二回目のゲームが始まる。
今度は開始位置を入れ替えた。
龍園は最初から前へ出ず、低い障害物の後ろへ入った。
先ほどより慎重に動き、相手の射撃を待つ。
森下の声はすぐに聞こえた。
「第二幕では、敵が学習している可能性があります」
「お前が実況すりゃ位置が分かるんだよ」
龍園は声の方向へ狙いをつけた。
森下が顔を出す。
龍園は一発撃った。
弾は森下のすぐ近くの障害物へ当たる。
「精度が上がっています」
「褒めてんじゃねぇ」
その直後、中央から橋本の連射が始まった。
龍園は頭を引き、移動の機会を待つ。
綾小路は反対側から橋本へ圧力をかけている。
伊吹と平田は、前回よりも声を抑えて右側へ進んだ。
「FPSだと、同じ場所に長くいない方がいいんだけど」
平田が小声で言う。
「現実でも同じじゃない?」
伊吹が答える。
「ただ、ゲームみたいに簡単に走れないね」
「今さら気づいたの?」
「装備をつけたまま低く動くのは、思ったより大変だよ」
「喋る余裕あるなら前見て」
平田は苦笑しながら頷いた。
二人は森下の位置を確認し、伊吹が正面から注意を引く。
平田が少し回り込んだ。
森下は伊吹へ向けて撃ちながら、映画の台詞のような言葉を口にしている。
「ここを通すわけにはいきません」
「誰も台詞求めてない!」
伊吹が返す。
その間に平田が森下へ当てた。
「ヒットです」
森下は素直に申告し、手を上げた。
「主人公、第二幕で一度退場しました」
「最後までうるさいわね」
伊吹は呆れていたが、平田と短く笑った。
中央では、綾小路が橋本へ接近していた。
橋本は経験者らしく、同じ場所へ留まらず、障害物の間を移動している。
綾小路は射撃だけで追わず、橋本が次に使おうとする場所を予測して先に狙った。
橋本が姿を見せた瞬間、綾小路が撃つ。
橋本の腕へ当たった。
「ヒット!」
橋本は悔しそうに申告した。
「初めてでそれは反則だろ」
「動き方が一定だった」
綾小路が答える。
「一回見ただけで読むのかよ」
橋本は退場しながら笑っていた。
龍園は左側から進んだ。
電動ガンの音が減り、今なら動けると判断したらしい。
神室の位置を確認し、リボルバーを向ける。
神室も同時に龍園へ気づいた。
龍園が一発撃つ。
神室は障害物へ戻った。
再び出てきた瞬間、龍園はもう一発撃つ。
しかし、手動で次の一発を準備する間に、神室は別の場所へ移動していた。
「遅い」
神室の声が聞こえた。
別の角度から弾が飛ぶ。
龍園は身を低くしたが、一発が背中へ当たった。
「ヒット!」
また龍園が退場する。
伊吹の大きなため息が聞こえた。
「また?」
「聞こえてんぞ!」
龍園は怒鳴り返した。
二回目のゲームは、綾小路が神室へヒットさせ、伊吹と平田が山村を探す展開となった。
しかし、山村は今回も簡単には見つからなかった。
他の三人が退場した後も、低い壁と障害物の影を使って移動し続ける。
伊吹は焦れ始めていた。
「どこにいるのよ」
「声を出すと位置が分かるよ」
平田が注意する。
「分かってる」
「後ろも確認した方がいい」
綾小路が少し離れた場所から言う。
伊吹が振り返った。
その瞬間、山村が反対側から静かに姿を見せた。
一発が伊吹の腕へ当たる。
「ヒット!」
伊吹は驚きながら申告した。
「また山村?」
「す、すみません」
山村は小さな声で言った。
「謝らなくていいわよ。勝負なんだから」
伊吹は悔しそうだったが、山村を責めることはなかった。
平田も山村を探したが、別の方向から撃たれて退場した。
最後に残った綾小路だけが、
障害物へ映った僅かな影から山村の位置を見抜き、ヒットさせた。
二回目は龍園側の勝利となった。
「勝ったな」
龍園は自分が途中で退場したにもかかわらず、満足そうに言った。
「あんたはまた何もしてないけど」
伊吹が指摘する。
「チームが勝てば俺の勝ちだ」
「都合がいいわね」
「次は自分で当てる」
龍園はまだリボルバーを手放さなかった。
