パラレル『転生』オブ『物語』ワールド 作:パラレルマン
あの祠系狐耳お姉さん
時計の針が17時を示す頃、学生たちは皆々授業を終えて放課後を迎えていた。
放課後を迎えた生徒たちの行動は様々だ。
部活に励む者、復習に励む者、もしくは遊びに行く者。
その他諸々、色々あるが……皆、それぞれ好きなように過ごしている。
まさに青春。
そう言った光景が学校、そしてその外の至る所で繰り広げられている中、山中の神社へ向かう二人もまた、同じように放課後を──青春を謳歌していた。
「もう待ってよ〜、安藤くん」
「あともう少しだよ。ほら、望木さん」
そう言って少年は、少し後ろを歩く少女に手を伸ばす。
少女は顔を仄かに赤くに染め、少し戸惑いながらも手を差し出した。
少年はその差し出された手を取ると、彼女をそばに寄せてもう一度共に歩き出す。
そうして山を登り切ると、そこには古びた神社が一つ。
もう既に放置された久しいのか、木の湿ったような匂いが漂っていた。
「こんなところに何があるの?」
「俺が見せたかったのは神社じゃなくて、こっち」
少年が後ろを向いて指差すと、少女も振り向いてそちらへと視線を向ける。
振り向いた先で見た光景に、少女は目を見開いて輝かせ、その光景に感嘆の声を漏らす。
夕焼けが照らす街並み。
オレンジに染まった街は、建物の窓などや川の流れに反射して、キラキラと輝き、まるで宝石のようであった。
「凄い……」
「だろ? 俺のお気に入りの景色でさ、どうしてもこれ、見せたかったんだよね」
感嘆する少女の横顔を、少年は少し恥ずかしそうに見つめる。
そしてオレンジに染まる街の景色を一瞥すると、改めて少年は体ごと少女の方へと向ける。
「望木さん」
「……あ、安藤くん?」
「俺は、君が好きだ」
「っ……!! 私も、安藤くんが、好きです……!」
抱き合う二人。
二人を照らすのは赤く、真っ赤に染まる、夕日だけ。
静かな神社の中、邪魔をするモノは誰もいない。
そんな二人の後ろ姿を森の中から見守る男が一人。
そう、俺だ。
ずっと光景を見守っていた、俺である。
(くぅ、堪んねぇなぁ……! やっぱ原作の光景を、この目で見るってなると、もうね。感涙もんよな)
俺の名前は
端的に言ってしまうと転生者である。
元々、普通の地球、普通の世界で、普通に暮らしているだけの、健全な成人男性であった。
だが過度なストレスから仕事を辞め、今までの生活を取り戻すが如く、引きこもり三昧をしていたところ……干からびてしんでしまったわけだ。
今となっては、何故干からびて死んでしまったのかわからないが、少なくとも三日三晩飯も食わず水も飲まずの生活だったことは覚えているため、恐らくそれが原因だろう。
ともかく。
干からびて死んでしまった俺は、気づけば別の世界へと転生していた。
俺が読んでいた漫画『少年と少女、放課後に』の世界へ。
その作品はいわゆるボーイミーツガールってやつで、ラブコメものだ。
細かいことは省くが、主人公の安藤とヒロインの望木による、放課後を過ごしていくうちに仲良くなっていく、って言う感じの作品。
まぁ、それ以外は俺のいた地球と変わらず。
つまり前世とは年齢以外そんなに変わらない生活を送っている。
転生と言えば色々思い浮かべるだろう。
ファンタジー世界でチート無双や、現代異能世界でモテモテハーレムなど。
だが俺が元より望んだのは平穏。
この平穏無事な世界。
だから望みは叶って、元より原作ファンだった俺の見たいものが見れて、大満足ってわけだ。
ストーカーだって?
バレてないから無問題。
話を戻そう。
原作ファンな俺は二人の行く先々を先回りをして、原作にあったその光景を見ていたわけだが、それもそろそろ終わりだ。
話自体終わりを迎えるのだから。
(2人がここを降りれば後は終わりへ向けたエピローグのみ、か。モブの俺は出る幕もないわな)
抱き合う二人を見ながら、俺は森の奥へと下がる。
そこで後ろを見ていなかったのが良くなかった。
ガッ、という音と共に踵に硬い何かが当たる。
(まずっ……!?)
俺はそれに足を取られ、ひっくり返りそうになり、なんとか体勢を立て直そうとする。
だが少し湿った落ち葉に滑り、空に手を伸ばすが何も掴めず。
後頭部に強い衝撃が加わった、
その瞬間──
「「「私と貴方、何処まで飛べるか、挑戦しようじゃん」」」
声が聞こえた。
「「「だったらやり方はわかるだろう? 10秒数えて振り向きにバーンっ、だ」」」
声が、幾つもの声が、重なって耳に響く。
「「「私がっ、みんなを救ってみせるっ! この魔法の力でっ!」」」
知らない声と、聞き覚えのある声と、人のものではない声が。
「「「ならばこの電脳の世界を行けばいい。何処までも、君は行けるだろう」」」
そうして、幾つもの声が響いたかと思ったら、
俺は空を見上げていた。
「……今の、なんだ?」
気づけば後頭部の痛みはなく、夕暮れに沈む空だけが見えていた。
困惑に頭が回らず顔を上げ、俺は何につまずいたのか知ろうとして足元を見る。
するとそこには石造りの、何か小さな……祠、のようなものが、俺の足によって崩れていた。
「これ踏んだのか……見るからに壊したらまずいやつ、だよな」
俺は一度立ち上がってからしゃがむと、崩れた祠のようなものを戻そうと試みる。
だが綺麗なまでに粉砕されていたそれは、元の形に戻るには崩れすぎていて……俺は数分の試みの後に辺りを見渡す。
「も、戻せないものは、しょうがないよな!」
と、言うわけで。
戻せないものは仕方ないだろう、ということで。
急ぎ離れるべく、立ち上がって走り出そうとした。
が、走り出すと同時に、何か柔らかいものにぶつかって、俺は少し後退る。
「な、何にぶつかって……えっ?」
俺はそのぶつかったものを、
するとそこには2メートル、いや3メートルほどはあろうかというほどの、出るところは出てて、締まるところは締まっている、大きくも美人な女性が、俺を見下ろして立っていた。
妙なのはその頭に生えているものだ。
黄金のように輝く髪の中に、まるで獣のような耳が二つ生え揃っていた。
「おぬし、その祠を壊しおったな?」
「へっ……あっ、いや、その、こ、これは!」
なんとか取り繕おうとするも、前のめりになって顔を覗く彼女に気圧され、思わず更に後退りをする。
だが彼女の続く言葉に、俺は思わずその足を止めてしまう。
「全く。おぬしのせいで今、世界は
「な……なに、言って?」
「詳しい話なら向こうでしてやろう。おぬしには話を聞く責任があるからのう」
と威圧感のある顔で詰め寄られた俺は、首根っこを掴まれて引き摺られていくのだった。