魔法 : 【選択肢】 作:ゴリラの右地区美
初投稿。
あの後、シャワーを浴びてから監房に戻ってきた。血肉の臭いは取れたケド、毛先に付いた二階堂ヒロの血だけはずっと落ちなかった。いや、血は落ちてるけど、何故か血の色が移った……なにこれコワイ。
でも、ちゃんとお湯も出続けるから、牢屋敷はボロボロな洋館ではあるけどある程度良い設備は揃ってるっぽいのでかなり過ごしやすい。少なくとも、俺ん家よりは。ボロアパートやし。
監房では当然ながらメルルが待っていた。男女で別室とかして欲しいんだけどね。
「あ、その…おかえり、なさい……です」
「ただいまー。大変な一日だったね。災難災難。俺、血の臭いとかあんま好きじゃないんだよなぁ。髪先に付いたヤツ、洗っても落ちなかったし……えーっと、次の自由時間っていつだっけ?」
「17時から、ですね…」
「あら詳しいのね。凄い、もうルール覚えたんだ。俺はまだ、魔女図鑑を見ないと把握出来てないよ」
「……………」
時計なんてモンは牢屋にはないが、我らが文明の利器、スマホがあれば何処でも時間の確認が可能なのだ。全員分あって、それぞれの衣装に似合うカバーまで付けられている。
今の時刻は16時過ぎ。暇が出来たので改めて端末を操作して中身を確認してみる……とはいえ、当然圏外なんで外に電話なんて出来んけど。
スマホにはトーク機能と【魔女図鑑】という名の情報整理アプリがあるくらい。【魔女図鑑】だが、魔女の図鑑と言うだけはあり、ある程度の俺達の情報は最初から記録されているらしいけど……明らかに情報が足りてないし、自分で書き足していくタイプだ。
後はマップだったり、この洋館――牢屋敷でのルールだったり。比較的自由ではあるが、飽くまでも拉致監禁だ。時間で行動は規制されるし、破れば懲罰房行きだ。まあ、懲罰房も少し気になるから、殺されたりしなそうならルールを破ってみよう。
……トーク機能も使ってみたいケド、直接連絡先を交換しないと使えないらしい。不便だな…どうせ限られた人数しかいないんだし、最初から登録してくれたら良いのに。
寝転がってスマホを弄っていると、下のベッドから遠慮がちに声を掛けられた。
「あの……その、大丈夫ですか…?」
「何が?」
「ひぅっ…!だ、だって……さっき、たくさん血を浴びて……」
「あー、なるほどナ〜?看守の血肉に、二階堂ヒロの鮮血シャワーね……え、もしかしてまだ臭い?頭から浴びたからネー、完全には落ちなかったし。ごめんごめん」
「そ、そうじゃなくて……いえ、ご、ごめんなさい…」
……何とも不思議な少女だ。確かに俺は他人の気持ちなんて分からんしシェリーの様に理解面を貼っつけて感情表現をする努力もしないけど、情報としては理解しているつもりだ。
もし目の前に居るのが桜羽エマか蓮見レイアなら、俺の精神を心配して声を掛けているのだと理解もする。人間が感情を動かすのは、同感、共感による感化だ。
自分が相手の立場なら、とても傷付く。だから相手もショックを受けているハズ、そうだ励まそう。それが道徳心をプログラムされた社会的動物の在り方。
でもメルルは、大してショックを受けてなかった。悲鳴はあげてたし震えてもいたけど、『恐怖』や『困惑』の感情は感じなかった。感情を情報に変換して理解面しているから、そう受け取れる。
とっても簡単に言うと、言葉と感情がズレてる。
だからメルルが問い掛けた『大丈夫ですか?』の意味は俺には分かんない。言葉のまんましか受け取れない俺に、裏を孕んだ質問なんてされても見当違いの答えしか返せないのだ。
やっぱり他人の心なんて分からないし、ましてや自分の気持ちすら理解出来ない。もっと簡単に、勇者が世界を救うゲームみたいに、感情を文字や言葉にしてくれたら良いのに。正義を掲げたり、悪を貫いたり…ロールに全うしてくれないと誰も幸せにはなれない。
それっきり、メルルとの会話は途切れてしまった。
「…………ん?」
スマホで【魔女図鑑】を眺めている事、約一時間。スマホから梟の鳴き声の通知音が鳴った。上から降りてくるバーをタップすると、メッセージアプリに飛ばされる。
