「で? 俺との約束が遅れた訳か」
「そうなんですよ〜いやぁ!女の子から告白されたの初めてでした」
涼介さんが「守備範囲を広くするか」とボソッと呟く。守備範囲???なんのこと?
「で、どんな感じですか?」
「移すには問題ない。が、伊月ちゃんの言った通りスペックが低いから時間がかかるだろう」
「そうですか……じゃあゲームでもしますか」
「ゲーム?」
「ハチロクで何の車に勝てるかゲーム」
すると、ぶほっ!!と噎せる涼介さん。なんか面白いこと言ったかな。
「さ、さすが伊月ちゃんだぜ……。ここでファミコンの名前出さないあたりある意味車バカだな」
「いや……正直考えてたんですけど涼介さん相手にガチでやってボロクソに涼介さんがゲームで負けるのもなぁ……と思ったら可哀想で」
「理由を聞いたら傷ついたぞ、伊月ちゃん」
とは言いつつもケラケラと笑う涼介さん。
なんか原作の涼介さんってよりかは……。
「普通の男の人だなあ……」
「フッ……なんだと思ってたんだ?」
「頭脳明晰、医者の卵、最速理論掲げてる車変態」
「……」
「りょ、りょーすけさん!!怖い顔しないでください」
流石にマジ顔だったのでチビりかけた。
*
涼介side
「普通の男の人だなぁ……」
目の前で気になっている女の子がポツリと呟く。
思えば出会った頃から不思議なオーラを放っていた。
「フッ……なんだと思ってたんだ?」
気になったので聞いてみると、帰ってきたのは
「頭脳明晰、医者の卵____
最速理論掲げてる車変態」
前者は当たり前に感じたが、後者は初めて言われた言葉だった。最速理論を作成しているのは実の所、啓介さえも知らないはずだった。それを一発で当てたのが目の前の武内伊月である。
この子は一体何者だ?
なぜ未来が分かる?
なぜ見ていないのに分かる?
余程頭がいいのか___それとも俺が嫌う馬鹿か。
「りょ、りょーすけさん!!怖い顔しないでください」
ハッとした。どうやら深く考え込んでいたらしい。
こんな女、初めてでどう接したらいいのか分からない。分からないからこそ楽しい。
まるで新しいメカニックに出会った気分だ。どう自分を改造出来るのか。そこに新たな視点は出来る。
例の幼なじみ___藤原拓海だったか。あの子のナビシートに載せておくだけじゃ、もったいない。
この俺がこの子の柔らな羽を伸ばさせてあげたいと思った。
にしても中三か……。
この子が18歳になったらどんな夢を見せてくれるのだろう。
「そういえば、涼介さんって付き合ってる人いないんですか?」
まさか真っ向から聞かれるとは思ってもみなかったのでまたゲホゲホと噎せる。
水をくれた伊月ちゃんになんでそのことが気になるのか聞いたら「い、いやぁー!いまなんの季節かな!?って」と言われた。今は冬だが?
付き合ってる女性か……。
「気になってる女性ならいる」
「おおー!!やっぱり!!」
「やっぱり?」
「イエ。ナンデモナイデス」
気になっているというのは、香織という女性だ。
だが、もう一人増えた。
これは黙っておこうと思う。
_____本人に言っても仕方ないからな。
*
涼介さんが出ていったあと、FCのエンジン音が付いたかと思えば武内家から遠ざかるように消えていく。
やっと一難去ったと思えば、今度は激しいピンポンが鳴り響いた。母親が私の名前を呼ぶ。
これ拓海だ。
なんの用だろう?と下に降りていってドアを開ける。
すると開口一番に「また高橋涼介と会ってたのか」と言われた。え、まって。
「あの、拓海? 涼介さん呼びにしない?」
「は?なんで?」
「なんでってそりゃお前、フルネームは失礼だからだよ。しかもこれからお世話になる人に」
そう言うと何故か「これからお世話……」と呟いてショックを受けた顔をする拓海がそこに居た。
すると後頭部に打撃を受ける。
振り返ればにこやかな顔で(しかし背景は般若)母親が立っていた。これで包丁を持っていたら鬼に金棒だ。
「伊月〜? 拓海くんにまた誤解させて困らせてないだろうね?」
「何言ってんのお母さん。誤解って何?」
「あらやだわこの子。ちょっとお借りしたくて?」
般若を背負った母親が私の首根っこを掴む。
「え……あ、ハイ。どうぞ」
若干引いている拓海は私をあろうことか引き渡した。この卑怯者!!!恩を返せ!!!
