パラレル『転生』オブ『物語』ワールド 作:パラレルマン
カグラの言葉を聞いて数分後、俺は家に帰るべく街の中を歩いていた……のだが。
その異様な光景に俺は思わず縮こまってしまう。
モノクロ調の歪な形の飲食店が立ち並び、近未来的な機械で作られたビルが俺を見下ろし、ファンタジー調な酒場からは人々の騒ぎ声が聞こえてくる。
空を見上げれば、何やら人型のものや飛行船が飛んでおり、かと思えば鳥とは思えないような巨大な生物が空を駆けている。
誰がどう見ても異常としか言いようのない光景に、俺は戦々恐々としていた。
(こ、これが、世界が混じるってことかよ……! もはや日本の面影すらないぞ……!?)
とはいったが、痕跡が完全に消滅した、というわけでもなく。
よくよく歩いてみれば、街の形は元々俺の住んでいた場所そのままであった。
ちょくちょく置かれている看板に視線を向ければ『
変わったのは常識と景色、舞台そのものは変わっていないらしい。
(だけどカグラ……あの人、おかしなこと言ってたよな……)
ふと思い返すと、一つの言葉が胸に引っかかる。
彼女は『作品のジャンルが移行した』と言っていた。
ジャンル……元の作品がラブコメだったことを考えると、それが別のものになった、という意味だろうか。
言葉のままに考えると、そういうことになるのだが。
(とは言え、そんな実感もないしなぁ)
だが今のところジャンルが変わった、という感覚は得られない。
(町並みは確かに根本から変わってしまったが、世界観は普通──)
その瞬間だった。
突然、俺の頭上で凄まじい爆発音が響き渡る。
あまりにも急な出来事に、驚愕と共に振り返って見上げると、二度目の爆発音……いや、爆発と共に崩壊するビルから何かが飛んでいく。
あまりにも現実離れした光景に思わず、後退りをした俺が見たのは、宙に浮く人のような存在が二つ。
先ほどの爆発で飛んでいき壁に突き刺さった方と、ビルの中から出てきた方の二つだ。
目を凝らしてよく見ると、何か妙に見たことのある顔が約二つ。
俺はその見たことのある顔に、驚愕せざるを得なかった。
「……あれは、『怪幽奇譚』の
驚きの連続で続く言葉が自らず、俺はただ瓦礫が落ちてくる中で空を見つめる。
男の方──爆雷 煮吐は突き刺さったビルの中から突然、何かを飛ばすと、浮いている少女──厄羅 水華はその飛んできた何かを軽く避けた。
すると後ろの方で半壊するビルに当たった飛翔物は、強烈な爆発を起こして周囲に瓦礫を飛び散らせる。
その飛び散った瓦礫は少女に一つも当たることはなく、というか何か薄い膜のようなものに弾かれているようだ。
「カオスだな……」
もはや感想がそれしか出てこない。
俺は硬直したままその光景を見つめていると、浮いている少女は何か膜のようなものを蹴り、弾かれるように男へ向けて飛ぶ。
空気の揺れる音とともに、飛んだ少女は爆発する男との戦闘を繰り広げる。
「君、下がりなさい! そこにいると危ないぞ!!!」
その言葉にハッとして周囲を見ると、周りからは人がおらず警察が少し離れた場所で俺のことを呼びかけていた。
(や、やべぇ、やらかした!)
これでは余計なことして邪魔をする一般人Aである。
自身の状況に気づいた俺は、急いでその場を離れようとするが、時既に遅し。
瓦礫は俺の目前まで迫ってきており、その巨大さで俺を押し潰さんとする。
「くそッ……!?」
瓦礫に押し潰される、その瞬間のこと。
俺の目の前でその瓦礫はバラバラに粉砕し、細切れになった瓦礫が俺に振り注ぐだけだった。
「へっ……」
情けない声を出しながら、俺は尻餅をついて細切れになった瓦礫の雨を浴びる。
ゴツゴツとした小石が体に当たるぐらいで、大きなものは一つもなく怪我などは一切なかった。
なにが、と思い周囲に視線を向けると、後ろの方で剣を構えたファンタジーモノに出てきそうな服を着た男が一人、そこに立っていた。
それもまた、見たことのある男だ。
(蒼穹ブレイダーの……ヴァルツ・シュタイン……か?)
彼は剣を収め頭上の方──厄羅 水華のほうに視線を向けてなにか言っているが……もう俺の耳には入ってこない。
驚愕、恐怖、困惑。
様々な感情が入り乱れる頭の中は、既にキャパオーバー。
もはや周囲の状況を整理しきれない。
このあと、俺は警察に保護される形で連れられ──その後については記憶がない。
なにか受け答えしていた気はするが、とにかく頭が情報を整理することで手一杯だったのは覚えている。
カグラの言葉、目の前の起きた光景、死にかけたこと。
色んなことでもういっぱいいっぱいだったのだがら、仕方ないと言えば仕方ないはずだ。
と言うわけで。
「はっ! ……なんで俺こんなとこいるんだ?」
ようやく自体を飲み込み、情報を整理し、正気に戻った俺は気づけば自宅の前に立っていた。
警察の方々が送ってくれたのか、自分の足で帰ってきたのか。
それすら曖昧だが……まぁ、帰ってこれたので良しとしよう。
とにかく今は休みたい。
情報を整理したが、完全に処理しきれているわけではない。
今は一旦寝て、現状を受け入れて、それでまた明日。
カグラのところに行って──
(俺のやるべきことをやる……だな)
深呼吸して溜息を吐き出し、俺は一歩を踏み出して扉を開ける。
「あ、おかえり。おにーちゃん」
(……え、誰)
そこにいたのは
俺の黒い髪に反して、少し茶色掛かった髪に、多分一般的視点から見て美少女に分される
思考が止まる。
数秒の後、状況を理解して、俺は1秒の超速思考を経て、たった一つの答えを導き出した。
それ即ち。
「……あー、ただいま」
スルー、これに限る。
今の俺に現実を飲み込む余裕はないし、さっきからもうめちゃくちゃが押し寄せていて、これ以上何かを理解するという元気はなかった。
なら取る手は一つ。
スルー! これに限る!!!!
(もう考えたくねぇ)
俺はふらついた足取りで家の中に入る。
「どったの、にーちゃん。そんなへぬけた顔して」
「おにーちゃん、ちょっと疲れてんの。寝かしてくれ」
「ほぇ。じゃあアイス食っとくね」
「……好きにしてくれ」
俺はふらふらと自分の部屋の中へと戻ると、その疲労感を捨て去るようにベッドへと倒れ込む。
頭の中を駆け巡る様々なこと、それらを一つ一つ整理しているうちに、だんだんと眠気を襲ってくる。
俺はその眠気に一つも抗うことなく、そのまま眠りに着くのだった。