魔法 : 【選択肢】   作:ゴリラの右地区美

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クリアしたので初投稿。



魔法 : 【選択肢】

 

「あ、あの……おはよう、ございます……!」

 

目が覚めたらコスプレした女の子が居た。何て名称なのか分からないけど…修道服?とか、シスター服とか呼ばれてそうなフード付き衣装だ。

 

寝る前はボロアパートで明日の入学式に備えていた筈だけど……死んだか?あのクソアパート、いつぶっ潰れても可笑しくなかったからね。

遺したモノもないし、別に構わないけど。いや、スマホのデータだけは消させて欲しい。切実に。流石にヤラシイ情報を現世に遺して死ぬのは躊躇われる。

 

「………で、どなた様?ここは何処?」

 

「わ、私は……氷上メルル、です……その、えっと……目が覚めたら、閉じ込められていて…」

 

「ナルホドな。もっかい説明して?」

 

「えっ」

 

「やっぱいいや」

 

「えっ」

 

情報をアップデートする。ボロアパートが壊れて死んだ線を否定。だって普通に息をしてモノを考えてるんだ。死んだって考えるのは酷く()()()だ。生きている現実の方がお辛いのだから、そっちを選ぶ。

 

改めて身体を起こし、辺りを見渡す。まず目に入ったのは鉄格子。そして石の壁や床……端的に換言して監房だ。

監房。つまりは囚人を捕らえる籠。俺は何か罪を犯しただろうか……やっぱ違法叡智サイトを見ていたのがダメだったか。んなわけないよな……ないよな?

 

「えっと、名前なんだっけ」

 

「め、メルルです…」

 

「じゃ、メルル。違法英智サイトとか見た?」

 

「えっ?えいち、さいと……って、なんですか…?」

 

「あー…ごめん、何でもない。君には早かったらしい」

 

違法栄智サイト……言い換えるの面倒いな。エロサイトを見てたのは原因じゃないらしい。

 

取り敢えず状況を知りたくて少しメルルと話してみた。俺は昨晩、いつも通りボロアパートで寝た。敢えていつもと違う所を上げるなら、次の日が高校の入学式だったという点のみ。

メルルも似たような状況らしい。住んでる場所や通う予定だった高校は隠されたけど、初対面の男にベラベラと喋るほど楽観的でもなかったのだろう。

 

後、いつの間にか着替えさせられていた。深いフード付きの灰色のポンチョに、その下には黒いセーターと同色のパンツ。ポンチョが無駄にオーバーサイズなので全身を覆えるから、最悪裸でも彷徨ける。しないけど、()()しなければ。

 

「それでナー、両親が無理心中を―――ん?メルル、今だれかの声がしなかった?」

 

「…した気が…?」

 

情報収集を兼ねて世間話をしていると、鉄格子の向こう、左側に拡がる通路から複数人の声がした。怒鳴り声、悲観の滲む声、隠しきれない困惑の声。

 

メルルが妙に落ち着いていたから釣られていたが、普通は拉致監禁されたら()()()()。大きな声を上げて感情を露わにするし、落ち着いている方が例外だ。

 

声に耳を傾けていると、ノイズ音が混じる。この古めかしい監獄に似つかわしくない機械音……咄嗟に目を向けたのは監房に不似合いなモニター。二度、三度、ノイズが走り画面に光が灯る。

 

「わお、個性的なフクロウ」

 

《あ……もしもし……映像って見えてます……?何せ古くて故障が多いので……やれやれ》

 

特徴的なフクロウだった。左右で大きさの異なる眼の紋様、頭をギリギリ覆うフード、深い蒼のブローチは洒落のつもりなのだろうか。

兎に角変な生き物なのだが、最も可笑しいのは言葉を扱っている点だ。シルエットは可愛いのだが、造形の一つ一つも不気味としか言いようがない。

 

映像越しでは断言出来ないが、生の肉体を持った生物なのだろう。

 

