小学生の時間はあっという間で、あのショタ好き先生ともお別れし、中学生になった。
小学生は首席という言葉があるのか知らないけれど、一応転生した身なので再勉強した結果、全国学力テストでトップ10位の中に入っていた。リアル天才には勝てないのは分かっていたので、満足な結果である。拓海は私が教えているので100位以内には入っていた。オレの拓海TUEEEEである。
そういえば、ショタ好き先生が卒業式でガチ泣きしながら「いい!?グスッ……拓海くんの手綱はイツキちゃんにしか無理だからねッ!? 幼なじみの座を誰にも渡しちゃいけないのよ!?えぇーーん!!アァァァンンンン!!!」と泣き叫んでいたのが今でも思い出せる。よく分かんないけど、とりあえず「先生、いつか一緒にオタ活しましょう」って言っといたら白いハンカチに黒マスカラを垂れ流して、ギャン泣きしていた。「先生いつかシャッター前になるから!!」怖い。怖すぎる。一体ナニを描くんだ。
ちなみに文太さんのスーツ姿はやっぱりカッコよかった。タバコを探していたのが難点だけども。
時に男女というのは体格差があるもので……。小学生の拓海の身体は一気に成長し、私の平均的な身長は追い抜かされた。原作でも拓海の方が身長高かったもんなあ。
小3の頃にその片鱗を見せていたが、小6になった途端に一気に成長した。まるでタケノコだ。
私の悔しがる顔を見て、すごく嬉しそうにしている拓海もムカつくけどね!!!
とまぁ、こんな感じで前途多難な中学生時代を送ることになりそうだ。秋になったら、県内1位の学校の文化祭に行く予定である。
その際に、もしかしたら、もしかするかもしれない。だって私たちが中学1年生の時といえば、あの兄弟はどっちも高校生なんだから。……同じ高校に居るとは限らないが。啓介さんはヤンキーだからな。うん。ヤンキーが頭いい学校にいるかは……皆まで言うな。殺される。
謎の高揚感に挟まれていると、拓海から「ちゃんと掃除しろよ」と怒られた。
ごめんて。
今は中学校の1年1組の教室掃除中である。
外国では掃除する習慣は無いらしい。だから日本の学生が掃除するシーンを見るとジャパニーズピーポーすげぇ!となるそうな。拓海は未来のカートスクールでは掃除させるのだろうか。想像していると、「拓海くん、ちょっといいかな!」という可愛らしい女の子の声が聞こえた。
床にあった塵取りから顔を上げると、学校一の美少女が教室のドア付近で立っている。
一瞬、拓海がこちらを窺うような視線を向けてきたが、私は手を振って行ってらっしゃいをした。その際に美少女に睨まれたのはよくあることだ。
こんな感じで、まだ夏とはいえ、拓海の告白される回数が増えた。
なんせ、元から顔がいい設定に加えて、私のせいで勉強がめちゃくちゃ出来て、運動は中より上。原作だと人を容易く殴ってるしな。運動神経が良くないと殴れねえ。これはモテない訳がない。
これは軽いノリで言ってるのだが「良い人だったら捕まえてこいよ!」とは、私のセリフである。のちに埼玉のプロゴルファーと結婚する拓海くんだが、既にここは知っている世界とは違う世界線なので、拓海が良いと思ったらいいんじゃないかなって思ってる。
だけど拓海にはまだ彼女は現れないらしい。
10分しか経ってないのにもう拓海が戻ってくる。その際に謎の憂うような表情をこちらに向けてくる。
おかしいな。フラれた人達は軒並み、『好きな人が居るから』って断られてるらしいが。
一体いつになったら、その好きな人を紹介してくれるのだろう。ハッ!もしやフるための常套句? 常套句なのか? 今度池谷パイセンに相談してみようかな。この手の相談はあんまり聞いてくれないけど。拓海か私の話をした瞬間匙を投げるもんな、あの人。「お前ら自慢ばっかしやがって!!」って泣いてるもんな、あの人。自慢なんてしてないのに。
閑話休題。
私にもそんな人が現れないかなあ〜って。
思ってたんですけど______。
