魔法 : 【選択肢】 作:ゴリラの右地区美
初投稿。
はいゲームオーバー。
何も見えない。
夢現ではなく、意識だけはハッキリとしている。なのに五感は機能せず、ただ在るのみ……【強制選択肢】が出現した際と酷似しているけど、もっと濃密なナニカだ。
まあ、殺されちゃったなーっと。
さてさて敗因はなんだっただろうか。レイアとアンアンの暴力性を誘発する様な行動には心当たりないが……【魔女因子】の殺人意欲によるモノなら、無意識にレイアのトラウマスイッチでも踏んでしまったのだろう。
残念ながら、立花カエデの冒険はここまで。皆様批評間違いなしなBAD END。次回作に乞うご期待を……と、ならないから【魔法】は不思議だ。
なんだろーネ、これ。
いつも通りの【選択肢】。違うのは俺の状況。レトロゲームのような表現方法で容易く問われるのは、きっと
死に際で力が覚醒するなんて有触れた物語だけど、ストレスで【魔女因子】が【魔法】を強化しているなら、【選択肢】の極地こそが
運命の【選択】。行動の指針を示すのではなく、在り方の上書き。普通、人間が『単身で空を飛ぶ』と選択しても不可能だろう。でも、【選択肢】によって『結果』が上書きされれば……有り得てしまう。
これが単純な魔法の強化なのか、牢屋敷の誰か、或いは過去の囚人の【魔法】と混ざったのかは分からないけど……今、【選択】したら確実に
生に執着はないけど死にたいわけでもない。彼女達も被害者だから復讐とか暗〜いコトも柄じゃあない。精々ゲームの追加シナリオを楽しむように、次を生きてみよう。
多分今回ばかりの【死に戻り】だけど、それも【選択肢】の一つでしかないよネ。楽しいとイイなー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――目が覚める。
見覚えのある天井に、腹の底で溜まる汚泥のような感情ごと吐きそうになる。自意識を振り返る――私は、殺された。看守に逆らい、
私の【魔法】の発動条件は死ぬ事。【死に戻り】の力……酷く不愉快で、不可解な魔法だ。
死ぬ前、最期の光景はフードを深く被った少年が私を助けようとするところだった。看守の血肉と、私の血。それらを浴びて、表情を変えない不思議な少年。
はて…彼の名前は何だっただろうか?少女たちの名前は覚えているが、思えば少年だけはあの場では自己紹介をしていなかった。
牢を出たら真っ先に接触を図るのも悪くない。
………【魔女因子】による殺人衝動。それが在る内は誰も信用出来ないが…あの少年は、狂気に駆られた私を見ても尚、救いの手を差し伸べた。例え届かなくとも。
其れを成すには尋常ではない精神力が不可欠だろう。ストレスで強化される【魔女因子】にも負けない、自我を保つ強靭な精神。
この世界で生き残る為に、或いは無為とは分かっていても恩を返す為に――
(……仲間が必要、か…)
不快な知人が目覚める声を聞きながら、然し私の心は僅かに希望側へと寄っていた。
間もなくして牢のモニターにゴクチョーが映り、看守が鍵を開けて周る。この後はラウンジに集まり、ゴクチョーからの説明を受け……以前の私は看守を殺そうとして、返り討ちに遭った。
無論、同じ失敗はしない。目に見えた愚行を繰り返すのは自殺と同義……
首に鎌が吸い込まれ、視界が回る光景が未だに瞼に張り付いている。刹那に凝縮された痛みもまた、もう存在しない傷に刻まれた。願わくば二度と味わいたくはないモノだ。
頬を伝う冷や汗をエマに悟られぬよう、彼女の戯言を無視して監房を出る。見渡すと、渋々と看守に続く少女達と―― 一番後方、少年の姿を捉えた。
鬱陶しい知人を振り切り、私は迷わず彼の方へ足を進める。
「少しいいかな」
「ん?………ああ、ふむ。なるほどナ〜?」
「……?」
「あー、ごめんね。こっちのハナシ。んで、なに?」
――
前回、彼が橘シェリーに話し掛けられた際と反応が異なるが……些事だ。先程のエマとのやり取りで悪印象を抱かせてしまったのかもしれないが、それでも前回の彼は私を助けようとした。今更彼の良心を疑ったりはしない。
「歩きながらで良い。君と話したい」
私は極めて冷静に、人好きのする微笑みを浮かべて彼に話し掛けつつ、改めて彼の容姿を目に焼き付けた。
光を通さない黒い瞳。背からは少女と見紛う程度には長い灰色の長髪を黒のヘアゴムで一つに束ねている。女性的ではないが、黙っていれば憂いを感じさせる女顔。
背丈は170に届くか否か、細身で小顔なので頭身としては高く見える。フード付きのポンチョは髪色よりも深い灰色で、その下には黒いセーターと同色のパンツ。
コロコロと表情が変わる印象を受けるが、瞳の奥は硬く不動。まるで人形だ……彼との交流が無いからか、一切の感情は読めない。それなのに表情だけは相応に笑う、相応に困る、人間を象って真似た受動的な行動に思える。無論、そこには確かに彼の意思も感情もあるのだろうが。
彼も、少女達同様に【魔女因子】を持ち【魔法】を使えるのだろう。
彼からの了承を貰いながら、どうにか彼の協力を得られないかと思考を深めた。
◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆
「歩きながらで良い。少し、君と話したい」
と、二階堂ヒロに声を掛けられてからラウンジに着くまで話した感じ。俺は一つの事実に気が付いた。
コイツ、前回の記憶あるじゃん?