メルルは映像を見上げているが、不思議と表情は読めない……俺がこの少女について詳しくないのもあるが、そも、肉親ですら理解が及ばない俺が他人の感情の機微を察せる道理もない。

無論、情報としてなら二つの感情で括りに出来るのだが。『倦厭 』と『渇望』……果たしてフクロウを捉えてない瞳で何を考えているのか。やっぱり他人は難しい。

 

此方の様子は伝わっているのだろうか、フクロウは我関せず、といった様子で義務的に言葉を続ける。

 

《私、ゴクチョーと申します。詳しい説明がしたいので、ラウンジに集合してください。監房の鍵を開けますので、看守の後を着いてきてください…抵抗とかは自由なんですが……命とかなくなっちゃうので……はい………》

 

「ひぅ……!」

 

「めっちゃ脅すじゃん」

 

抵抗は無駄だと断言するくらいなのだから、看守と呼ばれる存在に余程自信があるのだろう。或いは牢獄のシステムが完璧なのか……考えていても仕方がない。

 

ゴクチョーと名乗ったフクロウは、監房の鍵を開けると言った。ならば外にいるであろう看守に従う他ない。思案とすら呼べない一方通行な考えに耽っていると、ガシャリと鍵の開く音がした。

ついでに超長身のバケモノが監房の前を横切ったが、まあ、人であれ人外であれ中身は皆総じてバケモノだしケダモノだ。無視して牢を出た。

 

牢の外は相変わらずヒンヤリとした空気だ。看守はずっと前に進んでいて、通路には幾つもの鉄格子があった。やはり俺とメルルの牢屋は端だったらしい。

どうやら看守の通り過ぎた牢から順に鍵が開いているようで、次々と開かれた部屋から人が出てくる。

 

そして()()()()()()()()()

 

刹那の刻。選択と同時に、俺にしか見えないソレは空気に霧散した。

 

「……ふむ。メルル、アレを見たまえ」

 

「えっと……」

 

「女の子しか居なくない?肩身狭いよ、俺」

 

「……そ、そうなんですね…」

 

「だからさ、()()()()()()()()()?」

 

「っ!……その、あの…私に言われても……」

 

「……だよナ〜」

 

適当に選択してみたが、ハズレだったらしい。俺の脳みそは何かしらの答えを得て出力したのだろうけど、浅瀬でモノを考えてる俺の自我は答えの内容は教えてくれないのだ。

 

まあ、別に帰りたくもないから構わないけど。ポンチョのフードを深く被り直し、歩を進める。死にたくはないから看守について行くしかない。

 

変な質問をしたからか、メルルから若干距離を置かれてしまう。警戒されてしまったのだろうか。

 

緩やかな歩幅で余裕があるので、フードの隙間から全員を観察してみる。皆、顔色は悪いし現実感がないからか脚もフラついている。中には揉めている少女も居るし、めっちゃこっちを見てくる青髪も………うわ、満面の笑みだ。一人だけ元気そうなヤツはスっと隣を歩き始める。

 

「こんにちは!」

 

「わあ、良い挨拶。どうもこんにちは。お金なら持ってないよ」

 

「奇遇ですね、私も虫眼鏡くらいしか持ってませんよ?」

 

なんて言うんだっけ……鹿撃ち帽?と、インバスコートを着た少女。得意げに虫眼鏡を見せてくるから、探偵のコスプレっぽい。

他の皆もロリータ衣装だったり改造制服だったり、ジャンルがバラバラなのに何処か一貫性を感じる衣服に身を包んでいる。とても良い趣味をしている。

 

探偵コーデの少女はまるで俺の瞳の裏でも覗くように、淀みなく見通して口を開く。

 

「どう思います?」

 

「緩めで(ぬる)めの拉致監禁。何かしらのルールはありそうだけど」

 

「ですよねー。名探偵シェリーちゃんもそう思います!」

 

「あーね?んで、名探偵シェリーちゃんはなんで俺に声掛けたの?逆ナンなら茶に付き合うけど。会計は任せたぜ?さっきも言ったけど金は持ってないから」

 

