場所はカートスクールの観覧席。
私は他の子の走る姿を見ながら、隣に座っている文太さんの説明を聞いている。
観覧席から見る子供用カートは自転車よりちょい早いくらいだが、乗ってみると意外と速いんだよなあ。
キッズカートは数字だけ見れば、チャリに毛が生えた程度の最高速だ。
ただ___視点が地面に近い分、体感は倍になる。
音も、子供の私には“レーシングカー”に聞こえる。
だから今の私にはそれで十分だった。
____が、8歳になった私は少しレベルアップすることになる。
「8歳なら次は80ccだ。ストレートで怖さを覚えろ」とのことである。ちなみに8歳は60cc〜80ccらしい。
中学一年生……12歳にもなれば100ccを超え、ジュニアになるのだとか。ジュニアとはローカル大会、地区選手権、全国公式戦へのステップが視野に入るコースである。大会に出たら一発で拓海にバレるけど、まだ見ぬ将来を考えるなら出るのもいいかもしれない。道はまだまだ長そうだ。
と言っても、将来決まってないんだけどね。
文太さんはこの場所では煙草が吸えないので、今回は飴玉を舐めている。飴玉サイズの膨らんでいる頬っぺたを押すと、逆に文太さんに私の頬っぺたを掴まれて横に伸ばされた。ごめんなひゃい。
ちなみに前回のペロペロキャンディは、他のカートスクールの子が文太さん指さして笑った為、文太さんの機嫌が下がったので却下となった。
相変わらず沸点がどこか分からない親父である。
そういえば、何故ラリー経験のある文太さんがカートをオススメしてきたのかは理解していなかった。ラリーとカートは全然違う。ラリーは公道を走るが、カートは整備された道路をずっと回る。
一度、文太さんに訳を聞いてみた。
すると帰ってきた言葉は、私は息を飲み込んだ。
文太さんはラリーストだが、だからこそ“基礎”の恐ろしさを知っていた。確かに拓海がホームコースの重要性に気づいた時は嬉しそうにしてたし、基礎は大切にしてそうである。
カートは全てのモータースポーツの始まりだ。
荷重と減速と切り返し──道具が軽い分だけ、誤魔化しが効かない。
まず舗装で“基礎の形”を作れ。
公道に出るのは、その先だ。
それが文太さんの教えだという。
ラリーストの中には子供時代にカートをしていた人もチラホラ居るらしい。
それを聞いて、公道も走りたいと思っていた私は納得した。公道を走りたいと言ってもまだラリーストになりたいと決まった訳じゃない。
何度も言うが、まだ夢は決まってない。拓海みたいになりたいかと言えば、それはなんか違う気がする。
どちらかと言えば、拓海の隣に居たいんだ。
文太さんにそう言うと髪の毛をぐしゃぐしゃにされて撫でられまくった。
「どーやら、ウチの倅は若いうちから悪い子を引っ掛けちまったらしい」
「悪い子とは失礼ですね」
「よく言うよイツキちゃん。お前さんが足繁くこの豆腐屋に来ては拓海にちょっかい掛けてんのは分かってんだ」
「拓海が可愛いから仕方ない」
「おいおい。拓海の”父ちゃん”は俺だけどなぁ」
「そういえば去年クリスマスやりました?」
「…………」
文太さんのジト目が襲う!!親子そっくりなジト目だ。
タイムアップ。アンド、ゲームセット。勝利は武内伊月、我なり。ちなみに今の季節は夏である。拓海のあまりの子供時代に私が勝利するのも頷ける。なんせ中一から自分好みの運転技術に仕上げるぐらいだし。初めての楽しいクリスマスは高3ときた。長い。あまりにも長すぎる。せめて子供時代は親子の想い出を沢山作ってくれ。
「まあ、今年は我が家のクリスマスに藤原家を招待するんで楽しみにしててください」
「へ? なんだい藪から棒に。イツキちゃんが俺までとは珍しいもんだな」
「まあまあ。夏は夏で拓海だけを楽しませるんでね」
「はぁ……やっぱり拓海じゃねえか」
そのわりには息子を大事にされて嬉しそうに破顔する文太さん。
けど文太さん、私知ってるからね。
文太さんの今の楽しみが『私』になってること。
知ってるからね!!!
宣言通り、夏休みは拓海を楽しませることにした。
夏休みが入る前は、給食で拓海が毎回私の分だけ少なめによそるっていう厄介事があったが、まあいい。ちなみにその分拓海から給食を強奪している。拓海ってば、私に奪われるって分かってるのになんで少なめにするのかね?全くもって意味わからん。
さらにプール学習で、拓海のあまり焼いてない肌と(私が)鍛えた体により、キャアキャア女子から騒がれてチヤホヤされてたのも少しムカついた。
そのことを伝えると「お前だって……」と拓海に怒られたのも覚えている。身に覚えがないので首を傾げていたら、拓海にまた怒られたっけな。
「だから拓海の夏休みはこの私が貰ったァッ!!」
「意味わかんねえ。そんな事より、イツキ。国語の問2わかるか?」
「あ、そこは問題文にある文章を探すといいよ」
「ほんとだ……このまま書き写せばいいんだな」
現在、私たちは余生を……いや!バカンスを楽しむ為に宿題を最初の1日で終わらせるという所業をこなしている。夏休みの日記? そんなん最初に架空を作るに決まってる。拓海は私と一緒に居ることにこだわるみたいだから、夏休みの捏造宿題に罪悪感を抱くことは無さそうだ。
ちなみに、今いる場所は藤原とうふ店ではない。
______私の部屋である。
流石に自室は、白と黒のツートーンだと緊張してしまう部屋になるのでナチュラルな部屋にしている。
そして大きく部屋の中で存在を象徴する本棚。本棚には私の年齢からは考えられない難しい本があり、さらに空いているスペースには頭文字Dに出てくる車達を飾っている!!(MFGに出てくる車は発売されていない)
しかしナチュラルとは言ったものの、可愛いものも好きなので、パンダのぬいぐるみをベッドに置いている。窓際に置くと、女児が居るって外から分かりやすいから狙われるらしいのでベッドの頭付近に鎮座している。
拓海は最初こそ女の子の部屋に驚いていたが、2日目で慣れやがった。あまりの落ち着きように拓海を問い詰めると、「これから沢山来るんだから驚かねぇよ」と大変ありがたくないお言葉を貰った。
私が夏休みの宿題を2時間で終わらせると、拓海がジト目でこちらを見てくる。
「お前……本当は中身が大人なんじゃねぇのか?」
「ぅえ!?」
唐突な質問に喉の奥で息が詰まる。
やっぱり拓海は天才だ。感覚派で分かるのかもしれない。
拓海は私の目をじっと見てくる。だがすぐに半目になって馬鹿にした顔をして、ため息をついた。
「なんてな。イツキがもし大人だったらアホなことはしなさそう」
「拓海ィ……」
やっぱり可愛くない。
拓海が必死に宿題をしている中、ファミコンで遊びつつ、6時間も経てば、拓海も夏休みの宿題が終わる。私の倍の時間かかったが、伊達に私の勉強を教えていないからな。拓海に今のペースで教えたら、県内1位の高校は狙えそうである。2位と3位は男子校だし、女子校だし、拓海と一緒に居られないのがネックだよなあ。
そこでふと考える私の脳内……。県内1位は高橋兄弟が居そうだなぁ、とか。絶対茂木なつきちゃん居ないよなぁ、とか。あれ……おかしいな。原作クラッシャー??でも今更な気がする。おいどん、にょただし……、転生者だし……。
まあ、いっか!!!
そこでフラグが立ったとか神のみぞ知る。