休憩時間になると、参加者たちは日陰へ移動し、水分を取った。
全身へ装備をつけて動き続けたため、短いゲームでも予想以上に疲れている。
平田は椅子へ座り、額の汗を拭った。
「ゲームと全然違うね」
「何が違った?」
綾小路が尋ねる。
「まず、相手がどこにいるか分からないことかな。
画面なら視界の範囲が一定だけど、
実際は首を動かさないと周囲を見られないし、音の方向も判断しにくい」
「他には?」
「一度撃たれたら終わりだから、ゲームみたいに勢いで飛び出せない。
復活もないし、仲間が減ると本当に不安になる」
平田は楽しそうに話していた。
「でも、声をかけ合って進むところは面白いね。
画面越しより、仲間が近くにいることを強く感じる」
「続けたいと思うか」
「うん。機会があれば、またやってみたい」
平田はFPSから興味を持ったが、実際に体験したことで別の魅力を見つけたらしい。
少し離れた場所では、神室が山村へ話しかけていた。
「やっぱりあんた、サバゲだと強いね」
「そのようなことはありません……」
「伊吹と平田を両方落としたじゃん」
「森下さんや橋本さんが注意を引いてくださったからです……」
山村は手元へ視線を落とした。
「私は正面から進むことができません……。
皆さんのように、相手へ向かって走る勇気もありませんから……」
「隠れて勝てるなら、それでいいだろ」
橋本が言った。
「ゲームなんだから、自分に合ったやり方でいいんだよ」
山村は少し迷った後、静かに答えた。
「サバイバルゲームの時だけは、普段より少しだけ前へ出られる気がするんです……」
神室が不思議そうに尋ねた。
「隠れてるのに?」
「はい。顔を隠して、同じ装備を身につけていますと、
普段の自分とは少し違う人間になれるような気がします……」
山村はグラウンドの障害物へ目を向けた。
「学校では、話しかけるべき時にも迷ってしまいます。
でも、ここでは仲間へ相手の位置を伝える必要があります。
黙っていれば、皆さんが不利になりますから……」
「必要なら声を出せるってことか」
橋本が言う。
山村は頷いた。
「弱い私でも、少しだけ役に立てると思えるんです……」
「弱くないでしょ」
神室は短く答えた。
「今のところ、一番面倒なのあんただし」
山村は目を瞬かせた。
それが褒め言葉だと理解するまで、少し時間がかかったらしい。
やがて控えめに微笑んだ。
森下はその会話を隣で聞きながら、深く頷いていた。
「仮面や衣装によって、普段とは異なる自分を表現する。
アクション映画にも頻繁に見られるテーマです」
「いい話を映画へ持っていかないで」
神室が言う。
「ですが、山村美紀が本日の隠れた主役であることは間違いありません」
「隠れたままでいいです」
山村は恥ずかしそうに答えた。
休憩後、三回目のゲームが行われた。
今度はフィールド中央に置かれた旗へ先に触れ、
その状態を一定時間守ったチームが勝利する形式だった。
殲滅する必要はない。
相手の注意を引きながら、誰か一人が旗へ到達すればいい。
龍園は作戦を考えた。
「綾小路と平田は中央。伊吹は右から橋本を止めろ」
「あんたは?」
伊吹が尋ねる。
「左から回る」
「また一人で?」
「ああ」
「山村に狙われるわよ」
「今度は見つける」
龍園は自信を見せた。
伊吹は信用していない様子だった。
ゲームが始まると、綾小路と平田が中央へ進んだ。
坂柳クラス側も橋本と神室が正面へ出てくる。
森下は左側で派手に射撃を始めた。
「最終決戦へ向けた総力戦です」
「まだ三回目だ!」
龍園が返す。
森下の声を利用し、龍園は位置を特定した。
リボルバーを構え、一発撃つ。
森下は身を引いた。
龍園は障害物を使い、少しずつ距離を縮める。
連射できない以上、外せば次の一発まで隙が生まれる。
それでも龍園は焦らなかった。
森下が再び姿を見せる。
龍園が撃つ。
弾は森下の腕をかすめることなく通過した。