「では二人で食い逃げですね!……うーん、声をかけた理由……面白そうだから、一人だけ男の子だから、ついでに()()だったから…とかですかね?」

 

「うへ」

 

シェリーは取って付けたようにケラケラと笑う。何とも俺と同じ笑い方で、大凡の察しはついてしまった。

 

コイツは他人の気持ちも自分の感情も分からないし理解する必要もないと割り切っていて、でも人の群れに馴染もうとしている。

だから【感情】を【情報】として処理し、軽々しい仮面として出力される。要するに道徳心がない……と言うよりは重要視していない、の方が正しい。

 

現代社会で生きていれば誰もが理解し、強要される道徳。それを第一に生きないと淘汰される。様々な思考の中でそれを優先しろとプログラムされた社会的動物、そこから逸脱した不適合者こそがシェリーであり俺だ。育った環境が悪かったネ、の一言で済む話でもあるけど。

 

「長生きできなそーね、お宅も」

 

「意味とか意義とかあるなら、ちゃんと長生きしたいですよ?名探偵は老いてからが本番なんです!」

 

「そりゃあ何より。じゃあ俺も名探偵に就職するよ、ホームズちゃん」

 

「むむっ、ライバル出現!?」

 

「シャーロック・ホームズのライバルならジェームズ・モリアーティになっちゃうんだけどね。犯罪組織の首謀者って肩書きなら、ここに囚われても可笑しくないけどさ」

 

残念ながら、俺に逸脱した頭脳なんてモンはない。いや、考えようによっては一時的に()()とも言えるのだが………閑話休題。

 

シェリーと話しながら道中を観察するが、階段を上がってから建物の雰囲気が一変した。どうやら監房は地下にあったらしいので、今は一階に居る。

地下は物々しく、物悲しく、死の気配を濃密に感じる空間だったのに対し、洋館のような内装の此処は不気味ながらも豪奢で、片付けられてはいるが過去の生活感が見える。

 

相変わらずシェリーは気圧される雰囲気もないし、むしろ楽しそうにキョロキョロとしている。楽観的なヤツだ、と視線を向けているとシェリーも此方をジッと見てくる。

 

「なんだかワクワクしてきますね!後で探検とかしても良いんですかね〜?まだ上にも階がありそうですし、もしかしたら隠し部屋とかも!」

 

「結構広そうだよナ〜。老朽化は進んでるけど手入れはされてるし、モニターとかオートロックとか、所々に古臭い内装には不似合いな設備もある。拉致軟禁だけど、衝動的じゃなくて連続性の伴う計画なんだろうね。おっ?繰り返される悲劇と洋館って、名探偵っぽくない?」

 

「はえ〜、よく見てますね。でも確かに、広いのに掃除は行き届いてますし生活感の名残もあるような……まるで、私たちの前にも誰かが囚われていた、なーんて可能性もありますよね」

 

「……そのキャラで阿呆じゃないんだ」

 

「名探偵シェリーちゃんですので!」

 

そろそろ周りの目がキツくなってきた頃、やっと看守が部屋に入る。フクロウが言っていたラウンジなのだろう。

 

圧迫感があり、艶美な雰囲気を孕む空間――高々とした天井から吊るされるシャンデリア、紅い絨毯に大きな暖炉。

壁にはクロスボウが飾られ、本棚には本の他にも骸骨や謎の壺、骨董品が並んでいる。壁に飾られた無数の悪魔の頭蓋骨は悪趣味の一言に尽きる。てか実に雰囲気があって心擽られる。

 

改めて被害者らしき少女たちを横目に見た。一貫しているのは俺以外が少女なのと、誰かの趣味に合わせたような衣装。一様に俺に対して疑いの目を向けているのは少しばかり疎外感を覚える。

 

んで、自称名探偵様は近くの少女に絡んでいた。

 

「うーん!すごいことが起こってるのを感じます!高ぶっちゃいますよね〜!!」

 

「え、う、うん……?」

 