そしてリビングに連れていかれたかと思えば、その場で正座させられて、
やれ拓海が可哀想だなど、拓海のことを一番にしなさいだなど怒られた。あんな性格も見た目も頭も良い子、他に居ないわよ!!アンタ、拓海を手放したら一生結婚できないからね!?と。
「お母さん、そりゃないよ。拓海が私の事好きだなんて絶対ありえない」
と至極真っ当なことを話すと何故かお母さんは額に手を当てて、はぁぁぁぁと、かめはめ波を打つ前ぐらいの長い溜息をついた。
「もういい。お母さん決めたわ」
お母さんが急に言う。
嫌な予感しかしない。
「拓海くんの誕生日、アンタの隣の部屋に泊まらせるわよ」
「お母さん!?!?!?」
「流石に娘だから手加減で隣の部屋だけどね。こっちも見てられないのよ。ったく、ケツの青くせぇ中坊がよぉ。嫌ならいいのよ? アンタのガラ〇の仮面やらときめきト〇ナイトを拓海くんに見せつけても」
「お母さんんんん!?!?」
「どうやらアンタは私の若い頃に似て鈍いようだからね。ここでガツンと言ってやらなきゃ誰が言うとでも? 小娘相手に私なんざ余裕だっての」
どうやらこの世界のイツキの母親は私の影響で少しヤンキーらしい。父親が言ってた。昔は可愛かったと。つまり今は可愛くないと。
「さ。拓海くんに話してくるわね。拓海くーん〜!!」
「ま、ままままま待って!!母様!!」
ずっと正座してたせいで、足が痺れて動けない!!
お母さんはそのまま玄関にいた拓海に駆け寄ったのか、ウキウキとした声がリビングに聞こえてくる。泊まっていいわよ、と。
慌てたような拓海の声が聞こえたが、お母さんのゴリ押しにより、拓海は頷く他なかった。
こうして、拓海の例のグレ事件は確定事項となった……。
*
TAKUMI視点
たまにイツキでも話せない時がある。
男のどうとか、ああとか、くだらねぇ話。
イツキと喋る時は大抵車の話か俺のことがメインだ。そのくせ自分の話はしようともしない。
特に恋愛……とか。
イツキ以外でも人から話を振られるのは大抵俺ばっかだったが、今回ばかりは俺も話したくなった。
けど話す相手と言ったら、イツキが紹介してくれた友達……でもなく知り合い的な立ち位置の池谷先輩しか思いつかなくて……。
「で、俺のとこに来たってわけか。よ!!拓海」
「はい……すみません」
「いいってことよ!あのイツキ相手にしちゃあ、よく頑張ったほうだぜ。文句が何も生まれないわけがない!!」
胸をドン!と抑えて豪語する池谷先輩。
しかし引っかかる。
文句を言いたい訳では無いのだ。
「池谷先輩そこまで言ってないです」
「え!?あ!すまんすまん」
池谷先輩はペコペコと謝ってくれた。その様子が先輩なのに俺に優しくてなんだかおかしくて、ふふっと笑ってしまう。池谷先輩は「やっと笑ってくれたな」と嬉しそうに笑った。
「それで?相談ってなんだ?」
「実は……」
俺は話した。
幼稚園の時からイツキが俺の布団に入ってきていつの間にか寝てること。父ちゃんは容認していて、断りづらいこと。俺……男だから朝勃ちとかするし。バレないように抜けて出たのも大変だった。