「惜しいです」
「黙れ!」
森下が撃ち返す。
龍園は頭を下げ、障害物の裏へ入った。
一方、中央では綾小路と橋本が互いに動きを読み合っていた。
橋本は旗へ近づく綾小路を止めようとする。
平田は綾小路の反対側から進み、橋本の注意を分散させた。
神室が平田を狙う。
伊吹が右側から神室へ撃ち、前進を止めた。
短い射撃の音が連続し、全員が障害物の間を移動する。
山村の姿だけが見えない。
龍園は森下を追いながらも、周囲の小さな変化へ注意を向けていた。
前回まで、山村は他の者が撃ち合っている間に回り込んでいる。
今回も同じなら、すでに左側へ来ている可能性がある。
龍園は森下へ狙いをつけるふりをし、背後の障害物へ視線だけを向けた。
僅かな影が動いた。
「そこか」
龍園は振り返り、リボルバーを向けた。
山村が驚いたように動きを止める。
龍園が撃った。
しかし、弾は山村のすぐ横を通過した。
山村はすぐに低い壁へ隠れる。
龍園が次の一発を準備する間に、山村が反撃した。
龍園の太ももへ軽い衝撃があった。
「ヒット!」
龍園は悔しそうに申告した。
山村が障害物の向こうから、申し訳なさそうに顔を出す。
「す、すみません」
「だから謝るな」
龍園は手を上げながら退場した。
三回連続で途中退場したことになる。
待機場所へ戻ると、石崎が気まずそうに声をかけた。
「龍園さん、やっぱり電動ガンに変えた方が」
「変えねぇ」
「でも山村に二回もやられてますよ」
「次は当てる」
「次あるんすか?」
「あるに決まってんだろ」
龍園は諦めるつもりがなかった。
三回目のゲームは、綾小路が旗へ到達し、
平田と伊吹が守り切ったことで龍園側が勝利した。
しかし、龍園本人には満足した様子がない。
チームが勝っても、自分のリボルバーで誰にも当てていない。
「もう一回だ」
龍園は担当者へ言った。
時間にはまだ余裕がある。
全員の体調と装備を確認した上で、最後にもう一戦行うことになった。
形式は最初と同じ殲滅戦。
ただし、これが本日の最終ゲームだった。
開始前、伊吹は龍園へ近づいた。
「本当に最後までそれ使うの?」
「ああ」
「勝ちたいんじゃなかったの?」
「勝ちてぇよ」
「なら、もっと有利なものを選びなさいよ」
龍園はリボルバーを見た。
「これで勝ちてぇんだ」
伊吹は言葉を止めた。
龍園が単に意地を張っているだけではないことを、ようやく理解したらしい。
西部劇の中で主人公が扱う古い一丁。
子どもの頃に画面越しで憧れた形。
性能で劣ることは分かっている。
何度失敗しても、別のものへ持ち替えれば満足できない。
それが、龍園の一丁に対する情熱だった。
「好きにすれば」
伊吹は最後にそう言った。
「ただし、また最初にやられたら笑うから」
「今度は最後まで残る」
「その自信がどこから来るのか分からないわ」
最後のゲームが始まった。
龍園はこれまでのように、すぐ前へ出なかった。
最初の障害物の後ろで待ち、相手の射撃音を聞く。
右側で森下が撃ち始める。
中央では橋本と神室が綾小路たちを止めている。
山村は見えない。
龍園は動かず、誰かが自分を探しに来るのを待った。
普段の彼なら、受け身の戦いを嫌っただろう。
しかし、リボルバーで一発を当てるためには、相手が現れる瞬間を選ぶ必要がある。
森下の声が近づいてくる。
「敵が沈黙しています。西部劇では、決闘前の静けさに相当します」
「お前は黙れねぇのか」
龍園が返した。
森下が声の方向へ撃つ。
弾が障害物へ当たった。
龍園は姿を見せない。
森下は少しずつ距離を詰めた。
「龍園翔、恐怖によって動けないのでしょうか」
「挑発が下手だな」
「では、戦略的な待機ということにします」
森下が別の障害物へ移動しようとした。
龍園はその瞬間に姿を見せ、撃った。
森下の肩へ弾が当たった。
「ヒットです」
森下は大きく手を上げた。
龍園が初めて相手へ当てた瞬間だった。
「どうだ」