細身で、灰色で毛先が桜色の頭髪が特徴的な少女。ボーイッシュ寄りの中性的で、何よりも印象的なのは、彼女が監房の前で別の少女と揉めていた光景だ。

膝には軽く擦りむいて血が滲んでいるが、気にする素振りはない。それよりもシェリーに握られている手が痛いらしい。案外握力が強いのだろうか。

 

少女達の戯れに混じるのも気が引けるので距離を置こうとしたが、突如として放たれる甲高い声に足が止まった。

 

「なぁにが、高ぶっちゃいますよね〜!ですわ!!やべーことになってるんですわ!アナタもそこのアナタも!もっと危機感を持った方が良いんじゃないかしら!?」

 

「え、俺も…?」

 

「当たり前でしょう!?ずっとずっと、道中ずっと緊張感のない会話を目の前でしやがってましたわよねぇ!?」

 

「怒るなって。ほら、飴ちゃんあげるから」

 

「むぐっ!?」

 

ロリータ衣装の似非お嬢風味な巻き髪ツインテールに絡まれたので飴をぶち込んでおいた。さっき拾ったポーチから出てきた飴だ。なんか無限に飴が出てくるんだけど、どういう原理なのだろうか?

 

ついでにシェリーと、シェリーに絡まれてた少女にもあげた。自分で食べた感じは毒じゃなかったし、多分大丈夫だろう。知らんけど。

巻き髪ツインテは口にモノを入れた状態では話さないらしく、ガリガリと噛んでこちらを睨み付けている。何とも個性的な人達だ。

 

「フフッ…」

 

「い、今笑ったのは誰でやがりますの!?」

 

「こっち睨まないで?そんな上品じゃないし、笑うならもっと鬼の首を取って小馬鹿にしたように下品に笑い転げるからさ」

 

「悪質!?」

 

「――いや、すまない…彼じゃなくて私だよ。少し変わった喋り方だと思ってね」

 

仕切るのか得意そうな人が出てきたので、流れを任せて看守に目を向ける。相変わらず一言も発しないが、部屋全体を俯瞰出来る位置に立っているのは、逃亡者が出た際に捕まえる為だろう。或いは、手に持ったデスサイズで殺す為か。

 

目を瞑って【選択肢】を発動させると、浮かぶのは二つ。

 

 

《☆【看守】を倒して逃げる!》

 

《☆黙って待機……》

 

 

………まあ、任意発動かつ、看守と洋館の情報が不足しているならこの程度の【選択肢】しか表示されないか。

取り敢えず看守に逆らうと明らかにBAD ENDなので普通に《黙って待機……》を選択した。選択肢様からも、余計な事はするなよとのお達しだろう。

 

待機すること数分、彼女達の自己紹介を聞きながら事態の変化を待っていると、部屋の通気口から鳥の羽ばたく音が響く。

前列にいた俺は真っ先に気付けたが、少女達は誰も反応がない。自己紹介の最中で、しかも不気味な洋館の一室だ。気を紛らわせて現実逃避だってしたくもなる。

 

「――さて、次は君の名前を聞いても良いかな」

 

長身でキザな少女、蓮見レイアは努めて明るく振る舞い、出来上がりつつある輪に俺も迎えようとしていた。或いは、男を迎え入れる事によって、優しく寛容な王子のイメージを得ようとしているのか。相変わらず他人の気持ちは分からない。

 

然し残念ながら、応える時間はない。

 

「後でいい?怪鳥がお出ましでしてね」

 

言い放った直後、天井付近の通気口からゴクチョーが現れる。モニターで見たのと寸分違わぬバケモノだ。

 

「あっ……人がいっぱい……えっと、改めまして……この屋敷の管理を任されているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します………定時とかもあるので、さっさと説明していきますね…」

 

まず初めに、と区切り。ゴクチョーはあっけらかんと言い放つ――

 

「皆さんは……【魔女】になる、因子を持っています……エラい人が決めた話では、【魔女】はこの国にとって厄災をもたらす悪らしいんです……」

 

「あらま」

 

「ふむふむ!」

 

