パラレル『転生』オブ『物語』ワールド 作:パラレルマン
狐耳のクソデカ美女に引き摺られること数分。
俺はボロボロのほぼ廃墟と化した神社の中にいた。
中は外の外見と比べて妙に小綺麗で、なんなら生活感もあった。
畳は敷いてあるし、真ん中にはコタツがあるし、茶菓子も置いてある。
俺はそんな部屋の中で、コタツに座って奥へと引っ込んだ狐耳お姉さんのことを待っていた。
ふと、コタツの上に手鏡があることに気づく。
鮮やかな模様の手鏡に、俺は思わず手を伸ばし鏡を覗き込んだ。
するとそこに写っていたのは、当然だが俺。
黒い髪とまさに背景モブって言った感じの顔つき。
身長170cm台の普通の男だ。
俺はなんの変哲もない手鏡を置いて、辺りをキョロキョロと見渡した。
すると奥から暖簾をくぐり、お盆を手に狐耳の人が姿を表す。
彼女は俺の前に湯呑みを差し出して言った。
「ほれ、茶じゃ。淹れたてじゃからな、気をつけて飲め」
「あっ、はい」
出されたものに手を付けないのは失礼だろう、ということで熱々のお茶をずぞぞと飲む。
彼女はそんな俺の様子を見ながら反対側へと座る。
目の前で座られてようやく認識できたが、なんかすげぇデカい尻尾が九つ、腰の辺りから生えている。
さっきは近すぎて気づかなかったようだ。
俺がその尻尾に気を取られていると、彼女は小さく口を開く。
「さて、何処から話したものかのぅ」
「と、取り敢えず……自己紹介から、しません?」
湯呑みを置いた俺は、恐る恐る聞いてみる。
なんせ正体不明、あまりにも現実離れした身長と容姿、気になるところが多すぎるが、そこを突っ込むほどの勇気はない。
そもそも、彼女は何者なんだろうか。
元の漫画には当然、このようなキャラはいない。
何もわからない。
だからまず『知る』。
知るところから始めねば、前も後も何もない。
(某漫画キャラの受け売りだがな……)
彼女はふむ……と、数秒考えた後、俺の顔を見て言った。
「ワシの名は
(……なるほどね)
関わっちゃダメそうな感じの人だ。
正直、今すぐここから離れたい。
だが……さっき言ってた、世界が終わろうとしている、という言葉が気になる。
非常に逃げ出したいが、その言葉の意味を聞くまで俺は帰れない。
「俺の名前は羽柴 陸久。見ての通り普通の──」
「はて……普通、だと? それは何の冗談だ、わっぱ」
「じょ、冗談って。見りゃわかるだろ、俺は普通の人間で」
「ほう、
「な、んでそれをッ……!?」
不敵に笑みを浮かべるカグラに、俺は威圧感を感じて体が硬直する。
逃げ出したいが、逃げ出せない。
相反する自分の感情と、体の矛盾感に俺の呼吸が早まっていく。
まるで蛇に睨まれた蛙のように。
「……くくっ、別に取って喰らおうなどとは思っておらぬわ。だが、ワシが第四次元的視点からコトを見て話せるのは事実じゃ」
「第四次元……? 何言ってるのかはわからないが、俺が転生してきたってことをなんで知って……!」
「おぬしが知るには些か早いかも知れぬなぁ……そもそもわっぱの過去なんぞ、何の興味もないしのぅ」
「じゃ、じゃあ、何のために聞いたんだよ……」
「さぁのぅ?」
カグラのニヤついた笑みが脳にこびりつく。
話してるとおかしくなりそうだ。
だが一先ず理解した、目の前にいるこいつは俺の理解の外にある存在だと。
「……と、取り敢えず、凄いってことはよくわかった。気を許せるような相手でもないこともな」
「理解の外にいると分かってなお、啖呵を切るか。一度死したが故の蛮勇か?」
「何言ってんのか、よくわかんないけどさ。俺には聞きたいことがある」
「……おお、そうであった。元よりそれが目的じゃったな」
さて、とカグラは呟くと、コタツに隠れた場所──自身の隣から何かを取り出すと、コタツの上に置く。
なにか……イラストの描かれたボード、みたいなものだ。
「では改めて、今起きてることを説明するぞ」
「あ、はい」
(図説付きなのか……)
なんて心中でツッコミながら、彼女の解説を聞くことに。
「まず、昨日壊した祠あるじゃろ」
「ある」
「アレのせいで輪環世界の連続性が崩壊した」
「…………何言ってんの」
曰く。
俺がまず転生してきた理由として、輪環世界という世界間の仕組みがあるらしい。
俺のいた普通の地球、普通の世界が⑤とすると、その前と後ろに別の世界が④、⑥と並ぶように存在しているらしい。
そしてその並んだ世界は一つの糸のようなもので繋がっているらしく……まぁ、干し柿のようにぶら下がって繋がってるとのこと。
で、その繋がった各世界には杭が一つ、存在しているらしく、それがあることで、世界はそれぞれ分かれていて、めちゃくちゃになることはないとのこと。
その杭ってのが、俺が壊した祠だったらしい。
「なんでそんな簡単に壊れるようなもんで世界繋げちゃってんの!?」
「話は最後まで聞くんじゃな。無論、わっぱのケツ一つで壊れるようなもんではないわ。即ち、あの杭は
「弱ってた?」
「うむ。ワシがここにいる理由の一つでもある」
曰く。
本来、杭は凄まじい力で世界そのものに固定されているらしく、俺が踏んだくらいで壊れることはないらしい。
だが、他の世界のあったはずの杭が、全て崩壊していたらしい。
明らかなる害意、何者かによる破壊工作とのこと。
「それで?」
「ここが最後、最後の杭であった。誰も守るものがおらぬかったが故、壊れるのも時間の問題じゃったが……」
「……と、とどめを刺したのが、俺、と」
「そういうこったの」
つまり俺は、盛大にやらかしてしまったようだ。
取り返しがつくとかつかないとか、そう言う話の一歩後らしい。
(……だが、それで何故?)
