できると聞けば、興味を示すだろう。

 

自分の側には、伊吹を入れる。

 

本人は面倒だと拒否する可能性が高いが、勝負だと伝えれば参加する。

 

さらに綾小路清隆。

 

龍園は、綾小路が未経験であっても、状況を見ればすぐに対応すると考えていた。

 

最後の一人には平田洋介を選んだ。

 

一見するとサバイバルゲームには興味がなさそうだが、

最近はFPSと呼ばれるシューティングアクションゲームや、

サバイバルホラーと呼ばれるゾンビ系アドベンチャーゲームに熱中しているらしい。

 

ゲームをきっかけにミリタリー分野へ関心を持ち始めており、誘えば参加する可能性が高い。

 

龍園はその日のうちに、必要な相手へ連絡を取った。

 

最初に声をかけた橋本は、話を聞くなり面白そうに笑った。

 

「龍園から遊びに誘われるとは思わなかったな」

 

「遊びじゃねぇ。勝負だ」

 

「サバゲは遊びだろ」

 

「勝ち負けがあるなら勝負だ」

 

「相変わらずだな」

 

橋本は断らなかった。

 

神室も、橋本から話を聞くと面倒そうな顔をしたが、久しぶりにやるのも悪くないと答えた。

 

山村は、誘われたこと自体に驚いたらしく、しばらく返事がなかった。

 

やがて届いた文章は、控えめなものだった。

 

『私でよろしければ、参加いたします』

 

森下だけは反応が違った。

 

『サバイバルゲーム。つまり、現実へ寄せたアクション映画体験ということでしょうか』

 

『勝手に映画へ変換するな』

 

龍園が返すと、すぐに新しい文章が届いた。

 

『では参加します。二丁拳銃は可能でしょうか』

 

『やめとけ』

 

『残念です』

 

本人が何を想像しているのかは分からなかったが、参加する意思はあるらしい。

 

一方、伊吹は予想通り強く拒否した。

 

「何で私があんたの新しい趣味に付き合わなきゃいけないのよ」

 

放課後の教室で話を聞いた伊吹は、腕を組みながら龍園を睨んだ。

 

「坂柳の連中と勝負する」

 

「だから何?」

 

「負けてもいいなら来なくていい」

 

「誰が負けるって言ったの?」

 

伊吹の反応は分かりやすかった。

 

「相手には経験者が三人いる」

 

「こっちには?」

 

「俺以外は未経験だ」

 

「じゃあ、あんたも未経験じゃない」

 

「細けぇことはいい」

 

「よくないでしょ」

 

伊吹は文句を言い続けたが、最終的には参加すると答えた。

 

綾小路へ声をかけると、彼は少し考えただけで了承した。

 

「サバイバルゲームか」

 

「ああ。お前も来い」

 

「未経験だが問題ないのか」

 

「関係ねぇ。お前ならすぐ慣れるだろ」

 

龍園は断定した。

 

綾小路はそれ以上確認せず、日程だけを聞いた。

 

平田は、誘われたことに驚きながらも、興味を示した。

 

「僕でいいのかな」

 

「FPSやってんだろ」

 

「最近少しだけね」

 

平田は苦笑した。

 

「ゲームと実際のサバイバルゲームは違うと思うけど、

ミリタリーに興味はあったから参加してみたい」

 

「決まりだな」

 

「ただし、安全面はしっかり確認しよう。学校の敷地を使うなら、許可も必要だよ」

 

「もう取ってある」

 

龍園は事前に学校側へ申請していた。

 

アキバモールにサバイバルゲーム関連の商品が増え、

生徒から体験場所を求める声が出ていたこともあり、

学校は試験的な活動としてグラウンドの一部を貸し出すことを認めた。

 

ただし、条件は厳格だった。

 

使用できるものは、対象年齢の低い安全性を考慮した製品に限定される。

 

顔だけでなく、目や首、手足を含めて保護具を身につける。

 