メッセージの主はゴクチョーだった。
内容は夕食の時間と、食堂へ集まるようにとの事。でも規則によると今――17時からは自由時間となっている為、別にわざわざ食堂に行かなくとも規則違反にはならないだろうが――
「んー、腹は……減ってるカモ」
「い、一緒に食堂に行きますか…?」
「そやねー。おててつないで、鼻歌でも歌いながら行こっか」
「えっ」
「やっぱいーや。先に行ってるねー」
「えっ」
ローブを深く被り直して牢を出る。
通路に出ると、既に何人かの少女の背中が見えた。自由時間と同時に行動を開始したのだろう。牢は外から丸見えなので、一応目を逸らしながら階段に向かうと、丁度横から鉄格子の擦れる音が鳴る。
浅く横目を向けると、レイアが片手を上げて此方に歩み寄って来てる。偶然を装ってはいるけど、内からも外が見える牢屋なので、普通に俺を待っていた可能性が大きい。
「うっす」
「やあ、さっきは災難だったね…大丈夫かい?」
……うん、これは分かる。メルルと違って、共感による感化、想像による確信を得て心配している人の思考回路だ。人間的で既知の人間性だ。
「まあ、生きてるだけで災難なんだ。血ぃ被るくらいしゃーないって割り切ったヨ」
「そうか……いや、すまない。あの場でヒロくんを守ろうと動けたのは、キミだけだ。結果はどうであれ、キミの行動は皆の心に勇気を与えたと、私は思うな」
「大袈裟だなぁ」
随分と此方を立ててくれるモノだ。
……この状況で、おっぱいを揉む為に助けようとしました、なんて言えないよな。ま、少なくともナノちゃんを盾にするよりはマシな結果だろうけど……てかナノちゃんって誰かなんだよ。まだ4人くらいしか名前覚えてないんだけど。
でも、あの行動で信頼を勝ち取れたなら案外【当たり】の選択肢だった可能性が出てきた。ナノちゃんを盾にするのは当然【外れ】だろうし、メルルを盾にするのも……あ、でもメルルは【治療】の能力?魔法?的なモンを使えるんだっけ……次何かあったらメルルを差し出すのもアリかも?
ごく稀に全ての【選択肢】が【当たり】な場合もあるけど……この場で考えるだけ無駄だね。
「あの後、キミがシャワーを浴びに行ってから少しみんなで話したんだ。大人しくゴクチョーに従うか、脱出を目指すか。それで二つのグループに別れてしまってね……キミは、どうしたい?」
「あー、ナルホドなー?グループ分けが好きなのね、熱心だこと」
「そうじゃない……とは言えないね。こんな状況なんだ、みんなで協力して生き残りたいと思うのはおかしいかな。その際に意見が別れるなんて、学校でも社会でも有り触れてるじゃないか」
「社会を持ち出してくるなら、俺も同じことをするぜ?保留するし、検討することを検討するし、ライブ感で巻かれる方を変える。極論、一日目で決める事じゃあねぇってコト。もっとも、グループの本懐が目的の共有じゃなくて格付け、立ち位置、己の在り方の操作だってなら俺は
「………案外捻くれてるね、キミは」
「自分のケツは自分で拭きたいだけさね」
「それも、答えの一つか……じゃあ私は、いつかキミと運命共同体となれる事を願ってみようかな」
「生粋のギャンブラーだなぁ」
「自認は堅実家なんだけどね」
クスクスと優雅に笑う自認堅実家、蓮見レイア。一体彼女の執着は何に向けられているのか……実に難問だ。まだまだ本音の一部すら見えてこなのだから。
食堂に着くと、既に複数人が居た。皆一様に部屋の探索をしているから、警戒心か好奇心の強い連中なのだろう。
皆と同様に俺とレイアも別々に部屋の中を周る。
荘厳な屋敷の雰囲気は食堂でも相変わらずで、紅い壁に複数の光源。机は複数あるけど囚人番号や名前は書いてないので、席は決められて無さそうだ。
食事は壁際の長机にずらりと並べられている。これも同様に指定が無く、大皿に大量の料理をまとめている形だ。所謂バイキング方式というヤツだろう。