それは翌日の朝のことだった。
ついに私も春が来たらしい。
「た、たたたたたた拓海」
「なんだよイツキ」
「入ってた」
「は?」
「入ってたよぉぉ!!」
「虫か!!」
「ちがぁぁう!!!!」
今日の放課後に校舎裏に来てください。という手紙が下駄箱に入っていて、すぐ拓海に自慢した。
イッヒッヒと原作イツキのように笑っていると、何やら心配そうな顔の拓海が視界に入る。
曰く「イタズラとかじゃないのか?」とのこと。まったく!失礼な奴だな。でも、そういえば手紙の相手は隣のクラスの……少し嫌な奴だった。学年上位の私や拓海を悪く言うタイプの嫌な奴だから、イタズラの可能性がある。
喜んでいた私だったが、確かにその線は否めないので、とりあえず(暴言吐かれた場合は拓海に泣きつくとして)放課後行くことにした。
授業を受けてる合間はずっと気が気じゃなかった。
ソワソワしている私に、逆にイライラしている拓海。シャー芯を何回も折る音が聞こえてた。あんなにイラついてる拓海珍しいかもしれない。
やっと帰りの会が終わって放課後になった時、拓海から待ったを掛けられる。
「イツキ。イタズラじゃなかったらどうする?」
「どうって?」
「その、お前……嬉しそうだったじゃねえか」
確かに告白されるかも!って思った時は嬉しかったけど、返事のことすっぽり考えてなかった。だって、青春の1ページを私に使ってくれるんだよ。そっちの方に気が行くじゃないか。
うんうん悩んでいると拓海が怖い顔をして「そんなに悩むのか?」と低い声で言ってくる。
「そりゃまあ……本当の告白かもしれないし?」
「……それってアイツと付き合うってことかよ」
「それはない」
即答すると拓海の口がポカンと開く。「へ……?」と言葉にもなってない声が出ている。拓海のやつ相当驚いてるな?
「いやだって、拓海の悪口言ってたヤツと付き合いたくないし」
「お前……」
好きな子の悪口を言っちゃう奴だとしても、ならばそれは私の悪口だけでいいはず。なのに隣にいる拓海の悪口まで言うやつは私は好きじゃない。それって付き合っても拓海に対して暴言を吐くってことじゃないか。でも告白は嬉しい。
「これでも拓海のこと考えてるんだよ……って!!?」
頭をわしゃわしゃするな!!
仕返ししようと思うも、身長差があって拓海の頭に微妙に手が届かない。
だけど拓海は嬉しそうに笑っている。なんか……その顔見てたらどうでも良くなってきた。私の髪の毛はボサボサだけど。
拓海が恐ろしく笑顔である。一体なんなんだってばよ。
「イツキがイツキで良かった」
「うん?うん……」
その言葉を聞いて一瞬だけ私の動きが止まる。成り代わっているから、本物のイツキでは無いんだって考えが無くはない。あまつさえ、ずっと付きまとってさえいる。私が隣にいて良かったんだろうかって。
でも今答えを聞いた気がする。
「拓海……。私が隣にいても嬉しい?」
「なに言ってんだイツキ。お前はずっと隣だろ」
「そっか……そう」
私がやっと認められた気がする。誰かがお前を認めないと言ってきても、拓海だけが認めてくれるなら良いかもしれない。
その時、学校のスピーカーから帰りの音楽が流れてきた。女子中学生の声で「早く帰りましょう」とアナウンスが流れる。今日は部活が無い日だからアナウンスも早いのだ。
「じゃ、行ってくる」
学生鞄を背負って拓海に言った。
拓海は______綺麗な笑顔を浮かべていた。
「? どうした。イツキ」
…………思わず見惚れたのは言うまでもない。
*
拓海said
あんなにもイライラしたのは初めての出来事だった。いつもは……怒ってもすぐ収まるというか、大したことじゃない。イツキに俺の財布がすっからかんになるまで食べ物を強請られたとか、イツキがゲーセンで車運転する時にカツアゲされたりだとか……あれ。いい記憶がねェな。
