イツキに成り代わったけども。   作:テン吉

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4話

 

「__止めろ、止めろ」

 

 ピット裏。

 ヘルメットを取った私に、ドカドカと歩いてくる文太さんの声が飛んだ。

 いつもの眠たげな調子じゃない。

 目つきが鋭いし、眉間にシワがよっている。ちなみにトレードマークの煙草は場内禁煙なので姿はない。

 

「お前、走れてるつもりか?」

「え……?」

 

 たった一言で、空気が凍る。

 さっきまでニコニコしてたインストラクターのお兄さんが何か言いかけたが、文太の眼圧に押されて黙った。分かる。昭和のヤンキーは怖い。

 もしや私……魅せるつもりが、やらかした?

 

「アクセルの踏み方がめちゃくちゃだ。

 スロットルワークが雑で、タイヤが鳴かねぇのを“上手い”と思ってる。

 ブレーキも浅い。進入で前荷重作れてねぇ。

 つまり、スピードを“殺してる”走りだ」

 

 自分では全く気づいてなかった事実に唇を噛む。

 

「おまけにステアリング。切り足しが多すぎる。

 お前は公道も走りたいんだっけか? 舵角で誤魔化す奴は、峠に出た瞬間に壁に刺さるぞ。

 レコードライン? あれは散歩コースか? 無駄に綺麗に回りすぎなんだよ。

 攻める気がねぇ。いや、攻め方を知らねぇ」

 

 文太は溜息を吐き出した。

 情けなさで段々と文太さんを見ていられなくなって、文太さんの足元に視線が移動する。

 

「一番タチが悪いのはな、速いつもりで走ってる奴だ。 お前、今のままじゃ“遅い”んじゃねぇ、“危ねぇ”んだよ。 走りの理屈ばっか頭で回して、体がついてきてねぇ。

 そんなのは走りじゃねぇ、“模倣”だ」

 

 私の肩が小さく震えた。言われてみれば確かに模倣だった。だって前世は『頭文字Dの真似事』しかしてなかったのだから。アーケードで峠を選択して、示されたラインをなぞるだけ。たまにサーキット走行しては横をぶつけるばかり。いやぶつけたのは1回だけだけども!!それでも危険な模倣ばかりしてたのは認めざるを得ない。

 それを見ても、文太の口調は緩まない。

 

「もし本気で速くなりてぇなら、

 まずは自分の限界を“知る”とこからだ。

 ライン取りも、ブレーキも、全部やり直せ。

 4歳だからなんて言い訳は要らねぇ。

 走るってのは、年齢関係ねぇからな」

 

 最後に頭にポンと手が乗っかってきた。

 文太はぼそりと付け加えた。

 

「……まあ、まだマシな方だ。お前呼びして悪かったな、イツキちゃん」

 

 そこまで言われると、ポタリ、ポタリとアスファルトに染みが出来る。私は慌てて袖で涙を拭って、文太さんを睨みつけた。

 泣くことは想定していても、まさか涙目で睨みつけてくるとは思わなかったのか、文太さんがギョッとした顔で見てくる。

 

 「あー、その、悪かっt」

 「もっと!!!!おしえてください!!!!」

 

 文太さんの謝罪なんていらない。

 全部自分の甘さだし、天才の拓海に追いつくならこの程度なんて甘っちょろいものだ。

 ええい!!今に見てろ!!藤原家!!

 

 「わたしは!!たくみのとなりに!!たつ!」

 

 

 

 

 

 

 

 「…………イツキちゃん、拓海はまだ乗れねぇぜ」

 「そーだった」

 

 心の内で(中学生になったら拓海に運転させることバレてたのか?)と冷や汗をかく文太さんには気づかないのであった。

 

 

 

 

 

 

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