後は特段、変わったモノはない。看守は食事まで監視には来なそうだし罠や隠しギミックも無さそう。やっぱり拉致監禁にしては緩い。
安心して食事出来る環境ではあるらしいので適当な席に座ると、隣りの席に誰かが腰を掛けた。鳥の付いた鹿撃ち帽にインバスコートが特徴的な青髪。シェリーだった。シェリーの隣りには巻き髪ツインテール……遠野ハンナが訝しげな、それでいて同情的な目で此方を眺めている。
「こんにちは、ライバルさん!」
「こんにちは、お二人さん。てか変な呼び方しないで?お兄さん思春期だから恥ずかしいのよ」
「全然恥ずかしそうじゃねぇですわよ………はぁ、あなただけ自己紹介をしてませんことよ。情報を開示しないと【魔女図鑑】も更新されませんの」
「あれ?そーだっけ……じゃあ改めて。立花家のカエデさんだよ。シクヨロー、シェリー、ハンナ」
「わあ、私と同じ苗字なんですね!」
「字が違うぜ?俺は立つ花で立花、キミは柑橘の方の橘。勉強になったネ」
似たような内面に、似たような苗字。大して面白くもないのに、二人でケタケタと似たように笑う。果たしてコレはどんな感情で、何て名前で呼ばれるモノなのか。
少なくとも、俺もシェリーも、お互いに共感なんてしてはいないのに相互理解はしている。もし明日、どちらかが死んでも悲しくはないけど、惜しくはある。その程度の関係だし、素晴らしい間柄だ。是非仲良くしたい。
「カエデさん、一応聞きますけど……大丈夫ですの?」
「シェリー以外、会う人みんなに聞かれるなぁ。大丈夫大丈夫、
「えっ…?」
「おおー、カエデさんは目の前で殺人が起きたことがあるんですね!ではでは、今回の件についての見解は?」
「奇跡も魔法もあるんだなって思いました」
「ふむふむ……その心は?」
「簡単な妄想だよホームズくん。二階堂ヒロが看守を殴ってたときね、血肉が飛び散ってたでしょ?でも看守にはダメージが無かったし、近距離で見てたから分かるんだけど、逆再生みたいに回復してたんよ。や、回復ってか……スライムを殴ってる感じ?飛び散るけど、ダメージは無いっぽかった。全ての【なれはて】がそうなるのかは分からないけど、【魔女】になぞらえていうなら……あれは【魔法】だったよ。メルルの【治療】もそうだけどさ、みんな持ってるんじゃないかな。【魔法】って感じの奇跡を」
俺の【選択肢】……科学的にはなーんにも分かんない現象も、【魔法】と言ってしまえば楽だし簡単。
俺の説明にある程度の納得を得たのか、シェリーは表情だけは楽しそうにして頷く。次ぐ言葉を吐きかけて、刹那、シェリーの視線は俺から逸れて食堂の入口に向けられる。
釣られて向くと、メルルとエマが丁度来ていた。
「あ、メルルさんとエマさんも来ましたね。おーい!こっちですよ〜!」
「……ハンナ、ハンナ」
「なんですの?」
「さっきね、レイアからグループ分け的な話をされたんですよ。保守派と過激派、みたいな」
「大袈裟な……とは言いきれないのが、末期ですわね……!」
「一応聞いとくけど、キミ達どっち?」
「ふっふっふー、めちゃくちゃ過激派ですね!」
「紙一重で過激派ですわ」
「メルル助けて、いつの間にか過激派に呑まれてた」
「えっ、あっ……ごめんなさい…」
あー、ほら。レイアからジト目で見られてる。てかコイツらこの雰囲気で過激派なのかよ。何考えてんのかマジで分からないけど温和そうな見た目の氷上メルルと、何か兎みたいな印象をウケるけど秘めた意志を感じる桜羽エマ。ハンナも言動とは裏腹に争いは嫌いそうだけど……でも過激派なんだよなぁ。怖い怖い。
「ドーモ、過激派のミナ=サン。改めて自己紹介するネ?立花カエデです。コッチの青髪タチバナ族とは漢字が違うのでよしなに」
「あ、あはは……ボクは桜羽エマだよ。よろしくね、カエデくん」
不思議とエマからの警戒心は感じない。この状況で男は俺一人だし、ハンナみたいに怪しむのが普通だと思うケド……あー、あれか?これも最初の【強制選択肢】の効果か?だったら【選択肢】くんは最初から二階堂ヒロを助けるのを諦めて、助けようとした事による副次効果を狙っていた事になるけど……分からんね、こればっかは。