とにかく、イツキに怒ることは少ない。最初はムカついたりしてデコピンしてたけど、父ちゃんから「手出すのは覚悟を決めた時だけにしとけ」と言われてから、なんとなく出しにくくなった。てか覚悟ってなんだよ父ちゃん。
だから___手が出そうになったのは本当に久しぶりのことだった。
アイツが、嬉しそうな顔で、他の男の話をするから。
まるで俺なんか眼中にないかのように。
初めてを連呼して喜んでたのが悔しくて。俺もお前の初めてを貰いたかったと手紙の先にいるソイツにすごく嫉妬した。
なあ、イツキ。
お前俺がこんなにも見苦しい気持ち抱いてること知らねぇだろ。こんなドロドロした気持ち見せらんねぇよ。
そんな気持ちの中、イツキから断る話を聞いた時は思考が停止した。そして理由が俺で、心が飛び跳ねた。
本当は同じ気持ちなんじゃないかって、たまに思う。
けど1歩を出すのが怖くて。
イツキに違うって言われるのが1番怖い。
だったら俺は一生このままでいいと思ってる。
でも_____イツキがあともう少しでも確信を持たせてくれなら……。
俺は、どうしたいんだろう。
どうこう考えているうちに、無意識にアイツが告られる場所に辿り着いていた。
草木が生えまくってる校舎裏という、ベタにも程がある場所に。2つの影が動いているのを見つけた途端に俺は物陰に隠れた。
「あの!俺、ずっと前から武内さんのこと気になってて……」
何故か俺までドキドキしてきた。
そいつはピンと糸を張ったような声を出しつつも、ハキハキとイツキのことを好きになった経緯を話していた。
「いつも藤原の奴と一緒にいるから無理だと思ってたんだけど」
やめろ。そこからは聞きたくない。
「武内さんは藤原のこと___」
「好きだよ?」
呼吸が、止まった。
「な、なんで……俺は武内が藤原のこと嫌いだって噂聞いたから告白したのに!!」
「それって打算あって告白したってこと? 噂はあくまで噂だよ」
「だって美山が……!!」
美山……?
頭の中で唱えると、ぽややんと脳内に最近告白を断った女の子の顔が白靄のように現れる。
もしかして俺が断ったから?
「ごめん。私は車運転するのが凄く上手な人が好き」
「ッ!それって中学生の俺には絶対無理じゃんかよ……」
イツキは運転が上手いヤツが好きなのか。
親父に最近ハチロクに乗せられてるけど、上手くなったら______あれ。俺いま何考えた?
もしかして、俺ってイツキのこと。
「好き……?」
気づいたら全身が発火したように一気に熱くなった。顔が火事だ。冷やすもんが何もねえ。
顔が熱いまま、イツキと野郎との会話に耳を傾ける。
「今後私たちの悪口言わないって言うなら、友達になろうよ」
待て待て待て。一体どこからそうなった。
「拓海さ、友達少ないから増えたら喜ぶと思うんだよね」としみじみと言うイツキの声に対して、「アイツにも悩むところあったんだな……」と反省した声で言う野郎。ふざけんなオイ。
「わかった。もう悪口言わない」
マジでなんでだよ。
*
告白イベントが終わった。
例の手紙の人とは友達エンドで終わった。
そして拓海に全部聞かれてた。ORZ。
「お前なぁ……俺が、その……友達が少ないとか……」
「事実を言ったまで」
「うるせぇぞイツキ」
怒られた。解せぬ。
拓海は激怒した。友達私しか居ない人に居ないって言っちゃいけない。あ、池谷先輩いるじゃん。忘れてた。
「ちなみにどこから聞いてたの?」
「…………」
「ア、ウン。最初からってことね。おけ」
「ごめん」
別に大丈夫なことしか言ってないけどなあ。なのに拓海は申し訳なさそうな顔をしている。根っからの良い奴だからなあ。人の告白現場初めてだったんだろうなあ。
ま、友達が増えたってことでフィフティー・フィフティーだ。
それにしても……。
「拓海、熱でもある?」
「うぇ!?ね、ねぇよ」
「本当に〜?」
顔なんか赤いぞ〜? 人の告白聞いてたから日光浴しすぎたんじゃない〜?
そう言ってやると拓海からついに久しぶりのチョップが出る。手出した!!いけないんだ!!アー!!!