ゲーム開始前には教員と担当スタッフが装備を確認する。

 

使用する弾は環境へ配慮されたものとし、決められた区域外へ向けて扱わない。

 

終了後は全員で周囲を清掃する。

 

龍園にとって面倒な条件ではあったが、遊ぶ場所を確保するためには従うしかなかった。

 

 

数日後の休日。

 

グラウンドの一角には、普段とは異なる景色が広がっていた。

 

学校側とアキバモールの専門店が用意した簡易バリケード、

低い壁、木箱を模した障害物が並べられている。

 

中央には通路があり、左右には回り込める狭い区画が作られていた。

 

広すぎず、初めて参加する生徒でも互いの位置を把握しやすい構成だった。

 

参加者たちは、担当者から装備を受け取った。

 

目元を守る保護具。

 

顔全体を覆うフェイスガード。

 

首元を守る布。

 

厚手の上着と手袋。

 

肘や膝へつける保護具。

 

全身を整えると、普段の制服姿とは大きく印象が変わる。

 

「思ったより本格的だね」

 

平田は自分の装備を確認しながら言った。

 

「ゲームだと、装備は見た目を選ぶだけだけど、

実際には動きやすさも考えないといけないんだ」

 

「すでにゲームとの違いを感じているのか」

 

綾小路が尋ねる。

 

「うん。立っているだけでも少し暑いし、視界も普段より狭い。走ったらかなり疲れそうだよ」

 

平田はFPSの知識をそのまま使えるとは考えていなかった。

 

ゲーム内では長時間走り続けても、操作する側が疲れるだけで、

画面の人物が息切れすることはほとんどない。

 

実際には、装備を身につけて移動するだけで体力を使う。

 

床や障害物の位置も、自分の目で確認し続けなければならない。

 

「平田、始まる前から弱気になるなよ」

 

龍園が声をかけた。

 

「弱気じゃないよ。違いを確認しているだけさ」

 

「なら、すぐ慣れろ」

 

「努力するよ」

 

平田は穏やかに笑った。

 

伊吹は保護具を身につけながら、不満そうな声を出した。

 

「動きにくい」

 

「外すなよ」

 

龍園が言う。

 

「分かってるわよ。あんたに言われなくても」

 

「顔へ当たってから文句言っても遅ぇからな」

 

「自分の心配をしたら?」

 

伊吹は電動ガンを受け取り、構えた時の重さを確認した。

 

未経験ではあるが、体の使い方は理解している。

 

最初から無理な姿勢を取らず、動きやすい位置へ調整していた。

 

綾小路も、渡されたものを静かに確認している。

 

彼が選んだのは、周囲と同じく小型の電動ガンだった。

 

派手な外観ではない。

 

取り回しと安定性を重視した選択らしい。

 

「お前はそれか」

 

龍園が尋ねる。

 

「初心者には扱いやすいと説明された」

 

「面白味がねぇな」

 

「勝負をするなら、不利なものを選ぶ理由はない」

 

「そこがつまらねぇ」

 

「龍園は何を使うんだ」

 

綾小路が尋ねると、龍園は持っていたケースを開いた。

 

中から現れたのは、長い銃身を持つ古いリボルバーだった。

 

電動ではない。

 

一発ずつ操作する必要がある、手動式のものだった。

 

周囲の視線が一斉に集まった。

 

「龍園さん、本当にそれでやるんすか」

 

見学へ来ていた石崎が驚いた。

 

今回は人数調整の関係で参加しなかったが、龍園の戦いを見るためグラウンドへ来ている。

 

「当たり前だ」

 

「周り、みんな電動ガンっすよ」

 

「見りゃ分かる」

 

「連射されたら勝てなくないっすか?」

 

「勝てるかどうかは俺が決める」

 

石崎は納得できない様子だった。

 

平田も少し心配そうにリボルバーを見た。

 