あまりにも予想外。王道RPGが好きなので非常にワクワクする単語だ。隣を見るとシェリーもニッコニコ。反対の隣では巻き髪ツインテがドン引きしてた。

 

その後の無駄に長々しいフクロウの話をまとめると、こういう事らしい。

 

・【魔女の因子】を持つ俺らは国の法に基づいて検査され、この場に囚われた。

 

・俺達はいずれ【魔女】になる可能性がある。

 

・囚人として、ここで余生を過ごさせるつもりらしい。

 

・【魔女】になった者は【なれはて】となり、【看守】と同じ存在になる。

 

誰だ王道RPGとか言ったやつ。パンデミックデスゲームじゃねぇか。男なのに魔女化するって所がパンデミックっぽいよね?ガハハ、と一人で笑ってみたり。また巻き髪ツインテにドン引かれた。

 

今後はこの洋館で暮らすとの事だが、肩身が狭い事に俺だけが男だ。色々と身の振り方を考えていると、声が響く。

 

「――間違いです。私は悪じゃない」

 

凛としているのに、不純な淀みを感じる声質。はて、名前は何だっただろうと数分前を遡る。

 

――――二階堂ヒロ。綺麗な黒髪に赤い瞳の少女。先程同室の囚人と揉めていた少女でもある。

 

彼女の声には絶対的な自信が滲み、迷いがない。そのような性質なのか、あるいは現実に思考が追い付かず自暴自棄になっているのか。とても理性的に見えるのに、然しナニカが違っても見えた。

 

「この国に災厄をもたらす危険因子は、この子の方だ」

 

二階堂ヒロの視線は桜羽エマを刺して――否、もっと奥だ。まるで彼女なんて眼中には無いと言わんばかりに、部屋の奥に展開される闇、不気味に立ち尽くす看守に向けられていた。

 

俺は二階堂ヒロを知らない。だから、彼女の行動が普段通りなのか異常事態なのかが分からない。でも、バケモノと成り果てた看守を『この子』と呼ぶのは紛れもない憐れみであり慈悲だ。

無論、その慈悲は【なりはて】と成る前の子供に向けられていたのであって、看守になり俺達の前に立ち塞がるバケモノは悪であり災害であり、危険因子であると断言している。

 

「はぁ〜〜……あの、頼みます……悪者を受け入れてください……私は残業したくないですし、みんな平和に楽しくが良いので……」

 

「間違っている。私は悪じゃない。この世を正すことが出来るのは、私だけだ。私は世の悪を排す。まずは――」

 

少女は迷うことなく暖炉に立て掛けていた火かき棒を手に取り、桜羽エマの方向――その奥に居る【看守】に振り掛かる。

 

「悪は死ね!死ね死ね死ね!!」

 

迸る敵意は純粋な暴力として出力され、看守に何度も何度も火かき棒が振り下ろされる。グジョ、ベチョ、生々しい殴打音と狂笑いが部屋を支配する。

先程までは冷静だった少女が豹変して、看守を滅多打ちにしている現状。血や肉が飛び散り、彼女を赤く染める。それでも二階堂ヒロは止まらない。

 

これほどの狂気、一瞬前までは無かった。それに、重いはずの火かき棒を一般人の少女が軽々と振り回しているのも変だ。

 

ってのは極論、どーでもよくて。

 

……………飛び散った血肉が俺にかかってんやけど。そりゃそうだ、俺って最前列に居るんだもの。

 

気持ち悪いから下がろうとした瞬間、ゆっくりと看守の鎌が持ち上げられる。少女に滅多打ちにされながら、然し効いた素振りも見せずに、ただただ事務的に振りあげられたデスサイズは横薙ぎに二階堂ヒロの首へと吸い寄せられ――

 

 

――刹那、刻が停滞する。

 

………まさかまさかの、ここで【強制選択肢】だ。こうなると【選択】するまで五感はシャットアウトされ、時間も止まり、浮かび上がる【選択肢】のみが在る。

 

 

 

