最近イツキが変だ。
妙によそよそしいというか。
俺が近づけば近づくほど離れていく。今まで立場が逆でイツキのほうが俺に近づいてたから、無性に腹が立った。イツキが興味わくのは車と俺だけだったのに。
仕方ねえ。癪だけど、車の話をするか。
「なあ、イツキ。車の免許っていくつになってから取るもんなんだ?」
そう言うとイツキは何故か目をかっぴらいてこっちを見てきた。小声で「もうその時期が来たか……」と言っている。何の話だ?
「18だよ」
18ってことは、あと4つトシを取らなきゃいけないんだ。無免許運転は犯罪じゃん。
アイツ……自分の子供犯罪者にしてるよ。
「拓海の誕生日今月だね」
「え?」
覚えててくれたのか……。
と言っても毎年0歳児の初めての誕生日のように祝ってくれるイツキのことだ。
当たり前か。
くそ、ニヤける顔かおさまらねえ。
___________
ニヤけてる拓海を見ながら私はついに1年遅れで来たか……と思った。
例の『拓海グレ事件』
事の発端は拓海が18歳未満なのにとうふ屋の配達でハチロクを走っていることから始まる。制服を着て駅前で走っても、そのドライブテクニックの上手さから大人だと勘違いされて指摘されることもなく、反抗は不発に終わる……かに思えた。
それはやってくる。
なんと私の家に拓海が泊まりに来るのだ。
そこで飲酒をしてしまい、酔いが回って文太さんの悪口をたくさん言いまくるのだが、胸がズキっとしてここで家族への想いに気づくんだよなあ……。あとは車好きの布石にもなってたりする。
という訳で……来る。
ヤツが……拓海が来る。
私は……私は………………部屋を片付けなければならぬ。
「そういえばお前ん家久しぶりにまた行きたいな」
「ウン、ソダネー」
「また本がいっぱいあるんだろ」
拓海は笑うが私は苦笑い。
本は本でもこの時代の少女漫画が家にある。拓海に絶対見られたくない。見られたら______笑われる。
「た、たたたたたた拓海」
「なんだよ」
「もし家泊まるとしたら絶対に押し入れ開けるなよ」
「はっ!?ば、馬鹿! 泊まんねぇよ!」
ちっげーよ!!照れんなよ!!そこじゃねえ!!押し入れ開けるなって言ってるの!!!
「ったく、イツキは押し入れに何隠してるんだよ。車のエロ本か?」
「んな訳ねーだろがい。車の禁本ってなんだよ!!」
カーセンサーならぬカーセックスぶち込んでるってか!!あほか!!
てか拓海の綺麗な口からエロって単語が出てくるとは思わなかった。お前絶対道端に落ちてるエロ本見てるだろ。人に疎いキャラだったはずなのに! 好きな子でも出来て人間に興味持ったか?
とりあえず、今日は帰宅したら爆速で部屋を綺麗にする。押し入れには置かない。あれはダミーだ。
母親の部屋に置いとけば大丈夫だろ。
______そう思ってた自分の甘さを知るのは6時間後のことだった。
*
部屋を片付けようとした6時間後。
私は後悔した。
そういえば少女漫画ではなく、パソコンの中身の方がやばかったことに。
________________
啓介side
ピンポーン。
夕暮れ時、静かな家の中に間抜けなインターホンの音が響いた。
「……こんな時間に客?」
首をかしげながら玄関に向かい、ドアを開けた。……それがすべての間違いだった。
そこに立っていたのは、忘れもしない顔。
どこかボヤっとした印象を与えるくせに、口を開けば堂々としていて、何を考えているのかさっぱり分からない女。そしてあろうことか、あの兄貴と同等クラスの頭脳を持つ悪魔___武内伊月だった。
「は……? なんでお前がここに……」
「おっ邪魔しまーす!!」
「うおっ!? おい、男の奴が来るんじゃねーのかよ!?」
俺の制止を完全にスルーし、土足同然の勢いで上がり込んでくる。
「いやいや。貴方のお兄ちゃまが、私のこと『友達』って言ってくれたんでー?」