「見た目は格好いいけど、かなり不利なんじゃないかな」

 

「だからいいんだろ」

 

「どういう意味?」

 

「簡単に勝てる道具で当てても面白くねぇ」

 

龍園はそう言いながら、リボルバーを手に取った。

 

塗装は自分で調整したらしく、派手すぎない暗い金属色へ仕上げられている。

 

握る部分には、古い木材を思わせる模様が施されていた。

 

実際の性能ではなく、西部劇の中で主人公が持つ一丁を意識しているのだろう。

 

「西部劇の主人公は、そんな全身装備で戦わないと思うけど」

 

伊吹が言った。

 

「安全のためだ。そこへ文句つけるほど馬鹿じゃねぇ」

 

「その銃を選ぶ時だけは馬鹿みたいに意地張るのね」

 

「うるせぇ」

 

坂柳クラスの四人も準備を終えていた。

 

橋本は慣れた様子で装備を確認し、神室へ保護具の位置を見てもらっている。

 

「久しぶりだけど、体は覚えてるかな」

 

橋本が言う。

 

「忘れてても、そっちよりはましでしょ」

 

神室は龍園のリボルバーを見ながら答えた。

 

「本気であれ使うんだ」

 

「笑えるだろ?」

 

橋本は楽しそうだった。

 

山村は他の参加者より少し小さな体を装備で固め、静かに自分の道具を持っていた。

 

普段より表情が緊張している。

 

ただし、逃げ出したいという様子ではなかった。

 

森下は鏡代わりの窓へ自分の姿を映し、様々な角度から確認している。

 

「どうでしょう。少々、特殊部隊の隊員らしく見えますか?」

 

神室は一度森下を見た。

 

「普通に初心者に見える」

 

「率直なご意見、ありがとうございます」

 

「褒めてないけど」

 

「しかし、アクション映画における主人公も、序盤では経験不足の場合があります。

ここから物語が始まると考えれば問題ありません」

 

「何の物語よ」

 

森下は真剣だった。

 

「私たちが龍園翔率いる無法者集団を撃退する物語です」

 

「誰が無法者だ」

 

龍園が聞きつけて声を上げた。

 

「西部劇の銃を持っているので、役割として自然かと」

 

「先にお前から狙ってやる」

 

「主人公が敵から指名されました」

 

「その実況をやめろ」

 

担当者からルール説明が行われた。

 

今回は単純な殲滅戦だった。

 

二つのチームに分かれ、弾が体や装備へ当たったと本人が認識した時点で、

大きな声でヒットを申告する。

 

その後は手を上げて指定された場所へ移動し、次のゲームが始まるまで待機する。

 

無理に近距離へ寄らない。

 

相手の安全を損なう行為は行わない。

 

勝敗よりも正直な自己申告を優先する。

 

龍園側は、龍園、伊吹、綾小路、平田。

 

対する坂柳クラス側は、橋本、神室、森下、山村。

 

最初のゲームが始まる前、各チームには短い相談時間が与えられた。

 

龍園は自分の仲間を見渡した。

 

「最初から左右へ分かれる。平田は伊吹と右、俺と綾小路は左だ」

 

「ずいぶん単純ね」

 

伊吹が言う。

 

「最初の一戦だ。相手の動きを見りゃいい」

 

「龍園は前へ出すぎない方がいいと思う」

 

平田が提案した。

 

「相手は電動ガンが中心だし、そのリボルバーでは正面から撃ち合うのは不利だよ」

 

「俺へ指図するつもりか?」

 

「勝つための意見だよ」

 

龍園は平田を見た。

 

以前なら、平田の穏やかな忠告を聞き流していたかもしれない。

 

しかし、今回は自分から誘った仲間である。

 

勝負へ参加させた以上、完全に無視するのも違うと考えたらしい。

 

「分かった。最初は壁を使う」

 

「最初だけ?」

 

伊吹が尋ねる。

 