《☆ナノちゃんを盾にしよう!看守が止まるカモ?》

 

《☆ヒロを助けよう!ついでに胸も揉む》

 

《☆メルルの胸を揉みながら盾にする》

 

 

 

……ナノちゃんって誰やねん。や、この場の誰かなんだろうけどさ……仕方ない、二階堂ヒロを揉むか。いやいや、仕方ないのよ?ナノちゃんを犠牲にする訳にもいかないし、おっぱいも揉みたいし、メルルも盾には出来んし、おっぱいも揉みたいし。

 

【強制選択肢】の場合、【当たり】と【外れ】がある。【当たり】は滅茶苦茶良い事があったり、事態が有利に進んだりする。【外れ】は……まあ、少なくとも良い事は起こらない。死んだ覚えはないけど、怪我したり不幸になったり……漠然とした【悪いこと】が起こる。

 

吉と出るか凶と出るか。

 

選択するのは二つ目。二階堂ヒロを助けて胸を揉む。決して下心ではなく、仕方なく渋々と消去法で選んだので悪しからず。

 

 

――そして、世界は動き出す。五感は元に戻り、看守の鎌が振り抜かれる瞬間。

 

「ふんぬらば!!」

 

少女の後ろから胸に手を回し、身体ごと後方に倒れ込もうとして――鼻柱に()()()()()が当たる。慌てて二階堂ヒロから手を離し、持ち上げたソレは……

 

「………あーあ、やっぱ【外れ】かぁ」

 

血に汚れた二階堂ヒロの頭部だった。彼女の身体から離れ、既に絶命した少女の亡骸。一瞬だけ目が合い、様々な感情の交差が読み取れたが……二階堂ヒロの死亡よりも、彼女の血で身体がベチョベチョな事が何よりも不快だった。

 

まあ、そりゃそうだ。人外のスピードで振るわれた鎌が当たる直前に動き始めたんだから、身体に触れる頃には首チョンパよな。残念ながら胸は揉めませんでした。

 

「あ、ああ……ヒロ、ちゃん……?」

 

桜羽エマは困惑の後、慟哭する。何となく彼女が憐れで、俺は腕に収まっている少女の頭部を優しく床に置いた。流石にこの雰囲気で投げ捨てるほどアホではない。

 

部屋が阿鼻叫喚となる中、やはりシェリーだけはニコニコと興味深そうに此方を見ている。どうせ内心、殺人事件に興味を唆られているのだろう。ものすごく呑気だし、当然俺も他人の事は言えない。

 

「うわ〜……死んじゃいましたね……掃除しなきゃ………ああ、でも魔女はこんな事では死なないので、彼女は魔女ではないことが証明されましたね……やれやれ…良かったですね……」

 

「良くないよ?俺の服、血だらけなんだけど……替えの物ってある?」

 

「……あー、はいはい……後で、看守に届けさせますから……はぁ……結局、仕事は増えるんですね…やれやれ」

 

酷く憂鬱そうにゴクチョーは独り言を洩らす。嘆きたいのは、看守の血肉を浴びた後に同年代の少女の鮮血をぶっかけられた俺なんだけどね。

粘質を帯びる血をポンチョの袖で拭い、深い溜息をこぼす。期待はしていなかったけど、此処もあまり外と変わらなそうだ。

 

「――あ、あと何個もすみません……最後に、もっとも大事なことを伝えておきます。魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄想に取り憑かれます。面倒なことに、いずれ囚人間で殺人事件が起こるんですよ」

 

再びシェリーの目が輝く。聞きました?聞きました?と言いながら俺の肩を揺さぶる……血で汚れてるけど大丈夫なん?てか力、強くね?肩外れそう。

 

「――と、言うことで。殺人事件が起こり次第、【魔女裁判】を開廷します……【魔女】になった囚人は…その……処刑しますので……詳しくは【魔女図鑑】をご覧下さい……では、私はこれで……」

 

血腥いまま御開となり、それぞれ部屋に戻るように指示を受けた。ついでにシャワーだけは許可してもらった。

 






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