語尾に草を生やしまくっているのが目に見えるような、煽り全開のニヤケ顔。完全に馬鹿にされた態度に、俺は思わず圧倒されて後退りしてしまった。
「お前なぁ……! 兄貴はこのこと知ってんのかよ!」
「あのさぁ、スネ夫くん。よく聞きたまえ」
武内は人さし指をチッチッと振りながら、やれやれと肩をすくめてみせる。
「私は『友達として呼ばれた』って言ったよね? その真意は?」
「は? お前が勝手に押し掛けてきただけだろ!」
「これだからヤンキーは!! 頭の中カチコミのことしかねーのかよ!!」
「んだとコラァ!!」
怒脈を浮き立たせる俺と、胸を張って煽ってくる武内伊月。玄関先でバチバチと火花を散らしていると__。
「やめないか、二人とも」
階段の上から、呆れを含んだ冷静な声が降ってきた。兄貴だ。
玄関先でヒートアップした俺たちに痺れを切らし、自分の部屋から出てきたのだろう。肘をすりすりしながら、階段を降りてくる。
「いいかヤンキー。私は何故か、あの頭脳明晰な車変態に呼ばれたの」
「仮にも医者の卵である俺に変態呼びとは、参ったな」
「シャラップ!!! ……で、ヤンキー分かるか? 私は『客』だ」
威風堂々と胸を張る武内に、俺は思わず兄貴の顔を見上げた。
「兄貴……これじゃあどっちがヤンキーか分かんねぇよ」
「分かるぞ、啓介。武内なら女番長としても十分にやっていけるはずだ」
「もうお前ら兄弟きらーい」
武内は両手を顔に当て、「えーんえーん」と棒読みの大根役者ばりに嘘泣きを始めた。……俺の周りにこんな妙な奴、今まで一人もいなかったぞ。
だが、待てよ?
兄貴がコイツを呼び出した……? 一体何のためにだ?
……もしかして、新しい峠の走りのテクニックでも見つけたのか?
それとも例の『タクミ』って奴に渡すための情報収集か……?
脳内で必死に思考を巡らせる。
だが、そのどちらでもなかったとしたら_____残る可能性は、たった一つしかない。
まさか……兄貴が……。あの完璧人間の兄貴が、このヘンテコ女に惚れちまったのか!?!?
「___痛っ!?」
直後、頭に『ペシッ』と軽い衝撃が走った。
痛みもほとんどない手加減されたノックに振り返ると、そこにはジト目で俺を見上げる武内の顔があった。
「考えてることが顔に出すぎ」
「なっ……」
「スネ夫。百面相してるところ悪いけど、絶対違うと思うぜ?」
ため息まじりに告げてくると、伊月はそのまま兄貴の後ろについて、二階にある兄貴の部屋へと消えていってしまった。パタン、とドアが閉まる音だけが廊下に響く。
「……ッ、なんだったんだよ」
胸の奥がモヤモヤして落ち着かない。
気づけば俺は吸い寄せられるように階段を駆け上がり、兄貴の部屋のドア前まで来ていた。壁に耳を極限まで近づけると、隙間からうっすらと二人の会話が漏れ聞こえてくる。
『だから……とは違うんだってば』
『そんなことを言うな……お前は……だろう?』
「……っ!!」
俺は目を見開いた。
くっっそ!!! おもっくそソッチ系の、甘っちょろい雰囲気の話をしてるじゃねーか!!!
やっぱり兄貴は、アイツにほの字なんだ!!
見たくない現実から逃げるように、俺はドタバタと自分の部屋へ駆け戻り、ベッドに飛び込んでそのままふて寝した。
*
「行った?」
「行ったな」
「お主も悪よのぉ」
「ふは……伊月ちゃんも啓介にわざとそれっぽく聞かせようなんて飛んだ悪い子だな」
「私の盗み聞きしようなんざ100年早いってことですよ」
のちに拓海とめっちゃ仲良くなるうえにMFGのトップまで務めるスネ夫ヤンキーが居たら話がややこしくなるからな。
事の始まりは武内家にやってきた1台のPCだった。
『え……マザーボードどこ?』
数日後には拓海の誕生日がやってくる。
そして泊まりに来ることは原作という名のネタバレで確定事項。
だけどパソコンの中身を見られたら終わる。
エロ本が入ってるとかそういう簡単な問題じゃねえ。
文太さんから言われた『高校生になるまでは運転してることバラすなよ』の件である。