龍園は笑った。
「見事です。西部劇の主人公が最初の敵を倒しました」
「最初で最後の実況にしろ」
「物語が続く限り、それは難しいでしょう」
森下は退場しながらも楽しそうだった。
龍園は一人へ当てたことで、明らかに動きが良くなった。
勢いだけで前へ出るのではなく、障害物を一つずつ使いながら進む。
中央では、平田が神室へヒットさせた直後、橋本に撃たれて退場した。
伊吹は橋本を追い、綾小路は山村の位置を探している。
山村は今回も簡単には姿を見せない。
龍園は左側から中央へ近づいた。
橋本が伊吹へ射撃している。
龍園は橋本の側面を取れる位置まで移動した。
しかし、障害物の影が動く。
山村が先に龍園へ気づいた。
龍園は振り返る。
山村が撃つ。
龍園も撃つ。
二人の弾が同時に飛んだ。
山村の弾は龍園の横を通過し、龍園の弾は山村の腕へ当たった。
「ヒットです」
山村は静かに申告した。
龍園は僅かに目を見開いた後、大きく笑った。
「やっと当てたな」
「お見事でした……」
山村は控えめに頭を下げた。
「今回は私が負けました」
「次も狙ってやる」
「次も参加することがあれば、よろしくお願いいたします」
山村は以前より少し明るい声で答えた。
残る相手は橋本だけだった。
神室、森下、山村は退場している。
龍園側では平田が抜け、綾小路、伊吹、龍園が残っている。
人数では有利だった。
しかし、橋本は経験者であり、中央の複数の障害物を使って位置を変え続けている。
「三人で一人を追うのも格好悪いな」
龍園が言う。
「勝負に格好良さを求めるの?」
伊吹が返す。
「俺がやる」
「勝手にしなさい」
「綾小路、お前も手を出すな」
「分かった」
綾小路は簡単に応じた。
伊吹は不満そうだったが、龍園が何を求めているか理解していたため、
少し離れた場所で見守ることにした。
橋本も会話を聞いていた。
「一対一か?」
「ああ」
「そのリボルバーで?」
「今さら聞くな」
橋本は笑った。
「いいぜ。最後くらい付き合ってやる」
二人は障害物を挟み、互いの位置を探った。
橋本は電動ガンを持っている。
正面から撃ち合えば、龍園が不利であることは変わらない。
龍園は待った。
橋本も簡単には姿を見せない。
グラウンドが一瞬静かになった。
森下が待機場所で、神室へ小声で話している。
「まさに西部劇の決闘ですね」
「声が聞こえるから黙って」
「失礼しました」
橋本が先に動いた。
障害物の右から姿を見せ、短く撃つ。
龍園は左へ転がるように移動し、別の壁へ入った。
数発が地面と障害物へ当たる。
龍園はリボルバーを構えたまま、橋本の次の動きを待った。
橋本は同じ場所から出ない。
反対側へ回り、龍園の側面を取ろうとしている。
足音は小さい。
しかし、砂を踏む僅かな音が聞こえた。
龍園は音の方向へ体を向けた。
橋本が姿を見せる。
龍園は撃った。
一発は外れた。
橋本も撃つ。
龍園は障害物へ戻る。
次の一発を準備する。
その間に橋本が距離を詰めてくる。
「終わりだ、龍園!」
橋本が姿を見せた。
龍園はほとんど同時に身を乗り出した。
橋本が撃つ。
龍園が撃つ。
龍園の胸元へ軽い衝撃が届いた。
同時に、橋本の腕にも弾が当たった。
「ヒット!」
二人の声が重なった。
相打ちだった。
厳密には、どちらの弾が先に当たったか判別できない。
ルール上、双方がヒットを認識したため、二人とも退場となる。
最後に綾小路と伊吹が残っていた龍園側の勝利だった。
しかし、龍園は勝敗を確認するより先に、橋本へ当てたことを理解し、大きく笑った。
「ようやくだ」
橋本は腕を確認しながら、苦笑した。
「何度やられても、最後までそれを使うとは思わなかったよ」
「当たり前だろ」
「電動ガンへ変えてたら、もっと早く勝てたんじゃないか?」
「それじゃ意味がねぇ」
龍園はリボルバーを見た。
森下。
山村。
最後に橋本。
何度もヒットされ、何度も外し、それでも使い続けた。