そして何よりイツキのことが____
「俺、やっとアイツのこと好きだって気づいて」
普段はバカみたいに騒いでいる癖に、真面目な場面では途端にまともなことを言う。頭も俺よりいいし、俺のことを優先してくれる割には友達も多い。
この前だって、クラスのいじめを体を張って止めたらしい。それも本人の口からではなく、人づてに聞かされた。あんなに立派なことをしたってのに、まるで当たり前みたいに何も言わないんだ。
小さい頃からそうだった。
イツキは車バカだけど、それ以外もちゃんと見ている。いつだってアイツは正義の味方だった。俺に手を差し伸べてくれた時も俺がまだ弱かったから……。
今は逆転して身長も体力も抜かしたと思ったのに、それでもまだアイツが遠くにいる気がする。弱い者から外れたのに。
「だから俺、イツキに何か一つでも勝ちたくて……」
いや、勝ちたいんじゃなくて。
「俺が守ってやりたいんです。アイツ1人だけだとすぐ消えちゃいそうだから」
そこまで言って、目の前の湿気に気がついた。
「そうかぁ!!拓海ぃ!!やっと気がついたか!!お前ほんとボケてるなあ!」
うわぁぁぁんんん!!と池谷先輩がファミレスのど真ん中の席で泣く。正直周りの目を引いていて痛々しいし、他人のフリをしたい。しかし池谷先輩の意見も聞きたい。
「池谷先輩。俺はイツキをどうしたいんでしょうか?」
「へ? そ、そりゃあお前……好きな女とやることなんて1つだろ……」
「はあ? なんですか?」
「………………」
まるで池谷先輩は経験なしのような話し方をする。でもこの前教習所の先生が良いとかどうとか話してた気がする。とりあえず俺よりは女性経験は上だろう。歳上だし。
だけど池谷先輩は冷房がガンガンに効いたファミレスの中、汗いっぱい垂れ流しながら黙っている。
「あの、池たn____」
俺が声を掛けた時だった。
「そんなのセックスしかねーだろ」
池谷先輩がゴホッとアイスコーヒー(ミルク入り)を吹いた。
ファミレスの硬いソファ越しに後ろから聞こえた、聞き覚えのあるボイスに振り向くと、そこに立っていたのは金髪の……。
「高橋……ッ、啓介」
「俺を呼び捨てとは流石だな。お前、藤原だっけ?」
「は、はい」
「その話、俺も混ぜろ」
「はい…………はい?」
俺は理解できなかった。なんでイツキが気になってるコイツなんかに教えなきゃなんねーんだ。
そんな感情が顔に出ていたのか、目の前の高橋啓介が眉間にしわ寄せて「なにガンつけてんだ」と言ってくる。別に……。ガンよりイツキから離れて欲しいだけだが。
高橋啓介は「別にいいだろ。恋バナくらい」と経験値高めな言葉を言いながら、池谷先輩を奥側に押しのけて池谷先輩の隣に座った。
向かい側はもちろん俺だ。高橋啓介と目が合う。
相変わらず意図が読めねえ。
この威圧感を出す高橋啓介をおちょくってたイツキがいかに異常だったかが分かる。
「俺がお前とあの女に興味持ったのは、俺の兄貴がお前の女のことを、す……」
「す?」
「す……っ飛ばしたからだ」
「えっ」
イツキがすっ飛ばされた?