「後は状況次第だ」

 

「絶対飛び出すつもりじゃない」

 

「お前は自分の心配をしろ」

 

綾小路は障害物の配置を見ていた。

 

「山村には注意した方がいい」

 

龍園が眉を上げる。

 

「山村?」

 

「彼女は正面から来ないと思う」

 

「見りゃ分かる」

 

「存在感が薄いことは、この状況では強みになる」

 

龍園は少し考えた。

 

普段の山村は、気づけば集団の後ろにいる。

 

会話へ参加していても、誰かが名前を呼ぶまで存在を忘れられることがある。

 

同じ特徴がサバイバルゲームで働けば、

視線を集める橋本や神室の影で動き、予想外の位置へ移動できる。

 

「見つけたら先に潰す」

 

龍園はそう答えた。

 

一方、坂柳クラス側でも作戦会議が行われていた。

 

橋本は障害物の配置を見ながら、三人へ役割を伝えた。

 

「神室は俺と中央を見よう。森下は右側から回って、相手を動かしてくれ」

 

「映画でいう陽動役ですね」

 

森下が言う。

 

「そういう理解でいい」

 

橋本は森下の言葉を否定しなかった。

 

「山村は好きに動いてくれ。見つからないことを優先して、撃てそうな時だけ撃てばいい」

 

山村は少し不安そうに尋ねた。

 

「わ、私が自由に動いてもよろしいのでしょうか……」

 

「山村はその方が強いだろ」

 

「ですが、皆さんの足を引っ張るかもしれません……」

 

「気にしすぎ」

 

神室が答えた。

 

「中学の時も、あんた最後まで残ってたんでしょ」

 

「たまたま見つからなかっただけです……」

 

「それが強みなんだって」

 

橋本も笑った。

 

「普段は前へ出る必要ないけど、今日は隠れてる方が役に立つ。

山村のやりやすい方法でいい」

 

山村はしばらく迷った後、小さく頷いた。

 

「わ、分かりました。少しだけ、頑張ってみます」

 

開始地点へ両チームが移動する。

 

合図が鳴り、最初のゲームが始まった。

 

龍園は宣言通り、左側のバリケードへ向かった。

 

隣を綾小路が走る。

 

右側では伊吹と平田が別の障害物へ入った。

 

向こう側から、電動ガンの連続した音が聞こえる。

 

森下が早くも撃ちながら前へ出ているらしい。

 

「先制射撃。映画では敵の位置を探る場面です」

 

森下の声まで聞こえてきた。

 

「隠れる気あんのか、あいつ」

 

龍園が呟いた。

 

森下は明らかに目立っている。

 

ただし、彼女の射撃へ意識を向ければ、橋本や神室の位置を見失う。

 

狙いがあるのか、単に映画の真似をしているだけなのかは分からない。

 

龍園はバリケードから少しだけ身を出し、森下がいる方向へリボルバーを向けた。

 

一発。

 

弾は障害物へ当たった。

 

森下はすぐに姿を隠す。

 

「惜しいですね、龍園翔」

 

「いちいち名前を呼ぶな」

 

「宿敵感が出ますので」

 

「次は当てる」

 

龍園がもう一度狙おうとした瞬間、別の方向から連続した音が聞こえた。

 

橋本が中央から撃っている。

 

龍園は慌てて頭を引いた。

 

数発がバリケードへ当たる。

 

「龍園、左側から回り込まれている」

 

綾小路が静かに告げた。

 

「見えてんのか?」

 

「動いた影だけだ」

 

龍園は左へ視線を向けた。

 

誰もいないように見える。

 

しかし、次の瞬間、低い障害物の向こうから神室が姿を見せた。

 

龍園がリボルバーを向けるより早く、神室の電動ガンから弾が放たれる。

 

龍園の肩へ軽い衝撃があった。

 

「ヒット!」

 

龍園は大きな声で申告した。

 