最終的には自分が狙った相手へ当てることができた。
「満足した?」
伊吹が近づいてきた。
「ああ」
龍園は迷わず答えた。
「相打ちだけど」
「橋本へ当てた」
「自分も当てられたでしょ」
「それがどうした」
龍園は本当に気にしていないようだった。
勝敗だけを求めていた以前の彼なら、相打ちという結果へ納得しなかったかもしれない。
しかし今回は、自分が選んだ道具を最後まで使い、
狙った一発を成功させたことが重要だった。
綾小路がリボルバーへ視線を向ける。
「性能ではなく、自分が使いたいものを選んだ結果か」
「今さら気づいたのか」
「最初から分かっていた」
「なら聞くな」
平田も待機場所から戻ってきた。
「龍園くん、最後の一発は格好良かったよ」
「お前に褒められても嬉しくねぇ」
「でも、かなり嬉しそうだね」
「気のせいだ」
龍園は口では否定したが、笑みを隠していなかった。
ゲーム終了後、全員で装備を確認し、決められた場所へ返却した。
グラウンド周辺の清掃も行う。
使用した弾は環境へ配慮されたものだったが、それで放置していいわけではない。
全員で目に見える範囲を確認し、障害物の位置を元へ戻した。
森下は最後まで映画の余韻へ浸っていた。
「本日の作品には、複数の主人公が存在しました」
神室が隣で荷物をまとめながら尋ねる。
「誰が主人公だったの?」
「ロマンを貫いた龍園翔。現実とゲームの違いを学んだ平田洋介。
初参加ながら冷静に戦況を分析した綾小路清隆。
競争心によって前進した伊吹澪。そして、影から戦場を支配した山村美紀です」
「橋本と私は?」
「経験者として物語の難易度を上げる役割でした」
「敵役じゃない」
橋本が笑った。
「俺はいいけど、神室は怒るぞ」
「もう怒ってる」
神室は森下の頭を軽く押した。
山村は少し離れた場所で、その会話を聞きながら小さく笑っていた。
普段の彼女なら、大勢の前で自分の名前が話題になれば、
困ったように視線を落としていただろう。
今日は完全に隠れようとはしなかった。
「山村」
龍園が声をかけた。
山村は少し驚き、龍園を見た。
「はい」
「次は最初からお前を狙う」
「そ、それは困ります……」
「二回も俺へ当てたんだ。覚えてろ」
「龍園くんも、最後には私へ当てました……」
「次はもっと早くだ」
山村は小さく微笑んだ。
「では、見つからないよう努力します……」
その返答に、橋本が感心したように笑った。
「山村も言うようになったな」
「サバイバルゲームの時だけです」
山村は恥ずかしそうに答えた。
平田は道具を返却し終え、綾小路へ話しかけていた。
「綾小路くん、また参加したい?」
「興味深い経験だった」
「楽しかったとは言わないんだね」
「楽しくなかったわけではない」
「それなら良かった」
平田は笑った。
「僕もFPSをやる時、今日のことを思い出しそうだよ。
ゲームでは簡単にできることが、実際にはこんなに難しいんだって分かったから」
「ゲームの動き方も変わるかもしれないな」
「そうだね。前より慎重になりそうだ」
伊吹は二人の会話を聞きながら、少し不満そうだった。
「私は次、山村と同じチームは嫌」
山村が驚いた。
「わ、私が何かしましたか……?」
「敵にすると見つからなくて面倒だから、同じ側に置きたいって意味よ」
「それは、褒めてくださっているのでしょうか」
「勝手に判断しなさい」
伊吹は顔を逸らした。
山村は少し考えた後、嬉しそうに頷いた。
石崎は龍園のところへ駆け寄った。
「龍園さん、どうでした?」
「見てただろ」
「最後、橋本に当てたのすごかったっすね」
「あれくらい当然だ」
「三回くらい先にやられてましたけど」
龍園が石崎を睨んだ。
「余計なことは覚えなくていい」
「でも、やっぱり電動ガンの方が」
「石崎」
「分かりました。何でもないっす」
石崎はすぐに口を閉じた。
しかし、龍園のリボルバーを羨ましそうに見ている。