パソコンには高橋涼介並みではないがデータがそれなりに入っていた。中には私が運転しているデータすらもあった。
そこでだ。データを見られたくないから一時的にどこかに移したい。しかしやり方がいかんせん分からなかった。
この時代、80年代のドデカパソコンなもんで、私が知る限りパソコンを詳しく知っているのは高橋涼介ただ1人だった。
そういえば高橋涼介は原作で、白い彗星って通り名がつくくらい走り屋をしてたはず。つまり走り屋相手をおびき寄せるための連絡先がネット上にあるはずだと私は思いついた。
カタカタとネットサーフィンしてたどり着いたのが、どこかの荒れた掲示板。そこにウィースとお邪魔して、白い彗星と戦ったことのあるハンドルネーム:ラーメンさんから連絡先を個人チャットで聞き出した。高橋涼介のプライバシーねぇwwwwって草生えてたけど、今考えたら本当にやばいと思う。あとでコイツは通報しといた。
で、電話を掛けたらまず開口一番に「お前は誰だ。殺すぞ」と言われた。
俺だよ俺!!武内伊月だよ!!と言っても信じて貰えず。だったらお前の家に18時になったらベルを鳴らしに行く。もし違ったら私の電話番号を売り飛ばすなり、晒すなりしろってな。
で、来たらやっと信じてくれたって訳。
「それで?PCの何が分からないんだ?」
「データ全部をコピーせずに移動したくて……」
「なるほど。フロッピーディスクは試したのか?」
「いや。バカでかい容量なんですよ。動画なんで」
「となると別PCに一時的に移したほうがいいかもしれないな」
「私もそう考えたんですよ。だから、あ!居るじゃんって思って」
「俺のPCをか……?」
高橋涼介がクスッと笑う。
PCを見たらかなりスペックとメモリ、グラフィック、容量があることが窺える。あと金持ちだし別のPCあるだろ。
「私たち、『友達』ですよね?」
「ふっ……脅してるつもりかな?」
「脅してるだなんてとんでもない。ただ、良いことはありますよ。私のデータを見ればね」
そこで高橋涼介の目が光る。
「君のことだ。車に関するデータだろう」
「ご明察!!どうです??悪い話じゃないでしょう?」
「ああ。悪い話ではないな。俺も最速理論をより確実に近づけるためのデータが欲しい____だが、
それだけじゃ俺のPCの代償は少し高い」
「なっ!?んで……」
行けると思ったのに!!!
ショックを受けてオロオロと狼狽える。高橋涼介が頼れないんじゃ、新しいPCを親に買ってもらうしかない。けどPCは高い。八百屋の娘がやっと買ってもらった中古のPCが今の私のPCなのだ。ただでさえやる時は慎重なのに。
「そう泣きそうな顔をするな。俺はまだ貸さないとは言ってない」
どういうことだ……?
鼻水が出かかってる涙目な顔で高橋涼介を見上げる。すると、私の顔を見てまたもや吹き出す高橋涼介。おちょくってんのかワレェ!!
「やはりお前は見てて飽きないな。今度2人きりでドライブに出かけるってなら俺のPCを貸してやってもいい」
「え……」
え……。
天下の白い彗星さまが……。
こんなチンケな私を横に乗せるだけで。
そんなことでいいの……????
顔に言葉が出ていたのか、チョップを食らう。
「いて。私に手を出すの拓海か赤城の白い彗星くらいですよ」
「2つ名で呼ぶな。そうだなぁ……お前が俺の下の名前で呼ぶなら、PCの操作を俺がやってやってもいい」
「まじすか!!涼介さん!!」
うぉっしゃ!!!と涼介さんの隣でガッツポーズをする。そこでまた私を見てクックックッと悪役みたいな笑い方をする涼介さん。私ってそんな面白い動きしてるかね?まったく。
もしかして。
涼介さんの机にあった鉛筆を拝借する。
机の上で転がしてみた。
しかし涼介さんは笑わない。
「箸でも転がったら笑うって言うのに」
「伊月ちゃん。それは子供の話だぜ」
ちくしょう!!!涼介さんは大人だったか!!