ルールへ従い、すぐに手を上げる。

 

「早すぎない?」

 

伊吹の声が遠くから聞こえた。

 

「うるせぇ」

 

龍園は悔しそうに退場した。

 

最初のゲームで、彼はほとんど何もできないままヒットされた。

 

指定された待機場所へ移動すると、

担当者から安全に参加できていたことを確認される。

 

龍園は仲間たちの動きを見るため、外側から戦況を眺めた。

 

綾小路は龍園が抜けた後も慌てなかった。

 

バリケードを利用し、橋本と神室の位置を確認する。

 

電動ガンの性能を生かして無理に撃ち続けるのではなく、必要な時だけ短く射撃していた。

 

平田はFPSで身につけた知識を使い、伊吹へ相手の方向を伝えている。

 

「森下さんが右から来る。僕が見ているから、伊吹さんは中央へ注意して」

 

「分かった」

 

伊吹は返事をしながら、中央の橋本へ牽制を行った。

 

ゲームでは画面上の仲間へ簡単に指示を送れる。

 

現実では、声を大きくしすぎれば相手にも聞かれる。

 

平田はその違いへ戸惑いながらも、可能な限り短い言葉で状況を伝えていた。

 

森下が障害物から飛び出した。

 

「ここで主人公が突入します」

 

「自分で言うな」

 

伊吹が撃つ。

 

森下は慌てて体を戻した。

 

「危険な場面でした」

 

「普通に当たりそうだっただけでしょ」

 

その会話の直後、平田の側面へ弾が当たった。

 

「ヒット!」

 

平田が申告する。

 

撃った人物は見えない。

 

龍園は外から探した。

 

少し離れた小さな障害物の影で、山村が静かに体を低くしている。

 

彼女は森下の派手な行動へ視線が集まっている間に、右側から大きく回り込んでいた。

 

平田も最後まで山村に気づかなかったらしい。

 

「山村か」

 

待機場所へ来た平田が驚いた。

 

「全然見えなかったよ」

 

「綾小路の言った通りだな」

 

龍園は不満そうに答えた。

 

「存在感が薄いって、こういう時は強いんだね」

 

「本人の前で言うなよ」

 

「もちろん」

 

その後、伊吹は森下へヒットさせたが、橋本と神室に挟まれ、自分も退場した。

 

最後まで残った綾小路は、橋本へ一発当てたものの、

山村の位置を確認しようとした瞬間、神室からヒットを受けた。

 

最初のゲームは、坂柳クラス側の勝利となった。

 

全員が開始地点へ戻る。

 

森下は負けたにもかかわらず、満足そうだった。

 

「初戦としては悪くありません。序盤で敵の注意を集め、仲間の潜入を成功させました」

 

「撃たれただけじゃない」

 

神室が冷静に指摘する。

 

「しかし、私が目立たなければ山村美紀が動きにくかった可能性があります」

 

「それはそうかもな」

 

橋本は森下の意見を認めた。

 

山村は少し離れた場所で、自分の道具を確認している。

 

橋本が声をかけた。

 

「山村、平田へ当てたの良かったぞ」

 

「ありがとうございます……」

 

山村は小さく頭を下げた。

 

「ですが、森下さんが目立ってくださったおかげです……」

 

「共犯関係ですね」

 

森下が言う。

 

「共闘って言いなさい」

 

神室が訂正した。

 

龍園側では、伊吹が早くも龍園へ文句を言っていた。

 

「あんたが最初にやられたせいで人数差ができたんだけど」

 

「一回目だろ」

 

「リボルバーやめたら?」

 

「やめねぇ」

 

「一発も当ててないじゃない」

 

「次は当てる」

 

「根拠は?」

 

「俺がそう決めた」

 

「話にならないわね」

 

龍園は他のものへ持ち替えるつもりがなかった。

 

担当者から、貸し出し用の電動ガンを使うこともできると案内されたが、断った。

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