次に参加する時は、自分も見た目へこだわったものを使いたいと考えているのかもしれない。
片づけがすべて終わる頃には、夕方になっていた。
グラウンドへ長い影が伸び、参加者たちは疲れた様子で校舎へ戻り始める。
龍園は最後まで自分のリボルバーが入ったケースを手に持っていた。
部屋で塗装し、外観を整えた時にも満足感はあった。
しかし、今日の一発には、それとは違う意味がある。
自分が選び、自分が扱い、何度失敗しても諦めず、最後に相手へ当てた。
性能だけで比べれば、周囲の道具より劣っていた。
それでも龍園にとっては、このリボルバーでなければならなかった。
「龍園」
綾小路が隣を歩きながら声をかけた。
「何だ」
「次も同じものを使うのか」
「当たり前だ」
「別の道具を試したいとは思わない?」
「他のも使うかもしれねぇ」
龍園は少し考えてから答えた。
「だが、こいつは持っていく」
「一番好きだからか」
龍園はすぐに返事をしなかった。
以前の彼なら、好きという言葉を簡単には認めなかっただろう。
何かへ強い感情を向けることは、弱点を作ることだと考えていた時期もある。
しかし現在は、誰かに笑われることを理由に、自分の好みを隠す必要はない。
「そういうことだ」
龍園は短く答えた。
それ以上の説明はしなかった。
綾小路も必要としていなかった。
少し先を歩いていた森下が、突然振り返った。
「次回は夕暮れの戦場が良いと思います。
西日を背負う龍園翔と、荒野の決闘を再現できます」
「次回の演出を勝手に決めるな」
龍園が声を上げる。
「では、雨天の市街戦はいかがでしょう」
「学校でやるんだぞ」
「雪原も捨てがたいですね」
「季節が変わるまで待つつもりか」
「大作には準備期間が必要です」
神室が森下の肩を押した。
「話が終わらないから帰るよ」
「承知しました。続編の構想は後ほど整理します」
「続編って言うな」
八人の声が、夕方の校庭へ響いた。
この日は正式な特別試験でもなければ、クラスの将来を左右する勝負でもなかった。
敗れたことでポイントを失う者はいない。
途中でヒットされても、次のゲームが始まればもう一度参加できる。
それでも、全員が真剣に動き、相手の位置を考え、
仲間へ声をかけ、一発を当てるために集中していた。
平田はゲームから始まった興味を現実の体験へ広げた。
伊吹は未経験ながら競争心を武器に前へ出た。
綾小路は初めての状況を分析し、新しい遊び方を理解した。
橋本と神室は経験を生かし、初心者たちを相手に勝負を楽しんだ。
森下はアクション映画の世界を自分なりに再現し、
山村は普段より少しだけ前へ出ることができた。
そして龍園は、効率や性能よりも自分が愛するものを選び、
何度失敗しても手放さなかった。
最後に橋本へ当てた一発は、勝敗全体を決めたものではない。
相打ちであり、龍園自身も退場している。
それでも、彼にとっては十分だった。
好きなものを使い続けた末に得た一発は、
簡単に勝てる道具で得た結果よりも、はるかに大きな満足を与えた。
アニメやゲーム、漫画や模型だけがオタク文化ではない。
映画から憧れた道具を手に取り、外観を整え、
安全な遊びとして仲間と体験することも、一つの楽しみ方だった。
高育へ広がった新しい文化は、画面や本の中だけに留まらず、
生徒たちの行動や人間関係まで変え始めている。
グラウンドに設けられた小さな戦場では、龍園翔が愛するリボルバーを握り、
不利も失敗も笑い飛ばしながら、誰より楽しそうに一発の命中を喜んでいた。
そして、学校全体を包むアニメブームは、
反対していた人間さえ巻き込みながら、さらに大きく広がっていく。
次に変わろうとしていたのは、作品を見る側の生徒たちだけではなかった。
自分自身が画面の中へ入り、
誰かへ楽しさを届けようとする者たちが現れ始めていた。
その中心にいたのが、校内で誰より多くの人間から好かれ、
二つの顔を使い分けてきた櫛田桔梗だった。