池谷先輩も不審に思ったようで「えぇ!?イツキちゃんがぁ!?」と叫んでいる。あまりの騒ぎようにもうすぐ店員がお盆をもって飛んできそうだ。
イツキはあんなナリでも、危機管理能力は高い。自分が危険だと感じたらすぐ逃げるタイプだ。だからこそ目の前の高橋啓介が言っている言葉が信じ難い。
高橋啓介は自分の兄貴分が悪く思われて居心地が悪くなったのか、ごほん!とわざとらしい咳をする。
反対に俺は眉間にシワがよっていくのが分かった。
「そんな怖い顔をするな。悪い話じゃねえ。兄貴がお前の女をす…………っ飛ばしたから、お詫びに俺がお前の女の話を聞いて代わりに好きなもの渡してやろうって話だ」
「あの……さっきから俺の女俺の女言ってますけど_____まだ俺、アイツと付き合ってないです」
そう。『まだ』だ。
「は? あんなにくっついてやがったのに?」
「はい」
池谷先輩と同じ反応された……。
改めて否定すると、高橋啓介が目を見開く。そして俺の上から下を見たかと思えば鼻で笑いやがった。
「俺が女を教えてやろうか?」
今度は俺がゴホッとオレンジジュースを吹いた。
何言ってんだこいつ。
「あーあ。若いっていいな」
「高橋啓介も若いくせに」
「ストップ。啓介さんって呼べ」
「…………」
「そしたら女を口説く方法を教えてやる」
池谷先輩と俺は息を飲む。
高橋啓介はそのルックスさながら、確かに経験値がありそうだ。イツキいわく暴走族に入ってたって言うから、何人も女を食ってそうである。
俺は……。
「け、いすけ、さん……」
「なんだ藤原」
「教えて…………ください……」
俺は、屈した。
*
啓介said
藤原拓海に俺の直伝の技をファミレスで教えてから、俺は未だに兄には届かぬ速さの、買ったばかりのFDに乗って戻った。まだカスタマイズも何もしてないノーマルだ。
広々とした家に帰宅すれば、兄貴の部屋が電気が付いているのが外から分かっていたので、ノックをした。
返事を貰って部屋の中へと入る。
「なあ、兄貴」
「なんだ啓介。また伊月ちゃんの話か?」
「ちげーよ!!いや違くねぇ!!!」
「どっちだ」
兄貴はいつの間にあの女のこと、ちゃん付けで呼ぶようになったんだ???そういえば最初からだった。
つくづくあの女ムカつくぜ。
「あいつら付き合ってないんだってよ」
「ほう、そうなのか」
「そうなのかって兄貴……アイツのこと好きなんだろ?」
俺はついに兄貴に言った。
あの日、あの晩、声が聞こえた。
しかし兄貴は自嘲した乾いた笑い方をする。
「……啓介。好きという感情は自覚して自分が腑に落ちてから言う言葉だ。俺はまだアイツを飲み込んでいない。好きの範囲ではあるが、まだ気に入っているだけだな。____ちなみに、アイツらが付き合っていないのは見ればわかる」
「な!?!? 知ってたのかよ!!兄貴!」
驚いた……。てっきり、知らなかったから手を出さなかったのかと。兄貴の誘い文句を聞けば老若男女問わず皆、首を縦に振る。断る人間は居ないほど、兄貴は何でもできる男だ。俺もそんな兄貴の背中を育って生きてきた。
なのに兄貴が手を出さないだと……?
「ついでに言っておくが、啓介。お前は俺の兄弟だ」
は……?
んなことは知ってる。生まれた時から知ってる。
「それがどうしたってんだよ、兄貴」
「お前は伊月ちゃんのこと好きになるだろう」
____俺と同じくな。
そのあとは、何言われたか頭に入らなかった。
ただ覚えてるのは予言されたってことだけ。
しかもクソッタレな予言を大好きな兄貴から。
俺があのヘンテコな女を好きになるだと???
ありえねえ。ぜってーありえねえ。
「絶対好きになってたまるかよ!!!!」
その日、高橋家で俺は叫んだ。
やっとpixivと同じところまで書き出しました。
意味:続き書いてない。
良かったら感想待ってます。(ただし甘めに見てね)