その友達感覚が久しぶりだったもんで、私はスキップしながら拓海と帰路に着いた。
*
時は戦国時代より怖くて頭脳の弱肉強食なり……。
意味わからん始まり方を脳内で唱えつつ、初めて見る校舎を拓海と一緒に眺める。
ここがあの___。
県で一番頭が良い学校か。
「なんか思ってたより普通だね」
「ああ……もうちょいトゲトゲしてるのかと思ってたぜ」
拓海に奢ってもらったヨーヨーとジュースと焼きそばとお菓子の入った袋をぶら下げつつ、人が多い廊下を歩く。え?多いって? まだまだ拓海の財布は絞れるよ。ダイエットしよう。
拓海が肩を抱いてくれて、人混みから守ってくれてるけどそれでもぶつかることが多い。
と、言ってる合間にドン!とまたぶつかる。
「痛ぇな……」
ん? この関智〇ボイスは。
「どこ見て歩いてんだ。気をつけろ」
その顔を見た時私はビビッときた。金髪で、一見チャラチャラしてそうに見えて実は硬派で実力派そうな顔してるというか、まさに___。
「あー!!! スネ夫だ!!」
「あぁ!?!?」
すぐその場を去ろうとしていた彼に、私は声を掛けてしまう。「スネ夫って誰だコラ」と言われたので「金持ちの坊っちゃん」と答えを言ったら、「俺のことじゃねーか!!!」と言っていた。違う。合ってるけど違う。
「なんでスネ夫さんはここに居るんですか?」
「初対面でそれ聞くかフツー? ここには兄貴が居るから来ただけだ。つーか俺はスネ夫じゃねえ。高橋啓介だ」
あ、答えてくれるんだ。相変わらず優しい所あるなあ。まあ待て拓海よ。隣で早く帰りたいオーラを出すでない。
私はニッコリと貼り付けたような笑みで啓介さんに言う。
「もしかしてお兄さんの名前は高橋涼介ですか?」と。
その言葉で一気にピリつく空気。周りを歩いていた参観者も、拓海もピクリと肩を跳ねあげて緊張感が生まれた。かくいう私も高身長イケメンヤンキーの怖い顔みてチビりそうだ。
「テメェ何もんだ」
「く……」
「あ?聞こえねぇよ」
「車が好きな女の子です!!!」
「ブフッ!!」
隣で拓海が吹いた。反対に高身長イケメンヤンキーの啓介さんは驚いた顔で見ていた。そういえば漫画では明かされてないけど、今って涼介さんに走り屋に誘われてる最中なのかなあ。いや、走り屋に誘われたのはもう少し先の話か。
「車たぁ、随分と男みてぇな趣味持つんだな」
「男も女も関係ありませんよ。啓介さんは車好きですか?」
「っは! 好きでも嫌いでもねえ」
はーーーそんなこと言っちゃうんだ。涼介さんに勧められたあとが楽しみだな、こりゃ。
「もし車が好きになったらお金持ちの豪邸見せてくださいね」
そう言うと、啓介さんは『なんだ、そういう目的か』とばかりに面白くなさそうな顔をした。冷めた顔で「俺が車を好きになるわけがねえ。さっさと失せろ」と言う。
言葉通り、私は拓海の手を引っ張ってその場から立ち去った。
「拓海、次お化け屋敷行こうよ! ……? 拓海?」
「……」
手を繋いだまま後ろを振り返ると、不機嫌な拓海が居た。あまつさえ強く握り返してくる始末。
「出会ったばかりの男に言うセリフかよ」
「え?」
「アイツが顔良いからか?」
私にだけ聞こえる声量で震えるように言われた言葉は衝撃を受けた。もしかして高橋啓介のことで悩んでる? 友達を取られるかもしれなくて?
私はぎゅっと握り返した。
「大丈夫だよ、拓海。私は拓海のものだよ」
「ッ……!! おま、そういうこと……」
はああああと拓海が長いため息をつく。まるで呆れたかのように。どこに呆れる要素があったというのかね。
それよりお化け屋敷いこ!!!
*
「ん? 啓介。どうした、そんなに不貞腐れて」
「……別に。大したことじゃねぇよ」
「いや、お前がそう言う時は大体大きな何かがあった時だ。言ってみろ」
「今日、兄貴の文化祭で変な奴に出会った。車好きな馬鹿っぽそうな見た目してる女。俺の事変な呼び方で呼んでくるし、金あるって知ってるし、兄貴のことも知ってた。その上で俺が車に興味持つって断言してた。まるで未来を見てるかのように」
「…………。啓介。今度その子を連れてきてくれないか? 文化祭に来たということは受験する確率が高い。何年生にもよるが、恐らく来年も文化祭に来るだろう」
「は? なんでだよ兄貴!」
「実は_____数年後にお前に見せたいものが出来たんだ」