またもやチョップを食らう。
拓海よりも優しめのやんわりチョップ。
涼介さんから「なんだろうな。伊月ちゃんだと手が出ちまう」とおっかな恐ろしいこと言われた。
「とりあえずPC持ってくるのどうしよう……」
「それなんだが、俺がPC持ってお前の部屋に行くのはどうだ?」
「あーー、そっちのほうがいいかもしれないですね。うちのPCオンボロだから動かして壊れたら溜まったもんじゃない」
「おいおい。俺のPCは壊れてもいいのか」
「いやだって持ってくるPC絶対別のでしょ」
すると、よく分かったな……とまたもや笑う涼介さん。本当にツボがわかんねーなぁ。
「とりあえず!!来週空いてますか!!」
「そうだな。来週土曜日行くとしよう。午前10時はどうだ?」
「私もその時間がいいです!ありがとうございます!!」
こうして武内伊月こと私は悪魔の契約を結んだのであった。
*
月曜日の朝。
雲ひとつない快晴の空の下、私はルンルン気分で通学路を歩いていた。
「……おいイツキ。お前、また俺の家に来るんじゃねーだろうな」
隣を歩く拓海が、ジト目でこちらの顔を覗き込んできた。昨日の涼介さんとの「秘密の契約」で機嫌がいい私を不審がっているらしい。
「ふふ〜ん、それよりも『もっと良いこと』があるの!」
「……え?」
答えになっていない返答をすると、なぜか拓海は「嘘だろ……」と言いたげな、露骨にショックを受けたような顔をした。……いや、なんでだよ。
「じゃ、私こっちだから!」
中学三年生ともなると、さすがに校舎も教室も別々だ。拓海の失礼な視線を無視して自分の教室へと向かった。
だが、廊下に踏み入った瞬間――どこか異質な、不穏で嫌なざわめきが肌にまとわりついた。
……ん? なんだこの空気……。
教室内では、生徒たちが黒板の前に人集りを作ってひそひそと囁き合っている。
私は近くにいたクラスメイトの男子の肩をポンと叩いた。
「ねーねー、なにごと? 何かあったのー?」
「あ、武内……。いや、それがさ……」
男子生徒が苦い顔で指さした先___黒板の中央に、一枚の写真がペタリと貼り付けられていた。
そこに写っていたのは、ある女の子の……見るに堪えない淫らな姿だった。
うわぁ……。思ってたけど『頭文字D』の世界って、女子に対する攻撃が中々にえげつねーよな……。
ふと、脳裏に原作の知識がよぎる。
たとえば、茂木なつきちゃん。高校に入ってから先輩に無理やり付き合わされた挙句、DVまがいのことをされたり、変態おせっせに巻き込まれたり……。
……あれ???
「ね、ねえ。ちなみにそれ……『誰の写真』なの……?」
「え? うちのクラスの茂木なつきだけど……」
モ ギ ナ ツ キ 。
全身の血がスーッと引いていく感覚がした。
待て待て待て!!! 茂木なつきって、高校に入ってから出会うはずだよね!? なんで中学の段階でこんなことになってんの!?
今理解した事態の異常さにゾッとする。
私はカバンを自分の机に叩きつけると、廊下を蹴って拓海の教室へ全速力で走った。
「拓海ぃぃぃ〜〜っっ!! 拓海っ!!」
「うおっ!? な、なんだよ急に……」
教室のドアを激しく開け放ち、血相を変えて突進してきた私を見て、拓海のいつものボケッとした顔が瞬時に固まった。キリリとした鋭い視線で私を睨みつけ、重い声で問う。
「……なにがあった」
「茂木なつきを助けたか!? 中学1年生の時に!!」
「……茂木……? 誰だそれ」
「せやかて工藤!!」
「は? 工藤……? 急に誰の話してんだお前」
今度は「ふざけてんのか」と言いたげに不機嫌そうな顔になる拓海。だが、今の私に彼の顔色を伺う余裕なんて一ミクロンもない。
「拓海! 本当に茂木なつきを知らないのか!?」
「だから知らねえって言ってるだろ!」
なんでだよ!!!! 未来の彼女(仮)だろうが!!
原作がガン無視の明後日の方向へブレまくっていることに頭を抱えつつ、私はとりあえず自分の教室へと引き返した。
黒板の前では、相変わらず胸糞悪い野次馬たちが写真を眺めている。
私は人集りを押し分け、黒板に貼られた写真を力任せに『ビリビリッ!』と破り取った。
「うわ、武内なにしてんだよ」なんて声が聞こえるが無視だ。
元の世界で「破いた紙片でも繋ぎ合わせれば復元できる」というニュースを見たことがある。私は破いた写真を破片ごとポケットから取り出したペットボトルの水に沈め、ぐちゃぐちゃに押し潰した。これで完全再生不能だ。
するとその直後、教室の後方から__クスクス笑う声が。
「なにあれ、ヒーロー気取り?」
「意味ないのにねー」
あからさまに嫌味なひそひそ話が聞こえてきた。