前回と流れが異なる時点で察してはいたけど、こうも露骨に接触してくるのは彼女が自分以外の記憶の保持を想像してもいないからだろう。
軽く自己紹介をして、前回シェリーが俺にしたのと同じ質問をしてきたので、此方も同じ言葉を返す。あの時のシェリーはだいぶ大声で話していたので、ヒロが聞いて再現しても不思議はない。
俺の名前を知らなかったのは、前回は皆と同じ場で自己紹介をしなかったからだろう。事象をやり直せる魔法か……いや、それなら前回のように死んだりはしないか。
何か条件があるハズ………とは言え、深く考えるまでもない。二階堂ヒロの【魔法】は【死に戻り】で殆ど確定だろう。
そして俺の【選択肢】に介入してきたのも彼女の【魔法】に違いない。本来、俺の【魔法】は複数
でも誰かの【魔法】と絡めば起こる事象は変化するし、選択肢も増える。多分、他の【魔法】とも同じ現象が起こるだろう。
今後の振る舞いを考えながら、ヒロと並んでラウンジに入った。
◆◆◆◆◆
んで、数日が経った。
「……で、どう立ち回るべきかなぁ」
また前回と同じ日付に同じ時間帯。俺が殺されたサンルームで独り呟いた。前回の敗因は【魔法】を公開した事だったので、今回は隠した。それだけで平和なんだから、【選択肢】一つで人生は大きく変わるんだよね。あ、ちょっと深いこと言ったカモ。
密かに【選択肢】も使ってるケド、あんまり良い傾向はない。ターニングポイントではどーせ【強制選択肢】が出るんだし、強制バットエンドに突入しなければモーマンタイやね。何回かエマとかヒロを【強制選択肢】で助けたケド、【魔法】には気付かれてないと思う。たぶん。きっと。知らんけど。
「お?」
――偶然か必然か。
前回と同じようにサンルームの出入口が開かれた。前回は音を殺していたのに対して今回は妙に勢いが強く、がさつな印象を受けるけど。
またレイアとアンアンが俺を殺しに来たのだろう。ヒロが居るおかげまで前回とめちゃくちゃ流れは違うケド、確定路線もあるんかね。
「まあ、でも対処法は考えている訳でして」
取り敢えず耳栓で耳を塞いだ。アンアンの魔法――【洗脳】の対策は単純に耳を塞ぐことだ。声を媒介とした【魔法】は声自体が届かなければ、効果を成さない。
視界の固定はこの際どうにもならないので、せめて、入室者から距離を取ってポンチョに隠してある
「む?あー、ナルホドな。」
あ、これアレだ。わかるわかる、【強制選択肢】ちゃんがす発動する雰囲気だ。何か世界から色が消えて次に音も、次第に何も無くなる感覚。
…………地雷と地雷と地雷から好きな地雷を選べるらしいね。最初のはジャスティス要素が無いから論外だし、男が一人しかいない牢屋敷で脱ぐと立場がなくなる。でも最後のはゲームオーバー臭いよなぁ……今回は【死に戻り】とか出来ないだろーし。
うん、仕方ない。脱ぐか。選択した瞬間に脱げているのは、マホーのスゲーところよね。無事に武器を隠してたポンチョごと後方に投げ飛ばされたヨ。ふぁっく。しゃーないネ。ふぁっく。
「見よ、我が肉体美!腕立ては10回が限界ぞ!!」
とりま上裸。耳栓の上裸男が出迎えるは――ん?レイアでもアンアンでもないわね。
「―――?――――ッ!――ッ!?」
「………あ?あー、ココじゃん。たはは、耳栓してるから何言ってんのかワッカんね〜」
――沢渡ココ。【千里眼】の魔法を使えるヤツで、配信してるけど内容が薄い。見たら見たで【千里眼】の対象になるし。
「何で上裸なんだよ!馬鹿なの!?アホなの!?変態なの!?あてぃしが配信してたら大炎上だったんですケド!?」
「ココが一人で騒いでる……」
てか牢屋敷で大炎上ってなんやねん。
「それで、何か用?デートのお誘いなら……行ければ行くネ」
「それ来ないヤツだし……じゃなくて!カエデっちにめっっちゃ大事な話があるワケ!」
「金とカラダ、どっちだい?前者は売り切れてるから後者しかあげれないけど」
「………それでヤらかしてる世界線もあるからね?女の敵め」
「世界線?どゆこと?」
「それを説明しに来たんだけどさ……カエデっち、適当な相槌止めた方がいいよ?それ別に、
「……………………ふぅん」
「まっ、聞きなって!カエデっちが、記念すべきあてぃしのパーティの一人目なんだからさ!」
何か長々しいココの話をまとめる。
結果だけを言えば、俺は平行世界に来ていた。