世界がいっぱいあって、それが吊るされてて、それらを固定してた最後の一つを俺が破壊しちゃったことは理解した。
だがそれで何故、世界が終わるというのか。
だがその疑問もすぐに解消されることとなる。
「で、ここからが本題じゃ」
「本題……?」
「世界を固定していたもの、それら全てが壊れたらどうなると思う?」
「吊るされてたなら……落ちる?」
「落ちたらどうなる?」
「そりゃ、落ちたら床下の一つの場所に纏って……ん?」
「そう、下に全部落ちた。落ちた世界は一つ残らず砕けた。故に、世界は
「……な、何が言いたい」
なんとなく、よろしくない予感が頭を過る。
いっぱい世界があって、それらは『混じらないように』吊るされていて。
でもそれらが落ちて、砕けて、床下に纏まって落ちてたとしたら。
「バラバラになった世界は一つになった。わっぱの最後の一撃でな」
幾つもの世界が一つに纏ってしまう、やらかした当人が言うのもアレだが、めちゃくちゃだ。
(バラバラだった世界は一つに、か……あまりにも突拍子なさすぎて、何が何だか……)
正直、恐怖とか焦燥とかよりも、混乱のほうが先に来ている。
情報の雨あられだ。
一つずつ、まずは一つずつだ。
「……ぐ、具体的には、どうなったんだ?」
「ふむ……『竜少女エブリデイ』、『アストラル・ラインズ -星々を夢見る者たち-』、『怪幽奇譚』……これらの言葉に聞き覚えは?」
「ま、待て待て待てっ!! それは……覚えてるも何も、俺が
「これらはほんの一部に過ぎんが、それらの作品が『この世界』を基盤に、取り込まれておる」
取り込まれている。
その言葉に、俺の思考がより混迷とする。
つまり、つまりだ。
(俺の知ってる作品が、いっぱいあって、それらの世界が、一つに混じった……!?)
「ど、どうしてそうなる!? そもそもアレらは非現実的な『作品』だろ!?」
「じゃあ何故、わっぱは
「っ……そ、それは、確かに……」
それはそうだ。
その事実を否定すれば、俺がこの世界にいる意味がわからなくなってしまう。
この漫画の世界にいる意味が。
「……とは言え、未だ完全に混じりきってはおらぬ。作品の『ジャンル』は移行しおったが、それ以外はまだはっきりと別れておるわ」
「混じりきったら、どうなる?」
「まぁ……作品の矛盾点に耐えきれず……パァ、じゃな」
手を広げて飛び散るような仕草をする。
即ち、何もかも終わり、ってことだろう。
だが……まだ、混じりきっていない、と言った。
「なら混じり切る前に……」
「そう、なんとかすれば、世界はまだ助かる」
「ど、どうすればいい。どうすれば世界は救える?」
「ふむ……それは、明日にするかのう」
「あ、明日!? そんな悠長にしてて……!」
と声を荒げようとしたところを、立ち上がったカグラの圧に思わず声をとめる。
「安心せい、そんなすぐに終わぬわ。一先ず、混じった世界を見るがよい。そうしてこの世界が何処に向かうか、おぬしの目で見るんじゃな」
と言うと奥の部屋へと歩き出す。
「もう外は暗い、帰りは気をつけるんじゃぞ」
そう言うと奥へと引っ込んでしまった。
一人取り残された俺は、湯呑みに少し残った茶を見て、それを一気に飲み込む。
長い話に晒された茶は、些か冷えていた。
俺は少し考えを巡らせた末、今日は一先ず帰ることにするのだった。