振り向くと、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた女子グループがこちらを見ている。
あーーーね。犯人はアイツらか。
確証がない段階で騒いでも逃げられるだけだ。だが、胸のムカムカが限界突破した私は、心の中で硬い決意を固めた。
よし決めた。アイツら、徹底的に潰す。
いじめられている茂木なつきは、当然だがまだ登校してきていない。こんな酷いことをされていたら、登校時間を遅らせたくなるのも当然だ。
私は行動を開始した。
まず、嫌がらせで汚されていた茂木なつきの机を雑巾できれいに拭き上げた。
次に、仕掛けられていた椅子の上の画鋲をひとつ残らず回収。
そして___放課後や休み時間。
彼女たちが懲りずに次の嫌がらせ(画鋲や花瓶の設置)を仕込もうとしている現場を、愛用の110小型カメラで物陰から『パシャ! パシャ!』と完璧な画角で連続撮影した。
現場をバッチリ押さえた決定的な写真が揃ったところで、私はそれを胸ポケットにねじ込み、いじめっ子グループの元へとまっすぐ歩み寄った。
「ねえ、ちょっといい?」
ニヤニヤと談笑していた女子たちが、鬱陶しそうに振り返る。
「は? なに、武内さん」
「これ、見てみなよ」
私は現像したての写真を、彼女たちの目の前で扇状に広げて突きつけた。
そこには、彼女たちがニヤつきながら茂木なつきの机に画鋲を並べ、花瓶を置いている瞬間が鮮明に写し出されていた。
「っ……!? な、なにこれ……っ!?」
「盗撮!? 最悪なんだけど!」
顔を真っ青にして取り乱す女子たちに、私は冷ややかな笑みを向けた。
「盗撮? ちがうでしょ、『器物損壊および名誉毀損の証拠写真』だよ。今朝の黒板の写真のネガも、現像所から警察に提出してもらえば指紋で一発だしね」
「なっ……! や、やってないし! 言いがかりつけないでよ!」
「ふーん。じゃあ今からこの写真を持って、教頭先生のところに行こっか。あ、それとも警察にする? 写真付きで学校と警察に突きつけられたら、あんたたちの進学、一発で吹き飛ぶけど?」
言葉を失い、ガクガクと膝を震わせ始めるいじめっ子たち。
圧倒的な「証拠」と「正論」の前では、浅はかな嫌がらせなんて何の武器にもならないのだ。絶望に染まる彼女たちの顔を見下ろしながら、私はフッと鼻で笑った。いやぁ!!この時代はAIが無いから証拠が簡単で楽だね!!
___その後、私は約束通り写真を馴染みの教頭先生へ提出した。
教室で大騒ぎして欠点を晒せば、追い詰められた犯人が何をしでかすか分からない。元の世界でそんな悲惨なニュースを嫌というほど見てきたからこそ、処罰は大人に任せるのが一番安全だ。
写真を見た教頭先生は顔を真っ赤にして激怒した。
すぐさま加害者の保護者会議が開かれることになったが、私は一つだけ条件を出した。
『絶対に子供同士を立ち会わせないこと』
親は自分の子が陰湿ないじめをしているなんて夢にも思っていない。ただ証拠を突きつけるだけでなく、自分たちが犯した「罪」をしっかり自覚させ、二度と被害者に近づけさせないための隔離措置だ。
……あーあ。涼介さんには悪いけど、土曜日の件はちょっと先延ばしにしてもらうしかないな。
こうして数日が過ぎた。
教頭先生からこっそり聞いた話では、いじめっ子たちは全員、別の遠くの学校へ転校し、メンタルケアとカウンセリングに通うことになったらしい。それが正解なのかは分からないけれど、少なくともこの学校から害虫はいなくなった。
教室では消えた彼女たちの噂が絶えなかったが、胸糞悪い空気はすっかり消え去り、教室には明るい陽光と平和が戻っていた。
そんなある日の休み時間のこと。
ガタリ、と隣の空いていた席の椅子が引かれた。
「あの……ありがとう」
「んー?」
教科書から目を上げ、隣を振り返った私の思考がフリーズした。
そこにいたのは、少し緊張した面持ちで頬を赤らめている――茂木なつきだった。
どぅえええええ!?!?
心の中で叫ぶ私に、彼女は上目遣いでまっすぐ視線を重ねてくる。さすがヒロイン。めっっちゃ可愛い。
「あのね、なつきね……伊月ちゃんが1番頭良い高校を目指してるの、知ってるの」
「え、あ、うん」
「だから、なつきも……頑張って同じ学校を目指すことにしたの」
……ふぁわっっっつ!?!?!??
話を聞けばなんと金持ちの知り合いがいて、家庭教師雇ってもらうのだとか。絶対ベンツの言ってはいけないあのお方じゃないですかヤダー!
「……なつき、伊月ちゃんのこと……好きかも」
「え…………?」
カチリ、と頭の中で時が止まった音がした。
……ちょっと待て。
拓海の未来の彼女、私にフラグ立ってねぇか!?!?
ついに百合を出すことが出来た