とりまこの後はそれぞれの【魔法】の説明をしたり、見た目がアレな食事を堪能してから解散となった。
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数日後の自由時間。
俺はサンルームに来ていた。天井がガラス張りになっていて、日当たりの良い部屋。
囚人は皆それぞれ、好き勝手に過ごしている。図書館に行けばマーゴがずっと居座ってるし、ミリアは娯楽室に居ることが多い。過激派の皆々様は元気にあっちこっち行ってたまに看守に追いかけ回されてるケド、まだ死傷者は出てない。高確率で俺の【選択肢】に頼ってるけど、まだ【外れ】は引いていないので運の良いヤツらだね。
サンルームには俺と、稀にレイアが来る程度。何とも平和だ……殺人事件なんて本当に起こるのか、疑ってしまう程度には平和だ。
敢えて不満点を挙げるなら……俺の
問題なのは【魔法】……【選択肢】だ。最初はみんな占い程度の認識だったのに、何度も看守から逃げ延びる手伝いをしてしまったのがダメだった。
【選択肢】はいつの間にか地獄に垂らされた蜘蛛の糸になっていた。最初はレイア派だった少女達が、【選択肢】でなら脱出を可能にすると盲信してしまった。
牢屋敷には、帰らないといけないってブツブツと呟く精神やべー少女が複数人いる訳でして。そこに明確な蜘蛛の糸を垂らしたら……ま、後は言うまでもない。
現状、誠に残念なことに――
二つのグループをまとめていたエマとレイアを置いて、俺がリーダーになってしまった。どうしてこうなったのか……【魔法】を開示したからですね、対ありでした。
「……つっても、作戦丸投げかぁ……」
独り、呟く。
誰にも脱出の糸口が見えないから、可能性のある俺が一から十まで決める。実に合理的だネ、事実、その方が成功率が高いんだから。脱出方法があればのハナシだけど。
まあ、気長に待ってもらおう。この魔法だって万能ではないのだし、時間が経てば皆も多少は冷静になるハズ。
大きく欠伸をしていると、サンルームの出入口が静かに開かれる。足音は二つ。来客は珍しいので、反射的に視線を向かわせ――
「【動くな】」
「んあ?」
「天井を見てていてね、すぐに終わらせるから」
「アンアン……?レイ、あ……?」
身体が動かせない。天井から視線を逸らせない。
濃密な殺気が徐々に迫る。本当に殺されかけたコトがあるから分かるけど、これはマジの殺気だ。どんな原理かは分からないけど、俺は今、夏目アンアンと蓮見レイアによって殺されかけている。
さてさて絶体絶命。何もしなければ囚人達による最初の殺人事件の被害者は俺になるだろう。ぴえん超えてぱおん……これって古いのかな。家にテレビとか無かったし分かんないや。
「本気?」
「さて、ね…!」
「ッ……!」
声に狂気が滲んでいる。こりゃあアレだ、二階堂ヒロと同じ感じだ。
刹那、発動するのは【強制選択肢】だ。信じてたで【選択肢】くん!この際だから死ななきゃ片腕とか片目はあげる!いやー、【選択肢】って偉大だね♡惚れそう、もう惚れてる、舐めたい。
いつも通り五感が奪われて、時が止まる。選ぶまで世界も俺も動けないし、選択肢はいつだって極わずかな可能性を可視化させてくれる。
さあ、ここが正念場だ。不思議と、これまで以上に選択肢の数が増える気がする。
生きる為に、希望にに手を伸ばして――
「あーね?ゲームオーバーかぁ………ん?」
【選択】と同時、不思議と毛先が紅く燃えた。誰かの【魔法】の影響か……それはちょうど、二階堂ヒロの血が付着して何度洗っても洗い流せ部分だ。
然しそんなのは些細なことで、非常にも【強制選択肢】を終えた視界は今際の際の光景を再度映し出し、俺の出した答え通りになる。
次の瞬間、眼前にレイピアが迫り――歪に笑う蓮見レイアと夏目アンアンの顔を捉えると同時に思考は途切れた。
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