ココ曰く、【前】の世界ではココと俺と、エマとマーゴがかなり後まで生き残っていたらしい。もう既に俺の【前】と違うね。
んで、色々あって俺は殺されたらしい。マーゴとエマを庇って魔女化したココにヤられたっぽいケド、マジで知らない世界線ダネ。
つまり……面倒な事に、【選択肢】の数だけ平行世界がある可能性が出てきた。ヒロは【ヒロを助けよう!ついでに胸も揉む】の選択をした時点から分岐して死に戻ったっぽいし、俺も同様。でも俺がやり直す前の【選択肢】で分岐した世界線ではココと終盤までは生き残って、その平行世界を【千里眼】で観測できたと。
ややこしいな……。最低でも、今は四つの世界線があるワケか。【二階堂ヒロ&立花カエデ死亡ルート】と【ヒロだけ死亡ルート】、それと【両方生存ルート】。あとはココが言いかけてた【立花カエデがカラダでヤらかしたルート】か。
ココの観測ではもっとある可能性も出てくるけど、言い出したらキリがないからナー。
何故にココが俺に絶対的に信頼と依存を向けているのかは分からないけど、また【選択肢】が悪さをしたのだろうと納得する事にした。
「でね、でね!あてぃしは決めたワケ、てか理解したワケよ!生き残る鍵はカエデっちしかいないって!!」
「えーっと、まずはありがとう」
「フラれる前の口上やめな?」
「言われてもなぁ……ぶっちゃけ、ココは俺について何処まで知ってんの?」
それによって、前の俺がココを何処まで信頼してたのかが分かる。や、聞かれれば何でも答えるケド……兎に角、多少は情報の足しになるハズ。
「カエデっちのこと?」
「そ。何でもいいよー、性癖から趣味まで――」
「んーと……性癖は、貧乳派で…割れない程度に引き締まったお腹がドストライクだっけ?ちょっとキモっ……趣味は特にないけど、昔から持ってる王道コマンド式RPGは擦り切れるまでやり尽くしたんだよね。誕生日は7月29日……苗字の読みだけじゃなくて誕生日までシェリーと同じじゃん?身長は169で体重は最後に測ったトキで54Kg。味を感じないから好き嫌いは特になくて……あー、でもタコとかイカの食感は苦手。【魔法】は【選択肢】で、任意と強制の2パターンで発動する。カエデっちが最後まで生き残ったのも、選択肢で最善を選び続けたからだって言ってた。強化されたら、ジャンルの選択?が出来るんだっけ。これはあんま分かんないケド。家族構成は…駆け落ちした両親が無理心中しようとして、カエデっちだけが生き残ったから、天涯孤独……トラウマは、自分のせいで人が死ぬこと。だから裁判の度にストレスが溜まって魔女化が進んでたけど、あてぃしが知る限りでは殺人衝動はなさそーだったね。カエデっち、普段からゲーム画面の前の子供みたいに自分と周りを俯瞰してるから、感情と行動が一致しないってのは……マーゴが言ってたし、カエデっちも当たってるって言ってたっけ。えーっと…後は何だっけ。血液型はOで、頭の回転は早いけど漢字が苦手で、牢屋敷で何人も女の子をヒッカケてて、実はポンチョの中にサバイバルナイフを隠し持ってて――」
「おーけー、ハニー。知りすぎじゃない?」
「あてぃしの魔法、【千里眼】だし」
「何の答えにもなってナイヨ?」
オレ、ココ、とてもコワイ。学友からサイコパスって呼ばれてた俺を慄かせるって相当だと思うの。確かに聞かれれば何でも答えるタチだけど、ここまで聞いてたのも異常だヨ。
こりゃあヒロからの信頼も軽く思えるぜよ。あ、嘘です。両方重い。
問題は、ココを信用するか否か。信じるだけなら簡単だけど、実質彼女が情報を独占している以上、人間の操作なんて簡単だろうし。
「そんで?ココが【千里眼】で魔女化した平行世界の記憶を持ってるのは分かったケド、これからどーするの?」
「取り敢えず、魔女を殺す薬…トレデキムの回収っしょ!クソ黒幕の対抗策は持っといて損はないし、エマっちとマーゴにも色々と共有したいし。ま、あてぃしはあてぃしで動くから。カエデっちはほっといても死なないでしょ?どーせ」
殺されてやり直してる最中だけど、敢えて伝える必要もなさそうだ。精々俺の有利になるように立ち回ってくれることを願って、手を振って見送った。
「…………ん?黒幕なんているの?……ま、いいや。ネタバレはつまらないからネ」
ココが語った俺の人物像、ゲーム画面の前の子供みたいに自分と周りを俯瞰している……の部分、割りと当たってるカモね。
これも全部、選択肢ってヤツが悪いんだ。